ルイズと幻想郷   作:ふぉふぉ殿

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魔女の解説

 

 

 

 

 

 意外な真相に騒めくパチュリーの書斎。とりあえず落ち着こうと、紅茶がくばられる。頭を冷やすためか、中身はアイスティー。だが一人だけ、カップに手をつけない者がいた。魔理沙だ。一心不乱に、『ゼロの使い魔』の一巻を読む。しばらくすると本を閉じた。だが眉間にしわを寄せ、腕を組み、腑に落ちないというふう。そして解説役へ顔を向けた。

 

「パチュリー。根本的な事、聞きたいんだけどな」

「何よ」

「ルイズ達はいるのか?」

 

 誰もが魔理沙の言う意味が分からない。

 

「さっきお前、顕現した小説を依代にした付喪神って言ったよな。付喪神ってのは一つの依代に、一つの本体だ。つまりこの小説を元にした付喪神は、平賀才人っていうヤツだけのハズだぜ」

「……」

「って事は、他の連中、ルイズやキュルケ達がいる訳ないだろ?ルイズ達は、平賀才人の妄想か?私等は妄想相手にしてたのか?」

 

 白黒魔法使いの当然の問いかけ。ハルケギニア、ゼロの使い魔の世界が付喪神ならば、あの世界の住人は実は存在しない事になる。

 その答は意外な所から出てきた。非想非非想天の娘から。

 

「ルイズ達はいるわよ」

「何で分かるんだよ」

「そりゃぁ、『緋想の剣』が気を感じ取ったからに決まってるでしょ。もしルイズ達がその平賀才人っての妄想だったら、気は同じハズよ。でもそうじゃなかった」

「ちょっと待て。そりゃおかしいだろ。だって依代は一つなんだぜ?」

 

 ここで解説役、パチュリーが入る。

 

「魔理沙。あなた"鶯浄土"って話知ってる?」

「いや。なんだよそれ?」

「伝承……おとぎ話みたいなもんなんだけど。その中に不思議な箪笥が出てくるのよ。小人の住む箪笥がね」

「小人が住む箪笥……」

「その中で小人達は、人間のように暮らしてるの。田植えをしたり、祭で騒いだりね。おそらく『ゼロの使い魔』って付喪神も、その類のものだと思うわ」

「世界の妖怪……いや、世界が妖怪か?そんなもんがいるなんてな。知らなかったぜ」

 

 疑問が解けたのか白黒は力を抜き、ようやくカップを手にした。次に咲夜が手を上げていた。生徒が質問するように。

 

「パチュリー様。では、先ほどオスマン様達が突然消えてしまったのは?ハルケギニアに帰ったとは、どういう意味なんです?」

「ああ、あれね。彼ら自身が存在してると言っても、本体である『ゼロの使い魔』と完全に独立して存在できる訳じゃないのよ。だから『ゼロの使い魔』を結界で囲って、繋がりを切断すると消えてしまうの」

「え?でもそうしたら、消滅しまうのでは……」

「『ゼロの使い魔』自体は無傷だから、消滅はしないわ。そうなると、行先は『ゼロの使い魔』の中しかないという訳。前に紫のスキマで、キュルケ達やシェフィールドがハルケギニアに帰った件があったでしょ?あれも同じ仕組みよ」

「そう……なんですか……」

 

 咲夜はとりあえずうなずく。今一つ分かってないようだが。ここで何かを思いついたのか、天子が急に独り言のように言い出した。腕組んで首を傾げつつ。

 

「あれ?平賀才人って、ハルケギニアの器なんだから、あの世界じゃ神様みたいなもんなんでしょ?ルイズと会うなんて、簡単にできんじゃないの?」

「できるなら、ハルケギニア騒ぎ自体が起こらなかったわよ。ルイズも現れなかったでしょうし」

 

 パチュリーはあっさり天子の意見を否定。

 

「何で、神様なのにできないのよ」

「神様というより、管理人に近いんじゃないかしら。万能とはいかないんでしょうね。あくまで付喪神。依代を無視して自在になんでもって訳にはいかないのよ」

「え?依代に縛られてんの?それじゃ、どうやってルイズと会うってのよ。21巻より先はないんでしょ?何やっても無駄じゃん」

「縛られるとは言っても、何もできないって訳じゃないのよ。例えば、ロンディニウム。実は小説の中じゃ、あの町ほとんど描写がないの。でも私達が見たのはちゃんとした町だったでしょ?」

「ああ、確かに」

「ここなら資料も山ほどあるものね。新しい設定作るのに、不自由はしないでしょう。曰くありげな魔導書もゴロゴロしてるから、その魔力の影響も受けてるかもしれないわ。すでに付喪神としてある以上、小説『ゼロの使い魔』と付喪神『ゼロの使い魔』が全く同じって訳もないでしょうし」

「ふ~ん」

「そうそう。後、ダゴンも彼が作り出したものよ」

 

 その名に反応する人形遣い。

 

「なるほどね。あれも作り物という訳。だから悪魔にしては、気配がおかしかったのね」

「ええ。あれは『王の天蓋 絹の章』の挿絵を実態化させたものよ」

 

 そう言って魔導書を開く。そこにあるダゴンの挿絵は、アリス達が知っているガンダールヴとしてのダゴンそのものだった。すると、さっきから『ゼロの使い魔』を読んでいた衣玖が、ついでとばかりに聞いてきた。

 

「一連の記憶操作ですが、あれも平賀才人の仕業という事になります。どうも小説の筋に合わせようとしたように思うのですが、目的はなんなのです?」

「もちろんルイズに会うため」

「つまり、その平賀才人とやらとルイズさんが会うために、小説の筋書通りに話が進む必要があると?」

「21巻より先に話を進める糸口を掴みたかったんじゃないかしら。あまりに話が変わり過ぎたんじゃ、仮に先に進む糸口が掴めても意味がないし」

「ですが、総領娘様が使い魔だったのですよ?糸口が掴めた所で、どうしようというのです?」

「糸口が掴めたら、もう一度話をやり直すつもりだったと思うのよ。今度は平賀才人が使い魔となってね」

 

 やり直すという言葉に、アリスが反応。

 

「あ!ルイズが前に見た事あるって言ってたの、実はそれ?」

 

 うなずくパチュリー。すると事情を知らない美鈴が入って来る。

 

「パチュリー様。それ何です?見た事あるって」

「ルイズが、時々デジャヴのようなものを感じるって相談しにきたの。それも見覚えがあるっていうよりは、もっとリアルで経験したって感じのね」

「もしかして、物語を何度も繰り返していたとか?」

「たぶん。平賀才人が、いろんな手を試してたんでしょう。依代を元にすれば、全てを最初に戻すのは難しくないでしょうし。ただ完全とはいかなかったんでしょうね。だからわずかに記憶が残ってしまった」

「そうだったんですか……」

「でも、何度も試したけど、どれも失敗。21巻より先に進めなかった。ついに外の私達を巻き込む事にした」

「そのためにルイズさんを、図書館に出現させたと……」

「ええ」

 

 七曜の魔女の説明に、渋い表情の面々。納得はできるが、あまりスッキリとした結論ではないのだから。

 

 アリスが椅子にもたれ掛かり、アイスティーを飲み干す。一つ息を漏らすと、七曜の魔女に話しかけた。

 

「で、平賀才人の考えがあなたの読み通りだとして、今回は上手くいきそうなの?」

「上手くいかないわ。絶対にね。何度やろうが、誰を『ゼロの使い魔』に呼び込もうが失敗するわ」

「なんで分かるのよ」

 

 パチュリーは手にしたカップを、ゆっくりとソーサーに戻す。一拍の間を置き、解説を始めた。

 

「そうね……。例えて言うなら、あの世界は『ゼロの使い魔』という演劇。平賀才人は楽屋にいる演劇監督。ルイズは主演女優といった所かしら」

「それで?」

「演劇監督と主演女優が、公演中に舞台の上で会いたがってるのよ」

「そんな事したら、進行が止まっちゃうじゃないの。舞台が台無しでしょ」

「その通り。逆に、主演女優が舞台から降りたっきり、監督といっしょに楽屋に引きこもっても同じよ」

「そんな無茶しないで、幕が降りた後、楽屋で会えばいいじゃないの」

「二人は舞台の上で会いたいのよ。楽屋なんてしろものは、舞台の物語からすれば、存在しないもの。そんな所で会っても意味はないわ。だって二人は元々、ハルケギニアで生きていたんだもの。それが本来の彼等のありようなんだから」

「それじゃぁ……」

「つまり、あの世界の構造上の問題で二人は会う事ができないのよ。世界の器である平賀才人は、そこから離れられない。表舞台の軸であるルイズは、一連の物語が終わるまで同じく離れられない。21巻より先に進めるかどうかは関係ないの。物語の内側にいる彼等じゃ、気づけなかったんでしょうね」

「…………」

 

 返す言葉のないアリス。いや誰もが何も言えずにいた。彼等の全ての想いも努力も無駄だったとは。

 

 とりあえず事情は全て分かったが、誰もが冴えない様子。なんとも言えない顔が魔女の書斎に並ぶ。再び注がれたアイスティーに、チビチビと口を浸すだけ。やがて七曜の魔女は姿勢を正し、あらためて全員に向きなおった。

 

「さてと、これで一旦説明は終わり。それで、あの『ゼロの使い魔』をどうするか決めたいのだけど。皆、大なり小なりハルケギニアに絡んだから、意見を聞いておきたいのよ」

「決まってる。物語ってのはハッピーエンドがいいぜ」

 

 出てきた魔理沙の言葉に、誰もがうなずいていた。だが望むのと実現するのは話が違う。アリスからさっそくの一言。

 

「どうやってやるのよ。話の展開じゃなくって構造上の問題なのよ?『ゼロの使い魔』の身体改造でもするの?付喪神改造する魔法なんて知らないわよ」

「紫とか永琳辺りができねぇか?」

「できるかもしれないけど、頼み聞くハズないでしょ。彼女達も面倒かけられたから、いい気分じゃないだろうし。しかも紅魔館の中だけの話って、オチだったんだから。よっぽどの貸しでもないと無理よ」

「だよなぁ……」

 

 腕組んでうつむく普通の魔法使い。ここでレミリアが颯爽と立ち上がった。任せろと言わんばかりに親指で自分の胸を指し。

 

「私が運命を変えてやるわ!任せなさい!」

「さすがは、お嬢様です!」

 

 咲夜が手を叩き、主を持ち上げる。日頃はお子様チックな所のあるお嬢様だが、やるときはやると。レミリアには運命を変える能力がある。この吸血鬼ならば、厄介な問題もあっさり解決するかもしれない。

 だが、お嬢様の決意をふいにする親友の忠告。

 

「止めた方がいいわ」

「なんでよ!」

「てゐの幸運の時もそうだったけど、運命に対する力は他にどんな影響がでるか予想がつきにくいのよ。それにレミィの力は大きすぎるわ。今の『ゼロの使い魔』にとってはね。よほど気配りしながら能力使うってなら別だけど、あなたってそういうタイプじゃないでしょ?」

「う……」

 

 図星で黙り込んでしまうレミリア。

 

 それからいくつかのアイディアは出るが、どれも実現性の怪しいものばかり。この場はひとまずお開きか、そうなりそうになった時、黙り込んでいた魔理沙が不敵な表情を浮かべていた。秘策を思いついたときのあの顔を。

 

「一ついい手、あるんだけどな」

「何よ?」

「神様だぜ」

「は?」

 

 アリス、意味不明と言わんばかり。一瞬、神奈子達に頼むのかと考えたが、彼女達の能力は今回役に立つとは思えない。あるいは竜神か。だが同じく、一付喪神に手を差し伸べるとも思えない。この太々しい顔つきの魔女が何を考えているのか、ここにいる誰も分からなかった。

 そんな彼女達を無視し、立ち上がり箒を手に取る魔理沙。

 

「ま、けど、私も専門外だからな。ちょっと専門家に聞いて来るぜ」

「誰よそれ?って言うか、先に説明……」

 

 だが、アリスの言葉が届く前に、魔理沙は書斎から飛び出して行った。

 

「全く……落ち着きないんだから」

 

 ぼやきながら、空きっぱなしのドアを締める人形遣い。一方、解決法があるならそれに越したことはないと、他のメンツは慌ただしい魔女に期待を抱いていた。それなりに。

 

 場が落ち着いた所で、パチュリーも席を立った。自分の机へと戻って行く。

 

「とりあえずは魔理沙が何か思いついたらしいから、それを待ちましょ」

「パチュリー様。『ゼロの使い魔』の件ですが、何か私がお手伝いする事はありますか?」

 

 咲夜がカップを片づけながら聞く。それに首を振るパチュリー。手が必要になったら頼むからと言うだけ。ここでせっかくだからと、文が質問を一つ。メモ帳を広げながら。

 

「そう言えば『ゼロの使い魔』ですが、何故真っ黒い球になってるんです?それについては聞いてないんですが。そもそも平賀才人とやらが『ゼロの使い魔』なら、人か本の姿になるものでは?」

「ああ、あれね。最初、見つけた時は本の形だったのよ」

 

 確かに彼女の言う通りだった。

 文がCMYKに気付いたのを切っ掛けに、パチュリーはハルケギニアが異世界ではなく本に関わる人外ではないかと見当をつける。そしてすぐさま司書である小悪魔達を総動員して、図書館中の本をチェック。ついには『ゼロの使い魔』を発見する。その時は、まさしく本の姿をしていた。しかし現在は御覧の有様。

 魔女は資料を整理しながら、経緯を話す。

 

「その後、ハルケギニアに行って、平賀才人に会うためにアポ取ったの。デルフリンガーにね。そうしてこっちに戻ってきたら、あんなになってたって訳」

「なんでまた?あれって、警戒しているようにしか見えないんですけど」

「私もそう思うわ。霊夢を呼んだのもそれが理由」

「パチュリーさん、ハルケギニアで何やらかしたんです?」

「別に。私は会わせて欲しいって言っただけよ」

 

 全く非はないという態度の紫魔女。当然、誰もがその理由とやらが気になった。アリスが腕を組みつつこぼす。

 

「会いたくない理由があるのかしら……」

「当人に聞くしかないんじゃないかしら。どの道、一度はハルケギニアには行かないといけないし。その時に確かめてみましょ」

「けど、あんな状態で行けるの?」

「問題ないわ。そのために霊夢がいるんだから」

 

 区切りがついた所で、レミリア、咲夜、フランドール、美鈴は書斎から出て行った。

 

 やがて一時ほど時間が過ぎた。すると落ち着きを取り戻していた図書館に、突然、騒がしい音が乱入。だが慌てる者はいない。むしろ待ち望んでいた。彼女が戻って来るのを。普通の魔法使いを。

 魔理沙はさっそく書斎に突入。そこにあったのは、自信ありげな顔つきと突き立てられた親指だった。まさしく行けると言いたげな仕草が。書斎にいる人外達は、一斉に立ち上がった。

 

 

 

 

 

 ロマリア。宗教庁の施設。そろそろ就寝時間だというのに、ルイズはあてがわれた部屋で苛立ちをまき散らしていた。

 

「一体、何がどうなってんのよ!」

「いや、俺に言われてもな」

 

 被害を受けているのは悪魔とインテリジェンスソード。つまり、ダゴンとデルフリンガー。

 

 ガリア、ゲルマニア連合とトリステインの戦争は、クロコの仕業と思われる現象で回避された。いや回避というより、消滅したと言った方がいい。ほとんどの人間が、その動乱を覚えていないのだから。また、行方知れずとなっていた学院関係者も、ルイズが学院に戻ってから数日後にいきなり出現する。彼等は、ついさっきまで幻想郷にいたと言う。この現象は、キュルケ達が体験したものによく似ていた。ルイズは、これもまたクロコの仕業に違いないと考える。

 ともかく祖国の危機は去り、教師も生徒も無事だった。クロコがなんのつもりでやったのかは分からないが、彼女はこの謎の存在に感謝の気持ちを抱かずにいられなかった。そして以前聞いた、ルイズのためという言葉を信じる気になっていた。

 

 それから数日。平和な日常は戻ったが、まだ気になる事はいくつも残っている。まずは、アルビオン王国モード朝が消え去ってしまった事。さらにマチルダも行方知れず。おかげでティファニアは故郷を失ったも同然。やむを得ず、ティファニアはトリステイン王家預かりの身となる。アンリエッタと親戚関係にあるのは違いないのだから。

 そしてもう一つ。幻想郷の面々が一向に姿を見せない事。ただこちらに関しては、それほど不安には思っていなかった。オスマン達が幻想郷に飛ばされていたので、同じように向こうにいるのだろうと考えていたので。

 

 そんなある日。ルイズに王宮から呼び出しがかかる。アンリエッタから出てきた話は意外なものだった。ロマリアからの緊急の召喚を受けたと。しかもルイズ、ティファニアを伴ってとの事。宗教庁の命令なら仕方がないと、ルイズは了承。ティファニアと共にアンリエッタのロマリア訪問へ同行する。さらに航海の途中、デルフリンガー達が出現。クロコと繋がっているインテリジェンスソードだが、学院の件でクロコへの悪印象はもう消え失せていたので、ルイズは彼等を受け入れる。

 

 やがてロマリアへ到着。アンリエッタ、ティファニア、デルフリンガー達と共に、ルイズは聖エイジス32世ことヴィットーリオ・セレヴァレに謁見。だがここで彼から予想外の話をされた。聖地奪還を実現すると。まずはそのための障害となるガリア王を屈服させると。つまり教皇はルイズ達に、ガリアとの争いに手を貸せと言い出した。

 

 宗教庁の宿舎で、ルイズの文句は続いていた。宙に向かってぶちまけていた。

 

「せっかく戦争が無くなったと思ったら、次の争い事とか。しかもまたガリアと。これは何?」

 

 ちびっこピンクブロンドは、視線を急降下させ、魚悪魔と片刃の大剣を睨みつける。

 

「これもクロコのせいじゃないでしょうね!」

「違げぇよ」

「じゃあ、何なのよ!」

「だいたいだな。あのガリア王が、ずっと大人しくしてる訳ねぇだろ?」

「それはそうだけど……」

「だったら、どの道、やり合う事になったんじゃねぇのか?早いか遅いかだけの話だろ」

「……」

 

 黙り込むルイズ。確かにデルフリンガーの言う通りだ。今までも散々騒乱を引き起こしてきた無能王が、このまま何もしなくなる理由など一つもなかった。確かにトリステン、ガリア間の戦争はなくなったが、ジョゼフが消えた訳ではないのだから。

 とりあえず納得するルイズ。興奮も冷めていく。彼女は気が抜けたように、ベッドに倒れ込んだ。うつぶせになり顔だけを横に向ける。そしてポツリとこぼした。

 

「あ~……。パチュリー達がいたら、いろいろ相談できたのに」

「あいつらなら、なんとかしちまったかもな。姑息な手段考えて」

「相手の裏かいたり、足元すくうのが好きだったもんね」

「絶対、正攻法選らばなかったしよ」

「ひねくれてるから。みんな」

「ああ、性格悪いわ」

「自分勝手だしね。散々、迷惑かけられたわ。何度、オールド・オスマンに呼び出されたか」

 

 ルイズとデルフリンガーは悪態を並べながらも、大昔の出来事を懐かしむように話す。その声は心なしか弾んでいた。ルイズは寝返ると、おぼろげに天井を見る。

 

「でも……本当に困ったときは、助けてくれたわ。たくさん。それに……なんだかんだで楽しかったし」

「……」

「もしかして……このまま会えないのかな……」

 

 寂しげな響きがふと零れる。それっきり、お互いの言葉が止まった。ルイズは、何気なく窓の外を見た。目に映るは赤と青の双月。そう言えば幻想郷の月は一つだった、なんて言葉が頭を過る。

 しばらくして、デルフリンガーが仕切り直すかのように言い出した。

 

「今は目の前の事考えようぜ」

「それもそうね。私、もう寝るわ。明日もいろいろあるし」

「ああ」

「んじゃ、お休み」

 

 灯りを消し、ルイズはベッドへ潜り込んだ。ほどなくして、寝息が聞こえてきた。眠りについた相棒の想い人を眺めるインテリジェンスソード。彼はこれから何が起こるか知っている。それは今までと変わらない。だがその先はどうなるのか。それが分かる者はここにはいない。彼も彼の相棒すらも。

 

 

 

 

 

 翌日、ダゴンとデルフリンガーはジュリオの訪問を受けた。まだ寝ていたルイズを残して、彼の後についていく。なんでも見せたいものがあると言う。もちろん何を見せたいか、デルフリンガーは分かっていたが。

 大聖堂の地下へと続くらせん階段を下りていく。着いた先には鉄の扉があった。ジュリオは開けようするが、錆びついていて中々開かない。月目の少年が声をかけてくる。

 

「手伝ってくれないかい?」

「いいぜ」

 

 デルフリンガーが答えると、ダゴンが取ってに手をかけた。そして片手でいとも簡単に開けてしまった。唸るジュリオ。

 

「すごいな。君は。妖魔、いや悪魔だっけ?それだけの事はあるぜ」

「ま、人間相手なら武器なしで勝てる程度の力はあるぜ。このダゴンはな」

「ますます仲間になって欲しいよ」

「お嬢ちゃんが決めてくれねぇとどうにもならねぇが、俺は悪くない話とは思ってるぜ」

 

 どこか親しげに答えるデルフリンガー。

 

 一同は部屋の奥へと進んでいく。そしてヴィンダールヴは足を止め、部屋の灯りをともした。現れたのは数々の武器。それもハルケギニアのものではない。地球のものだ。剣に拳銃に小銃、戦闘機の一部なんてものもある。

 

「これはみんな聖地の近くで見つかったものさ。片っ端から固定化をかけて、ここに集めたんだ。中には壊れてるらしいのもあるけど」

「……。武器だなこりゃ」

「分かるかい?」

「一応な」

「さすが、ガンダールヴだよ」

 

 それからデルフリンガーは武器の説明をしだす。さらに部屋の奥には戦車まであった。話を聞いて感嘆の声を何度も上げる月目の少年。一通りの説明が終わると、今度は彼の話が始まった。虚無の使い魔と聖地ついての話が。もっともデルフリンガーは、話半分で聞き流していたが。彼にとっては、分かり切った内容なので。

 全ての予定が終わり、ジュリオ達は出口へと向かっていく。

 

「えっと……ダゴンだっけ。君、酒は飲めるのかい?」

「飲めるが酔わないぜ」

「そりゃ残念だ」

「なんでだよ」

「こう言っちゃなんだけど、やっぱりそのなりだとどうして構えちゃうんだよ。もう少し、気軽に付き合えるようになれたらってね」

「なるほどな」

「奢らせてくれよ。酒がダメなら食事でもいいから」

「ま、いいさ。付き合うぜ」

 

 ジュリオは軽い足取りで先に進んでいった。そして部屋を出て行く。後についていくダゴンとデルフリンガー。しかし出口の側まで来て、足を止めた。そして振り返る。視界に入る数々の武器。その中でもひときわ目立つ重戦車。インテリジェンスソードは、一人つぶやいた。

 

「この次は、タイガー戦車を使って、ドカンか……」

 

 来週のスケジュールでも確認するかのような言い様。

 

「けど、俺はただの剣だ。使い手がやるってなら、最後まで付き合うさ」

 

 彼自身はこの先、上手く進む予感があまりしない。だが長年の相棒が、あんな所に誰とも会えずに閉じこもっている相棒がやるというのだ。自分くらいは付き合ってやらないと可哀想だ。

 デルフリンガーは気持ちを引き締め直すと、元来た道を戻ろうとする。

 

 突然、扉が閉まった。

 慌てて扉の方を向くデルフリンガー。一瞬、ジュリオの仕業かと思ったが、彼は扉を動かす事すらできなかったはず。しかも自然に閉まるはずもない。理由が分からない。ともかく開けようと、ダゴンが扉に手を伸ばそうとする。

 

「また会ったわね、デルフリンガー」

 

 後から声が届いた。部屋の中央から。ゆっくりと振り返る悪魔とインテリジェンスソード。

 

「お前ら……」

「あなたとっては、久しぶりになるのかしら?こっちは1日も経ってないけど」

 

 七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジがいた。彼女だけではない。その両脇には、普通の魔法使い、霧雨魔理沙。人形遣い、アリス・マーガトロイド。さらに天人、比那名居天子。竜宮の使い、永江衣玖。烏天狗、射命丸文。月うさぎ、鈴仙・優曇華院・イナバ。そしてパチュリーの使い魔のこあ。

 異世界、いや、外の世界の人妖達が、不敵な態度で悪魔の模造品とインテリジェンスソードに対峙していた。

 

 

 

 


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