捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 ♯6

「昨日はありがとう。はい、これ」

「……どうも」

 

 俺は、高海家が経営する旅館『十千万』の中にある喫茶店にて、コーヒーを振る舞われていた。昨日の礼ということで、高海次女から半ば強引に連れ込まれたのだ。

 年上女性から旅館に連れ込まれるというシチュエーションが大分アレなのか、通りかかった見知らぬ男子学生がじぃ~っとこちらを見ていた。あと、近所のおばさんなのか、「美渡ちゃんったら、そこまで……」とか言われていた……だ、大丈夫だよね?色々と。

 ぼんやりとした時間を堪能していると、高海長女が「ほらほら」と口を開いた。

 

「美渡もそろそろ仕事に戻りなさい」

「は~い。じゃね、比企谷君」

「……どうも」

 

 高海次女が颯爽と立ち去ると、喫茶店内は俺とカウンターの中にいる高海長女だけになる。

 彼女はグラスを拭き終えると、俺の真正面に立ち、笑顔を向けてきた。

 軽やかな鼻唄を口ずさんでいるが、何だか肉食動物に睨まれた草食動物のような気分になる。

 

「♪~~~~」

「…………あの」

「ああ、ごめんね?千歌ちゃんに男の子の友達ができるのが珍しくてつい……ふふっ」

「いや、友達と言いますか……てか、アイツって男女分け隔てなくって感じがするんですけど」

「そこはほら……曜ちゃんがいるから。こう……男の子を寄せ付けないというか……」

「…………」

 

 その光景は、付き合いの浅い俺にも容易に想像がついた。言われてみれば、バスで高海と話した後、じっとこっちを見ていた気がする。

 まあ、二人のゆるゆりな関係は置いておこう。

 

「ねえ、比企谷君はどっちが好み?」

「…………は?」

「だから~、付き合うなら千歌ちゃんと曜ちゃん、どっちがいいかなって」

「い、いや、いきなり何ですか、その質問……」

「もしかして……美渡?」

「…………」

 

 この手の質問をされたのはいつぶりだろうかと記憶を辿りながら、どう誤魔化したものかと思考を巡らす。

 まあ、俺の将来の夢はぶれていないので、それが最適解を導いてくれるわけだが……。

 

「まあ、あれですね。それなら高海家に婿入りしてせんぎょ……」

「ただいま~」

「っ!」

 

 背後から高海の声が聞こえ、慌てて続きを飲み込む。

 振り向くと、やや落ち込んだ表情の高海がこちらに気づいた。

 彼女は笑顔を見せるが、それもどこか弱々しい。

 

「こんにちは、比企谷さん……」

「お、おう」

 

 別に大したことは言ってないし、後ろめたいこともないのだが、つい焦りが生じてしまう。

 高海はそれに気づくことはなく、隣の椅子を引き、すとんと腰を下ろした。

 

「はぁ……今日もダメだったよ~」

「……そうか」

「比企谷さ~ん、何かいい案ありませんかぁ?」

「ない」

「即答っ!?ちょっとくらい考えてくださいよ~」

 

 そう言いながら、肩を揺さぶってくる。

 ええい、やめい。こりゃあ、渡辺が男子を近づけないのも納得だわー。中学時代なら、ここ最近のスキンシップで落ちてる。あといい匂い。

 

「ほら、千歌ちゃん。比企谷君も困ってるでしょう?」

「あっ、ごめんなさいっ!……迷惑、でしたよね?」

「……いや、別に……話聞くだけだし」

 

 実際のところ、何か作業を頼まれたとかではなく、偶然会って話を聞かされているだけなので、何も迷惑はかかっていない。むしろ話を聞くしかできないまである。仮に言えたとしても、「勇気、本気、素敵、前向きが鍵」とかしか言えない。

 すると、彼女は小声で何やらぽそぽそ呟き、がばっと立ち上がった。 

 

「よしっ、今日は自分の部屋で考えよっと!比企谷さん、少し貰いますね!」

「……おう……ん?」

 

 高海はすかさず俺のグラスを奪い、くぴくぴとアイスコーヒーで喉を潤した。

 

「もう、千歌ちゃん。お行儀悪いわよ」

「えへへ、ごめんなさい。喉渇きすぎちゃって」

 

 彼女は、3分の1ぐらい減ったグラスを俺の前に戻し、ペロリと舌を見せ、パチリとウインクをしてみせた。まあ、さすがはスクールアイドル志望……といえなくもない。

 そして、「ありがとうございました~」と残し、そのまま奥へと引っ込んでいった。

 ……ま、まあ、別に?こっちはストロー使ってるし?間接キスじゃないし?気にすることなんか一つもない。

 さっさと飲んで、さっさと帰ろう。

 気持ちを切り替え、ストローに口をつけたその瞬間、高海長女が悪戯っぽい笑みを向けてきた。

 

「間接キス♪」

「っ!!」

 

 俺は盛大にコーヒーを吹き出してしまった。

 

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