ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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突入戦

 街を照らす双月が、雲に隠れる。

 フード付きの旅装束に身を包んだ俺達は、夜の闇に紛れて、入り組んだ路地を走り続けた。

 “エウネメス”の街は、中心を流れる川を挟んで、旧市街と新市街に分かれている。“エルフ”の大祭殿があるのは、旧市街の方であり、こちらは人通りが少ない。

 才人はマントの下に、“竜の巣”から持ち出して来た、ブリミルからの贈り物である“武器”を隠し持っていた。“日本刀(デルフリンガー)”に“拳銃”、“手榴弾”……(まるで任侠映画のカチコミみたいだな)と才人は想った。

「連中め、随分入り込んでるみたいだな」

 路地の物陰から通りを覗いたアリィーが、小声で言った。

 薄暗い通りのあちこちで、軍服を着た“鉄血団結党”の“エルフ”達が目を光らせている。ここで見付かってしまえば、大祭殿に辿り着く前に戦闘になり、予定が狂ってしまう。

「余り時間はないぞ。一か八かで、強行突破するか?」

「いや、もう少し待とう。そろそろフーケが動くと想う」

 アリィーの提案に、才人は首を横に振った。

 しばらく、物陰で息を潜めて居ると……遠くで大きな爆発音が響いた。

 港の倉庫街へと向かったフーケが、陽動作戦に従い騒ぎを起こしたのであろう。

 通りを歩く“エルフ”達が、なんだなんだと騒ぎ始める。俺達を捜していた“鉄血団結党”の“エルフ”達も、一斉に爆発のあった倉庫街へと向かって走り出した。

「今だ、走れ!」

 俺達は混乱に乗じ、闇に紛れて通りを駆け抜けた。

 商店の密集した通りを抜け、旧市街の外れに近付くと、大祭殿の姿が見えて来る。

 異国情緒溢れるアラベスク模様の壁に、大きな円蓋型の屋根。建物の四角には、精緻な彫刻の施された尖塔がある。

 才人は、いつだかテレビのニュースで見た、中東の“モスク”を連想した。

 大祭殿の周囲は、頑丈そうな石壁で囲われている。正門の前には、“鉄血団結党”の党員と思しき“エルフ”が2人、見張りに就いている。

 門の周囲に、他に人影はない。

 ルクシャナの説明では、大祭殿は“エルフ”にとって神聖な場所であるため、近付く者は余りいないのである。

 そのルクシャナが、「参ったわねー……」と呟く。

「なにが?」

「この辺りの“精霊”が、掌握されているわ。もう儀式は始まってるようね」

「急がないと」

 ティファニアは焦ったように言った。

「番兵はどうする? 仲間を呼ばれたら面倒だぞ」

 アリィーが言った。

「俺が行く」

 才人はマントの下に隠したデルフリンガーを掴むと、左手甲の“ルーン”が輝き出す。次いで、建物の陰から素早く飛び出し、番兵の守る正門へと向かって、風のように走り込んだ。

「な、なんだ、おまえは……うぬ!?」

 夜闇にデルフリンガーの刃が閃く。

 番兵達が声を上げる間もなく、才人はあっと言う間に2人を倒してみせた。

「ちょっと、“エルフ”は殺さない約束よ。そりゃあ、こんな状況ではあるけれど」

 物陰から出て来たるクシャナが抗議した。

「峰打ちだよ」

 才人はデルフリンガーの刃をクルッと返してみせた。

 倒れた“エルフ”の頭などからは血は出ていない。昏倒しているだけである。

「……御見事」

「でも、この先は同じようにできるか判ら無え。どうしても危ないって状況になったら、俺は自分とテファの命を優先する」

 才人はキッパリと言った。

「それは止めないわ。でも、なるべく命は奪わないで」

「理解ってる。まあ、そう言った状況にはならないだろうな。そうだろ? セイヴァー」

「そうだな。そうならないようにするさ」

 俺と才人は首肯き合った。

「それじゃあ、乗り込むわよ」

 ルクシャナが“魔法”を唱えると、正門の錠はあっと言う間に溶け落ちた。

 

 

 

「う、うう……」

 頬に当たる、冷たく硬い床の感触で、ファーティマは目を覚ました。

 頭がフラフラしていることから、ファーティマは、自身が“魔法”で眠らされていたことに気付いた。

 両手足はロープで固定され、身動きを取ることができなくされている。ファーティマは、芋虫のような格好で、視線だけを周囲に巡らせる。

 そこは、大きな円蓋に追われた、かなり広い空間で、その中央には大量の”火石”を積んだ祭壇があるのが見える。

 その祭壇の前に、エスマイールと“鉄血団結党”の親衛隊が集まり、なにか大掛かりな“儀式”をしているようである。

 この大祭殿に宿る“精霊の力”が、祭壇に積まれた“火石”に集まって行くことを、ファーティマは感じ取ることができた。“精霊の力”が飽和し、“火石”を覆う結界が壊れたその時、この街は跡形もなく吹き飛ぶ様が容易に想像できる。

 ファーティマは、(そして、最初に死ぬのは私という訳か)と想い、クッと奥歯を噛んだ。

 ファーティマが目覚めたことに気付いた者は、まだいないようである。エスマイールも親衛隊も、“儀式”に集中している。

 だが、抵抗したところで、無駄なこともまた、ファーティマは十分に理解していた。エスマイールは、ファーティマとは比べものにならないほどに強力な行使手である。ファーティマの力では、ここの“精霊の力”を掌握することはできないのである。

 ファーティマは、(ここで死ぬのか? 私は……)と想った。そして、靴上に満ちた、これまでの半生が、ファーティマの頭の中を駆け巡る。街を一族ごと追放され、追放された先でも、“エルフ”の同胞に迫害され、叔父に誓った復讐を果たすこともできず、そして、信じていたエスマイールと“鉄血団結党”にも裏切られてしまった。

 ファーティマは、(やはり、裏切り者の一族の娘が受け入れられる場所など、この地上のどこにもなかったのだ……)と想った。

「さあ、同志諸君。愚かな“蛮人”共に、盛大な花火を披露しようではないか!」

 祭壇の前に立ったエスマイールが、良く響く声で言った。

 その時である。

 大祭殿の中で、なにかの爆発するような轟音が轟いた。

 

 

 

 大祭殿に突入する成り、才人は“スタン・グレネード”を投げ放った。

 入口付近にいた“エルフ”達は、炸裂した閃光と爆音で見当識を失ってしまい、大混乱に陥ってしまう。

 閃光がやんだ直後、デルフリンガーを手にした才人と剣を手にしたアリィーが中へと踏み込んだ。

 “スタン・グレネード”を喰らえば、数十秒ほどはマトモな動きを取ることができなくなる。

 混乱が続いているうちに、2人はあっと言う間に6人の“エルフ”を叩き伏せてみせた。

「便利な“魔道具(マジック・アイテム)”ね。私も今度作ってみようかしら」

 2人の後から、ルクシャナとティファニアと俺が入る。

 ルクシャナが“魔法”を唱えると、掌から光球が浮かび上がり、大きな通路を照らし出した。

「“火石”が集められているのは、この奥にある本殿で間違いないと想うわ」

 ルクシャナが言った。

「良し、行こう」

 俺達は通路を駆け出す。

 そのまま真っ直ぐに突っ切り、広間の様な場所へと出た、その時である。

 “ガンダールヴ”、そして“シールダー”としての直感で、才人はデルフリンガーを抜き放ち、暗闇から飛んで来た数本の炎の矢を叩き落とした。

「テファ、俺の後ろか、セイヴァーの後ろに隠れてろ!」

 才人はデルフリンガーを構え、暗闇の向こうを見据えた。

「ふん、仕留め損ねたか」

 通路の奥から、軍服姿の“エルフ”達が姿を現した。その先頭に立つのは、“エルフ”にしては体格の良い、いかにも古強者といった風貌の“エルフ”である。

「サルカン提督だ」

 アリィーが言った。

「誰?」

「水軍切っての猛将だ。ヒトの船を何隻も沈めてる」

 サルカンは、俺達の顔を見ると、獰猛な笑みを浮かべた。

「“悪魔の業”の“担い手”と、その守り手、わざわざ死地に飛び込んで来るとはな!」

 大振りの曲刀を抜き放ち、サルカンは才人の方へと突っ込んで来る。

 才人はヒラリと身をひるがえすことで躱し、デルフリンガーを一閃した。

 だが、その一撃は曲刀の護拳(ナックルガード)で受け止められてしまう。

「やりおるな、“悪魔の守り手”!」

 サルカンが“精霊の力”による“魔法”を唱え始める。

 才人はハッとして跳び退かった。

 なにもない空間に炎の矢が3本生まれ、才人に向かって飛ぶ。

 才人はデルフリンガーを振り抜き、炎を吸収した。

「相棒、気を付けろ。こいつ相当強いぞ」

「ああ、理解ってる。でも、セイヴァーのあの扱きと比べたらなんてことないな」

 才人は額の汗を拭い、笑った。

 サルカンは、剣の腕だけでも、アニエスや、“ガリア”の“花壇騎士”カステルモールと並ぶ使い手であろう、と才人は理解した。更に“精霊の力”もある。

 才人は、距離を取った。

「おまえ達、“悪魔の守り手”は俺が殺る。他の連中を捕らえろ」

 サルカンが部下の“エルフ”達に命じる。

 才人は、(不味いな……剣を使えるアリィー、セイヴァーは兎も角、テファとルクシャナをかばいながらでは、上手く戦えない。それに、ここで時間を消耗しているうちに、増援が来てしまう可能性が……なら……)と考え、懐から“手榴弾”を取り出し、背後のアリィーに投げ渡した。

「なんだこれは? 果物……?」

「俺の世界の“武器”。まあ、“魔道具(マジック・アイテム)”だと想ってくれて良い。持っててくれ。使い方は……」

 才人は、もう1つの“手榴弾”を手に取ると、口でピンを抜き、真横の壁に放り投げた。

 ドオオオオオオオオンッ!

 耳をつんざくような轟音が響き、石の壁が粉々に砕け散る。

 崩れて大穴が空いたその先は、別の通路と繋がっていた。

「ここは俺1人で引き受ける。皆は、“火石”の所へ行ってくれ」

「でも、サイト!」

 ティファニアが心配そうな声を上げる。

「俺は大丈夫だ。それより、“火石”を早く止めないと……」

「理解った。行こう」

 アリィーが首肯き、ルクシャナを促した。

 ティファニアはまだ心配そうに才人を見ていたが、才人が親指を立ててみせると、コクンと首肯き、穴の方へと走り出した。

「そうはさせん!」

 サルカンが“魔法”を使おうとする。

 だが、才人は、「皆を頼んだ! セイヴァー!」と叫び、床を蹴ってサルカンの懐に飛び込む。次いで、デルフリンガーを一閃した。

 それと同時に、俺は3人の後を追う。

 風のような“ガンダールヴ”、そして“サーヴァント”としての素早さに、剣を受けたサルカンは舌を巻いた。

 才人は更に踏み込み、(このまま押し切る)、とデルフリンガーを力任せに振り下ろした。

 サルカンを巻き込むのを恐れてか、部下の”エルフ”達は、”魔法”を唱えて来る様子はない。2人の剣戟に割って入る勇気もないようである。

 才人は、(真っ先に頭を潰せば、後はなんとかなる)と考え、サルカンに反撃の隙を与えず、次々と剣を繰り出した。

 その猛攻に耐えかね、サルカンの体勢がわずかに崩れる。

 才人は、(貰った……)とそう想った瞬間、剣を握る手に鋭い痛みを感じた。

 サルカンが手にしている曲刀から、激しい炎が吹き上がったのである。

「くっ……」

 才人は咄嗟にデルフリンガーで炎を吸い込んだ。

「大丈夫か? 相棒」

「ああ……デルフ、おまえも平気かよ?」

「心配すんな。まだまだ、吸い込んでやる」

 デルフリンガーが頼もしい口調で言った。がしかし……デルフリンガーの力にも当然限界がある。“エルフ”が使用する“精霊の力”を吸い込み続ければ、またあの時のように壊れてしまうのは簡単に予想できることである。

「相棒、増援が来やがるぞ」

「理解ってる」

 通路の奥から、大勢の足音が近付いて来る。

 このままでは、あっと言う間に囲まれてしまうだろう。そうなれば、流石に“ガンダールヴ”の力だけでは突破は難しくなり、“シールダー”としての力を使えばどうにか防戦と時間稼ぎをすることはできるだろう。

「どうした“蛮人”? 動きが止まったぞ!」

 サルカンが曲刀を振り下ろした。

 才人はそれを片手で打ち払った。と同時、左手で“自動拳銃”を素早く抜き、即座に引き金を引く。立て続けに3発、腹を狙って。

 だが、銃弾は尽く弾かれてしまった。

 軍服に空いた穴から、青白く輝く光が見える。サルカンは、“魔法”の帷子のようなモノを着込んでいるのであろう。

「ほう、“蛮人”の武器か!」

 叫び、サルカンがなにか“呪文”を唱えた。

 瞬間、拳銃が凄まじい熱を帯びる。

 才人は慌てて拳銃を投げ捨てた。

 真っ赤に灼熱した拳銃が空中で爆発する。

「くそっ!」

 才人は焦った。

 剣の腕そのものは、間違いなく才人の方が上である。だが、相手は剣の動きに、強力な“精霊の力”を織り混ぜているのである。そして、防御の“魔法”を使うことのできない才人は、その攻撃を1発でも貰ってしまえば、即致命傷になってしまう……その事実が、才人の剣の冴えを鈍らせているのであった。

 そして、何選り……此処にはルイズが居無い。

 守るべき御主人様が側にいなければ、“ガンダールヴ”の心は全く震えないのである。“シールダー”は、“盾の英霊”というだけのこともあり、守るべき対象が側にいてこそ力を発揮するのである。

 才人は、(この、腕輪を使えば、なんとかなるか……?)と考える。

「これで終わりだ!」

 と同時に、サルカンが、炎を纏う曲刀を大きく振り被った。

 隙の大きいその動きに、才人は想わず、踏み込んだ。

「駄目だ、相棒!」

 デルフリンガーが叫んだ。

 才人は、(しまった!)と想った。

 が、遅かった。

 “魔法”の罠により、才人の足元が爆発する。

 才人の身体は宙高く放り上げられ、そのまま、地面に思い切り叩き付けられる。

 全身がバラバラに砕け散るような衝撃に、才人は想わずデルフリンガーを掴む手を離してしまった。

「相棒、早く、早く俺を握れ!」

「デル……フ……」

 仰向けに倒れたまま、才人はデルフリンガーを握ろうとする。だが、落下の衝撃によって脳震盪を起こしてしまったらしく、指が痺れて動かない。

「見事だったぞ、“悪魔の守り手”よ。俺は寛大だ。苦しまずに逝かせてやる」

 近付いたサルカンが、才人の首筋にピタッと曲刀の刃を突き付けた。

 才人は、(嗚呼、駄目だ……ごめん、テファ、俺、ここまでだ。ここは俺1人で引き受ける、なんて格好付けちまったのかが良けなかったのかな……?)、とその刃のヒンヤリとした感触に、抵抗を諦めてしまった。

 遠退く才人の意識の中に浮かんで来るのは、やはりルイズの顔であった。桃色がかったブロンドの髪に、透き通った白い肌、魅惑的な鳶色の目、小さな可愛らしい胸……。

 才人は、(ルイズ……もう1度逢いたかったなあ、嗚呼、ちくしょう)と想った。

「おい、相棒、諦めんな! 俺を握れって!」

 デルフリンガーの喚く声が、才人には遠くに聞こえ、(……んなこと言ったってなあ、デルフ、手が動かねえんだよ。しょうがねえだろうが……)と想った。

 才人の真上で曲刀の刃が閃く。

 と、その瞬間である。

 曲刀を振り上げたサルカンの姿が、忽然と消えた。

「え……?」

 才人は目をパチクリとさせた。

 いや、消えたのではない。サルカンは、横合いから、なにか見えないハンマーのようなモノに殴られ、真横に吹き飛んだのである。

 サルカンは、壁に衝突して引っ繰り返っている。

「な、なんだ……?」

 才人は痛む頭を押さえつつ、起き上がった。

「情けない姿だな。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ」

 聞き覚えのある声に、才人はハッと振り向いた。

「お、おまえは……!」

 

 

 

 船着き場近くの倉庫街では、フーケの造り出した“ゴーレム”達が暴れ回っていた。停泊する小船を引っ繰り返し、積み荷の箱や木樽を手当たり次第に放り投げる。更にフーケは“錬金”で積み荷の塩を火薬に変え、次々と爆発させるのであった。

 その大騒ぎに、“鉄血団結党”の“エルフ”達が続々と集まって来る。

「さて、そろそろ潮時かね。囮の役目は十分果たせただろうし」

 倉庫の屋根の上で“ゴーレム”を操っていたフーケは、やれやれ、と肩を竦めた。

 もう“魔法”を使うための“精神力”の残りも少なく、流石のフーケもこれだけの数の“ゴーレム”を1度に操るのは骨が折れるのである。

「まあ、逃してくれりゃ、良いけどね」

 フーケの声には余裕がない。逃げ隠れするのは得意ではあるが、“エルフ”相手に無事に逃げ果せることができるのかどうか自信がないのである。

「やあ、御嬢さん、御困りのようですね」

「良かったら、御手伝いするけど?」

 フーケは振り返る。

 気が付けば、倉庫の屋上に奇妙な二人組がいた。

 1人は、黒い帽子にマント姿の若い“貴族”。もう1人は、フリフリのドレスを纏った、人形の様に美しい少女である。

「なんだい、あんた達は?」

 フーケは2人に“杖”を向けた。“エルフ”ではないことは確かだが、ただの“メイジ”にしては、どうにも可怪しな雰囲気を持っていることに気付いたのである。

「君の同業者さ。“土くれのフーケ”」

「同業者?」

「“元素の兄弟”。名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「まさか……!」

 “元素の兄弟”。

 勿論、フーケも知っている。裏の世界ではかなり有名な名前である。

 正体不明の7号と並ぶ、“北花壇騎士団(シュバリエ・ド・ノールバルテル)”切っての掃除屋。残忍あつ狡猾で、これまで任務に失敗したことは1度もないという。

 先代の“ガリア”王が死んでからは、傭兵家業に転身したという噂ではあるのだが……。

「“元素の兄弟”が、どうしてこんな所にいるんだい?」

「僕達も、“ロマリア”に雇われたのさ。“ハーフエルフ”の娘と……ヒリ……ヒレ……えーと、なんだっけ?」

「ヒラガ・サイトよ、ドゥードゥー兄様」

「そうそう、ヒリガル・サイテだ。2人の身柄を確保するようにってね」

 フーケは、(なるほど、そういうことか……)と納得した、

 フーケ達が任務に失敗した時の保険、あるいは、最初からフーケ達の方が保険だったか。

「あの教皇も、とんだ喰わせ者だね」

「因みに、僕達の報酬は、4人で300,000“エキュー”さ」

「なんだって? あたし達より、ずっと高いじゃないか」

 300,000“エキュー”といえば、領地付きの城が買える金額である。

「それだけ、僕達の腕を買ってるってことなんだろうさ」

 ドゥードゥーはふざけた調子で言った。

「ドゥードゥー兄様、無駄話してる場合じゃないわ。長耳さんがこっちに来るわよ」

 ドゥードゥーが倉庫の下に視線を向けた。

 “エルフ”達が、倉庫を取り囲んで“精霊の力”による“魔法”を使おうと“呪文”を唱えている。

「仕方ないね。ジャネット、一暴れして来るよ」

 ドゥードゥーが愉しそうな笑みを浮かべ、“ブレイド”の“呪文”を唱えた。

 “杖”の尖から、青白い光が大木のように伸びる。他“メイジ”が唱える“ブレイド”などよりも、遥かに大きい。

「なんだい、あの桁外れの“魔力”は!?」

「私達には、ちょっと秘密があるのよ」

 驚くフーケに、ジャネットは、ふふ、と微笑んだ。

 そのとんでもない大きさの“ブレイド”で、ドゥードゥーは“エルフ”達を斬り捲くる。たった1人で、“エルフ”と互角以上に戦ってみせている。

「あーあ、ドゥードゥーの奴、また勝手に始めやがったな」

 と、また別の人影が屋根に降り立った。

 今度は、巨漢の男と、妙に鋭い目をした12歳程の子供である。子供の方は、奇妙な形をした巨大な管楽器を手にしている。

「ダミアン兄さん、任務対象の2人。ここにはいないみたいよ」

「ふん、無駄足だったか」

「どうかな? 同業者さんがここにいるってことは、意味があるんだろ?」

 ダミアンと呼ばれた子供が、フーケの方に目を向ける。

「まあね、ここに“エルフ”共を引き付けとけば、2人はもっと安全になるよ」

 フーケは言った。

 だが、才人達が“火石”を止めるために大祭殿に向かったことは伏せた。 “元素の兄弟”が、フーケ達と同じ任務を受けているのだとすれば……(場合によっては、あの娘を消そうとしかねない)と想っためである。

「ふうん、それじゃあ、ここをさっさと片付けようかね」

 そう言って、ダミアンは管楽器のスイッチを入れると、ラッパの先を地面に向けた。

 低い唸りと共に管楽器が震え出し、内側から“魔法”の光が迸る。

 その光が地面に当たると、石畳はグニャリと形を変えて、沼地になった。

 倉庫の周囲を取り巻く“エルフ”達は、ズブズブと沼地に沈んで行く。

「おいおい、ダミアン兄さん。僕まで沈めないでくれよ!」

 上半身まで沼に浸かったドゥードゥーが、悲鳴を上げた。

「悪いね、この“常時錬金”、あんまり加減ができないんだ」

「やれやれ、滅茶苦茶な連中だね……」

 と、フーケは呆れ顔で呟いた。

 

 

 

「お、おまえは……」

 才人は唖然として言った。

 暗がりから姿を現したのは、鍔の広い羽根付き帽子に黒マント姿の“メイジ”……それは、あの“アルビオン”で戦った、才人にとっての仇敵であった。

 “レコン・キスタ”に協力し、アンリエッタの恋人かつシオンの兄であったウェールズを暗殺した男……“虚無”の力を手に入れるためにルイズの心を利用しようとした男。

 才人は、その名を忘れたことなどない。

 ジャン・ジャック・ワルド。

「ワルド……てめえが、なんでこんな所にいやがる!?」

 才人は、全身の痛みも忘れて叫んだ。

「マチルダから聞いていないのか? 俺達は“ロマリア”に雇われたんだ。“エルフ”に攫われたおまえ達を捜して保護するか……それが無理なら、命を奪えとな」

「なんだと!?」

 才人の心が怒りで震えた。

 才人は、(フーケばかりか、“レコン・キスタ”に協力してたこいつを雇うなんて……“ロマリア”はなにを考えてやがるんだ? こいつは、ウェールズ皇太子を殺したんだぞ)と想った。また、それと同時に、(いや、あの教皇やジュリオのことだ。あいつ等、“聖地”を取り戻すためなら、どんな汚いことだってするんだろう……でも、セイヴァーが見逃してるってことは……でも、セイヴァーもあいつ等とやってることは同じなんだよな……)とも考えた。

「だが、その様では、今ここでおまえを殺した方が楽かもしれんな」

「くっ……!」

 才人は、(こいつの前で……よりによって、こいつの前でだけは、情けない姿は見せられねえ)と想い、手を伸ばしてデルフリンガーを掴むと、ヨロヨロと立ち上がった。

「ふぬ、まだ伏兵がいたか」

 引っ繰り返っていたサルカンが復活した。

 増援の“エルフ”達も、通路の奥から続々とやって来る。

「“悪魔の守り手”共を取り囲め!」

 サルカンが命令した。

 才人達はたちまち、“エルフ”の軍人達に取り囲まれてしまう。

「相棒、喧嘩してる場合じゃねえみたいだよ」

「理解ってるよ……」

 才人とワルドは剣と“杖”を構え、背中合わせに立った。

「どうした? 震えているぞ? シュバリエ・ド・ヒラガ」

「煩え」

 腕はまだ痺れてはいるが、才人は強がってみせた。

「良いか? おまえの助けなんて要らねえ」

「それは頼もしいな」

 ワルドは“杖”に“ブレイド”の“呪文”を掛ける。

 渦を巻く真空の刃が“杖”の先に生まれた。

「マチルダはどうした?」

「フーケのことか? 外で囮を引き受けてくれてるよ」

「そうか……」

 ワルドの声に、微かな焦燥があった。

「一気に突破するぞ。私と同時に動け」

「うるせ、命令すんな」

「死にたいのか? 言う通りにしろ」

「ぐ……」

 才人は反論しかけて、やめた。

 なにしろ、ワルドは強いのである。ルイズの母親と同じ、“魔法衛士隊”の隊長だった男である。これまでに、幾つもの修羅場を潜って来たであろう。

 ワルドが動いた。“ブレイド”を纏った“杖”を手に、“エルフ”の集団へと斬り掛かる。

 才人も同時に動く。左手甲の“ルーン”が光り、向かって来た2人を同時に叩き伏せてみせる。

「近付くな。遠距離で仕留めろ!」

 サルカンが怒鳴った。

 “エルフ”達は攻撃方法を“魔法”に切り替え、四方八方から炎の矢や光の矢を放つ。

 才人はデルフリンガーを振り抜いた。

 “魔法”を吸引したデルフリンガーの刀身が、光を放つ。

 乱戦になった。

 眼の前の“エルフ”を叩き退しながら、才人は視線の端でワルドを追った。

 ワルドは、流石に強かった。

 “エルフ”を相手に、“風”の“魔法”を織り混ぜた戦い方で、集団を翻弄しているのである。剣の腕も“魔法”の威力も、“アルビオン”で戦ったその時よりも遥かに凄みを増しているのが、才人には理解できた。

 才人は、(負ける訳には行かねえ!)と跳躍し、サルカンのいる場所まで一気に跳んだ。

「おおおおおおおっ!」

 刃を打ち合う音が響き、火花が散る。

「ぬうう……!」

 サルカンは、先程までとはまるで動きの違う才人の気迫にたじろいだ。

 才人には、相手の動きの1つ1つが、ハッキリと手に取るように認識できた。また、(ちくしょう、”ガンダールヴ”の心が震えてやがるんだ……認めたくはねえ。だけど、認めざるをえない。確かデルフの言った通りなら、”ガンダールヴ”の強さは、心の震えで決まるんだっけか? 怒り、悲しみ、“愛”、喜び……なんだって良い。心震わせれば、その力は何倍にもなる)と想った。

「此の、“悪魔の守り手”めがっ!」

 動きを捉える切れぬ才人に業を煮やし、サルカンが大振りの一撃を振り下ろす。

 その瞬間、才人はサルカンの懐に飛び込んだ。“魔法”の帷子で守られた胸部目掛けて、デルフリンガーを想い切り振り抜く。

「ぐぬ……!?」

 才人の腕に、確かな手応えがあった。

 サルカンは、パクパクと空気を求めるように喘ぎ、そのままに床に沈み込んだ。

 其の光景を目の当たりにした“エルフ”達の間に、動揺が奔る。

 突破するチャンスである。

「行け。後は私が引き受けよう」

 と、ワルドが言った。

「なに?」

「早くしろ。私も“火石”の巻き添えにはなりたくない」

「ワルド、てめえ……」

 才人はほんの一瞬だけ、跳躍してから、「絶対、死ぬなよ」と言った。

「俺は、ルイズを騙したおまえのこと、絶対に赦さねえ」

「気が合うな。なら、おまえも絶対に死なぬことだ」

 才人は走った。混乱から回復しつつある“エルフ”達の間を一瞬で摺り抜ける。

 “エルフ”達は慌てて、才人を追おうとした。

 だが、ワルドは既に“呪文”を唱えていた。

「“ユビキタス・デル・ウィンデ”……」

 “呪文”が完成すると、ワルドが16人に分身した。

 “風の偏在(ユビキタス)”……“アルビオン”で才人を苦しめた、“風系統”の“スクウェア・スペル”である。

 が、その時よりも人数が増えている。

 それぞれ“杖”を手にした16人のワルドが、“鉄血団結党”党員達の前に立ちはだかる。

「来給え、諸君。元“グリフィン隊”隊長、“閃光”のワルドが御相手しよう」

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