「いったい何者です?」
「えっと……」
「人間のようですが、こんな吸血鬼の館にいるなんてただの人間じゃありませんね」
厳しい早苗の追及が続く。それにルイズたじたじ。バレた場合の対策は何も考えてなかった。
本当の事を言うべきか、ごまかしてこの場は立ち去るべきか。それともまた別の嘘を作り上げるか。どれを選んでも、失敗しそうな気がして身動きが取れない。
その時、ふと四人の人影が目に入る。
魔理沙達とこあだった。ルイズにはまさに救世主。
「魔理沙!」
逃げるように彼女に駆け寄る。
「ん?どうした?」
「魔法少女じゃないって、一発でバレちゃった!あの娘、いったい何者!?」
「お前が会いたがっていた、山の神の関係者だぜ」
「そうじゃなくって。魔法少女って実在しないんでしょ?何で、嘘ってバレたの?魔法?能力?」
元が創作物なので、本物も偽者もないハズ。どうして自分が魔法少女でないと見破ったのかが、分からない。
すると納得したようにアリスが口を開いた。
「ああ。だって魔法少女の元ネタ。早苗からだもの」
「え!?もしかして、彼女、本物の魔法少女なの!?」
「そうじゃなくって、魔法少女の話を広めたのが彼女なの」
「ちょっと待ってよ。それじゃぁ、昨日いろいろ言ってた魔法少女の話って……」
「ええ。ほとんど彼女からの聞いた話よ」
「ええっー!」
つまり、ルイズ達が作った魔法少女設定のベースは、元はと言えば早苗からの話なのだ。だからルイズの言った魔法少女の話は、早苗にとってはどこかで聞いたようなものばかり。これでは、バレないはずもなかった。
「それならそうと最初に話してよ!恥かいちゃったでしょ!」
「なんだよ。私が魔法少女だぜ!って胸張って説明してたのか?」
魔理沙が笑いながら茶化していた。それにルイズは真っ赤になって反論。だがそんなじゃれている二人に、早苗の声が挟まれる。
「魔理沙さん。魔法少女はどこですか?この人、魔法少女じゃありませんし」
「ああ、悪い。魔法少女じゃなくって、早苗に会いたがっていたのはこのルイズだ」
「え?じゃあ……魔法少女は?」
「いる訳ないだろ」
早苗、がっくりと肩を落とす。
それにパチュリーが追い討ち。
「だいたい天狗の新聞、真に受ける方がどうかしてるわ」
「だって、『花果子念報』は比較的本当の事も多い新聞ですし……」
「それでも天狗の新聞よ」
「そうですね。浅はかでした……」
なおさら沈む早苗。こんなに落ち込むとはと、期待させてしまって、ちょっと気の毒になるルイズ。
「まあいいです。見覚えのない方であるには違いありません。しかも吸血鬼の館にいるんですから。何かあるって事ですよね」
あっさり立ち直った。
なんか独特な妙なテンションに、ちょっとルイズ、苦手意識を持つ。
そんなルイズにはお構いなしに、早苗は話はじめた。
「それで、この方は結局何者なんですか?」
「う~ん……。他言無用だぞ」
「こう見えても口は堅い方です。信用してください。それにしても、他言無用ですか。これは期待できそうですね」
早苗は、魔理沙の言葉にしぼんだ期待を膨らませる。なんか目がまたキラキラしていた。
そしてルイズの正体は明かされた。
「異世界人だ」
「え?」
「言っとくが冥界とかじゃないからな。ルイズは全く別の世界の人間なんだぜ」
「からかってるんですか?」
早苗の期待はすぐにしぼむ。疑念溢れた半開きの瞳を、またルイズ達に向けてきた。すかさずルイズはフォローに入った。
「ほ、本当なのよ。疑うのは分かるけど」
「魔法少女の次は異世界人ですか。はぁ……。もしかして、あなたには、秘められたすごーい力が封印されてるとかあるんですか?」
「う、うん!そうよ。何で分かったの?」
「いえ、ありがちなんで……。あーそうですか。あなたはそういう方なんですねー。すごいですねー。おどろきましたー」
「そ、そう?」
ルイズには信じられない。見事に自分の事を当てられた。まさか、心を読んでいるのかとすら思う。魔法少女の時も一瞬感じたが、現人神とはこういうものかと。
だが理解してくれたと思った早苗は、なおさら疲れたような表情を浮かべていた。そしてため息をつくと、さっきまでのテンションが冷めてしまったか、サッパリした顔を上げる。
「さて、魔法少女は結局いないようですし、あまり面白そうな話はないようです。レミリアさんにあいさつする事もないでしょう。では、みなさん。そろそろ帰らせていただきます。またの機会にお会いしましょう。では」
早苗はぺこりと頭をさげると、飛ぼうとした。
ルイズには訳が分からない。信じてくれたのではないのかと。このとにかくここで帰られては、話が聞けない。
がしっ。
思わず袖を引っ張る。抜け落ちそうになる。
「な、何するんですか!?」
早苗が向いた先にあるルイズは、泣きそうな困っているような懇願しているような顔だった。そして彼女は魔理沙達の方を向く。
「えっと……マジですか?」
「マジ」
「ええーーっ!」
幻想郷で、久しぶりに常識を改変する早苗だった。
早苗を伴って、ルイズ達は客間にいた。天子の時とは違って。まともな客間に。
「さきほどは大変失礼しました。まさか異世界人が本当だとは信じられなくて」
「別にいいわ。そう思うのも、仕方ないし」
ルイズは普段着に着替えると、早苗とテーブルを囲む。もちろん魔女三人も。それとメイド代わりのこあも。
ふと隣で紅茶を飲んでいた、アリスが尋ねてくる。
「そう言えば。ルイズ。早苗の事聞いた?」
「守矢神社の人ってのは聞いたわ」
「そこまでなのね。早苗はね、ある意味、ルイズに近い立場よ」
「どういう意味?」
「元々、外来人なの」
「えっ。そうなんだ」
ルイズは改めて早苗を見る。雰囲気が今まで会った幻想郷の連中と、何か違うと思ったら、そういう事だったのかと。すると頭にいくつかの疑問が浮いてくる。尋ねてみた。
「どこから来たの?」
「ルイズさんとは違って、異世界とかじゃありません。外からです」
「外?」
「あれ?聞いてないんですか?」
「何を?」
「幻想郷と博麗大結界の事です」
「ぜんぜん」
「そうですか。では……」
それから幻想郷についての説明が始まった。
幻想郷は博麗大結界という小国が入ろうかという巨大な結界で囲まれている。外と中は地続きだが、双方の行き来は基本的にはできない。このため幻想郷では結界の外の世界を、単に「外」と言う事が多い。早苗達、守矢神社の神々はその外からやってきた。そして外の文化に浸かっていたので、その手のネタの発信源になる事もある。魔法少女ネタが彼女から広まったのも、そういう訳だ。
その後、今度はルイズがやってきた経緯を早苗に話した。話を聞いている間、瞳を輝かせながら、時に感嘆の声を漏らしながら、ずっと聞き入っていた。
話が終わると、早苗はルイズの手をしっかり握り、瞳を輝かせている。
「すばらしいです!ルイズさん!」
「そ、そう?」
「全く違う世界に放り込まれ、それにもめげずがんばってるんですから。そんな方がだんだんと力を付け、さらに隠された謎の力まで持っているというのです。やがてあなたは、名のある人物となる方ですよ!」
「そ、そうかしら?」
「こんな美味しい要素がいくつも重なってるんですから、それこそ何かの啓示です。現人神の私の直感が言うんですから、間違いありません」
ルイズすっかり顔が緩んでいる。現人神とかいう神が言うなら、自分の将来は保証されたようなものなのではと。
しかしそこで冷や水。パチュリーが、言葉を挟む。
「そこまでにしなさい。ただでさえルイズは乗せられやすいんだから。これ以上やったら、いつまでも終わらないわ」
ルイズ、ハッと気づく。いい気分があっという間に冷める。ちょっと調子に乗りすぎた。一つ咳払いを入れてごまかす。そして、緩んでいた顔を締めると、あらためて早苗に尋ねる。
「えっと……。えっとね。実はあなたに話したい事があるのよ」
「本当ですか、それは……!まだ隠された秘密があるのですね!」
「そうじゃなくって、いくつか聞きたい事があるの。山の神の事よ」
「ウチの話ですか?はぁ……。いったいなんで?あ!もしかして、信仰されるのですか!?異世界の方が信者となられたら、ウチの神社もさらに……」
「ちょ、ちょっと、そうじゃなくって……っていうか、少し落ち着きなさいよ!」
「あ、いえ、すいません。ごめんなさい。調子に乗りすぎました」
ぺこりと頭をさげる早苗。ルイズはどうにも、このテンションに少々押されぎみ。
それから彼女は事情を話した。自分が学生である事。そう遠くない将来、故郷の世界に帰る事。しかし、進級のために使い魔が必要で、その使い魔に天人を選ばざるを得なくなる。しかし天人はそれを受け入れず、課題を出した事。その課題の話が、ここで語るべきものだった。かなり脱線したが。
一通り話を聞いて早苗は、少し不憫に思う。
「それにしても……。なんでよりにもよって天子さんを、使い魔に……」
「しょうがないのよ。サモン・サーヴァントで出てきちゃったんだから」
ちなみに次やっても成功するか分からないというのは、伏せておいた。早苗には魔法の失敗の歴史については何も言っておらず、秘められた謎の力を持った異世界人という印象のままでいたかったので。
少々ルイズの境遇を気遣いながら、早苗は今までとは違う落ち着きを見せる。
「分かりました。それで課題というのは?」
「天子の課題は、妖怪の山の神が持っている『真澄の鏡』を持ってくるってものなの」
「またそれは無茶な話を……」
「なんとかならないかしら?方法は何でもいいから」
早苗は顔を伏せると考え込んだ。ふーむという具合に。
「ちょっと無理ですね。神社に御神体持ってきてくれって言ってるようなもんですし。しかもルイズさんは異教徒ですから」
そこまで聞いて余計不可能だと思ってしまった。新教徒がロマリア宗教庁へ、教皇の聖典を貸してくれと言っているようなものだ。ありえない。
となると、方法は一つ。幻想郷のルールに従うまで。
神に挑む。
あのチルノにすら、今のルイズでは本来はかなわない。だが、他に方法がない。それに何も、勝利して奪う必要はない。いい闘いをすれば、慈悲の一つもあるかもしれない。何にしても、ここで必要なのは覚悟と決意なのではないだろうか。とルイズは思う。ただ、今まで一人で決めて失敗した事もある。まずは、自分のこの決意を友人達に打ち明けようとした。
「パチュリー、あの……」
と言い掛けた所で、目の前の風祝が颯爽と宣言。
「では、異変を起こしましょう!」
「「「は!?」」」
ルイズ以外の全員が唖然。いったい何を言っているんだ、この緑腋巫女はと視線を向ける。
一方、ルイズは意味がよく分からない。パチュリーに尋ねた。
「異変って何?」
「大事件みたいなものよ」
「事件!?事件を起こすって何で?」
「言った、本人に聞いて」
ルイズは早苗の方に思わず目を向ける。
異変、事件を起こす?意味が分からない。もしかして、真澄の鏡を盗み出すという事だろうか。それなら事件だが、山の神の一員がそれを言い出すか?これでも山の三柱の一人なのか?と。
この目の前の少女は、やっぱりトラブルメーカーと言われる山の神の関係者だけの事はある。ルイズはそう思わずにはいられない。そしてまた、やっかいな相手と出会ってしまったと、肩を落とした。
早苗を見る目が一様に、怪訝というか不憫そう。それにさすがの早苗もひくつく。
「み、みなさん。お頭がかわいそうな子を見るような目で見ないでくださいよ」
「そこで異変って言葉が出てくるのは、頭がかわいそうな子くらいだと思ったのよ。みんな」
アリスが少々呆れ気味に返した。
「失礼な方達ですねぇ。画期的なアイディアを、お教えしようと思ったのに」
「へー、面白いな。言ってみろよ」
「聞けば立場逆転ですよ。さすが守矢神社の風祝と思っちゃいますよ」
「いいから言えって」
魔理沙がややからかい気味に聞く。なおさら早苗は、ムッとするのだが。
気を取り直すと、説明しだす。
「天子さんは真澄の鏡を持ってくるように言ってますが、その方法は決めてません。ここがポイントです」
「それで?」
「つまり別にルイズさんが持ってこなくてもいいです」
「ふむ」
「そこで、神奈子様に持ってきていただくのです」
すかさず魔理沙が突っ込む。
「ちょっと待て。それって単に持ち主が来るだけだろ」
「そうですよ。これなら神奈子様は、真澄の鏡を手放す必要はありませんし。持ってくるという要件も達成します」
ルイズはそれを聞いてなるほどと思ってしまった。持ち主が直に来るなら、奪う必要も借りる必要もない。何か希望の光が見えたような気がした。
しかし、事はそう簡単ではなかった。早苗は続ける。
「ですが、神奈子様がご自身の都合以外で、ワザワザ天人の所に来るとは思えません。いらっしゃるには何か特別な理由が必要でしょう」
「それじゃぁ、どうするの?」
今度はルイズが尋ねた。
すると早苗は、ビシッ人差し指を立て、ウインクしながら言った。
「そこで異変なのです!」
話がどうにも繋がらない。ルイズは怪訝な顔で首を傾げる。
しかし、他の面子は何を意味するのか分かったようだ。少しばかり、早苗を見る目が変わっていた。パチュリーが口を開く。
「なるほどね。つまり異変解決後の宴会が真の目的なのね」
「そうです。私の真意をご理解いただけるなんて、さすが日陰の少女ですね」
「”知識と”を付けなさいよ」
寝巻きの魔女は軽く返す。
もっとも、二人の話を聞いてもルイズはよく理解できないのだが。魔理沙に聞いてみる。
「どういう事?」
「異変が解決するとな、仲直りという事で、宴会が開かれるんだよ。それにはいろんなヤツが来る。異変の関係者も関係ないヤツもな」
「それだと神様も来るの?」
「かもな。だけど……」
と、魔理沙が言いかけた所で、アリスが突っ込みを入れていた。早苗に。
「異変の後の宴会だからと言って、必ず神奈子と天子が来るとは限らないでしょ。どうするのよ」
「もっともな疑問です。そこで、まず宴会は天子さんのいる紅魔館でしていただきます。さらに神奈子様とルイズさんを異変の関係者にします」
ルイズは自分の名前が出てきて、とっても嫌な予感が走る。ただ元々、自分の事。何かの形で絡むハメにはなるとは思っていたが。
「それで、私は何をするの?」
「魔法少女をやっていただきましょう」
「また魔法少女……。よっぽど好きなのね」
少しばかり皮肉って返す。しかし早苗にはまるで通じず。
「だって、せっかく魔法少女がいるのですよ。これほど美味しいネタはありません」
「あんた偽者って言ったじゃないの」
「考えを変えました。魔法少女とはその行いによって決められる。姿や設定は本質ではないのです。その意味で、ルイズさんはその条件を満たす可能性を十分持ってます!天人に神に魔法少女。これだけ揃えば、さぞ素晴らしい異変になるでしょう」
ルイズ、ちょっと顔がひくつく。なんという思考のすり替え。だいたい素晴らしい事件、もとい異変って何なのか。この風祝は、自分が楽しむために無理やり理屈を作っている、ようにも聞こえた。
早苗の演説はとりあえず終わる。そこで、手が一つ上がった。アリスだった。
「質問」
「なんでしょう?」
「ちょっと小規模過ぎない?」
「確かに主な関係者が三人だけですが、異変という口実があればいいので。あまり大ごとになっても困りますし」
「それじゃ、次。具体的にはどうするの?」
「えっと……。それ、考えてなくって……」
早苗は笑ってごまかす。もっとも、即興で今思いついた事なので、詳しいことなんてある訳なかった。
そこで魔理沙が、一つ提案。
「じゃ、まず分りやすいのから決めて置こうぜ。まずルイズが自機で、神奈子がラスボスな」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで神奈子様がラスボスなんですか!魔法少女のラスボスじゃ悪人みたいじゃないですか」
そこでパチュリーから追い討ち。
「そう?らしいと思うけど。いつも騒ぎ起こしてるから、むしろ慣れてるんじゃない?」
「失礼な。ダメです。神奈子様は解決する側です」
「それじゃぁ、ルイズがラスボス?」
「そうですね」
言い切る早苗。しかしルイズは黙ってない。
「何言ってんのよ!だいたい魔法少女は英雄でしょ。悪人になってどうするのよ!」
「ですが仕様がありません。途中まで悪人の魔法少女もいましたし。それに、幻想郷では新参者は悪人にされてしまう風習があるんですよ。私達もそうでした」
早苗はしんみりというが、一斉にそれは違うとツッコミが入った。
それから正義はどっちかと、論争が始まる。魔法少女論まで持ち出してくる有様。
そんな最中、突如、勢いよくドアが開いた。
「話は聞かせてもらったわ!」
天子であった。ルイズは厄介なのに聞かれたと、微妙な顔。
腰に手を当て、天子は高らかに宣言。
「私にいい考えがあるわ!」
益々嫌な予感がするルイズ。しかし魔理沙は楽しそう。というかさっきから、彼女もこの異変をお祭り騒ぎにしようとしているかのよう。当事者になる事もないのもあって。
「おう。聞かせてくれ」
「魔法少女の事は勉強させてもらったわ。で、思ったのよ。やっぱり魔法少女は正義の使者じゃないと。そして私はそのパートナー」
ルイズは胸の中で、まだパートナーになってないじゃんとツッコミを入れたが、口には出さない。
天子の話は続く。
「そしてペアで正義の魔法少女をやるの」
「ちょっと待ってください。それじゃ、やっぱり神奈子様が悪のラスボスじゃないですか!」
話が戻ってしまったと、早苗は慌てて文句を言う。しかし天子は平然としていた。
「違うわ。山の神はその二人の師匠という設定なの」
「師匠?」
「そうね。魔法少女道を極めた師匠。二人はその師匠に稽古を付けてもらうの。新しい必殺技を身に着けるためにね」
「なんで神奈子様が魔法少女を極めてるのか疑問がありますが、面白くもあります。それに、これならみんな正義ですね。それで行きましょう!」
いろいろ荒があるが、早苗は魔法少女な神奈子もなんとなく見てみたくなっていた。天子の話に乗る事にした。
だが話がまとまりそうな所に、アリスから待ったが入る。
「何言ってんのよ。それじゃ異変にならないでしょ。ただ三人で技の練習してるだけじゃないの」
「う~む、言われてみれば。でしたら、異変はでっち上げましょう」
また妙な事をいいだす風祝。ルイズは一応聞いてみる。
「どうやるのよ。でっち上げるって」
「新聞を使います」
「新聞使うってどういう事?」
「魔法少女が異変を起こしたという、ガセの記事を書いてもらって。広めます」
「えー!?それっていいの?って言うか、うまくいくの?」
新聞はあまり信頼性がないとも聞いていたので、そんな簡単に事が運ぶとは思えなかった。だが早苗の考えに揺らぎはない。
「なんとかなると思いますが、念には念をという事で、ルイズさんにも多少手伝ってもらいます。1、2件も何かやればぐっと信憑性も高まるでしょう」
「何よ。結局、やるの!?悪い事」
「いえ、やっぱり正義という設定ですから。悪事はしません。まあそれはルイズさんの要望を踏まえながら、後で考えましょう」
こうして方針が決まる。
メインの段取りを早苗が担当。新聞の件にせよ、舞台となるのが守矢神社である点にせよ、妖怪の山で顔が利く彼女が適任だったからだ。もちろん魔法少女に精通しているというのもある。もっとも本人がやりたがったというのが一番だが。ルイズはまず魔法を上達させる事。異変の内容など、残りの事も決め始める。全てが決まった時には、夜も更けていた。気づくとレミリアやフランまで話に加わっていた。美鈴だけは気付かず、ずっと門の側にいたのだが。
ただこの話し合いの最中に、ルイズは一つの事に気づいた。最終的に山の神と遣り合うという設定なのだ。天子も関係している以上、二人は顔合わせする事になる。もうその時点で、真澄の鏡を持ってくるという要件は果たしたんじゃないかと。そうすれば神と戦う必要もないのではと。思わず、これを言おうとしたが、結局言い出せなかった。なんか話に勢いが付きすぎて、止めようがなかった。それに無理に神に勝つ必要も、なくなったのもあって。とにかく異変が終わってしまえばいいのだから。
それから慌ただしい日々がまた始まった。
ルイズはもっぱら魔法の練習だったが、まれに人助けに出ていた。魔法少女の恰好して。誰もが唖然とした顔をしていたが、手伝いをこなすと感謝された。なんとも演劇じみた異変に付き合っているのだが、感謝されるのは悪い気もしなかった。しかし、ハルケギニアだったらあり得ない行為。向うなら平民的立場の人たちを、貴族である自分が手伝っているのだから。
もっともこの行為を台無しにしていたのは天狗の新聞。新聞でのルイズは、何故かダメダメ魔法少女。押し売り的な善行で失敗をやらかすという、迷惑少女になっていた。すかさず早苗に文句を言おうと思ったが、なかなか会えない。まだまだ顔の広くないルイズには、妖怪の山の山頂にある守矢神社は行きづらかった。ただ早苗は結構山を下りるので、会える可能性はあった。しかし、ルイズにはその行先の見当が付かない。パチュリー達も、異変にしないといけないので、多少の悪評は我慢しろと言われた。一方、神奈子の方は魔法少女コスを頑として拒否。ストーリーも山の神が、迷惑行為を繰り返す未熟な魔法少女に助力の道を説くというシナリオに改変。結局、ルイズがラスボス的ポジションで、神奈子が解決する側に。ルイズばっかりがデメリットを背負っているような状態になってしまった。この騒動で唯一の利点は、天狗の取材がなくなった事だろうか。その点は早苗が話をつけておいたらしい。
で、とうとうその日が来た。舞台、守矢神社の準備もバッチリ。待ち構える二柱。守矢神社の祭神、八坂神奈子と洩矢諏訪子。それに裏方として段取り付けていた早苗。いいネタという事で周囲を囲む烏天狗達。魔理沙達はもちろん、レミリア達まで来ている。
だが、一つ予定と違っていた。
参道から思いっきり遅刻してきた天子の姿が見えた。何故か少々ダメージを受けている様子。
その後ろから人影が一つ。
見知らぬ顔の。
祓串を持った紅白の巫女衣装に、憤怒の表情が張り付いていた。鬼巫女。そんな言葉が似合う人物が。
「誰?」
ポツリと、ルイズは零した。