「ルイズ!」
才人はフットバーを蹴り込み、機体を回転させた。スロットルを絞り、減速。油圧系統を操作して主脚と尾輪を下ろす。
驚く兵士達の表情が見える。“メイジ”の集団が一斉に“杖”を向ける。“マジック・アロー”に、“ファイアー・ボール”、“エア・ハンマー”、“魔法”の一斉掃射である。
「相棒、避けろ!」
「いや、流石に無理だって!」
“メイジ”達の“魔法”が雷雨の如く降り注ぎ、主翼を直撃した。期待は空中で大きくバランスを崩し、兵士達の間に突っ込んだ。
「――退けえええええええええ!」
操縦桿を手前に引きながら、才人は叫ぶ。
密集した兵士達は、蜘蛛の子を散らすように左右へ逃げる。
機体の脚が地面に接地し、激しい火花が散った。
才人はフットバーのペダルを踏み込み、車輪の油圧ブレーキを掛ける。
だが、十分に速度を落とし切れなかった機体は、滑る様に地面を滑走し、斜めに傾いた主翼が地面に接触してしまい、ポッキリと折れ飛んだ。
「相棒、早く脱出しろ! 機体がバラバラになっちまう!」
「無茶言うなよ!」
才人は、操縦席のベルトとハーネスを外した。
“ゼロ戦”に、パラシュートは一応ありはするのだが、脱出装置などというモノは当然ないが……そもそも、そのようなモノを使っている場合ではない。
才人はデルフリンガーを掴んだまま、滑走する機体から飛び出した。
放り出された才人は、そのまま地面を転がる。制御を失った“ゼロ戦”の機体は、岩に乗り上げて大きく跳ね上がり、地面に激突して大破した。
「痛えええええええ!」
才人はデルフリンガーを握ったまま、ヨロヨロと立ち上がる。
周囲を見渡すと、“聖杖”を持った“聖堂騎士”達に取り囲まれている。
才人の視界は既に霞んでおり、デルフリンガーの“使い手”を動かす力にも当然限界がある。デルフリンガーに蓄えられた“魔法力”が失くなれば、才人の身体は完全に動かなくなってしまうだろう……。
「相棒、でえじょうぶか?」
デルフリンガーが言った。
「目が霞んでる……周りのもんが、良く見えねえ……」
「俺が目になるよ、相棒」
才人は顔を上げた。霞む視界の先に、小さな太陽のような光球がある。
「デルフ」
「おう」
「俺、ルイズのとこまで、辿り着けるかな?」
「相棒ならでえじょうぶだ……とは言えねえな、正直」
「ふざけんな、正直過ぎるだろ」
才人は苦笑した。
「なあ、デルフ。俺、死にたくねえよ。そんな簡単に、死ぬ覚悟なんてできねえんだよ。だって俺、“英雄”でもなんでもねえ、ただの高校生だ」
「うん」
「でも、でもよ……」
「でも?」
「俺、ルイズに逢いてえ」
「大丈夫だよ、相棒……必ず逢える。それに、死ぬこともねえよ、たぶんな」
才人は、デルフリンガーを握り締めると、“聖堂騎士団”の集団の中へと駆け出した。
敵の中に飛び込んでしまえば、才人は恐怖を忘れることができた。デルフリンガーが、これまで温存していた“魔法力”を、惜しみなく注ぎ込んで来れているためである。
才人は、まるで一陣の風のように斬り込んだ。
“聖堂騎士”達は、才人の姿を見ることなく、次々と薙ぎ倒されて行く。
「恐れるな! 賊はわずか1騎だ!」
「教皇聖下と“聖女”をお守りしろ!」
騎士団長らしき青年が、“聖杖”を真上に掲げて怒鳴った。
騎士達が“杖”を空に向け、“呪文”を唱え始める。“ロマリア”の“聖堂騎士”が得意とする、集団での“呪文”――“賛美歌詠唱”である。
“魔法”の矢が一斉に放たれる。
数百本の矢は空中で向きを変えると、才人目掛けて一気に降り注いだ。
“フレイム・ボール”と同じ、目標を自動追尾する“魔法”である。さしもの“ガンダールヴ”のスピードでも、“魔法”の速度ほどは速くはない。
だが、“サーヴァント”としての能力もあり、才人はデルフリンガーを振り回して、“魔法”を吸い込ませてみせた。
吸い込んだ“魔法”の力は、才人の身体を動かす力になる。“魔法”を吸収すればするほどに、才人は恐ろしく加速した。
「おう、ありがてえな! これでまたやれる」
デルフリンガーが言った。
「無理すんなよ」
「その言葉、ソックリ相棒に返すよ」
「まあな」
才人は凄絶な笑みを浮かべた。
肩に穴が空き、血が噴き出した。これが、純粋な“サーヴァント”であれば、放たれたそれ等は“神秘”の薄い攻撃でるために、痛みはあれどダメージはなかったであろう。が、才人はヒトである。流石に、数百本もの“魔法”の矢を、全て受け止め切ることはできなかったのである。
“火竜”に跨った“メイジ”が、空から襲い掛かって来る。“火竜”の目で在れば、風のように移動する才人の事も捕捉できるであろう。
「相棒、右上だ!」
デルフリンガーの声に反応して、才人は我武者羅に剣を振った。
(ルイズ、そこにいるんだよな……)
才人の目はもう、ほとんど見えていなかった。
眩く輝く、小さな太陽を目指して、前へ、前へと突き進むだけである……。
「デカイのがいる、真正面だ」
「おおおおおおおおおおおっ!」
才人は地面を蹴って加速した。
眼の前に立ちはだかったのは、背丈が3“メイル”もある岩の“ゴーレム”である。
才人はデルフリンガーを両手で振り被ると、乱暴に打った斬ってみせた。
才人の通った後は、まるで嵐に薙ぎ倒された麦穂のようである。
その恐ろしいほどの戦い振りに、兵達の波が引き始める。
「もう少しだ、相棒」
「ああ……」
だが、蓄積されたダメージは、徐々に才人の動きを鈍くした。
才人の身体は、当然ながらもうボロボロである。骨は何本も折れ、致命傷と思しき傷も多数ある。
「相棒、今度は上だ。“風竜”が来る」
才人の頭上で激しい風が巻き起こる。
次の瞬間、才人の身体は横殴りに吹き飛ばされてしまった。
次いで、“風竜”の鋭い鉤爪が、才人の肩を抉る。
「く……そ……!」
「相棒、早く立ち上がれ! また来るぞ!」
才人は立ち上がると、頭上を睨む様に仰ぎ見た。
シルフィードよりも大型の“風竜”は、旋回してまた戻って来る。
「驚いたな、サイト。“
「ジュリオ、てめえ!」
聞き覚えのある声に、才人は怒鳴った。
“風竜”は、ジュリオが操るアズーロであった。“ヴィンダールヴ”が操る“風竜”は、目にも留まらぬスピードで急降下攻撃を仕掛ける。
「デルフ、何方だ!?」
「右……いや左か? あんにゃろ、変幻自在な動きしっやがる!」
「くそっ!」
才人はほとんど直感で飛び込み、すれ違い様に、デルフリンガーを一閃した。
だが、刃はアズーロが持つ“風竜”の硬い鱗を1枚剥がしただけである。
「悪いけど、“聖女”、の元へは辿り着かせないぜ、兄弟」
ジュリオが腰のサーベルを抜き放った。
“聖堂騎士”が次々と薙ぎ倒されて行くように、教皇の近衛達は混乱に陥ってしまった。
なにしろ、敵の正体がなにであるのか、全く判らないためである。
姿を見せぬまま、徐々に近付いて来るそれは、まさに荒れ狂う旋風であるといえるだろう。
だが、そこにいたティファニアには、その正体が直ぐに理解った。
(サイトが来たんだわ!)
透き通った紺碧の瞳から、涙が溢れる。
「おお、あれこそ1,000の軍に匹敵する“
ヴィットーリオが言った。
才人がここに来ることは、ヴィットーリオにとっては計算違いの出来事であった。
が、彼のその表情には、まだどこか余裕があるように想わせるモノがあった。
「あれは、ジュリオの手に余るかもしれません」
「ジュリオ……」
ジョゼットが“杖”を構え、才人に向かって“虚無魔法”を唱えようとした。
だが、同時に、ティファニアも“杖”を構え、ヴィットーリオとジョゼットに向け突き付けた。
「サイトさんには、手は出させないわ」
ティファニアは、震える声で言った。
それが、心優しく育ったハーフ“エルフ”の少女の、精一杯の勇気であった。
ティファニアは、ヴィットーリオやジュリオが可怪しな動きをすれば、“
しかし、ヴィットーリオはあくまで、余裕の表情を崩さない。
「良いでしょう。どのみち、ミス・ヴァリエールは、“愛”するサイト殿の命を救うことを選ぶのです。“始祖ブリミル”と同じ過ちを犯すことはないでしょう」
「そうね。あの娘は、ルイズは、サイトの命を救けるわ。自分の命をなげうってでもね」
「ミス・エルディ!?」
「満身創痍だな、サイト! そんな身体で、僕と戦うつもりか!?」
「煩え!」
ジュリオはアズーロを巧みに操り、何度も急降下攻撃を仕掛ける。
才人は地面を転がりながら、振り下ろされる爪を躱した。
(これが、“ヴィンダール”が操る“風竜”!)
才人は、ジュリオと1対1で殴り合うことはありはしたが、“ヴィンダール”の力を使ったジュリオとまともにやり合ったことはなかった。ジュリオは、“魔法”を使うことはできはしないが、“メイジ”などよりも、遥かに手強い相手である。
ジュリオの振り下ろしたサーベルの切っ先が才人の頬を掠め、血が流れた。
(ちくしょう……ルイズは、直ぐそこなのに……)
ジュリオがまた、反転して来る。
才人はよろめき、立ち上がった。
(次の交差の瞬間に、翼を打った斬る……!)
だが、そんな才人の宛は外れてしまった。
アズーロは口を大きく開くと、才人目掛けて、ブワッと炎の
“火竜山脈”に棲む“火竜”並の、凄まじい炎である。
「――おわっ!?」
才人は地面を転がり、炎をギリギリで回避する。
しかし、その行動は読まれていた。
体勢を崩してしまった才人に、ジュリオのサーベルが襲い掛かる。
才人は咄嗟に反応し、サーベルを打ち払った。
「くっ……」
「相棒、すまねえ。残念な知らせだ」
「何だよ?」
「実は、もう、相棒を動かす力がほとんど残ってねえ」
「そうか……」
才人は、膝を突いた儘歯噛みした。
ボロボロになったパーカーの下で、“リーヴスラシル”の“ルーン”が激しく輝いている。
(後少し、後少しなんだ……なんとか、ルイズに、俺の声を届かせる距離まで……)
才人は、デルフリンガーをダラリと提げたまま、ユックリと前進した。
太陽を背に、ジュリオを乗せたアズーロが滑空して来る。
「デルフ、頼みがある」
「おう、なんだ?」
「おまえの“魔法力”、全部使って、俺を動かしてくれ」
「良いのか?」
「ああ」
「良し来た」
才人は、デルフリンガーを左手に提げたまま、ジュリオが突撃して来るのを待った
「なんだ、諦めたのか?」
ジュリオが怪訝そうな声を上げた。
その瞬間、デルフリンガーの“魔法力”が一気に流れ込み、才人の身体は宙高く跳ね上がった。
「おおおおおおおおっ!」
綺麗な放物線を描き、才人はジャンプした。
「――なに?」
ジュリオは一瞬、面喰らったものの、直ぐにアズーロを操り、旋回させる。風竜“を相手に空中から攻撃するなど、ほとんど自殺行為である。
だが、才人は空中で、隠し持ったオートマチックの“拳銃”を取り出し、即座に発泡した。
乾いた音と共に、ジュリオの肩から血が噴き出した。
バランスを崩したジュリオは、真っ逆様に落下する……。
アズーロは主人を追って飛んだ。
「これで、おあいこだな」
才人の身体は、地面に激しく叩き付けられた。
才人が落ちたその場所は、ポッカリと空いた“聖地”の中心部であった。
がむしゃらに突き進んだ才人は、もうルイズの直ぐ側まで来ていたのである。
白く霞む視界の向こうに、“ロマリア”の巫女服を着た、ピンク髪の少女の姿が、才人には見えた。ハッキリと顔は見えないが、ルイズであることだけは理解った。
「ルイズ……」
才人は、喘ぐように声を振り絞った。ほんの数十“メイル”先に、ルイズがいる。“愛”しいご主人様がいる。それだけで、“使い魔”である彼の心が激しく震えた。
才人は立ち上がった。デルフリンガーを杖代わりに、ボロボロの足を引き摺って歩く。
教皇ヴィットーリオの近衛騎士達が、ヨロヨロと歩く才人に“杖”を向けた。
「相棒、狙われてるぜ?」
「んなこと言ったって……もう避けられねえよ」
と、ルイズがサッと“杖”を振り、近衛達に向かって叫んだ。
「あんた達、1人でも“魔法”を唱えたら、あの“虚無”を頭の上に撃ち込むわよ!」
ルイズの言葉に、近衛達が固まった。
近衛達は判断を仰ぐ様に、ヴィットーリオへと視線を向ける。
教皇が首を横に振ると、近衛達は“杖”を下ろした。頭上に“虚無”を従えた“聖女”の言葉は、ただの脅しと片付けるには、危険過ぎる賭けである。
いや、ルイズであれば、賭けもなにも、実際に行動に移すであろう。
(……どのみち、教皇に俺は殺せねえ)
なにしろ、才人は“生命”を唱えるために必要な、“魔力”供給機なのだから。
才人はよろめきながら、ルイズのいる方を目指して進んだ。
(ちくしょう、身体が、想うように動かねえ……)
“リーヴスラシル”の“ルーン”は、今も才人の体力を容赦なく削り、デルフリンガーの力も残り少ない。少しでも気を抜けば、そのまま倒れてしまうだろう。
(でも、まだ死ねない。“聖地”に“生命”を撃たせるまでは……)
才人の視界には、もうルイズしか見えなかった。
誰も動かず、誰も声を上げなかった。
“聖地”の中心部に、奇妙な静寂が訪れた。
才人は、一歩、一歩、前に進んだ。
そして、ようやくルイズの側まで来ると、才人は力尽きるように膝から崩れ落ちた。
「ルイズ」
「サイト」
同時に名前を呼び合った。
ルイズの声を……愛しい恋人の声を聞いた途端、才人の胸に、なにか温かいモノが満ちる。
「サイト、待っていたわ」
ルイズは、目元の涙を拭って言った。
「なんだよ……俺が来ること、判ってたみたいじゃねえか」
膝立ちになったまま、才人は苦笑した。
「夢で見たの」
「夢?」
「ええ、夢にサイトが出て来たの。サイトと私の……主人と“使い魔”の絆が教えてくれたの。貴男が、きっと来てくれるって」
そう言って、ルイズは、はにかむように微笑んだ。
「そっか……」
そう言う、これまでにも何度かあった。
ルイズがワルドに殺されそうになった時、シェフィールドが操る“ヨルムンガント”にルイズが握り潰されそうになった時、才人の目にはルイズの視界が映し出され共有された。ティファニアの“魔法”で記憶を失ったルイズとキスをした時、2人の記憶が伝わり合ったこともあった。
「待っててくれたんだな、ルイズ」
「ええ」
と、ルイズは首肯いた。
才人の胸は感動で一杯になった。
才人は、(そうだ、早くルイズにあのことを伝えねえと……)と想い、「ルイズ……おまえに、伝えたいことがあるんだ」とヨロヨロと立ち上がり、必死に声を振り絞った。
「あのさ、俺、“レイシフト”したんだ。あの“ルーン”を通して……6,000年前に行って、ブリミルさんが教えてくれたんだ。“ハルケギニア”を滅亡させる“風石”の暴走は、この“聖地”が引き起こすモノなんだって……だから、この“聖地”を、おまえの“虚無”で吹っ飛ばせば、“ハルケギニア”を救うことが……」
「ねえ、サイト」
唐突に、ルイズは才人の言葉を遮った。
「私とあんたが、初めて出逢った時のこと、覚えてる?」
「……ルイズ?」
突然、そのようなとを言い出したルイズに、才人は当然戸惑いの表情を浮かべた。
「私は、良く覚えてるわ。“学院”の“アウストリの広場”で、あんたは光の“ゲート”を潜って、私の眼の前に現れたのよ。私、“平民”を“使い魔”にするなんて絶対嫌よって、コルベール先生に駄々を捏ねて、あんたのこと鞭で叩いたり、藁束のベッドに寝かせたり、食事を抜いたり……意地悪なこと、散々したわね」
ルイズは、鳶色の瞳に薄っすらと涙を浮かべて言った。
「でも……でも、あんたは、私のこと、ずっと助けてくれた。守ってくれたわ。フーケの“ゴーレム”に潰されそうになった時、ワルドに殺されそうになった時も、私のために駆け付けてくれた。110,000の“アルビオン”軍を止めるためにセイヴァーと2人だけで頑張って、故郷に帰るチャンスもあったのに、私のために、傷付きながら、一生懸命戦ってくれたわ。それなのに、私、ずっと素直になれなかった……」
ルイズの頬を、涙の滴が伝う。
「でお、あんたは、ずっと、そんな私の側にいてくれた。そんな私のこと、好きって言ってくれた。意地悪で、チッポケで、可愛くない私のこと、好きだって。本当に、嬉しかったわ……」
才人は、(なんだろう? ルイズはどうして、突然、こんな話をし始めたんだ……?)と奇妙な胸騒ぎを覚えた。
「ルイズ、ごめん、今は俺の話を……」
「知ってるわ」
「え?」
「私も、あの場所にいたもの。6,000年前の“聖地”に。サイト達から、少し離れた場所にいたの」
才人はハッとした。
(サーシャがブリミルを殺した、あの出来事を、ルイズも見てただって……? いや、でも、考えてみりゃあ……sおれおど不思議なことじゃないよな。これまでだって、俺とルイズは、視界や記憶を共有して来たんだ。なにかしらの理由で、一緒に“レイシフト”してもなにも可怪しくはない……)
「じゃあ、おまえ、“聖地”の正体を知って……」
「ええ。“聖地”を“虚無”で吹き飛ばせば、“ハルケギニア”を救うことができるわ」
ルイズは、声を震わせながら、首肯いた。
「それじゃあ……」
「でも……しれじゃ、駄目なの」
「……? なに言って……?」
「だって、それじゃ……あんたが、救われない」
ルイズの瞳に溢れた涙が結界し、ポタポタと落ちる。
「ルイズ……ルイズ、おまえ……」
才人は、(ルイズは一体、なにを考えているんだ……?)と混乱した。だが同時に、この先の展開のことを予想することもできていた。が、認めたくないがために、判らなくなってしまっているのである。
「だからね、サイト……私、考えたの。1番良い方法を」
そして、ルイズは“虚無”の“ルーン”を唱え始める。
頭上の光球が膨れ上がり、同時に、才人の胸の“ルーン”が激しく輝き出した。
「これが、サイトを救うたった1つの方法」
ルイズは“杖”の先を、“アメリカ”軍基地が映る“ゲート”の方へと向けた。
「……ルイ……ズ……あ、ぐ……」
“リーヴスラシル”の“ルーン”が才人の体力を奪い、“虚無”の力を増大させる。命そのものが燃え上がるような激痛に、才人は胸を押さえてのたうち回る。
「教皇聖下と“始祖の祈祷書”が教えてくれたわ。“聖地”を征服して、“始祖”の悲願を叶えれば、この世界から“虚無”の力が消える……サイトの命を救けることができる」
“生命”の光球が更に大きく膨れ上がる。
「や、め……ろ……」
才人は、息も絶え絶えに声を振り絞る。
“ハルケギニア”を救うためではない。
ルイズは、才人の命を救うために、“地球”を滅ぼそうとしている……才人は、そう想った。
「駄目だ……ルイ……ズ……ルイズ……!」
才人は、デルフリンガーを握り締め、必死に立ち上がった。
6,000年前に“レイシフト”して見た、ブリミルの最期の姿が、才人の脳裏に過った。
あの後悔と苦渋に満ちた断末魔の嘆きを、才人は想い出した。
この時、才人の中では、“地球”を守るだとか、そのようなことは二の次に成っていた。
(させられ無えよ……ルイズにそんな悲しい想いは、させられ無え……!)
「止めろおおおおおおッ!」
才人は、最後の力でデルフリンガーを引き抜いた。そして、今当に“生命”を放たんとするルイズを止めようと、足を踏み出した、その瞬間……。
ルイズが“杖”を捨てて、才人の方を振り向いた。
(……え?)
才人の頭は真っ白になった。
振り向いたルイズは、ニコッと微笑むと……その身体をトン……と軽く投げ出した。
それが、余りにも自然で、日常の動作となんら変わらない所作に見え、才人は反応することができなかった。
次の瞬間、才人が握ったデルフリンガーの刃が、アッサリとルイズの胸を刺し貫いた。
「う……あ……」
才人は、そのまま、凍り付いたように固まってしまった。
目を見開き、呆然として立ち尽くした。
眼の前の光景が、現実だとは、想えなかった……想いたくなかったのである。
ルイズが身に纏う、真っ白な巫女服が、血の赤に染まって行く。
「之で、良いわ……これで良いの……」
ルイズは血の気の失せた顔で、健気に微笑んだ。
「之で、貴男の命は救かるわ……死ぬ時は一緒ねって、その約束は果たせなかったけれど……もう1つの約束は、果たせる……貴男を、元の世界に……」
ルイズは其の儘、才人の胸に身を寄せた。
「ルイ……ズ……」
「ほら、“ゲート”が、もう直ぐ消えてしまうわ。い、急ぎなさいよね……元の世界に戻るチャンスは、これが最後なんだから……」
「ルイズ……」
「貴男は男のだから、生まれた世界を取るべき……でも、私は女だから。“聖女”にはなれなかったけど、貴男の恋人として死ねる。幸せだわ……」
ルイズは、満足そうなほほ笑みを浮かべ、最後の言葉を口にした。
「……好きよ、サイト。大好き」
その瞬間、世界から、“虚無”、の力が急速に失われ始めた。