それはあった筈の日常。
それはあるべき筈の毎日。
それは居るべき筈の隣人達。
それは消えた風景の光景。
それは最早過去の栄光。
あの日を境に世界は変容を遂げた。あの日、あの場所に巨大な『門』が開いた。起きる筈の無い現象、ある筈の無い光景、あるべき情景……それら全てが一瞬の内に打ち砕かれた。
『門』の向こう側から現れたのは奇怪な姿をした謎の生命体、無機物有機物問わずに侵食し寄生して繁殖する事から『パラミシア』と呼称される事になったそれは突如としてこの世界に牙を剥いたのだった。
現れたその存在を前に各国が幾重にも生み出して来た数々の兵器は全く通じず敗走、敗退を繰り返した。交戦地域となった数多の土地や海域が放棄され、今では殆どの地域が『パラミシア』の勢力下となり人類の活動圏域は徐々に縮小化の一途を辿る。
だが……全滅、絶滅の絶望を前にしても人類は抗い続けた。数多の犠牲を払いつつも辛うじて撃破に成功した『パラミシア』の遺骸を分析、解析しその結果を元にある決戦兵器『ボイド』を作り出した。その兵器を手に人類は反攻作戦を敢行するに至る。だが、その兵器は操るには適合出来ねば扱うに叶わない。
その為、操る事を出来る者達を血眼となって見つけ出して掻き集め対『パラミシア』決戦部隊を設立。人類の命運を託す事となった。
決死の捜索で集められたのは10代の子供達。中には小学生程の幼い子供も交ざっており、適合出来ると言う理由で戦線への駆り出された。余りにも人道に反する行為ではあったが、状況は切羽詰まっていた事もあり民間論は封殺されて戦場へと赴いて行った。
『自分達が人類の希望』
『負けられないなら勝つしか無い』
『戦って、勝つ。それだけ』
決戦兵器を携えた少年少女は『パラミシア』に対して交戦を続ける戦場を駆け抜けた。だが、その戦場は過酷で苛烈であった。その最中で、力尽きて死亡する者達も少なくなかった。身体をバラバラにされた者、融解して死んだ者、食い千切られて死んだ者。幾重にも仲間の屍を踏み越えて子供達は戦い続けた。その最中にも適合出来る者達が現れる。中には1年前は検知されず、今年になって適合出来る事が分かる場合もあった。
そして——。
「「「「…………」」」」
『門』が聳え立っている。見上げる限り1番高い場所が見えないくらい巨大な門が……。その門を見上げている少年と3人の少女が居た。その側には仰々しい迄の兵器を携えている。
人類の反攻作戦は最終フェーズに辿り着いていた。ボイドを携えた少年少女達の活躍と犠牲を繰り返して元凶である『門』の眼前にまで戦線を押し上げる事に成功した。此処まで来ればあともう一息……この『門』を閉じる事が出来れば、『パラミシア』との戦争は終息する。
「……ち、近くで見ると予想よりも大きいです」
「遠くから見ても、充分見上げる程に大きかったんだから近くで見りゃ大きくて当然でしょ」
「*****。どうするの?何時、動けば良いの?と言うか指示は?」
「……ダメだ。無線がイカれた。コレは最悪の事態を想定しないとダメかな」
3人の少女が少年の方に視線を向ける。少年は無線機を弄っているが、ノイズしか返って来ない。
「え、えっと……それはつまり……?」
「僕達以外の部隊が全滅したかも……この無線機、他の部隊の通信も拾っちゃう程の安物だからさ。何時もなら何かしら声が漏れて来るんだけどさ……」
「今迄、そんな安物を使っていたの?」
「ケチられたわね。まぁ、私達は結成して1ヶ月も経たないL班……新兵ばかりの部隊は捨て駒同然、と言うのは笑い種だけど現実的な話ね。何せ、戦争は末期だもの。居ても居なくても大して変わらない、そんな所かしらね」
基地の方針には何人かは不信感を抱いていた。開戦黎明期から訓練も陸にせずに戦場に送り出して戦死者を出したり、余りにも無謀とも言える作戦を敢行したり……刺し違え前提のカミカゼを実行したりと枚挙に暇が無い。
「どうする? 敵の数が数だろうし……逃げる?」
3人の中で1番の長身な少女はカラカラと笑いながらそんな提案をする。
「逃げてどうすんのよ? パラミシアと基地の人間から逃げ回って生活する気? 逃げるなら、後の事も考えて言ってちょうだい」
眼鏡を掛けた金髪の少女が呆れた体でその提案の不備を突いた。
「み、皆さん……死んじゃったのでしょうか……?」
そして、最も小柄な少女は遠くに見えて立ち昇る煙を見て慄く。
『此方司令基地。A〜C班が全滅した。生存している部隊は状況を報告せよ』
その時、無線機のノイズが途切れ基地からの無線が繋がる。だが、内容は凶報と言える内容だった。
「A班とか……主力部隊がくたばったって? あーもう、厄介な置き土産をして死んでんじゃないわよ……‼︎」
「此方L班。全員、生存」
『……生存報告があるのはL班のみか。指示を出す、良く聞け』