捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
「昨日はありがとう。はい、これ」
「……どうも」
俺は、高海家が経営する旅館『十千万』の中にある喫茶店にて、コーヒーを振る舞われていた。昨日の礼ということで、高海次女から半ば強引に連れ込まれたのだ。
年上女性から旅館に連れ込まれるというシチュエーションが大分アレなのか、通りかかった見知らぬ男子学生がじぃ~っとこちらを見ていた。あと、近所のおばさんなのか、「美渡ちゃんったら、そこまで……」とか言われていた……だ、大丈夫だよね?色々と。
ぼんやりとした時間を堪能していると、高海長女が「ほらほら」と口を開いた。
「美渡もそろそろ仕事に戻りなさい」
「は~い。じゃね、比企谷君」
「……どうも」
高海次女が颯爽と立ち去ると、喫茶店内は俺とカウンターの中にいる高海長女だけになる。
彼女はグラスを拭き終えると、俺の真正面に立ち、笑顔を向けてきた。
軽やかな鼻唄を口ずさんでいるが、何だか肉食動物に睨まれた草食動物のような気分になる。
「♪~~~~」
「…………あの」
「ああ、ごめんね?千歌ちゃんに男の子の友達ができるのが珍しくてつい……ふふっ」
「いや、友達と言いますか……てか、アイツって男女分け隔てなくって感じがするんですけど」
「そこはほら……曜ちゃんがいるから。こう……男の子を寄せ付けないというか……」
「…………」
その光景は、付き合いの浅い俺にも容易に想像がついた。言われてみれば、バスで高海と話した後、じっとこっちを見ていた気がする。
まあ、二人のゆるゆりな関係は置いておこう。
「ねえ、比企谷君はどっちが好み?」
「…………は?」
「だから~、付き合うなら千歌ちゃんと曜ちゃん、どっちがいいかなって」
「い、いや、いきなり何ですか、その質問……」
「もしかして……美渡?」
「…………」
この手の質問をされたのはいつぶりだろうかと記憶を辿りながら、どう誤魔化したものかと思考を巡らす。
まあ、俺の将来の夢はぶれていないので、それが最適解を導いてくれるわけだが……。
「まあ、あれですね。それなら高海家に婿入りしてせんぎょ……」
「ただいま~」
「っ!」
背後から高海の声が聞こえ、慌てて続きを飲み込む。
振り向くと、やや落ち込んだ表情の高海がこちらに気づいた。
彼女は笑顔を見せるが、それもどこか弱々しい。
「こんにちは、比企谷さん……」
「お、おう」
別に大したことは言ってないし、後ろめたいこともないのだが、つい焦りが生じてしまう。
高海はそれに気づくことはなく、隣の椅子を引き、すとんと腰を下ろした。
「はぁ……今日もダメだったよ~」
「……そうか」
「比企谷さ~ん、何かいい案ありませんかぁ?」
「ない」
「即答っ!?ちょっとくらい考えてくださいよ~」
そう言いながら、肩を揺さぶってくる。
ええい、やめい。こりゃあ、渡辺が男子を近づけないのも納得だわー。中学時代なら、ここ最近のスキンシップで落ちてる。あといい匂い。
「ほら、千歌ちゃん。比企谷君も困ってるでしょう?」
「あっ、ごめんなさいっ!……迷惑、でしたよね?」
「……いや、別に……話聞くだけだし」
実際のところ、何か作業を頼まれたとかではなく、偶然会って話を聞かされているだけなので、何も迷惑はかかっていない。むしろ話を聞くしかできないまである。仮に言えたとしても、「勇気、本気、素敵、前向きが鍵」とかしか言えない。
すると、彼女は小声で何やらぽそぽそ呟き、がばっと立ち上がった。
「よしっ、今日は自分の部屋で考えよっと!比企谷さん、少し貰いますね!」
「……おう……ん?」
高海はすかさず俺のグラスを奪い、くぴくぴとアイスコーヒーで喉を潤した。
「もう、千歌ちゃん。お行儀悪いわよ」
「えへへ、ごめんなさい。喉渇きすぎちゃって」
彼女は、3分の1ぐらい減ったグラスを俺の前に戻し、ペロリと舌を見せ、パチリとウインクをしてみせた。まあ、さすがはスクールアイドル志望……といえなくもない。
そして、「ありがとうございました~」と残し、そのまま奥へと引っ込んでいった。
……ま、まあ、別に?こっちはストロー使ってるし?間接キスじゃないし?気にすることなんか一つもない。
さっさと飲んで、さっさと帰ろう。
気持ちを切り替え、ストローに口をつけたその瞬間、高海長女が悪戯っぽい笑みを向けてきた。
「間接キス♪」
「っ!!」
俺は盛大にコーヒーを吹き出してしまった。