捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
「……まさかお使いを頼まれるとはな」
「あはは、なんかごめんなさい……」
高海次女から何を言われるかと思い、うっかりドキドキしていたら、お使いを頼まれてしまった。いや、別に変な期待はしてないんだけどね?それに、送ってもらったのだから、何らかの形でお礼をする必要はあるだろう。
ふと夕陽が紅く染め上げる海に目をやると、静けさも相まって、何だかセンチメンタルな気分になる。そうしてて飽きないのがこの景色の魅力なのかもしれない。
「…………」
「……どした?」
「あっ、いえ!何でもないです!」
視線を感じたので振り向くと、高海がさっと目を逸らした。その頬は夕陽を浴び、ほんのり赤く色づき、何だか夕陽がすぐ傍にあるような温かな気分になった。
彼女は前を向いたまま口を開く。
「比企谷さん、学校楽しいですか?お友達できました?」
「急にオカンみたいな質問だな……まあ、高校三年になると楽しむって感覚もあまりないし、この時期だと受験とか先の事しか興味ねえよ」
「そっかぁ……大学はどこ受けるんですか?」
「……正直、まだあまり考えてない」
「私もまだよくわかんないんです。来年は受験なのに。先の事ってよくわからなくて」
「……そっか」
「あっ、そうだ!今日作曲できる子が転校してきたんですよ!とっても綺麗な子で、ピアノ弾けるんですよ!」
「そ、そうか、よかったな……それで、入部したのか?」
「……それが、断られちゃって。あはは……」
まあいきなりスクールアイドルやってくれとか言われて、首を縦に振る人間は少ない気がする。人前で歌って踊るって難しそうだし……てか、話題転換いきなりすぎて驚いたわ。渡辺、普段大変そうだな。
「小町ちゃんにも声かけたんですけど、家の手伝いがあるからごめんなさいって断られました」
「そっか」
まあ、あいつはこっちに来てもバリバリ働いてるからなぁ、俺と違って。それにしても小町のスクールアイドル姿か……ただの天使じゃねえか。戸塚とユニット組ませたいなぁ!
「ひ、比企谷さん?どうしたんですか?いきなりニヤニヤして……」
「……いや、何でもない。てか、スーパーまであとどのくらいなんだ?」
「そろそろですよ。あっ、あれです!」
高海が指を差した先に、少し古ぼけた看板のスーパーマーケットが見えてきた。
*******
「何……だと……」
俺は今、猛烈に感動している!!
何と……マッ缶が置いてある!!
「おお……」
「えっ?ちょっ、比企谷さん!それ、頼まれたやつじゃないです!」
「え?あ、ああ、悪い……何つーか、感動のあまり……」
「そ、そうですか……」
いかんいかん。高海が引いている。自重せねば。
まあ、ここにマッ缶があることはわかったんだし、後で買いに来ればいい。
まずはお使いを済ませますかね。
隣に目をやると、高海はいつの間にか移動していて、高い所にある商品を取ろうとしていた。
俺はそれを取り、彼女に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「気にすんな。きっちり手伝わんと、お前の姉にどやされそうだからな」
「ふふっ、そうですね。でも頑張ったらご褒美があるかもですよ?」
「いや、お使いとか頑張りようがないだろ。しかもご褒美って……」
「でも、ほら…」
*******
「あの、本当に持たなくて大丈夫ですか?」
「……ああ、このぐらいなら」
……めっちゃ重いんですけど。
てか、あの次女。さりげなくメモに追加で何か書いてたな。本当にちゃっかりしてやがる。
まあ、『一色いろは被害者の会』に所属している俺にとっては、この程度のパシリはどうってことないが。いや、やっぱり重い……。
「比企谷さん、このお礼にライブする時は必ず特等席用意しますから!」
「いや、特等席とかいいから、早く部員集めろよ……」
「うっ、確かに……でも大丈夫です!明日からガンガン桜内さんを勧誘しますから!!」
「…………」
桜内さんとやら……御愁傷様。
*******
旅館の前に到着すると、高海次女が大きな犬と戯れていた。何あれ可愛い……。
彼女は俺達に気づくと、思いきり手を振ってくる。
それに応じるように、高海も手を振り返した。
「美渡姉。ただいま~」
「おかえり~!二人共、お疲れ」
「ええ。疲れました……」
「おいおい、男子~。こういう時は嘘でも全然平気ですって言うもんだよ?」
「自分に正直がモットーなんですよ」
「じゃあ、お茶でも飲んでいきなよ。入れたげるから」
「いえ、今日はもう帰りますよ。妹が待ってるんで」
「そっか。じゃあ、時間ある時は旅館の中にある喫茶店に寄ってよ。志満姉がご馳走したいってさ」
「……はあ、どうも」
「比企谷さん、ありがとうございました!明日はいい報告できるように頑張ります!」
「お、おう、程々にな……」
せめて桜内さんが疲れない程度にしてあげて!あとそんな言い方されたら、俺がスクールアイドル大好きみたいじゃんか……まあ、動画見た感じ嫌いじゃないんだけど。
「じゃあ……失礼します」
「じゃあねー」
「また明日!」
また明日、ね。本当にまた遭遇しそうだ。
俺は二人に背を向け、再び帰路についた。