ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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目覚めし災厄

「……う……ううん……あれ、は……!?」

 “エンシェント・ドラゴン”の咆哮を聞き、ヴィットーリオは目を覚ました。そして、“エンシェント・ドラゴン”を目にして、驚きの声を上げる。

「一体、何が……」

「取り敢えず、艦隊に戻って合流しよう」

 ジュリオがそう言って、アズーロへと指示を出す。

 アズーロの動きはぎこちないものの、ジュリオに従い、艦隊へと向かった。

 

 

 

 艦隊の方でも、当然大混乱が起きていた。

 “竜母艦”に乗っていた“竜”達が、暴れ出したのである。

 “メイジ”達や兵達は、暴れる“竜”に振り回され、艦は暴走する“竜”達の攻撃を受け、彼方此方で火が着き、煙を上げている。

 至る所から怒号や悲鳴が聞こえて来る。

「一体、何事です?」

 “聖マルコー号”へと着艦し、ヴィットーリオは直ぐに状況を知るために近くにいる兵へと声を掛けた。

 だが、兵達は混乱しており、収集が着かない状態、状況である。

「――静まれ!」

 俺のその声が、鶴の一声となり、“聖マルコー号”に乗艦する者達は冷静さを取り戻す。

「取り敢えず、“竜”達を落ち着かせ、その後、撤退を」

 ヴィットーリオのその言葉に、皆は首肯き、行動を開始した。

 兵達は、暴れる“竜”達を“魔法”で眠らせ、他の艦に連絡を取り、一斉に撤退を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アディール”へと後退し、即座に“評議会(カウンシル)”が使用する会議室を借りて会議が行われることになり、各国の代表者は集まった。中には、“エルフ”の代表としてテュリュークとビダーシャルもいる。

「あれは一体……?」

「あれは、恐らくですが、“エンシェント・ドラゴン”でしょう」

 皆の疑問を代弁するように、1人が疑問を口にした。

 その疑問に、ヴィットーリオは推測を述べた。

 皆一様に、恐怖などを感じている様子を見せている。

 当然であろう。

 得体の知れない存在。なおかつ、あれは文字通り、この場にいる皆とは次元の違う存在である。

「そして、今、その怪物は、ここ“アディール”へと向けて進んでいます」

 ヴィットーリオのその言葉に、皆が動揺する。

「恐れてはなりません。死力を尽くせば、必ずや討伐できます。“エンシェント・ドラゴン”がここに到達する前に、海上で迎え撃ちます。“始祖ブリミル”に祝福されし“聖堂騎士”、そして“大いなる意思”の元に戦う“エルフ”の力を見せてください」

 この会議での会話は、外にいる騎士達や戦闘に参加する“エルフ”達に聞こえている。いや、聞こえるようにしてある。

「我々の世界を守るために、そして罪なき、力なき人々を守るために」

 ヴィットーリオはそう言い、彼の言葉を聞いていた“聖堂騎士”達は雄叫びを上げる。が、それでもその声に力はない。ヴィットーリオ自身、口ではそう言ったものの、圧倒的存在を前にどうすれば良いのか判らないでいる様子である。

「発言、良ろしいでしょうか?」

 会議室にいる1人が挙手をした。

「どうぞ」

「死力を尽くすのは良いのですが、具体的にどのように?」

「…………」

 その質問に答えることができる者は、ここにはいない。

 言ったところで状況は変わらないことを理解しつつも、皆口を揃えて具体的な案を出さない者を責める始める始末であった。

 そこに、シオンが手を挙げた。

「少し、良いでしょうか?」

 皆、シオンへと注目する。

 一国の王にしては若過ぎる“ハルケギニアの三大華”とでもいうべき、アンリエッタとシオンとジョゼットだが、年齢からやはり下に見られることが多い。

 この状況でもそれは当て嵌まり、「小娘が、なにを言い出すのか?」と“ハルケギニア”の諸国代表達――王達は視線を向けている。

 アンリエッタは、そんな針の筵とでもいえる状況に陥っているシオンのことを心配そうに見詰めた。

 が、シオンは彼等の視線を真っ向から受け止め、強い瞳で見返す。

(王様が不景気な顔をするモノではない……皆を不安にさせるのは、暴君の与える恐怖以上に困りモノ、よね……)

 と、シオンは自身に言い聞かせ、口を開く。

「対抗策……いえ、あの怪物をどうにかする方法はあります」

「それは一体なんなんだね?」

「…………」

 シオンは、一息吐き、言った。

「“サーヴァント”です」

 その言葉に、会議室内にいるアンリエッタ、ジョゼット、ヴィットーリオ達が目を見開く。会議室の外で聞いていたルイズと才人達も同様だ。

「“サーヴァント”とは?」

 1人が当然の疑問を口にする。

 他の皆も同様に首を傾げる中、“エルフ”側であるテュリュークとビダーシャル、アンリエッタ、ジョゼット、ヴィットーリオは理解していた。

 ヴィットーリオが、簡単に説明をする。

 6,000年もの間、ずっと秘匿されて来た“サーヴァント”の存在、“始祖の秘宝”の1つである“聖杯”……“聖杯戦争”。

 だが、そこで当然の意見が口にされた。

「では、その“聖杯”自身に“あのエンシェント・ドラゴンをどうにかしてくれ”と願うのはどうだろう?」

「いえ、それはできません。“聖杯”は“万能の願望器”ではありますが、正確には違います。それを模したモノで、できるのは“根源”とこの世界の繋がりを確かなモノとし、“孔”を空けるためのモノ。“ハルケギニア”に於ける“聖杯”は、“サーヴァント”を喚び出し、ヒトが扱えるようにすることに限定されています」

「では、その“サーヴァント”とはなんなんだ?」

「“現在、過去、未来に存在する英雄や神様の霊”……“根源”の一部である“時空の外”に存在する“英霊の座”という場所から、“英霊”を喚び出します。その“英霊”をそのまま喚び出すことはできませんが、彼等を分け御霊のように、一部分――一側面を喚び出し、“クラス”という枠組み、役割に押し込め、限定的な力を使えるようにして、ようやく我々の前に降り立って来てくれる超常的存在……上位存在、霊的存在……」

「例えば、“アルビオンの英雄”……“ガンダールヴ”であるサイト・シュヴァリエ殿や我が“アルビオン”の客将セイヴァー、“ガリア”の姫君である姉に従う“ブレイバー”、ヴィットーリオ殿に従うジュリオ殿……」

 ヴィットーリオが“サーヴァント”に関する説明を行い、それにシオンが補足する。

「あの、“アルビオンの英雄”が?」

「だが、それは人間同士での戦いで活躍できる範囲であろう? “サーヴァント”とやらは、具体的にどれほど強いのだ!?」

「平均的な強さは、“トリステイン”に存在していた“竜の羽衣”よりも上です」

 シオンが、簡単に説明をする。

 が、やはり皆上手く理解できていない様子である。

 こうしている間にも、“エンシェント・ドラゴン”は確実に近付いて来ているのだが……。

 そこに、ヴィットーリオは自身のプランを口にした。

「“サーヴァント”は切り札です。ですので、先ずは我々“虚無の担い手”がどうにかするべきだと考えております」

 ヴィットーリオは、自身から、自分達から“虚無”が失われつつあるのを理解しながらも、そう言った。

 “始祖”であるブリミルの悲願を達成できなかったものの、それでも未だ自身に力があることに意味があるのでは……もしかすると、これこそが“虚無”の力を使うべき、この時のために覚醒めたのではと考えた結果である。

「ですが、“虚無の担い手”は私1人だけではありません。そこにおられる“ガリア”の女王陛下、ミス・ヴァリエール、ミス・ウエストウッド……そして、“サーヴァント”の“マスター”であられる“ガリア”の姫殿下の意思を確認してから計画を実行に移したいのですが……彼女達を呼んで頂けますか?」

 ヴィットーリオはそう言って、目を閉じた。

 

 

 

「教皇聖下、我々をお呼でしょうか?」

 “虚無の担い手”であるルイズ、ティファニア、そしてタバサ、“サーヴァント”である才人とイーヴァルディが呼び出しに応じて会議室へと入って来た。

 ルイズと才人からは、まだヴィットーリオに対して敵意を抱いている。いや、敵意というべきではないが、これといって適切な言葉がない、表現の仕様のない感情を抱いている様子である。ただ、余り良い感情は抱いていないのだけは確かであった。

 だが、それでも表に出すことなどはせず、ルイズは代表として、ヴィットーリオに尋ねた。

「はい。こういったことを頼める立場でもなく、権利もないと想いますが……それでも、貴方方に、“ハルケギニア”の、そして“サハラ”の未来のために協力して頂きたいのです。今度こそ、“虚無の担い手”たる我々が力を合わせる時なのです。これ以上の犠牲を出さぬためにも」

 ヴィットーリオは簡単に説明をした。

 既に、ルイズ達は知ってはいたが、齟齬などがないかを確認するために。

「……どうか、お願いします」

 ヴィットーリオは、頭を下げ、ルイズ達に頼み込んだ。

 そんなヴィットーリオの言動に、この場にいる“ハルケギニア”の王達は驚き、動揺を隠せなくなった。教皇聖下という立場の者が頭を下げたのだから、驚きである。

「確認ですが、聖下……今回の“エンシェント・ドラゴン”について、“聖地”同様になにか我々に隠していることはありませんか?」

「ありません。これについては、ただ、あの存在をそう呼称するべきだと判断したのみで、他のことについては全く」

「……理解りました。その計画、聴きますわ」

 ヴィットーリオのその真摯な言動に、ルイズ達は顔を見合わせて首肯き合い、了承した。

 事実、ヴィットーリオはもう既になにかを隠すつもりなど一切なかった。

「ミス・ヴァリエール。貴女の“呪文”、“爆発(エクスプロージョン)”は、“サーヴァント”と同じく計画の要です。大きな一撃をお願いすることになるでしょう」

「……はい」

「ですが、“ドラゴン”は“攻撃魔法”を跳ね返す瘴気の壁、“魔瘴壁”を纏っている可能性が高いです」

「“魔瘴壁”?」

「“エルフ”の“反射(カウンター)”みたいなもんだよ、相棒」

 ヴィットーリオの言葉に、才人は首を傾げる。が、そこにデルフリンガーが簡単な説明をする。

「先ず、その“魔瘴壁”を無力化せねばなりません」

「それも、私の“解除(ディスペル)”で」

「いえ、それは私が引き受けましょう。貴女の力はできるだけ温存しておきたいですからね」

 そう言って、ヴィットーリオはティファニアへと目を向ける。

「ミス・ウエストウッド」

「はい」

「先程、“聖地”の側で“竜母艦”に搭載していた“竜”達が暴れたことから推測できることですが、恐らく、“エンシェント・ドラゴン”には、他の“竜”を下僕にする能力があると想われます。貴女には、“ドラゴン”の下僕となった“竜”達に、“忘却”の“呪文”を掛けて、“聖堂騎士”達や“エルフ”達を守ってください」

「は、はい! 理解りました!」

「そして、サイト殿。貴男にもお願いせねばなりません」

「え?」

「使わせて頂きたいのです。もう1度だけ、貴男の“リーヴスラシル”の力を」

 ヴィットーリオのその言葉に、才人とルイズは息を呑んだ。

「待ってください! これ以上、サイトの命を――」

「……理解りました」

「待って、サイト。少し考えて」

「え? 考えることなんかないだろう。セイヴァーのおかげで、命じゃなくて、体力が消耗するだけになったんだし。なにより、これは文字通り世界を救うための戦いなんだぜ? “地球”を攻撃するとかじゃないんだ。なら」

 ルイズの制止を聞きはするも、才人は覚悟を決め、首肯いた。

「俺ができることなら、大体のことはします」

 ヴィットーリオは、深く深く才人に礼をした。

 そんなヴィットーリオの様子に、才人もルイズも困惑した。

 ヴィットーリオの隣にいたジュリオは、複雑な表情を浮かべていた。

「移動方法ですが、先ずはジュリオのアズーロ、そしてミス・タバサの“使い魔”である“韻竜”で行きたいと想います。アズーロは“ヴィンダールヴ”と“騎乗兵(ライダー)”してのジュリオの能力で、シルフィードは“韻竜”である故に、“エンシェント・ドラゴン”からの支配を受けずに済むと想いますからね」

 ヴィットーリオの口から出た“韻竜”という言葉に、“ハルケギニア”の王達が驚き、ざわめく。

「では、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “エンシェント・ドラゴン”の歩みは遅く、会議を終えてもまだ海の真ん中であった。

 時刻は夜であり、双月が見守っている。

 海岸の手前では、大きな道と両脇に崖が在る。それぞれの崖で兵達は待機することになった。

「“遠見”の“魔法”によれば、“ドラゴン”は32“リーグ”付近にまで近付いている! 気を緩めるな!」

 “聖堂騎士団”の団長が、叫び現状を皆に報らせる。

 そんな中、2人の騎士が、ふと湧いた疑問を口にしていた。

「しかし、“ドラゴン”は今目覚めて、どうしてこちらへと向かって来るのだ?」

「さあ? 奴を呼ぶなにかがあるのかもな……」

 上空では、“竜”達が“竜騎士”に跨がられ、旋回し、待機している。その中には当然、シルフィードとタバサの姿もある。

 少し離れた場所では、アズーロが飛んでおり、その背にはジュリオとヴィットーリオが乗っている。

「教皇聖下」

「どうしました?」

「この戦いで、サイトが死ぬことはありませんよね? 詰まり、“リーヴスラシル”の力を使うことによって……」

 ジュリオの言葉に、ヴィットーリオは笑みを浮かべる。

「嬉しいモノですね」

「え?」

「初めて逢った頃の貴男は、世界の全てを憎み、誰も“愛”することのないそんな少年でした。私と暮らすようになってからも常にどこか冷めていた。違いますか?」

「え?」

「そんな貴男が、今では恋人と友人のことを気に掛けている。きっと、彼等に逢ったことで変わったのでしょう。貴男を“魔法学院”に行かせて良かった、と私は心から想います」

 ヴィットーリオの目は、遠くを見据えており、言葉も心からのモノであることが理解る。とても、優しい……気付けば、狂信的な光は消えていた。

「貴男は、私の誇りですよ。ジュリオ・チェザーレ」

「……教皇聖下?」

 そんなヴィットーリオに、どう声を掛けるべきか、どう返すべきなのか、判りかねたジュリオはただ振り返り、彼の顔を見るのみである。

 ジュリオの綺麗な“月目”が、穏やかな笑みを浮かべるヴィットーリオを映す。

「この前説明した通り、“リーヴスラシル”の力は1度や2度使っただけでは失くなるようなモノではありません。しかし、回数を重ねれば……幾ら、セイヴァー殿が手を加えたとしても、それだけ彼の死は迫る。体力が失くなるということは、動けなくなることに等しいですからね。ですから、この1回で成功させるのです」

 ヴィットーリオは、力強く言った。

 彼もまた、才人のことを案じているのである。

 これまでの言動でも、別に才人を蔑ろにして来た訳ではない。ただ、優先順位の問題で、才人よりも“ハルケギニア”と“ハルケギニア”の民草を最優先にして来ただけなのである。故に、彼は“始祖の円鏡”を見た時や、ジュリオと2人だけの時、祈祷の時、常に懺悔し続けていたのであった。

「はい」

 ジュリオも、柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

 

「“ドラゴン”を谷間に呼び寄せて、谷間を崩して足止めするらしいな。“魔瘴壁”が在っても、物理的な攻撃成ら通じるかもしれないってさ」

 谷間の端の方に数本だけでは在るが、木々が生えている。

 その1本の下で、才人とルイズは休んでいた。

「サイト……」

「“ロケット・ランチャー”とか“タイガー戦車”とか残ってればなあ……」

「“リーヴスラシル”の力を使うのは、これっ切りにして」

「……理解ってる。でも、あの力があれば、“虚無”の“魔法”は強力になって――」

「――その代わりに、サイトの命が……削られて行くの!」

「理解ってるよ。でも、セイヴァーのおかげでもう命は削られない。失くならない、死なないんだ。だから」

「“リーヴスラシル”の力は回復することはない。使い果たした時、その“使い魔”は死ぬのよ」

「死ぬ? なに言ってるんだよ?」

「体力が失くなるってことは、それだけ身動きを取ることが難しくなるってことよ! 貴男が1番良く理解ってるでしょ!? 実際に、動けなくなって、デルフリンガーの助けなしでは動けなかったじゃない!」

 そう言って、ルイズは、不安を掻き消そうと、才人と自身を安心させるように抱き着く。

「心配要らないわ。あいつは、私達の“魔法”だけでなんとかするから。貴男を死なせたりしない」

 そう言った直後、才人の後ろの方からティファニアが近付いて来ることに、ルイズは気付いた。

 ティファニアの方も、ルイズが気付いたことを知り、足を止める。

「テファ……」

「……私が、サイトさんを“使い魔”にしてしまったから」

 ティファニアは、先程の話を聞いてしまい、自分を強く責めてしまった。

 自分の行なったことに対して強く責任感を感じてしまっている様子であり、ティファニアの両肩は震え、涙を流した。やはり、ティファニアは、何度も自身を責め続けているのである。才人自身がどう考えていようとも、どこまでも優しい少女はどうしても自分を責めることしか知らず、それしかできなかった。

 そんなティファニアに、ルイズはソッと歩み寄る。

「あ、あのね、テファ」

「全部私の所為だわ……ごめんなさい! ごめんなさい!」

 そう言ってティファニアは逃げ出そうとする。

 が……。

「テファの所為なんかじゃない!」

 才人は振り返り、強く言った。

 その語気の強さに、ティファニアは足を止める。

「何度も言ってるだろ? テファの所為なんかじゃない。況してや、ルイズの所為でもないんだ」

 今度は優しめに、安心させるように、才人は言った。

「セイヴァーの言葉を借りるなら、まあ受け売りらしいけど、さ……“間が悪かった”だけなんだ……たまたまそうなっただけ。そう歯車が噛み合っただけ……」

「サイトは……辛く、ないの?」

 ティファニアは涙混じりに問うた。

「辛いよ。怖いよ。だけど、それだけなんだ。それ以上に、怖いモノがあるんだ」

「それ以上に?」

「ルイズが、テファが、皆が傷付くこと……死ぬこと……“聖地”でそれを良く実感したよ」

 才人は震える身体を押え込み、言った。

「死ぬのは怖い。でも、それ以上に怖いんだ」

 

 

 

 アズーロが飛行する更に上の方で、俺は“|天駆ける王の玉座”でシオンと共に待機していた。

「皆、不安そう。怖いんだね……」

「それはそうだろ。おまえもそうなんだろ? 無理をする必要なんてないいさ」

「うん、そうだね……でも、貴男の“マスター”なんだから、もっとしっかりするべきだよね?」

 シオンは、弱々しい笑みを浮かべて言った。

 2人でいる時だけに見せて来れる表情である。

 シオンは、“王族”であることから、常に気を張って生活しているのである。父親や兄が“王族”として生きていたこともあって、シオンもまたそれに倣って生きて来たのである。

 そして今では、父親が亡く成った事で女王に成ったので在る。

 周りに人がいる時は、その周りの人達を不安にさせないようにと心掛け、王として弱みを見せないように振る舞っているのである。

 “魔法学院”に居る時は、少しは気が緩む時は在るだろうが、其れでも“学院”は“貴族”の子弟達が集まり学ぶ場所で在る。其の為、常に見本に成る様にも心掛けて居た。

 そして、彼女の性格の問題もあるのだが、常に1歩引いて物事を見て考える……また、争い事を嫌うために、棘のある言動を極力取らず、なにか問題が起きればそれを解決するために首を突っ込み奔走する、例えそれが自身の能力では解決が難しくとも、だ。友人が喧嘩をしていれば、よく仲介役を買って出るなどもしていた。

 そんな彼女だが、“使い魔”であり、“サーヴァント”である俺と2人切りの時だけは、弱音を吐くことが多い。

 “地球”の、平和な時代の価値観からすると、シオンは今年相応の少女に戻ることができているのである。

 そんなシオンを見て、俺は常に、力になることができていないのでは、と不安になってしまうのだが。

「そんなことはなさ。良いんだよ、それで。もし、こんな時に不安になってないのなら……恐怖を感じていないなら、そいつは感覚が麻痺でもしてるんじゃないのか?」

「そうかな?」

「いや、そうでもないか……? アドレナリンとかが異常に分泌され、気付かない、とか? ふむ……まあ、なんにせよ、今のおまえ達の気持ちや感情は、生物なら持ってて当然、抱いて当然のモノだから、なにも恥じることはないさ」

「……うん」

 俺は笑顔を見せ、シオンにそう言ってみせる。

「ねえ、この作戦上手く行くの?」

「いや、ハッキリと言ってしまえば失敗に終わる。失敗だけなら良いが、それ以上に、皆にとって辛い展開になるな」

「そう……」

 シオンの質問に、俺は正直に答える。シオンが落ち込むのを理解していながらも。

 だがそこで、俺はふとした疑問を覚えた。

 何故これまで未来について断言することを避けてきたというのに、今こここの時、ハッキリと言った――口にしたことについて。

 だがそんな疑問を振り払い、俺はできる限りの笑顔を浮かべた。

「だけどな……最後には大勝利だ。俺がいるからな」

「そう、だね……」

 俺の言葉に、シオンは首肯いた。

 俺の力は、借り物――“英霊”達から無断借用しているようなモノである。“英霊”によっては、俺を殺したいと想うようなことばかりをしている。勝手に彼等の人生や逸話を掻っ攫う、とまでは行かずとも同じようなことをしているのだから。更には、傍から見ると、苦労せずにそういったことをしていると見られてもなんら可怪しくないということを。

 そんな俺に対し、シオンは真っ直ぐに目を向けて来ており、信頼を寄せてくれている。

「次善の策は、既に打っている……いや、準備は完了しているさ。皆にいつ話し、切るかどうかが問題だがな」

 俺がそう言った直後、空気が変わった。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 空が震え、大地が揺れる。

 鼓膜が破れんばかりの咆哮が、遠くから聞こえて来た。

 黄色く鋭い目が、谷間で待機している俺達を見ている。

「来たか……」

 

 

 

 “エンシェント・ドラゴン”は、口をユックリと開く。

 そこに、“聖地”の中心にあった“精霊石”の塊を吹き飛ばした“生命(ライフ)”と同等の大きさと威力を誇る光球ができあがり、次第に膨れ上がる。

 それが、“ドラゴン”の前方に放たれ、大地へと穿たれる。

 大地は一瞬で燃え、その巨躯をありありと見せ付けるライトになる。

 放たれた古代龍の息吹(エンシェント・ブレス)は、夜の中にありながらも真昼のように周囲を照らし出す。

 その光に照らされ、“エンシェント・ドラゴン”の躰の大きさや体表、周囲を飛行する“竜”達を浮かび上がらせた。

 

 

 

 “エンシェント・ドラゴン”の咆哮を耳にして、ルイズとティファニアは怯え、才人の腕を掴む。

 才人もまた恐怖を感じてはいるが、2人の少女を前に勇気が勝った。

 

 

 

「怯むな! 奴は直ぐにここに来るぞ!」

 騎士団長が、自身も恐怖を感じていながらも、周りの“聖堂騎士”達を鼓舞する。

「いつでも来い!」

「“聖堂騎士”の力見せて遣る!」

 “聖堂騎士”達は勇気を振り絞り、剣の形をした“聖杖”を抜き放つ。

「ルイズ、ティファニア……yあ俺遣るよ」

 才人は、静かに決意を口にした。

「戦いで死ぬのは俺だけじゃない。俺1人が怖じ気付く訳にはいかないよ」

「で、でも……サイト」

「俺だって騎士なんだ。“盾の英霊(シールダー)”でもある。だから、護らなきゃ、皆を。それに、ルイズとテファ達のことを」

「サイト……」

 ルイズとティファニアは、才人へどう言葉を掛けるべきか迷っていた。

 止めるべきか、見送るべきか、共に闘うべきか。

 だが、才人の決意は揺らがないモノであることを、護るモノを持つ者の強さを秘めていることを感じ取った。

「サイト、そろそろだ。準備は良いかい?」

「ああ」

 ジュリオが、才人へと向かって歩いて来る。

 才人は、ジュリオの確認に対し、短く確かな返事を返した。

「サイト」

「さっさと終わらせちまおうぜ。な?」

「うん」

 才人の言葉に、ルイズとティファニアは首肯いた。

 才人と同じく護るべきモノを持つ者の意志と強さを持って。

 

 

 

 夜が明けようとする中、“エンシェント・ドラゴン”が歩みを進めるたびに、地震が起きたかのように大地が大きく揺れ、木々が薙ぎ倒される。

 黒々とした“魔瘴壁”を纏い、“エンシェント・ドラゴン”は“竜”達を率いて、向かって来た。

「――今だ!」

 “エンシェント・ドラゴン”が丁度谷間に差し掛かった時、騎士団長が合図を出した。

 “聖堂騎士”達は“聖杖”を掲げ、其々が得意な“魔法”を放つ。

 剣型の“聖杖”の先から“魔法”が放たれ、向かい側の谷へと命中させる。

 谷間は崩れ、大きな岩が幾つも落下する。

 落ちた無数の岩が、“エンシェント・ドラゴン”の四肢を埋め、自由を奪った。

 だが、“エンシェント・ドラゴン”の動きを完全に封じ込めた訳ではないために、“エンシェント・ドラゴン”は首を動かし、標的を定める。

 そして、“エンシェント・ドラゴン”の口からブレスが吐き出された。

「怯むな! 攻撃を続けろ!」

 運良く“聖堂騎士”達の間を通り過ぎた直後に団長が命令を下すのだが、“エンシェント・ドラゴン”の下僕と化して周囲を飛んでいた“竜”達が“聖堂騎士”へと攻撃を開始する。

 攻撃を受けた“聖堂騎士”達は、“聖杖”で受け止めるか、避けるかなどを迫られ、攻撃を続けることが難しくなってしまう。

 だがそこに、空を飛ぶシルフィードに乗ったティファニアが“忘却”を唱え、“竜”達を“エンシェント・ドラゴン”の軛から解き放つ。

「“忘却”の“呪文”、効いたみだいだわ」

「良かった」

 “忘却”を受けて離れて行く“竜”達を見たルイズの言葉に、ティファニアはホッと胸を撫で下ろす。

「あの、ルイズ……私……」

「考えるのをやめましょう」

「え?」

「今は信じるだけ。シエスタが言ってたみたいに。皆一緒に帰れるって」

 ジュリオとヴィットーリオと才人を乗せたアズーロは、襲い来る“竜”達を避けながら“エンシェント・ドラゴン”へと向かって高速で飛ぶ。

 “エンシェント・ドラゴン”の後ろを取り、なおかつ真上に到着すると、ヴィットーリオは立ち上がり、“杖”を掲げた。それから、“浄化”の“呪文”を“詠唱”し始める。

「“カノン・ソウユ・テイワズ・イサ・ウンジョー・ケイオー・ラグズー・チョー・ダガズ”!」

“呪文”の“詠唱”が完了するのと同時に、ヴィットーリオは左手を前に翳す。

 ヴィットーリオの左手は眩いほどに光り輝き、“エンシェント・ドラゴン”を照らし出す。

 その光に気付いたであろう“エンシェント・ドラゴン”は、首を後ろに向け、口を大きく開く。

 “魔瘴壁”が上空に吸い取られるかのように剥がれて行き、毒々しい赤色をした鱗が見え始める。

「なるほど、“浄化”の“魔法”か」

「本来は癒やしの力だが、悪しき存在には攻撃上の効果があるるんだ」

 感心したように言ったデルフリンガーの言葉に首肯き、ジュリオは簡単に説明をする。

「ええ。私の持つ“虚無魔法”の1つです。では、サイト殿……どうかお願いします」

 ヴィットーリオの言葉に、才人は首肯き、立ち上がる。

「あ、はい」

 才人の胸に、“リーヴスラシル”の“ルーン”が弱々しくも浮かび上がり、光り輝き始める。

 才人は両手で、ヴィットーリオの背中に触れる。

 すると、ヴィットーリオの左手から放たれる光は寄り一層増し、目を閉じたくなるほどに輝き出す。

 それにより、“魔瘴壁”が剥がれる速度が上がり、“エンシェント・ドラゴン”は悲鳴を上げる。

(こうして居る間にも、サイトの体力が削られてる……やっぱり、そん成の嫌!)

 ルイズは、シルフィードに乗り、上空から見守って居るが、やはりサイトの事が心配な為、気が気では成無い。

「サイトさん……」

 ルイズの後ろにいるティファニアは、“忘却”を唱えながら、才人達を見守っている。

 “エンシェント・ドラゴン”の支配から逃れることができた“竜”達は、その場から逃げるように離れて行く。

「“始祖ブリミル”よ。お力を御貸しください!」

 ヴィットーリオは“エンシェント・ドラゴン”を浄化するために、更に“魔力”を“浄化”に込める。

「う……」

 だが、やはり才人の体力を消費させて強化させるために、才人は呻き倒れそうになってしまう。

「おい、相棒、大丈夫か?」

「う、くぅ……ああ、これくらい……なんでも、ねえよ……」

 苦しむ才人の声を耳にし、ジュリオは想わず振り向いてしまう。

「サイト!」

 心配するデルフリンガーとジュリオに対し、才人は痛みを耐え、強がってみせた。

 ヴィットーリオは早期決着を臨み、寄り力を込める。

 だがそれが、“エンシェント・ドラゴン”に力を解放させることになってしまった。

「――!?」

 “エンシェント・ドラゴン”の、ヒトに例えればデコに当たる部分が光り出し、もう1つの目が開く。“竜”が本来持つ両の目、そしてデコにある目の3つ目へと変化した。

 それにより、“エンシェント・ドラゴン”の抵抗力と“竜”に対する支配力は増大し、アズーロは意識を奪われてしまう。

 意識を奪われたアズーロは、ジュリオの命令とは裏腹に、ユックリと“エンシェント・ドラゴン”の方へと向かって行く。

「上昇しろ! 動くんだ! アズーロ!」

 手綱を振るい、指示を出すジュリオだが、アズーロの意識は戻らない。

「様子が可怪しいわ。シルフィード! 行って!」

 上空で旋回し見守っていたルイズが、異変に気付き、シルフィードを促す。

 前進するアズーロに向かって、“エンシェント・ドラゴン”は口を開き、ブレスを吐く準備をし始める。

「あ、相棒! 俺を使え!」

「でも……」

「相棒。たぶんだが、セイヴァーの野郎は、この時のために俺を生かしたんだと想う」

 デルフリンガーの言葉に、才人は躊躇するが、デルフリンガーはそれでもと言い続ける。

 才人はデルフリンガーが壊れてしまうのを1度経験し、ついこの前壊れそうになるのを目にしたのである。

 ルイズが1度死んだこともあり、今の才人は大切な者が死んでしまうことに強い抵抗があった。

 だが、デルフリンガーの強い意志と覚悟と言葉に、ついに才人は首肯く。

「……理解った……」

 アズーロに指示を出すジュリオの前に、才人はデルフリンガーを構えて前に出る。

 と同時に、“エンシェント・ドラゴン”の口からブレスが吐き出された。

 真っ赤な炎とでも呼べるブレスが高熱を伴い、才人達へと襲い掛かる。

 “日本刀”でありながらも、“インテリジェンス・ソード”であるデルフリンガーの刀身が、“エンシェント・ドラゴン”のブレスを吸い込んで行く。

 熱でデルフリンガーの刀身は赤々と燃えるように光る。

「相棒、すまねえ」

「え?」

「こいつは、ちっとばかし俺の手に余るみたいでよ……」

「おい、デルフ!? まさか、おまえ……待てよ、デルフ!」

「2度目だけどよ……あばよ、相棒……」

 デルフリンガーの刀身は、耐え切ることができず一気に全体に罅が入り、才人が握っている柄を除いて粉々に砕け散った。

 “エンシェント・ドラゴン”のブレスを受け切ることはできはしたが、反動と、デルフリンガーが砕け散ってしまったことによるショックで、才人は踏み止まることができずに吹き飛ばされてしまう。

「サイト!」

 吹き飛ばされた才人に、ジュリオは必死で呼び掛ける。

(デルフ……)

 吹き飛ばされた才人を、シルフィードが上手くキャッチし、急上昇する。

「サイト、しっかりして!」

 ルイズの呼び掛けにも応じえる余裕がなく、才人は呆然としてしまっている。

「このままでは」

 アズーロはなおも前進し、ヴィットーリオとジュリオに焦りが見え始める。

 “エンシェント・ドラゴン”は大口を開けて咆哮を上げる。

 それにより、ヴィットーリオの手から“浄化”の光が消え失せてしまい、ジュリオは恐怖に呑み込まれてしまった。

 が、ヴィットーリオが肩を叩くことで、ジュリオはどうにか平静さを取り戻すことができた。

「ジュリオ! 貴男は生きるのです!」

 ヴィットーリオは、振り返ったジュリオにそう言って、谷間へと彼を突き落とす。

 一瞬、ヴィットーリオは淋しげな笑みを浮かべたあと、毅然として巨大な“エンシェント・ドラゴン”のアギトを見据えた。

「――聖下!」

 ジュリオが叫んだのと同時に、ヴィットーリオと彼を乗せたアズーロはそのまま“エンシェント・ドラゴン”の口に吸い込まれるように進み、“エンシェント・ドラゴン”は口を閉じた。

「――聖下ああああああああああああっ!」

 “エンシェント・ドラゴン”は咀嚼をするように口を動かし……いや、事実咀嚼をし、黄色の3つ目が禍々しい赤色へと変色した。

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