ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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エンシェント・ドラゴン

「“エンシェント・ドラゴン”は予想を上回る速度でこちらへ向かっているそうじゃ。まあ、連合艦隊の必死の抵抗とイーヴァルディ君のおかげでどうにか遅らせることはできているようじゃが」

「でも、そろそろ姫様の艦隊が」

「それが、大砲の増設に時間が掛かっているようでの」

 “魔法学院”の学院長室で、オスマンとルイズは現在の状況を“遠見”を使用して確認していた。

 だが、当然状況は芳しくない。

「“ドラゴン”が見えた! 南南東、15“リーグ”!」

 窓際で“遠見”を使用して警戒をしていたマリコルヌが叫んだ。

「艦隊は間に合わなんだか……」

「艦隊が、敗走をしながら応戦してるみたいだよ! あれは、イーヴァルディか!?」

 オスマンがそう言った直後、マリコルヌは再び叫ぶ。

 皆が窓の外へと目を向けると、驚くべき光景がそこにはあった。

 確かに先に出ていた艦隊はそのほとんどの艦を失い、敗走している。だが、それ等戦列艦などからは砲弾や“魔法”が“エンシェント・ドラゴン”へと向かい攻撃が続いており、まだ士気が落ち敗走ムードになっている訳ではないことが、遠目でも判った。

 そして、なにより皆を驚愕させたことは、イーヴァルディであった。

 既にここにいる皆は、イーヴァルディが“イーヴァルディの勇者”の主人公であるということを、“英霊”――“サーヴァント”で在ることを知っている。だが、彼の実力の全てをまだ知っている訳では、理解していた訳ではないのである。当然、タバサも知らなかった。

 イーヴァルディは、発射される砲弾から砲弾へと跳躍し、八艘飛びの要領で常に足場を確保して移動。そして、“エンシェント・ドラゴン”へと剣圧を飛ばすなどをして攻撃していた。

 当然、“エンシェント・ドラゴン”の躰は大きいのでダメージといえるようなダメージはない。が、それでも“エンシェント・ドラゴン”の気を引くこと――ある程度の誘導をすることなどは可能であった。

 イーヴァルディを目の敵にした“エンシェント・ドラゴン”の咆哮に従うように、従わされている“竜”達は一斉にイーヴァルディへと向かい攻撃を仕掛けようとする。

 だが、 “メイジ”達を始め艦隊の乗員達が“竜”へと攻撃をして絶妙に邪魔をするのである。“竜”の両翼に“魔法”で穴を空けて飛行できないように仕向け墜とす、などといった風にである。また、“エンシェント・ドラゴン”の目へと向けて砲弾を撃ち込むことで目眩ましを行うなどもまたしていた。

 そんな小さな妨害的攻撃は、“エンシェント・ドラゴン”を苛立たせるのと同時に、確かに進行を邪魔することに成功させていたのである。

 だが、そういったモノにも当然限界というモノはあり、次第に“メイジ”達の“精神力”や砲弾が尽きて行ってしまう。また、イーヴァルディの“宝具”もそう長くは続きはしない。

 “勇気”を振り絞っても、無理な時は無理、無理なモノは無理なのである。

 だがむしろ、ここまで良くやった、と褒めるべきであろう。

「艦隊の皆! もう直ぐ“魔法学院”だ! 直ぐに退艦準備をして! 時間は稼ぐから!」

 イーヴァルディは剣を振いながら、怒鳴った。

 だが、艦隊から出て行く者達は誰1人おらず、それどころか“エンシェント・ドラゴン”に向けた砲弾の発射速度や“魔法”による攻撃はより苛烈さを増す。

 言葉で語るではなく、乗組員達は行動で語ったのである。

「全く……命を大事に! だよ! 勇気と蛮勇はまた似て非なるモノなんだから!」

 そうイーヴァルディが言った直後、“エンシェント・ドラゴン”は大口を開けてブレスを吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “東京”の住宅街にある道を、才人は寂しく歩いていた。

 朝早であるために、人の影はほとんど見当たらない。

 そして、ふと足を止める。

 顔を上げた先にあったのは、一軒の家であり、表札には“平賀”とあった。

 平賀才人の家、なにより望んでいた実家であった。

 自身の家を見て、才人は帰って来ることができたことを実感し、インターホンを見る。

 そこにあるボタンを押して家の中にいる母親か父親を呼び出そうとするのだが、自身の左手甲に刻まれた“ガンダールヴ”の“ルーン”を目にし、止めた。

(“ガンダールヴ”の“ルーン”……ルイズとの“契約”はまだ残ってる……それに、まだ繋がってることが判る……ルイズにあんな悲しい顔をさせちまった。好きな女の子1人笑顔にできないなんて、男じゃねえ……)

 才人は拳を強く握り締め、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “魔法学院”は、本塔とその周囲を囲む壁、其れと一体化した5つの塔からなっている。そして、それぞれの塔は、“魔法”の象徴であり、“水”、“土”、“火”、“風”、そして“虚無”を表している。

 そのうちの塔の1つに、レイナールはいた。

「――き、来たあああ!」

「騒ぐな」

 怯えるレイナールを、ジャックがなだめ、“マジック・アイテム”を使用する準備をする。

 その“マジック・アイテム”は、杖のようであり、また銃のようでもある。だが、それ等とは全く違うということもまた一目で判るだろう。ただ言えることは、それが棒状のなんらかの“マジック・アイテム”であるということだけである。

 だが、よくよく見ると、それにはボタンが幾つかあり、先端には赤い宝石が付いている。楽器のようでもあり、やはりなにか別の道具であるとしかいえないモノであった。

 そんな“マジック・アイテム”にあるボタンの内の1つを、ジャックが押すと、先端にある宝石が光る。

 他の塔には、キュルケとジャネット、ギーシュとドゥードゥー、タバサとダミアンが待機しており、それぞれがジャックと同じ“マジック・アイテム”を所持し、準備をしていた。が、彼等が持つ“マジック・アイテム”の先端は、ジャネットが持つモノは緑色といった風に、ジャックが持つモノとは違う色をしている。

 “学院”の直ぐ側まで近付いたこともあり、“エンシェント・ドラゴン”はブラスを吐く。

 ついに、艦隊はそのブレスによって崩壊してしまう。が、どうにか乗員達は“フライ”や飛び降りからの“レピュテーション”や“フライ”などを使うことで、脱出に成功する。

 吐かれたブレスは其の儘、“学院”へと向かうが、イーヴァルディが其れを斬り裂いてみせた。

 だがそれも織り込み済みであったのか、ただもう1度吐いただけなのか、“エンシェント・ドラゴン”は再びブレスを放った。

 そんな“エンシェント・ドラゴン”のブレスを前に、イーヴァルディは宙に浮かび落ちている最中であるために、なす術もなく、見送るしかなかった。

「――うわああああああああああ!?」

 ブレスが向かって来るのを目にし、仕方のないこととはいえ、ギーシュは情けない悲鳴を上げてしまう。

 だが、そのブレスは見えなになにかに防がれ霧散する。

「“先住魔法”、“精霊の力”による“反射(カウンター)”さ」

「え?」

 驚くギーシュに、ドゥードゥーは言った。

「“精霊の力”を道具で強めるなんて、“元素の兄弟”とやらって、一体何者なんだ?」

「ホント、ヒトの国って退屈しないわよね」

 アリィーはそんな“マジック・アイテム”に対して驚き、ルクシャナは目を輝かせて言った。

「範囲が広過ぎるから余り長くは保たないかもしれないよ」

「今は十分」

 ダミアンの言葉に、タバサは短く首肯いた。

「これで艦隊とミス・エルディとセイヴァー君が来るまで、保ち堪えれば良いんじゃが……」

「見てください! “竜”の群れです!」

 学院長室で、オスマンは自身の机に座りながら目を閉じ、言った。

 だが、同じく学院長室にいたシエスタが、窓の外を指さして叫んだ。

 もう肉眼でハッキリと捉えることができるほどに、近付いて来ているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(“ハルケギニア”に帰ら為きゃ……だけど、どうやって? 考えろ、きっとなにかあるはずだ!)

 才人は必死な様相で走りながら頭を働かせた。

 そこでふと、才人は足を止め、前を通り過ぎようとしてしまった店を見やった。

 その店は、小さな売店のようで、手頃な飲食物や雑貨などが少量、雑誌や新聞などが売られている。

「――!」

 そこで才人は、想い付き、新聞を手に取り、日付を確認した。

「――え? あ、あの……お客さん?」

 戸惑う店員を余所に、才人は目を走らせる。

「そうか……今日は……でも、どうして? タイムスリップでもしたのか? いや……」

 そこに記載されている日付を確認し、才人は一瞬戸惑った。

 だが……。

(俺が“ハルケギニア”に行った日と同じ……でも、“ハルケギニア”では1年以上もの時間が経ってる……異世界だからって理由とかもあるだろうけど、これがもし“魔術”や“魔法”が絡んでるなら……)

 才人の頭の中で1つの答えが導き出された。

(――“レイシフト”!)

 それから、才人は読み終わった新聞を元の棚に戻す。

「立ち読みしてごめんなさい!」

 才人は叫ぶように謝罪の言葉を口にしながら、その場を疾走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5つの塔で使用されている“マジック・アイテム”で展開された“反射”の防御フィールドに、“竜”達は突っ込んで来る。自らの躰が傷付くのを恐れることなどないといった様子で。

「きゃあ!?」

「だ、大丈夫よ……この程度で破られたりしないはずだわ」

 怯えるシエスタに、モンモランシーは安心させるようにそう言った。だが、彼女自身も怯えは当然あり、その“杖”を握っているその手は震えている。

「――き、来たああ!」

 何匹もの“竜”達が防御フィールドに攻撃を続ける中、窓際にいたマリコルヌが歓喜の声を上げた。

「艦隊だ!」

 “エンシェント・ドラゴン”の遥か後方ではあるが、幾つもの戦列艦が向かって来ているのが見えた。

 その数は、“竜母艦”などがないために“聖地回復連合軍”の時ほどではないが、それでもかなりの数である。

 艦隊の中には、“オストラント号”の姿もあった。

「“ハルケギニア”連合軍! 全艦攻撃準備!」

 アンリエッタの号令に、艦隊の砲塔が全て“エンシェント・ドラゴン”へと向けられる。

「砲弾装填!」

 “オストラント号”に搭乗したアニエスが、“水精霊騎士隊”の少年達へと指示を出す。

「ご協力、感謝する、アニエス殿」

「奇妙なモノだな、おまえと共に戦うことになるとは」

 “オストラント号”の甲板上で、礼を言ったコルベールに、アニエスは自嘲気味に言った。

「自らの過去のためではなく、“世界”の未来のために力を尽くそう、ミスタ・コルベール!」

 だが直ぐにアニエスの顔と言葉は、過去に囚われた者のモノではなく、未来を見据えた希望有るモノへと変わる。

「……ありがとう」

 そんなアニエスに、コルベールも強く首肯いた。

「この攻撃が通用すれば“魔瘴壁”が破れるはずだ」

(そこでルイズが、“爆発(エクスプロージョン)”を放てばきっと……)

 艦隊の中心にいるコルベールとアンリエッタ、そしてジュリオは同じことを考えていた。それ故に、意思の疎通を取らずとも連携を取ることができている。

「――全艦! 攻撃始め!」

 アンリエッタの号令に、全艦隊から“エンシェント・ドラゴン”へと向けて攻撃が始まる。

 その全てが見事に命中する。

 数が数であるために、“エンシェント・ドラゴン”は悲鳴を上げて地面へと墜落するかのように降りる。

「効いているわ。第二射、発射!」

 アンリエッタの指示で、再び装填された砲弾が放たれる。

 砲弾の全てが命中し、爆炎と土煙が巻き起こる。

「動きが止まった?」

「やったぞ!」

「成功だ!」

 煙が舞い上がる中、“エンシェント・ドラゴン”は身動きの1つも見せないでいる。

 それに対し、アンリエッタは疑問を覚えるが、騎士達はただ喜びの声を上げた。

「いや……」

 だが、直ぐにジュリオとアンリエッタ達は斃すことに成功した訳ではないということに気付いた。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 躰を大きく震わせ、“エンシェント・ドラゴン”は空を仰ぎ、咆える。

 その咆哮に、騎士達を始め皆動揺を隠すことができなかった。そして、“エンシェント・ドラゴン”の咆哮により、彼等の戦意は挫かれてしまう。

 “エンシェント・ドラゴン”は口を大きく開けてブレスを吐いた。

 艦隊へと命中するかと想われたそれは、なにかに弾かれ、艦隊は守られる。

「こ、これは……?」

 アンリエッタが驚き、コルベールが振り向く。

 そこには、“エルフ”の艦隊があった。

「“エルフ”だと!?」

 アニエスがアンリエッタ同様に驚愕の声を上げた。

「“火石”に“火”の力を入れて、火の盾に……このような使い方が……」

「ジョゼフの愚行もまた、彼の言葉を借りるなら“大いなる意思”の導き、か……」

 “エルフ”の艦の1隻にいたビダーシャルは、隣にいた“エルフ”の言葉を聞き、ポツリと呟いた。

「“ネフテス”の艦隊だ! ビダーシャル卿が約束通り来てくれたんだ!」

 アリィーが喜びの声を上げる。

「ヒトとの交流に賛同する“エルフ”があんなにいるんだわ! ――ああ!?」

 ルクシャナも喜びの声を上げるが、“竜”が“学院”を襲い続けているkとに変わりはなく、彼女がいる塔の窓がある場所へと攻撃を仕掛けて来る。

「お、おい……大丈夫、なんだろうな?」

「知るもんか。ダミアン兄さんに訊いてくれ!」

 “竜”達が何度も自身の躰が傷付くのを厭わず体当たりなどをして来るのを目にし、ギーシュは不安になり言った。

 だが、ドゥードゥーもまた不安ではあるが、どう仕様もないことからぶっきら棒な返し方をしてしまう。

 “エンシェント・ドラゴン”は自ら飛行して“学院”の方へと向かい、防御フィールドが展開されている中に降り立とうとする。

 飛行した際、ヴィットーリオの“浄化”によって剥がされた部分が赤々と見えており、艦隊の砲撃のおかげでその部分がより大きくなっていた。

 想定以上の重量のモノ――“エンシェント・ドラゴン”が上に乗ったために、防御フィールドに罅が入り出す。

「――こりゃ不味いぞ! “フライ”!」

 ギーシュがいる塔の上に入った罅が大きくなり、防御フィールドは割れてしまう。

 そして、その重量故に“エンシェント・ドラゴン”は地上へと落ち、塔は崩れた。

「ギーシュ!?」

 それを目にしたモンモランシーは悲鳴を上げるが、土煙が舞い上がる崩落した塔からギーシュとドゥードゥーが“フライ”を使用して脱出するのが見え、一先ずの安堵をした。

 “エンシェント・ドラゴン”によって防御フィールドが破壊されたことで、“竜”達が一斉に塔へと体当たりをし、窓から顔を建物の中へと突っ込んで来る。

「こいつはもう用なしだな」

 ダミアンはそう言って、“マジック・アイテム”を放り捨てた。

「皆と合流する」

 タバサは“杖”を構えて言った。

「“ファイア・ボール”!」

 キュルケが“ファイア・ボール”を唱え、壁を壊して入って来た“竜”に火球を当てる。

「移動するわよ!」

 ジャネットの言葉に従い、キュルケは塔から脱出した。

「はあ……ふん!」

 オスマンは、学院長室の窓から入って来ようとする“竜”達に、“風”の“魔法”を使用して吹き飛ばす。

 壊れた窓の奥から、外に居る“エンシェント・ドラゴン”の顔が見える。

 “ドラゴン”は、“虚無の担い手”であるルイズとティファニアを見ていた。

「テファ、“ドラゴン”が狙っているのは私達よ。ここから離れなきゃ」

「は、はい!」

「シルフィード、お願い」

「任せてなのね!」

 学院長室から、イルククゥは“韻竜”であるシルフィードへと戻り、ルイズとティファニアを乗せて上空へと羽撃く。

 “エンシェント・ドラゴン”は大きく翼をはためかせ、シルフィードを追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう!」

 トラックから降りて、才人は手を振って感謝の言葉を言った。

 ここは、自衛隊基地である。

 才人は、ヒッチハイクをして、ここまで来たのである。

「ルイズ、今行くからな」

 才人は空を見上げて言った。

 空に浮かぶ太陽には黒い影が差し込んでおり、日蝕が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルフィードが空へ向かい逃げるが、“エンシェント・ドラゴン”に支配された“竜”達はシルフィード――正確にはルイズとティファニアに向かって体当たりなどを仕掛けて来た。

「“ニード・イス・アルジーズ……ベルカナ・マン・ラグー”!」

 ティファニアは簡略化した“呪文”を“詠唱”し、“杖”を“竜”達へと向けて振った。

「テファ、ありがとう」

「いえ」

 “忘却”に成功した“竜”達は、自身がなにをしていたのかを忘れ、その場に留まる。

 だがそこに、“エンシェント・ドラゴン”が追い付き、ルイズとティファニア、シルフィードの後ろを飛ぶ。

「じょ、女王陛下。砲撃を!」

「なりません」

「え?」

「今撃てば、ルイズとティファニアにも危険が」

 艦の上にいた騎士の1人の提案を、アンリエッタは却下する。

 アンリエッタは、ルイズとティファニアのことを救けたいが、今できることがない、ということもまた理解しているのである。

 故に、アンリエッタは砲撃命令を下すことができず、歯噛みした。

 シルフィードごとルイズとティファニアを喰らおうとする“エンシェント・ドラゴン”から、シルフィードはどうにか逃げ切る。

 が、躰の大きさの違いがあるために、完全に振り切ることはできない。なにせ、“エンシェント・ドラゴン”の躰の大きさは、ヴィットーリオを喰らう前の3倍ほどにもなってしまっているのである。

 詰まり、“虚無の担い手”を喰らい、それを糧にすることで成長したのである。

 翼が生えただけではなく、躰もまた実際に大きくなったのであった。

「あ!」

「さっきの艦隊の攻撃で、“魔瘴壁”が消えてる!」

 艦隊の砲撃で大きく“真瘴壁”剥がれ落ちていることに、ティファニアとルイズは気付いた。

「それなら……」

 ルイズは立ち上がり、“杖”を構えた。

「“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル”……“爆発(エクスプロージョン)”!」

 ルイズが持つ“杖”から光の波動が“エンシェント・ドラゴン”へと向かい、“真瘴壁”が剥がれた箇所で“爆発”が起こる。

 大きな爆発が起こり、“エンシェント・ドラゴン”の躰がよろめくのと同時に、ルイズ達の視界が光で染まる。

「……!? 生きてる……」

 だが、光が消えたのと同時に、“エンシェント・ドラゴン”はルイズへと向かって咆哮を上げながら飛んで来た。

「ルイズ!」

 ルイズは力なく座り込み、呆然とする。

「力が……」

「――!?」

 後方を明るくなったことに気付き、ティファニアは振り返った。

 振り返った先では、“エンシェント・ドラゴン”が口を開き、今にもブレスを吐こうとしていた。

 咄嗟のところでシルフィードは急上昇し、回避してみせた。それから、“エンシェント・ドラゴン”の横を通り過ぎようとするのだが――。

「――きゃあああああ!?」

 “エンシェント・ドラゴン”の尻尾で、シルフィードは叩き付けられてしまい、吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされたシルフィードから、ルイズとティファニアは転げ落ちてしまい、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才人は、コッソリと“自衛隊”基地へと忍び込み、監視カメラの死角を突いて格納庫へと向かう。

(誰も来ない……? 一体、どういうことだ?)

 疑問に想いながら、才人は格納庫の前へと到着した。

 そして、到着するのと同時に、才人は驚いた。

(――! ラッキー! 一機だけ外に置いてあるじゃねえか……)

 才人は恐る恐る近付き、コックピットの中へと入る。

 それから操縦桿を握った。

 “ガンダールヴ”の“ルーン”が、才人に操縦方法などを教えてくれる。

 才人は確認を終えるとそのまま、操縦し、太陽を目指し離陸した。

 太陽は、日蝕が始まる直前である。

(日蝕に飛び込めば“ハルケギニア”から“地球(こっちの世界)”に帰れるかもって、前に言われた……だったら――)

 才人は、操縦桿を強く握り押し倒す。

「――だったら、その逆も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を取り戻したルイズは、目を開く。

 一面に草が生えているのが、ルイズには見えた。

「テファ!」

 痛む身体を抑え、ルイズは身を起こす。それから、離れた場所で意識を失い倒れているティファニアを見付け、呼び掛けた。

「あ……くう……」

 だがそこに、“エンシェント・ドラゴン”が着陸し、ルイズの前に顔を見せる。

「い、嫌……サイト……」

 圧倒的かつ絶望的状況を前に、ルイズは目尻に涙を溜め、“使い魔”の名前を口にした。

 “エンシェント・ドラゴン”の目は、ヴィットーリオを完全に吸収し終えたためか、赤色から黄色へと戻っている。

「救けて……サイトオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 するとそこに、太陽から“エンシェント・ドラゴン”へと向かってなにかが2つ飛来し、命中した。

 命中したそれは大きく炸裂し、爆発した。

 “エンシェント・ドラゴン”は、飛来したそれ等を放ったモノがいる太陽の方を見やった。

「……え?」

 ルイズもまた、そちらへと呆然としながら目を向ける。

 そこに、意識を取り戻したシルフィードがティファニアを乗せながら、ルイズを掴み急速離脱をした。

「まさか……サイトさんが!?」

「サイトさんが帰えって来た!?」

 ティファニアとアンリエッタが、その突如飛来したそれを見て、目を大きく見開いた。

 飛来したそれは翼の生えた鉄の塊であり、どことなく“竜の羽衣”の面影がある。

「やっほおおおおお! “ハルケギニア”だ!」

 才人は雄叫びを上げ、“戦闘機”を操作した。

「こいつはおでれえた。まさかホントに帰れるとは想わなかったぜ」

「ああ、俺もビックリだよ! って、ええ!? デルフ!?」

 歓喜の声を上げる才人だが、その声は直ぐに驚愕へと変化した。

「おうよ。元気だったか? 相棒」

「“元気だったか?”じゃないだろう! どういうことだよ?」

「正直、俺っちにも良く理解んねえんだけどよ……剣、刀が壊れてからこっち、おまえさんの“ガンダールヴ”の“ルーン”の中で、眠ってたみたいだな。元々そう言った機能があったのか、セイヴァーの野郎がなにかしたのか」

「眠ってたって……? まあ良いや、兎に角生きてんだな?」

「おう! ピンピンしてるぜ!」

 才人の質問に、デルフリンガーはいつもと変わらぬ調子で答えた。

「そっか! じゃあ、いっちょ暴れっか!」

 才人はそう言って操縦桿を思い切り倒し、“戦闘機”を加速させる。

 照準を合わせた後、才人は立て続けに4発“ミサイル”を発射した。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 “ミサイル”は“エンシェント・ドラゴン”へと向かい、頭と背中にある“魔瘴壁”を見事に剥がしてみせた。

 “戦闘機”は、“エンシェント・ドラゴン”の頭上を通り過ぎる。

 後ろを振り返りながら、才人は舌打ちをした。

「くそっ、まだ“魔瘴壁”が……だったら……!?」

 そう才人が言った直後、コックピット内に小さな光が発生する。

 その光は次第に大きくなり、鏡と同程度の大きさになる。

「サイト! あんた、どうして!?」

 その鏡――“世界扉(ワールド・ドア)”からルイズが顔を覗かせた。

「ルイズ、ちょうど良かった! こっちへ来てくれ!」

「へ? ちょ、きゃああ!?」

 才人は少し驚きはしたものの、渡りに船と言わんばかりにルイズの手を引き、コックピット内へと招き入れた。

 ルイズは才人の膝の上に座る形で、コックピット内へと入った。

「ちょっと、サイト!」

「痛たたたた」

 ルイズは、才人をポカポカと場所も気にせず、叩く。

「この馬鹿! どうして帰って来たのよ!?」

「……だって!」

「私、すっごく悩んで、悩んでやっと!」

「ごめん……いや、ありがとうルイズ」

 そんなルイズに、才人は彼女の手を取り、短いながらも誠心誠意を込めて謝罪と感謝の言葉を口した。

「だけど……俺も“ハルケギニア(この世界)”を守りたいんだ。だから、あいつを斃そう! 一緒に!」

「う、うん……」

「俺はもう1度攻撃して、“魔瘴壁”を消す。そしたら、ルイズが“爆発”で」

「でも私の力はもう……」

「俺がいる」

 先程の“爆発”が通じなかったことから不安がるルイズに、才人は自信満々に言ってみせた。

「い、嫌! “リーヴスラシル”の力を使ったら、サイトは!」

 ルイズのそんな言動に、才人は、彼女が自身と同じことで悩んでいることに気が付いた。

「ルイズ、約束する」

 才人は、ルイズの手を取り、言った。

「俺は死なない」

「え?」

「大好きなルイズを遺して逝くもんか。セイヴァーが何もして来ないってことは、大丈夫だってことだろ? それに……」

「それに?」

「それになにより、俺は、ルイズの……“ゼロの使い魔”なんだ!」

 才人は、強く言い切ってみせた。

 その顔は、大好きな女の子が側にいることで、護りたい人が側にいることで、力を発揮させることができる男の子としての顔であるといえるだろう。

 また、この時、才人の中の“虚無の使い魔”である“ガンダールヴ”としての、そして“盾の英霊(シールダー)”としての力が十二分にみなぎっていた。

「サイト」

 才人はソッと目を閉じ、ルイズの唇に自身のそれを優しく重ねた。

 ルイズは、戸惑いはしたものの、それは一瞬だけであり、目を閉じて直ぐに受け入れた。

 ファーストキスから始まった2人の運命(恋のヒストリー)は、魔法を掛けられ、何度も、幾つもの問題はありはしたが、結局のところ紆余曲折を経て乗り越え、こうして結び付くモノである。“運命”は、“根源”から生まれ出たそれ等は、そういった障害を乗り越えさせ、2人を結んでみせた。

 状況が状況で在るために、一瞬だけではあるが、それだけでも2人には十分過ぎた。

 繋ぐ手を通して、“リーヴスラシル”の能力が発動し、ルイズへと“小源(魔力)”が流れる。

 だが、才人の体力はさほど失われることはなく、それどころか逆に力が余計に漲って来るほどであった。

(感じる……サイトの命……)

 2人は閉じていた目を開き、重ねていた唇を離別。

 そして、ルイズは言った。

「私、やるわ」

 ルイズは“杖”を掲げ、意識を集中させる。

 彼女の中で、“精神力”が大きなうねりとなり、また渦となる。それは荒々しくも落ち着いたモノであり、矛盾しながらも一定の法則を持っているといえるだろう。“精神力”は次第に“魔力”へと変化し、定められた式に則って彼女に“二つ名”を与えた、“虚無”の初歩の初歩の初歩を発動する準備が行われる。

「一斉砲撃を!」

「撃て!」

 示し合わせたかのように、“ハルケギニア”連合艦隊と“エルフ”の艦隊から砲撃が放たれる。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 砲弾が命中する中、“エンシェント・ドラゴン”は艦隊へと目を向け、咆哮を上げる。

「“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド・ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ ジェラ・イサ・ウンジュー”」

 ルイズの“詠唱”は落ち着いたモノであり、その声は静謐でありながらも確かな力が込められている。彼女の口からこぼれ出る調べは響き渡り、砲撃が繰り返されているこの戦場にいる者達にもハッキリと聞こえていた。

 その“詠唱”が、戦場に連なる者達の戦意を向上させる。

「ルイズ、行くぞ!」

 才人はそう言って、シートの横に配置された脱出用のレバーを引いた。

 コックピットを覆っているキャノピーが爆薬で破壊及び取り外され、慣性の法則に従い、才人とルイズが座る座席は後方へと吹き飛んだ。

 戦闘機は、そのままの速度で“エンシェント・ドラゴン”の腹部へと突っ込み、命中し、爆発する。

 “エンシェント・ドラゴン”は、憎々しげに才人とルイズを見据える。

「“ハガル・ベオークン・イル”」

 展開されたパラシュートによって風に戦ぐ中、ルイズは才人に抱き抱えられながら、“エンシェント・ドラゴン”へと目と“杖”を向ける。

「“爆発(エクスプロージョン)”――!」

 これまでの比ではない“爆発”が、“エンシェント・ドラゴン”を襲った。

 その爆発は、ブリミルが放った“生命(ライフ)”と同程度の威力を誇る。

 だが、周辺の地形などを変化させることはなく、ただ対象に強烈なダメージを与える。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 周囲に眩い閃光が奔った。

 戦場にいる者達の目を灼くほどのその光を、皆は静かに見守った。

「なあ、ルイズ……」

「なによ?」

「シオンとセイヴァーはどうしたんだ?」

「そう言えばなにをしてるのかしらね? “秘密兵器を持って来る”とか言ってたみたいだけど……でもまあ良いじゃない。“ドラゴン”も斃したんだし……」

 まだ光が消えない中、才人とルイズは話した。

 2人の体力と“精神力”はこれまで“魔法”を放った時や“体力を譲渡した(リーヴスラシルの力を使った)”時と比べて、消耗はしておらず、0に等しいといっても良いレベルである。

 しいていってしまうのであれば、心地好い疲労感を覚えていた。

 だが、その後に再びルイズ達は絶望を前にすることになった。

「な、なによ……あれでも生きてるっていうの……?」

 光が消えた後には、まだ“エンシェント・ドラゴン”がルイズ達を睨んでいたのである。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 その身体に纏って居た“魔瘴壁”は消えてはいるが、 “エンシェント・ドラゴン”は健在を主張するかのように、咆哮を上げた。

「それはそうだろ」

「セイヴァー……? ――!?」

「……“神代”のそれ、いや、それ以上に旧い力には“神秘”が宿る。“神秘”を侮ってはならんよ」

 呆然とするルイズ達に、俺は外部へと聞こえるようにマイクをオンにして言った。

 空には、この場にいる皆にとって、想像を絶する巨大な浮遊要塞が高度7,500“メイル”の地点に浮かんで居た。

 “虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)”。

 “白の国(アルビオン)”ほど大きい訳ではないが、それでも彼等を圧倒するには十分過ぎる。

 規則正しく並べられた緑豊かな浮島、外からは見えないが大理石でできた床や柱で構成されており、全体に汎ゆる種の植物が絡んでいる。混沌の醜さと絢爛の美しさが同一化しているのである。そして、連合艦隊の全ての艦を収容することができるほどに巨大であった。

 この“宝具”は本来、“魔力”による顕現は不可能であり、現実で作る必要がある。それは、本来の持ち主である“セミラミス”が実際は空中庭園など建設していないにも関わらず、彼女に関する伝説にいつの間にか組み込まれた虚偽はいつしか本物となってしまい、後付けの“神秘”として彼女自身に刻み付けられたためであった。

 この“宝具”の名前にある虚栄とは事実に反する紛い物であることを意味している。現実世界に虚偽の代物を持ち込むために、材料に関しては現実の物を使用せねばならず、“セミラミス”が生きていた土地――“イラク”の“バグダット”周辺の木材、石材、鉱物、植物、水といった材料を全て揃える必要があり、“中東”に存在するとある年代以降の遺跡から、土と石を一定量運び、それを組み上げることによってようやく発動準備が完了するのである。詰まり、お金を掛ければ掛けるだけ“神秘”が強く濃くなり、庭園は強化されるのである。

 また、3日3晩の長時間の儀式を行う必要があり、これは虚栄に真実という楔を打ち込むために必要な“儀式”だ。“セミラミス”による“詠唱”が72時間分必要である。これによって庭園としての機能を発動できるのだが、庭園を拡大すればするほどに、あちこちに楔を打ち込む必要が出て来る。

 そして、それ等の準備を行うには先に述べた通りのそれ相応の資材や資金などが必要ではあるが、“錬金”や他の“宝具”などを利用して、それ等を難なく可能にしてみせたのである。

「さて……“十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)―起動……!光栄に想え、そう見られるモノではない。神代の力で薙ぎ払ってやろう……”」

 庭園周囲には、全長20mを超える巨大な漆黒のプレート――11基の迎撃術式――“十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)”が、庭園を囲む様に配置されている。これ等は、対軍級の光弾による“魔術”攻撃を行うことが可能である。

 そんな“十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)”全ての前面に眩い光が現れる。

「“人が触れられぬ天の城塞を見せてやろう。虚栄の庭園──虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)!!”」

 それ等“十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)”から一斉に、“魔術”による光弾が“エンシェント・ドラゴン”へと向けて発射される。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

「痛いか? そうであろうな……おまえの気持ちもしようとしていることも十分に理解できる。共感もできる。だが、それはならん。ならんのだ。“竜”が世界を征する時代はもう終わったのだよ。これからの“ハルケギニア”は、それぞれの種族が共生する時代だ。“地球”では既に“神代”は終焉し、“幻想種”であるおまえ達には居場所がない。“世界の裏側”に行く他ない状況だ。そこまでする必要が無いことに、満足しろとまでは言わないが、それでも……奪い合い、殺し合うよりはマシだろうて」

「――きゃあああああああ!?」

「――うわああああああ!? セイヴァーの野郎、加減なしかよ!?」

 “十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)”から放たれた光弾は“エンシェント・ドラゴン”へと命中し、大きく爆発する。その爆発は、“連合艦隊”を揺るがすほどであり、才人とルイズ、シルフィードとティファニアを吹き飛ばすかなり遠くへと吹き飛ばした。

 更に、“虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)”が浮かんでいる方角から幾つもの“戦闘機”と酷似したモノが100機近く飛来し、“エンシェント・ドラゴン”へと向かう。

 “戦闘機”と似た飛行機械は、“エンシェント・ドラゴン”の上空を通り過ぎる。その際に、幾つもの何かを落下させる。

 落下したモノは“エンシェント・ドラゴン”へと打つかるのと同時に大きく爆発する。

 絨毯爆撃を行っているのである。

 そこに、“エンシェント・ドラゴン”の元へと俺は移動する。そして、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を“投影”し、構える。

「“邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!”」

 “Aランクに到達した聖剣と魔剣両方の属性を持ち、竜殺しをなした黄昏の剣”を再現し、それを放つ。

 “真名”を解放したことで剣を中心として半円状に拡散する黄昏の剣気を放たれる。

 剣気は“エンシェント・ドラゴン”へと打つかり、爆発を起こす。

 爆発と光が収まった先には、白くボロボロになり、力なく項垂れている“エンシェント・ドラゴン”が座り込んでいた。既に死に体であるといっても良いであろう。

「やった……やったぞ! セイヴァーの野郎、美味しいところだけ持って行きやがって!」

 才人がそう叫んだ直後、なにかが“エンシェント・ドラゴン”へと向かい飛んだ。

 それは、影であった。

 人の怨讐の塊。

 負の感情の総念。

 酷く歪んだ黒い影――“復讐者(アヴェンジャー)”は、“エンシェント・ドラゴン”を自身の影に取り込んでしまう。

「な、なんだよ……? 嘘だよな……?」

 才人がそう言ったのと同時に、アヴェンジャーはそんな才人とルイズへと一瞬で距離を詰め、殴り掛かった。

「――!?」

 2人が息を呑む。

 逃げるか避けるかすれば良いのだが、それ等を行うだけの余裕は2人にはなかった。

 眼の前にある世界の影にただ呑み込まれ、圧倒され、動けずにいたのである。できることは、ただ自身の死を確信し、目を閉じるか開けているかのどちらかだけであった。

 だが、そんな2人にアヴェンジャーの攻撃は当たらない。

「――ま、そんなこと起こるはずもないんだけどな……第2ラウンド、始めっか。なあ? アヴェンジャー」

 俺はそう言って、アヴェンジャーの拳を弾いた。

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