捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 ♯2

 転校初日からステルスヒッキー発動していたんじゃないかと思えるくらいに何もなかった転校初日。まあ、正直言えばこれでいい。これがいい。

 まあ実際のところ、大学受験で転校生どころじゃないというのが本音だろう。俺が逆の立場でもそうなる。そもそもあんま人に話しかけないんですけどね?

 

「はぁ~……」

 

 どこからともなくバカでかい溜息が聞こえてきて、思考が途切れる。

 目を向けると、見知った姿があった。あれは……高海か。

 何やら落ち込んでいるのか、どんよりしたオーラを放っている。

 悩める少女の時間を邪魔するほど野暮な男じゃない紳士な俺は、黙ってその場を立ち去ることに……

 

「あっ、比企谷さんだ~!」

 

 ちょっ……何で気づくかな、この子は……しかも、大声で俺の名前呼びながら近づいて来ちゃって……俺の事好きなのかと勘違いしちゃうだろ……。

 

「こんにちは!」

「……おう」

 

 高海はニコニコ笑顔でいるが、そこに妙な違和感を感じてしまった。人間観察が特技になるまで洗練されると、そんな些細なことが目につく時があるから面倒だ。

 それでも特に話題がないので、今朝の話を振ってみる。

 

「……勧誘、上手くいったのか?」

「……えーと……その……」

 

 俺の言葉に、高海が落ち込んだ表情を見せる。どうやらこの話題は振らないほうがよかったらしい。

 案の定、彼女の声のトーンはやや暗めだった。

 しかし、それでも渇いた笑いを見せた。

 

「あはは、それがさっぱりで……スクールアイドル人気あるから自信持って声かけたんですけど失敗しちゃって……」

「……そりゃあ、残念だったな。てか、あいつ誘えばよかったんじゃねえの?えっと……」

「曜ちゃんですか?曜ちゃんは水泳部だから……」

 

 まあ、あんなに仲良さげだし、ゆるゆりしてるし、帰宅部なら真っ先に声かけてるだろうな。

 

「そっか。まあ、いかにも運動部っぽいしな」

「そうなんです!曜ちゃんすごいんですよ!飛び込みとかちっちゃい頃から上手くて、海外の大会にも出てるんですよ!」

「……す、すごいな、そりゃあ」

 

 急にはりきって渡辺の紹介を始めた高海は、ぐいぐい距離を詰め、キラキラ輝く瞳を向けてきた。だから近いっての!絶対こいつ、中学時代に同級生を死地に送り込んでんな。

 もちろん本人はそんなことお構いなしに話を続ける。

 

「ええ!本当にすごいんですよ!私もはやくメンバー集めて、あんな風に輝きたいんです!」

「……お、おう」

「あれー、千歌、今帰り?」

 

 突然の声に振り向くと、そこにはショートカットにスーツ姿の女性がいた。高海の知り合いのようだが……

 

「あっ、お姉ちゃん!」

 

 どうやら高海の姉らしい。言われてみれば、顔立ちがどことなく似ているようだ。活発そうな目つきなんか特にそう思える。

 高海の姉はヒールをカツカツ鳴らしながらこちらに駆け寄り、俺と高海を見比べた。

 

「千歌。アンタ、いつの間に……」

「はえ?何の事?」

「いや、別に……」

「むむっ」

 

 高海姉がいきなり顔を近づけ、ジロリと顔を覗き込んできた。だから近いっての!そういう血筋なんですかねぇ。思春期男子を死地に送り込む血継限界とか……あと、高海とは違う大人の香りが……

 高海姉は一人で納得したように頷いた。

 

「目つきはアレだけど、まあ顔は悪くないわね。しっかし、あんだけ男っ気なかった千歌が……」

 

 この展開、前にも似たような事があったような……姉って皆そうなのか?

 しどろもどろになっていると、高海姉は「あっ」と何かに気づいたように離れた。

 

「ごめんごめん、いきなり。私は千歌の姉の高海美渡。君は?あんまこの辺で見ない顔だけど」

「……比企谷八幡です」

「比企谷さんは最近千葉から引っ越してきたんだよ!」

「へえ、千葉県って……いすみ豚が有名な?」

「……は、はい」

 

 千葉県と聞いて、真っ先にいすみ豚が出てくるとは……こやつ、できる……!

 千葉県と聞いて『東京の下』と答えた妹は、何故か胸を張って話を続けた。

 

「比企谷さんは私のスクールアイドル活動を応援してくれる予定なんだよ」

「え、そうなの?」

 

 いつの間にかそういう扱いになっているようだ。奉仕部で材木座専用窓口になってた時……よりは圧倒的にマシか。うん。コイキングとギャラドスぐらいの差がある。

 高海姉は高海の言葉に対し、呆れたような溜め息を吐いた。

 

「アンタ、まだ言ってたの?こんな田舎じゃ無理だっての」

「まだわからないもん!私、絶対にやるから!」

「はいはい。じゃ、私仕事戻るから。比企谷君も、またね」

「…………」

 

 頭を下げると、高海姉は白い軽トラを乗り込み、軽やかに発車させ、あっという間に見えなくなった。この辺りの速さは姉妹そっくりである。

 車の行った先を見ながら、高海はぐぬぬぬ……と悔しそうにしている。まあ、あれだ。これなら俺の知ってる姉妹のケンカよりは全然微笑ましい。

 やがて、気持ちが落ち着いたのか、高海は拳を握り、海側に視線を向けた。

 

「よーし!私、海でも見ながら、何かいいアイデアないか考えてきます!比企谷さん、それじゃ!」

「……ああ」

 

 今朝みたいにいきなり駆け出した高海の後ろ姿を見送り、俺は再び帰路に着いた。

 ……変な誤解は……いや、大丈夫だろ。多分。

 

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