捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 #18

 朝の通学時間……穏やかな陽射しに心地よい風。どこまでも広がる海に人通りの少ない道。

 この静かな時間がやはり好きだ。考え事をするには最適だし。

 

「あ、比企谷さんだ!おはようございますっ!!」

 

 考え事をする時間終了。まあ、割といつもの事になってるんだけどね?

 そんな元気一杯な普通怪獣こと高海千歌は、当たり前のように隣に並んできた。柑橘系の爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、落ち着かない気持ちになる。穏やかな陽射しが体の温度を上げている気がした。

 彼女は俺の前に立ち、ぺこりと頭を下げた。

 

「あの、この前はありがとうございましたっ」

「おう、そっちはもう大丈夫なのか?」

「あ、はいっ。足はもうその日の夜には全然へーきでしたよ」

「……そっか。ならよかった」

「あの……この前、おんぶ……あ、や、やっぱりなんでもないです」

 

 何故か急にそっぽを向いた彼女は、また隣に並んできた。朝から忙しない奴だ。

 

「えっと……あっ、そうだ。次のAqoursの活動が決まりましたから、動画チェックしてくださいね!」

 

 急に思い出したように言ってくる高海に、何だか自然と頬が緩んだ。

 ……まあ、たまには賑やかなのもいいだろう。たまには、だけど。 

 

 *******

 

 そして、家に帰ってから、高海に言われた通りに動画を見ると、今回は楽曲のPVではなく、内浦を紹介していた。

 町の風景だったり、商店街だったり、ん?なんだあの土の山……まあ、いいか。全体的にまとまっているとは思う。何人か表情が硬い気もするが、

 

「どうでした?」

「……まあいいんじゃねえの?」

「うわあ、なんかテキトーに聞こえます……」

「いや、んな事ねーよ。てか、そもそも俺ここに引っ越してきてまだ半年も経ってねえから、他に言えることがない」

「ああ、確かに。それじゃあ、あまり沼津を知らない人目線で見た時の感想はどうですか?」

「特に問題はないと思うが……途中色々とAqoursらしいし」

「ですよね!よしっ、はやく理事長に見せなきゃ!」

 

 どうやら、あのPVは学校に言われて作ったらしい。

 まあ、あの出来なら少しくらい手直しすれば大丈夫だと思うが……。

 ま、何とかなるだろ。

 

 *******

 

 翌日……。

 

「ダメでした……」

「……そっか」

「全然わかってないって言われました……」

「……そっか。つーかお前はわざわざそれを言うためだけにウチに来たのか?」

「はい……だって、皆すっかり落ち込んじゃって、話聞いてくれるのが比企谷さんしかいないんですよ~」

「…………」

 

 そういう言い方されるとうっかり誤解しちゃいそうになるだろうが。相手が俺だったからよかったものを……。

 ちなみに、高海は現在俺の隣で寝そべっている。いや、無防備にも程があるだろ。普通に部屋に入れるこちらにも問題があるかもしれないが。

 本当にこのコミュ力というか、無邪気さというか……。

 

「はあ……なんかいいアイデアないかなぁ」

「……ほれ」

 

 俺は学校帰りに買って、鞄の中に入れっぱなしにしていたMAXコーヒーを1本高海に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます……わあ、めちゃくちゃ甘い」

「人生は苦いからな。コーヒーくらい甘くてもいいだろ」

「あはは、比企谷さんのドヤ顔初めて見ました」

「いや、恥ずかしいからそこだけピックアップするのやめて?せっかく良いこと言ったんだから……」

「ふふっ、今度お姉ちゃん達にも教えますね」

「ええぇ……嫌な予感しかしねぇ……」

「そうですか?お姉ちゃん達、比企谷さんの事好きですよ。ここ数年出会った男の子の中で一番イジリがいがあるって」

「それ好かれてるのか?」

 

 いずれあの姉2人とは決着をつける必要がありそうだ。悪いな。勝てるのは……想像つかない。

 窓の外では、夕暮れの町並みが徐々に本日の営みを終えようとしていた。

 気がつくと、高海も同じように窓の外に視線を向けていた。

 慣れた町並みを見ているはずなのに、その好奇心に満ちた横顔は、彼女を少し幼く見せていた。

 すると、何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「そういえば比企谷さん。明後日の朝、海開きがあるの知ってますか?」

「海開き?年中開いてるもんだと思ったが」

「それはそうなんですけど、この時期に朝早く皆でゴミ拾いをして、今年も快適に海が使えるようにするんですよ」

「へえ……まあ地元愛のなせる業だな。俺も夏休みには千葉のゴミ拾いをしてくるか」

「ゴ、ゴミ拾いのためだけに?ん?地元愛?…………そうだ!閃いた!比企谷さん、MAXコーヒーありがとうございました!失礼します!!」

「お、おう……なんだ、あいつ?」

 

 いきなり立ち上がるもんだから、ぶっちゃけかなりびびった……。

 相変わらず嵐のような奴だと思いながら、俺はその背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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