ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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戦の恩賞

「ええ、このたびの戦はまさに青天の霹靂じゃった。前“ガリア”王ジョゼフの陰謀から始まった戦は、“ロマリア”のみならずこの“ハルケギニア”を灰にしようかという、とんでもないモノであった」

 オスマンの声がホールに響く。

 ここは“魔法学院”本塔2階の舞踏会ホールである。

 着飾った生徒達が、神妙な顔でオスマンの言葉に聴き入っている。

 突然、“ロマリア”と“ガリア”の間に先端が開かれた時、彼等は恐怖した……“アルビオン”との戦は終わったばかりで、祖国はなんとも疲弊している状況であるためだといえるだろう。

 戦争など当然できる状態ではなかったのである。

 もし、このような時に狂王が率いる“ガリア”に牙を剥かれてしえば、あっと言う間に攻め滅ぼされてしまうに違いない……そう、皆想ったのである。

 だが、それは杞憂に終わった。

 “カルカンソンヌ”に於ける戦闘で、ジョゼフ王は戦死。電撃的に新たな女王が即位し、戦は終わったのであった。

「我々は恐怖した……灰になるのは堪らん。もう少し長生きしたいじゃないか。灰になったら、女性の臀部を愛でることもできん。そんなのは堪らん。実に堪らん。君達だって、嫌じゃろう?」

 会場は静まり返る。

 オスマンは、コホン、と咳をすると、言葉を続けた。

「だが! 神は我々を御見捨てにはならなかった! 狂王あればまた“英雄”あり! 狂った陰謀あらば、遮る正義の鉄槌あり! 彼等の存在が、狂王の野望を打ち砕いたのじゃ! 更には、犠牲者がジョゼフ王とその“使い魔”のみと言う奇跡も起こしてみせた!」

 生徒達は、ゴクリ、と唾を呑んだ。

 そう……その勝利に貢献したのは……。

「そう! その狂王の馬鹿げた妄想は“英雄”達によって喰い止められた! 皆の良く知る“英雄”達によってじゃ! さて! ではそんな勇者達を紹介しよう!」

 オスマンの後ろに在る緞子が、合図によって下ろされた。

 生徒達から、割れんばかりの歓声が沸いた。

「彼等こそが“ハルケギニア(世界)”を救った勇者達じゃ! “水精霊騎士隊(オンディーヌ)”と、“始祖”の巫女達、そして“アルビオン”の女王とその“使い魔”じゃ!」

 そこには、正装した“水精霊騎士隊”と、ルイズとティファニア、そしてシオンと俺がいた。

 生徒達の中から、「わぁあああああ!」、「“水精霊騎士隊”万歳!」、「“トリステイン”万歳!」、「“アルビオン”万歳!」、と大きな叫びが沸いた。

 そんな叫びの中、並んだ少年少女達は誇らしさと照れ臭さなどで顔を赤らめる。

 “魔法学院”の生徒達は、自分と同じ学生の騎士隊が、このたびの“ガリア王継戦役”でどれだけの功績を上げるたのかが十二分に知らされていたのである。

「良いか学生諸君。彼等は初陣にも関わらず、大活躍を為たのじゃ。諸戦、“虎街道”と“カルカソンヌ”で強力な“ゴーレム”の部隊を粉砕為た件。“リネン川”の中洲での華やかな一騎討ち。そしてジョゼフの強力な……“エルフ”の“先住魔法”を利用為た巨大な炎の玉……“両用艦隊”を吹き飛ばした超巨大炎玉を止めたのも、彼等の活躍のおかげという話ではないか!」

 更に歓声が轟いた。

 こたびの戦での、“水精霊騎士隊”達の奮戦……特に才人や俺達の活躍は、彼等の耳に十二分に届いて居た。

 これほど鮮やかに、1人の騎士、1個騎士隊の活躍が戦を勝利に導いた例は、“ハルケギニア”の歴史の中で1つもといってもよいほどである。その上、“ガリア”の女王に即位したのはつい先日まで自分達と机を並べていたタバサという話である。学生達は、どのようなドラマがあったのかまでは知らないが、同じ学院の生徒である“水精霊騎士隊”達が、その即位に何らかの関係を持っているということだけは、理解した。

 華やかな……綺羅びやかな戦果の数々。

 そして大国“ガリア”の女王即位に関係しているやんごとなさ。

 “魔法学院”の生徒達は、そんな“英雄”と同時代、同じ場所で学ぶことができる喜びなどに打ち震え、感激しているのであった。

 俺達は、戦勝の地“カルカンソンヌ”から“ガリア”王都“リュティス”迄新“ガリア”女王シャルロットを、“ロマリア”軍と共に護衛して入城した。

 “ガリア”市民は盛大な歓声をもってこれを受け入れた。

 その後、アンリエッタを首都“トリスタニア”へと送り届け、無事にこうして帰還して来たのである。

「“水精霊騎士隊”万歳!」

 オスマンは、そんな少年騎士達や俺達の前へと立ち、次々にポンポンとその肩を叩いて祝福した。

「うんうん。儂はな、諸君等が自分のことのように誇らしいぞ。何せ、君達はこの儂! “魔法学院”学院長のこの儂が手塩に掛けて育てたのじゃからな……うんうん」

 満足げに、オスマンは首肯きながら、祝福する。

「君達は儂が育てた。うんうん」

 少年騎士達や巫女達は、顔を見合わせた。(いや……確かに学院長は学院長だけど、何か教わったっけ? ちゅうか育てられたっけ?)とそのような顔になった。

 その妙な様子に、生徒達の歓声も窄まって行く。

「は、はい! オスマン氏のおかげであります!」

 目敏いギーシュは、隙かさずフォローを入れた。ここでオスマンへと恩を売って置くのは悪いことではない、と判断したのである。

 するとオスマンは、目を細めてギーシュへと近付いた。

「ギーシュ君」

「はいっ! オールドオスマン!」

 いきなり勲章でも貰えるのかと、ギーシュは直立した。

「君は実に好い奴じゃな。御褒美を上げよう」

 ギーシュは、(“精霊勲章”に次いでの名誉だ。何だろう? 卒業時トップの生徒に与えられる、ダイヤ付きの“黄金宝杖”でも授けてくれるんだろうか? そんなモノを貰ったら、自分の出世はもう完全に約束されたようなモノだ……)と喜びに震えた。

 だが、オスマンの言葉は違った。

「抱いて良いよ」

 堂々と、そう言われた。

「はい?」

 しかし、オスマンはクイクイッと親指を自分の身体に突き立てるのみである。

 ギーシュは首を横に振った。

 次は、才人である。

「抱いて良いよ」

 才人は無言で首を横に振る。

 その次は、レイナールであった。

「抱いて良いよ」

 レイナールは険悪な顔になると、「ふざけないでください」とポツリと呟いた。

「僕達の名誉を……ば、馬鹿にして……貴男という人は……」

 レイナールは言い返そうとしたが、その時にはもう、隣のエイドリアンへと続いていた。

 エイドリアンはレイナールと同じクラスの、短い赤髪の少年である。

 彼は言われる前に首を横に振った。

 そして、アルセーヌ、ガストン、ヴァランタン、ヴィクトル、ポール……賭けを仕切っていたエルネストとオスカルとカジミールへと続く。彼等は緊張し切った顔で、首を横に振った。

 誰だってオスマンを抱こうとは思わないのである。というよりも、その意味が理解らなかった。

 異様な緊張の中、最後のマリコルヌの前へとオスマンはやって来た。

 マリコルヌは言われる前に、堂々と言い放った。

「オッケーです!」

 オスマンはしばらくマリコルヌを見詰めた後、「さて、冗談はさて置き」と切り出した。

 掴み掛かろうとしたレイナールが、左右にいる少年達に喰い止められる。

「“王政府”は諸君等に、その活躍に見合う名誉を用意した。ほれ」

 皆と同じように正装したシュヴルーズが現れた。手に何かを持っているのが見える。

 それに気付いた少年達――才人を除いた騎士隊の面々は目を丸くした。

 黒字に銀色の五芒星が光っている。

「それは……シュヴァリエのマントじゃありませんか!」

 ギーシュが、思わず叫んだ、

「然様。こたびの活躍は、隊長のギーシュ君をシュヴァリエに叙するに十分と言えよう」

 確かにその通りである。まあ、殆どは才人とイーヴァルディ俺の3人で上げた戦果といえなくもないのだが、こたび“ガリア王継戦役”に参加したのは“水精霊騎士隊”のみである。恩賞には十分値するといえるろう。そうでもしないと“トリステイン”は一体何をしていたのだ、という話になってしまう。政治的にも、彼等に恩賞が必要であるのだ。

 ギーシュは震えながら、そのマントを押し頂いた。

 騎士隊の少年達は、そんなギーシュを口々に祝福する。

「やったな! 隊長殿!」

「これで我が騎士隊も、“シュヴァリエ”を2人擁することになったな!」

「さて、流石に“シュヴァリエ”の称号とはいかんが、君達にも勲章を授与する。“白毛精霊勲章”じゃ」

 次いで、ギトーが現れた。相変わらず、ムスッとした表情である。内心は、生徒がこのような名誉に与るのがつまらない、とった様子である。

「まあ、良くやったと言えるな。ほれ」

 ギトーはつまらなさそうな顔で、少年騎士達の首に勲章を掛けて行く。

 誇らしげに、少年達は顔を輝かせた。

 名誉だけではない。勲章には年金が付くのである。ほぼ無給に近い彼ら平隊員にとって、その年金は大きいといえるであろう。

 勲章が配り終えられると、オスマンは2人の女子――巫女の前に立った。ルイズとティファニアである。

「さて、君達は巫女として従軍したために、“精霊勲章”を与える訳にはいかんそうだ。まあ、あれは軍人に与えられる勲章じゃからな。だが、君達には“トリステイン宗教庁”から、“トリスタニア”の“ジュノー管区”司教の任命状が授けられることになった。ちょうど2人ほど席の空きがあったらしいでの」

 生徒達から溜息が漏れた。

 司教の肩書を得るということは、手っ取り早い話御金持ちへの急行券であるのだ。何せ、寺院の司教ともなればほとんどの税金は免除され、逆に管区の住人達からの寺院税を得ることができるのである。詰まり、その肩書さえあれば、何もしないでも御金が入って来るということである。平司教だから実入りは少ないといえるが、それでも勲章の年金なんかの比ではないといえるだろう。

 ザッと計算すると、ギーシュは500“エキュー”、平隊員達は200“エキュー”、ルイズとティファニアは800“エキュー”といった年収が約束されたのである。

 割れんばかりの拍手が響いた。

 しかし、その場の全員が気付いた。

 才人やシオン、そして俺だけが、何も貰っていないのである。

 皆が特別に何かあるのだろうか、と想いきや、オスマンはパーティの開始を宣言してしまう。

 皆、(まあ、シオンは“アルビオン”の女王だし、セイヴァーは“アルビオン”の客将で、サイトは以前“シュヴァリエ”の称号を貰っているし……今回は据え置きなのかもしれない)と一同は妙な納得の仕方をした。

 

 

 

 華やかな宴が始まった。

 当然、“水精霊騎士隊”の周りには、生徒達が一斉に群がる。

「ギーシュ様! 是非とも活躍の御話を聞かせてくださいまし!」

「良いとも良いとも。何でも訊いてくれ給えよ」

 勢い込んで、戦場での話をし始めた時……ギーシュは遠巻きにして自分を見詰めて来ている、1人の少女に気付いた。

「モンモランシー……」

 しかし、モンモランシーはプイッと顔を背けると、会場を出て行こうとした。

 思わずギーシュは生徒達を掻き分け、後を追い掛ける。

 廊下を出た所で、モンモランシーは立っていた。ギーシュに背を向けたまま、身動ぎすらもしない。

 ギーシュはツカツカとその背に近付くと、襟を正してモンモランシーの背に向かって告げた。

「“シュヴァリエ”になったんだぜ」

「…………」

 しかし、モンモランシーは無言である。

 なおもギーシュは近付こうとしたのだが……立ち止まる。

「何てね。でも、ちゃんと理解ってるよ。自分の実力じゃない。活躍したのはサイトとセイヴァー達さ。あいつ等は全く、凄い奴等だと想う。僕はたまたま隊長だっただけだ」

 それからギーシュは、顔を上げた。

「でも、いつかこのマントに似合うような男になってみせる。君にも、似合いの男になれるように……それじゃ」

 ギーシュは踵を返し、歩き出そうとした。

「待って!」

 モンモランシーが叫んだ。

 ギーシュが振り返ると、モンモランシーがその胸へと飛び込んで来る。

「モンモン……」

「私……馬鹿ね。貴男が移り気でどう仕様もないって理解ってるのに……ちょっと気の利いたこと言われると、素敵って想ってしまうのよ」

 ギーシュは、心の中で、万歳を連呼した。

「もう風呂なんか覗かない。約束するよ」

「そうして。ホントに。嗚呼、私自分が嫌だわ。今度も心配したのよ。いきなり戦が始まるから……仲直りもできないうちに、貴男が死んでしまったらどう仕様って……」

 何気にしおらしいモンモランシーは、シクシクと泣き始めた。

 すると流石のギーシュもシンミリとしてしまう。ギーシュは、ポケットから、何かを取り出してモンモランシーに手渡した。

「……え?」

「僕だって、ずっと君のことを考えていたんだよ。貝殻を彫って作ったんだ。“ロマリア”では、これを女性に贈るんだそうだ」

 そこには、女性の横顔のレリーフが彫られている。

「君を想って彫ったんだよ」

「綺麗……貴男って、とても器用なのね」

 ウットリとした顔で、モンモランシーはギーシュを見詰めた。

 2人の目が閉じ……近付こうとしたその瞬間……ホールから数人の女の子が飛び出して来る。次いで、ギーシュに向かって叫んだ。

「ギーシュ様! 素敵な彫り物を有難う御座います!」

 モンモランシーの目がパッチリ開いて、ギーシュの身体を突き飛ばす。

「いやぁ……造り始めたら面白くて、つい沢山作っちゃって……」

「随分と器用ね。つい、作っちゃうのはアクセサリーだけじゃないんじゃない?」

 クルリと振り向くと、モンモランシーはツカツカと歩き去って行った。

 

 

 

「マリコルヌ様! 御話を聞かせてくださいまし!」

 数人の女の子達に囲まれ、マリコルヌはもう泣いていた。

 無理もないといえるだろう。

 あの女子風呂覗きの一件で、“水精霊騎士隊”の名誉は地に落ちていたのである。“アルビオン”での才人の活躍もベアトリスの“空中装甲騎士団”と互角にやり合った一件も吹き飛ぶ、地に墜ちっぷりであったのである。

 だが、再び名誉は回復されたようである。

 喜びの余り、勢い込んで話すマリコルヌの前に、黒髪の清楚な感じの少女が現れた。

「ブリジッタ……」

 マリコルヌの身体が固まった。

 ブリジッタはしばらくモジモジした後、「良くぞ御無事で……」と、恥ずかしそうに言った。

 怖ず怖ずと、マリコルヌの周りを取り巻く少女達は、その雰囲気を前にして後退る。

 マリコルヌは両手を広げ、まるでオペラの主役であるかのように、大仰な身振りで言った。

「ずっと、ずっと君のことを考えていたんだ」

「私も、マリコルヌ様のことを考えていましたわ」

 2人は、ジッと見詰め合う。

 それから、ブリジッタは決心したように呟く。

「私、友達に言われたんです。“マリコルヌ様は普通じゃないから、少しくらいのことは我慢しないと身が保たないよ”って」

「う……ごめん」

「良いんです……マリコルヌ様が戦に出掛けている間、私ずっと考えていたんです。そう言う人だから、風呂覗きくらい仕方ないんだって。いやむしろ……覗きで済んで、良かったって。我慢します。だから、非道いこと言ってごめんなさい」

 何とも健気な言葉と様子で、流石のマリコルヌも反省した。いかにマリコルヌが、己の欲望に忠実に生きて来たのかが、このブリジッタの涙で白日の元に晒されたのである。

「ごめん。ごめんよ……僕は今まで、自分の性癖を全肯定し過ぎたみたいだ。これおからは普通になる。約束する。もう、君に罵られることを望んだりはしない。僕はもう、ぽっちゃりに甘んじない」

 ブリジッタは感動した顔で、マリコルヌを見詰めた。

 そんな2人の様子を目にして察したのだろう、1人の女子が2人にワインの盃を握らせる。

「……まあ、取り敢えず仲直りの印に乾杯をなさってはいかがですか?」

 マリコルヌとブリジッタの2人はニッコリと笑顔を浮かべ、盃の中のワインを飲み干した。次いで、顔を見合わせて、笑い合う。

「まあ、もっと御呑みよ」

 マリコルヌは、ブリジッタに盃を勧めた。

「私、あまり呑めませんの」

「今日は特別だ。何せ、僕が生まれ変わった日だからね」

 ブリジッタは感動した面持ちで、盃を傾けて行く。そのうちに、「ふぁ、何だか酔いましたわ」、などと言った。

 マリコルヌは、そんなブリジッタをバルコニーへと連れて行った。

「大丈夫かい?」

「……ふぁ……タ……のおかげで酔ってしまいましたわ」

 マリコルヌは、何だか懐かしいと感じる単語を聞いた。

「ブリジッタ、今……何て……?」

「ブタのおかげで、酔ってしまいましたわ」

 マリコルヌの顔から、爪先まで電流が流れた。

「ブ、ブタ……? 僕?」

「そうよ。他に、どこに豚がいるの?」

 ブリジッタの目が据わっているのが判る。清楚な顔の中、そこだけが妙な光を帯びているのもまた、判るだろう。

 マリコルヌは、その迫力に押されてしまい、ひう、と尻餅を着いた。

「私、マリコルヌ様がいない時に気付いてしまったの。自分の趣味に……1日1回、マリコルヌ様を罵らないと、眠れないらしいのよ」

 

 

 

 隣のバルコニーで始まった騒ぎを見詰めて、才人は深い溜息を吐いた。

 そこでは、マリコルヌが這い蹲り、「生まれてごめん、豚ごめん」などと黒髪の少女に謝り続けている。

 黒髪の少女は激高し、マリコルヌを罵りまくっている。

「全く……マリコルヌもギーシュも、暢気なもんだぜ……」

「良いじゃない。ジョゼフ王は死んだ。これでやっと平和になるわ。少しくらいの羽目外しは大目に見て上げなさいよ」

 やれやれと首を傾げる才人の隣には、ルイズがいた。髪をバレッタで纏め、白いドレスに身を包んでいる。

 そのような格好をしているルイズは、いかにも“貴族”の御嬢様であるということを理解させ、才人はもう未だにドキドキしてしまっていた。

「でもな……“ロマリア”はまだまだ“聖戦”を続ける気なんだろうし……“聖杯戦争”もあるんだぜ」

「まさか。“聖地”を取り返すためには“4の4”が必要なはず。でも、“ガリア”の“担い手”のジョゼフ王は死んじゃった。続け様がないじゃない」

「でもな……あいつ等は、それでも遂行できる自信があると想うんだ」

 才人は、ずっと気になっていたことを、ルイズに言った。

「だって……絶対ジョゼフは味方にならない。あいつ等そう考えて行動してたじゃないか。詰まり、別に揃わなくてもできるんじゃないか?」

「あのねえ」

 ルイズは呆れた声で言った。

「へ?」

「セイヴァーは知ってたみたいだけど、私達が、“ガリア”の“担い手”がジョゼフ王だって知ったのは、最後の最後じゃない」

「まあ、それはそうだけどさ」

 カステルモールからの手紙などで、怪しい、と才人は想ったはいたが……本当に、ジョゼフ王が“担い手”であるとは思わなかったのである。あくまでも、可能性の1つとして考えていただけであった。

 最後の最後、才人が、“フネ”の上の対決でジョゼフ王が“虚無の担い手”であるということを知った時は、いやもう大量のヒトの命が危険に曝されていた時なので、驚く暇もなかったのだが……。

「“ロマリア”もそうだったのよ。ジョゼフ王じゃない。別の“担い手”がいると想ってた。ジョゼフ王を打倒した後、そいつを味方にするつもりだったんでしょ。でもざーんねん。“ガリア”の“担い手”はジョゼフ王でした。自分達で斃しちゃいました。まあ、あの時はもう二進も三進も行かなかったもんね。だって、斃さなきゃ自分達が殺られそうだったんだもの。最後の“ガリア”軍に対する演説だって、多分もう、精一杯の負け惜しみよ」

 才人は、そうだなぁ~~~、と唸りながら頭を抱えた。しかも、カステルモールの手紙の内容を知る者は、才人とタバサの他には先ずいないのだから。

「“エルフが敵です!” “黒幕です!” 何つって、幾ら“聖戦”を焚き付けたって、あんな恐ろしい火の玉を見た後じゃ、誰だって“エルフ”と戦おう何て思わないわ。おまけに“担い手”も欠けちゃったんじゃあ、戦い様がない。“4の4が揃わないと、“真の虚無”とやらは、覚醒めないんでしょ? あはは、そのまま寝てるが良いわ。だからタバサの戴冠式の後、とっとと“ロマリア”に帰っちゃったのよ。もう、することがないから。きっと今頃、“聖戦”なんて言い出したことを後悔してるに違いないわ。あれだけ大見得切ったのに、その手段を自分で潰しちゃったんだもの。教皇聖下、下手したらそのうちに失脚ししちゃうんじゃないの? 明日にでも、新教皇選出会議開催の報が“トリスタニア”に届くかもよ?」

 才人は、ルイズが眩しいモノのように見詰めた。

「御前……頭良いな……」

「あんたが抜けてるのよ。兎に角、私達はしばらくぶりの平和を享受しましょ」

「うん……」

 才人は、シンミリとした声で言った。

 ルイズは、得意げに指を立てる。

「これからの私達の仕事はね、“聖杯戦争”をどうにかすること、そして“始祖ブリミル”が“エルフ”を“使い魔”にしていた……それを調べることよ。きっと、“エルフ”と私達が争うようになった原因はそこにある。彼等の間に何があったのかを解明すれば、私達と“エルフ”が争う理由はなくなると想うわ」

 才人は、首肯いた。

「兎に角、今はユックリしたいの」

 ルイズは、頬を染めて才人へと寄り掛かった。

 そこに、キュルケがやって来た。

「あらら。御邪魔だったかしら?」

 ニヤッと笑みを浮かべたキュルケに、ルイズは慌てた調子で言った。

「そ、そんなことないわよ!」

 胸の大きく開いた夜会服を着ているキュルケは、辺りに色気を振り撒きながら、才人とルイズの隣で、バルコニーの柵に寄り掛かる。

「タバサの即位に乾杯」

 どことなく、寂しそうな声でキュルケは言った。

「キュルケ、タバサからは何の連絡もないのか?」

「ええ。こないだ実家から連絡があって……“ガリア”からの遣いの人が来て、タバサの母君を連れて行ったらしいわ。そのくらいね」

「水臭いな!」

 才人は言った。

「色々忙しいのよ」

 とりなすように、ルイズが言った。

 あれ以来、タバサからの連絡はないのである。

 才人達は“ガリア”を去る前に、タバサとの面会を望んだのだが……多忙の一言で断られてしまったのであった。タバサにその報告は届いておらず、家臣の一存での返答である可能性が大きいのだが……それにしても寂しい話である。

「でも、変な話だな……タバサの奴、即位はしないって俺と約束したのに……」

「きっと、あの娘にはあの娘の考えがあるんでしょ」

「あいつ、“ロマリア”に何か吹き込まれて、騙されてるんじゃないだろうな? 俺、それが心配で……」

 才人がそう言うと、キュルケは、プッ、と噴き出した。

「あの娘に限って、それはないわよ。恐らく、“ロマリア”は与しやすいなんて思ったんじゃないかしら? でも、あの娘はああ見えて、そういう駆け引きは百戦錬磨だしね。ま、私達に何か話す必要があると想ったら、向こうから連絡して来るわよ。どうしてもって言うなら、セイヴァーにでも訊いてみれば良いじゃない」

「そうか……そうだよな」

 才人は、理解った、と首肯いた。

「ま、人の心配より、自分の心配をしたら?」

 キュルケは、意味ありげな流し目で才人を見詰めた。

「へ? 俺?」

「そうよ。サイト、貴男この頃、何だか良い男になって来たわよ」

「そ、そうか?」

「ええ。ジャンほどじゃないけどね。気を付けた方が良いわ。貴男、女で大変な目に遭いそうよ」

「どーゆー意味よ!?」

 ルイズが、目を剥いて怒鳴った。

「あらルイズ。貴女も浮か浮かしてらんないわよ。出し惜しみしてると、どっかの女に奪われちゃうかもね」

 キュルケは、おっほっほ、と楽しそうに笑いながら去って行く。

「何よ~~~! あの馬鹿女!」

 そして才人がトロ~ンとした目で遠くを見ていることに気付き、ルイズはその足を踏ん付けた。

「あ痛ッ!?」

「何その顔? 何な大変な目に遭うのかな~~~って期待に震えるその目なに?」

 ルイズに睨まれ、才人は首を横に振った。

「き、期待になんか震えてないよ!」

「嘘ばっかり。絶対想像してたわ。こぉ~~~んな大きな胸した娘とかに言い寄られて」

 ルイズは両手を使って胸の前で半円を描き、こぉ~~~んな、を見事に表現してみせた。

「こうやって這い蹲って、左右からホッペを胸で挟まれて、ハグハグしちゃってもう大変って感じの想像してたわ」

 ルイズは床に膝を突くと、両手で自分の頬を挟み、ハグハグを表現した。

「あのな……ルイズ……」

「“サイト困っちゃった~~~、大きい胸に顔挟まれて困っちゃった~~~”、何よ!? 全然困ってないじゃない!」

「何その一人芝居?」

「あんたの頭の中を実演しただけよ!」

 ルイズは立ち上がると、才人に怒鳴った。

「馬鹿言うなって。俺は御前以外で困りたいなんて想ってないよ」

「何よそれ? 私でそんなに困ってるって言いたいの?」

「い、いや、そういう訳では……」

「ハッキリ言いなさいよ。誰と困りたいのか、きちんと私に言いなさいよね」

 ルイズはプイッと顔を背けた。

 いい加減、ルイズのこういった態度に慣れてしまった才人は、そのサインに気付く。

ベタに来て、である。

 ルイズは、水分を要求する育ち盛りの花のようなモノで、養分が足りないと枯れてしまうのである。枯れるというよりも、怒るのである。怒るとかなり面倒なことになるであろうことは明白でこういったサインを見逃してはいけないのである。

 才人は息を吸うと、取り敢えずルイズを褒めた。

「こんなに可愛い御主人様が側にいるのに……余所見なんかする訳ないじゃないか」

 ルイズは、う~~~、と唸った。何というのであろうか、先程のキュルケの台詞が気に掛かっているのである。

 確かに、最近の才人は妙に凛々しくなって来たといえるだろう。様々な経験によって男を磨いて来たのである。たまに羽目を外す時もありはするが、騎士隊の副隊長としてしっかり隊を纏め上げている。(そろそろ、本格的にヤバイんじゃないのかしら……?)、とルイズは不安になった。

 だが、かといって色々なことを許すつもりにも、ルイズはなれなかった。最近は色々と考えも変わって来はしたが、それでも何といっても、ルイズは“貴族”である。

 何があろうが安売りだけは許すことができないのである。

 ルイズは、(それなのに、最近の私とたら! 何だか雰囲気に流されるままに、許しちゃってる気がするるわ)などと考えたり想像したりして、耳まで真っ赤にした。

 ルイズは、(やっと訪れた平和な時間……だからこそ、もうちょっと、その辺りのことを真剣に考える必要がありそうね)と考え、いきなり焦り始めたり、顔を真っ赤にしたりを繰り返す。

 そんなルイズを見て、才人は何だか不安になった。おいルイズ、と声を掛けようとしたら……。

 ホールから、楽師の奏でる軽快な音楽が聞こ得て来た。テンポの良い、夜が楽しくなるような、そんな曲で在る。

「この曲……」

 ルイズが呟くように言った。

 才人も直ぐに気付いた。

「初めて、御前と踊った曲だな」

 フーケの“ゴーレム”を倒した後の舞踏会。あの時、才人とルイズは一緒に踊ったのである。まるで昨日のことであるかのように、才人はその夜のことを想い出した。

 どちらからともなく手を取り……2人はホールへと出て行った。それから、曲に合わせて踊り出す。

 相変わらず才人の踊りはぎこちないが、ルイズは幸せな気持ちに包まれた。

「そう言えば、御前の髪型も、ドレスも、あの日と同じだな」

「今頃気付いたの?」

「ご、ごめん」

「あんたって、ホントに鈍いのね」

 ルイズは、少しばかり拗ねた口調で言った。だが……あの時と同じ音楽に包まれて才人と踊っている。それが、ルイズを幸せで満ち足りた気分にさせてくれた。

 辺りを見回すと、様々に着飾った男女が似合いのカップルであるようにそれぞれステップを踏んでいる。

 遠くにティファニアの姿が見える。

 彼女の前には、何人もの男子が群がり、ダンスを申し込んでいる。もう、“ハーフエルフ”という理由から怯える生徒はいない。彼女が“アルビオン”王家の血を引いるということを知る生徒は少ない。それでも持って生まれた御淑やかな雰囲気と、“エルフ”の血が混じった異国情緒とその暴力的なバストにやられて仕舞う男子は後を絶たないのである。

 努力は認めることができるが、あのティファニアに似合うほどの男子は残念なことにいない。

 ティファニアの美しさと来ると、かなり神々しく、たまに女の子であるルイズでさえも気圧されてしまうほどである。ティファニアの隣に立つことができる男は、伝説の彼方にしか存在しないのでは、と想わせるほどでもある。

 ルイズは、(じゃあ、私はどうなのかしら? 自分は“トリステインの英雄”になりつつあるサイトに釣り合うんだろうか?)と胸に不意に疑問が忍び込んだ。

 今や才人の、“トリステイン”に対する功績は、計り知れないモノがあるといえるだろう。この前の“ガリア”でのことにしても、“サーヴァント”が戦っていただけのようなモノである。本来であれば、シュヴァリエどころではない。爵位をえるても何ら可怪しくはないほどの功績を、才人は立てている。伝説の“英雄”達と弾き比べても、何ら見劣りしないほどの勲功、そして成功の数々……。

 ルイズは、(それに引き換え、私はどうだろう? いつもウジウジと悩んで、逆にサイトの足を引っ張って来たのではないの? 嗚呼、自分は、司祭の肩書を得られるほどの活躍をしたかしら?)と考えた。そして、(してない)と心のどこかがルイズに囁いた。

 ルイズは、(あれだけ活躍したサイトが何も貰ってないのに……)と思い、幸せな気分が萎んで行く。それから、(私は、サイトに釣り合う女の子になれてるのかしら?)と疑問を抱いた。

「どうした?」

 不意にステップの止まったルイズに、才人が問い掛けた。

「な、何でもない」

「気分でも悪いのか?」

 ルイズは首を横に振った。

 ルイズは、(折角平和になったんだもの。要らぬ心配などしな方が良いわよね。サイトはこうやって、側にいてくれるじゃないの。それに……“屋敷を買って、卒業したら2人で暮らそう”とも言ってくれてるのよ。変な心配は、そんなサイトに失礼よ)と考えた。

「ホントに大丈夫。それより、踊りましょう」

 ルイズは澄ました顔で言った。

 だが……ルイズの心に張り付いた不安の雲は、何か上手く晴れなかった。

 

 

 

「シオン女王陛下、セイヴァー様、御話聞かせて下さいませんか!?」

 ギーシュやマリコルヌ達と同様に、俺とシオンの所へも生徒達が集り、先の戦いについて聞きに来た。

「えっと……」

 そんな生徒達を前に、シオンは苦笑を浮かべる。が、口を開こうとはしない。

 そんなシオンに代わり、俺が少しばかり口を開く。

「そうだな……実に哀しいことだった。兄弟の擦れ違いから始まった、哀しい出来事だ。だが、それもまた人間であるからこそ起きること……俺は、あいつ等のこともまた愛しい……嗚呼、あいつ等の魂が報われることを祈るよ」

 俺の言葉に、シオンを除いたこの場の皆は首を傾げた。

 それから少しして、音楽が鳴り始める。

 皆が思い思いの異性と手を取り合い、ダンスを申し込み、申し込まれ、踊り始める。

「さて、俺達も踊ろうか?」

「ええ、一曲御願いね? セイヴァー……」

 シオンは悲しげな笑みを浮かべ、俺と共にホールの真ん中へと向かった。

 

 

 

 

 

 舞踏会が終わり……生徒達が寮へと戻り始めた。

 才人達も、自室に戻ることにした。

 3階にあるルイズの部屋の前まで、才人とルイズの2人はやって来た。

 才人が中に入ろうとすると、「……気持ち悪い」とルイズがヘロヘロになりながら、肩に凭れ掛かって来る。

「ったく、呑み過ぎだっつの」

 珍しく、ルイズは潰れるほどにワインを呑んだのである。

 才人は、(酒に弱い癖に、一体どうしたんだ)と想った。

「ねえサイロォ……」

「ん?」

「ほんろに、わらしと一緒に暮らしてくれるの?」

 才人は、(何だこいつは。そんなことを心配してたのか)とホッとした。

「暮らすよ。明日は“虚無の曜日”だろ。早速、屋敷を探しに行こうぜ?」

「うん。行く」

 ルイズは拾われた子犬のような目で才人を見上げ、こくこくと何度も首肯いた。そして、ヒシッと才人へと寄り添う。

 何だかそのようなルイズがとても“愛”らしく想え、才人は満ち足りた気持ちになって行くのを感じた。

「ずっと一緒だ」

 そう言うと、ルイズはトロンとなすた目で才人を見上げる。

 何だかもう堪らずに、才人はルイズを抱き締め、キスをした。

 すると、グイグイとルイズは唇を押し付ける。

 才人が控えめな胸に手を這わせても、ルイズはもう怒らない。

「小さいから……嫌だ……」

「ち、小さくないって」

「嘘。小さいもん」

 それでもルイズは、才人の手を撥ね退けようとはしない。

 デフォルトでここまで来るのに、一体どれだけの時間が経っただろうか。

 さて、問題は次の段階へのステップなのだが……。

 数々の失敗が、才人の頭の中を巡る。いつもいつも、上手く行きそうであったのにも関わらず、才人は失敗して来たのである。

 才人は、(だがもう、失敗はしない。今日こそ、俺は……)と熱くなりつつあった頭を冷やし、冷静に思考を巡らせ始めた。そして、(俺……どうやって失敗して来たっけ?)と考える。

「小さいでしょ?」

 再びルイズが、不安げに尋ねて来る。

 才人はそこで、(嗚呼、想えば俺はこの胸ネタで相当やらかして来た。そう。兎に角ルイズの胸が小さいことを肯定してはいけない。どれだけ小さいからといっても、“うん、そうだね”、何て言ってはいけないのだ)と想った。

「俺、他の人の良く知らないけど……普通だと想うよ」

「それなら良いの」

 才人は、(良し。第一関門クリア。次に注意しなくてはいけないのは……あの魅惑のぽっちゃり、マリコルヌだ。だがしかし、ここにはいない。何せ此処は女子寮だ。神出鬼没のぽっちゃりさんだが、今日は大丈夫。うん。良し、第二関門クリア。後は……何かあったような気がするが……想い出せない。まあ、大丈夫だろう。詰まり……エンジンを掛けても良ってこと?)と頭の中で、何かが爆発した。

「良し、掛けるぞ。俺は。アクセルオン。今こそ全開だ」

「あくせる……?」

 ブツブツと、才人は思考を言葉にして言っていたようである。

 ルイズが、不思議そうな顔で才人を見ている。

 才人は首を横に振ると、ルイズに向き直った。

「いや……こっちのこと」

 才人は、(あれ……行っとく?)と心の中の黒い部分が呟く。白い部分が、必死になってそれを止める。(あれは……ないっしょ。流石に。やったら引くっしょ。アウトでしょう。でも……あれ夢じゃん。御前の夢じゃん。やりたいことに忠実になとかないと、人生に対する冒涜ってもんでしょ?)、と考え、ピキーンと音を立てて、神託のような何かが、才人へと下った。

「兎に角御前は可愛い。さて、そんな可愛い御前に御願いがあります」

 才人の目が据わっている。

 ルイズは一瞬、酔いが飛ぶかと想ったが、(サイトに着いて行くって決めた。私……何が飛んで来ても驚かないの……)と想い、持ち堪えた。

「“小さいにゃんにゃん、大きいにゃんにゃんに苛められたいにゃん”って言って御覧」

「はい?」

 ルイズは、頭の天辺から何かが急速に抜けて行くのを感じた。

 詰まり……何というか、引いたのである。

「言って御覧。と言うか、言え」

 才人は真顔であった。

 激しい葛藤が、ルイズの中で生まれた。(幾ら何でも、これはない。小さいにゃんにゃんって何? 誰のこと? もしかして私? ねえ、ことの台詞何? 母様、この人、私をどこに連れて行こうとしているの?)、と流石のルイズも、才人のその本物っぷりによって、一瞬で現実へと引き戻されたのである。

 でも……とルイズは、そのような疑問を抑えた。そして、(今はこんなだけど、さっきはサイトと一緒に踊って楽しかった。何と言うか、私は結局こいつじゃないと駄目らしいわ)と想った。

「言え。と言うか、言ってください。ごめんなさい」

「……言ったら、優しくしてくれる?」

「勿論」

「意地悪なこと言わない?」

「はい」

 仕方なしに、ルイズは首肯いた。優しいキスなどをもっとして欲しかったからである。「可愛いよ」と言って欲しいからである。才人の妄想の暴走っぷりは百も承知であるため、仕方ないとルイズは諦めることにしたのである。何のかんのいって、やはりルイズは健気であるのだ。

 で、言った。顔を真っ赤にさせて、震えながらルイズは言った。

「い、小さいにゃんにゃん、大きいにゃんにゃんに苛められたいにゃん」

「有難おぉー!」

 もどかしげに才人は、ルイズを抱き締めたまま部屋の鍵を開け、そのまま扉を開いた。

 口をポカンと開けて唖然とするシエスタと、そのメイド仲間と、おかえりなさいサイトさんと書かれた垂れ幕があった。テーブルの上には料理が並んでいる。

 才人の頭の中が、急速に冷えて行く。

 そして、(そうだ。今はシエスタが専属メイドで……だからさっきもいなかった訳で……と言うか今の全部丸聞こえだった訳で……)、と才人は気付いた。

 メイド達は、しばらく呆然としていたが、そのうちに堪らずに笑い転げ始めた。

 シエスタがどこまでも冷たい目で、ボソリと呟いた。

「おかえりなさいにゃん」

 更にメイド仲間達は、キャアキャアと笑い転げる。

 ルイズは深呼吸をすると、取り敢えず自分に恥を掻か為た才人を蹴りまくり始めた。

 

 

 

 “ガリア”で得た傷よりも、痛め付けられた才人は唸っていた。

 メイド中も帰ってしまった後、ルイズとシエスタは果てしない言い争いを繰り広げていた。

「ミス・ヴァリエールはやり過ぎです」

「はぁ? どういう意味よ? と言うか、何であんた、サイトはおかえりなさいで私は無視なのよ!?」

 ルイズは、垂れ幕を指して怒鳴った。

「え~~~、だって、私サイトさんの専属ですもん。ミス・ヴァリエール関係ないですもん。でも、御無事で何よりです」

「気持ちが込もってないわ!」

 シエスタは、そんなルイズを全く無視して、才人を介抱し始めた。

「大丈夫ですか? ホントに非道い御主人様ですね」

「ごめん! ホントにルイズごめん!」

 才人は、譫言で謝り続けた。どうやら、夢の中でも、ルイズに折檻されているようである。

「今回もサイトさんやセイヴァーさん、大活躍だったらしいですわね。ホント、自分のことみたいに誇らしいです」

「ごめんなさい! 才人生まれてごめんなさい!」

「安心してください。このシエスタは、いつでもサイトさんの味方ですから。ホントもう、何のかんの言って私が1番ですよ? 何せ余所見してもあんまり怒りませんし、他の娘とキスしてもあんまり怒りません。それ以上したら殺しますけど。でも好きですからね」

 シエスタは、「おーよしよし」と言いながら、意識を失っている才人の頭を撫でた。

 ルイズは、(何か腹立つ台詞だけど……まあ、赦してやろうかしら)と少し冷静になり、そういった気になった。何せ、卒業したらルイズは才人と一緒に暮らす予定であるのだ。(“学院”メイドのシエスタとは、必然的に御別れだものね)とそう想うと、沸々とルイズの中で優越感が湧いて来るのであった。

「何ニヤニヤしてるんですか?」

 ルイズのその様子に気付いたシエスタが、ジロリと睨む。

 椅子に腰掛けていたルイズは、思いっ切りポーズを取りながら足を組んだ。

「べーつーにー」

「言ってください」

「そこまで言うんなら言って上げるけど……まあ、今だけなら、その犬触っても良いわよって。そんな感じ」

「何ですかそれ? どういう意味ですか?」

 敵意剥き出しで、シエスタはルイズへと詰め寄った。

「いやね? 卒業したら、私サイトと暮らすしー。ま、それまではあんたも少し楽しめばって? って。そんくらいなら良いわよって。そんな感じ?」

「何言ってるんですか」

 シエスタは、呆れた顔で言った。

「はぁ?」

「サイトさんが引っ越したら、私も着いて行くに決まってるじゃないですか」

「メイドは要らないの。小ぢんまりした所で良いから」

「いやですね、それを決めるのはミス・ヴァリエールじゃないんです」

「ふぇ?」

「もう。御存知じゃないですか。私をサイトさんに着けたのは、他ならぬ女王陛下ですよ。詰まり、私は女王陛下よりサイトさんに下賜された持ち物みたいなモノなんです。勝手に首なんかしたら、逆心ありって、事になっちゃいますよ!?」

 ルイズはワナワナと震えた。

 シエスタの言う通りである。ルイズの一存で、シエスタの進退を決めることはできないのである。

 勝ち誇った声で、シエスタはルイズに告げた。

「ま、そんな訳で。御屋敷を探すんなら、もちろん御伴させて頂きますわ! 何せ、私の新しい職場ですからね!」

 

 

 

 シオンの自室にて、俺とシオンは当然だが、そこにはアサシンの姿もあった。

「で、“ロマリア”の動向はどうだ?」

「変わらずです。“ガリア”の方は、タバサ様、いえ、シャルロット様が色々と模索されている様で」

「報告有難う。また、御願いできるか?」

「もちろんですとも。にしても、この“礼装”は凄いですな。私の“気配遮断”をより高いモノに……“ロマリアのライダー”や“イーヴァルディ”殿達に全く気付かれていない様子で」

「それはそうだろう。色々と、“地球”の“魔術”と“魔法”、“ハルケギニア”の“魔法”、などを組み合わせて造ったからな」

 “暗殺者の英霊(アサシン)”であるハサン・サッバーハは、素直な感想を述べる。

 その言葉に、俺は首肯く。

 “千里眼”や“専科総般”などを用いて造り出した“礼装”なのである。目的やその用途に合わせた効果を発揮するのは当然のことである。

「残る“サーヴァント”は、俺“オルタネーター”、“シールダー”である才人、“ブレイバー”であるイーヴァルディ、“アサシン”である御前、“ライダー”のジュリオ……そして、“アヴェンジャー”……あいつはどこで何をしているのか判ったか?」

 “千里眼”で確認することができるが、敢えて俺はハサンへと問い掛ける。

「いえ、まだ掴めておりませぬ。申し訳ありません」

「謝る必要はない。全く問題はないからな。奴が動くタイミングは既に判っている。こっちがそれに合わせて動くのみだ」

「その、“眼”によるモノですか?」

「そうだ。今の所はおおむね前世で見知った通りの展開だが、行き過ぎると大きく外れてしまう。“剪定事象”から更に外れ……そうならないように俺はこの“眼”を使用して確認し、修正している。“千里眼”……“最高位の魔術師の証である、ここにいながら彼方を見据える眼”……“識る事が魔術の基本にして最奥”だ……“生まれながらにして真理に到達している”証とでも言えるか。“どれほど重厚な魔術回路を持ち、強大な魔術式を操れようと、この千里眼を持たない魔術師は最高位の座に呼ばれることはない”」

「やっぱり、セイヴァーって凄いんだね」

「借り物の力……“特典”の1つだからな……俺自ら掴み取った力じゃない。ズルをしてるんだよ、俺は。で、話を戻すが、この“千里眼”には種類がある。1つ、未来の世界を視通す。1つ、過去の世界を視通す。1つ、現在の世界を視通す。が、太陽系内のことしか知覚できない、識ることができない」

「なら、どうして“他の世界(ハルケギニア)”のことを知ることができるの?」

「先ず、第一に“ハルケギニア”の住人達は、ブリミルの子孫だ。詰まり、現在の“地球”で活動を続けている人類達の遠い兄弟や親戚だといえるだろう。そして、第二に“根源接続”……それを利用しているのさ。“根源”は、総ての始まりと終わりだ。そこと繋がっているんだから、色々と観ることができる、知ること、そして識ることが可能って訳だ」

「“根源”、か……“始祖ブリミル”もその両方を持ってたって話だけど?」

「そうだ。あいつの場合は、神によって与えられた……神話でよくあることだが、神に目を付けられたら、碌な目に遭わない。今じゃあ“始祖”何て呼ばれてるブリミルだけど、あいつは……さて、ハサン。御前にはまた別の任務を与えることになるが」

「構いません。どのような?」

「とある少女の監視と護衛だ」

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