ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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邂逅

 才人達がド・オルニエールに帰って来て、3日が過ぎた。

 特に王宮から連絡もなかったために、才人達はノンビリと過ごしていた。“トリスタニア”の孤児院で、子供達と過ごしているティファニアから、「御変わりない?」という手紙が来たくらいであり、比較的平穏dえあった。

 帰って来て初日の夜以来、才人の寝室は毎日戦場の様子を呈していた。

 今まではルイズとシエスタに挟まれて眠る、という、微妙な均衡を保っていたのだが、そこにタバサが加わったのである。

 夜になると、枕を持ったタバサが、シルフィードに押されてやって来る。

 さて、2人なら一応隣に入れるのだが、3人に成ると当然1人余ることになる。

 ルイズは当然のように、右隣を主張した。兎に角彼女は才人にとって1番で、未来永劫それは変わらなく、公爵家3女の彼女自身もやぶさかではないのだから、これは仕方がないといえるであろう。

 シエスタもまた当然左側を主張した。彼女の主張からすると、「自分はいつも常に御世話をしているのだから、これは当然」という訳である。それに、「他の部屋で寝たら御化けが出る」と真顔で言う始末である。

 するとシルフィードがタバサの代わりに隙かさず、「この娘はとても可哀想な境遇に育って来たのであるから、おまえ等2人は譲歩すべき」、「それにこの娘は、おまえ等色惚けと違って、ただ側にいられるだけで幸せという、今時類を見ない、良い娘である」と反論するのであった。また、「“韻竜”の世界でも人気者」だと。

 そんな会議の中で、才人は当然のように蚊帳の外であった。4人娘がきゃあきゃあわあわあぴいぴいと喚くのを、ソッと膝を抱えて見守るのである。

 もしここで、「幸せ?」と尋ねられたら、才人は「だろうね」と答えるしかない、微妙な時間だといえるであろう。

 いざ1人の女の子を決めると、何故だかモテ出した才人である。

 才人は、「そう言や昔はがっついていたな、あの頃は、地味女子にさえチョコを間違えられる俺だったのに……」と遠い過去を振り返り、(人生と言うのは、真ままならないモノであることよ)と悟りを開くのであった。

 結局、調停者を買って出ているシルフィードが結論を出した。

「理解りました。では、御姉さまは、上」

「上?」

 シルフィードは、コクリと、首肯いた。

「そうなのね。だって横がおまえ等とに取られている以上、上しかないのね」

「それは、不味いだろ」

 と、才人が言ったら、それまで黙っていたタバサが無表情のままポツリと言った。

「間違えたの?」

 才人は冷や汗を垂らした。正直に「間違えた」と言ってしまうと、タバサを傷付けてしまうのは明白である。だからといって、「そうじゃない」と言ってしまうとルイズが……。

 仕方なしといった風に、才人は首肯いた。

「じゃあ、上で良いです……」

「良いですってなんなのね? 有難う御座います、なのね。普通だったらおまえみたいなヨボヨボの人間風情が、御姉様の布団になれるなんて光栄、ありえないのね」

 そんなことを言いながら、シルフィードは、才人の頭をガシガシと噛んだのである。

 さて、そんなこんなで場所も決まり、ベッドに入ろうとした時のことである。

 いきなり、階下から扉をガンガンと叩く音が響いて来た。

「……こんな夜中に誰かしら?」

「近所の人かな?」

 才人がそう言った時、シエスタが心配そうな顔になった。

「まさか……サイトさんを狙っているという……」

 ルイズと才人は顔を見合わせた。

 “元素の兄弟”と呼ばれる殺し屋……この“ド・オルニエール”でデルフリンガーが壊れるきっかけを生み出し、そして“ガリア”でも命を狙って来た兄弟である。

 “ガリア”の官憲に捕らえられたジャックはというと、頑なに沈黙を保ち、脅そうが拷問に掛けようが、全く口を開かないという。

 才人は、目に凶暴な光を宿らせて、ベッドの側に置いてある刀を握り締めた。左手甲の“ルーン”が光り出す。

「デルフの仇を討ってやる」

 ルイズも、真剣な顔で“杖”を握り締めた。

「あっさり片付けて上げるわよ」

 タバサも、節くれ立った“杖”を無言で握り締め、“霊体化”しているイーヴァルディへと目を向ける。

「しかし、あいつ等も無謀だな……今、この家にゃキュルケもコルベール先生もいるんだぜ。飛んで火に入る夏の虫だな」

 部屋の外に出ると、既にキュルケとコルベールも、“杖”を握ってその場にいた。

 才人達は、慎重に階下へと向かい、扉の両脇に並んだ。

 ドンドンドン!

 再び扉が叩かれる。

 才人は手を伸ばし、鍵を外した。

「開いていますよ」

 そう言うと、扉が開き、誰かが飛び込んで来た。

「それッ!」

 左右から、一斉に“魔法”が飛んだ。空気のロープ、そして“ウインディ・アイシクル”……キュルケは巨大な炎の玉を“杖”の先に作り出した。

 その瞬間、“霊体化”しているイーヴァルディは、やっちゃった、といった雰囲気を醸し出す。

 が、それに気付かず、ルイズは第二陣に備え、“エクスプロージョン”を“詠唱”している。

 そして才人は跳び掛かり、喉元に刀を突き付けた。

「大人しくしろ!」

「……貴方達、どういうつもり?」

 高く不機嫌そうな声が響く。

 床に転がされた人物の顔が、キュルケが灯した炎に照らされて暗闇の中浮かび上がる。

「エレオノール姉様!」

 真っ青になって、ルイズは絶叫した。

 

 

 

「すいませんでした」

 才人とルイズは、エレオノールの前に立たされて、ガックリと項垂れていた。

 その前に、エレオノールは足を組んで座っている。エレオノールの怒りは収まらぬ様子であり、まさに女帝と云った風格を漂わせている。

 キュルケ達は、相手がエレオノールだと知ると、関係ないとばかりに部屋へと引っ込んで行ってしまった。

「全く! 私と殺し屋を間違えるなんて! 言語道断だわ!」

 プリプリと怒りを見せるエレオノールに、ルイズと才人は誠心誠意何度も頭を下げた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 エレオノールは、そんな風に「ごめんなさい」と連呼する才人とルイズを交互に睨め回した後、「御腹が空いたわ」と言い放った。

 直ぐにシエスタが急々と食事を用意する。

 はぐはぐ、と料理を口にするエレオノールに、ルイズが恐る恐る尋ねた。

「で、姉様、一体今日はどんな用事で来られたの?」

 するとエレオノールは、わずかに頬を染めた。

「まあ、用事ってほどじゃないけど。しばらくここで厄介になろうかと想ってね」

「えええええええええ!?」

 ルイズは目を丸くした。

「え? どうして? なんでまた? 御姉さん」

「だから貴男に御姉さんなどと呼ばれる筋合いはなくってよ」

 エレオノールは、ジロリと才人を睨んだ。

「ま、まあ、たまには郊外の暮らしも悪くないんじゃないかってね」

「“アカデミー”はどうするんですか?」

「ここから通うわ」

「え? どうやって?」

「“竜籠”を持って来たわ。貴方達、世話をよろしくね」

 なんだかその様子に、才人は感じるモノがあって、試しに訊いてみた。

「も、もしかして……おね、いや、エレオノールさん、怖いんじゃ……」

 するとエレオノールじゃ、びくっ! と肩を震わせた。

 ルイズも首肯く。

「ああ。そうよねー。あの話。知ってるの私達だけだし……」

 “ハルケギニア”中の“風石”が、暴走を始めて半分の土地が住めなくなってしまうかもしれない、という情報は、成る程怖いに違いない。もしかすると、明日にでも自分の真下の地面が持ち上がるかもしれないのだから。

 才人は、昔よくテレビなんかで観た“大地震が東京を襲う!”的なモノを想い出した。確かに、ああいう番組を見た後は、無性に怖くなったりしたモノである。しかも今回は、多分確実に起こるであろうモノだ。

「こ、怖く何かないわよ」

 エレオノールは、首を振って言ってみせた。だが、完全に青褪めている。

 そんな素直ではないといえるエレオノールの態度が、なんだか才人の嗜虐心をくすぐる羽目になった。

「嘘。怖いんでしょう」

「怖く無いってば」

「可愛いところあるじゃないですか」

 つい、気さくにそのようなことを才人が口にすると、エレオノールの眉が吊り上がった。

「馬鹿にしているの? 貴男」

「姉様は、昔からなにげに臆病でしたよね」

 と、ルイズが言った。

「良いからもう! 貴方達は寝なさい! 子供は寝る時間よ! あと、明日は御話がありますからね!」

 そんな風にエレオノールが叫びだしたために、ルイズと才人は慌てて2階へと逃げた。

 さて、と気を取り直して2人はベッドへと入る。

 チョコンとルイズが右隣に、シエスタが左隣に、そしてタバサがシルフィードに抱えられて上に乗せられる。

 シルフィードは、ベッドの側に丸くなると、くぅくぅと寝息を立て始める。

 才人は、(良いのかなー?)などと想っていると、タバサが顔を覗き込んで来た。

「ん、なんだ?」

「間違いなの?」

 結構気にしているらしい。いや、当然気にするであろう。

 右を見やると、ルイズが猛烈に目を細めて才人のことを睨んでいる。

 さて、そんな緊迫した空気の中、エレオノールが部屋に入って来た。

「ルイズ。私はどこで寝れば……って!? なに!? あんた達!? ちょっとぉ!?」

 同じベッドで寝ている4人を見て、エレオノールは絶叫した。

「い、一体……あんた達は……こ、婚前の男女が……というかそれ以前の……」

 と、エレオノールは泡を吹いて打っ倒れた。

 

 

 

 ルイズと才人は、1階の居間まで再び連れて来られた。

 当然、御説教である。

「流石に、一緒に寝ているなんて想わなかったわ」

 エレオノールは、これ以上ないであろうというくらいに怒っている。

「もう問答無用です。予定は変更。ルイズ、明日一緒に、ラ・ヴァリエールに帰るわよ」

「……え?」

 と、ルイズは青くなった。

「え? じゃないわよ。結婚前にベッドを共にしているなんて、“始祖ブリミル”が御許しになると想っているの? もう1度、1から母様と父様に教育して頂きます」

 すると、ルイズは必死に恐怖に耐えるようにして言い放った。

「お、御断りします」

「なにを言ってるの?」

「私、やらなきゃいけないことがあるし」

「そうよね……貴女、”担い手”ですものね」

 それからエレオノールは、深い溜息を吐いた。

「だから言っているの。貴女とそこの彼は、“伝説の力”と言う絆で結ばれているだけなの。貴女は未だ自分でも自分が良く理解っていないから、そこを勘違いしているの。これから貴女は、大事な仕事をするのだから、キチンとサポートしてkyれる男性が必要よ。“使い魔”と伴侶は、分けて考えなくてはいけないわ」

 エレオノールは、真顔で言った。勿論、才人が1度死に、“契約”が外れ、そこから更に紆余曲折あってもなお両想いであるということは知らない。

 才人は、(ここでなにかを言わなきゃ、男じゃねえよな)と意を決して言い放った。

「御姉様」

「だから貴男に、御姉様などとは……」

「いええ。言わせてください御姉様。僕は確かに、御姉様からしたら怪しい素性の人間かもしれません。でも、ルイズを守りたい、という気持ちでは、きっと誰にも負けません」

「貴男、さっき何人の女性と一緒に寝てたのよ?」

 ぐ、と才人は言葉に詰まった。(そりゃ理由はある。あるけど、それを言ったって始まらないし、なんもしてませんとか言ったって、信じて貰えそうもない。いや、正確に言えばしてる。でも、全部間違いだったり不可抗力だったり……)、としどろもどろになってしまう。

「その上浮気を噛まして、ルイズは家出したんでしょう?」

 ガックリと才人は頭を垂れた。まさにその通りであり、才人は何も言えなくなってしまった。

「ねえルイズ。これで理解ったでしょう? 彼はね、どう仕様もない男なの。こんな男が良いだなんて、なにか別の力で操られている証拠だわ」

 しばらくルイズは、言葉を選んでいるように感じた。それでも、首を振る。

「帰らないわ」

「ルイズ」

「姉様。私、もう決めたんです。なにがあってもサイトに着いて行くって。今まで色んな嫌なことあったの。何度も裏切られるようなことしたし、意地悪もされたし。正直言って、その、趣味が変だし。頭悪いし。でも、でもね?」

 ルイズは、才人の腕を握った。

「私、この人じゃなきゃ駄目なの。忘れようと思って、家出もした。でも、忘れることなんてできなかったの。毎日考えちゃったの。今、何してるのかな、とかそんなことばっかり気になったの」

「……ったく。恋は盲目って言うけど、本当ね! でも約束は約束よ。そこの貴男! 私、貴男と約束したわよね? “貴族”の仕草を身に着けるって。さあ、やって御覧なさい?」

 才人は、(そう言えばそんな約束をしていた)と想い出した。

 だが、最近は其れ処では無く、練習などは何1つ遣って居無かった。

 それから、(いや、続けていたところで無駄だっただろうが……)と才人は考えた。だがそれでも、一生懸命に一礼をしてみせた。”貴族”の魂とやらを、才人なりに込めて……。

「…………」

 エレオノールは無言であった。

 才人は、(もしかして、努力が認められてオッケー?)とわずかに震えた。

 だが当然、世の中はそのように甘くはない。

「全然駄目じゃないの! あのね、公爵家の娘が欲しいなら……」

 するとルイズは、エレオノールの言葉を遮った。

「許してくれないって言うなら、私、名前を捨てるわ」

「はい?」

 エレオノールは目を丸くした。

「“貴族”じゃなくたって良い。名前も要らない。だって、それは私が選んだモノじゃないもの。感謝はしてるし、“愛”してもいる。でも、サイトは私が自分で選んだ唯一だから」

 エレオノールは、口をぽかんと空けて、末の妹を見詰めた。

「貴女、ラ・ヴァリエールを捨てるって言うの?」

 コクリと、ルイズは首肯いた。

 エレオノールは、ソファの背凭れに体を埋めると、はぇ~~~、と溜息を吐いた。

「姉様?」

「ん。待って。考えを整理するから」

 エレオノールは眉間に皺を寄せて、親指で額をグリグリとやり始めた。それから顔を上げて、ルイズを真顔で見詰めた。

「本気?」

 ルイズは、真剣な顔で首肯いた。

「はぁ」

「姉様?」

「貴女が羨ましいわ。私には、この男の何処が良いのかサッパリ理解らないけど、貴女が良いって言うんなら、きっと良いところもあるんでしょうね」

 非道い言い草ではあったが、才人は心からホッとした。

「ルイズ」

「はい」

「きちんと、父様と母様には報告するのよ」

 ルイズの顔が驚きに見開かれた。

「姉様?」

「貴女は本当に私にソックリ。頑固で我儘で、絶対に自分の言葉は曲げないんだから。まあ、後で後悔するのも人生だわね」

「有難う! 姉様!」

 ルイズはエレオノールに抱き着いた。

「全く……ああ、これだけは約束して頂戴。今日から同じベッドは禁止。良いわね? 結婚前に、ベッドが一緒なんていけません」

 ルイズと才人は首肯いた。

「まあ、元々はベッドが1個しかなかったからだもんね」

「それから貴男」

 エレオノールは、眼鏡をツイッと持ち上げると、才人を睨んだ。

「は、はいっ!」

「明日から、ビシバシ“貴族”の何たるかを叩き込んで上げるから、そのつもりで。仮にもラ・ヴァリエールの娘を娶ろうというのだから、それなりでは困ります。家柄がない分は、気品で補って頂くわ」

「はいっ!」

 才人は最敬礼で一礼した。

 何せ才人は、2人の仲を認めてくれるのであれば、どんな難題だって呑むつもりであったのだから。

「理解ったら、もう寝なさい。ああ、私のベッドも用意しておいてね」

 2人は首肯いくと、2階へと戻って行った。

 1人残されたエレオノールは、食事に付けられたワインをグラスに注いで、呑み干した。

 ほんのりと頬を染め、しばらく空のグラスをエレオノールは見詰めていた。

「はう、どこかに良い男いないかしら……?」

 と、ボンヤリとした声でエレオノールは呟いた。

 

 

 

 2階に上がった才人とルイズは、シエスタのために用意した部屋を、エレオノールに使って貰うことにした。ベッドもしっかりとあるので、判るようにそこの扉を開けて置いた。

「サイトはどこで寝るの?」

 ルイズに尋ねられ、才人は隣の部屋を指さした。

「この部屋で寝るよ。ソファもあるし、しばらくそこで良いや」

「え? それは不味いわよ」

「良いよ。だって俺、前はずっと床で寝てたんだぜ? 藁束敷いてさ」

 するとルイズは頬を赤らめた。

「ごめんね」

「良いよ、昔のことじゃねえか。じゃ、御休み」

 扉を開けて、自分の部屋と決めたそこに入ろうとすると、ルイズが才人のシャツの裾を摘んだ。

「ん? どうした?」

 するとルイズは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、「少し2人っ切りになりたい」と言った。

 そんなルイズは才人からして激しく、とても可愛らしく想えたので、ルイズの言う通りにすることにした。

 全く使用していない部屋であったがそれでも、きちんとシエスタやヘレンが掃除をしていたのであろう、部屋の中には埃1つ落ちていない。

 テーブルに置かれた“魔法”のランプを点けると、淡く優しい光が部屋の中に広がった。

 ルイズと才人は、壁際に置かれたソファに腰掛ける。

 するとルイズは直ぐに甘えるように、才人に寄り添った。

 才人は酷く幸せな気分を感じている。

 先程……ルイズが口にした言葉が未だ耳に残っていた。

 才人は、(この、俺に寄り添う可愛いらしい女の子は、先程“家を捨てる”とまで言ってくれた。初めて逢った時は……なんてツンケンして嫌な奴だと想ったモノだけど、今ではもう無二の存在になっていて、それが少し可笑しい)とルイズに凭れながらそんなことを考えていた。そうやって考え事をしていると、様々な事柄が、人が、才人の頭の中に浮かんで行く。

「どうしたの?」

 ルイズが、才人に凭れて目を瞑ったまま、尋ねて来た。

「ん? ちょっと考え事をしてた」

「どんなこと?」

「人間って、見えてるだけがホントじゃねえんだなって。こうなんて言うか、皆心に言いたいことがあって、でも言えなくて」

「当たり前じゃない」

「俺、その当たり前がたまに判らなくなっちまうんだよな。さっきだって、エレオノール姉さんが、俺等の仲を認めてくれるなんて信じられなかった」

「そうね。でも、私もそうだわ。エレオノール姉様が私に御許してくれるなんて信じられない。初めてよ。そんなの」

 才人は、(皆、ホントの自分を隠している。それには、多分色んな理由があるんだろう)と想った。その時、才人の頭に、ジュリオを始めとした知り合い達の顔が浮かんだ。

「そう言やさ」

「ん?」

「ジュリオの奴もそうだな。あいつにも、言いたいこととか、隠してたことがあったんだなあ。嫌な奴で、正直今でも嫌いだけど」

「そうね」

「セイヴァーもそうだ。最初の頃は、あいつ、自分1人……シオンと2人だけで隠し事をしてくれてた。到底信じられないだろうことだって理由と、俺達を想ってのことだろうけど。なあ、ルイズ」

「なぁに?」

「俺、本当のことが識りたくなった。この世界でなにが起こってるのか。どうして俺はこっちの世界にやって来たのか。そして、俺ができることはなんなのか。なにが正しいのか。正しくないのか。俺はもう、そう言うのから逃げない。俺には理解らないだの、馬鹿だからだの、理由を付けて投げ出したくないんだ」

 ルイズは、なにも言わず、ただコクリと首肯いた。

「だからルイズ。俺には全部本当のこと話してくれ。想ってることとか。考えてることとか。隠さなくて良い。気を遣わなくて良い。俺にとっては、おまえが全てだ。おまえがなにを考えてるのかな? とか、傷付けたかな? とか、嫌がっていないかな? とか、想っただけで、俺はもうなにも考えられなくなっちまう。詰まり、なんだ、止まりたくないんだ。なんか、世界が凄い速さで動いてて……きっと止まったら死んじまう。そんな気がするから」

 ルイズは、才人を見詰めた。それから、プッ、と噴き出した。

「馬鹿ねえ」

「ふざけて言ってるんじゃないよ」

「ううん。違うの。とっくに、私はもう想ったことは口にしてるわ」

「ホント?」

「うん。隠し事なんかなにもしてない。昔はしてた。して欲しいこととか、自分から言わなかったもの、ううん、言えなかったの」

「でも、今は言える」

 コクリと、ルイズは首肯いた。そして、優しい笑みを浮かべた。

 それだけで部屋の空気が変わり、才人は息が止まりそうになってしまった。いつもはボンヤリとしている、生きている、という実感に輪郭が付き、色が着いた。

 才人は、(ルイズの口って凄い形が好いな)と思った。そして、(どうしてこんなに好い香りがするんだろう? 俺をどこかに運んでくれそうになる香り)とも想った。

 ルイズの口が開いた。そして、魔法の言葉を紡ぎ出した。

「キスして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ガリア”と“トリステイン”の国境付近の街道に、その妙な騎乗の一団は現れた。一様に同じ修道服に身を包み、深くフードを冠っている。

 一行は峠道に差し掛かった。

 この辺りは物騒な所であり、国境付近を縄張りにする山賊が、幅を利かせている場所である。

 こういった国と国との境目は、盗賊や山賊が跳梁する場所である。旅人を襲い、直ぐに隣の国へと逃げ込む。もうそれで、官憲は手を出すことができないのである。

 そういったこともあり、証人や旅人達は国境を超える時、武装して護衛を着けるのが普通であるといえた。

 だが、彼等のような手動層を狙う者は少ない。僧に手を出すというこtは、詰まり神に唾を吐くのと同じことであり、また、こちらの方が大きな理由であるのだが金を持っていないためである。

 だが、今日の狼達は余程飢えているらしい。

 鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた場所に入った途端、一行は10人ほどの一団に囲まれたのである。

 一団の手にはそれぞれ、物騒な獲物が握られており、剣に槍、そして銃などが見える。

「止まれ」

 修道僧は行く手を塞がれ、立ち止まる。

 剣を握った男達が近付き、「馬から下りろ」と言い放つ。

「どうして馬から下りねばならんのだ?」

 先頭の修道僧が、そう言った。

 すると、山賊達は笑い転げた。

「そりゃあ、売り物になるからだろ!」

「ということは、おまえ達は金が欲しいのだな?」

 “ハルケギニア”での共通語である、“ガリア語”であったが、独特の訛りがあることが判る。

「当たり前だろ! 金が欲しいから、こうやって一生懸命働いてるのさ!」

 すると、真ん中にいる修道僧が、大声を上げた。

「働く? えっと、貴方達にとって、こうやって他人から御金や物を奪い取るのは、職業の1つなの? それは認められているの? 貴方達は政府に税を支払っているの?」

 美しい女の声であったので、山賊達は色めき立った。

「おい、おまえ、顔を見せろ」

 すると先頭の修道僧が、苛立った声を上げた。

「よせ。金ならやる」

 そして、修道僧は懐から袋を取り出し、地面に放った。

 1人の山賊がそれに飛び付き、感嘆の声を上げた。

「うお!? 砂金だ! しかもこんなに!」

「では通るぞ」

 そのまま、修道僧は通り過ぎようとした。

 しかし、山賊達はなおも立ち塞がる。

「待ちなよ。俺達ゃ勤勉でね。頂けるもんは全部頂く主義なんだよ。馬も置いてけ。女もだ」

「断る」

「じゃあしょうがねえ。こっちで勝手に頂くぜ」

 1人の山賊が、女と思しき修道僧へと近寄った。

「さて、どんだけ上玉か、調べさせて貰うよ」

 山賊の手が、女に伸びた瞬間、先頭の修道僧は厳しい声で告げた。

「そのフードを持ち上げら、命を失くすぞ。1つしかないモノだ。大事にするが良い」

 すると山賊達は、更に大きな声で笑い転げた。

「坊さんが俺達をどうにかするってよ!」

 剣の先で、山賊はツイッと女修道僧のフードを持ち上げた。

 その下からは、妖精のよう様に美しい女の顔が現れた。

「おい! こいつぁ、値段は付かねえぞ」

 山賊達は色めき立った。

「おい。おまえ達は、人を殺したことはあるのか?」

 それまで黙っていた、女の隣の修道僧が口を開いた。

「ああ。月に1度は殺めてらあ」

 そう言いながら、山賊は女修道僧のフードを、完全に引き下ろした。

「……え?」

 フードに隠れて見えなかったモノが見えた瞬間、男の思考が麻痺した。

 耳が長い……ヒトのモノではない。

 男は、(確か、こんな耳を持つ種族が……なんだっけ? 兎に角強くて美しい……)、と想い出そうとするのだが、結論は得られなかった。

 その前に、男は音もなく飛んで来た木の枝に胸を貫かれていたためである。

「“エルフ”!」

 槍を握った別の山賊が絶叫した。

 先頭の修道僧……アリィーは、再び“呪文”を唱え始める。

「森の枝よ。矢となりて、敵を貫け」

 口語の“スペル”に反応して、近くの枝が弾かれたように折れて、高速の矢となって叫んだ山賊へと襲い掛かる。

 矢は口に吸い込まれ、山賊の頚椎を貫いた。

 銃を持った2人の山賊は、“エルフ”目掛けて引き金を引いた。

 すると女修道僧――ルクシャナの左右に控えていた“エルフ”が、“呪文”を唱える。

「風よ。盾となりて我を守れ」

 銃弾は空気の盾に阻まれ、ピキンッ! と派手な音を立ててどこかに飛んで行った。

 山賊達は我先にと逃げ出し始めた。

「エ、エ、“エルフ”だッ!」

 アリィーは悲し気に首を横に振る。

「枝よ。敵を捕らえよ」

 枝が伸び、逃げ出した山賊の腕や脚に絡まる。

 枝の矢が飛び、山賊達の喉や胸を貫いて行く……。

 全部が終わるのに、ほんの数秒しか掛からなかった。

 アリィー達は、山賊達の死体を、木の枝を己の腕のように操って、森の中へと運んだ。そして、“土”の“魔法”を使ってあっと言う間に埋めてみせた。

 全てが終わった後、アリィーはルクシャナを叱り付けた。

「おいルクシャナ! なにを考えてるんだ!? いきなりあんな質問をする奴があるか!?」

 それでもルクシャナは涼しい顔である。

「あら? 質問に感じたら、なんでも質問するのが私達学者の仕事よ」

「全く……いくら相手が“蛮人”の殺人者でも、命を奪うのは気分の良いもんじゃないんだぜ」

「理解った。気を付けるわ」

「そうしてくれ。大体なあ、海から行けば、こんな苦労はしないで済んだんだ! 陸路なんて時間も掛かるし、第一危険じゃないか!」

「だって、海路じゃなにも見られないじゃない。代わり映えの為無い海面を眺めながら旅するなんて、ゾッとするわ。海は砂漠より退屈よ」

 無邪気な声でルクシャナがそう言ったため、隣にいた若い“エルフ”の男が笑った。

「これでは、どっちが隊長か判りませんな。アリィー殿」

「イドリス、なにを言ってるんだ。ルクシャナが隊長に決まってるじゃないか。僕達は御嬢様の道楽に付き合わされる、召使いみたいなもんさ」

 苦々しい声でアリィーが言うと、ルクシャナは叫ぶように言った。

「良し! じゃあ命令するわ! 誇りある“砂漠の民”よ、世界を管理する高貴なる一族の軍団よ。前進せよ! 目標! “トリステイン王国”、ド、ド、ド……」

 ルクシャナは言葉に詰まった。

「“ド・オルニエール”だ」

 アリィーが、行き先を告げた。

「全く……“蛮人”の付ける名前は覚え難いわ。人も、土地の名前もね」

 アリィーは、呆れた声で、「君は学者だろう?」と言った。

 イドリスともう片方の“エルフ”――マッダーフは、笑い転げた。

 砂漠の妖精達は、深くフードを冠り直すと、再び街道を進み始めた。

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