ヴィットーリオに突き落とされたジュリオを、シルフィードが回収し、再び上昇する。
「そ、そんな……」
「教皇聖下……」
ヴィットーリオが“エンシェント・ドラゴン”に呑み込まれてしまったのを目にして、ティファニアとルイズは動揺の言葉を口にする。
だが、この場にはそれ以上に動揺を受けてしまっている者達がいた。
「聖下が……」
「喰われた……」
“聖堂騎士”達である彼等は、“ロマリア”の“教皇聖下”に従う騎士団であるために、ヴィットーリオは彼等の支柱といっても過言ではないだろう。そんなヴィットーリオがいなくなってしまったのだから、彼等の動揺具合はとても大きい。
“エンシェント・ドラゴン”が天へと首を向け。咆哮を上げる。
その咆哮によって、大地が揺れる。
それと同時に、“エンシェント・ドラゴン”に変化が起きた。
「――て、撤退だ! 総員、撤退!」
“聖堂騎士団”団長は、それを目にして即座に退くことを決断し、命令を下す。
その命令を受けて、騎士達は一斉に谷間から逃げるように離れて行く。
“エンシェント・ドラゴン”は首を上に向けたまま前進を開始した。
「……――!? サイト! サイト、駄目よ! 確りして! サイト!」
茫然自失となっていた才人は意識を失い、ルイズへともたれかかるように倒れてしまった。
そんな彼等の様子を、“双月”が見下ろしていた。
「サイト!」
「サイト!」
「サイトさん!」
ベッドに寝かされていた才人が目を覚ましたことで、ルイズとティファニア、シエスタが声を掛ける。
「ここは?」
「“リュテュス”の“ヴェルサルテイル宮殿”よ。戻って来たの」
「“リュテス”の? そうだ! “エンシェント・ドラゴン”は? “ドラゴン”はどうなった?」
「心配ないわ。今は……」
「え?」
身を起こし焦る才人に、ルイズはどうにか現状を説明した。
“ガリア”の“リュテス”へと各国の王達や“エルフ”の代表は移動し、“
「動きを止めた?」
「はい」
皆の代表として問い返したアンリエッタに、ジュリオは首肯いた。
「海岸沿いの谷を抜けた所で、突然」
今のジュリオは、主であるヴィットーリオが亡くなったことで“サーヴァント”の力も失ってしまっている。だが、現場にいたこともあって、傷心している場合ではないと会議に参加しているのであった。
そんなジュリオにどう接すれば良いのか、ジョゼットは悩み、手を伸ばしては引っ込めを繰り返していた。
「私も見たのね! あのデカブツ、丸まっちゃって岩みたいに固まっちゃったのね!」
ジュリオの言葉に、証人として着いて来たシルフィードが言った。今のシルフィードはヒトの少女の姿を取っている。
「教皇聖下のお力で、“ドラゴン”が息絶えたということではないのですか?」
「いえ、残念ながら。脈動が聞こえ続けております。死んだとは想えません」
「ということは……」
「直ぐに目覚める」
ジュリオの報告と、アンリエッタとタバサの言葉に、会議室内がざわめく。
「いかにも。だがそれだけではないぞ」
会議室内の扉が開き、1人の初老の男が入って来る。
初老の男へと皆が注目する。
「オールド・オスマン、来てくださったのですね」
「うむ、待たせたの」
アンリエッタの言葉に、オスマンは首肯く。
オスマンは、アンリエッタとシオンからの報告と依頼を受けて、この“リュテス”へと来たのである。
「教皇聖下は、残念なことじゃった……お主は大丈夫かの?」
「ええ。今はなにより“エンシェント・ドラゴン”を。きっと、聖下も、それをお望みのはずです」
オスマンは、ジュリオへと歩み寄り、肩に手を置いて優しく問うた。
ジュリオは一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべるが、直ぐに切り替え、会議の再開を促した。
「そうじゃのう。さて、儂を呼んだのは、その“エンシェント・ドラゴン”に関してじゃな?」
「ええ、オールド・オスマン」
「貴男が“魔法学院”の職務の傍ら行って来られた研究の成果。お聴聞かせ願えますか?」
「うむ」
アンリエッタとシオンの頼みに、オスマンは強く首肯いた。
「そうか。まだあいつは生きてるんだな。じゃあ次こそ、絶対斃さなきゃな?」
「え?」
ルイズ達からの説明を聴いて、落ち込みはしたものの、才人は顔を上げて落ち込む皆に笑顔を見せる。が、それはもちろん、空元気であり、この場にいる皆もそれを理解しているために、どう返すべきか戸惑った。
「教皇の仇討ちだ! な!? ルイズ、テファ」
「え? は、はい!」
「あー、なんか腹減ったなー! シエスタ、なにか食べ物ある?」
「あ、はい。今、スープを温めて来ますね」
大袈裟な振る舞いで才人は伸びをして言った。
「そう言や、“学院”の皆やシオンとセイヴァー達は?」
「“
才人の質問に、ティファニアが答えた。
「え? ルクシャナとアリィーが?」
「はい」
“鉄血団結党”との悶着により、逃げる羽目になったルクシャナとアリィーの2人は、“ガリア”に匿われることになっていた。そして“エルフ”とヒトが啀み合う必要もなくなり、更には“エンシェント・ドラゴン”という共通の敵が出て来たために、ここ“リュテス”に滞在していた。そこで、“エンシェント・ドラゴン”の件の解決のために“エルフ”の代表として来ていたテュリュークとビダーシャルと再逢し、会議に参加することを決めたのであった。
「そうか……お屋敷に帰るのは、もう少し先かな。な? ルイズ」
「わ、私……シエスタを手伝って来る」
「え? あ、う、うん……」
ルイズは、空元気を見せる才人を見続けることができず、立ち上がり部屋の外へと出た。
「ルイズ?」
その後を、ティファニアが追い掛け、声を掛ける。
「見ていられなくて……サイト、デルフのことを一言も言わなかったわ。セイヴァーに対しての恨み言も……本当は凄く悲しい癖に」
「それは……」
ルイズの言葉に、ティファニアは答えることができなかった。ティファニアもまた、ルイズと同じことを考えていたのである。ここにはいないが、シエスタも同じであろう。
「強くなんてなくて良い……いっそのこと、デルフなしでは戦えないって言って欲しかった。“リーヴスラシル”の力なんて使いたくないって……」
「あ!」
「! テファを責めてる訳じゃないわ。でも私……これ以上サイトが傷付くのを見たくない。サイトを死なせたくないの。でも、無理なんでしょうね。だってあいつ、私達のことを護ろうとしてくれてるもの。デルフがいなくなっても、実際に、私が逃げ出した時、追いかけてくれた……必死に捜してくれたんでしょ?」
「ええ」
「私が戻って来てからもそうよ。貴方達が攫われて、その間、デルフが側にいなくても、貴女を護ろうと頑張ってたみたいだし……止めても無駄なんでしょうね」
ルイズはそう言って、扉越しに才人が座っているであろうベッドの方へと目を向けた。
「“エンシェント・ドラゴン”について、儂以上に詳しい者がそこにおるじゃろうて。のう、セイヴァー殿、イーヴァルディ殿」
オスマンの呼び掛けに、イーヴァルディは“実体化”し、俺と共に首肯いた。
“イーヴァルディ”の名前に、この場の王達は動揺し、注目する。
「確認だが、あの“イーヴァルディの勇者”か?」
「はい。僕は其の“イーヴァルディ”です。タバサの、“サーヴァント”です」
肯定したイーヴァルディの言葉に、会議室内は更にどよめく。
「では、俺から簡単な“エンシェント・ドラゴン”についての話をしよう」
“エンシェント・ドラゴン”に関して、掻い摘んで生態と弱点などを話して行く。
「全長が300“メイル”、“魔瘴壁”を纏い、それが“
俺の説明に、皆が息を呑んで耳を傾けている。一言一句聞き間違えのないように……聞いても聞かなくても現状に変わりはないが、それでも把握できることだけはするべきであると。そして、もしかすると、なにか可能性が見出だせるかもしれない、と。
「本能的に、“虚無の担い手”とその後継を襲う」
今の“虚無の担い手”は、ルイズとティファニア、そしてジョゼットである。
そして、その“虚無の担い手”には後継者が存在している。ジョゼフ王が亡くなった後に、ジョゼットが覚醒めたように。
「詰まり、ルイズとティファニア、シャルロット女王、サイトさん達には、これまで以上に過酷な試練が待ち受けるのですね?」
俺の説明とアンリエッタの確認の言葉に、ジョゼットの顔は青くなり、ジュリオへと寄り添う。
「ああ。その件について、あいつ等には俺から言っておくつもりだ」
「“四の四”をもって“ドラゴン”に立ち向かうべきだったのか……だけど……」
ジュリオは、ジョゼットを安心させるように抱き締めながら、もしもと仮定の話をする。
「いや、揃った状況は先ずありえない。“聖地”に開いた“ゲート”で“
「だけど、それ以外の人達になにもできなかった訳ではありません」
俺の言葉に、イーヴァルディは補足するように否定の言葉を口にした。
「その通りだ。ここにいる皆にも、“聖堂騎士”達にも“エルフ”達にも……皆ができることがる。“エンシェント・ドラゴン”が全力を出していた時代には、“虚無”はなかった。そして、ブリミルが遺した“魔法”、今のおまえ達には国を超えた絆がある。それ等が、勝利への方程式を導くだろう」
「“アルビオン”は、全軍を挙げてこの災厄を打ち払います。皆様の協力を……」
シオンは立ち上がり、頭を下げて願い出た。
若き女王のその行動に、アンリエッタもジョゼットも立ち上がる。
その際、ジョゼットはタバサと目を合わせ、首肯き合った。
「“トリステイン”も共に」
「もちろんです。“ガリア”も共に参ります」
「“ハルケギニア”の未来は、私達自身の手で守ります!」
皆がシオン達の言葉に賛同し、これからどのようにするべきか対策を講じることになった。
そして――。
「俺に、私に考えがあります。“アルビオン”の兵器を、私の“宝具”……そして、“地球”や“ハルケギニア”の“英霊”達の力をお借りしましょう」
「“ドラゴン”と戦うために“ハルケギニア”の国々と“エルフ”で連合を?」
「ええ。私とシオン、そしてシャルロット女王陛下での3人で指揮を執ることになりました」
“
アンリエッタの護衛として、“銃士隊”隊長であるアニエスが側で待機している。
「ですが、“エンシェント・ドラゴン”は私達“虚無の担い手”でなければ」
「ルイズ。私達は皆、“ハルケギニア”で生まれ、“ハルケギニア”に育まれて来たのです。その世界の危機に、ただ手をこまねくいていることはできません」
アンリエッタの強い想いが籠もった言葉に、ルイズは真正面から彼女を見据える。
「例えわずかでも“ドラゴン”を斃せる可能性に賭けて、私達も戦いに赴くつもりです」
「姫様……私も命の限り、戦います! “ハルケギニア”に生まれた者として、この世界に私の総てを捧げます!」
「ありがとう! ルイズ。この危機を乗り越えましょう、必ず!」
「はい!」
アンリエッタはルイズの手を取った。
そして、互いに励まし合う。
「あの、それでシオンなんですけど……今どこに?」
「シオンは、セイヴァーさんと一緒に“アルビオン”へと戻りました。なにか、秘密兵器を持って来るとか……ですが、計画の要は恐らく貴女です。頑張りましょう」
(“ハルケギニア”に生まれた者として、この世界に総てを捧げる。私は“ハルケギニア”の人間だからそれで良い。だけど、サイトは……サイトとセイヴァーは、この世界に生まれた訳じゃない。巻き込んでも良いの?)
アンリエッタに自身の意志を伝えはしたものの、ルイズの中にはやはり才人への想いと、彼を案じる気持ちがあった。
「やらなきゃ……」
才人もまた、今の状況などをしっかりと理解しており、身を起こした。
「悲しんでる時じゃない。そうだろ? デルフ、セイヴァー」
「“シャイターンの門”に沈んでたあの鉄の筒を使うの?」
「いや、あれは“ロマリア”が回収したし、破壊力と言うか副次的なものが怖過ぎる。だから、最終手段だ」
とある一室で、才人はルクシャナとアリィー、そしてテュリュークとビダーシャルと話をしていた。
才人の横には、シエスタとティファニアがチョコンと座り、話を聞いている。
「“エルフ”の国、“ネフテス”に、ああ言うの他にあったりしないかな? どっかに大事にしまってあるとかささ」
「申し訳ないのじゃが、ない」
「駄目だ。ひょっとしたら、と想ったんだけどな」
テュリュークの言葉に、才人はガックリと肩を落とす。
「“戦闘機”があったら、“エンシェント・ドラゴン”なんて一発で斃せるんだ!」
「せんとうき?」
「ああ。俺とセイヴァーの世界の武器で、凄え速さで空を飛ぶ、そんで“ミサイル”で軍艦だって沈没させるんだ」
「“ミサイル”?」
才人の口から出た聞き慣れない言葉に、ティファニアは聞き返す。
「ふーん……そん成に凄い武器なら貴男の国に1度帰って取って来れば良いじゃない」
「え? それはちょっと……」
ルクシャナの提案に、才人は驚き、否定する。
「ああ。貴男の国って確か……」
「うん。この世界とは別の世界だから。そう簡単には」
「だったら、ルイズ? って娘の“魔法”を使えば?」
「どんな“魔法”だよ? いや、もしかして……“
そんな彼等の会話を、部屋の外でルイズは聞いていた。
そして、聞いていたからこそ、ルイズは扉を開きこう言った。
「私、やるわ」
「え? やるって?」
「サイトの世界に、“世界扉”を繋げてみる」
才人の質問に、ルイズは答えた。
「もし上手く行ったら、そのせんとうきを取りに行きましょう、一緒に」
「ルイズ。ああ、やろう!」
ルイズの言葉に、才人は強く首肯いた。
場所を移して、“
「では、手順の確認だ。先ず、ルイズがサイトの国への窓を開く。サイトの力で、その窓を人が通れる……」
「なんで仕切ってるんですか?」
「好きなのよ。多めに見てやって」
手順の確認をするアリィーを前に、シエスタは戸惑い隣にいるルクシャナへと訊いた。
ルクシャナは溜め息混じりに答えた。
「せんとうきを手に入れたら、再びルイズの“魔法”で帰って来る。以上だ」
と、アリィーはドヤ顔とでもいうべき表情で一息吐いた。
「本当に、俺の世界に帰れるのかな? 教皇聖下の時でも、辛うじて潜ることができるかどうかの大きさだったのに……いや、“聖地”では大きかったよな……でも、今は“虚無”の力が弱まってるんだろ?」
「うん、。でもきっと大丈夫よ」
「頑張ってね、サイト!」
不安そうにする才人に、ルイズとティファニアが後を押す。
「じゃあ、そろそろ始めるわ。サイト、手を出して」
才人の手を、ルイズはソッと握る。
「サイトの力、少し使わせて貰うわ」
「ああ」
「貴男の世界をイメージしてみて」
ルイズの言葉に、才人は目を閉じて想い出す。
ルイズもまた目を閉じ意識を集中させ、“杖”を構える。
「“ケン・ギョウフ・ハガラ・ソウイ・ベオ・ダイ・ラグース・チョオ・ダガス”」
(お願い、サイトの世界への扉よ、開いて!)
そう念じ、失われつつある“虚無”の力を使い、ルイズは“杖”を真横へと振る。
「“ユル・イル・ナウシズ・ゲーボ・シル・マリ ハガス・エオルー・ペオース”」
繋ぐ両手を通して、才人のイメージがルイズへと流れる。
才人の胸にある“ルーン”が光るのと同時に、ルイズが振った“杖”の指す場所に“ゲート”が開かれる。
“リーヴスラシル”の力で強化された“世界扉”は、ヒト1人が余裕で通ることができるほどの大きさで開く。
その“ゲート”は鏡のようになっており、才人が“
「日本だ!」
「変わった建物が沢山ね!」
「これが、サイトさんの!」
繋がったことに才人は喜び、ルクシャナとシエスタは興味深そうに、見据える。
「ルイズ、俺の世界だ!」
才人は隣にいるルイズを見て、言った。
そんな才人を見て、ルイズの瞳は揺れる。
「行こう!」
そう言ってルイズの手を掴んだまま、才人は“ゲート”を潜ろうとする。
潜った先は、ビルの屋上であり、そこから道路を走る車などのクラクションなどが聞こえて来る。
それを耳にし、才人は帰って来たことを実感し、目を輝かせた。
「ルイズ、来いよ!」
「ねえ、サイト」
「ん?」
だがそこで、ルイズは踏み込まずに才人へと話し掛けた。
「私……貴男のこと大好きだった。貴男と出逢えて、幸せだった」
ルイズのその言葉に、才人は予感を覚え、口を開こうとする。
「覚えてて。貴男に見せた最後の顔は、笑顔だったって」
「ルイズ?」
ルイズはそう言って、自ら才人と繋いでいる手を離す。
才人は繋ぎ直そうとするが、その手は離れて行く。
「さよなら」
ルイズは満面の笑みを浮かべ、“世界扉”を閉じる。
だが、その笑顔はとても寂しそうであった。
「ルイズ、なに言って!? ――」
才人は、閉じる“世界扉”に向かって走るが、無情にも閉じてしまう。
伸ばしたその手は、空を切った。
「ルイズ……」
「ル、ルイズ……」
「ミス・ヴァリエール……」
“世界扉”を閉じたルイズに、ティファニアとシエスタが声を掛ける。
「なてことするんだ!? 彼は“ドラゴン”退治に必要な存在なんだろう!?」
そんなルイズに、アリィーが語気を強めて問い掛ける。
「サイトは、“
そう言ったルイズは、大粒の涙を流し、両頬を酷く濡らしていた。
「だがしかし……」
「アリィー」
其れでも問い詰めようとするアリィーを、ルクシャナが静止する。
「ミス……ヴァリエール」
シエスタはルイズへと歩み寄り、彼女の正面に立つ。
そして、2人は互いに泣きながら抱き合った。
(ルイズ、サイトのことを本当に“愛”しているんだわ……あの時だってそう……そうじゃなきゃ、こんな選択できないもの)
ティファニアも涙を流しながら、そんなルイズを見ていた。
「なんだよ?」
ビルの屋上に1人残された才人は、呆然と立ち尽くし、呟いた。
「なんだよ、これ? ルイズ……ルイズウウウウウウウウウ!」
「サイトさんが?」
「はい。サイトがいるべき世界に、私が帰しました」
“
「申し訳ありません……でも……私……私……」
膝を折り謝るルイズに、タバサはソッと近付き同じ高さになるように同じく膝を折る。そして、言った。
「私もきっと同じことをした」
「タバサ」
そんなタバサの言葉に、ルイズは顔を上げて彼女の顔を見た。
「そうね。これで、きっと善かったのです」
「姫様……私、誓います。“リーヴスラシル”の力を借りなくても、私自身の力で“ドラゴン”を斃します」
ルイズは決意を新たに、言った。
「私も……私の総てを賭けて、戦いに臨みます!」
ティファニアもまた、先程のルイズと才人とのやりとり、そして今仕方のルイズとタバサとのやりとりなどを見て、覚悟を決めた。
「よくぞ言った。では行くとするかのう?」
そんな2人の決意と覚悟を受け入れ、オスマンは言った。
皆が、どこに? といった表情を浮かべ、オスマンは答えた。
「“魔法学院”じゃよ。ミス・エルディとセイヴァー君もそこで集合するつもりらしいしな」
“エンシェント・ドラゴン”が岩へと変化した場所では、“聖堂騎士”達が見張りをしている。
「――!?」
その大きな岩に亀裂が奔り、小さな岩の欠片が落ちる。
その音と落ちた岩に気付き、騎士の1人が巨大な岩を見上げる。
「気の所為か……」
それ以外の変化はないために、騎士はそう言って見張りを交代するために場を離れた。
夜の闇の中を、“風竜”に乗って、ルイズとティファニアとオスマン達は“魔法学院”を目指す。
「セイヴァー君の言った通りなら、 “虚無の担い手”は“エンシェント・ドラゴン”に力を与えてしまうのじゃ。喰われることでな……」
「!?」
「“エンシェント・ドラゴン”は“虚無”を喰らって強くなる……故に、あやつは本能的に“虚無の担い手”の居場所を目指すんじゃよ」
オスマンの言葉に、ルイズとティファニアは驚き、動揺する。
「じゃあ、“ドラゴン”が最初に“ネフテス”に向かって来たのは……」
「“虚無の担い手”が集合していることを感じたからじゃ……」
ティファニアの予想を、オスマンは肯定する。
「そして、あやつが目覚めた時、次に狙うのは……」
「私か、テファ……そして、ジョゼットね」
「だからお主等を“魔法学院”へ連れて行くのじゃ。あそこなら、周囲に集落はないからのう。市民を巻き込む心配はない。更に、予想される“ドラゴン”の通り道に於いて、軍隊ができる限りの攻撃を加える手筈になっておる。その中には、タバサ嬢の“サーヴァント”であるイーヴァルディ君も参加する予定じゃ。効果のほどは判らんが、“英雄”がおるんじゃ。時間を稼ぐことはできるじゃろうし、上手く行けばダメージを与えることもできるじゃろうて」
オスマンは安心させるようにそう言った。
「でも、“魔法学院”で戦ったら、“学院”の皆は……」
「案ずるな。ミスタ・コルベールが既に避難させておる」
「シエスタ、あんたはルクシャナ達とお屋敷に行ってなさいって言ったでしょ!?」
「でももう来ちゃいましたし」
「私がお願いしたの。“魔法学院”って一度見てみたかったから」
“学院”の通路を歩きながら、ルイズはシエスタに言った。
が、ルクシャナがシエスタにフォローを入れるかのように、説明をする。いや、彼女の場合は、学術的好奇心などから、純粋に興味を持ち、それを優先させただけであろうが。
「だけどここは危険なのよ! 皆だってもう避難して……え!?」
そう言って扉を開けたルイズだが、その先の光景を見て酷く驚いた。
そこでは、“
その光景に、ルイズだけではなく、シエスタとティファニア、そしてルクシャナも驚いた様子を見せる。
「あら、ルイズ、ティファニア! 遅かったわね」
そんな彼女達に、キュルケが声を掛ける。
「僕が考えた“ドラゴン”退治のための陣形を皆に話していたところだ」
ギーシュが今おこなっていることを、入って来た皆に説明をする。
「ほら皆、こっち来て」
「あ、はい!」
モンモランシーの呼び掛けに、ティファニアは首肯いて歩み寄った。
「タバサさん、さっきまで王宮に」
「私が全速力で飛んだら、追い越しちゃったのね!」
ティファニアの質問に、いつもと変わらない様子でシルフィードが元気一杯に答えた。
「すみません、オールド・オスマン。皆残ると利かなくて」
オスマンへと近付き、コルベールが謝罪する。
だが、その表情は、申し訳なさだけではなく、嬉しさや覚悟などが籠もっていることが、オスマンには理解った。
「はあ……まあ、こんなことじゃろうと想っとったよ」
オスマンは、軽く溜め息を吐く。
「皆どうして!? ここにいたら死ぬかもしれないのよ!?」
「無関係でいられる訳ないでしょ?」
「私達だって、自分が生きてるこの世界を守りたいもの」
ルイズの疑問に、キュルケとモンモランシーが笑顔で答えた。
「僕等“水精霊騎士隊”には、サイトに代わって君達を護る務めもあるからね」
「おう!」
ギーシュの言葉に、“水精霊騎士隊”の面々は同意の声を上げる。
「それに、こう言うのちょっとワクワクするじゃない?」
そう言って、“元素の兄弟”のジャネットがルイズへと近付き、彼女の頬を舐める。
「ジャネット!? あんた達、どうして……?」
舐められたことで身を捩り、驚いて後ろへと跳ねたルイズが言った。
「私とセイヴァーが雇った。彼等は傭兵。誰の味方にもなることができる」
「そういうこと」
タバサの言葉を、ジャネットが肯定する。
「味方としちゃ頼もしいだろ?」
ドゥードゥーが自信満々に言った。
「僕等だって、世界が滅ぶことまでは望んでないんでね」
ダミアンがそう言い終えるのと同時に、ジャネットはウインクをした。
「あんた達……」
皆のその言葉に、ルイズの顔は緩む。
「君達も手を貸してくれるかい? “先住魔法”の“使い手”がもう1人いると色々と手間が省けるんだ」
「ええ、良いわよ。でも、“先住魔法”なんて呼び方はやめてよね? 私達は“精霊の力”を借りて“魔法”を使ってるだけですもの」
「ありがとう。救かるよ」
ダミアンの言葉に、ルクシャナは快諾する。
それから、ルクシャナはダミアンの後に続いて歩く。
「え? おい、ルクシャナ! まあ、“大隆起”は兎も角、ここで“ドラゴン”を喰い止めれば、“ネフテス”のためにもなるしな……」
アリィーは、ルクシャナを止めようとしたが、直ぐに考え直し、やれやれといった様子で彼女達を追い掛ける。
「みなさーん、お夜食どうですか?」
そこに、シエスタが手早く作った人数分のサンドイッチと飲み物を持って来る。
丁度良いタイミングだったために、皆が歓声を上げた。
1人残された才人は、夜になった街に在るビルの屋上で立ち尽くしていた。
きらびやかな夜の街が、才人を照らす。
(俺の所為だ……きっと、俺の所為なんだ……)
才人の脳裏に、“エンシェント・ドラゴン”と戦う前にしたルイズとの会話が蘇る。
(あの時、俺があんな情けない顔をしたから……)
ビルを降りて、雑踏の中を歩きながら、才人は考える。
(“リーヴスラシル”の力を使わせまいとして、ルイズはこんなことを)
才人は、“リーヴスラシル”の“ルーン”がある自身の胸を、パーカーを掴むようにして左手で触った。その左手甲には“ガンダールヴ”の“ルーン”が刻まれている。
(この力がなきゃ、“エンシェント・ドラゴン”は斃し難い……ルイズやセイヴァー、イーヴァルディ達に負担を掛けちまう。皆が、ルイズが死んじまう! いや、セイヴァーがいるんだから、死にはしないだろうけど……もしかして、これもセイヴァーの織り込み済みの展開なのか?)
才人は、そう考え、想い出したように走り出した。
(もしかして……もしかしてあそこなら……)
辿り着いた場所は、“ルイズ”に“召喚”される前にいた場所。
だが、あの時と違い、今は夜であるために、店は閉まっており、人っ子一人いない。
「ここだ。あの日、光の“ゲート”が開いて、“召喚”されたんだ……ルイズ! 聞こえないのか? ルイズ!」
通じるはずもないと理解していながらも、才人は大声で叫び呼び掛けた。
「ルイズ! おい! ルイズ!」
夜の街は静かなため、才人の声は酷く反響する。
「なんだあれ? ルイズぅ~、ルイズぅ~」
「お気に入りのメイドさんにでもフラれたんじゃないの?」
そんな才人に、夜の街をふらついていた3人の男が誂った。
「黙れ」
才人は、目に涙を溜め、3人の男を睨む。
「あれ? もしかして泣いてんの?」
「
「そりゃフラれるわよな」
「黙れって言ってんだ!」
そんな3人に、才人は遂に我慢ができず殴り掛かってしまう。
だが、今の才人は、“武器”を持たない状態では少しばかり鍛えた少年に過ぎない。幾ら、戦場で死線を潜り抜けて来たとはいえ、“武器”を持つこと前提で鍛えて来ただけである。また、相手は3人であるために、数的に不利である。また、“サーヴァント”としての力も、ルイズからの“魔力”供給が断たれてしまっているため、本来の力を発揮させることができない。そして幾ら“サーヴァント”の力を持っていても、その特性上、“デミ・サーヴァント”よりもひ弱であった。
故に、才人は結果、負けてしまい、一方的に殴られ蹴られことになった。
「てこずらせやがって」
「一文なしじゃ絡み損だ。行こうぜ」
「ああ」
3人の男は、一方的に才人を殴り終えた後、肩で息をしながら去って行った。
(俺1人の力じゃ、“ハルケギニア”に戻れない。セイヴァーの考えのうちだとしても、どうやって戻れば良いんだ? ……もう逢えないんだ……ルイズ……)
才人は、空に浮かぶ1つの月を眺めながら涙を流した。
その涙は決して、痛みによるモノだけではなかった。
大きな岩山が震え、吹き飛ぶ。
「――な、なんだ!?」
「“ドラゴン”が……成長している!?」
「なんて巨大な……」
「皆退がれ! 退がるんだ!」
巨大な岩山の中から現れたのは当然“エンシェント・ドラゴン”であるが、その姿は変化していた。
背には黒々とした大きな翼が生えており、“エンシェント・ドラゴン”は力強く羽撃き、空へと上昇する。
見張りをしていた“聖堂騎士”達は、飛び去って行く“エンシェント・ドラゴン”をただ見守ることしかできない。
“エンシェント・ドラゴン”は再び、“竜”達を呼び寄せ、伴って飛行を開始した。
「正面からなにかが、接近して来ます!」
「正面だと!?」
「あれは……!」
「“エンシェント・ドラゴン”……!」
「飛べるなんて聞いてないぞ!」
「撃て! 今直ぐ攻撃を!」
連合艦隊に向けて、“エンシェント・ドラゴン”は飛行し、口を大きく開けてブレスを吐く。
そんな“エンシェント・ドラゴン”のブレスが吐かれるのと同時に、艦隊から影が1つ飛び出した。
その飛び出した影により、ブレスは一刀両断され、辛うじて艦隊は被害を免れる。
夜の太陽が、2つに別れて飛んで行く。
『タバサ、“真名解放”させて貰うよ』
『お願い』
“思念通話”で遠く離れた場所にいるタバサと会話をし、了承を得たことで、イーヴァルディは“魔力”を、そして“宝具”の“真名”を解放する。
「――“
“真名開放”により、艦隊から放たれた大砲の弾の速度が上がり、その全弾が“エンシェント・ドラゴン”に命中し、炸裂する。
だが、“エンシェント・ドラゴン”にダメージはほとんどなく、煩わしいとばかりに咆哮を上げるだけである。
「艦隊の皆! 僕達は、“トリステイン魔法学院”で準備が完了するまでの間、時間を稼ぐよ! 時間を稼ぐだけで良い! 後は生き残ることだけを考えて!」
イーヴァルディの叫びに、艦隊の速度が上昇し、乗員達の意欲や能力が上昇する。
再び艦隊から弾が放たれ、落下しつつあったイーヴァルディは“八艘飛び”のようにしてそれを踏んで跳躍し、再び“エンシェント・ドラゴン”へと剣を構えながら向かった。