捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
「おっ、少年!元気?」
「…………」
放課後、沼津の本屋まで行くと、まさかの高海姉との遭遇。こんな場所でも会うとか……俺レベルのボッチじゃなけりゃ、うっかり勘違いしちゃいそうになるだろうが、高海姉妹……。
「なになに?こんな遠い場所にある本屋まで~、もしかしてエロ本?」
「いや、違いますけど……一応、受験生なんで参考書を」
「へぇ~、そっかぁ」
「っ!」
高海姉はいきなり肩を組んで、俺の手にある参考書をじっと見る。ふわっと香水の香りが鼻腔をくすぐり、肘の辺りに微かに柔らかな感触がする。こ、この人……いきなりすぎて、心臓止まるかと思ったんだけど……そういうスキンシップ、八幡は良くないと思います!
ようやく解放されると、香水の香りも少しずつ離れていく。べ、別に名残惜しくなんかないんだからね!
「まあ、頑張んなよ。そんでもしダメだったら、ウチで働いてよ」
「いや、不吉なこと言わんでくださいよ……」
「まあまあ。あっ、そうだ!近くまで送ってってあげるよ」
「いや、俺自転車なんで……」
「大丈夫、私軽トラだから」
*******
軽トラに固定した自分の自転車にチラリと目をやってから、流れていく外の景色に目をやる。まさかこんな楽に帰れるとは……。実はこの人、滅茶苦茶いい人なのでは?
「ここ何もなくて、都会から来た君にはつまらなく感じない?」
「……いえ、そうでもっていうか、俺あんまり人の多いとこ行かないんで」
「あぁ、なるほどね。あと、千歌って意外と胸おっきいよ」
「い、いや、いきなり何を……てか、話全然繋がってないんですけど……」
「ん?ただ欲求不満の男子高校生に耳寄りな情報を教えてあげただけだよ。お礼とかいらないから」
「何故良いこと言ったみたいな表情してんですか」
「よしっ、この辺りで大丈夫だよね?」
「あ、ああ、はい。ありがとうございます」
スルーかよ……まあ、あれだ。高海の胸は意外と大きいか。別にどうでもいいし、興味ないし、気にもならないけど、一応脳内のメモリーカードにしっかり記録しておこう。一応ね、一応!
*******
自転車を軽トラから下ろし、もう一度礼を言い、家に帰ろうとすると、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
目をやると、おっとりした雰囲気のお姉さんが、長い髪をさらさら揺らしながら、高海姉に困り顔で話しかけた。
「美渡~、千歌ちゃん見なかった?おつかい頼もうと思ったんだけど」
「あー……またスクールアイドルとかやってんじゃないの?」
「そう、じゃあ自分で行こうかしら……あら、そっちの子は?」
「あっ、紹介するね!この人は志満姉、私と千歌の姉だよ。で、こっちの目つきの悪い少年が、最近千葉から引っ越してきた比企谷……何だっけ?」
「……八幡、です」
「だってさ」
ややテキトーな紹介をされながら、俺は「どうも」と会釈する。マジか。まだ姉がいるとは……。
高海長女は、にっこりと柔和な笑みを浮かべた。
「姉の志満です。よろしくね、比企谷君」
「は、はい……」
全身から溢れ出る大人のお姉さんオーラに、ついつい噛み気味になる。
「……なんか、私の初登場の時とリアクション違くない?」
「いえ、そんなことは……」
「もしかして千歌ちゃんのお友達?」
「いや、まあ、友達っていうか……」
「この前千歌が珍しく男と仲良く話してたからさ、話しかけてみたら、目つき以外は割といい男だから、私とも仲良くなったの」
ざっくりとした説明に高海長女は頷きながら、「あっ」と俺の背後に目をやる。
それと同時に、やたら元気な声が聞こえてきた。
「ただいまー!……あれ、比企谷さん?」
「……おう」
高海はたったかと駆け寄ってきて、不思議そうに俺と自分の姉二人を見比べた。まあ、そうなるのも無理はない。俺も不思議な気分だし。
そしてここで、まさかの三姉妹集結。『たかみけ』が見れたことに感動しながら、俺は自転車に跨がった。
「じゃあ、俺もう行きますんで」
「ちょっと待った」
何故かガシッと腕を掴まれる。
振り向くと、意外なほど高海次女の顔が近くにあり、ドキッとしてしまう。
目は微かに濡れていて、頬が夕陽に照らされているせいか、やや赤い。
やがて、ふわりと唇が動く。
「ねぇ、今から時間ある?」