ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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ビースト

「凄いじゃ成いか、サイト!」

 ギーシュを始め、“水精霊騎士隊”の少年達が、才人へと駆け寄り、抱き締めた。

「いや、ルイズとテファが凄いんだよ。2人の“魔法”とデルフがいてくれたからどうにかなっただけだよ」

「謙遜することなんてないさ。なあ、君達!?」

「そうだよ、サイト」

 ギーシュやマリコルヌ達は、才人を称賛し、胴上げすらも辞さない様子である。

「待って。先ずは、ここから出ることが先決でしょ? それは後でもできるわよね?」

「ああ、まあ、うん……」

 ルイズは、ギーシュ達へと一睨みし、言った。

 ギーシュ達は圧されながら、才人から少しばかり離れ、気を取り直すかのように咳をした。

 “ゴーレム”を倒したことで、出口を守るものはいなくなった。

「では、行きましょう」

 アンリエッタの言葉に、皆が首肯き、歩を進める。

 皆明るい表情を浮かべていた。

 が、直ぐにその表情は抜けたものになる。

 迷宮の出口の先。

 それは、大きな通路であったのだ。

「これは……?」

「通路、ですね」

 その通路は、連合が横列に並びながら進んでもなんら問題などないほどに広い。また、高さもかなりあり、“エンシェント・ドラゴン”が1匹入るほどである。

 皆は其れに圧倒されたが、それ以外にも彼等には気になることがあった。

「音楽……?」

 音楽が流れ続けているのであるる。

 “死神のための葬送曲”。

 美しくも繊細な調べが、この廊下の中で響き続けているのである。

「この曲って、確か……」

 才人には聞き覚えがあり、どうにか想い出そうとして頭を撚った。

「駄目だ。想い出せねえ」

 才人は首を横に振り、再び歩き出した。

 

 

 

 そうして才人達が歩き続けていると、大きな広間へと出た。

「ここは……」

 其の場の皆が、圧倒された。

 とても広く、荘厳で、神秘的で……言葉では簡単に表せない空間がそこには広がっていたのである。

 そして、こじでも音楽は鳴り続けている。いや、むしろ、その音は大きくなった。

「ようこそ。良く来たな。おまえ達」

 堂々と玉座に座りながら、俺は才人達へと労いの言葉を掛ける。

「セイヴァー!」

 俺が声をかけることで、才人達は俺に気が付いたといった様子を見せる。

「圧倒されているようだな。まあ、無理もない。ここは、神殿のようなもの……“王の中の王”、その“神王(ファラオ)”の1人、“オジマンディアス”の“宝具”、“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”なのだからな」

「オジマン、ディアス……?」

「ああ、そうか。“ハルケギニア(この世界)”では当然知られていないものな。才人、おまえにはそうだな……こう言った方理解りやすいか? “ラムセス二世”、と」

「確か、教科書に載ってた、“エジプト”の」

「そうだ。その“神王(ファラオ)”の“宝具”だ。まあ、おまえ達が先程までた迷宮は、また“万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)”と言う、“ギリシャ神話”で語られる“クノッソスの迷宮”だがな。そして当然、それ等は俺好みにカスタマイズをしてある。元々、俺個人の“宝具”ではないからな」

 今の俺は“災害の獣(ビースト)”である。

 そんな“ビースト()”に対して、何故か“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”に合っている、と才人達は感じさせた。

 “災害の獣”でありながらも、神秘的……力に溢れる様子から、太陽を想起させる。詰まり、“神王(ファラオ)”である。

 他の……歴代の“神王(ファラオ)”達からすると、怒りを向けざるをえないだろうが、それでも、才人達にはそう感じることができた。

「それで……これからどうするって言うのよ?」

 そんな得意げに語る俺に、ルイズは睨みながら問うて来た。

「なに、簡単なことだ。実にシンプルだとも。おまえ達の勝利条件は、俺を斃すこと。そして、俺の勝利条件は……まあ、言うまでもないな」

「なら、早速おまえを殴ってやる!」

 才人はデルフリンガーを構え、片足を前へと進めた。

「まあ、そう急ぐな。やり合う前に、少し間引かせて貰おう」

 俺はそう言って、指をパチンと鳴らす。

 ドサッ、と一斉になにかが倒れる音がした。

 すると、才人達の後ろで待機していた兵隊達――“メイジ”達や“エルフ”達が突然苦しみ出し、意識を手放した。

 だが当然、全員などではなく、一部どうにか意識を保ち続けている者達もいる。

「な、なにを……!?」

 アンリエッタは後ろを振り返り、慌てて俺へと問うた。

「毒、さ。毒をここに充満させただけのこと」

「毒、だと……」

 ビダーシャルを始め皆の表情は当然険しくなる。

「おまえ、本当に……」

「言っただろ? 俺は、“災害の獣”……善かれと想いながらも、おまえ達に害を為す存在さ……」

 呆然と呟く才人に、俺は言った。

「改めて確認したい……」

「なんだ?」

「どうしてこんなことを……」

「“愛”故に……今の俺は“人類悪”としての側面を持ってるからな」

「“人類悪”?」

「“文字通り人類の汚点であり、人類を脅かし、人類を滅ぼす7つの災害”、“言うなれば人類史に溜まる澱みであり、人類が発展するほど強大な存在となって、その社会を内側から喰い破る人類種の癌細胞のようなモノ”……“文明より生まれ文明を喰らうモノ”、“霊長の世を阻み、人類と築き上げられた文明を滅ぼす終わりの化身”さ」

「それが……」

「そう。“人類悪”、“ビースト”。そして、それは“人が人であるが故の性質や知恵持つ生き物であるが故の切り捨てることの叶わないモノ”だ。俺達、“全人類が内包しているであろうこの大いなる悪に誰も克つことはできず、知恵を人類が捨てられないのと同じく、悪もまた捨てることができない”。何故だか理解るか?」

「そんなの、理解る訳がないじゃないか」

 俺の説明に、ギーシュは代表として言った。

 俺は嘆息し、答える。

「実に簡単なことだがな。まあ良い……その在り様は敵意によって人類を滅ぼそうとする“復讐者”や、人類に仇為す人外とは完全に逆だからだ。それ等が人類“を”滅ぼそうとする悪なら、ビーストは人類“が”滅ぼす悪だ」

「詰まり……どういうことなんだ?」

「なるほど……そういうこと、か……」

 才人達が理解らないといった様子を見せる中、オスマンやコルベール、そしてビダーシャル達は合点が行ったという様子を見せた。

「“人類が滅ぼす悪……その人理を脅かすモノの本質は人間への悪意と言う一過性のモノではなく、人理を守ろうとする願いそのもの”だと言うことだ。まあ、即ち、“人類愛”と言ったモノさ」

「より善い未来を望む精神が今の安寧に牙を剥き、やがて、人類の自滅機構――即ち自業自得の死の要因(アポトーシス)、ということじゃな?」

「然り」

 オスマンの確認に、俺は首肯いた。

「そんな……」

 皆、信じられないといった様子である。

「さて、講義は終わりだ」

 俺はそう言って、皆を見下ろす。

「で、今から始るのよね?」

「ああ、そうだとも。だけど、先程も言ったが、いきなりボス戦などと味気がないにもほどがある。故に」

 俺はキュルケの言葉に、首肯き、再び指を鳴らす。

「――な、なんだね!? あれは!?」

 ギーシュを始め、皆が驚いた。

 そこに現れたのは、大きな獣であったためだ。

 当然ただの獣ではない。

 獅子の躰と人の顔を持つ、大型トラック以上の体躯を誇る“幻想種”。

「スフィンクス、か……」

 才人は、その獣の特徴に心当たりが有り、言い当ててみせた。

「そうだ。“エジプト神話”に伝わる、“王家の守護聖獣”……“天空神ホルスの地上世界での化身”、荒ぶる炎と風が顕現した姿……おまえ達には、こいつ1匹だけで十分過ぎる。いや、もう少しばかり弱い奴を使った方が良いか?」

「なあ、セイヴァー……」

「くどいぞ、才人」

 才人はデルフリンガーを構え乍ら、俺を静かに見詰めた。

「確認だけさせてくれ。おまえは、6,000年前に俺やブリミルさん達を救けてくれた。どうしてなんだ?」

「簡単なことだ。ここで御前達の相手をするため。時間の流れを悪戯に変えたくなかっただけのこと」

「本当に、それだけか?」

「さてな……ただ、いつでもおまえ達を殺すことができたたのは事実だ。呼吸をするのと同じように、な」

 俺がそう言った直後、“スフィンクス”――“熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)”はその巨躯をユックリと動かして才人達の前に立ちはだかった。

「そうか……もう良い……おまえを、殴って止める! 最悪、腕や足を斬ってでも止めてやる!」

「は! 中々の啖呵だと想うぞ。好い。好いぞ。まあ、もっとも、王様系の“サーヴァント”達からすると、俺もおまえも落第点だろうがな」

 俺がそう言うのと同時に、“スフィンクス”は才人達へと向かって跳躍した。

「――!?」

 その余りの速度に、才人達は対応することができず、吹き飛ばされてしまう。

 ギーシュを始め“水精霊騎士隊”の少年達は、俺へとなにか言いたそうにしてはいるものの、なにも言えずに、逃げ惑うことしかできないでいた。

「“はは! 逃げろ、走れ、跳べ! 精々足掻け。喚け。叫べ!”」

 “スフィンクス”はその巨躯に似合わぬ速度で、才人達を弄んでいるかのようである。強靭な前脚を、衝撃波(ショックウェーブ)が発生するほどのスピードとパワーで振るった。大きなダメージを直接与えることのないように、加減をしながら。

「“ファイアーボール”!」

氷の槍(ジャベリン)!」

「“稲妻《ライトニング》”!」

「“エア・ハンマー”!」

「“爆発(エクスプロージョン)”!」

 炎球が、氷の槍が、電撃の帯が、巨大な空気の塊が、爆発が、“スフィンクス”を襲う。

 だが掠り傷1つ付かず、“スフィンクス”は悠々としている。

「さっきの“ゴーレム”もそうだけど、なんて固さなの?」

 流石のルクシャナも、このような事態では好奇心よりも焦りの方が当然増す。

 ルクシャナはそう言って、“精霊の力”を借りて“魔法”を行使し、“スフィンクス”へと攻撃をした。

「喰らえっ!」

 才人はデルフリンガーを振り被り、“スフィンクス”へと斬り掛かる。

 スフィンクスはそれを迎撃しようとするが、その前にアリィーの“意思剣”が“スフィンクス”から才人に向けられた意識を奪った。

「――うおっ!?」

 だがそこで、“スフィンクス”は背の翼をはためかせ、強風を起こすことで才人と“意志剣”を吹き飛ばした。

「ルイズ! テファ!」

 才人は体勢を立て直し、叫んだ。

「“爆発(エクスプロージョン)”!」

「“分解(ディスインテグレート)”!」

 ルイズとティファニアは、“ゴーレム”を斃した時のように、デルフリンガーへと“魔法”を掛ける。

 デルフリンガーが青白く光り輝くのを確認することもせず、才人は跳躍し、“熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)”へと斬り掛かった。

「“良いぞ、ハハッ! 多少はやるか”」

 本来届くはずのないそれは、“スフィンクス”の“心臓(霊核)”にまで届いた。

 結果、“熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)”の躰は崩壊する。

 完全な再現を行っていなかったために、その力は十分に発揮できなかった。が、そんな状態であっても、それなりには動き、働いたといえるだろう。

「さて、セイヴァー。後は御前だけだ」

「そうだな、その通りだ。おまえの言う通りだな。まあ、本来であれば“熱砂の獅身獣(アブホル・スフィンクス)”など捨てるほどいるが、まあ、良いだろう。1匹だけで十分過ぎると言ったからな。いや、甘く見ていたか。いやいや、期待通りと言うべきだな」

 俺はそう言って、玉座から立ち上がる。

「皆は手を出さないでくれ」

「サイト!?」

 才人はそう言って、一歩進み出た。

「“ほう、ほう。面白い!” 単騎のみで俺を相手取って見せるつもりか」

「ああ。“虎街道”での続きと行こうぜ」

「“虎街道”……ああ、識っているぞ。あれだな。あれは俺の勝利で終わったはずだがな。まあ、それでもおまえの言葉に突き動かされたのもまた事実だが」

「言ってろ。今度は絶対に勝つ」

「良いだろう。ならば存分に足掻いて見せよ」

 俺はそう言って、1本の剣を“投影”する。

「“乖双弓槍剣アヴルドゥク”は使わないのかよ?」

「必要ない。おまえには、これ1本と俺の身体のみで十分だ」

「…………」

「まあ、ただの身体ではないぞ。“ヘラクレス”や“アキレウス”の“宝具”などを宿しているからな」

 俺はそう言って、一歩踏み出す。

「なあ、サイト。せめて、これだけでも受け取ってくれないか?」

 ギーシュはそう言って、腕輪型の“礼装”で才人の能力を軒並み強化した。

 他の面々もそれに続く。

「ありがとな、ギーシュ、皆。さあ、やろうぜ、セイヴァー」

 才人がそう言ったのと同時に、左手甲の“ルーン”が光り輝く。

「ああ、始めようか。さて正真正銘のボス戦だ。精々足掻いて、世界を救ってみせろ!」

 才人は床を蹴り、デルフリンガーを振り翳す。

 自身が着けている“礼装”と皆からの強化によって生み出される脚力はかなりのモノであり、才人は瞬きをする間も与えずに俺の懐へと潜り込もとして来た。

「 “秘剣―――燕返し!”」

 だが、そう簡単に斬撃を受ける訳にはいかない。

 俺は、本来であれば“物干し竿”という“長刀”を用いて放たれる神域の技――“第二魔法級”の現象を、剣で放った。

 かつて“佐々木小次郎”と呼ばれる男が、(TSUBAME)を斬ろうとした際、空気の流れを読まれて尽くを避けられてしまったがために、編み出された剣技。

 “頭上から股下までを断つ縦軸の一の太刀、一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である二の太刀、左右への離脱を阻む払い三の太刀と、三つの異なる太刀筋を多重次元屈折現象により同時に放つことで対象を囲む牢獄を作り上げる”。

 “魔術”や“魔法”などは一切使わずにただただ剣技のみで放たれる。

 この瞬間、剣は実際に“ほぼ同時ではなく全く同時に放たれる円弧を描く3つの軌跡”が才人へと向かった。

「――!?」

 才人は目を見開いた。そして、デルフリンガーを振り翳したまま、踏み出した足で前に出るのをやめ、即座に後ろへと跳躍し、回避を図る。

「く、そっ……喰らっちまったか……」

 才人は、服の上から斬り裂かれた自身の腹へと手をやり、それからデルフリンガーを構え直す。

「今の、なに……?」

 見ていた皆は、一瞬の間に起きた出来事に目を見張った。

「あれは、回避不可能と言っても良いだろね……」

 イーヴァルディは苦虫を噛み潰したかのような表情と声で言った。

「どういうこと……?」

 タバサは静かに問うた。

「なに、簡単だ。実に簡単なことだとも。ただ、同時に剣を振っただけのことさ」

 俺は出来る限り、なんでもないように言って退けた。

「“佐々木小次郎”と呼ばれる、かつて無名のNOUMINが手にした神域の剣技さ」

 俺はそう言って、剣に付着した血を、振り飛ばした。

(可怪しい……なんか上手くように動けねえ。どういうことだ……?)

 才人は、俺が説明をし、手を止めている間、頭を悩ませていた。

「どうした才人? 先程までの威勢はどこに行った? いいや、おまえは今疑問を抱いているな? そう、どうして本来の実力を出すことができないのか、と」

「…………」

 才人は俺を睨みながら、デルフリンガーを構え直し、足を動かし、距離を測る。

「そうだな……おまえに理解りやすく言うとすれば、デバフと言ったところか」

「どういうこと!?」

 ルイズ達が疑問を覚え、声を上げた。

「おまえ達の身体的ステータス――身体能力が落ちているのさ。まあ、防御用の“魔法”も“魔術”も、鎧なども無視して微弱ながらもダメージを与え続けているというのもあるがな」

 文字通り、ここは複合神殿である。“万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)”や“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”はもちろんのこと、“招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)”を展開し、“死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)”や“|至高の神よ、我を憐れみたまえ《ディオ・サンティシモ・ミゼルコディア・ディ・ミ》”もまた使用し続けているのだから。

 結果、俺にはバフが、才人達にはデバフが、という風である。

 俺はそう言って、才人と同じく剣を構え直す。

「どうした? 来ないのか? なら俺から行くが」

「気を付けろ、相棒! セイヴァーの実力は未知数だ!」

「ああ、理解ってる。でも、なにかあるはずだ……なにか、弱点とか」

 デルフリンガーと才人は、挑発する俺に対して強く警戒している様子を見せる。

「弱点などというモノはないさ。それでもしいて言うのであれば、そうだな……こう、自身の弱点を的に教えるのも問題ではあるが、敢えて教えてやろう。この俺の弱点は、全力を出し切ることができないこと、そして相手をしているのが“英雄”であるということだ」

 俺はそう言って、床を蹴り、跳ぶ。

「“1歩音超え、2歩無間――3歩絶刀! 無明三段突き!”」

 俺は“縮地”をもって、歩法と体捌きと呼吸、そして才人の死角を利用し、単純な素早さなどではなく、歩法の極みで間合いを詰める。

 そして、平晴眼の構えから壱の突きと弐の突きと参の突きを含む平突きで、ほぼ同時ではなく全く同時に放った。

 放たれた3つの突きが同じ位置に同時に存在しており、この壱の突きを防いでも同じ位置を弐の突き、参の突きが貫いているという矛盾によって、剣先は局所的に事象飽和を引き起こす。

「――相棒!」

「――理解ってる!」

 デルフリンガーの叫びにも似た呼び掛けに、才人も叫び返すだけで精一杯であった。

 結果から来る事象飽和を利用しているため、事実上防御など不可能であり、無意味であるといえるだろ。

 命中してしまえば、効果範囲こそ狭いものの命中箇所は破壊を通り越して、刳り貫かれでもしたかのように消滅してしまうのだから。

 だが――。

「――うおおおおおお!!」

 才人はそれを防いでみせた。

 正確には、デルフリンガーが見切り、才人へと指示を出し、才人はそれに従っていただけなのだが。

 だがそれでも、才人は防いでみせたのである。

「ふむ……見事なものだな、才人。“ガンダールヴ”としての力をフルに使っているみたいだな。“騎士の武略”、“守護騎士”、“心眼(偽)”と“心眼(真)”、“戦闘続行”、“直感”、“不屈の意志”、“勇猛”……まさか、これだけの“スキル”を含んだ“複合スキル”だとは、夢にも想わなかったな」

 俺の口角は自然と上に歪んでいた。

「そらそら、次だ、次」

 俺はそう言って、再び才人の懐へと潜り込む。

「同じ手は――」

「馬鹿か? 同じ手を使ってばかりだと想うなよ」

 俺はそう言うのと同時に、攻撃が1つに重なるほどの高速連撃を才人へと放つ。

「ぐぁっ……く……かはっ!?」

 才人は息と血の塊を吐き出し、吹き飛ぶ。

「そら、さっさと態勢を立て直さないと、駄目じゃないか」

 俺は再び跳躍し、才人の後を追い掛け、同じく連撃を繰り出す。

「相棒、意識をしっかり保て!」

「だい、じょうぶ……なんとか、意識はあるぜ、デルフ」

 才人はフラつきながら、立ち上がり、デルフリンガーに応えた。そして、再び俺を睨み、構え直す。

「“複合スキル”だが、そのどれも“A+++ランク”ほどの効果があるんじゃないのか?」

 俺はそう言って、ユックリと才人へと歩み寄る。

「さて、才人。おまえ1人だけでは無理があることに気付いただろ?」

「…………」

 俺の言葉に、才人は無言で返す。

「沈黙は是也。さて、おまえ達。才人の手助けをすることを許可する。俺へと攻撃でもしてみると良い」

 俺は笑い、この場にいる皆を挑発してみせる。

 すると、皆俺へと攻撃を開始し、才人も観念した様子で攻撃を再開した。

 ある者は“錬金”で床を腕の形へと変形させ、ある者は炎の蛇でもって俺の動きを封じようとする。

 ある者は剣に意思を持たせ、自在に動かすことで、俺の意識を逸らそうと試みる。

 ある者は炎球を放ち、ある者は爆発を発生させ、ある“偏在(ユビキタス)”を発生させ、俺を撹乱しようとする。

 だが――。

「無駄だ。そんなモノは効かん」

 俺はそう言って身体を軽く動かす。

 俺を拘束しようとしていた腕は砕け散り、炎の蛇は千切れ飛ぶ。意思を持つ剣は罅割れ落ち、炎は消失し、爆発は消沈し、“偏在(ユビキタス)”は掻き消える。

 同時に、俺は剣を軽く振るい、剣圧で皆を吹き飛ばした。

 皆“礼装”を用いてそれぞれが強化した“魔法”でありはしたが、今の俺からすると児戯に等しい……いや、最初から――“転生”して力をえた時から、この世界の総てが児戯に思えてしまっていたのかもしれない。

 それでもまだ皆、立ち上がり、“魔法”を繰り出して来る。

 才人とイーヴァルディは連携して、皆からの援護を始めとしたバックアップの元、俺へと斬りかかって来る。

「速いがそれだけだ。真っ直ぐ過ぎる。フェイントを入れろ。まあ、好いがな」

 俺はそう言って、2人の剣を往なし、片手で炎の球を生み出して放つ。

 その炎球は放たれるのと同時に分裂し、次々とまだ立っている“メイジ”や“エルフ”達へと命中した。

 毒の影響もあって、意識を保ち続けることができず、喰らった者達は倒れていく。

「セイヴァー!」

 才人は、今の俺の状態とは正反対である、この世界に於ける名、を叫びながら剣を振りかざす。

 同時に、イーヴァルディが俺の背後へと回り込み、下から上へと逆袈裟の容量で振り上げて来る。

「無駄だ。全て観えているぞ」

 俺は軽く力を出し、2人を剣ごと弾き飛ばす。

 吹き飛ばしたイーヴァルディを、才人が飛んだ方向へと蹴り飛ばす。

 イーヴァルディは鳩尾に俺の蹴りを喰らい、勢い良く飛ばされる。

「“卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め! 約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!”」

 俺が手にしている剣が、“真名解放”によって俺自身の“魔力”によって黒く染まり、その“魔力”が刀身から溢れ出して光となる。

 黒い光となったそれは、収束と加速をおこなって運動量を増大させ、先端部分から光の断層による黒き究極の斬撃となり、シオンやルイズ達へと牙を剥く。

 その斬撃の前に、吹き飛ばされた才人とイーヴァルディっが体勢を立て直して、それぞれの剣を構える。

 高熱量を誇る黒い光が、才人が持つデルフリンガーとイーヴァルディが持つ剣へとそれぞれ分かれて吸い込まれていく。

 だが当然、その斬撃()を構成する“魔力”を吸い切ることができず、才人とイーヴァルディは吹き飛ばされ、同時に後ろにいたシオンやルイズ達もまたそれを喰らってしまう。

 光が収まったあと、そこにあったのは意識を手放してしまった者達と、まだ意識があるが立ち上がることすらもできないでいる者達の2つに分かれることになった。

 そんな中、才人だけが身体をボロボロにしながらも、足を震わせながらもどうにか立っていた。

「どうしたんだよ? セイヴァー……俺は未だピンピンしてるぜ? 来無いのかよ?」

「言うじゃないか。だが、どうする? 俺は攻撃を続けることができるが、おまえは立ってるのがやっとだろ?」

「そんな訳あるか! これからが本番だろ?」

 俺の言葉に、才人はニヤリと笑みを浮かべ、挑発で返して来た。

 そんな才人の言動に、俺は想わず笑みを零してしまう。

「素晴らしいな、才人。おまえは、やはり“英雄(人間)”だ、俺はそう想う。そうでなくてはな。“諦めずに、前へ、だ”。そして、“イメージするのは”」

「“常に最強の自分”だろ? 相変わらず、おまえって奴は……」

「…………」

「そんな姿になっても、受け売りとか口にするんだな」

「そう、だな……俺は空っぽだからな。だから、なにかを求め、受け容れるために、中身を満たすために“根源”と繋がっているのかもな」

 俺がそう言ったのと同時に、才人と俺は互いに床を蹴り、詰め寄った。

「どうしたこの程度か?」

「こっちの台詞だ! こんな程度かよ!?」

 ここからは単純な剣戟が続いた。

 だがそれでも、かなりの速度と威力を持っている。

 互いの剣が振るわれるたびに、玉座の間には立っていられるのが難しい――吹き飛ばされないようになににしがみ付いていあにと駄目なほどの風が巻き起こる。

 互いの剣が打つかり合うたびに、火花が散り、耳の鼓膜が破れかねないほどの音が鳴り響く。

「手加減してんじゃねえよ! 全力で来い! セイヴァー!」

「言っただろ? これで十分、だと。全力を出すことはできない、と」

 才人の挑発を軽く流し、俺は剣を振るうスピードを上げる。

 だが当然、才人もそれに追い付き、縋って来る。

「やるな」

「おまえのおかげなんだぜ? あの時、360度もの角度から刀剣類を飛ばして来たおまえの攻撃のおかげでどうにか対応することができてるんだ、ぜ!」

 才人はそう言って、俺が振った剣を弾き飛ばす。

 一瞬だけでは在るが、俺は握っていた剣を弾かれ、隙ができてしまった。

 いや、わざとそうしたのだが。

 当然才人はその隙を見逃すはずもなく、デルフリンガーを突き立て、俺の胸を深々と突貫く。

「相棒!」

「ああ、手応えありだ。けど!」

 俺の胸に深々と突き刺さったデルフリンガーを目にし、皆は息を呑んだ。

「“霊核”を破壊、できたのか……」

 イーヴァルディのその言葉に、皆顔を見合わせ、それから才人と俺へと視線を戻す。

「だが、現実はそう甘くはない」

 俺はそう言って、剣を手放す。

 俺の言葉と手放された剣に、才人の目は向かってしまう。

「――相棒!」

「しまっ――」

 デルフリンガーが叫ぶのと才人が気付き声を漏らしたのと同時に、俺は剣を握っていたのは逆の方の手で握り拳を作り、才人の腹へと叩き込んだ。

「――がはっ……」

 才人の口から声にならない声、胃液、血塊などが飛び出す。

「ボサっとするとは、そんなに死にたいのか?」

 俺はそう言って、神速の脚で才人を蹴り飛ばした。

「どう、して……?」

 蹴り飛ばされた才人は、壁に打つかり、倒れる。それから、ヨロヨロと立ち上がり、俺へと問うた。

「どうして? どうして“霊核”が破壊されたのに、無事なのか、か?」

「……っ……」

「この“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”には、所有者に対し“仮初の節の肉体を与える”力があるのさ。これがある限り、“霊核を破壊されても即座に無限再生する”んだ」

「そんな……」

 ルイズ達の中から絶望に似た声が漏れ出た。

「いや、だがおまえには驚かされてばかりだぞ? まさか、俺のこの身体を貫き、“霊核”を破壊してみせたんだからな。なにせ、“十二の試練(ゴッド・ハンド)”、“勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”を貫いてみせたんだぞ。誇れよ。誇ると良い」

 本来、“神性スキル”を持たない者の攻撃、汎ゆる“Bランク以下”の攻撃、などは完全に無効化できる身体に傷を与え、“霊核”を破壊してみせたのだから、才人の力はただの人の範疇を超えていることが理解る。

「俺だけの力じゃない、そうだろ?」

「なんだ、随分と謙虚だな。いいや、しっっかりと理解できているということか。大した者だな、おまえは」

 俺は笑いながら才人を見やり、口を開く。

「そうだ。汎ゆる偶然や力が集結したからこその結果、とでも言おうか? おまえが握る剣、デルフリンガーの意志が宿ってるその剣は俺がおまえにくれてやったモノだ。そして、それは俺が創った」

「ああ、だから、だろ? ルイズとテファの“虚無”を掛けても問題なかったこと、そして俺がこれだけ動くことやおまえの心臓を貫くことができたのって」

「そうだな。どうやら俺は無意識のうちに“神造兵装”でも創ってしまってたみたいだ」

「言ってろ」

 才人は余裕ぶりながらそう言って、剣を構え直す。

 だが、才人の心の中は焦りで一杯で在った。

(どうする? どうすれば、セイヴァーを斃すことができる?)

 才人は間合いを測りながら、思考を巡らせる。

(そう言や、セイヴァーはなんか言ってたっけ……? 全力を出せない、とか……! そうか! でも、だからってあの攻撃を弾いたり、不死の身体をどうにかすることなんて……)

「……見せてみろ、才人。おまえ達の“可能性”を」

「“可能性”、だと……?」

 俺はそう言って、再び才人へと向かって詰め寄った。

「――くそ、考える暇を与えてくれないのかよ!」

 才人はそう言って、デルフリンガーで俺の剣による攻撃を防いだ。

「どうした? 才人! おまえの力はこんなモノではないはずだ! おまえ達の力は!」

 俺は叫びながら剣を振るい続ける。

「当たり前だろうが!? 俺の、俺達の力はこんなもんじゃねえ!」

ならば、見せて見ろ! その力を!」

「――うおおおおおおおおお!」

 才人は雄叫びを上げ、デルフリンガーを勢い良く振り下ろす。

「いつもいつも、おまえは上から目線で気に喰わねえんだよ!」

「すまんな、それは性分だ」

「なんでも知ってるとか言った風を装いやがって!」

「実際に識っている、いや、識ることができるのだから仕方がないだろ」

 “虎街道”での時と同じ様に、才人は俺へと想いを打つけ乍ら剣を振るって来る。

 そんな才人へと、俺もまたその想いを受け止めながら応戦をする。

 何度かそんな剣戟と言葉の応酬を繰り返し、俺は剣を振るい、才人を吹き飛ばす。

「――この、馬鹿野郎がああああああああああ!」

 吹き飛ばされた才人は、一瞬で体制を立て直し、デルフリンガーを構えて叫びながら突っ込んで来る。

 だがそれは簡単に避けることができる、馬鹿正直なほどに真っ直ぐな突きであった。

「…………」

 そこで、俺は避ける動作を取ろうとするが、その前に、俺の顔のすぐ前で小規模な爆発が起きる。

 その爆発が、俺の視界と張力を、一瞬だけではあるが奪い去った。

「え?」

 シオンを除き、才人を始め皆の目は丸く見開かれており、ポツリと呟いた。

 皆、目をパチクリとさせ、信じられないモノを見た、といった様子を見せる。

「ようやく、か……やるじゃないか、才人……」

 俺の身体はバッサリと斬り裂かれており、最早修復不可能な状態である。

「いや、どうして? 俺にこんな力ある訳……」

「たった今身に着けたってことだ。目的達成のための手段を1つに絞ったんだよ」

「いや、それでもこんなアッサリ……」

「そんなモノだ、何事も……物事は思いの外アッサリと、呆気なく終わるモノなんだよ……ただ、おまえは、無限にarubeき未来をたった1つの結果に限定して退けた……俺の“霊核”を“光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)”にyoる再生能力や“十二の試練(ゴッド・ハンド)”や“勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”、他“宝具”や“スキル”gごと斬り捨てただけのこと……いやはや、実に呆気ない、味気ない最期だな……」

「おまえなんで笑ってるんだよ……?」

 この場にいる皆は、言葉を失い、ただ静かに見守っていた。

 そんな中、才人は俺に問い詰めた。

「どうして笑ってられるんだよ!?」

「どうして、か? 決まってる。世界は守られたんだぞ? 人類は守られたんだ! 例え“剪定”されることが決まっていても、存命が決定されたんだぞ!? おまえ達がそれを掴み取ったんだぞ!? これが喜ばずにいられるか!」

「おまえ、もしかして……」

 才人を始めとした皆は、気付いた様子を見せる。

「なんだ、今頃気付いたのか? 存外、鈍いのだな、皆」

「最初から、自分が殺られるつもりで計画を立てていたんだな? 俺達におまえを殺させるように仕向けたんだな?」

「そうだ。それで? なにか、他に訊きたいことでもあるのか?」

「当然、だ。なんでこんなこと……」

「野暮なことを訊くなよ、才人。“愛”故、だと言っただろ?」

「もっと理解りやすく言ってくれ」

「……俺は“災害の獣(ビースト)”だ」

「知ってる」

「俺は、他の“ビースト”とは違う点がいくつもあるのさ。より善い未来を導こうと足掻くほどに最悪の方向(人類の滅亡――真理の破壊)に向かってしまうってな……故に、待ったんだ。おまえ達と言う“抑止”の後押しで出て来る存在を、な。“冠位(グランド)”ほどではないにしろ、おまえ達には十分な(可能性)がある。それは、生前の俺の記憶で立証されてるからな」

 俺はそう笑いながら言った。

「なあ才人。この世界は、“ハルケギニア”はどうして、“地球”に於ける“中世”の時代で止まってると想う?」

「いやそんな、急にそんなことを訊かれても……」

 俺はそんな訊かれてもないことを、意地の悪い笑みを浮かべて訊いてみた。

「実に簡単な答えなんだ。そしてこれは、さっきの戦いで、全力が出せないと言ったことの答えでもある」

「どういうことだよ?」

「俺の“宝具”は“汎ゆる流れるモノを自由自在に操作する”ことができる。それは当然、人の心や感情、思考、価値観、そう言ったモノを含む。そして、その中には時代の流れや文化や文明の進歩する速度、なんてモノも含まれる訳だ」

「それって……」

 俺の言葉を訊いた才人、そして離れた場所にいる皆は顔を青くした。

「そんな恐ろしい能力を持ってるなんて……ううん、セイヴァー。あんたは、どうしてその力を使わなかったの!?」

 ルイズは恐る恐るといった様子で、俺へと問うた。

「なに、実に簡単なことだ。既に9割近く使用していた、リソースを割いていただけのこと。さっきも言った、世界の文化や文明の流れを滞らせていたからだ。だから」

「だから、おまえは」

「ああ、それと…… “一度ビーストが顕現した世界は他のビースト達が連鎖的に顕現する宿命となる”なんて、ふざけた特性がある」

 “霊核”が破壊されたことで、俺の身体と共に此の神殿は崩壊を始めている。

 あちこちが崩れ、天井や床に亀裂が入り始める。

「そんなモノが……!」

「まあ、安心しろ。“7つの災害”のうち、5体は既に俺が斃している。こうなる未来を確定させるためにな……毒を以て毒を制す、“ネガ・ビースト”ってな……だからって、慢心とかはするなよ?」

「セイヴァー、おまえ……」

「ああ、そろそろ限界が近いな……」

 神殿が崩壊する中、気を失っていた兵達が目を覚ましたのだろ、呻き声を上げた。

「――え!?」

「どうして、生きてるの……!?」

 アンリエッタを始め皆は驚き、声の下方へと振り向く。

「毒を使ったって……?」

「ああ、毒か……確かに、俺は毒を使った。なにも嘘は吐いてないさ」

 皆が俺へと目を向けて来た。

 そして俺は意地悪く笑みを浮かべて、言い放つ。

「ただの神経毒、そして意識を失わせる程度のな。俺が消滅することで効果も失うってか。この神殿も直ぐに崩壊する。さて、ここにいると潰されてしまうだろ? 直ぐに出させてやる」

 俺はそう言って、“世界扉(ワールド・ドア)”を開き、外の空間へと繋げる。

「そんな、“世界扉(ワールド・ドア)”……どうして?」

 ルイズは愕然として呟いた。

「俺は“根源”と繋がってるんだぜ? こんなこと、簡単にできちまうのさ。さあ行きな」

 俺はそう言って、皆を“世界扉(ワールド・ドア)”の奥へと吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩れ行く神殿の中、俺は崩落を始めようとしている天井を仰ぎ見た。

「ああ、これでようやく終わるんだな」

 前世ではなにもすることがなかった、できなかった俺の精神はとても脆弱であるといえるだろう。そんな心では、到底こんなことはできるはずもない。

 故に、俺は手にした力を使って、自身の心すらも操っていた。

 6,000年間、ずっと。

「全てが懐かしいな……ああ、懐かしい」

 俺の脳裏に、“現界”してからの出来事が文字通り走馬灯として奔り抜けていく。

 

 

「見てくれ、セイヴァー! 未来で、僕が造ったとされる指輪を作ったぞ! ほら、これだ! 少しばかり血を使ったから頭がクラクラするけど、なかなかの出来だろ!?」

 

「今度は、“書”と“オルゴール”、“香炉”と“鏡”を造ったぞ! だけど、この“祈祷書”になにを書こうか悩んでるんだが、なにを書けば良いと想う?」

 

「どうして、勝てないのよ!? もっ、もう一回よ! セイヴァー、正面切っての、正々堂々とした一本勝負! 高貴なる“エルフ”である私が負けるはずないもの!」

 

 楽しかった想い出が、皆の笑顔が頭に浮かぶ。瞼に浮かんで来る。

 だが、それ等は直ぐに重い表情へと変わって行った。

 

「どうすれば良いんだ? どうしたら、“大陸の隆起”を止められる!?」

「それも、“大いなる意思”の思し召しでしょうね。でも、私もなんとかしたい。そう想えるようになったわ。交渉しに行きましょう、一緒に」

 

「そんな、皆、どうして……ラグナル、シグルズール……ノルン、みん、な……どうしてこんな……」

 

「ブリミル、“生命(その魔法)”は余りにも強力過ぎます!」

「なら、どうしろと言うんだ!?」

「私に考えがあります……少し前に、まだこうなる前に貴男がおっしゃった“聖杯”……それを再現いたしましょう」

「どうやって!?」

「私と彼が“ホムンクルス”の代わりを務めます。勝手なことですが、既に彼とも話し、同意を貰っています」

「だけど、僕は……」

「ええ。理解っていますよ、ブリミル。ですからこれは、第二の選択肢。貴男が“生命”を発動しても失敗してしまった場合の保険として、是非」

 

「……“悪魔(シャイターン)”」

「でも、これで良い。これで、君を救うことができた」

 

「僕はこんな力要らなかった……要らなかったんだ!」

 

「嗚呼、終わったよ。ブリミル。全てが完了した訳じゃあないけど、どうにかなったよ。観ているかい? こんな情けない俺だが、もっとより善い方法があっただろうけど、それでも……やってみせたんだ」

 床が割れ、天井が砕け落ちて来る。

「シオン、皆……」

 瞼を閉じると、先程まで向かい合っていた皆の顔が想い浮かんだ。

「“に入らぬからこそ美しいものもある”……嗚呼、美しいな、皆……俺にはないモノをおまえ達は持っている。だからこそ、“愛”しい。故にこそ“愛”そう。おまえ達を、この世界を……俺は」

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