果てしない程に清白な空間が辺り一面に広がっていた。
「……あん? 何だ此処は」
足の感触から床の存在は確定。しかし壁や天井が把握出来ない。まるで何もなく真っ白な限りの空間が広がっている。遠近感が狂いそうだ。
——……随分とまぁ小綺麗な空間だな。此処が死後の世界って奴か?
自分は別に宗教関連に傾倒した記憶は無いが人は『死後の世界』をアレコレ考察して来た。宗教絡みとなるとそれだけ『死後の世界』が考察されていた。地獄、天国、ゲヘナ、煉獄、エデン、魔縁……。
だが素人目線で言えば共通して暗いか明るいか、苦痛があるか無いか、と言った所だろう。しかしながら、死んだ癖に現実と言うには語弊があるが現に見える限りは『白い無』が正解なのかも知れない。……最も考えた所で無意味だ。
「何も無いなら無いでそれは退屈だな。退屈は最大の苦痛とは良く聞くが……こうなると天国や地獄の正体は永遠の退屈って結論になるか」
成程、それは理に適っていようか。【罪】や【善悪】の概念は所詮、人間が分けて認識したに過ぎない。元々はそんな概念は無かった。知識を得た代償みたいなモノだろう。
——最も来世があるかどうかも分からんし、死んだ後の記憶なぞある筈も無いだろう。何れは自我も崩壊するんじゃないかね。
「いいえ、此処は天国でも無ければ地獄でもありません。ただ、現世とは隔絶された場所でもある事に変わりはありません。既に貴方は死んでしまっているのですから」
その時、気付けば目の前に小柄な体躯の少女と思わしき存在が立っていた。状況的に少なくとも人間の少女とは思えない。……人間とは思いたくない連中ばかり見てきた所為か、驚く程では無かった。驚いた所で仕方ないと言う諦観もある。
「へぇ、だとしたら死後の水先案内人って奴か?」
「……違います。簡単に貴方に分かる言葉で言えば【神】……と呼ばれる存在です。最も、貴方が生きていた世界とは似て非なる世界、となりますが」
「【神】、ねぇ……。そのカミサマとやらが何の用だ?」
——死後に神に遭うなんてな。■■■とかが好んでいたラノベみたいな展開みたいだな。
「単刀直入に言います。転生、して頂けませんか?」
「転生、ねぇ。チープな展開だな。俺はやって来た事やその因果で死んだ事に後悔なぞしてねぇし、馬鹿みたいに
「え?え?あの、その……」
乗り気では無い彼に自称神は狼狽える。想像だにしない反応に困惑しているようだ。
「その様子だと他にも
「……ッ」
その言葉に自称神は言葉に詰まった。
「……何人も送り込むも失敗している。その
彼は自称神の反応を見てそう自論を述べた。『勘違い』、と。そも、どう言う理由でこの自称神が選んでいるのかは知らないし興味もない。
「勘違い、ですか?」
「そもそも、お前の言う転生ってのは輪廻転生か?或いは永劫回帰か? 個人的には永劫回帰を支持するがね」
「え、えーと……」
彼の『生命の生まれ分かり』に関する論を投げつけられるも自称神は答えられなかった。まさか、そんな難解とも言える言葉をぶつけられるとは思わなかったからだ。
「……ま、幾らご高説を並べようと所詮は人間の妄想、幻覚、錯覚に過ぎない。お前さんは俺の無意識下にて
今まで見聞きした『観念』『概念』『情報』が乱雑に組み合わせたモノ、それが目の前の存在の正体だと断ずる。自称神だとは言うが構成する概念を分別すれば自ずと見聞きした事のある事項の羅列に過ぎない。
「それは無象有象に跋扈していた、くだらない記憶の一部を乱雑に組み合わせただけの存在だ。……何故、死後にも知覚の存在があるのか証明のしようが無いが、この世に【神】なんてモンは居ねぇ。それこそ、人間が生み出した幻想だ」
——第一、アレで昏睡状態なんてご都合主義も出来過ぎだ。死んだと断言出来る死に様だからな。
彼はそう言い背を向けて歩き出す。行き先なぞは無い。何も無い虚無に等しいこの空間で出来る事などありはしない。
「ちょ、ちょっと待って下さい‼︎ 私は妄想の産物でも無ければ幻覚の類じゃありません‼︎」
自称神は回り込んで静止を呼び掛ける。放っておいても見失う訳では無いが、話が出来ないままでは困るからだ。