地方都市に駒王町と言う町が存在している。其処は京都府の京の様に盤上の如く整然とされた舗装された道路に連なる街並みが広がっている。その景観は見事としか言いようが無い、然も自然とそうなったのだから只々、見事だ。
さて、その駒王町のほぼ中央には私立駒王学園と言うある筋の有名な私立名門校が存在して居た。広大な面積を誇り町内ドーナツ化現象も起こって居た為に土地を新たに購入してその敷地を広げた文字通りのマンモス校。
幼稚舎から大学までのエスカレーター式の一貫校でもあり、在籍する生徒は美人偏差値が極めて高い事でも有名だった。中には本当にお嬢様も含まれて居たのでその筋では有名だった。元々は女子校であったが共学化し男子生徒の受け入れを開始して翌年、新たな一手が投じられた。
上流階級の子女。即ち『お嬢様』の学科とメイドやバトラーを若い内から育成する『執事』の学科を新たに設けられた。上流階級の子女と言う事は一般庶民は高嶺の花の存在。偏差値よりも家柄や容姿を求めると言うトンデモ基準の『貴育科』と文字通り使える側を育成すると言う相対的な『従育科』。
この形で駒王学園には従来の普通科に加えて貴育科、従育科の三科となっての再出発はある種の話題となって全国に広まったと言う。
ただ、教育方針の違いから新2年生以降の普通科の生徒から貴育科、従育科には転科出来ない事になっている(一からとなり留年になる事を考慮された為)。
そして貴育科は上述のトンデモ選考基準で男子も受け付けるが、従育科は家柄不問に加えて入学金と言った学生納付金、寮費と言った費用が全て無償と言う私立校としては凄まじい程に異例と言う他に無い待遇だ。しかしながら、従育科には従者と言う観念から留年と言う概念は存在しない厳しい基準がある。
と、言う概項が今日まで見聞きした祟紙 和奏が把握している駒王学園の情報であった。情報源はパンフレットやTVの情報、他には偶然聞いた話。
「…………」
駒王学園は元々は西洋風嬢様学校で共学科して更に上級貴族学校フル全開に家政学校を打ち込んだ経緯と言う異例過ぎる学校。その為、普通科の校舎と貴育科、従育科の校舎が新たに建設された為に正門が2つ存在している。そして、和奏は今、普通科とは反対側の校舎の正門の前に立って居た。
——……臆しても仕方ないよな、うん。よもや、こんな所に来る日が来ようとは思って居なかった……しかし、今更後には退けないな。
心の中で溜息を吐きながらも正門を潜り抜けた和奏。振り向けば正直、来る場所を間違えたんじゃ無いかと思う程の仰々しい迄に巨大に聳えるは城塞の門かと見間違えそうな代物。いや、本当に城塞から其の儘、失敬して来たのかとツッコミを入れたい。万が一の時は砲門が開き地下から装甲車や戦車、或いは軍隊が出撃する光景が脳裏に過ぎる。つか、戦争だそれは。
「……校舎に行く前に目眩で斃れそうだ。コレは」
お嬢様学校(元)からお嬢様学校(ガチ)に再誕したとは言えどやり過ぎな光景が現在進行形で広がっている。
童話の世界に迷い込んだかの様な風景が只管に広がっている。遠くに見えるは本校舎は西洋風の城塞か宮殿かと見間違うかの様に荘厳な建物が聳えており言われなければ学校の校舎とは思えない。素直に大富豪や財閥や資産家の家と言われた方が納得出来る。と言うか正門から遠くに見える時点で色々な意味でツッコミを入れたい。広いと言うのも中々、考え物だろう。
短く刈り揃えられた芝生の上に混凝土の代わりに煉瓦張りの遊歩道が走られ街路樹が点在している。所々には休憩用のガゼボが設けられているのが見える。どう言う機会で使うのか考える気にはなれないが。
他にも見えたのが大型の噴水。その周囲には百花繚乱の如く咲き誇る花壇の群、花園だと言われても納得出来る規模の広さであり敷地内の一部でちょっとした植物園をぶち込んでいる様に見える。更に視界を切り替えれば教会か大聖堂と言われても可笑しくない荘厳な建物も併設されている上に時計塔も見えた。
「……ヤバい、頭が痛くなって来た」
映画やアニメの世界なら『ほー、そうなんだ』見たいなノリで観られるのだがコレが現実として眼前に君臨されると眩暈を覚える。総括すれば何処ぞのテーマパークの様な光景が広がっており上流階級の子女達は見慣れてて当然だと言えるのだが、元々は庶民派な和奏から見れば既に胸焼け寸前だった。
和奏は自分自身でも不釣り合いだと言う自覚はある。バトラーと言えばオールバックにモノクルが似合う整然とされた容姿……それが一番思い浮かぶ若い執事像。自分はそんな風貌とは程遠い、仮にそんな格好をしても馬子にも衣装とは笑われても文句は言えまい。
——……最低でも3年間は此処で生活するんだよな。学費とか諸々、免除の話を聞いて入学を決めた……彼処まで好条件は早々ないしな、自分の為でもあるから、蹴る訳には行かない。
寮は敷地内に存在している。普通科は兎も角、貴育科と従育科は完全な全寮制。つまり、寝ようが覚めようが時代錯誤甚だしい光景を嫌でも見せつけられ続ける事を意味している。
「……これ以上、文句を言うのも野暮か」
——金は掛からない。その上に衣食住も確保出来る……それにこう言う世界を知って置くのも悪くは無いと意識を切り替えれば将来的には有用だ。流石に面食らうけど。
肩に担いだバックパックを担ぎ直して歩き始める。一先ず行動しなければ話にならない。取り敢えずは校舎に向かう事にした。
「……遠い。普通に遠い」
正門から入って来た時から薄々、分かっていたが校舎までの距離が余りにも遠過ぎる。そりゃ寮が敷地内にあった方が良いんじゃね?と認識を改めた。寮が敷地外にあったら始業前の2時間前に出なければ間に合わなかっただろう。
「……うげ、近くで見ると殊更デケェ……‼︎」
本校舎を見上げる。本当に城か宮殿だと言われても納得出来る程の巨大さであり普通、私立の学校でも精々高くて4、5階建てだと言うのにこの校舎は軽く10階建ては行くだろう。それに地下階を設けられても驚かない自信が持てる。
「……この辺りで迎えが行くとか言っていたんだがなぁ」
——アレ、コレはもしかしなくても不審者だと間違われても可笑しく無いんじゃ無かろうか?
そんな不安が脳裏に過ぎるも入学試験が終わったその時、速やかに合否が言い渡された後、『指定した時間に本校舎前で案内役の人が来るので一緒に行動して下さい』と言われた。その時間には後、10分位経てばその時間に差し掛かる。
「……」
メルヘン世界全開の城の前で挙動不審の男子高校生……うん、普通に怪しさ全開である。寧ろ通報されても可笑しくない程に環境から浮いていた。
「あの、祟紙 和奏さんですか?」
「⁉︎」
突如、後方から声が聞こえ思わず身構えつつ振り向いた。其処に立って居たのは駒王学園の貴育科の制服を身に纏った女子生徒であった。
その女子生徒はアルビノの様に白銀に煌めく長髪を後ろに垂らして居る。可愛いと言うよりも美人だと言う形容詞の方が似合う、薄幸の美少女と呼べるほどに整った容姿をしている。恐らく100人が100人、お嬢様だと評するだろう。
「……其処まで大仰に驚かれると此方が驚いてしまいます」
和奏の反応を見て少し困った様な顔をされた。確かにそう思われても仕方がない反応をしてしまった。
「い、いや……すまん」
——何時、現れたんだ?
和奏がその様に反応したのも仕方がない。何故なら全く気配がしなかった上に後ろには誰も居なかった筈なのに忽然と現れたのだ。
「重ねてお聞きしますが……祟紙さんでお間違い無いですね?」
「あ、ああ。自分が祟紙 和奏だけど……迎えってのは」
「はい。この度、貴育科の初代生徒会長に就任した龍瀧 耀靏と申します。あ、貴方と同じ新一年生です」
新設された科の初の生徒会長、入学間も無く生徒会長とは言うが駒王学園は幼稚舎からある為に内部進学と考えるならばあり得ない話では無い。
——貴育科……か。
従育科と貴育科。細かい詳細は分からないが従育科は従者の側。態度には気を配った方が良いかも知れない。
普通科とは隔絶されて居るのだろう。その辺りは外部からではまだ分からない。
「ふふっ、そう身構えなくても大丈夫です。寧ろ……自然な形で接して頂けると助かります。変にぎこちない口調の方が返って不自然ですよ?」
此方の内面を見透かしたかの様な言葉を賜る。其の儘、絵になる様な優雅な足取りで和奏の前に向き直る。
「一先ずようこそ、駒王学園従育科へ。まず最初に貴育校舎の案内をしましょう」
思わず胸の高鳴りを覚えそうな笑みを浮かべて彼女、耀靏はそう宣言したのだった。