ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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神話礼装

 俺は、“天津・黒鎧”を纏い、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を構える。

 “天津・黒鎧”は、黒を基調とし、エングレービングは施された鎧であり、至る所に銀河を模した色取り取りの宝石が鏤められている。

「さてアヴェンジャーよ。おまえは、これまで“ハルケギニア”で、寿命を全うすることができずに死んだ者達の無念の集合体と言っても良い存在だ。ただの攻撃では通じない。意味がない。故に、“解脱”……まあ、“反英霊”として召し上げられた今となっては意味をなさないが、それ以上苦しむのも嫌であろう? “英霊の座”へと強制送還させてやろう」

 俺はそう言って、 背後に“曼荼羅”のような“宝具”である“転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”を “投影”し、上空に70kmの大輪と7キロ“メイル”の小輪の2つの輪で構成された光輪として浮かび上がらせる。

 “転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”は本来、“救世主(セイヴァー)”の“クラス”の“サーヴァント”、その資格を持つ“セイヴァー”である“覚者”が持つ“宝具”……その1つである。

「さて……少しばかりの時間がある。言葉を交わすのもありだが、今のおまえは会話をする余裕などないだろう……“武”をもって対話をしようか?」

 俺がそう言って構え直すと同時に、アヴェンジャーは俺が言ったことなど全く気にした風もなく、ただ復讐心や無念などを打つけるためだけに突っ込んで来る。

 だが、ただ突っ込んて来た訳ではなく、アヴェンジャーは自身のその身体を変化させ、向かって来た。

 アヴェンジャーの腕や脚が“エンシェント・ドラゴン”のそれへと変化し、背には翼が、尻尾が生える。そして、龍腕へと変化したその手には巨大な剣や槍が握られていた。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 咆哮を上げるのと同時に、アヴェンジャーの身体が20“メイル”ほどにまで大きくなる。

「……ふん」

 俺は双剣である“乖双弓槍剣アヴルドゥク”をそれぞれ振るい、アヴェンジャーが手にする剣と槍を受け止める。

 辺りに狂風が巻き起こり、地面に罅が入る。

「聞こえるか!? この戦場にいる者達よ! 今直ぐここから立ち去れ! 少なくとも“遠見”でこちらを辛うじて捕捉できる程度かそれ以上の距離を取れ! 巻き込まれたくなかったらな!」

 俺はそう言って、アヴェンジャーの武器を弾き、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を銃へと変形させ、“魔力”で練り上げた弾を放つ。

 が、当然意味はない。ただの牽制である。

 アヴェンジャーは戦士や獣として生きていた時の感覚から、それを躱した。

 今のアヴェンジャーは、理性ではなく、感情と本能、恐怖や復讐心、強迫観などから動いているだけである。だが、理性で動いている時と同じように、動き、判断し、向かって来るのだからそれなりには厄介である。

「偉く芸達者な奴だな」

 俺は“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を槍へと変形させアヴェンジャーを突くが、アヴェンジャーもまたそれを弾き、こちらへと攻撃を仕掛けて来る。

 俺とアヴェンジャーが何度も剣戟を行う中、皆一目散に離れて行く。

 だが――。

「セ、セイヴァー、俺も……」

「無理をするな、才人。おまえはルイズを守ることだけを考えていろ」

 まだ近くには才人とルイズがおり、援護をするためかルイズは“杖”を構えている。

 だが、才人には“武器”がなく、ルイズの“精神力”はほぼ空である。

「だけど……」

「“武器”と“盾”を持たぬ“ガンダールヴ”や“シールダー”になにができる? イーヴァルディもタバサを守るために離れている。おまえ達もそうしろ。それともなにか? ハッキリと言った方が良いか?」

「…………」

 激しい剣戟の中、チラリと才人とルイズへと目を向けながら、俺は出来る限り冷たく低い声を出して言った。

「死ぬなよ、セイヴァー」

「当然だ。まだ死ぬ時ではない。まだ、な……そう。少なくとも、今ではないからな」

 本来の歴史――正史では、“聖地”を破壊するか、“エンシェント・ドラゴン”を斃すことで完結していた。

 が、この世界では、俺という存在により、大きな歪みができてしまっている。いや、俺の存在だけによるモノではない。なにせこの世界は、本来隣り合うことすらない“ゼロの使い魔”と“TYPE-MOON”の世界が混じりできあがった世界なのだから。

 主人公であったはずの才人とルイズ達を、脇役として見守るだけのつもりであったのだが。

 故に、この世界は必ず、いつかは“剪定”される。

「……度し難いよな、俺って」

 自嘲しながら、俺はアヴェンジャーとの剣戟を繰り返す。

 だが、そこで俺は敢えて、アヴェンジャーの剣による直撃を受けた。

「無駄だ。俺の“天津・黒鎧”には貴様の攻撃は一切通じない。“ハルケギニア”を“アルビオン”から見守り続けていた、円卓、だ。この鎧、“盾”は、“ハルケギニア”の歴史。“ハルケギニア”に住む人々の歴史でもある。壊したくば、“対界宝具”や“対人理宝具”でも持って来ることだ」

 “天津・黒鎧”には当然傷1つない。付くはずもないのである。

 “ランク”問わず、“対界宝具”や“対人理宝具”以外の攻撃は決して受け付けない。文字通りの鎧。なにせ、“蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)”と“いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)”を参考にして造り出した、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”同様俺だけの“宝具”なのだから。

 俺はそう言って、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を剣として振るう。

「……ほう」

 だがそれ以上の速度で、アヴェンジャーは剣を振るい、“天津・黒鎧”の隙間にある俺の身体――首や関節などを見事に斬り裂いた。

 完全に斬り離されるほどではなかったが、断絶寸前の状態で、俺の首と腕がブラリと力なく垂れる。

「…………」

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 アヴェンジャーが、俺に傷を与えることに成功したことで、雄叫びを上げる。

 だが当然、それも想定内である。既に、観ていたことである。

 俺の身体に刻まれた全ての即死級の傷は、見る見るうちに修復されて行く。

「――!?」

 時間の巻き戻しとでも想わせるそれに、アヴェンジャーは驚いた様子を見せた。

「驚いた様子だな。だが、無理もない。先程の攻撃、並の“サーヴァント”であれば、消滅は免れようとも、“霊核”を破壊されてしまうほどだからな。だが」

 俺は“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を横に振るい、アヴェンジャーを吹き飛ばす。

「なにせ、俺の身体には、今の俺の中には“地球”の“英霊”や“反英霊”、“神霊”達の力があるからな。黙って使ってるのだから、負ける訳にはいかんよ」

 “十二の試練(ゴッド・ハンド)”による回復、そして先程の攻撃に対しての耐性を獲得する。

 “十二の試練(ゴッド・ハンド)”は、“ギリシャ神話”の“大英雄”――“ヘラクレス”が持つ“宝具”である。彼の、“逸話”や人生などが昇華され“宝具”となったモノである。

 

――“曰く、ヘラクレスは12の難行を乗り越え、その末に神の座に迎えられたという”……。

 

――“まさに、不撓不屈。人間の忍耐の究極”である。

 

「俺のこの身体には、汎ゆる耐久を与える“宝具”が宿っていた。だが、そこからある程度必要だろうモノだけを残し、他は消した。俺の身には、“ヘラクレス”の“宝具”――“Bランク以下の攻撃を無効化し、蘇生魔術を重ね掛けすることで代替生命を11個保有、また、更に既知のダメージに対して耐性を持たせ、一度受けた攻撃に対してよりダメージを減少させる十二の試練(ゴッド・ハンド)”、“アキレウス”の“宝具”――“所有する神性スキルと同等以上ランクであれば無効化でき、それ以下の神性スキルではダメージが削減される勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”、“ジークフリート”の“宝具”――“Bランク以下の物理攻撃と魔術を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃であってもその威力を大幅に減少させ、Bランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上する悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”があるのだが……ふむ、理解っていたとは言え、それを貫通して来るとは、凄いではないか、なあ?」

 俺は素直に、アヴェンジャーへ賞賛の言葉を送った。

 だが、賞賛など意味はなく、アヴェンジャーはただ俺を憎々しげに見詰めて来るだけで在る。

 戦場で、守りたいモノを守れずに死んでしまった、自身を殺した敵を憎んで死んだ、自身を盾にした味方を恨み死んだ、健康な誰かを羨み妬み病気で死んだ、事故に巻き込まれ自身の不幸を恨み呪い死んだ……種族など関係なく、今のアヴェンジャーの中には、そういったモノが渦巻いている。

 ただそこにいるだけで、周囲にそれ等を撒き散らすことが可能なほどに。

 そして、それ等が撒き散らされることで、側にいる者達にもその感情は伝播し、互いが互いを憎み合う……そして、そうなった者の数だけ、そうなった者が抱く想いだけ強くなって行くことができる。

 故に、先程、ここから皆を離れさせたのだが、元々内包していたモノや、“エンシェント・ドラゴン”を取り込んだこと……また、今の今まで現れず、これまで潜伏為続け、少しずつ取り込んで来たそれ等の感情や想いなどで強くなっていたのであろう。

「“十二の試練(ゴッド・ハンド)”は本来、11個の代替生命を保有させるモノで、 並の“魔術師”では一生涯を掛けてもどうかというところを、“小聖杯”が持つ“魔力”を使用してようやく1個回復させることができる……そして、本来であれば“悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)”もまた背中のみ、“勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”も踵のみ効果を発揮しない。だが、その制限はないモノと想えよ? なにせ、俺は“根源”と繋がっている。必要な“魔力”はそこから引っ張り出せば良いだけだからな」

 俺はそう言って、再びアヴェンジャーとの剣戟を再開した。

 頭上の“転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”が1つ増える。

「――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 アヴェンジャーは咆哮を上げ、その口から膨大な“魔力”による熱量を誇る息吹(ブレス)を吐き出した。

「どこに? なるほど、な……」

 アヴェンジャーが放った先には、連合軍が居る。

「“天津・黒鎧(ウラエウヌス・プルクス・クロノクロス)”」

 俺は“天津・黒鎧”の“神名解放”を行う。

 すると、“天津・黒鎧”は数百万ものパーツへと分解され、連合軍の前へと瞬時に移動し、再び結合して行く。そして、それ等は大きな盾へと変化した。

 盾となった“天津・黒鎧”はアヴェンジャーのブレスを完全に防ぎ切ってみせる。

 

 

 

「なんて戦いなの……」

 かなり離れた場所――“遠見”の“魔法”でようやく観ることができる距離にいるアンリエッタは、ポツリと呟いた。いや、目で追うことすらもできない戦いを前に、そう呟くことしかできなかった。

 他の者達も、同じように圧倒されている様子である。

「――きゃああああああああああ!?」

 アンリエッタが乗る“レドウタブール級”の戦列艦が大きく揺れる。

 その揺れは、風――剣圧、そして剣と剣などが打つかり合う際に発生する衝撃はなどによるモノであった。

 剣が振るわれたことで発生した風に乗り、大小様々な石や岩が艦へと向かい、飛んで来る。

「これだけの距離が離れているにも関わらず、か……“悪魔(イブリース)”……その力は、本当に“救世主”となるのか?」

 ビダーシャルもまた、驚愕を感じずにはいられなかった。

 ただ、彼等にとって、この今の光景は信じられないモノであるといえるだろう。だが、信じずにはいられないのもまた事実である。

 また、彼等は“虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)”、そして繰り広げられている戦いもそうであるが、“転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”にも圧倒された。

「セイヴァー君……」

 コルベールは静かに、遠く離れながらも直ぐ近くに感じる戦場へと目を向けた。

 

 

 

 この戦いの影響は、“ハルケギニア”及び“砂漠(サハラ)”全土にも広がった。

 俺とアヴェンジャーが剣を振るたびに、“魔法学院”の建物は完全に崩壊し、“ガリア”や“アルビオン”に“砂漠”の都市の建物が大きく揺れる。

 そこに住む者達は、空を見上げ、呆然と立ち尽くす他なかった。

 空は割れ、空気――世界そのものが震えているといっても良いほどである。

 家屋の中の者達、外にいた者達は、揺れる大地や家などの中で、人々はなにが起きているのか理解らぬまま、例外なくただ怯えるしかなかった。

 だがしばらくして、割れた空に輝く光を目にし、静かに立ち尽くした。

 

 

 

 俺は軽く跳躍し、身体を回転させる。

 一瞬で30“メイル”ほど跳躍した後、アヴェンジャーへと叩き付けるかのように“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を振り下ろした。

 アヴェンジャーは当然それを受け止め、周囲に大きな火花が散る。

 アヴェンジャーの攻撃は大振りながらも、その確かな力があり、ウドの大木ではないことが理解る。“メイジ”や“エルフ”でさえ目視で捉えることが不可能なほどの速度でもって剣が振るわれるたびに、空間が裂かれ、空気が震えるのだから。

 “ヘラクレス”や“アキレウス”、“ジークフリート”達の“宝具”がなければ、確実に即死であったであろう威力を誇っている。

 だが、今の俺にはそれ等だけではなく、“A+++ランク”の“神の加護”や“頑健”、“天性の肉体”などの“スキル”もあり、単純な力比べをすることさえもできる。

 アヴェンジャーを吹き飛ばす。

 全天方位型・移動砲台である “転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”がユックリと回転しながら、光の輪をレールと見立てて、その上で砲台が移動し、大輪の中の直下で態勢を整えようとするアヴェンジャーに光の矢を放つ。

 アヴェンジャーは光の矢に撃ち貫かれはしたが、即座にその傷は逆再生するかのように消え失せる。

 “エンシェント・ドラゴン”などが持っていた強力な再生能力が働いたのであろう。

 アヴェンジャーはその攻撃を意に介した風もなく、俺へと向かって来る。

 また、元々、既に死んでいる者、傷を受け続けている者である。これ以上、傷が増えたところで、なんの問題もないのであろう。

(……先程よりも力が増したか)

 これまでと同じ力で受け止めたためか、押されてしまう。

 アヴェンジャーは“アヴェンジャー(復讐者)”であるために、恨みを忘れることはない。そして、この“アヴェンジャー”特有の“スキル”によるモノだが、受けた傷やダメージの分だけ力が増すようである。

 何度も剣戟を繰り返しているが、互いの刀剣類が刃毀れなどを起こすことはない。

 無論、こちらの“武器”などには“無毀なる湖光(アロンダイト)”を始めとした“宝具”の特性などを混ぜているためだ。

 が、アヴェンジャーのそれは怨念などが尽きない限り、壊れることはない。詰まり、剣が壊れるということは、アヴェンジャー自身もまた壊れる――“霊核”が破壊され、“英霊の座”へと戻る時である。

 俺が振るった“乖双弓槍剣アヴルドゥク”が、地面へと突き刺さってしまう。

 たった一瞬。一瞬のことではあるが、本来の戦いであれば、致命的な一瞬であろう。

 だが、これもまたミスではない。

 アヴェンジャーが振って来た剣と槍を、俺は身体をくねらせ、カポエラなどの動きを駆使して、アヴェンジャーを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたアヴェンジャーは、直ぐに大地を蹴り、身体を回転させる。そして、再び地を蹴り、俺へと肉薄した。

 俺は“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を取り、アヴェンジャーを上空へと弾き飛ばす。

 アヴェンジャーは、地上にいる俺へと目を向けるが、そこにはもう俺はいない。

 直ぐに気付いたアヴェンジャーは、上へと顔を向けるが、それと同時に、俺は“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を振り下ろした。

「やるな」

 アヴェンジャーは直ぐに剣と槍で防御態勢を取り、それ等で俺の攻撃を受け止めて、地面へと勢い良く落ち、打つかった。

 直ぐにアヴェンジャーは跳躍し、俺へと向かい飛んで来る。

 俺は、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”の刀身の回転を速め、暴風を巻き起こし、アヴェンジャーを吹き飛ばす。

 それから“乖双弓槍剣アヴルドゥク”の柄尻を繋ぎ合わせ、弓へと変形させ、“魔力”で造った矢を番え、これもまた“魔力”で造った弦を引き絞った。

「ふん」

 矢を放ち、それがアヴェンジャーへと真っ直ぐに向かって行く。

 アヴェンジャーそ其れを弾きながら、向かって来る。

 が、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を更に変形させ、それぞれ先端部分を尖らせ、槍として扱い、突っ込んで来たアヴェンジャーを突き、再び吹き飛ばす。

 そして――。

「――!?」

「驚いたか? それは、“バビロニアの宝物庫”から持って来た刀剣類だ。いずれも一級品だぞ? なんせ、あの“英雄王”が募集したモノだからな。“十二の試練(ゴッド・ハンド)”が“人間の忍耐の究極”であるならば、これはその真逆。“無限にして圧政の究極だ”。“英雄殺しの武器はあり余っている”」

 アヴェンジャーの周囲360度全体に渡り、空間が歪んでいた。

 その歪みはいずれも丸く金色に光っており、そこから刀剣類が顔を覗かせている。

 そのどれも、口にした通り、全てが一級品である。

 俺はそう言いながら、空間と空間を繋げ直し、“バビロニアの宝物庫”から持って来た“武器”をその空間と空間の間を行き来させ、加速させる。

「“王の財宝。その一端を見せてやろう”」

 俺はそう言って、“武器”を射出した。

 アヴェンジャーはそれ等を弾こうとするのだが、いかんせん数が多過ぎる。また、隙間などないくらいに展開され、それ等はかなりの速度で射出されている。

 結果、アヴェンジャーの身体に何本もの“武器”が刺さることになる。

「俺は“ギルガメッシュ()”ではないが、それでも力を貸してくれよ……“天の鎖よ!”」

 俺はそう言って、“天の鎖(エルキドゥ)”を出し、アヴェンジャーを拘束した。

 アヴェンジャーの中には、“神代”の神々の怨念などがあり、また、“神代”からの生き残りであった“エンシェント・ドラゴン”を吸収した。結果、今のアヴェンジャーには、高“ランク”の“神性スキル”を所有している。

 故に、“神を律する”能力を持つ“対神兵装”の1つであるそれは、遺憾なく発揮されることになる。

 アヴェンジャーの動きは完全に封じ込められ、こちらを強く睨み付け、唸るだけである。どうにか抜け出そうとするのだが、動くたびに寄り強く巻き付き、動きを制限する。

「何度もすまないな。おまえの、いいえ、貴方の意思を無視して、使い、申し訳ない。だけど……」

 俺はそう言って、軽く深呼吸をする。

「“原初を語る。元素は混ざり、固まり……万象織りなす星を生む!”……“天地は分かれ、無は開闢を言祝ぐ”……“星々を廻す渦、天井の地獄とは創生前夜の終着よ”……“死して拝せよ!”」

 俺はそう口ずさみながら、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”の刀身の回転速度を上昇させ、刀身の先に圧縮され鬩ぎ合う暴風の断層が擬似的な時空断層を引き起こす。

 “空間切断の特性故に対界宝具に分類される世界を切り裂いた剣”による“混沌とした世界から天地を分けた究極の一撃”。

 本来、“ギルガメッシュ”しか持ちえぬ“乖離剣エア”を参考にして創られたそれ。その、それぞれ別方向に回転している石版でできた刀身は、片方は上から“天”、“地”、“冥界”……もう片方は上から“金輪”、“水輪”、“風輪”を表し、それぞれが“メソポタミア”や“バビロニア”などに於ける“世界”、そして“仏教”や“ヒンドゥー”などに於ける“須弥山”を表している。

「――“天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!”」

 俺は勢い良く振り下ろし、それをアヴェンジャーへと向ける。

 刀身の先からは3層の断層が発生し、次第に時空流へと変化する。

 そして、大地が断裂した。

 その亀裂が時間と共に大地から天にまで延び拡がって行き、斬り裂かれた空間を拠り所としていた大地、空といった万物を砂時計の終わりのように崩落させ渦巻く虚無の奈落へと呑み込み消し飛ばして行く。

 “抑止”などの影響で本来の力を震えぬはずではあるが、“神代”の力を色濃く残すここ“ハルケギニア”では十分に力を発揮することができていた。

 離れた場所にいる皆にとって、これは世界の終わりとさえもいえる光景であっただろう。だが同時に、彼等は新しい世界の創造であることもまた、本能で感じ取っていた。

 時空流がアヴェンジャーを呑み込み、暴れる。

「“呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は。故に―――人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)!!”」

 そのまま、俺は自身を1つでの“神造兵装”と化し、“アラヤ”と“ガイア”――2つの“抑止力”の力を取り込み、天地を貫く巨大な光の槍となる。そして、アヴェンジャーへと向かい、特攻し、撃ち貫いた。

 次第に、時空流は収まり、世界の修正力――“抑止”が働き、元の状態へと戻る。

 斬り裂かれた大地はそのままではあるが、空はユックリと元に戻って行く。

 だが当然、そういった攻撃は意味をなさず、アヴェンジャーは活動を続けている。ダメージを与えることには成功しはした様子ではあるが、それでもなお、健在であった。

「全く……俺自身も相当なモノだが、おまえも大概だな」

 俺は苦笑する。

 光輪がガコンと音を立て、鐘の音がどこからともなく鳴り響く。

「“晩鐘は汝の首を指し示した”と言ったところか……」

 空に浮かぶ“転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)”は既に7つ揃っていた。

 この7つの輪は“聖王が持つ7つの宝”と同義であり、その姿は虹を想起させる。

「“――それが、人類が悟りを得て真如へと至る道であるならば”。“我は衆生を救済すべく、(ヴァジュラ)を持ちてそれを導かん”……“転輪は時を告げる。汎ゆる衆生、汎ゆる苦悩は我に還れ。大いなる悟りの下、人類はここに1つとなる”……」

 俺は一呼吸置いて、その“真名”を開放する。

「“一に還る転生(アミタ・アミターバ)”」

 再び、光輪はガコンと大きな音を立て、1つに合体をし、高速回転する。

 そして、俺は跳躍し、転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)“は大日如来”が背負う後光の様なモノに変化し、俺の背後へと移動する。

 俺の背後に在る転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)から光の渦のようなモノが出現し、無数の“魔力光線”がアヴェンジャーへと向かって発射される。

 そして、それ等は1つの光の柱となり、アヴェンジャーを中心にして、ブラックホールを想わせる収束から大爆発を起こした。

 人類創生に匹敵するエネルギーを集中し、解放される。

 この時点の人類史の長さや版図の広がり、言い換えれば人口等によって威力が変動しはするものの、何十億人分ものエネルギーを受けるために理論上ではこれに耐えることができる人類は存在しない。

 そして、その人類というのは、“地球”で生まれ育った者達のことである。

 だが、そこに“ハルケギニア”に住む者達もまた含まれているのである。

 なにせ、ブリミルは“地球”から来たのであるからして。

 彼等の子孫もまた、人類史の長さや版図の広がりに影響され、含まれているのだから。

 小さなブラックホールが消えた後に残ったモノは、静寂……の筈で在った。

「ふむ、やはり駄目か……」

 俺はそう言って、肩を落とす。

 眼の前ではまだ、アヴェンジャーは健在であった。

 アヴェンジャーの身体を構成する黒い影は崩れ掛けてはいるものの、それでもまだ問題はない様子である。直ぐに欠けた部分が再生した。

 あれだけの攻撃を仕掛けたにも関わらず、斃し切ることはできなかった。

 アヴェンジャーの“霊核”には傷1つない。いや、“霊核”を破壊することには成功したものの、即座に再生してみせたのである。

 救い出す事が出来無かった、ので在る。

「やれやれ、今の俺では無理だということだな。“英霊(先輩方)”ならきっと、上手にやれるんだろうけど……はあ……」

 俺は深く溜め息を吐いて、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 シオンは静かに、“虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)”の玉座からことの成り行きを見守っていた。

 そこでは、シルフィードに乗って来た才人とルイズとティファニアもいた。そして、シルフィードが何往復もしたことでタバサやキュルケ、ギーシュにマリコルヌ、レイナール達もまたいる。

 神話の再現とさえもいえるであろうほどの、想像を絶する戦い。

 文字通り、世界が裂かれる瞬間。

 神々しく荘厳な、光輪が7つ……それ等が曼荼羅から後光へと変化し、アヴェンジャーを呑み込んだこと。

 それ等はこの先、未来永劫……世界が“剪定”されるその瞬間まで、“始祖ブリミル”に関する話に続く第二の神話として語り継がれるであろうことを理解しながら。

 だが、アヴェンジャーがそれ等を受けてなお、健在であることに、皆恐れ慄いた。

 自分達ではどう仕様もない脅威を前に、皆怯える他なかった。

 そんな絶望的状況の中、シオンはただ前を見詰めていた。

 シオンだけではない。

 才人が、ルイズが、ティファニアが、タバサが、友人達が、“魔法学院”の皆が見据えていた。

「大丈夫、だよね……」

 シオンは皆に聞こえないようにポツリと呟いた。

 玉座にいる皆も固唾を呑んで見守っている。

 その時、シオンが着けていた腕輪型の“礼装”が目も灼くほどに輝いた。

 

 

 

 

 

 シオンは突然のことに目を閉じたが、それでも眩しく感じた。

 その光が消えたことを感じ取り、目を開くとそこは見知らぬ空間であることに気付き、驚いた。

「ここは……?」

 シオンは目をパチクリとさせ、呟く。

 真っ暗な空間であり、自身が今どこにいるのか判らない状態である。

 だが、地に足が着いているような感覚から、シオンは今堅いなにかの上に立っていること、少なくとも底なし沼のような場所で落ちることはないことを理解した。

「あれ……?」

 そして、視線の先に、誰かがいることに、シオンは気付いた。

 シオンはユックリと歩き、近付く。

「そこで止まってくれないか?」

 シオンの眼の前にいる男は、言った。

 其の男の容姿は醜かった。

 人間の美的感覚からいって、“トロール”などと比べるとマシではあるものの、それでも嫌悪感を感じさせるほどであろう。

 髪はボサボサ、肌はカサカサ、歯はガタガタ……。

「…………」

 だが、シオンにはそれが一体誰なのか直ぐに理解した。

 何度も夢の中で見ていたのだから。

「セイヴァー……」

「セイヴァー? 救世主がどうかしたのか?」

「私は、貴男のことを知っている。貴男は、私の“サーヴァント”。“英霊”。“転生者”……」

「俺が“転生者”? “英霊”? “サーヴァント”? ないない。そんな夢物語ある訳ないって。それに、君は俺が今見てる夢の中の登場人物だろう? 君みたいな美少女が俺にこんな親身に話し掛けてくれることなんてないはずだからな」

「本当だよ。貴男は、“セイヴァー”として“神様転生”して、私の“使い魔”、“サーヴァント”になった。貴男には何度も助けられた。救けられた。だから、今度は私が貴男を助ける。たった1度だけだろうけど、最初で最後の手伝い」

「…………」

 シオンは真っ直ぐに眼の前の男を見詰めて言った。

「まあ、そうだな。君の言う通りだ。シオン」

「セイ、ヴァー……?」

「からかうほどではないが、少しばかり面倒臭い男を演じてすまなかった」

「別に気にしてないよ」

「さて、早速本題に入るが……あれが見えるか?」

 俺は短く謝罪の言葉を口にし、遠く離れた場所に在るレリーフを指す。

「あれって……」

 そのレリーフには、俺の彫刻のようなモノが張り付いている。

「1からの説明だが、俺はおまえが知るセイヴァーではない。セイヴァーであって、セイヴァーではない。セイヴァーの本能……セイヴァーの前世の残り滓みたいなモノだ」

「それでも、貴男は私にとってセイヴァーだよ?」

「そうか。こんな不細工な俺に真っ直ぐ目を向けてさっきみたいなことを言ってくれるのはおまえくらいだよ……さて、そして、あそこにあるのは俺の理性だ。あれを壊すことで俺は覚醒める」

「壊せば良いの?」

「ああ。だがそれは決して簡単なことではない。あそこに辿り着くまでが大変なんだ。あそこに行くにはそこの道を歩いて行く必要があるが」

「どうしたの?」

「話は変わると言うか、少しばかり脱線してしまうが、“魂”とは俺達を構成するのに大切なモノだ。“第二要素” であり、“存在の雛形である本質”。“知性持つ生命に1つ1つに宿る、肉体的ではなく精神的な命”。そして、“魂”は“(こん)”と“(はく)”に分けることができる。その“(こん)”は“第三要素――時間と経験によって育まれた感情”であり、“肉体と魂を繋ぎ、個として成立させる必要な要素”を支えており、“(はく)”は“精神と肉体を繋ぎ、支える”モノだ。故に、そうだな……“魄道(はくどう)”とでも呼称してみるか」

 俺はシオンへと目を向けて言った。

「その“魄道(はくどう)”を歩くたび、異物であるおまえの身体――魂に直接ダメージが入る」

「そんなの大丈夫、だ?よ」

「そうか? あそこに辿り着く寸前になると、四肢の感覚も失って、歩けないほどに、いっそ消えてしまいたいほどの状態になるだろうけど……」

「それでも大丈夫。だって、私がここにいるってことは、問題ないって貴男が判断したからでしょ?」

「う……それはそうだろけど……理解ったよ。どのみち、意識があるのは今この時だけだ。だから、手伝うよ。君が、あそこに辿り着くまで」

 俺とシオンは横に並び、歩いた。

 “魄道(はくどう)”は“精神”も表しており、その道は凸凹であった。

 凸凹とし、坂道が幾つもある“魄道(はくどう)”は、まさに前世で感じて来た感情を表しているといっても良いだろう。それだけ、自分の弱さに振り回され、痛感し、悩んで来たのだから。

 そして、切に願い、願った展開を手にした。

 だが、それでも結局のところ、弱いままである。

「う……」

「シオン」

「大丈夫、だよ……先を進もう、ね?」

 進むたびに、シオンへ大きなダメージが入って行く。

 人体に菌が侵入し、それ等を免疫細胞が攻撃でもしているようである。

 シオンの身体に罅が入り始める。

 彼女の四肢が決壊し始め、ボロボロと崩れ始めた。

 それでもシオンは前へ進み始める。

「なあ、シオン。どうして、君はそこまでやれるんだ?」

 俺は、自身の身体が傷付くのも構わずただ管前に進むシオンを前に圧倒され、そしてなにかに触れたような気がした。

 だからだろう。

 俺は、想わずそう質問した。

「さっきも言ったけど、私、貴男に何度も何度も助けられたの。命を救けられたことだって何回もある。だから」

「だからって、そこまでする必要はないはずだ。生物ってのは本来、自己の保存を優先するだろう? 生きたいだろ? 今してることは辛いだろう? 痛いだろう? だったら――」

「――だからだよ。だからこそ、なんだよ、セイヴァー」

「…………」

「こんな痛みや辛さを貴男はずっと感じて来た。自分のことだけで一杯一杯なのに。これからもそうでしょうね。それでも貴男は歩みを止めないでしょ? それと同じなの」

 シオンは息も絶え絶えに、笑顔を浮かべながら言った。

「後悔したくない。そして、せめて、短い間だけだろうけど、それでも一緒にいる間は、そう言った辛いこととかも共有したい。1人で抱え込まないで欲しいの」

 シオンは何度も転びそうになりながらも、立ち上がり、足を動かした。

 既に感覚などないにも関わらず、前に進んでいるかどうかすらも判らないであろうほどの状態であろうとも。

 必ず、最後には希望が待っていることを信じて。

(嗚呼、くそ……眩しいな。眩しいぜ。眩しいよ……)

 俺はそう想って、今にも崩れそうなシオンを見た。

 彼女の身体は文字通り崩壊寸前である。動いているのが、不思議なくらいに。

(恨むぞ、理性の俺。こんな苦しそうにしながらも決して諦めずに前に進む女の子を見て、応援だけで、我慢なんてできるはずもないじゃねえか……)

 俺はそう想い、シオンの手を取った。

「もう少しでゴールだ、シオン。だから」

 俺はそう言って、シオンの身体を軽く押す。

 シオンは押され、足を進めざるをえなかった。

 そして踏み出した時、丁度レリーフ――“ヴィーナス・スタチュー”のある場所へと辿り着く。

「ありがとう、シオン。俺はきっと、幸せ者だろな。前世でもそうだった。幸福であることに気付きながらも、十分過ぎる環境に身を置きながらも、上手くそれ等を活用することができなかった。今回もそうだ。だけど」

 シオンの身体が元の綺麗なそれへと戻る。

「きっと、今回は上手く行く、できるだろな」

「大丈夫だよ、セイヴァー。貴男は“救世主”、主人公……“なんにだってなれる”、“なんだってできる”んだから。皆を救けることができるなら、貴男自身もまた救けることができるはず。皆を赦すことができるなら、貴方自身もまた赦せるはず」

「ありがとう。さあ、シオン。その“ヴィーナス・スタチュー”を触ると良い。そうすれば、おまえは元の世界、元の時間へと戻ることができ、表の俺も動き出すだろう」

「でも、貴男はどうなるの?」

「なに、ただ眠るだけだ。今の俺は、この間の出来事を夢として認識するさ。そもそもの話、“サーヴァント”自体が“英霊”にとって夢であり、第二の生だからな」

 俺のその言葉に、シオンは寂し気に微笑んだ。

「理解った……ありがとう、セイヴァー」

「こちらこそだ。素敵な夢をありがとう、シオン。短い、とても短い時間ではあったが、おまえとこうして話ができて嬉しかった。楽しかった。表の俺が羨ましいよ」

 握手をし、シオンはソッと“ヴィーナス・スタチュー”に触れた。

 

 

 

 

 

 目を開くと、そこには、やはりアヴェンジャーがいた。

 アヴェンジャーはこちらを相も変わらず憎々しげでありながらも、静かに見詰めて来ている。

「……ふむ」

 俺は今の自身の状態を確認した。

 着込んでいた鎧は、コートへと変わっている。ただし、色は明るめの黒へと変色し、随所には色取り取りな宝石が鏤められている点には変わりはない。

 だが、腕や脚の関節部には、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”同様に黒い石版でできた3層のそれぞれ別方向に回転し続けているなにか、防具のようなモノが付けられている。

 そしてもう1つ変化している点がある。

 それは、コートには、宝石以外にも硝子が鏤められていることである。そのガラスからは“Dランク”の“宝具”ほどの“魔力”が発せられているのである。

 宇宙を表していた鎧は、文字通り星々の大海原を表現するコートへと変化したのである。

 握っている“乖双弓槍剣アヴルドゥク”はより細身になっているが、頑丈さは変わらない。

 これまでのそれよりも“風”のように軽やかになり、より洗練され、変革されていることが判る。

(これが俺の“神話礼装”か……)

 “神話礼装”。

 “サーヴァント”の原初の力。

 “英雄”の根源とも言える力の奔流を具現化したエンジン。

 俺は軽く地を蹴り、アヴェンジャーへと詰め寄る。

 予想以上に距離を詰めることができ、驚いた。

 アヴェンジャーの方もまだ気付いてはおらず、ジッとしており、既に俺がいなくなった場所へと目を向けたままである。

 だが、俺は直感的に、“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を振り、斬り裂く。

 “神話礼装”を解放し、霊子階梯を向上させたことで、光よりも速く移動できるようになったのであろう。

 “|源流から流れ戻りし、偉大成る王すら呑み込む幸運の星《サダルメルク・グラ・アルバリウス》”は元々、前世での星座、水瓶座で在った事から手にした“宝具”である。

 在りと汎ゆる“流れるモノ”を自由自在に感知し操作することができる。

 それは、自身の能力はもちろん、戦いの流れなども当然含まれる。なにもせずとも、宇宙の膨張速度と同じ速さで強さは跳ね上がって行く。

 俺の身体は、ダンスでも踊るかのように流麗に動き、アヴェンジャーを斬り刻んで行く。

 アヴェンジャーの身体は傷が付くはずもなかった。

 だが、次元や法則などが違うのだから、アヴェンジャーにはどう仕様もない。“宝具”も“スキル”も意味をなさないのだから。

 次第にアヴェンジャーの身体には傷が生まれ、再生が追い付かなくなって行く。

 だが、アヴェンジャーは、その特異性などから、こちらと同じように力は常に増大して行く。なにせ、アヴェンジャーは、“ハルケギニア”の歴史に生み出された影そのものである。“ハルケギニア”に移住した者達や生まれ育った者達、“ハルケギニア”と呼ばれる前から住んでいた者達の負の集合体なのだから。こちらもまた、無制限に加減なく強くなって行く。

 だがおちらの速度が上であるため、当然アヴェンジャーの身体には沢山の傷が増えて行くばかりである。

「人類最終解脱、すらも耐え抜いたおまえ達はもう人類ではないのかもしれないな……だが、おまえ達は人より生まれたモノだ。故に、俺はおまえ達を人類として扱う」

 俺はそう言いながらも決して手を止めずに“乖双弓槍剣アヴルドゥク”を振るう。

「おまえ達には、無念、想いなどを晴らす権利が当然ある。だが、それでも、したところでなにも変わらない。おまえ達はこれからもそれ等と向き合っていかなくてはならないのだ。せめて、“英霊の座”にいる時だけでも」

 歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合わせ、俺は五間―――九“メイル”の間合いを瞬時に詰め、アヴェンジャーを一閃する。

 最早次元跳躍とでもいえるその移動に、アヴェンジャーはどうすることもできやしない。

 “彗星走法(ドロメウス・コメーテース)”による神速の脚をもって、回避不可能な速度でアヴェンジャーを蹴り飛ばす。

 アヴェンジャーは、元々の筋力と光速が掛け合わされたことによる絶対に回避不可能かつ星をも砕く威力を誇る脚を腹に喰らい、吹き飛ぶ。

「“完璧なる円、完璧なる光を見せよう。清算の時だ!! 集いし藁、月のように燃え尽きよ(カトプトロン カトプレゴン)!!”」

 大型の六角形の鏡を複数展開する。

 それ等は、太陽光を反射及び増幅し、光は収束して行く。

 収束した光は、アヴェンジャーへと向かい飛び、一帯を焼き尽くした。

「“出雲に神あり。審美確かに、(たま)に息吹を、 山河水天に天照らす。これ自在にして禊ぎの証、名を玉藻鎮石、神宝宇迦之鏡なり”」

 コートに着けられた無数の鏡が、眩く光り、輝く。

 元々“根源”と繋がっているために必要のないことではあるが、“常世の理を遮断する結界”が展開され、“呪力”行使コストが0になる。

 それより、“根源”とのパイプはより一層太く強力なモノとなり、流れ込んで来る“魔力”はより多く濃くなる。

「“炎天よ、奔れ!”」

 その言葉で発生した炎に、アヴェンジャーの身体は灼かれる。

「“氷天よ、砕け”」

 その言葉で発生した氷に、アヴェンジャーは閉じ込められる。

 その氷が砕け、アヴェンジャーがタイムラグなど気にした風もなく、直ぐに俺へと向かって来る。

「彼女の才を見よ、“万雷の喝采を聞け! インペリウムの誉れをここに! 咲き誇る花の如く!───開け、黄金の劇場よっ!! この一輪を手向けとしよう。舞い散るが華、斬り裂くは星! これぞ至高の美……しかして讃えよ! ドムス・ アウレアと!”」

 高速での“真名開放”によち、かつて“ネロ・クラウディウス”によって建築された“黄金劇場”が“魔力”によって建築される。

 彼女の“心象風景”を具現した異界を一時的に世界に上書きして作り出される。

 “固有結界”とは似て非なる“大魔術”であり、彼女が生前設計した劇場や建造物を“魔力”で再現し、俺にとって有利に働く戦場を作り出されて行く。

 世界を書き換える“固有結界”とは異なり、世界の上に一から建築するために、長時間展開及び維持できる点がとても優秀である。

 そしてこの“宝具”は彼女の想像力によるモノで、それを強化するには、原点となる“黄金劇場”を豪華に作り直し、その姿を彼女の脳裏に刻む必要があるのだが、“英霊の座”と繋がり、コピーしているために、想像する必要ないといえるだろうか。

「“I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている) Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子) I have created over a thousand blades.(幾度の戦場を越えて不敗) Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく、) Nor known to Life.(ただの一度も理解されない) Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う) Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく、) So as I pray,UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 同時に別の“詠唱”を行い、別の“宝具”――“固有結界”を展開(上書き)する。

「――こ、これは!?」

 これでもかというほどに驚くべ可き光景を目にし続けて来たアンリエッタ達を始め兵達ではあるが、またも彼等の中で動揺が奔る。

 完成した“黄金劇場”と展開された“錬鉄の固有結界”は、オリジナルとはほど遠く、尋常ではない大きさをしていた。

 かなりの距離を取っていた艦隊、そして“虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)”を取り込むほどに大きいのである。

 “ローマ”式の劇場内に、幾つもの刀剣類が刺さっている。天井には大きな歯車があり、回り続けている。

「呑み込まれるが良い。“弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)”」

 本来ならば、敵を身に宿している力諸共残さず溶解及び吸収するそれを物理ダメージのみにし、激流を生み出し、遥か上空に跳躍する。そして、そこから激流と共に急降下し、アヴェンジャーを溶解させて行く。

 だが当然、アヴェンジャーのその特性上まだ“霊核”を破壊するまではいってはいない。

 それでも、“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”が展開されていることで、アヴェンジャーの能力は弱体化しており、動きが鈍く、再生も全く追い付いていない様子である。

 アヴェンジャーの身体は、もう既に死に体であり、今にも四肢は砕け、千切れそうなほどである。

 こちらが甚振り、悪者であると言わんばかりの様子をアヴェンジャーは俺に見せて来ている。

 だが、俺はそんなアヴェンジャーに追い討ちを掛けるように、劇場内に在る幾本もの刀剣類をアヴェンジャーへと向けて飛ばす。

 俺の意志に従い、それ等刀剣類はアヴェンジャーの身体に刺さり、流血を促し、そして身動きを完全に封じた。

「そろそろ、今度こそ、だ……死をもって静まるが良い」

 “乖双弓槍剣アヴルドゥク”の回転速度を速める。

 再びそれぞれ二振りの刀身の回転速度が上昇し、3層の力場が発生する。

 “神代”にて“世界を裂いた剣”を模倣したそれは、オリジナルと遜色ならぬほどの力を発揮させる。

 吹き荒れる“魔力”に因り、劇場内に刺さる剣は床から離れて宙を舞い、床は剥がれて行く。

 天井に在る歯車は剥がされ、砕けて行く。

 劇場内で展開していた艦隊では、悲鳴と怒号がそこ等中で飛び交い、打つかり合う。

 床に亀裂が奔る。

 その下の大地すらも断裂し、その亀裂は次第に劇場全体から天へと広がって行く。

 世界そのものを変動させる“権能”の再現。

 事象の変動、時間流の操作、国造りといった“世界を創造しえる”レベルの力が全力で振るわれる。

「“座”へと戻るが良い。誰も起こす者はおらぬ。おまえ自身が目覚めようとしない限り、“抑止”がちょっかいを出さない限りはな」

 劇場が完全に崩壊し、元の空間へと戻る。

 そこは、割れた大地の上であり、アヴェンジャーの姿も“魔力”もない。

「……さて」

 俺が一息吐いていると、才人達が俺へと向かい疾走って来る。

 皆眩しいほどの笑顔を浮かべている。

「凄いじゃないか、セイヴァー!」

 皆俺を囲い、口々に賞賛の言葉を言ってくれる。

「…………」

「どうしたんだ? セイヴァー」

 だが、俺が無言であることに、才人は疑問を抱いたのだろ、問うて来た。

 俺は目を閉じ、それから間を置いて口を開く。

「いや、なにも……――ゴフッ!?」

 そう言った直後、俺の身体を1本の腕が貫通した。

「――!?」

 皆、一様に目を大きく見開き、驚く。

「嗚呼、やっぱり痛いな……もう少し、加減は利かなかったのか?」

「無理だと理解しているだろう?」

「セイ、ヴァー?」

「セイヴァーが、2人?」

 俺の背後に立つもう1人の俺が、悲しげな笑みを浮かべ言った。

 そんな2人の俺を前に、皆呆然と立ち尽くす他ない様子であった。

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