「なかなか止まないわね」
ルイズは空を見上げながらつぶやく。今日の宴会は外での立食会と決まった。そしてレミリア達の事を考え、日が落ちてから開かれる。しかし、この天気。空は分厚い雲に覆われ、朝から降り続いている雨は一向に止む気配がない。一方で準備は順調に進んでいた。
「どうするのかしら?中に変更するのかしら?」
「なんとかなるだろ」
雨の中、先に来ていた魔理沙が答える。もっとも、その割には濡れてない。実は防御魔法を張りながら来た。そのせいで結構疲れたようだが。
ともかく、魔理沙の楽観的な返事にツッコミ。
「なんとかって、なんでそうなるのよ」
「たぶんだよ」
「たぶん?たぶんなの。はぁ……なったらいいわね」
少し呆れていたが、魔理沙が勝ち誇ったように笑いながら、空の方を指さしている。指の先を見るとある一点を中心に、あれほど分厚かった雲が押しのけられるように消えていく。そして雲は一かけらもなくなり、星満点の夜空が広がっていた。
魔理沙は自慢気に言った。
「ほらな」
「ど、どういう事よ!?」
窓を開け、身を乗り出す。いったい何が起こったのか。すると雲が消えた中心に、何か、いや人影があるのが見えた。それがだんだん近づきつつある。
横で魔理沙が解答を口にする。
「神奈子だよ」
「え?あの山の神様?」
「ああ。風雨の神って聞いてたろ。この程度なら、片手間だそうだぜ」
「…………」
一瞬で、天気を変える。こんな事は魔法では無理だ。系統魔法はもちろん、先住魔法でも無理だろう。そしてふと昨日の事を思い出す。石灯篭を処分する時、あれは守矢神社に突然現れた。神奈子が博麗神社から転送したのだと。その時、早苗に聞いたが、あの神は湖をまるごと転送した事があるそうだ。
奇跡。奇跡を行うこその神。そんな言葉がルイズの頭に浮かぶ。思わず、その近づいてくる神の姿を凝視していた。
守矢神社の三柱は美鈴に案内され、一階ロビーに入って来た。本来ならメイド長である咲夜の仕事だが、咲夜は調理の真っ最中で、手が空いてなかった。
ロビーでルイズはこあと共に、三柱と顔を合わせる。そしてそのまま図書館へ向かった。
図書館の奥、何もない大きな真っ白い部屋があった。そこに8人の姿。パチュリーとこあに、魔理沙とアリス。神奈子、諏訪子、早苗の三柱。そしてルイズ。
真っ白な床には、様々な魔法陣が描かれていた。全て転送陣や召喚陣。つまりルイズをハルケギニアに送り返すための、実験をいろいろとやっていた。ただこれら様々な魔法陣で、成功したものは一つもない。
パチュリーが神奈子に尋ねる。
「どうかしら?」
「いろいろやったもんだね。これを利用するのも悪くないわね」
「手を加える程度でなんとかなるかしら」
「たぶんね。結構いい線行ってるのもあるし」
そう言って、ある魔法陣に近づいた。そして腰を落とした。
「うん。これにしよう」
神奈子は右手で魔法陣に触れた。魔法陣が光る。強烈な光を放つ。思わず目を覆うルイズ。
しばらくして光が止んだ。魔法陣は前と変わった所が見られない。パチュリー達は首をひねる。本当になんとかなったのかと。しかし魔法陣の側の神は満足そうだ。
「これでよし」
風雨の神は立ち上がると、四人の魔法使いの方を向いた。
「ルイズ。あんたの気配が一番強い所に飛ぶようにしたから。不都合があったらまた言って」
「あ、はい。その……ありがとうございます」
ルイズはとりあえず礼と共に頷いた。するとアリスが疑問を一つ。
「これって双方向性?」
「ああ。だって調査結果を聞かないといけないしね。使い方はあんた達が普通にやってたのと同じよ。ただし、行先は異世界だから無茶な使い方は避けるように」
「とにかく使える訳ね。ふふ……」
アリスはちょっと興奮気味。ルイズを除けば、ハルケギニアに一番行きたがっているのは彼女だからだ。主に人形研究のために。一方のパチュリーはこの気前の良さに、神奈子に対して違和感を大きくしていたが。
ともかく準備は終わった。そして呼び出しがかかる。宴会の準備も終わったと。
眩い月光の下。紅魔館裏の広場は、宴もたけなわ。宴会が始まってからかなり時間が経っていた。各人が勝手に酒を煽っている。ルイズの周りには紅魔館の面々が集まっていた。
レミリアはグラスをもてあそびながら話しかけてくる。
「なんか、あんたの壮行会みたいになっちゃったわね。悪くはないけどね」
「いろいろお世話になったわね」
「別にいいわ。それに世話してたのは、パチェの方だし。心残りと言えば、もう少し面白い事あればよかったのに」
「今までので十分よ」
なんだかんだと忙しかったのも思い出しながら、ルイズは答える。すると、フランがルイズに抱き着いて来た。
「フランはあんまり遊べなかったなぁ。ちょっとがっかり」
「フランと遊べるほど、上達してないわよ。やっとスペルカード2枚だけなんだから」
「えー。パチェとか魔理沙とは遊んでたじゃん」
「あれは、練習よ。練習。それに昼間ばっかりだったから、どっちにしてもフランとは遊べないわ」
「ぶー。あ、それじゃ今やろう」
「えっ!?」
ちょっと驚くルイズ。あの天子並に気分屋のフランとの勝負はできれば避けたかった。そこにレミリアが入る。紅魔館の主らしく。
「フラン。ルイズは今日の主賓なんだから。わがまま言わないの」
「ぶー」
そこでフランは、ルイズから離れる。
「それじゃ、もっとうまくなったらやろうね」
「ええ」
返事はしたものの、ルイズはその機会が来るのだろうかと思った。確かにあの転送陣は双方向性なのだが。
気付くと咲夜が側に立っていた。まだまだ宴は途中であり、本来なら仕事場を離れるべきではない。だが、ルイズの壮行会の意味合いもあるので、レミリアが適当に切り上げるように言いつけていた。
ルイズは彼女に話しかける。
「こっちに来て大丈夫なの?」
「はい。調理は全て終わりましたし、お酒も全て出しました。後はお客様がご自由になされるでしょう。そうは言っても、しばらくしたら戻りますけど」
「そう。あの……咲夜にもいろいろ世話になったわね」
「いえ、お客様のお世話は仕事ですから」
「それでもよ」
ルイズの言葉に、咲夜は相変わらずのメイド長の顔。だがどことなく柔らかい笑みをたたえていた。だが何かを思い出したように、ふっと消える。次の瞬間、現れた時には、手に衣服を持っていた。
「いい機会ですから、これを」
「ん?」
「ルイズ様が最初にお召しになっていたものに、近いものを選んだのですが」
衣服をルイズが手に取る。それは学院で使っていたものによく似たものだった。
「これは?」
「ハルケギニアに戻ってから、お困りになると思いまして、用意させていただきました」
「へー、ありがとう」
ルイズの着ていたものは、初日に散々な目にあったせいでボロボロになってしまい、結局捨てるハメになった。今もらった衣服はその代わりという訳だ。
そこに美鈴が入ってくる。
「プレゼントなら、私もありますよ」
と、彼女が手に持っていたものは、トレーニング教本とグッズ、八極拳や形意拳等々の武術の書物だった。ちょっとルイズ苦笑い。彼女は受け取ると、美鈴に早朝練習のコーチングと同じように言う。
「いいですか。帰っても練習は続けてください。一朝一夕では武術は身に付きませんよ」
「はは、うん、分かったわ」
ちなみに門は今閉じている。門番の仕事はとりあえずお休みだ。
次に魔理沙とアリスが何やら持ってきていた。
「今度は私らだぜ」
「魔法少女セットVer.3よ」
「えー、また?あの恰好はさすがに帰ってからしないわよ。その……やっぱ恥ずかしいし」
さすがにハルケギニアであの恰好では、貴族としての品格が疑われる。だが魔理沙とアリスは引っ込める気はなかった。
「と、思ってな。見かけを大分変えた」
魔理沙が取り出したリリカルステッキは、Ver.2までのおもちゃ、おもちゃしたものではなかった。丁度老人が使う杖のような長いものになっている。長さは木刀程度。柄の方は相変わらず太めで、ルイズの杖を格納できるようになっていた。これなら持っていても違和感がない。
手にした杖を眺めているルイズの前に、アリスからマギカスーツが広げられる。
「咲夜の後だと出しにくいけど、私のはこれ」
そこにあったものはルイズが最初身に着けていたもの。ミニスカートに白いシャツ。咲夜が用意したものにかぶっていた。だが、これも身に着けて違和感のあるものではなかった。そして魔力供給を助ける、下着もある。
魔理沙とアリスからも魔法少女セットを受け取ると、ちょっと顔を綻ばせる。
「へー……これはいいわ。ありがとう。これならこっちの魔法も使えるわね」
実はまだまだ使ってみたかった。弾幕を。あれほど練習したのだから。このまま二度と使わないというのはちょっと惜しい。もっともハルケギニアで使った場合の問題はあるが。
壮行会らしい雰囲気がますます濃くなった所で、パチュリーが口を開く。
「そう言えば、あなた、肝心なものを忘れてない?」
「何?」
「使い魔よ」
「あ」
全員が一斉に思い出した。この宴会は異変解決記念の宴。その異変自体は、そもそも天子をルイズの使い魔にするためのものだった。
紫魔女は、ちょっとからかうように言う。
「一番大事な事を忘れてるなんてね」
「えっと……まあ……。後でやるわ」
するとレミリアが何やら企んでる笑みを浮かべた。
「じゃ、せっかくだから今やっちゃいましょ」
「え!?ちょ、ちょっと待ってよ!」
しかしルイズの制止なんて当然聞かず。吸血鬼は弾幕を花火のように真上に打ち上る。そしてレミリアは飛び立つと宙で止まる。
「注目!紅魔館の主から、最高の余興を披露するわ!」
会場の面々の視線が一斉にレミリアに集まる。
「今回の宴は異変解決の宴でもあるけど、我が友人、ルイズ・フランソワーズ・ラ・ル…………を故郷に送り出すための壮行会でもあるわ。そしてもう一つ。彼女が使い魔を得る記念でもあるの」
ルイズは真下でレミリアの話を聞きながらも、顔を青くしていた。あれをここにいる全員に晒す事になるとはと。実はコントラクト・サーヴァントの流れは誰にも説明してなかったりする。
吸血鬼の演説は続いた。
「そしてその使い魔の儀式を、今ここで行うわ。さあ、上がって来て、ルイズ!天子!」
レミリアは二階のバルコニーに二人を誘う。ルイズはバタバタと言い訳していたが、こあと美鈴に強引にバルコニーに連れてこられた。一方の天子はよく分かってない顔で、やってくる。
レミリアは颯爽と宣言。
「さあ、始めて!」
周りからははやし立てるような声がいくつも上がる。注目度MAX。
ルイズは観念する事にした。せっかく自分のための壮行会だ。ここはやけくそ気味に、このノリに合わせるしかないだろう。と。
だが、天子は相変わらずキョトン。
「何すんの?」
「使い魔の儀式よ」
「ふ~ん……。で、なんで私呼ばれたの?」
「え?」
忘れていた。この天人は。自分で言い出した事なのに。ルイズはこの空気と酒の力も借りて激高。
「あんたが言い出したんでしょうが!私の使い魔になるのに、『真澄の鏡』持ってこいって!」
「あー、なんか言ったっけ。でも『真澄の鏡』は?」
「持ち主が持ってきてるでしょ」
「はぁ!?それってあり!?」
「誰に持ってこさせるなんて言ってなかったわよ。持ってきたらからには、契約してもらうわ」
「う……。少しは頭使ったわね。人間」
なんかハメられたみたいで不満そうな天子。もっともこのアイディアを出したのは早苗なのだが。しかし天子はあきらめる。元々どっちに転んでも構わない取引だったのもあって。
「で、どうするの?」
「えっと……その……。目つぶって」
「うん」
なんかルイズに妙に落ち着きがないのが引っ掛かったが、天子は言われるまま目をつぶる。そしてルイズは詠唱をはじめた。会場の全員が注目。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン……」
詠唱はやがて終わった。そして、この魔法のシメ。ルイズは腹をくくった。”それ”をやる。
「キス」を。
天子は唇の感触で、目を思いっきり開く。そして後ろへ退いた。傍若無人な天人が珍しく動揺していた。一方、宴の客人達は大はしゃぎ。かなり受けている。
「な……!何やってんの!?あんた!」
「しかたないでしょ!こういう魔法なんだから」
「はぁ!?何それ?召喚魔法といい、契約魔法といい、あんたの所のはみんなふざけた魔法ね。誰よ、作ったの」
「知らないわよ!」
「全く……、見つけたら絶対一発殴ってやるわ!」
かなり不機嫌そうな気分で、天子はそっぽを向く。その平然としている姿に、ルイズはちょっと疑問。
「天子」
「あ!?」
「体の調子はどう?」
「別に。気分は悪いけどね」
「え?」
おかしい。使い魔のルーンが刻まれる時、体に変調をきたすはずだが。頑丈な天人は何も感じないのだろうか。ルイズは天子の周りをなめるように観察しだす。妙な行動のルイズに、ますます不満そうになる天子。
「何なのよ」
「な、ない!」
「何が」
「ルーンがないの!」
「ルーンって?」
「契約をした時に体に刻まれる印よ。それがないと契約した事にならないの」
「ふ~ん」
天子もちょっと疑問に思い、服の中とかも調べてみた。しかし、ルーンらしきものは何もない。ルイズは顔が青くなる。前にパチュリーに言われた通り、コントラクト・サーヴァントは天人には通用しないのだろうか。しかしここまでいろいろやってきたのに、この土壇場で台無しではたまったものではない。
それとも、サモン・サーヴァントみたいに何十回に一回しか成功しないのだろうかと。
ルイズは真剣な表情で天子に向かう。
「も、もう一回」
「はぁ?何言ってんのよ!」
「お願い!もう一回だけ!」
「……。分かったわよ」
「う、うん」
そして再度チャレンジ。「キス」を。
だが。
「な、ない!」
再々度チャレンジ。そしてチャレンジ。
「えー!なんで!?」
「どうも、ダメみたいね。私としては、帰るの遅らせられたらと思ってたんだけどね」
バルコニーにへたれるルイズ。それを他所に会場はバカ受けであった。レミリアは満足そうに、この余興を閉める。
こあと美鈴にまた一階に下してもらう。その顔は茫然。となりの天子は、まるで気にしてないようだが。
「残念だったわね。まあ、使い魔にするんだったら、もう少し手軽のにすればいいんじゃないの?そうすれば……あれ?」
「ん?」
微妙に様子の変わった天子の方を、ルイズは向く。すると天子はルイズに、左手の甲を見せた。
「もしかしてこれ?」
「あ!」
彼女の手の甲に、文字らしきものが刻まれていた。
「やったー!」
ルイズは天子の手を取って、跳ねまわりながら喜んでいた。
やけに時間がかかったが、ともかく契約成功だ。周りはホッとするのと同時に、ちょっと残念がる。これでルイズが帰るための要件は、全て満たされてしまったのだから。何にしても彼女が来てから、退屈はしなかったと思う一同だった。
この日の宴は、ルイズにとって一生記憶に残る宴となった。
「いやぁ。食った、食った」
「久しぶりの洋食もいいもんだね」
「咲夜さんの腕もいいですからね」
守矢神社の三柱が満足そうな顔でくつろいでる。守矢神社の社務所の居間で。円形のテーブル、ちゃぶ台を囲み、各々力を抜いていた。
すると早苗が立ち上がる。
「さてと、お茶でも入れましょうか」
「何か、お茶請けあったっけ」
「さっきの残り物を包んでもらったんですよ。それにしましょう」
その言葉を聞いて、諏訪子は宴の終わりの方を思い出す。
「あれ?霊夢も集めてたよね。残り物。よく取ってこれたもんだ」
「はは、ほとんど持っていかれました。でもずるいんですよ。霊夢さん。「亜空穴」使って片っ端から、集めていくんですから」
いかにもな霊夢の行動に、あきれる神奈子。
「相変わらず意地汚いわね。あの巫女は」
「まあでも、そんなに集めても食べきれませんけど。じゃぁ、お湯沸かしてきます」
「ああ」
そう言って、早苗は台所へと向かった。
さらに力を抜こうとする二柱だったが、ふとそれに気づいた。神奈子が不敵な笑みを浮かべる。
「ひさしぶり。スキマ妖怪」
「宴会では見なかったね」
諏訪子もちょっと構えている。
すると何もなかった空間に、一筋の線が現れる。それはやがて広がり、裂け目となった。裂け目の先にあるものは、無数の目が溢れる異様な空間。そこから姿を見せるものが一人。紫のドレスを纏った金髪の女性だった。
「お久しぶりです。守矢の祭神の方々」
その名を八雲紫と言う。スキマ妖怪、神隠しの主犯、いろいろ呼ばれるが、幻想郷の管理人である大妖怪だ。
神奈子は、そう滅多に会わないこの妖怪が、何故ここに来たかだいたい分かっていた。とりあえずは軽口を飛ばす。
「あの子を飛ばすのは、あんたにやってもらいたかったわよ。専門家なんだから」
「でも天人がいっしょにいるからねー」
「ああ、だから宴会にも来なかったのか」
二柱は少し笑いあったが、その表情もすぐに収まる。そして八雲紫の方を向いた。
「で、あっちの方は放っておいていいの?」
「今の所は」
「連中もあっちに行くつもりのようだけど、それも?」
「はい。彼女達はその道のエキスパートですし」
神奈子はそのエキスパートという言葉に苦笑い。この妖怪の能力を知っていれば、そんな道など霞んでしまう。諏訪子はちょっと嫌味を込めた。
「まあ、あんたや霊夢に何もなければ、とりあえずは安心だもんね」
「けど、ここに来たってのは、世は事もなしって訳にはいかない可能性もあるんでしょ?」
神奈子は、少々探るように尋ねる。
「はい。兆候を感じます。さすがにどのような形になるかは分りませんが」
「ま、私達はここでの暮らしは気に入ってるし、その意味じゃ力は貸すわ。ただ隠し事は無しにしてもらいたい」
「はい」
頷くスキマ妖怪だが、神奈子と諏訪子はどこまで本気やらと、胡散臭く思う。もっとも、何があるかは、あの魔女達が調べ上げてくれるだろうとも考えていた。
とにかく、二柱がルイズから感じていたものは本物らしい事だけは分かった。そしてこれは少々やっかいだとも。
「それでは、今日はとりあえずお暇させていただきます。いずれまた」
そう言い残すと、八雲紫は空間に開いた隙間に消えていく。そしてその隙間も、残滓も見せず消えていった。
やがて居間の障子が開く。早苗がお盆に湯呑とお茶請けを乗せて入って来た。
「お待たせしましたー」
「ん?思ったより、成果があったじゃないの」
「ふふ~ん。狙ったものだけは、確保できましたからね」
二柱は早苗にお茶を入れてもらうと、咲夜の料理に舌鼓を打ちながら宴の余韻を楽しんだ。ただ神奈子と諏訪子の脳裏には、八雲紫の言葉が離れずにいた。
次からはハルケギニアが舞台となります。