『世界初の男性操縦者、現る‼︎』
そんなデカデカとした見出しと共に1人の少年の顔写真が映し出される。何の変哲も無い日常に投げ入れられた波紋。興味を持つ事も無ければ気にする理由さえも起きる事も無い。人々から見ればテレビの新聞紙のニュースのラジオの先に佇む住人でしか無い。だが当事者になった時、人はどの様に動くだろうか。或いはその住人はどうするのだろうか?
——睡眠から目覚めてバイトを熟して日銭を稼ぎ生きる事に必要なモノを買う。死ぬまで続くのだろうとそう考えていた……しかし、この世に神がいるのであれば思わずバラバラに解体したくなる衝動に駆られる。
「如何してこうなった?」
見渡す限りの女の群。此処まで高い女子率を誇るとなれば壮観と言う他無い。悪い意味、と言う前置詞が付くのは言うまでも無いだろう。それは少年からすれば正しくその通りの光景となり得るのだから。
『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』。その存在の登場により世界が変貌したと言うのは言い過ぎかも知れないが少なくとも社会環境は激変したと言って良い。ISは女性にしか使えない。故に男よりも女の方が優れている。その様な認識が生まれ感染爆発の様に広まり今ではISとは無関係な人間さえもが傲るようになった。生まれた子供が男子だったら出生届を放棄したり結婚しても金だけ毟り取って離婚が相次いだり、企業であれば理不尽なリストラにさえ遭う。共学の学校でさえ不都合な事が起これば男子生徒や児童をでっち上げの理由で放学処分が横行する事となる。そしてその者達に狙いを定めた悪徳な商売も又、横行する事となった。
そして、女性権利団体が生まれIS委員会が生まれ女尊男卑が生まれたこの時代。平和と呼ぶには陰陽が極めて大きく現れるだろうこの時代。正式名称『インフィニット・ストラトス』……それは女性にしか使えない代物だと思われて居た……そう思われて居たのだ。
だが、現れてしまったのだ……。
男性でISを起動出来る人物、織斑 一夏と呼ばれる人物が。一夏の登場により世界は騒然となり各国政府は主催で織斑 一夏以外にも起動出来る者がいないか一斉検査を行う旨を発表したのである。その結果、2人目なる者が現れたのである。
——ったく、面倒臭い事この上ない環境だよ。周りが女だらけってのは中々、壮観な光景だろうな。
「はい。皆さん揃って居ますね? まず初めに入学おめでとう御座います」
教壇の上から声が聞こえて来る。教師と言うには背伸びした中学生にしか見えない眼鏡巨乳の女が語り掛けている。興味が無いと言えばその通りだ。本当に興味が無い……それが、少年の抱いた感想であった。長く黒い髪にインナーカラーが青と言う髪を後方の背中にまで伸ばしている。それは男子としてはかなり珍しい髪をしている。
「それでは皆さん、順番に自己紹介をして下さいね」
その言葉の後、1人、1人、自己紹介を続けて行く。誰1人の名前など聞き流して行く……ああ、億劫極まりないと言えばそうだろう。その時、名乗りの声が止まる。どうやら誰かで止まっているのだろうかと視線を向ければどうやら最初に発見されたIS男性操縦者クンの所で止まっている様だ。
まぁ、野郎からすれば女の群に放り込まれて冷静を装える奴は余程の厭世家かレインボーな頭脳の持ち主か或いは鋼鉄の精神のどれかだろう。教員が語りかけるも反応が無い……どうやら初心らしい……さもありなん。このご時世で手慣れている奴は遊び人程度と言える。
「織斑君、織斑君‼︎」
「え、あ、は、はいっ⁉︎」
「えーと、自己紹介、次は織斑君の番ですので、自己紹介をお願いしますね?」
もはやお願いのレベル。そう言われた織斑と呼ばれた少年が挙動不審ながら立ち上がり口を開いた。
「織斑 一夏です‼︎」
——声は大きいな……。
「以上です‼︎」
——清々しい迄な打ち切り自己紹介。まぁ、日本人は自己紹介なぞ苦手だものな。仕方あるまいと言いたいが周りの連中は想定外と感じたのかズッコケ気味な反応だ。芸能界にでも行きたまえ、何、三流からならばスタート出来るだろうからさ……最も、女尊男卑思想なら、相当苦労する事になるだろうな。
「貴様は自己紹介もマトモに出来んのか馬鹿者が‼︎」
「うげ、ジャッジメントヘッド⁉︎」
「そのネタ、誰が分かるんだ馬鹿者‼︎」
「痛ってぇ⁉︎」
——突如、姿を現した長身の教師が織斑に対して出席簿でブン殴った。おー、痛そうだな。そして響き渡る歓声。此処はアイドルのステージか何か……つーか、あの暴力教師は教員に関する法律とか知らねぇのかよ。封建的な思考回路しているんじゃ無いのか?じゃなかったら普通に懲戒免職になっているぞ……。
「静かにせんか‼︎ 全く、ロクでも無い面子ばかり集めてからに……。山田先生、朝のホームルームを任せてしまいすみません。会議が想像以上に長引いてしまいまして……」
「いえ、副担任ですから」
「諸君。私がこの1年1組を担当する事になった織斑 千冬だ。ISは使い方次第で大怪我をする事になる。指示を良く聞き、質問があれば必ず聞くように‼︎ 返事ははいかイエスだ‼︎」
——おー、此処は何処かの軍属組織か。いやISなんて兵器を使いまくっている学校が軍学校では無い筈が無いか。にしてはカジュアル過ぎる気がするのは気の所為か?別の意味で面倒臭い事、この上ないんだけどなぁ。
「……時間も押している。もう1人、男子生徒がいたな。間違っても其処のバカと同じような自己紹介はするなよ?」
——バカの様な自己紹介ねぇ。生憎と男と女の自己紹介には差ってモンがあるだろうが……。
「……時間も押している。もう1人、男子生徒がいたな。間違っても其処のバカと同じような自己紹介はするなよ?」
——バカの様な自己紹介ねぇ。生憎と男と女の自己紹介には差ってモンがあるだろうが……。
高圧的な教師の言葉に半ば呆れながら少年は席を立つ。織斑の席は最前列中央と言う針の筵に等しい場所に対して2人目の少年の席は窓側最後列と言う目立たないと言えば正しくその通りの場所に位置している。
「龍瀧 和奏。現在、フリーのベーシストだ。ぶっちゃけると音楽以外に殆ど全く興味が無ぇ……。ま、そんなトコ」
そう自己紹介した直後、自己紹介した和奏へ目掛けて丸められた出席簿が砲弾の如く飛来。顔面に直撃するかと思われた瞬間、首を捻って軌道から逸れて回避(外れた出席簿は後方の壁にぶつかって床に落ちた)。
「……私、言ったよな?其処のバカと同じような自己紹介はするな、と。然も、興味が無いとかいけしゃあしゃあと良く言えたな?」
「……寧ろ好きになるとでも?此方の都合、ガン無視して同意も無しにやって理解されると思ってんのかよ?それとも、此処は学校と銘打った軍事学校か何かか?」
売り言葉に買い言葉。和奏と千冬の間で不必要な諍いが燻り始めた。然も相手は世界最強の座を勝ち取った人物。その人物相手に喧嘩売りの啖呵を切っており、クラス中はハラハラした面持ちで様子を見ている。
「…………何だと?」
「返事に拒否権が無いと言う以上、アンタの独裁政権の教育法……今時、封建的な思考回路は教育関連的にもアウトだろう。アンタ、本当に教員?教官の間違いじゃないのか?」
ズケズケと本来ならば本人相手に言えない言葉を和奏はぶつける。確かにそのような言動をすればそのように受け取られても不思議では無いだろう。
「……ISの扱うにあたり危険が伴う。生半可な扱いでは大怪我をするぞ」
「其処は想像付くが……俺は興味が無いね。野郎は1人居るのであれば問題無いだろう?」
それはサンプル対象は織斑が居れば事足りる。和奏はそう言いたいのだろう。何気にシレッと他人を売り飛ばしている。
「……ああ言えばこう言う奴だ。この状況は決定事項、覆す事は出来ない。全く……今年は面倒事が良く重なる……中々、言う事を聞かない奴が多い事だ。然も2人目もその類にあるとなれば余計に面倒だな」
——言ってくれるわ。まぁ、実際問題どうでも良い。と、ん?
学生机の支柱の隙間に1枚の紙が挟まっている事に気付く。千冬及び周りの生徒からは気付かれない様にその紙を開く。
——『次の休憩時間。学園島の西側、プレハブ小屋前にて待つ』だぁ?
その時、休憩時間を告げるチャイムが鳴り響いた。休憩時間ともなれば男子生徒が気になる女子生徒が大手を奮って接近する絶好の機会となる。学園内はほぼ全員が女子生徒、捌き切るのは困難と言える。
——……手紙の差出人はてんで想像つかないが……行かないとそれはそれで面倒臭い事になりそうだな。女子生徒の中には面倒な女尊男卑連中も交ざっている可能性があるので悪いが出来るだけ相手にしない方が良いだろう。
そう考えた真紅郎は手紙の差出人である人物の元へ向かうべく近くの窓から外へと飛び降りて追手を早々に撒くのであった。
休憩時間。置き手紙の様に挟まれていた紙に書かれていた場所。IS学園島の西側に位置する庭園。其処には竹林が形成されていた。国際的な理由が付随するIS学園は本校舎群には独創的だが特色のあるモノは見受けられない普遍的な構造をしている。
「西側と言う事は……この辺りか?と……アレか?」
校舎群がある東側とは違い西側は自然区域が広がっている。その一角、自然区域内でポツンと違和感のように佇んでいるプレハブ小屋が見えた。その前に見覚えのある人物が立っていた。
「……久しぶり、ですね。和奏」
プレハブ小屋の前に立っていたのは真っ新な長い銀髪の髪を靡かせた美少女と言っても差し支えない程の容姿を有した人物であった。
「……魅空。何で、此処に居るんだ?と言うか、芸能事務所はどうした?」
——白金 魅空。中学生で国民的な人気アイドルでカリスマ的な存在……幼馴染であったが芸能界で忙しくなるに連れて疎遠になっていたんだが。
「……アイドルは辞め、芸能界を引退しました。理由は聞かないでください」
そう言う魅空の言葉と表情には陰りが見えた。本人がそう言うのならばきっとそうなのだろう。
「……つーか、呼び出したのはお前か?」
——事前に手紙を仕込むとか随分とまぁ、古典的な方法をして来たな。
「ええ、既に皆、集まって居ますよ」
魅空はそう告げるや否や、後方に佇むプレハブ小屋の扉を開ける。その『皆』の言葉に違和感を感じるも和奏は後に続いて中に入る。
「……ジャンクフードばかり食べて居たら腹、壊すよ。全く……引きこもりの世話は疲れるな」
「……健康食……問題、無い」
プレハブ小屋の中は、色々なモノでごった返していた。狭い部屋の中にアチコチに配線が犇いており、多数のモニターが壁際に置かれており如何にも引き篭もってゲーム三昧の毎日を送るネトゲ廃人の様な人間が巣食う部屋に見える。
「……レン、リリアナ。やっと和奏が現れましたよ」
——現れたとか言うなバカ。つーか、お前らこそ、此処で何しているんだよ……。
プレハブ小屋の部屋にて積み上げられた書籍の塔の上に座る赤メッシュの少女と、カスタムされたキーボードの前に齧り付いている癖毛が多い少女の姿を見て和奏は呆れたかの様な溜息を吐いた。
「……レン、リリアナ。やっと和奏が現れましたよ」
——現れたとか言うなバカ。つーか、お前らこそ、此処で何しているんだよ……。
プレハブ小屋の部屋にて積み上げられた書籍の塔の上に座るストレートヘアに赤メッシュの少女と、カスタムされたキーボードの前に齧り付いている癖毛が多い少女の姿を見て和奏は呆れたかの様な溜息を吐いた。
「……和奏。久し振り……まさか、こんな形で再会するとは思っても居なかったね」
——白石 レン。幼馴染の1人で、引っ越しを境に連絡先も分からず疎遠になってしまった。まさか、此処で再会するとは思っては居なかったな。
「聞いたよ。初日から教師に噛み付いたってね?昔と全然変わってないな、そう言うトコロ」
「五月蝿ぇよ。俺の勝手だろうが……」
「……うー?和奏……?カップ麺かお菓子頂戴」
「お前はソレばっかだな。つーか、どっちも今、持ってねぇよ」
「ケチ」
「ケチじゃねぇ……この要介護5」
「ケチ」
「だからケチじゃねぇよ‼︎」
——宵崎 リリアナ。重度の引籠り……いや、生産的な引籠りと言えば良いがネット依存症の大馬鹿……まさか、此処に居るとは想定外だ。
龍瀧 和奏、白金 魅空、白石 レン、宵崎 リリアナ。この4人はお互い幼馴染であったが、諸事情で離れ離れになっていた4人が偶然か必然か、此処に集まっていた。
「……と言うか、何でお前ら
「……皆、似た様な理由ですよ。正直な話、余り気乗りはしませんけど……」
「そんなのIS適性検査に引っ掛かったからじゃない」
「そう言う和奏は……?と言うか、2人目ってどう言う事?」
「そんなの俺が聞きてぇよ……いや、本当にさ」
共通点としては昔、中学生だった当時この4人でバンドを組んでいたと言う事。活動期間は僅かであったがお互いの歯車が噛み合っていた。しかし、魅空がアイドルデビューし、レンが引っ越し、リリアナが引籠り始め、疎遠になったのであった。
そして『IS適性検査』が遠因となり再び、再会したのであるが、全員が全員……IS絡みには興味を持たない面子揃いであった。
「……でも、こうして再会出来たのは嬉しい事だと私は思う」
「ええ……2年ぶりに再び相見えた。お互いバラバラの道を歩んでいた……その道が丁度、此処で繋がった……運命と言えば陳腐な表現でしょうか?」
——陳腐、ねぇ。確かにその通りかも知れないな。
「……ふふん。こんな偶然を運命と言わずに何と言えば良いのよ。こうして集まれたんだしさ……再結成しちゃう?疎遠になって自然消滅しちゃったんだしさ……‼︎」
4人で組んでいたバンドユニット。幼馴染で結成されなバンド……。
「……俺は構わない」
「ええ、皆集まれたのだから、もう一度私達の時間を始めましょう」
「……私も、皆とならば良い」
全員が乗り気であった。再び結成されたバンドユニット。2年越しの再会……。