ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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脱出

 “エルフ”の水軍による爆雷攻撃は、やむことなく続き……俺達はとうとう船を捨てる必要が出て来た。

 爆雷を回避しながら、なんとか入江近くまで移動すると、“水中呼吸”の“魔法”で、船から脱出をした。

 ベッドから起き上がることのできないティファニアとルクシャナは、それぞれ、才人とアリィーが背負って泳いだ。

 ファーティマは、“魔法”で眠らせたまま、マッダーフが運んだ。アリィー達は、彼女を船に置いて行くことを提案したが、ティファニアが懇願したことと俺がティファニアに同調したことで、連れて行くことができたのである。

 最後にイドリスは、荷物袋に、防水処理が施された“自動小銃”や“手榴弾”、“ロケット・ランチャー”などの“聖地”から持ち出して来た“武器”を、抱えられるだけ抱えて脱出した。

 残る俺は、イドリスが抱えることができなかった分の“武器”、“武器”以外に必要になるであろうモノを抱えるなり、他の方法を用いて持ち出し、脱出した。

 そして、俺達が脱出した直後、爆雷の直撃を受けた“海竜船”は、残骸となって海の底に沈んだのである。

 

 

 

 

 

 それから、数百“メイル”ほど泳いで、砂浜に上がった俺達は、入り組んだ海岸の岩場にある洞穴の陰に隠れた。

 洞穴の壁には浸水した跡があった。恐らく、満潮時には沈んでしまうのであろう。

 俺達はなるべく乾いた場所を探すと、ティファニアとルクシャナ達の身体を地面にそっと横たえた。

「う……」

「テファ、大丈夫か?」

「うん、サイトとセイヴァーさんがいてくれるもの」

 ティファニアは健気に微笑んだ。

 才人は想わず、ドキッとしてしまい、(水に濡れた“エルフ”の服が、柔らかそうな肢体に、ピッタリと貼り付いている……と言うか、おっぱい、透けてる。凄く透けてる。こんな時に、なに考えてるんだ俺)と想い、首をブンブンと横に振った。

「ごめん、喋らなくて良いよ」

 才人はティファニアの手を握った。

「サイト、痛みは、もう大丈夫なの?」

「え? あ、ああ……」

 と、才人は曖昧な返事をした。“リーブスラシル”の輝きは、もう消えている。生命力が一気に奪い尽くされて行くようなあの不気味な感覚も今はもうない、ということに、才人はようやく気付いた。

「心配すんな。あの痛みは、“使い魔”になった時の副作用みたいなもんだよきっと。最初にルイズの“使い魔”になった時も、凄え痛かったし」

「でも、デルフさんは、命を奪うって……」

「ああ、確かに体力をちょっと奪われたけど、今はもう平気だ」

 才人は腕をグルングルンと回してみせた。

 なにしろ、“ガンダールヴ”の力を使ったとはいえ、ティファニアを背負ってここまで泳いで来ることができたのである。

 “使い魔”の命を使い、主人に“魔力”を授けるという、“リーブスラシル”の力。

 才人は、(俺自身が“魔力共有機”になったんなら、ルイズが無茶をし過ぎて倒れるんじゃないかっていう、心配事はもうないんだ。なんだ、考えてみりゃあ、中々便利な力じゃないか。これでルイズの負担が減るんなら、そっちの方が全然良い)と切り替え早く想った。

「そう、良かった……」

 ティファニアは安心したように呟くと、目を瞑り、また眠った。

 アリィーが“精霊の力”を用いて“魔法”を唱え、洞窟の中に小さな火を熾した。

「迷惑掛けるわね、アリィー」

 岩場に横たわったルクシャナが、弱々しい声で言った。

「これで僕は“エルフ”の裏切り者だ。2度と“サハラ”の地を踏めないかもな」

「ごめんね、でも、人間の世界も、そんなに悪くないかもしれないわ」

「嗚呼、くそ……いつもいつも、なんだって僕は君を放っておけないんだ」

 そんな2人の様子を見て、才人はルイズとのやりとりを懐かしく想い出した。アリィーの気持ちは良く理解るのである。ルクシャナはなんとなく、ルイズに似ているのである。胸が控えめなところだけではなく、性格とか、そういったモノなどが。

 才人は、(俺もルイズに散々振り回されたけど、惚れた弱みだもんなあ……)と想った。そう想うと、最初こそいけ好かない奴だと想っていたこの“エルフ”の青年にも才人はなんだか親近感が湧いて来たように想えた。

 そこへ、“遠見”を使って、水軍の船を偵察していたマッダーフが帰って来た。

 迫って来た水軍の船は4隻。今もなお、蛻の殻となった“海竜船”の残骸に、執拗に爆雷攻撃を続けている。

「連中、我々が脱出したことにはまだ気付いてないようだな」

「俺達を沈めたって勘違いしてくれると良いけど」

 才人がそう言うと、アリィーは首を横に振った。

「エスマイールはそんな甘い奴じゃない。直ぐに気付くさ」

「エスマイール?」

「“鉄血団結党”の党首だよ。水軍は実質、奴の指揮下にある。なにせ“悪魔”を殺すことに命を賭けてる連中だ。僕達の死体を発見するまで、手は抜かないだろう」

「そう長く、ここに隠れてる訳にもいかないってことか」

「そうだ。海岸を虱潰しにされたら終わりだ。それに満潮になったら、ここも沈んでしまうからな」

「こんな所、満足な治療もできないですしね」

 と、イドリスが言った。

 ティファニアもルクシャナも、一応、意識を取り戻すまで回復したものの、重症であることに変わりはないのである。

「その、“エウネメス”って街は、ここから遠いのか?」

「ここから、30“リーグ”ほどだ」

「結構遠いな……」

 なにしろ灼熱の砂漠である。重症の2人を背負って歩くには厳しい距離だといえるだろう。

「この辺りの砂で、2人を運ぶ人形を造ろう。少し時間は掛かるがな」

 そう言ってアリィーは砂浜の方へと歩いて行こうとする。

 がそこに、才人が声を掛ける。

「少し待ってくれ。なあ、セイヴァー。おまえの“宝具”なら、簡単に移動できるんじゃないか?」

「厳密には、でもなく、俺の“宝具”ではないがな。そうだな……彼等“英雄”達の“宝具”を借りればできるだろうな」

「そんなことができるのか?」

「ああ。俺の第一“宝具”と“スキル”の効果で、“座”と繋がり、彼等の“宝具”を無断でコピーする。それで大抵のことなら可能になる。彼等からすると、盗人行為だろうがな」

 アリィーの質問に、俺は自嘲気味に答える。

 アリィーは驚くと同時に、口を開いた。

「そうか、理解った……それで行こう……だが、他にも用意する必要があるから、少し時間をくれ」

 アリィーはそう言うと、洞窟の外へと出て行った。

 才人は洞窟の壁にもたれた。それから、デルフリンガーを鞘から抜き、小声で話し掛けた。

「なあ、デルフ、セイヴァー」

「おう」

 デルフリンガーは直ぐに反応した。

「今の俺は、ルイズとテファの“使い魔”、“二重契約”ってことで良いんだな?」

「そうだ」

「そんなことってあるのかよ?」

 “メイジ”の“使い魔”は基本1匹……その“ルール”を壊してしまって大丈夫なのかどうか、才人は不安なのであろう。

「良く理解んね。でも、確かサーシャもそうだったよ」

「サーシャも?」

「ああ、“ミョズニトニルン”と“ヴィンダールヴ”はそれぞれ違う奴だった。でも、“ガンダールヴ”と、その、“リーブスラシル”は、サーシャだった……と想う」

「それで合っている」

 朧げな記憶を辿るデルフリンガーの言葉と、デルフリンガーの言葉を確認しようとする才人からの視線に、俺は首肯いた。

 才人は、前に“ロマリア”の大聖堂で“レイシフト”したことを想い出した。意識だけが移動した先で見たサーシャとブリミルは、才人からすると、とても仲が良さそうであった。

「デルフ、おまえ、6,000年前にサーシャがブリミルを殺したって言ってたよな? ひょっとして、その話を関係あるのか?」

「どうだろうね」

「なんだよ、歯切れ悪いな」

「うん、俺もよ、なにがったのか、本当のところ判んねえんだ。ただ、凄く悲しい出来事があって、たぶ、どう仕様もなかったんだろうね……ああ、すまねえ、限界だ。これ以上は、意識に靄が掛かったみたいになっちまう」

「例のサーシャの“魔法”って奴か」

「すまねえな、相棒。力になれなくて」

「デルフは悪くねえよ」

 デルフリンガーは、サーシャが“精霊の力”を用いて造った剣である、その辺りの話は、サーシャにとって、なにか都合の悪いことがある可能性がある。話そうとすると、妙なブレーキが掛かり、デルフリンガーの意志とは関係なしに、喋ることができなくなってしまうのである。だが、実際とのころ……。

 また、他にも理由はあるかもしれない。デルフリンガーは、意思持つ剣である。言語を解し、喋ることができ、知性があり、理性があり、感情がある……そのことから、ヒトとは身体の造りが違うだけ、だと言い換えることもできるだろう。で、あれば……精神的に病むことだって可能性としてはある。想い出したくないことを、無理矢理想い出そうとして、結果、靄が掛かったように感じる、言葉が出て来なくなる、など。

 そういった2つの理由や原因が、デルフリンガーが才人の疑問を晴らそうとする意思と行為に反した結果を導いているのであろうか。

「それは兎も角として……おまえさには、差し迫った問題が1つあるな」

「なんだよ?」

「ピンクの嬢ちゃんに、ハーフの嬢ちゃんとキスしたことがバレる」

「あ……」

 才人は、(それは不味い……とても不味い)と冷や汗を掻いた。

 才人は、眠るティファニアに目を落とした。

 ティファニアは、スゥスゥと可愛らしい寝息を立てている。ユッタリと上下する大きな胸に、柔らかそうな唇。

 想わずドキッとしてしまった自分が赦せなく想えたのであろう、才人は自分の頭を叩いた。(俺の馬鹿野郎……もう2度と余所見はしない、ルイズを傷付けないと誓ったじゃないか。でも、あの時のテファのキスが、単なる“使い魔”との“契約”のキスじゃないってことくらい、理解ってる。どんな想いで“召喚”の“呪文”を唱えたのかも……)、と想った。そんなティファニアの健気な気持ちを想うと、才人の心は痛むのである。

「デルフ、セイヴァー。俺、どうしよう……?」

「モテる男は辛いやね」

「そうだな。ハーレム系主人公でも目指してみるとかどうだ?」

「おまえ等な、他人事だと想って……」

 その時、洞窟の外からアリィーが戻って来た。

「準備ができた。出立するぞ」

「なあ、こいつはどうする?」

 マッダーフが、“魔法”で眠ったままのファーティマに目を落とした。

「その辺に転がして置けば、誰かが救けるでしょう」

 イドリスが言った。

「いや、それは駄目だ。こいつが発見されれば、僕達のことを“鉄血団結党”に報告するだろう」

 アリィーが反対した。

「しばらく同行して貰う。人質としての価値がまだあるかもしれないしな」

 

 

 

 

 

 さて、時間はその少し前に遡る……。

 “ロマリア”、“ガリア”、“ゲルマニア”、それに“トリステイン”と“アルビオン”の軍隊からなる“聖地回復連合軍”は、それぞれの君主や代表の指揮の元、“砂漠(サハラ)”に向けて進軍していた。

 “連合軍”の中には、ホーキンス率いる“アルビオン”艦隊や、“ハルケギニア”最強の“竜騎士団”であるクルデンホルフ大公家の“空中装甲騎士団(ルフトパンツァーリッター)”の姿もある。もっとも、全ての国が万全の状態での出兵という訳には当然いかなかった。“ガリア”の“両用艦隊”は、ほぼ壊滅状態であるし、“トリステイン”と“ゲルマニア”それぞれの軍も度重成る戦争で疲弊している。満足に軍を編成できたのは、密かに“聖戦”の準備を整えていた“ロマリア”軍、そしてシオンとホーキンスが再編や指導などの指示を出し即座に実行できた“アルビオン”の艦隊だけである。

 ともあれ、“大陸隆起”という未曾有の危機を前にして、ようやく、“ハルケギニア”の諸国は1つに纏まったのである。

 “ガリア”を出発した“聖地回復連合軍”は、“アーハンブラ城”の周辺に野営地を展開した。“ガリア”と “サハラ”の国境に位置するその小城は、かつて才人達が、閉じ込められたタバサ母子を救出しに行った城でもある。

 元々は“エルフ”の建築した城であったが、1,000年程前、“聖地回復連合軍”が多大な犠牲を払ってここを奪取し、更に幾度モノ戦争の末、ようやく国境線を定めたという、そのような曰く付きの場所である。

 その先には、広大な砂漠が広がっている。

 ここは“サハラ”へ向かう、最後の補給地点なのである。

 

 

 

 雲間から顔を出した曙光が、“アーハンブラ城”の美しい模様を照らし出す。城壁に施された幾何学模様の装飾は、この城のかつての主であった“エルフ”達の手によるモノである。

 アンリエッタは護衛のアニエスのみを伴い、城の中に足を踏み入れた。

 玄関ホールの崩れた壁が目に入る。其れは、才人達がビダーシャルと戦った時の破壊の跡である。

 アンリエッタは階段を上り、城の最上階にある礼拝堂の前までやって来た。教皇ヴィットーリオに、今1度、戦争の回避を直訴するつもりなのである。

「アニエス、貴女はここで待っていてください」

 アニエスは一礼すると、そこで直立不動の姿勢を取った。

 礼拝堂の扉の前には、2人の“聖堂騎士”が立っていた。

「これは、アンリエッタ女王陛下」

「教皇聖下はここにおられますか?」

 アンリエッタが尋ねると、“聖堂騎士”は恐縮した様子で言った。

「聖下は御一人で祈りを捧げておられます。今は誰も入ることはできませぬ」

「そうですか。では、ここで待たせて貰います」

 アンリエッタが扉の前に立つと、“聖堂騎士”は困ったような顔をした。

「ですが……」

 と、その時である。

「構いませんよ、どうぞ」

 礼拝堂の中から声が響いた。

「教皇聖下、しかし……」

「構いません、どうぞ御通しください」

 “聖堂騎士”達は顔を見合わせると、アンリエッタのために扉を開いた。

 薄暗い礼拝堂に、仄かな月光が射し込む。

「ありがとう」

 アンリエッタは、“聖堂騎士”達に礼を言い、中に足を踏み入れると、ヴィットーリオは穏やかな微笑を浮かべて振り向いた。

「聖下、なにを祈っておられたのですか?」

「サイト殿とミス・ウエストウッド、セイヴァー殿達が、無事に見付かることを、“ハルケギニア”に真の平和がもたらされんことを」

「では、私も同じことを祈りましょう」

 アンリエッタはヴィットーリオの隣で跪く。だが、目を閉じて祈りを捧げている間、アンリエッタが考えていたのは、別のことであった。(教皇聖下は、一体なにに祈っているのかしら?)、と考える。それは既に決まっており、“始祖ブリミル”に対して祈りを捧げている、ことをアンリエッタは理解していた。と、同時に、(でも、それだけではないのでしょうね……)とも想った。

 この若き教皇は、ただの敬虔な“ブリミル教徒”ではないのである。しかし、“ゲルマニア”皇帝のような、俗世の野心家でもないのは確かである。

 ヴィットーリオを動かしているモノは、一体なんなのか。“ブリミル教徒”としての信仰、“始祖”の意志を継ぐという使命感、それとも他のなにか……。

 祈りを捧げ終えると、アンリエッタはヴィットーリオに向き直った。

「サイト殿とティファニア嬢、セイヴァー殿は、まだ見付からないのですね」

「はい、残念ながら」

 ヴィットーリオは静かに首を振った。

「ですが、腕利きの者に捜させておりますので、御安心を」

 アンリエッタは、(安心などできるものですか。“エルフ”に“虚無”の“担い手”を奪われるくらいなら、いっそ殺してしまい、新たな“担い手”を見付けた方が手っ取り早い……“ロマリア”はそう考えているに違いありませんわ)と想った。が、そのような心の呟きを、アンリエッタは当然胸中に押し込めた。

「この“聖戦”で、どれほどの犠牲が出るでしょうか?」

「判りません。とても大きな犠牲が出るのは間違いないでしょうが、それは必要な犠牲です。なにしろ、“ハルケギニア”がなくなっては元も子もない」

「教皇聖下は、悩まれてないのですね」

 アンリエッタは、精一杯の皮肉を込めて言った。ある意味で、悩むことなく、正しいといえるであろう決断のできる眼の前の男が、羨ましいとさえ想えたのである。

「それが私の使命ですから」

「聖下、私は嘗て、多くの兵を死地に向かわせました。大切な親友さえも」

 “アルビオン”での戦争で多くの犠牲者を出してしまったアンリエッタは、今でも悩んでいた。あの戦争は本当に正しかったのかどうか、自分はウェールズを殺した者達にただ復讐がしたかっただけではないのかと……。

「アンリエッタ殿、貴女は後悔しているのですか?」

「判りません」

 アンリエッタは静かに首を横に振った。

「ですが、私が後悔をすれば、死んで行った多くの将兵達に対して、余りにも申し訳ないと想うのです。聖下には、そのような後悔はないのですか?」

「後悔……そうですね」

 するとヴィットーリオは、母の形見だという“炎のルビー”に目を落とした。

「教皇である私が、後悔、することは、決して許されないのですよ」

 その時、この若き教皇の心の奥に隠された感情が、一瞬だけではあるが垣間見えたような気がしたが、アンリエッタにはその胸中を推し測ることまではできなかった。

「聖下、私は、“エルフ”との和平の道があると信じております」

「もちろん、話し合いで済めばそれが1番善い。ですが、相手もそうだとは限りません」

「ええ、理解っておりますわ。ですが、本当に“聖地”を取り戻せば、“ハルケギニア”は救われるのでしょうか?」

 この“聖地回復連合軍”の目的は、“大陸隆起”を止めるための“魔法装置”を取りに行くことである。

 しかし、アンリエッタは、“聖地”に“魔法装置”があるというヴィットーリオの言葉に、少なからず疑念を抱いているのである。(この男は、まだなにか重大な秘密を隠している……)、と。

「私はそう信じていますよ、アンリエッタ殿」

 ヴィットーリオは穏やかな表情を崩さぬまま、そう答えた。

 

 

 

 アンリエッタが礼拝堂を退出した後……ちょうど入れ替わるようにして、左右瞳の色の違う美少年が影のように入って来た。

 ジュリオである。

 その肩には、小さな梟が止まっている。

「遣いからの報告です。“アディール”の郊外で“エルフ”の艦隊と戦闘が起きました。ミス・ヴァリエールが“虚無”を使って、艦隊を壊滅させたようです」

「彼女達は無事なのですか?」

「それはまだ、なんとも」

「そうですか……」

 “アディール”にいる密偵からの報告で、才人とティファニア達が既に“カスバ”を脱出していたという報告を、ヴィットーリオは受けていた。

 ルイズ達と合流できた可能性は低いもの、とヴィットーリオは考えていた。(彼女達が見付けてくれるのなら、無論、それが最善である)、も考えていた。

 ヴィットーリオは、祭壇に置かれた“円鏡”に手を翳した。

「“始祖の円鏡”に兆しが現れました。ついに4番目の“使い魔”が現れたと」

 ジュリオは一瞬、苦しそうに顔を顰め……また直ぐに冷静な表情に戻った。

「やはり、彼がそうなのですね」

「ええ、皮肉なモノですね、“愛”故に“召喚”され、最も残酷な“運命”を背負うとは」

 ヴィットーリオは陽光の射し込む窓辺に佇むと、“始祖”の歌を口遊んだ。

 

――“神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る”。

 

――“神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。汎ゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空”。

 

――“神の頭脳はミョズニトニルン。知恵の塊神の本。汎ゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す”。

 

――“そして最後にもう1人……記すことさえ憚れる……”。

 

――“4人の下僕を従えて、我はこの地にやって来た”。

 

「最後の“使い魔”、“神の心臓”とも呼ばれる“リーブスラシル”は、その命をもって、“4の4”による“始祖の虚無”を完成させる」

「彼の命は、あとどのくらい保つでしょうか?」

「“4の4”が揃った以上、そう長くはないでしょうね」

「残念ですよ、とても……」

 ジュリオは強く唇を噛んだ。

「僕は彼のことが好きでした。僕は……彼と友達になりたかった」

 それは、偽らざるジュリオの本音であった。

 月並みな言葉ではあるが、立場が違えば……と、ジュリオはそう想うのである。

「ですが、彼の名は世界を救った“英雄”として、永遠に語り継がれるでしょう」

「“聖女”の名と共に、ですね」

「そうです、彼の“愛”する、“聖女”、の名と共に」

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