東方深理壊~The Girl To Deny Life~ 作:hinanan
更新がものすごく遅れてごめんなさい!
説明は活動報告の方でしますのでっ!
東風谷早苗という少女について話そう。
さて、この少女はどんな人物か。勢い込んで話そうと言ったが、彼女を語ることは少々難しい。何故なら彼女は人であって人ではなく、読みやすいようでいて全く読めない人物なのだから。とはいえ、外見ならパッと出てくる。なんせ、それこそ親の顔より見ていると言うのが比喩でなくそのまま使えるほど、顔を合わせているのだから。
髪は世にも珍しい明るい緑色。虹彩も同様だ。美少女、とそう堂々評せるぐらいにその容姿は整っており、大人っぽさよりも子供っぽさの方が多く比率を占めるその顔は、笑顔になれば周りの人間も一緒に笑顔にさせる。性格はそんな容姿に合わせたように、天真爛漫に生を謳歌する中で一本自分の芯を持っているような、そんな『強い』ものだ。身長はそこそこ高い。私が小さいというのも有るのだろうけど、それを差し置いてもいいとしをした高校二年生の背を頭一個半位の差で引き離すとなると、大きいという評価は間違ってない。どことは言わないところも、私より圧倒的に大きい。それでいて私より身長の分少し太いだけで、対して細さが変わらない、って言うのはズルいのではないだろうか。
さて、だがしかし。いくら容姿や外面的な性格を説明しようが彼女の本質的な部分を語らねば、彼女を知ってもらうことは不可能に近い。
まずは基本にして最重要なこととして、彼女が現人神であることは知っているだろうか。人でありながら生きながらにして神へと――信仰する対象へと変化したのが彼女だ。少なくとも、私が最初に見たときはそんな者でなかったのは確かだ。そして私の知る限り、世界に名高いキリストでもそうはなれなかった。彼は元々神の子であったから信仰対象――神へと至れたのであって、ただの人間であれば聖人としては数えられただろうがそれだけだっただろう。普通の人間は神になれない。なれるのは元々普通でないか、それとも普通では無くなったかのどちらかだ。かの天神も同じ方法で神へと至った。
続いて、同じように基本として。彼女は風祝である――と言っても名前が違うだけで、やることは巫女と大して変わらない。神様のお世話をして神事の時はそのお手伝いをするだけ、つまり私と同じである。神であってまた巫女でもあるのだ。まぁ巫女の神もいるけど、巫女と言うのは本来その上位の存在を自分と同じ舞台に一時引きずり下ろす職でもある。神の力を人間でも扱えるように調整する、それが役目だ。そう、人間はそのままでは神に至れないが、神に近づきその力を借りることはできるのだ。
この二つの要素を持つから彼女は人であり、また人でない。
しかし、そんな状態でありながら彼女は何も変わらない。私が前に見たときも、今も。変わる前も、後も。彼女は同じ笑顔を浮かべるのだ。そして実に人間くさい理由で、普通の人間にない行動力を発揮し、人と神の境目などなく全てを助けてしまう。
私は誰からの手も遮り、自らに納得し、閉じ籠っているというのに。それすらも彼女には通じない。人は両方から手を伸ばさないと繋がれないと聞くが、それは彼女のような例外には通じない。
『貴女の分の手の距離が足りないなら、私がその分近づいてそれを埋めればいいでしょ?』
なんて、いつかあの子がいってた言葉だ。そして、それは偽りじゃなくあの子は私の壁さえ乗り越え、私にその手を触れさせた。あの人以外で初めてだったんだ、私に直接触れてくれたのは。ソコからははじめてのことばかりだった。でも、貴女といれば何も怖くないどころか全てが楽しくて。私の下らない愚痴に、苦笑いしながらもちゃんと聞いてくれたあの子の顔が私のお気に入りでもあった。
思えばあの子は私の恩人と言っても間違いじゃない。あのまま誰とも触れあえなければ、私はその薄暗い壁の中でただ一人ズブズブと孤独の沼に取り込まれていただろう――溺れているのにも気づかずに。そんな中、手を払い除けようとする私を全力で掴んで、そこから日の当たるところに引っ張り出してくれたあなたは、私のヒーローだ。
だから、今度は私の番。私が貴女にこの身を砕くときだ。例え、あの時のあなたが他意を持っていたとしても、私にとってそれは真実だった。だから、私はあなたを救う。
再会は思わぬ偶然の産物だけど、そんなものは関係ない。
そして、全部終わったその時には、また二人で――。
―――――――――――――――――――
それで、と会話を始めるにはいささか以上にぶっきらぼうに私は始める。
「なんで、あんたがここにいるのよ」
面倒そうに目を向けると、当人は対抗するようにむんっと胸を張る。
「なんで、って異変だからですよ。
異変あるところに巫女あり! おかしな事でないでしょう?」
「そうだな、お前が巫女でないってことを置いておけばな」
「なーに言ってるんですか、魔理沙さんたちも充分人間離れしてる癖に」
「そう言うことじゃないし、私はデオキシリボ核酸的には人間よ。そこのとあんたは知らないけどね」
「人間離れしてる自覚はあったんだな。私はそんな自覚はないからまだまだ人間だぜ」
よく言うわ、普通の人間は魔法を使わないって気づかないのかしら。
そこを行くと、私はちょっと空を飛べるだけだし充分人間よね。
「それに私は霊夢さんたちのように、ただなんとなくじゃなくて家の神様二人のご命令で来てますから」
「失礼ね、私のは確信を持った勘よ?」
「あっちに異変の首謀者がいそうな気配がする!」
「ダメだ、こりゃ……。
ええい、神託を受けた私に楯突くとは不届き千万! いざ、神罰執行です!!」
理不尽じゃないかしら。
首を捻りたい気持ちを押し殺し、飛来する弾幕を右に左にと避ける。
まったくあの寺の破戒僧と言い、霊廟の聖人ゾンビといい、なんで神職をかじったやつはどいつもこいつも変なのしかいないのよ。……なんだか、ブーメランが見えたけどきっと気のせいよね?
「というか、お前らにしては珍しくこの手の物の食い付かないんだな?」
そう言えばそうね。こいつの神社って住んでるのが全員新しい物好きだったはずだけど、どうしたのかしら。
すると、早苗は困ったように眉根を寄せた。
「うんと、神様たちは知ってるみたいなんですよね、犯人のこと」
『ええ!?』
「それで、その人?とは知り合いというか、あれってなんか上司みたい……?」
まってまって、情報量が多すぎる。
え、なにそのつまりどういうこと?
私の心とは対象にいつの間にか緑の雨あられは止んでいた。彼女の頭には天使の輪がかかっていた。
でも、その輪は今はすこしばかり横に傾いている。何かを思い返すように。
「うーん、あともう少しで何かひらめきそうなんですが。上司、それも面倒だけど圧倒的に力がある……まるで、にとりさんの鬼に対する反応みたいな……。
よく考えたら、物に手は出さないのに足止めはするって言うのも変ですし」
ひゅいっ!?
下の方で何か聞こえたけど、気のせいね。
というか、結構重要そうなことをポロポロ出しちゃってるけど良いのかしら?
私たちそっちのけで考え始めた彼女を観察していると、推論のまとめなのか情報がだばーっと溢れてくる。私たちが居るってのを忘れてるんじゃ無いでしょうね。
あれ、そう言えばさっきついでになんかいってなかったっけ。ええと、私たちの、足止め……?
その事に気づいた瞬間、私の心は決まった。
ええ、そうよね。よく考えたら別に難しいことじゃなかったわね。
邪魔するやつはみんななぎ倒せば、最後に残ったのが首謀者になるんだから……。
ぶつぶつと考え込んでる早苗に目線を固定し、右手に札を備える。
「魔理沙」
「やる気満々じゃないか、どうした?」
「あいつは、わたしたちの行く手を阻むわ。だから排除するわよ」
魔理沙の返答はその場に置いて、一息に早苗の目の前へ。
ようやく私に気づいたらしいけどそれはもう遅い。目を見開く彼女めがけ、霊撃符を叩きつけた。
瞬間、込めた霊力が爆発する。
私は爆風に逆らわず、途中でくるりと回転して元の位置へ。
「初手から容赦無いな……」
呆れたように魔理沙が言うけど、このぐらいじゃないと彼女にダメージはない。それに、これで仕留めきれないのは二人とも分かっている。
ひゅうんっ ひうん ど ら ら ら ら ら っ
煙の中から大量の弾幕。お米のような弾を左右に避けると、煙が内側から散らされるのが見えた。その正体は勿論早苗なのだけど、彼女は頬を膨らませていた。しかも結構怒ってるみたい……そうか、あれが激おこの状態ってやつね。
「もーゆるしませんからねっ!
人が考えてるときに攻撃するのはマナー違反だってその身に刻んであげますよ!!」
のんきなことを考えている場合じゃ無かった。
わたしたちの前でスペルカードを取り出し、即座に宣言。
「古来より受け継がれし秘技、とくと見せてあげましょう!」
秘術【グレイソーマタージ】
カードから飛び出た霊力は、彼女の持つお祓い棒に収束。それを使い、彼女は素早く五芒星を書き上げる。早苗の身長に迫る直径のそれは、魔方陣としてそこに顕現した。それは光を放つ、彼女の感情に感応するように、激しく。
私が警戒した次の瞬間、光は弾けた。
同じ大きさの星が幾つも青い空に飛び出す。それは、それをもって新たな魔方陣描くような規則性と精密な制御をもって、私たちの退路を塞いでいく。
「くっ……!」
最初から得意なやつを選ぶなんて、正しくて荒々しいわね!
弾幕の密度や数はそうでもない。だけど、一つ一つが大きいから油断していると避け損ねることになるだろう。
星が描き続ける、星の魔方陣。大空をキャンバスに映されるそれは美しい。
観覧者ならば、それに感嘆のため息を漏らすだろう。でも、おあいにくさま。
「邪魔するなら叩き落とす。邪魔になるなら叩きつぶす」
するり。
貴女の弾幕は今『覚えた』。
「フォールオアダウンよ。落ちなさい」
規則性の歯車をすり抜け、また目の前に。
「え!?」
即座にそれを出せるのはたいした技術……だけど、届かないわ。
早苗が撃った五芒星に反転。タイミングは一瞬、だけど狙えないほどシビアでもない。
当たる直前、一歩分前へ。空いた隙間を活用し、背中に迫るそれを背面跳びの要領で潜らせる。
逆転した視界には早苗の青ざめた顔が映り――
「にゃあぁぁーー!!」
強化したお札によって吹っ飛んでいった。
ふう、良い仕事した!
努力の証を拭っていると、隣に魔理沙が来た。
「あのな、もうちょっと付き合ってやれば良いのにさ」
「いやいや、時間が無いのよ? 悠長なこといってる暇があるなら、もっと面倒なことになる前に叩いておかないと」
「理屈は分かるけど、すごいうなずきたくないぜ……。だから、人間より妖怪の方が知り合いが多いんじゃないか?」
「余計なお節介よ!
それにほら、まだ終わりじゃないみたいよ?」
ピッと指でさすとちょうど早苗が上がってくるところだった。さっきみたいにぶんむくれてるけど、なんというか本気度が違う。ま、私相手に気を抜いてたんだから、それでも足りないぐらいだけど。
それに、いつもだったらもう――
「ええい、おのれおのれおのれおのれぃ!!
あなたたち相手に本気を出さなきゃいけないとは、ですよ!
だけど、これでおしまいにしてあげます。この私の新作スペルでっ」
やっぱり、ね。新作だとかなんかで誤魔化してるけど……。
勘にしたがった予想に確信を持つ。魔理沙も多分今から確認かしらね。
「おい、早苗!」
「どうかしましたか、魔理沙さん。
あ、人類最古の金色の英雄に似てるなって? いやぁ、よく言われるんですよね〜、声真似は得意――」
「ん、誰のことだ?
まぁ、知らないことは後回しにして」
「そー言えば、幻想郷ですもんねー。そりゃつたわりませんかー……」
「一つ聞きたいんだけど、お前さ
お前んとこの神様の力、使わないのか?」
そう、それが一つ目の疑問と予想。それが今回の異変の首謀者に関わってくるはず。
それにあんなに目をうろちょろさせてたら、何かあるって言ってるのと同じだわ。
「ふ、ふん、魔理沙さんたちには関係ありません!
別にお二人の力を使うまでもない、と思っただけですよ。なんてったって、日頃多忙なお二方なのです、疲れているときにお力を貸してもらうなどとてもできません」
違う。
確信に近い直感で、私は否定する。
力は『使わない』んじゃなくて、『使えない』のだ。理由は分からないけど、この異変が関わっている。そして、それは多分消極的理由のはず。使った場合に都合が悪くなる可能性があるから、『使えない』のだ。早苗の言葉から考えたら、そしてその行動から考えるなら……あの二柱より位が高い……?
「とにかくっ」
突然の大声に思考が切られた。
見れば、件の彼女がこちらを睨み付けてる……けど、顔だちがもともとふんわりしてるからあんまり怖くないのよね。なんというか、子犬がじゃれついてきてるみたいでほっこりする。
そんな私の感情が伝わった訳じゃないだろうけど、赤い感情を表に出して彼女は再び霊力を集中させていく。
「お二方の精神安定のためにも、ここは通すわけにはいけません!
あらたな聖人の力とくと味わって、散ってください!!」
彼女がふところより出でましたるは、スペルカード。
こいつと遊ぶことはそこそこあるから、彼女のスペルは大体覚えている……なんて、気を緩めない方が良いわよね。
視界に映る彼女のカードには一切見覚えがない。さっきいってたのってこれだったのね。しかもあのカード、なんだか変な感じがする。私たちの世界に入れておいてはいけないどこか異質な……。
「スペルカード宣言っ!」
あら、考えてる場合じゃないわね。まずはこいつを落としてから考えましょうか!
上空に向かってカードを飛ばし、早苗はその引き金を引く。その瞬間、暴風のように変じた霊力が空を清浄に荒らす。
思わず細めた視界で彼女はそっと口を動かす。
神人【甦る心像】
どくんっ。
まるで空気が脈打ったかのよう。ビリビリと震え始めた空気にもう一度、
どくんっ
と響く。
すると、あれだけ荒れ狂っていた霊力が一つに収束していった。そこにできたのは……
「なんだ、ありゃ……!」
魔理沙のほうけたような声が響くが、それは私も同じだ。
早苗の頭上、力が集まり顕現したのは巨大な十字架。光の柱、という表現がぴったり当てはまりそうなそれは、それだけでこの空間を支配せんと周囲を圧していた。それほどまでのスケールの代物
でも、とそこで正気に戻る。戻らなきゃならない。だってまだ、攻撃は始まってすらいない。それを見計らったかのように、今度こそその威容が動き出す。
撒き散らされるのは、大量の光。弾状のそれは全方位へ無差別に撒かれ続ける。でも、この程度ならまだ序の口。そして勘が警鐘を鳴らす、これで終わりのはずがない、と。それを示すように光の弾は宙空で留まった。
「ん、なんだこれ。まさかこれだけじゃないとは思うけど、準備としても疎らじゃないか……?」
怪しげにそれを見回す魔理沙。私もそれに同調しようとして――
「魔理沙っ!!」
ばっとその場から飛び退く。来たのは一条の光。
どうやら、今度はレーザーの乱舞かしらね? と暢気に思った瞬間。
伸びてきたレーザーが、光の弾に当たり――弾けた。
まず光の柱が真っ直ぐに延び上がり、ソコから光散らすように大量の弾幕が飛び出す。
「っ!?」
咄嗟に隙間を見つけ、体を滑り込ませた。通りすぎていった光の弾幕と、目の前の光の柱に私は目を剥くしかなかった。認識が追い付かない。
でも、立ち止まってたら解決するほど現実は甘くない。
「おい――来るぞ」
静かに恐れを秘めたその声に振り向く。
覇する十字架から飛び出してくる光の嵐が私を埋めた。今度は順番なんて守ってくれやしない。光の弾も伸びてくる光もいっしょくただ。
「さあ、今度こそジ・エンド。早く私に席を譲ってくださいな、霊夢さん!」
聖人は微笑む。信仰を疑わぬ信徒のように、勝利を確信して。
だけどね、早苗。主人公ってものはそうそう負けないようにできてんのよ。私みたいに強いのは特にね!
「嫌よ、あんたに譲ったら私の席がなくなるじゃない。それに椅子とりは座ってない方はさっさと避けるもんよ? 分かったら、そこから落ちなさい!」
視界を光で埋め、私は明るい地獄へ躍り出る。
「やれやれ、結局いつもお前の方が前のめりじゃないか」
乱舞する聖光を避けていると、私の横に光をかきけし力のある虹がかかる。
即興の橋をわたるは、星と月見の魔女(見習い)。
「そこで提案だぜ、紅と白に黒を混ぜて光を濁してみるってのは?」
「大変結構なご提案ですわ。眩しすぎる照明は落として自然の光でダンスと洒落混みましょ?」
お互いに軽口を叩きあい、すっとその場から後ろへずれる。一瞬あと、光が突き刺さるが残念ながら私たちはもうそこにいない。私たちはちらっと早苗の方を向き、笑う。鼻を鳴らして、もしくは月のように。
そして、それが開戦の合図にもなった。
私たちが前に進むのと同時に、弾幕の密度もさっきより増す。まるで世界中に信仰を届けるように光はまかれつづけ、私たちの軌跡までも潰していく。
それでも私は飛び続ける。障害物の光を上に右に、下に左にと避けながら風を切って飛ぶ。
しかし、そのなかでも次弾は容赦なく降り注いで私を押し潰そうとする。蝋燭に光を灯すように、レーザーが光の柱を乱立させていく。ソコから溢れてくる光によって、私は遂にその場に縫い付けられる。止まっている弾に注意しつつ、高速の弾を避けるなんて、危険すぎてやってられない。ともすれば、私もその光に飲み込まれてしまうだろう……私一人なら。
光に眩みそうで、その場にとどまってしまった私の横をもっと強い輝きが通り抜けた。それは流星。金色の髪を尾のようになびかせ、彼女は宙を駆る。圧倒的な速さで弾を置いていき、あるいは軽妙な箒さばきで、あるいは曲芸のように箒から跳んで。空をキャンバスに、その輝かしい光の粒子を使って空に絵を描いていく。途中の障害など全て避け空へ空へと描き上げていく。
あんただって充分にノリノリじゃないの、落としたがりって怖い怖い。でも、おかげで気合いは入ったわ。
ギラギラと光る檻の中から私は呟き、その大元をキッと目に焼き付ける。
私を縛ることなんて、誰にもできやしない。だから、さあ今度こそ反撃してみましょうか。
ふうっと深く息を吐き出し、目を静かに閉じる。
ぼんやりと開いた視界は奇妙に色が薄い世界を映した。眠る前のように安いでいるのに、意識は研ぎ澄まされているのを感じる。そうしてその感覚に身を委ね、外へと踏み入れる。
一歩踏み出し覆う光を無いように、二歩踏み出し刺す光を横目に、三歩踏み出し溢る光をやり過ごす。
ゆっくりとした歩みだったかもしれない。しかし、私に触れた光は一片もなかった。ゆらゆらと水の上を歩くように私は進む。それは見ている方からすれば一種異様な光景だったに違いない。
そこに弾幕などないように、私は歩む。避ける、避ける。
横から弾ける弾幕のその空隙に立ち。
前から風のように流れくる弾幕の間をすり抜け。
檻と差し込む光は私の影となる。
ただ、避ける、歩む。
気づけば早苗はもうあと10もしない距離にいた。
ただ、進むと言うことは彼女に近づくということであって、すなわち弾幕の密度が更に増し、避けにくくなると言うことでもある。
早苗の位置まで近くなったことで、私の進む早さもグッと落ちる。横殴りに降る光をエアポケットを探すことでやり過ごし――なんてことも次々と吹き荒れる光のなかじゃ無理だ。諦めて、私は極限の集中状態を解き自らの世界に戻る。弾ける弾幕も完全に壁と化していて、強硬で突き抜けるのは無理だろう。ただし、それは私自身の話であって弾幕はその限りじゃない。
さあ、ここまで貯めた私の怒り、存分に味わいなさい?
世界が色を取り戻したその瞬間。カッと目を見開き、懐から針を取り出す。
そして
ダラカカカカカカカカカカッ。。
爆風のように弾ける光のなか、一直線に最速で針を放出する。
連なったそれは硬度を持ったレーザー。
光の壁にあるわずかな隙間から敵を刺し穿つ、私の自慢の一品。どうぞ、骨に刺さるほどご堪能あれ、よ。
でもまぁ、簡単には当たってくれないわよねぇ……。
視線の先には、針を障壁で防ぐ早苗の姿。流石に防ぐので手一杯では有るけど、弾幕は止まってないから私も針を連射するぐらいしか出来ない。攻め手に欠ける私に勝ったと思ったのか早苗が笑う。
だけどね、勝負は最後まで気を抜いちゃいけないのよ。あと、一人にだけ集中するのもダメよ?
星符【ドラゴンメテオ】
「――え!?」
煌めく声が響く。
瞬きするぐらいの時間はあったか。上を向こうとした早苗の笑顔は突然消えた――物理的に。
墜ちてきた虹光の柱によって。
十字架をも消し潰した、その柱の根本を見ると魔理沙の姿が見える。
龍のように食らいつく流星を放つ、それが今使ったアイツのスペルだ。空からマスタースパークを下に放つってだけのシンプルな技だけど、当たってしまえば衝撃を逃げさせられない分ダメージが大きい。そして、他のことに集中してるやつに当てるなんて簡単すぎる、っていうのはあいつの言で今まさに起こっていることでもある。
そんなことを考えているうちに、虹光は収まった。光の粒子がまだ漂うなか、魔理沙も降りてきた。
「うまくいったな」
「ええ、なんとかね」
パシッと手を合わせ、成功にため息をついた。まったく、相手に秘密を隠すのも楽じゃないわ。
作戦は簡単だ。私が早苗の注意を引き、魔理沙が不意をつく。
ただの陽動である。
魔理沙の方ばかり目立って私の存在と同等に捉えられたら危なかったので、ちょっとばかし反則っぽいこともした。でも、ルール的には白よりのグレー、のはず。なにはともあれ、結果よければすべてよし、だ。
少しして、早苗がもう一度上がってきた。
「もー、容赦無さすぎですって、お二人とも……」
頭を押さえて涙混じりに言ってくるあたり、元気そう?でよかったわ。上がってきたときに少しばかりふらふらしていたのはご愛敬。というか、私は関係ないし、そもそも私の前に立ちふさがるから悪いのよ。
「さあて、私達が勝ったわけだしキリキリとはいてもらおうか」
「ええ、もってるモノ(情報)ここで全部出しなさい」
「完全にヤのつく自由業の方の言い分ですよ!?」
うるさいわね、私はさっさとこの異変を終わらせたいの。あんたのせいで余計に時間が食われてるんだから、それくらいの情報提供はしなさいよ。
「うぅ、分かりました。敗残の将は素直に従うのみですよぅ……。
で、結局霊夢さんたちは何を聞きたいのですか?」
「まずは黒幕。異変の首謀者のこと知ってるんでしょ?」
「ふふふ、そうですか。それが聞きたいのですね?
いいでしょう、ならば知らざぁ言って聞かせや――」
「真面目にやって」
「あ、はい」
早苗の目の奥を刺すように見て言ってみると、途端に大人しくなった。
私、コロサレル……?なんて自問自答を繰り返してる緑髪かたを揺すって、現実に返し話を続けさせる。
「え、ええとそうは言っても私もほとんど知りませんよ?」
「予想はついてるんでしょ。さっきの弾幕ごっこのなかでぶつぶつ呟いてたじゃない」
「え、まぁはい。でも、あくまで予想で神様がたに迷惑もかけたくないですし……」
「なら、言えるとこだけでいいぜ。無理強いはしないさ」
「まぁ、喋ってもらってる側だから高望みはしないわ」
途端にポカンとした顔になる早苗。なによ、別にあんたの情報なんか無くても異変は解決だから聞いても聞かなくてもおんなじってだけよ。
私だってそれぐらいは普通に言えるし。
意外そうな顔が少し気にくわなかったけど、早苗は直ぐに再起動した。
ちなみに横にいるやつはにやにやし出したので脇腹に肘を入れてやった。
「さ、話を続けましょ?」
「え。あはい」
「こんの暴力巫女め……」
早苗の顔は若干ひきつっていた。
「ええと、じゃあ本当に確定しているところだけ……。
今回の首謀者はうちの神様たちも畏れさせる存在で、しかもそれでいて……面倒だ、と思われています」
「……それって結構重要な情報じゃないの?」
そりゃ、こっちとしてはいい情報が入った方が嬉しいけどさ。あんまり羽振りがよくても逆に気味が悪くなるのよね。
そんな私の不審そうな目に気付き、早苗は困ったように笑う。
「私は解決してもらえるならその方がいいんですよ」
「へ?」
「私が動いたのは神様たちの不安を消すためです。私じゃ、解決に乗り出したら悪化しそうでしたし」
「異変の首謀者のことを考えたら、か」
「ザッツライト! まさにその通りです、魔理沙さん」
びしぃっとかっこつけて指をさし、目をキラキラと輝かす早苗。
「うちの神様の眷族である私が、簡単にいっちゃえば部下の部下である私みたいなのがその上司に歯向かっちゃえば、神様たちの心証が悪くなっちゃいますから」
そうして早苗は、あははと力なく眉を垂らした。
しかし、そんな表情もくるりと代わり、今度は一転しておどけたように笑って
「えっへへ、でもその点霊夢さんたちなら私が心配する必要は有りませんもの。少しぐらいなら、迷惑を押し付けても許されますよね?」
と言う。しかし、その拳は下の方で不安を表すかのように強く握られていた。
多分、というか十中八九強がりでしょう。でも、
「そうねぇ、誰かさんの頭に拳骨を叩き落とせばそんな気にもなるかもね〜」
笑って、拳を振りかざす真似までしてやった。
目を見開く早苗に、冗談よ冗談、と開いた手をヒラヒラと振る。
私は早苗の変化に気づかない振りをした。だって、アイツの事情なんて知ったこっちゃないもん。無慈悲とか言われたところで、だからなに? 私は自分の都合で異変を解決するんだもの、他のやつの都合なんてどうでもいいわ。
因みに魔理沙は後ろで黙っていた。私の行動にあきれたんでしょうね、品行方正なお友だちで嬉しいわ。
魔理沙が貝になったのを良いことに私は早苗に次の質問をする。
「で、あんたが予想したその首謀者ってのは?
ヒントでもいいわよ」
出会ったら分かるから、別にあってもなくても困らないモノではある。けど、持っとけば便利で早く終わらせるための重要な鍵にもなるはず。簡単には喋ってくれないと思うから、一回で終わらせるけどね。
しかし、そこそこ意外な質問だったのか分からないが早苗は暫し固まっていた。
「おーい、早苗?」
「え、ひゃい!?」
お、再起動したわね。目の前まで寄って、ほっぺを軽く叩くとようやく目に焦点が戻った。
「で、どうなのよ?」
「はい、でもそのままだとあんまりよくないので……ヒントでもいいんでしたよね?」
「ええ」
「じゃあ……道敷大神って知ってますか?」
「え、うん」
「では、黄泉津大神は?」
「? 知ってるけど、それって――」
私が思い出した知識でおかしなところを指摘しようとしたら、早苗はピッと人差し指で私の唇を塞いだ。パチンと目を瞑ると、イタズラっぽく微笑むとそのまま話を続けた。
私がどう思ったかって? ……ちょっとぐらいはドキッとしたわよ。だって、同性でもそれは反則だと思わない?
「答えなくても結構ですよ霊夢さん、次が本当のヒントです」
未だに口を閉ざしていた指をどかし、睨む。
「本当のヒントって何よ。今のは無駄な問答だったってわけ?」
「いえ違います、事前知識の確認ですよっ」
「事前知識?」
私の眼圧におろおろと取り乱した早苗はまったくいつも通りだった。
「ええ、それがなければヒントを出しても分からないですよ?
本当のヒントは
――『その名で呼ばれないとどうなりますか?』」
「名前で呼ばなきゃどうなる……?」
全く意味が分からないわ。そんな名前で呼ばなきゃなんて……。
ええと、黄泉津大神、道敷大神で呼ばない。呼ばないなら、呼べないなら――そうやって呼ぶその前?
……ん、前?
いや、そんなはずがない、そんなのあり得ない!
だって、待って、どういうことよ、神話じゃあソイツは、そんな状態じゃないはずなのに!
もう、手遅れのはずなのにっ!!
急変した私の顔色で悟ったんだろう、早苗はフッとわらうと……
「今の私、ライバルを手助けする憎めないやつみたいなポジションで超かっこよくなかったですか!?」
「この残念巫女っ!!」
「あじゃぱっ」
私が投げたマイクロ陰陽玉は見事な曲線を描き、そのままヤツのおでこに直撃した。点数をつけたいぐらいには見事なフォームだったはず。
ふぃ〜と息をついていると、早苗が赤くなったおでこを隠し、刺すような目で見てきていた。
「あ、あんまりじゃないですか、霊夢さん!!」
「いや、今のは誰も責めないと思うわ」
真面目な雰囲気を完璧に壊してくれちゃって……。おかげで話を続ける気が鳥みたいにどっか行っちゃったわ。
しかし、ソコで諦めないのが早苗クオリティ。
「さすが霊夢さんですよね、人にできないようなことを平然とやってのけるんですもん。
そこに痺れる憧れるぅ!」
「もう一発いっとく?」
ちゃっと、指にはさんでみれば、すぐさま黙る早苗かな。
すちゃっとあげた両手と、今にも零れそうな涙、ブンブン揺れる髪の毛は降参の証。へぇ、小鈴庵の本にあった、パブロフの犬ってのはこう言うことなのね♪
しかし、私の天下はそうそう続かない。
コホンッ
魔理沙の咳が響き渡る。
「で? 満足したか」
『はい、それはもう!!』
いつの間にか、私たちは敬礼していた。いやだって、怖い……もとい、あいつの威圧が半端じゃないんだもん!例えるとしたら、六ボス並の威圧だったわよ。
「と、とにかく!
ヒントはもういいましたから、早くどこかへいってください! 怖いので!!」
いまだに水を湛えた瞳で、本音をさらけ出す彼女はきっと生存に必死だった。まったく、みっともないったらありゃしない__
「そ、そそそうね。
はややくいききましょう、魔理沙」
「冷静なフリして声が震えてるのって相当シュールなんだってことが、今ようやく分かったぜ」
私もだった。
「まあ、いっか。ここから離れるのには賛成だし。
朝いった通り、目星は大体ついてるから迷うことは無いだろうし」
くるくると八卦炉をもてあそび、視線を人里の方に。ここまで来たら、私だって分かる。結構な量が、『統制されて』集まっているのだ。異常性が高いところがあるなら、そこの近くにいることは、もはや決まっているかのように当たり前だ。
私は逃げるようにして、その場から飛び去るのだった。
「あ、ちょ、霊夢!? 置いてくなよ!!
えーと、早苗またな!」
後ろからハイスピードで追いかけてくる味方(てき)に追い付かれないように。
「そういえば、この異変の首謀者。私の知り合いかも、って言うの忘れてました……まあ、別にそれぐらいならどうとでもなりますよね」
緑の巫女はここにいない巫女の少女を想うが、風と共にそれは吹き散らされた。だって『彼女』を心配するのは間違っているのだから。
______
「おい、霊夢」
後ろから聞こえる声に、速度を緩めず返事をする。
「なによ」
「お前、さっき早苗と話してたときに」
「後でもいいでしょ、そんなの」
思わず止まってしまい、魔理沙の方を向く。話を遮って悪いとは思うけど、でもそれはあまりに緊張感が無い話題だ。今、話すべきことではない。
しかし、私の厳しい目を真っ向から見返し、魔理沙は気にせずに軽やかに告げた。
「早苗の強がり、わざと無視したろ?」
はあ、何かと思えばそんなの__
「当たり前じゃないの。私は相手から気持ちを受けとるのも押し付けるのもしたくないのよ、めんどうだもの」
魔理沙の質問にすらすらと答える。今の空のように、私の顔には何も映ってなかっただろう。
すると、魔理沙は、はぁとためいきをついた。
「どうせ、早苗の不安を消すためにやったんだ
「は、はあ!?にゃにゃにいってんのよ!!?」
「お前がなにいってんだよ? ったく、今さら隠したってしょうがないんだよ。早苗だって気づいてるしな」
「……ふん、なーんだ」
誰もいない空を見上げ、私は再び前に進み始めた。
ごまかしたって仕方ないなら先に言いなさいよね、まったく。要らない恥をかいたじゃない。
太陽の光が暑くてうっとうしいけど、私は後ろを振り返らなかった。
「まったく、不器用なやつだぜ」
後ろから無遠慮な友人が一人。
「ほっときなさいよ」
返す言葉にも離れていかない、奇妙な友が一人。
残念なことに私は独りになることも、しばらくは後ろを振り返ることもできないようだ。
はい!
分かってます、分かってますとも!
なので、早速。
遅くなってごめんなさいっ。長くなってすいません!
お知らせしなくて申し訳ございませんっ!!
うう、最近いつも謝ってる気がしますが私が悪いので完全に自業自得なんですよねぇ……(T-T)