ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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虚無の終焉

 その頃、“オストラント号”の甲板上では、ギーシュ達“水精霊騎士隊(オンディーヌ)”の少年達が、心配そうに、才人達の飛び立った“聖地”の方角を見詰めていた。

「サイトの奴やセイヴァー、シオンちゃん、大丈夫かな?」

「まあ、止めても利かん奴等だからね」

 のんびりと呟くマリコルヌに、ギーシュは相槌を打つ。

「あいつは、倒されても、倒されても、僕の“ワルキューレ”に立ち向かって来たんだ。“下げたくない頭は下げられない”、ってね。とんでもない頑固者だよ」

「確かにそうだね。でも、セイヴァーやシオンちゃんもそうだよ。2人もサイトに負けず劣らず頑固者だ。他人の話は聴いて参考にしはするけど、これと決めたら話を聞くだけで自分の信じる道を行くんだから。まあ、セイヴァーの奴は、凄い力を持ってる。まあ、性格は悪いけどね」

 と、そこへ、“水蒸気機関”の修理をして来たコルベールが戻って来た。

「“聖地”の様子はどうかね?」

「変わりはありませんよ。軍隊がどんどん上陸してる……」

 “遠見”の“魔法”で“聖地”を見張っているレイナールが答えた。

「うむ、そうか……」

 コルベールが顎に手を当てた、その時である。

 同じく“遠見”の“魔法”で“聖地”の様子を見て居たマリコルヌが、突然、叫んだ。

「な、ななな、な……!?」

「マリコルヌ、どうしたんだね?」

 ギーシュが眉を顰めた。

「なんだか、“聖地”の様子が可怪しいぞ!」

「様子が可怪しいのは貴男でしょ」

 呆れたように言って、キュルケが“遠見”の“魔法”を唱えた……が、そして、まあ、とマリコルヌ同様に驚きの声を上げる。

「どうしたのかね? ミス・ツェルプストー」

「大変! “聖地”が落ちて行くわ!」

「なんだって!?」

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……と地響きのような音が、空に響き渡る。

 上陸した軍隊で溢れた“聖地”は、地獄の釜を引っ繰り返したかのような大混乱に陥った。

 浮上していた“聖地”が、ユックリと降下をし始めたのである。

 “竜騎士”や“メイジ”は短時間空を飛ぶことができるが、“平民”の兵士達は当然そうもいかない。パニックに陥った兵達は、当然先を争うように“フネ”に殺到する。

「“虚無”の力が失われる……まさか、このようなことが……」

 揺れる大地の上で、教皇ヴィットーリオ・セレヴァレは天を仰いだ。“始祖”より授かりし――隔世的に受け継いで来た“虚無”の力が、身体の内から弱まり失われて行くのが理解るのである。

「アンも言ってたでしょ? 聖下。“心を従わせることができません。人の心にこそ、神は住んでおられるのですから”、と」

 そんなヴィットーリオへと、シオンは諭すように言った。

 だが、今の彼には、シオンの言葉は届いていない。

 虚空に開いた巨大な“ゲート”が、ユックリと閉じ始める……。

 “始祖”の悲願で在る“聖地”を前に、ヴィットーリオは唯呆然と立ち尽くすのみである。

 この世界から、“虚無”の力を消す方法は、原則2つしかない。

 1つは、“聖地”の奪還。

 そして、もう1つは……“ガンダールヴ”が、その主人を殺すこと。

 ルイズは、その2つ目の方法を、行ったのである。

「彼女は、ミス・ヴァリエールは、一体どこで知ったと? いえ、今となっては、どうでも良いことですね……」

 ヴィットーリオは、自嘲するように首を横に振った。

 彼は負けたのである。最後の最後に、彼女――ルイズの“愛”に敗北したのである。

 彼女は、“愛”する少年の命と、此の“ハルケギニア”を天秤に掛け、少年を選んだのである。

 彼女は、自らの命を差し出し、少年を死の“運命”から救ったのである。

 “聖地”の至る所で地割れが起き、地面に大きな亀裂が奔る。

 混乱と喧騒の中で、ヴィットーリオは、消滅した“炎のルビー”の台座を見詰めた。

「全ての希望は潰えた。母上、私は今、貴女の御許に参りましょう」

 ヴィットーリオは“始祖”の祈祷を唱え、大地の亀裂に身を投じた。

 その後、彼の“使い魔”が、その後を“使い魔”である“風竜”と伴に追い掛ける。

 

 

 

 地面の振動も、喧騒の音も、才人には聞こえなかった。

 才人は、血に染まり冷たくなりつつあるルイズの身体を抱き締めたまま、嗚咽し続ける。

「ルイズ……なあ、ルイズ……目を開けてくれよ、なあ!?」

 ルイズは、もう息をしていない。

 クルクルと良く動く鳶色の瞳は、開かない。

 血の気の失せた彼女の顔は、微笑ま無い。

「どうして……どうしてだよ? ……ルイズ!」

 才人は、ルイズのピンクが掛かったブロンドの髪を掻き抱く。

(ルイズ……俺の恋人。大好きな、ご主人様。意地っ張りで、プライドが高くて、正義感が強くて……俺のことを、好きだ、と言ってくれた女の子……)

 ポタポタと、とめどなく流れる涙が、ルイズの頬を濡らした。

「なあ、セイヴァー! こうなるって判ってたんなら、どうして止めないんだよ!?」

 糾弾するように、才人ルイズを抱いたまま、は俺を見上げ問い詰めて来る。

「…………」

 そんな才人に、俺は言葉を掛けずただ言われるがままである。返す言葉がない……ありはするが、それでも言わない方が良いかもしれない。“情報を操り、汎ゆる事象や事柄や疑問に対する最適解を導く”効果を持つ“宝具”を持ってしても、それだけは、この時になんと口にすれば良いのかだけは判らなかった。そもそも、人とは見たいモノだけを見て、知りたいモノや知ろうとするモノしか知ることができない傾向があるといえるだろう。

 俺は、表層部分ではなにか言葉を掛けようとはしているが、深層心理の方ではそうではない、ということであろう。

 才人の左手甲の“ルーン”の光が弱まる。

「消えるなよ……なあ、消えないでくれよ……これは、ルイズと俺の絆何だ……消えないでくれ……」

 才人は、左手を押さえて叫んだ。

「ちくしょう……これじゃ、6,000年前と同じじゃねえか……」

 “ガンダールヴ”が主人を殺せば、“虚無”の力は消滅する。

 才人が“レイシフト”をして知ったことは、ルイズもまた“使い魔”や“サーヴァント”とのパスを通して同じく“レイシフト”した結果知ることができ、才人に自身を殺させるように仕向けたのである。

 それが、才人と彼の世界の両方を救う、ただ1つの方法だと信じて。

 ルイズは、自分と“ハルケギニア”の未来を犠牲にしてでも、才人を救おうとしたのである。

 才人は、冷たくなったルイズの頬に触れた。

「ルイズ、おまえさ、俺がギーシュにボコボコにされた時、三日三晩、看病してくれたよな? それから、街へ剣を買いに行ったり、キュルケやタバサと一緒にフーケの“ゴーレム”と戦ったりして……そんで、おまえ、“フリッグの舞踏会”で、初めて俺とダンスを踊ってくれたんだ。ドレスを着たおまえにドキドキしたの、今でも覚えてるよ」

 才人は震える指先で、ルイズの髪をソッと撫でた。

「それから、“アルビオン”でワルドと戦ったり、“魅惑の妖精亭”で一緒に働いたり、色々冒険もしたよな? ほら、おまえの実家に帰った時、“忠誠に報いるところが必要ね”って、そう言ってくれたじゃねえか。俺、あん時、おまえが認めてくれたんだって想って、滅茶苦茶嬉しかったんだぜ……」

 ルイズとの想い出は、尽きることなく才人の頭の中を駆け巡った。

 “アルビオン”での結婚式、“スレイプニィルの舞踏会”、皆でタバサと彼女の母親を救出した冒険、“ロマリア”でのデート、記憶を消さざるをえなかったルイズとの再逢、“ド・オルニーエル”での穏やかな生活。

(あん時は、俺と姫様がキスしたのを見て、出て行っちまったんだっけ……)

 楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、辛いこと……色々なことを、才人は想い出す。

「俺、“東京”にいる時は、なにも考えずに生きて来た。毎日、学校に行って、御飯食べて、ただ、退屈に生きてたよ……」

 才人は、ルイズの体を強く抱き締めた。

「でも、ルイズ。おまえに出逢って、俺、色んなことを知ったんだ。おまえは俺を、どこか別の場所に連れてってくれるんだ。ここじゃないどこかに……」

「……イトさん! サイトさん!」

 才人が振り向くと、大地に入った亀裂の向こうで、シエスタとティファニア、それにアンリエッタが、必死に叫んでいた。

「サイト、セイヴァーさん、逃げないと! そこにいたら、死んでしまうわ!」

 ティファニアが心配そうに叫んだ。

「…………」

 才人は、ごめん、と首を横に振った。ここに残って、ルイズと一緒にいたいのである。

(理解ってる……俺が死んだら、ルイズのしたことが無駄になることも。でも、ルイズのいない世界なんて、生きてても意味がない……もう、“地球”に帰ることも、“ハルケギニア”の未来も、なにもかもどうでも良い……約束したんだ、死ぬ時は一緒だって……だから、最期はルイズと一緒にいる)

 才人は、必死に呼び掛けているシエスタとティファニアとアンリエッタに向かって言った。

「テファ、シエスタ、姫様……ごめん! 皆に、よろしく頼む!」

 3人に向かって、大声で叫ぶと、才人は、ルイズの身体を抱いて立ち上がった。

 ズズズズズズンッ……と、地面が大きく揺れ、地割れが更に広がった。

 ティファニア達は、ずっと俺達の名前を呼んでいたが、やがて、大地が完全に分断され、その姿も小さくなってしまう。

 才人には、ルイズの身体が軽く感じられた。

(こんな小さな身体で、ずっと、世界の命運なんてもんを背負って来たんだな……)

 そう想って、また才人は、涙が込み上げて来るのを感じた。

(こんなにも小さな女の子が、命を賭けて、俺と“地球”のことを救ってくれたんだ……)

 才人はルイズの身体を抱えたまま、ユックリと、亀裂の方へと足を踏み出した。

 人間としての大事なモノが欠けているのかもしれないが、俺は、そんな才人に声を掛けることもせず、ただ静かに見守った。

 この先の展開を識っているためでもあるのだが。

(ルイズ、俺の大好きな、恋人……ずっと一緒にいるよ。“ハルケギニア”に天国なんてもんがあるのか、判んねえけど……そんなもんが、もしあるなら、そこで結婚しよう)

 才人は、真っ暗な亀裂を見下ろした。

「く……」

 覚悟を決めていても、やはりいざとなると、才人の足は竦んでしまう。

「くそっ、ちくしょう……」

 才人が、恐怖感を紛らわそうと大声で叫んだ。

 その時である。

 抱き抱えられたルイズの身体が、ボウッと青白く光っていることに、才人は気付いた。

 才人は、(……なんだ?)、と眉を顰め、良く良く見詰めた。

 光を発していいるのは、デルフリンガーである。

「デルフ?」

「おう、相棒。馬鹿なことすんじゃねえぞ」

 デルフリンガーは言った。

「嬢ちゃんの意志を、無駄にすんな」

「デルフ、おまえ……」

 才人が呆然としていると……。

「想い出したんだ。俺の……最期の役目をよ」

 デルフリンガーの刀身は、増々激しく光り出した。

「最期の役目?」

「ああ、そうだ……なあ、相棒、俺はよ、ずっと不思議に想ってたんだ。“魔法力”を使って、“使い手”を動かす力……なんのために、あんな能力があるのかってな」

「なんのためって……“使い魔”を死なせないようにするんじゃないいのか?」

「ああ、俺もそう想ってた。でもよ、違った。そうじゃなかったんだ」

 デルフリンガーの放つ光は、ますます輝きを増す。

「俺はよ、ずっと、サーシャに造られたんだと想ってた」

「違うのか?」

「いや、違わねえ……違わねえんだが、正確には、俺を造ったのは、サーシャとブリミル、詰まり2人の合作だったんだ」

「ブリミルさんが?」

「そうだ。俺には、あの2人の意志が篭められてたんだ。想えば、俺の記憶をブロックしてたのは、どうもブリミルの方の意志だったらしいんだが……まあ、それは兎も角よ、ブリミルの野郎は、死の間際、俺に、“虚無”の“魔法”を込めたらしい」

「それが、デルフの“使い手”を動かす能力なのか?」

 才人は尋ねた。

「おう、そういうこった。ブリミルが俺に遺したのは、命を与える“虚無”の“魔法”。破壊を司る“生命(ライフ)”と対になる、謂わばもう1つの“生命(ライフ)”ってとこだな」

「デルフ、一体なにを言って……?」

 才人が言い掛けた、その時……。

 ビギッ……。

 デルフリンガーの表面に、小さな罅が入った。

「デルフ?」

「想えば、俺は6,000年間、この時のために生きて来たのかもしれねえ」

 表面に奔る罅が大きくなる。

 同時に、デルフリンガーの刀身から放たれる光が強さを増して行く。

「デルフ!」

 才人はハッとして、相棒の名前を叫んだ。デルフリンガーがなにをしようとしているのかに、気付いたのである。

「デルフ、おまえ、まさか……」

「そんな顔すんなよ、相棒」

 デルフリンガーは、いつもの調子で言った。

「これは、セイヴァーの野郎が識っていること、こうあるべきだと想って手を出さないでいることだぜ? それになにより、おりゃあ、相棒と出逢えて、楽しかったぜ。お別れすんのは残念だが、なに、後悔はねえさ。俺は、6,000年生きて来て、ちゃんと自分の使命を全うできた。道具冥利に尽きるってもんだ」

「……道具じゃねえ。デルフは、道具なんかじぇねえよ!」

 才人は涙声で言った。

「道具じゃねえ……おまえは、俺の親友だろがよ」

「おう、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。相棒……嬢ちゃんを幸せにするんだぜ。もう、浮気すんなよ」

「デルフ……」

 その時、才人は気付いた。

 ルイズの身体の大きな傷は癒え、冷たくなっていた身体――指先が微かに動いたことを。

「……ルイズ?」

「上手く、行ったみてえだな……」

 デルフリンガーは、呟くように言った。

「あばよ、相棒。今度こそ、本当にお別れだ」

「デルフ、待ってくれよ、デルフ……」

「おまえさんに出逢えて、幸せだったぜ」

「デルフ――ッ!」

 その瞬間、ルイズを包む光が、閃光のような輝きを放つ。

 そう想ったその瞬間に、デルフリンガーの刀身がバラバラに砕け散る……本来の歴史ではそうなるはずであった、が――。

「そりゃ無理だ。申し訳ないけど」

 俺はそう言って、デルフリンガーの刀身に触れる。

 すると、デルフリンガーの罅割れた刀身は、デルフリンガーの“魂”を保持し、造られて直ぐの状態と同じ頃にまで戻る。

 

 

 

「……ん、うん……」

 ルイズは、ユックリと目を覚ました。

 ルイズの眼の前には、黒髪の少年がいる。

 涙で顔をグシャグシャにして、少年はなにかわあわあと叫んでいる。

 ……才人である。

 才人が、ルイズの名前を呼んでいるのである。

(なに? どういうこと?)

 ルイズは当然混乱した。

(だって、私はさっき、死んだはずじゃないの? サイトの命を救うために、デルフリンガーに胸を貫かれて死んだはずよね? うん、間違いない。あの時、私は死んだ。確かに死んだわ。じゃあ、ここはどこ? どうして、サイトがいるの?)

 その時、ルイズは、ハッとした。

(もしかして、天国なの? 嗚呼、そうなんだわ、きっと。私、天国に来ちゃったのね……)

 ルイズは自己完結し納得した。

(あれ、でも、待って頂戴。ここが天国だとすると……どうして、サイトがここにいるの? 私は今天国にいて、 サイトもここにいる……ということは、詰まり、ええと……)

 ルイズは、幾秒か考えて、結論を出した。

「あ、あ、あああ、あ……」

「あ?」

「あ、あんた、なにしてんのよぉ~~~~~~~!?」

 ルイズは才人の股間を想い切り蹴り上げた。

「いってええええええええええええ!?」

 悶絶している才人を、ルイズは立ち上がりゲシゲシと容赦なく踏んだ。

「馬鹿馬鹿っ、私、あんたを救うために死んだのに、あ、あんた、わ、私の後を追って死んだのね!? 馬鹿よ、ホント、馬鹿! うわあああああああああん!」

「ま、待て! 待て待て! 落ち着け、ルイズ!」

 ルイズに踏まれながら、才人は叫んだ。

「お、落ち着けですって!? よ、よくも、よくもそんなことが……」

「おまえ、生き返ったんだよ」

「……へ?」

 ルイズは、キョトンとした。

 それから周りを見回し、先ず俺に気付き、そしてここが“聖地”であるということにも気付いた。

「……生き返った、ですって?」

「うん、信じられないかもしれねえけど……」

 才人は立ち上がると、ルイズの手を握った。

 才人の手には、しっかりと温もりがある。

「ど、どうして? だって、私、死んだじゃない……そうよね?」

 ルイズは不安そうに言った。

「デルフが、おまえのことを救ってくれたんだ」

「デルフが?」

「うん」

「そうそう。俺の、最期の役目……だと想って命を与えたんだけどねえ……」

 才人とデルフリンガーはことの成り行きを、ルイズに話した。

「デルフ……あんたは、いつも、いつも私達を救けてくれたわね」

「そうだな」

「よせやい、照れるじゃねえか」

「私も……私も、あんたのこと、大切なお友達だと想っていたわ」

「デルフ、ありがとう」

「……おう」

 真っ直ぐなルイズと才人の言葉に、デルフリンガーはどこか照れたように応えた。

「だけどよ、格好付けて“最期の役目”だって言って、死にそうになっちまったが、セイヴァーに救けられちまったなあ……」

「なに、おまえが死ぬのは今ではないというだけだ」

「でも、なんでルイズとデルフは生きてるんだ? ルイズはデルフのおかげで生き返ったっていうのは理解るけど……」

「簡単なことだ。才人、聞いたことはないか? ヒトが死んだと判断されるのは、脳死判定されてからだと」

「脳死?」

「心臓が止まってから、5分ほどは猶予がある。ルイズの場合は、デルフリンガーに貫かれたことによる、痛みと出血多量などによるショック死、その他諸々。だが、心臓や脳に直接的なダメージが行った訳ではないから、簡単に蘇生できた。そして、デルフリンガーの方だが」

 単純に|状態を――デルフリンガーの刀身の時間だけを巻き戻した《本来あるべき姿を算定して自動修復させた》、と言う前に、地面が大きく揺れた。

「な、なに?」

「“虚無”の力が消えただろ? それで“聖地”の“精霊の力”が暴走しちまってるんだ」

「そんな……」

「いや、より正確に言えば、“虚無”の力はまだ失われていない。弱まっているがな……数年後には、消え失せるだろな」

 俺の補足に納得して首肯き、才人は俺達を促した。

「行こう。死ぬ訳にはいかねえよ」

「ええ。才人、あんた身体、ボロボロじゃない……大丈夫なの?」

「ああ、“リーヴスラシル”の“ルーン”は消えたし、まだ、なんとか……あれ?」

「どうしたの?」

「いや、なんか、身体が軽いって言うか……」

「当然だ。“リーヴスラシル”の“ルーン”によるあれは消え失せたんだ。まあ、最初こそ寿命が奪われて行たが、途中から体力だけを奪うように変化させていたからな。そして、さきほど、少しばかりデルフだけじゃなく、おまえにも似たようなことをした」

 俺は少しばかり意地の悪い笑みを浮かべ、才人へと言った。

「なるほどなあ。だから、相棒の身体が変だった訳か……」

 デルフリンガーは納得した様子で言った。

 “ゼロ戦”が壊れたために使えず、他の脱出手段はないかと、才人はキョロキョロと辺りを見回した。

「……兎に角、中心から離れよう」

 才人はルイズの手を取り、俺と3人で走り出した。

 

 

 

 地面が大きく揺れる。

 なにあしろ宙に浮かんでいるために、揺れ方が地震の比ではない。あちこちに大小に亀裂が生まれ、才人とルイズは何度も転びそうになった。

「だんだん、落下の速度が上がってるわ!」

「“虚無”の力が弱まってるんだ」

 眼の前の小さな亀裂を跳び超えようとした時、ルイズの足元の地面が崩れた。

「――きゃあ!?」

「ルイズ!」

 足を踏み外してしまったルイズの腕を、才人が強引に引き寄せる。

 元の足場はボロボロと崩れ、真下の海に落下した。

「サイト、ありがとう」

 ルイズはヘナヘナとへたり込む。足がもう限界なのである。

 才人の方も、もう走ることはできそうにない様子であった。“リーヴスラシル”の“ルーン”が消え、これ以上体力が奪われることはないとはいえ、傷だらけの身体で少ない体力を振り絞ってよくぞここまで走ることができたものだと称賛すべきほどであるる。

 岩盤はどんどん崩れ、俺達は大元と切り離されて、小さな岩の上に取り残されてしまった。

「くそ、このままじゃ……」

 才人は焦り、呟いた。

 ルイズは“フライ”も“レピュテーション”も使えない。誰かが気付いて、救助しに来てくれるのを待つ、というのもあるが……。

 才人は、俺を見やった。

「なあ、セイヴァー。おまえが普段使ってる、あの黄金色の船みたいなのは?」

 それから、才人が俺へとそう問うた。

「才人、セイヴァー、あれを見て……」

 それとほぼ同時に、背後を振り返ったルイズが、上を指さした。

 “聖地”が崩落し、少しずつ降下して行く中、巨大な中心部だけは淡い光を放ち乍ら空へ昇って行こうとしている。

「ありゃあ、“大いなる意思”と呼ばれた“精霊石”の本体だな」

 “ハルケギニア”中の“風石”を共鳴させ、大陸の大隆起を引き起こす現況。

 デルフリンガーが言った。

「あんなもん、どうすりゃ良いんだよ……?」

 あれをなんとかすることで、“ハルケギニア”を救うことができるのだが……才人とルイズは、直ぐにはその方法が想い付かない様子である。

 その時。

 才人は、遥か頭上に輝く光球に気が付いた。

「“生命(ライフ)”だ……」

 才人は呟いた。

 光球はかなり小さくなりはしたものの、その輝きは衰えてはいない。“リーヴスラシル”の命と体力を消耗させてえた、莫大な“虚無”の力が、まだ残っているのである。

「なあ、ルイズ」

 と、才人は言った。

「あれ、まだ唱えることはできるか?」

「あれ?」

 ルイズは頭上を見上げると、直ぐに才人の言葉を理解した。

「……判らない。でも、やってみる価値は、あるかもしれないわ」

 真剣な表情でそう呟くと、ルイズは懐から“杖”を取り出した。

 あの大きさでは、もう、本来の“生命”ほどの威力は発揮しない。

 そもそも、ルイズは“生命”を完成させるための、最後の“ルーン”を唱えていないのである。

 詰まり、あれは“生命”ではなく、精々が、特大の“爆発(エクスプロージョン)”といったところである。

 だが、あの“聖地”の中心部を吹き飛ばすくらいのこと、簡単にできるほどの威力を持っている。

「私、やるわ」

 ルイズは、深呼吸をして、“杖”を真上に向けた。

 才人は首肯くと、腕に手を添えて、ルイズの身体を確りと抱き締めた。

 2人の間には、わずかに熱に浮かされたかのような高揚感があった。

 その高揚は、心地好くルイズを冷静にさせる。

 全ての感情が、“呪文”の調べに乗って、身体から出て行くかのような感覚を、ルイズは覚えた。

 ルイズは、その感覚に、身を任せた。

 初歩の初歩の初歩の、“虚無”の“魔法”の1つ。

 “爆発(エクスプロージョン)”。

 膨れ上がった閃光が“聖地”の中心部を呑み込んだ。

 同時に、足元の岩が崩壊し、俺達の身体は重力に引かれ落下する……。

「ルイズ、やったな……おまえ、本当に世界を救っちまったんだな……」

 才人はしみじみと呟いた。

「ええ……でも、もう……」

 このままじゃ絶対に救からない、と想い、才人とルイズの2人は目を閉じた。

「いや、大丈夫だとも。ほら」

 俺がそう言ったのと同時に、2人の身体が、グンッとなにかに引っ張り上げられた。

「な、なんだ?」

 見上げると……大きな“風竜”が、才人とルイズの身体を掴んでいた。

「やあ、中々派手にやってくれたじゃないか、3人共」

「ジュリオ!」

 2人を掴んでいるのは、グッタリしたヴィットーリオを口に咥えたアズーロである。

 俺は“フライ”を唱え、飛行する。

「これは1個、貸しにしておくぜ、サイト、セイヴァー」

「なにが賃しだよ!」

「あっはっは、しっかり掴まっていたまえ。なにしろ、僕はもう“ヴィンダール”としての力を十全に発揮できないからな。荒っぽい飛行になるぜ」

 アズーロは、きゅわっ、と鳴くと、大きな翼を羽撃かせ、大空を舞った。

 が、その時である。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 海の底から山が浮かび上がる時や巨大な“ゲート”が開かれた時よりも、大きな音が鳴った。

 いや、それはとある強大な生命の鳴き声である。

 大地や大空を震わせ、裂いて、他生命という生命に本能的な恐怖などを与える、超古代からの声。

 6,000年前よりも遥か昔に存在した、生き物。

 海を裂き、それは姿を現した。

「な、なんだよ……? あれ」

 才人達は、それを見て呆然とし、呟くしかできなかった。

 アズーロの挙動が可怪しくなる。

「さあ、ボスラッシュの始まりだ」

 超巨大な“竜”……いや、“龍”――“エンシェント・ドラゴン”が姿を見せた。

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