ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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宝探しと竜の羽衣

 タバサは息を潜めて、木の側に隠れている。

 彼女の眼の前には、廃墟となった寺院がある。かつては壮麗を誇ったであろう門柱は崩れ、鉄の柵は錆びて朽ちてしまっている。明かり窓のステンドグラスは割れており、庭には雑草が生いしげっているのがわかるだろう。

 ここは数十年前に打ち棄てられた開拓村の寺院である。荒れ果て、今では近付く者は誰もいない。しかし、明るい陽光に照らされたそこは、牧歌的な雰囲気を漂わせている。旅する者がここを訪れたのであれば、昼飯の席をここに設けようなどと思うかもしれない。

 そんな牧歌的な雰囲気が、突然の爆発音で吹き飛んでしまった。

 キュルケの炎の“魔法”が、門柱の隣に立つ木を、発火させたのである。

 木陰にいるタバサは“杖”を握り締めた。

 中から、この開拓村が打ち棄てられた理由が飛び出てくる。

 それは、“オーク鬼”であった。

 身の丈は20“メイル”ほどもある巨躯をしており、体重は恐らくヒトの優に5倍はあるだろう。醜く太った身体を、他の獣から剥ぎ取ったであろう皮に包み纏っている。突き出た鼻を持つ顔は、豚のそれにソックリだと言えるだろう。2本足で立った豚、という形容がしっくりと来てしまう身体を怒らせている。

 その数はおおよそ20数匹程度。

 ヒトの子供が大好物といった、人間達の側にすると困った嗜好を持つこの“オーク鬼”の群れに襲われた所為で、開拓民たちは村を放棄して逃げ出してしまったのであった。村人たちは、当然領主に訴えたのだが、森の中に兵を出すことを嫌った領主は、その要請を無視して放置した。そのような村は、“ハルケギニア”には吐いて捨てるほどにあるというのが現状である。

 “オーク鬼”は、ぶひ、ぶひ、と豚の鳴き声で会話を交わし、門柱の辺りで燃える炎を指さした。それから明々に怒りの咆哮を上げ始める。「ふぎぃ! ぴぎっ! あぎっ! んぐぃいいいいいッ!」といった具合にである。

 “オーク鬼”たちは、手に持った棍棒を振り回し、熱り立つ。火があるということ。詰まり、近くにヒトを始め、敵がいる、もしくは餌があるという証拠であるためだ。

 そんな“オーク鬼”の様子を見つめながら、タバサは使う“呪文”を検討した。

 敵の数は予想していたよりも多いのである。そうそう“呪文”は連発することができない為、慎重に事を運ばないと、簡単に奇襲の優位は崩れてしまう可能性がありえるのだから。

 その時、“オーク鬼”の前に、フラリと陽炎が立ったかと思うと、“青銅の戦乙女”が7体、姿を表した。ギーシュの“ゴーレム”――“ワルキューレ”である。

 打ち合わせと違うそれを目にしたタバサは、眉を顰めてしまう。

 どうやら、ギーシュが先走ってしまったようである。

 ギーシュの7体の“ワルキューレ”は、先頭の“オーク鬼”に向かって突進する。手に持った短槍を突き立てた。それの穂先が、“オーク鬼”の腹に減り込んだ。

 7体の“ワルキューレ”に襲いかかられた“オーク鬼”たちは、地面に倒れた。しかし、傷は浅い。どうやら厚い皮と脂肪が鎧となって、穂先は内蔵まで達していなかったようである。倒れた“オーク鬼”は直ぐに立ち上がり、些細な傷などものともしない生命力を駆使して棍棒を振り回す。

 仲間であろう他の“オーク鬼”たちも直ぐに駆け寄り、槍を身体に減り込ませようともがく“ワルキューレ”目がけて棍棒を振るった。“オーク鬼”の振り回す棍棒は、大きさがヒトの大人の身体と同程度であり、一撃を受けた華奢な“ワルキューレ”達は、吹っ飛んで地面に打ち付けられ、バラバラに砕け散ってしまう。

 タバサは、隙かさず“呪文”を“詠唱”し、“杖”を振る。“水”、“風”、“風”といった風に“水”が1つ、そして“風”の2乗。2つの“系統”が絡み合い、“呪文”が完成する。

 空気中の水蒸気が氷付き、何十本もの氷柱矢と成り、四方八方から手負いの“オーク鬼”を串刺しにした。

 タバサの得意な攻撃“呪文”、“ウィンディ・アイシクル”である。

 手負いの“オーク鬼”たちは、一瞬で絶命し、斃れた。

 タバサが隠れた場所から離れた木の上で状況を観察していたキュルケは、“杖”を振った。“火”、“火”と“火”の2乗。“炎球”の“呪文”に依り一回りも大きい炎の塊――“フレイム・ボール”が、“オーク鬼”を襲う。

 狙われた“オーク鬼”は大柄な身体に似合わない敏捷な動きで、その“フレイム・ボール”を躱そうとする。が、“フレイム・ボール”は、糸に繋がれてでもいるかのようにして、“オーク鬼”をホーミングする。咆哮を上げる口の中に飛び込み、一瞬で逃げる“オーク鬼”の頭を燃やし尽くした。

 しかしタバサ達の効果的な攻撃はそこまでであった。強力な“呪文”は、“精神力”を消耗するために、続け様に使うことはできないのである。

 

 

 仲間を斃れされた“オーク鬼”たちは怯んだが、直ぐに自分達を襲っているヒトが、数人の“メイジ”のみであるということに気が付いた。“メイジ”達との戦いは一瞬で決まることを、“オーク鬼”たちは長いこと繰り返して来たヒトとの戦いを通じて、覚えていたのである。負ける時は、ほんの一瞬で全滅してしまうはずである。“魔法”攻撃で、自分たちの仲間は2匹斃れされただけに過ぎない。

 詰まり、ヒト共の攻撃は失敗してしまった、と“オーク鬼”たちはそう解釈した。

 怒りが直ぐに恐怖を押し潰す。

 “オーク鬼”たちは、嗅覚鋭い鼻を引く付かせ、“メイジ”達が隠れている場所を探り当てた。

 寺院の庭の外から、彼らにとって美味そうな若いヒトの匂いが漂って来る。そこへ、十数匹の“オーク鬼”たちは走り出した。

 すると、スッと門の前に、剣を背負った1人の若いヒトの男、手に巨大で無骨な剣を持った若いヒトの男と2人が現れる。その隣には、“サラマンダー”の姿も見える。

 ためらわずに“オーク鬼”たちは突進を続けた。“オーク鬼”たちは、「サラマンダーは強敵ではあるが、これだけの数でかかれば問題はなに1つない」と、そう考えたのである。

 ヒトの戦士など問題外だ。“オーク鬼”1匹には、ヒトの戦士5人に匹敵するといわれている。きちんと訓練を受けた手練れの戦士でさえもそれなのだから、あのような子供たちなど、棍棒の一振りで片が付く。

 そのはずであった。

 

 

 才人はかたわらの“サラマンダー”――フレイムに呟いた。

「俺は右から殺る。フレイム、お前はキュルケの方に向かう化け物どもを喰い止めろ。セイヴァー」

 キュルキュルとフレイムは、口の端から炎をちらつかせ、返事をし、主人の元へと向かう。

「ああ。では、才人。私は左を受け持とう」

 フレイムの返事と同時に、俺もまた才人の言葉に首肯き、答える。

 “オーク鬼”が、群れをなして襲いかかって来る。

 才人に、生理的な恐怖が襲いかかり、パニックに陥ろうとしているのだろう、彼の身体は少しばかり震えている。彼の手もまた大きく震えていた。

 襲いかかって来ている“オーク鬼”の首には、なにやら首飾りが提げられている。その組飾りは、荒縄で繋がったヒトの頭蓋骨で作られているのがわかるだろう。

 “オーク鬼”が近付くに連れ、彼らから、むんと獣特有の嫌な悪臭が鼻を突く。

「どうした才人? 怖いのであれば、退がっても良いぞ?」

「ば、馬鹿! そんな訳ないだろ!」

 才人は声を震わせ、震える左手で。背負ったデルフリンガーを掴む。彼の手の甲の“ルーン”が光る。怒りと、身体の中から沸き起こる興奮が、彼の身体を熱くさせる。彼は、人指し指でリズムを取るように柄を叩いて、心を落ち着かせるのと同時に跳躍のタイミングを測る。とん、とん、とん……と鼓動が刻み続けているリズムに合わせるかのように。

 才人は目を見開いて、咆哮を上げて襲いかかって来る“オーク鬼”たちを見据えた。

 

 

  “オーク鬼”の1匹は、2人のヒトの子供と青年へと向かって棍棒を振り下ろす。

 グシャッと、手応えを感じる……はずであった。がしかし、棍棒が叩いたのは地面である。

 首を上げて辺りを伺としたのだが、視界がずれ下がる。

 首が動かないのである。慌てて頭を支えようとするのだが、そこにあったはずの頭がないことに、ようやく気が付いた。

 

 

 才人は棍棒が振り下ろされるよりも速く跳び上がり、眼の前の“オーク鬼”の首を斬り落とした。

 どう! と音を立て、首を失った“オーク鬼”だったモノは地面に崩れ落ちる。

 才人は着地した後、手近な“オーク鬼”に向かって再び跳躍した。そして。一瞬、なにが起こっているのかを理解できずに固まってしまっている1匹の“オーク鬼”の胴を薙ぎ払う。剣の勢いを利用して斬り上げ、止めを刺した。

 才人が、チラリと少しばかり離れた場所へと目を向けると、フレイムは炎を振り撒きなら1匹の“オーク鬼”と格闘しているのが見える。

 フレイムは、その力で“オーク鬼”を押さえ付け、頭に炎を吐き掛けた。

 

 

 俺も才人と同時に、“投影”した身の丈以上の大きさをした斧剣を無造作に構え振るう。

「――“射殺す百頭(ナインライブズ)”……」

 “ギリシャ神話”の大英雄“ヘラクレス”が“サーヴァント”として持つ対人用の絶技と言える“宝具”のその“真名解放”を行う。

 眼の前の彼ら“オーク鬼”にはとてももったいないモノかもしれないが、周囲に酷い被害を与えることなく彼らを一掃するにはちょうど良いだろうかと考えた結果である。いや、ハイスピードの対人用攻撃であるために、比較的マシだといえるだけであるのだが。

 機関銃以上の速度から繰り出される7回の剣戟は、同時とでも言えるほどのモノ。それらが総て重なり、周りにいる数匹の“オーク鬼”たちの躰をバラバラにする。皮膚を斬り裂き、内蔵を斬り裂き、骨を砕き、脳髄などをもまた粉砕する。

「ふむ、あっちの方が良かったか……」

 その後に出来た惨状を目に、俺は“光の御子”の“宝具”を思い浮かべながら呟いた。

 

 

 一瞬で10匹の味方が斃れされた“オーク鬼”たちは、警戒したのだろう俺と才人を少し離れた場所から取り囲む。

 才人は剣を構えたまま、そして俺もまた斧剣を手にしたまま、ジロリと“オーク鬼”たちを冷たい視線で見据える。

 ゾクッと、“オーク鬼”たちは、“ドラゴン”にでも睨まれたかのような錯覚を覚えた。本能が、「奴らは危険だ」と訴えかけて来ているのであろう。「自分たちでは勝てない」、そう教えているのである。

 “オーク鬼”たちは顔を見合わせる。

 が、「だが、どう見ても奴らはヒトだ。自分達が負けることなどありえない。さっきのは……なにかの間違いだ」といった風に、本能の訴えを、今までの経験と常識から押さえ込み、「ぶぎぃ! びぎぃ!」と咆哮を上げながら襲いかかろうとする。

 だがそれが、彼らのミスであり、命取りになった。

 彼らヒト2人自身の実力もあり、“メイジ”達からの“魔法”の援護も加わり、“オーク鬼”たちは1匹を除いてたったの1分で全滅に近い状態になってしまったのであった。

 

 

「こ、こいつ、しぶといぞ」

 才人が、慢心状態となりながらなおも立ち続ける“オーク鬼”に対して吐き捨てた。

 その“オーク鬼”は斃れた他の“オーク鬼”たちの誰よりも大きく、ガッシリとした身体付きをしている。手にしている金棒もまた、凶悪そうなモノだ。どうやら、彼がボスのような立場にいたのであろう。

 だが、満身創痍という表現は確かであり、今直ぐにでも倒れ伏しそうなほどである。身体中から血を流しているのが判るだろう。

 それでも、残った“オーク鬼”は大きく咆哮を上げる。

「ふむ。大した根性だ。だが、もう疲れたであろう。そろそろ休むと良い……」

 俺はそう言って、斧剣を大きく振りかざし、大きな“オーク鬼”の首を跳ね飛ばした。

 

 

 バッサバッサと、タバサの“使い魔”であるシルフィードが地面に降り立つ。

 彼女が傷付いてしまうと、徒歩で帰る必要に迫られるだろうといった理由で、戦闘には参加させない取り決めになっていたのである。

 木から降りて来たキュルケは、取り敢えずギーシュを小突いた。

「あいたぁ! なにをするんだね!?」

「あんたの所為で、危ないところだったじゃないの!」

 ヴェルダンデが掘った落とし穴がある場所まで誘い込み、穴に落として中に用意した油を引火させ、一斉に燃やし尽くす作戦だったのだが……。

「そんな調子良く、穴に落ちてくれるもんかね? 戦は先手必勝。僕はそれを実践しただけだ」

 ギーシュはブツブツと文句を言った。

「あんたのモグラが掘ったんでしょ! 穴を信じなさいよ!」

「まあまあ、結果オーライで良いじゃん」

 才人がフォローを入れる。

 そんな感じに反省会をしていると、物陰で震えていたシエスタが駆け寄って来て、感極まったように才人へと抱き着いた。

「すごい! すごいです! あの凶暴な“オーク鬼”たちを一瞬で! サイトさん、セイヴァーさん、すごいですっ!」

 シエスタはそれから恐々と、“オーク鬼”の死骸を見つめた。

「しっかし、あんなのがいるんじゃ、おちおち森に茸採りにも行けねえな」

 才人は、デルフリンガーにこびり付いた“オーク鬼”たちの血と油を、むしった木葉で拭った。

 やはりまだ戦い――殺し合いには慣れていないのであろう、彼の手が震えているのがわかる。いや、慣れてしまうのは駄目なのだが。殺した相手は生き物である。戦いなどとサラッと言いはするが、要は生き物と生き物の殺し合い。勝利したところで、気分が良いモノではないのは当然のことである。“伝説の使い魔”である“ガンダールヴ” であるとはいえ、生身の身体だ。足を滑らせて棍棒の一撃を受けでもしたら……あそこに転がっていたのは彼自身だったかもしれないのである。

 シエスタが、才人の手が震えていることに気付き、ソッと握った。

 彼は微笑んで首肯いた。

「すごいけど……やっぱり、危ないことは、良くないですね」

 シエスタは呟いた。

 一方、キュルケはケロッとした様子を見せており、地図を眺めながら口を開いた。

「えっとね、この寺院の中には、祭壇があって……その祭壇の下にはチェストが隠されているらしいの」

「そしてその中に……」

 ギーシュがゴクリと唾を呑み込む。

「ここの司祭が、寺院を放棄して逃げ出す時に隠した、金銀財宝と伝説の秘宝“プリーシンガメル”があるって話よ?」

 キュルケは、得意げに髪を掻き上げて言った。

「えっとね、黄金で出来た首飾りみたいね。“炎の黄金”で造られているらしいの! 聞くだけでわくわくする名前ね! それを身に着けた者は、あらゆる災厄から身を守護ることが……」

 

 

 

 

 

 その夜……一行は寺院の中庭で、焚き火をして取り囲んでいた。

 俺を除いた皆、誰も彼もが疲れ切った様子を見せている。

 ギーシュが恨めしそうに言った。

「で、その秘宝とやらがこれかね?」

 ギーシュが指さしたのは、色褪せた装飾品と、汚れた銅貨が数枚であった。祭壇の下は、なるほど確かにチェストはあった。がしかし、中から出て来たのは、持ち帰る気にもならないガラクタばかりであったのだ。

「この真鍮でできた、安物のネックレスや耳飾りが、まさかその“プリーシンガメル”と言う訳じゃあるまいね?」

 キュルケは答えない。ただ、つまらなさそうに爪の手入れをしているだけである。

 タバサは相変わらず本を読んでいる。

 才人は寝転がって月を眺めている。

 ギーシュは喚いた。

「なあキュルケ、これで7件目だ! 地図を当てにお宝が眠るという場所に苦労して行ってみても、見付かるのは金貨どころかせいぜい銅貨が数枚! 地図の注釈に書かれた秘宝なんか欠片もないじゃないか! インチキ地図ばっかりじゃないか!」

「うるさいわね。だから言ったじゃない。中には本物があるかもしれないって」

「いくらなんでも酷過ぎる! 廃墟や洞窟は化け物や猛獣の住処になってるし! 苦労してそいつ等をやっつけて、得られた報酬がこれじゃあ、割に合わんことはなはだしい」

 ギーシュは薔薇の造花を咥えて、敷いた毛布の上に転がった。

「そりゃそうよ。化け物を退治したくらいで、ほいほいお宝が入ったら、誰も苦労しないわ」

 険悪な雰囲気が漂い始める。

 が、そこでシエスタの明るい声が、その雰囲気を払ってみせた。

「皆さーん! お食事ができましたよー!」

 シエスタは、焚き火に焼べた鍋からシチューを装って、銘々に配り始める。

 好い匂いが鼻を刺激する。

「こりゃ美味そうだ! と思ったらホントに美味いじゃないかね! いったいなんの肉だい?」

 ギーシュがシチューを頬張りながら呟いた。

 皆も、口にシチューを運んで、「美味い!」と騒ぎ始め、シエスタは微笑んで言った。

「“オーク鬼”の肉ですわ」

 ブホッとギーシュがシチューを吐き出し、俺を除いた皆が唖然としてシエスタを見つめた。

「ふむ。ゲテモノほど美味いとは言うが、これは、また……」

 俺が意地の悪い笑みを浮かべながらそう言いったのに対し、シエスタは苦笑を浮かべて、「じょ、冗談です! ホントは野兎です! 罠を仕かけて捕まえたんです。皆さんが宝探しに夢中になっている間に、兎やシャコを罠で捕まえ、ハーブや山菜を集め、シチューを作ったんです」と説明をした。

 皆、ホッとした口調で、キュルケが言った。

「シエスタもセイヴァーも、驚かせないでよね。にしても、貴女器用ね、こうやって森にあるモノで、美味しいモノを作っちゃうんだから」

「田舎育ちですから」

 シエスタははにかんで言った。

「これはなんて言うシチューなの? ハーブの使い方が独特ね。あと、なんだか見たこともない野菜がたくさん入ってるわ」

 キュルケは、フォークで食べ慣れない野菜を突き回しながら言った。

「わたしの村に伝わるシチューで、“ヨシェナヴェ”って言うんです」

 シエスタは、鍋を掻き混ぜながら、説明した。

「父から作り方を教わったんです。食べられる山菜や、木の根っこや……父は、曽祖父(ひいおじい)ちゃんから教わったそうです、今ではわたしの村の名物です」

 美味しい食事のおかげで、座はなごんだ。

 “学院”を出発してから、10日ばかりが過ぎている。

 今頃、シオンはルイズと共に行動をしており、彼女を慰め支えているだろう。いや、もしかすると、ルイズは既に立ち直っているかもしれない。などと、俺は既に識りながらもそう思ってみた。

「サイトさん、セイヴァーさん、美味しい?」

 隣では、シエスタが才人と俺へと微笑みを見せて来てくれている。

 才人は、シチューを頬張りながら、笑みを作った。

 俺もまた、才人と同じように笑みを浮かべ、答えた。

「ああ、とても美味しい。懐かしい味がするよ」

「にしても、セイヴァーはすごいよな。剣を生み出したり、それを自在に使うんだから」

 才人は思い出したように、俺へと話しかける。どうやら、今日の戦闘やこの前を始めとしたそれらについて思うところがあるのだろう。

「確かにそうだね。君も、どこかで剣を習ったりしたのかい? いや、だが、我々以上に“魔法”も使えるし……」

 そこで、ギーシュもまた話に乗っかかり、俺へと質問を投げかけて来る。

 キュルケとシエスタも、そしてタバサも本を読むのを中断して、俺へと視線を向けて来ている。

「そうだな。俺は少しばかり、ズルをしているからな……この話は、また今度だ」

 

 食事の後、キュルケは再び地図を広げた。

「もう諦めて“学院”に帰ろう」

 ギーシュがそう促すのだが、キュルケは首を縦に振らない。

「あと1件だけ。1件だけよ」

 キュルケは、なにかに取り憑かれでもしたかのように、目を輝かせて地図を覗き込んでいる。そして、1枚の地図を選んで、地面に叩き付けた。

「これ! これよ! これで駄目だったら“学院”に帰ろうじゃないの!」

「なんと言うお宝だね?」

 キュルケは、腕を組んで呟いた。

「“竜の羽衣”」

 皆が食事を終えた後、シチューを食べていたシエスタが驚きからだろう、ブホッ、吐き出した。

「そ、それホントですか?」

「なによ貴女、知ってるの? 場所は、“タルブの村”の近くね。“タルブ”ってどこら辺なの?」

 キュルケがそう尋ねると、シエスタは焦った声で呟いた。

「“ラ・ロシェール”の向こうです。広い草原があって……わたしの故郷なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺達はシルフィードの上で、シエスタの説明を受けていた。

 シエスタの説明は、余り要領を得るモノではなかったが、とにかく、村の近くに寺院があること。そこの寺院に“竜の羽衣”と呼ばれるモノが存在しているということを、4人と1匹は聴いていた。

 もちろん俺は原作知識として、そして“千里眼”などを用いたこともあって既に知っており、彼女の話を復習がてらに聞いていた。

「どうして、“竜の羽衣”って呼ばれてるの?」

「それを纏った者は、空を飛べるそうです」

 シエスタは、言い難そうに言った。

「空? “風系統”の“マジックアイテム”かしら?」

「そんな……大したモノじゃありません」

 シエスタは、困ったように呟いた。

「どうして?」

「インチキなんです。どこにでもある、名ばかりの秘宝。ただ、地元の皆はそれでもありがたがって……寺院に飾ってあるし、拝んでるお婆ちゃんとかいますけど」

「へぇええ」

 それからシエスタは、恥ずかしそうな口調で言った。

「実は……それの持ち主、わたしの曽祖父(ひいおじい)ちゃんだったんです。ある日、フラリとわたしの村に、曽祖父(ひいおじいちゃん)は現れたそうです。そして、その“竜の羽衣”で、東の地から、わたしの村にやって来たって、皆に言ったそうです」

「凄いじゃないの」

「でも、誰も信じなかったんです。曽祖父(ひいおじい)ちゃんは、頭が可怪しかったんだって、皆言ってます」

「どうして?」

「誰かが言ったんです。 “じゃあその竜の羽衣で飛んでみろ”と。でも、曽祖父(ひいおじい)ちゃん、飛べなくって、なんか色々言い訳したらしいですけど、皆が信じる訳もなくて。おまけに“もう飛べない”と言ってわたしの村に住み着いちゃって。一生懸命働いてお金を稼いで、そのお金で“貴族”にお願いして、“竜の羽衣”に“固定化”の“呪文”までかけてもらって、大事に大事にしてました」

「変わり者だったのね。さぞかし家族は苦労したでしょうね」

「いや、“竜の羽衣”の件以外では、働き者の良い人だったんで、皆に好かれたそうです」

 才人が「それって要は村の名物なんだろ? さっきの“ヨシェナヴェ”みたいな。そんなの、持って来たら駄目じゃん」と言うと、「でも……わたしの家の私物みたいなモノだし……サイトさんとセイヴァーさんがもし、欲しいって言うなら、父にかけあってみます」とシエスタは悩んだ声で呟いた。

「まあ、インチキならインチキなりの売り方があるわよね。世の中に馬鹿と好事家は吐いて捨てるほどいるのよ」

 キュルケが打ち出した解決策の言葉に、ギーシュが呆れた声で言った。

「君は非道い女だな」

「ところで、セイヴァー。なんでニヤついてるんだよ?」

「いやなに、別に大したことじゃないさ。まあ、行けば理解る、行けばな」

 と、俺は、俺の笑みに対して不思議そうにしている才人へと答える。そんな俺を、他の皆もまた同様に首を傾げた。

 俺たちを乗せて、シルフィードは一路“タルブの村”へと羽撃いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて一方、ここは“魔法学院”。

 ルイズは授業を休み、ベッドの中に閉じこもり、食堂に食事に行く時と、入浴の時だけ部屋を出るだけの日々を繰り返していた。

 救いといえば、シオンが頻繁に顔を見せに、部屋へと訪れることくらいだろか。

 ルイズは、“ヴェストリの広場”に才人がテントを張って生活していることは知っていたので、先日様子を見に行ったのだが、そこは既にもぬけの殻であった。

 ルイズが通り過がったモンモランシーに尋ねると、彼女は「才人とギーシュ、キュルケとタバサは授業をサボり、セイヴァーとシルフィード、メイドと共に宝探しに出かけた」と言う。先生たちはカンカンで、帰って来たら彼等は講堂の全掃除を命じられるだろう。

 ルイズは、自分だけが仲間外れにされたように感じ、悲しみと寂しさを覚えた。

 そして今日もまた、ルイズは、空っぽの藁束を見ては、ベッドの中で泣いていたのである。シオンの側で泣いている。

 部屋がノックされた。

 ルイズが「開いてますよ」と言ったら、ガチャリと扉が開いた。ルイズは驚いた。

 現れたのが、学院長のオスマンであったためである。

 ルイズは慌ててガウンを纏うと、シオンと一緒にベッドから下りた。

「身体の具合はどうじゃね?」

 ルイズは気不味そうに、呟いた。

「ご、ご心配をおかけしてすいません。でも、大したことはありません、ちょっと、気分が優れないだけで……」

 オスマンは椅子を引き出すと、腰掛けた。

「随分長く休んでいると、聞いたモノでな。ちと心配になったが、顔色は悪くなさそうじゃの」

 ルイズは「ええ」と首肯いて椅子に腰かけ、シオンもまた残ったもう1つの椅子へと腰かける。

「詔はできたかの?」

 ハッとして、ルイズは俯いた。それから、申し訳なさそうに首を横に振った。

「その顔を見ると、まだのようじゃの」

「申し訳ありません」

「まだ式までは、2週間ほどある。ユックリ考えるが良い。そなたの大事な友達の式じゃ。念入りに、言葉を選び、祝福して上げなさい」

 ルイズは首肯いた。そして、自分のことばかりを考えて、詔を考えることを忘れていたことを恥じる。

 オスマンは立ち上がった。

「ところで、“使い魔”の少年たちはどうしたね?」

 ルイズは長い睫毛を伏せて、黙ってしまった。

 オスマンは、微笑を浮かべる。

「喧嘩でもしたんじゃろう?」

 キュッとルイズは唇を噛んだ。

「若い時分は、些細なことで喧嘩になるモノじゃ。歩み寄ることを若者はそうそう知りはしないからな。時として、その亀裂は修復ができないほどに開いてしまう。せいぜいそうならないように、気を遣うのじゃな」

 そう笑うと、オスマンは去って行った。

 ドアが閉まった後、ルイズは呟いた。

「些細なことじゃないもん」

 シオンはそれに、苦笑を浮かべる。

 それからルイズは、机に向かった。ここしばらく放って置いた、“始祖の祈祷書”を開く。

「それが“始祖の祈祷書”?」

「ええ、そうよ」

 シオン質問に答えた後、ルイズは雑念を払うために目を閉じた。詔を考えるために、精神を集中させた。

 しばらくして、ルイズは目を開いた。すると、彼女の視界がボヤけ、そして白紙のはずのそのページに一瞬ではあったが、彼女の目に文字のようなモノが映り、ん? とルイズは目を凝らす。

「どうしたの?」

 しかし次の瞬間、それは霞のようにページの上から消えていた。

 ルイズは、(今のはなにかしら?)と思って、ページを見つめる。がしかし、もう、そこにはなにも見えない。

「なんでも、ないわ……気の所為、よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 才人たちは目を丸くして、件の“竜の羽衣”を見つめている。特に、才人が驚いている様子である。

 ここは、シエスタの故郷である“タルブの村”。その近くに建てられた寺院である。そこで、この“竜の羽衣”は安置されているのだ。と言うよりも、“竜の羽衣”を包み込むといった風に、寺院が建てられていると表現した方が良いだろうか。

 シエスタの曽祖父が建てさせたというその寺院の形は、才人と俺に懐かしさを覚えさせるモノであった。寺院は、草原の片隅に建てられている。丸木が組み合わされた門の形、石の代わりに板と漆喰で造られた壁。木の柱……白い紙と、縄で造られた紐飾り……そして、板敷きの床の上に、くすんだ濃緑の塗装が施された“竜の羽衣”と呼ばれるモノが鎮座しているのである。

 “固定化”のおかげだろう……どこにも錆は浮いていない。造られたそのままの姿であるといえる状態を、“竜の羽衣”は見せている。

 キュルケやギーシュは、気のなさそうにその“竜の羽衣”を見つめている。好奇心を刺激されたのだろうか、珍しくタバサは興味深そうに見つめていた。

 俺はそれを目にした瞬間思わず、いや、やはりどうしても小さく笑みを浮かべてしまった。

 才人があまりにも、呆けたように“竜の羽衣”を見ていることもあって、シエスタは心配そうに言った。

「サイトさん、どうしたんですか? わたし、なにか不味いモノを見せてしまったんじゃ……」

 才人は答えない。ただ、感動した様子を見せながら、彼はただ“竜の羽衣”を見つめるばかりである。

「まったく、こんなモノが飛ぶ訳ないじゃないの」

 キュルケがそう言い、ギーシュも同意し首肯いた。

「これはカヌーかなにかだろう? それに鳥のおもちゃのように、こんな翼をくっ付けたインチキさ。だいたい見ろ、この翼を。どう見たって羽撃けるようにはできていない。この大きさ、小型の“ドラゴン”ほどもあるじゃないか。“ドラゴン”だって、“ワイバーン”だって、羽撃くからこそ空に浮かぶことができるんだ。なにが“竜の羽衣”だ」

 ギーシュは“竜の羽衣”を指さして、もっともらしく首肯いた。

「サイトさん、ホントに……大丈夫?」

 心配そうに才人の顔を覗き込むシエスタの肩を掴んで、才人は熱っぽい口調で言った。

「シエスタ」

「は、はい?」

 シエスタは頬を染めて、才人の目を見つめ返す。

「お前の曽祖父(ひいおじい)ちゃんが遺したモノは、他にないのか?」

「えっと……後は大したモノは……お墓と、遺品が少しですけど」

「それを見せてくれ」

 

 

 

 シエスタの曽祖父のお墓は、村の共同墓地の一画にあった。

 白い石で出来た、幅広の墓石の中、1個だけ違う形の墓がある。黒い石で造られたその墓は、他の墓石と趣を異にしている。

 その墓石には、墓碑銘が刻まれていた。

曽祖父(ひいおじい)ちゃんが、死ぬ前に自分で造った墓石だそうです。異国の文字で書いてあるので、誰も銘が読めなくって。なんて書いてあるんでしょうね?」

 シエスタが呟いた。

 そして、才人はその字を読み上げる。

「……“海軍少尉佐々木武雄、異界ニ眠ル”」

「はい?」

 スラスラと才人が読み上げたので、シエスタは目を丸くした。

 才人はシエスタを見詰めた。

 シエスタは熱っぽく見つめられたこともあり、またまた頬を染めた。

「い、いやですわ……そんな目で見られたら……」

 黒い髪、黒い瞳……懐かしい雰囲気……才人がそう感じた理由がそこにはあり、彼はそれに気付いたのである。

「なあシエスタ、その髪と目、曽祖父(ひいおじい)ちゃん似だって言われただろ?」

「は、はい! どうしてそれを?」

 才人の質問に、シエスタは驚いた声を上げた。

 

 

 再び才人が寺院に戻って来る。

 才人は“竜の羽衣”に触れて見た。すると左手の甲の“ルーン”が光出す。「これもまた“武器”なのだ」、と主張をしているように。

 中の構造、操縦法、装備などなど、才人の頭の中に鮮明なシステムとして流れ込んで来る。そして、才人は、(俺は、これを飛ばせるんだ)と確信した。

 才人は燃料タンクを探し当て、そこのコックを開いて見た。空っぽだったのだが、才人は予想していたのだろうそれほど落ち込んだ様子は見せない。

 どれだけ原型を留めていても、ガス欠では飛ばすことはできない。だからこそ、シエスタの曽祖父は「もう飛べない」と言ったのである。

 才人は、(シエスタの曽祖父(ひいおじい)ちゃんは、どうやってこの“ハルケギニア”に迷い込んでしまったんだ?)と考えた。その手がかりを求めて、頭を悩ませる。

 そこに生家に帰っていたシエスタが戻って来た。

「ふわ、予定より、2週間も早く帰って来てしまったから、皆に驚かれました」

 シエスタは急々と手に持った品物を、才人に手渡した。

 それは、海軍少尉だったシエスタの曽祖父が使用していただろう古ぼけたゴーグルであった。

曽祖父(ひいおじい)ちゃんの形見、これだけでそうです。日記も、なにも残さなかったみたいで、ただ父が言ってたんですけど、遺言を遣したそうです」

「遺言?」

「そうです。なんでも、“あの墓石の銘を読める者が現れたら、その者に“竜の羽衣”を渡すように”って」

「となると、俺とセイヴァーにはその権利があるって訳か」

「そうですね。そのことを話したら、お渡ししても良いって言ってました。管理も面倒だし……大きいし、拝んでる人もいますけど、今じゃ村のお荷物だそうです」

 シエスタの言葉を聞いて、俺は才人に言った。

「君が貰いたまえ。俺には必要のないモノだ」

「じゃあ、ありがたく貰っておくよ。セイヴァー」

 俺のその言葉に、才人は首肯いた。

「それで、その人物にこう告げて欲しいと言ったそうです」

「なんて言ったの?」

「“なんとしてでもこのぜろしきかんじょうせんとうきを陛下にお返しして欲しい”、だそうです。陛下ってどこの陛下でしょう? 曽祖父(ひいおじい)ちゃんは、どこの国の人だったんでしょうね?」

 シエスタの言葉に、才人は呟き、答えた。

「俺たちと同じ国だよ」

「ホントですか? なるほど、だからお墓の文字が読めたんですね。うわぁ、なんか感激です。わたしの曽祖父(ひいおじい)ちゃんと、サイトさんとセイヴァーさんが同じ国の人だなんて。なんだか、“運命”を感じます」

 シエスタはうっとりとした顔で、才人にそう言った。

「じゃあ、ホントに曽祖父(ひいおじい)ちゃんは、“竜の羽衣”で“タルブ”の村へやって来たんですね……」

「これは“竜の羽衣”って名前じゃないよ」

「じゃあ、サイトさん達の国では、なんて言うんですか?」

 “竜の羽衣”と呼ばれるモノのその姿を見詰めながら、才人は幼い頃にプラモデルで作ったモノを思い出した。

 才人は、“竜の羽衣”の翼と胴体に描かれた、赤い丸の国旗標識を見つめた。

 元は白い縁取りがなされていたらしいが、その部分が機体の塗料と同じ、濃翠に塗り潰されているのがわかる。そして、黒い艶消しのカウリングに白抜きで書かれた辰の文字。部隊のパーソナルマークだろう。

 “地球”のモノだということもあって、かなりの懐かしさを才人と俺は覚えてしまう。

 60年以上も前の戦闘兵器。物言わぬ機械。天翔ける翼……“竜の羽衣”。

 才人は言った。

「“ゼロ戦”。俺たちの国の、昔の“戦闘機”」

「ぜろせん?」

「詰まり“、飛行機”だよ」

「こないだ、才人さんが言っていた、ひこうき?」

 才人は首肯いた。

「“零式艦上戦闘機”。斯の“三菱”と言う会社、集団が造った戦闘用の飛行機械だ。制式採用された1,940年は“皇紀”2,600年に当たり、その下2桁が00であることから、名付けられたらしい」

「す、すげえ……良く知ってるな、セイヴァー」

「なに、ただの雑学……間違った知識かもしれないがな」

 

 

 

 

 

 その日、俺たちはシエスタの生家に泊まらさせてもらうことになった。

 “貴族”の客をお泊めするということもあり、村長までもが挨拶に来る騒ぎになったのであった。

 才人はシエスタの家族に紹介されていた。彼女の父母に兄弟姉妹たち。シエスタは、8人姉弟の長女だったのである。

 父母は、怪訝な顔で才人を見たのだが、「わたしが奉公先でお世話になっている人よ」とシエスタが紹介すると、直ぐに相好を崩し、いつまでも滞在してくれるようにと言っていた。

 久し振りに家族に囲まれたということもあり、シエスタはとても幸せそうで、楽しそうに見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、才人は村の側に広がる草原を見詰めていた。

 夕日が草原の向こうの山の間に沈んで行く。辺りは本当にただっ広い草原だ。シエスタが言っていた通り、所々には花が咲いているのが見える。とても綺麗な草原だ。

 “ゼロ戦”に乗っていたパイロットは……おそらく帰える方法を探して空を飛ぶんでいたのであろう。だが、途中で燃料が尽きてしまった。それでもって、この草原に着陸した。といった具合だろう。

 ここは、広くて平らで、着陸がしやすそうである。

 草原を見つめ、遠くの故郷へと想いを馳せている才人の元へ、シエスタがやって来た。

 シエスタは、普段のメイド服とは違い、茶色のスカートに、木の靴、そして草色の木綿のシャツを着用している。広がる草原のような、陽の香のする格好だ。

「ここにいたんですか。お食事の用意ができましたよ。父が、“ぜひご一緒に”って」

 シエスタは、恥ずかしそうに言った。

「遊びに来てくださいって言ってたら、ホントに来ることになっちゃいましたね」

 眼の前に広がる草原に向かって突き出すように、シエスタは両手を広げた。

 沈む夕日が、辺りを幻想的に染め上げている。

「この草原、とっても綺麗でしょう? これをサイトさん達に見せたかった、見てもらいたかったんです」

「うん」

 それからシエスタは、俯いて、手の指を弄りながら言った。

「父が言ってました。“曽祖父(ひいおじい)ちゃんと、同じ国の人と出逢ったのもなにかの運命だろう”って。“良ければ、この村に住んでくれないか”って。“そしたら、わたしも……その、ご奉公を辞めて、一緒に帰ってくれば良い”って」

 才人は答えない。ただ、空の向こうをジッと見つめているのみである。

 ジッと空を見て答えない、そんな才人を見て、シエスタは微笑んだ。

「でも、良いです、やっぱり、無理みたいね。サイトさん、まるで鳥の羽みたい、きっと、どこかに飛んで行ってしまうんだわ」

 才人はシエスタにほんとのことを話そうと決心する。

「東から、飛んで来たって、曽祖父(ひいおじい)ちゃん言ってたんだよな?」

「え? そ、そうですけど……」

 シエスタは心配そうな表情を浮かべる。

「シエスタの曽祖父(ひいおじい)ちゃんも、俺も、セイヴァーも、この世界の生まれじゃないんだ」

「東の、“ロバ・アル・カリイエ”の方から、入らしたんですよね」

「そうじゃない。ホントは、もっと遠くなんだ」

 才人は真面目な声で言った。

「ここじゃない、違う世界だ。俺は、そこの世界の人間なんだよ」

「からかってるのね。嫌なら……わたしが嫌いなら、そうハッキリ言えば良いのに」

 シエスタは口を尖らせた。

「そうじゃない、からかってなんかいない」

「そこに待たせている人でもいるの?」

「いない。でも、家族が待っている。俺は、いずれそこに帰らなくちゃいけない人間だ」

 才人は、シエスタに向き直った。そして、言い難そうに言った。

「だから、シエスタの言う通りには、できないんだ」

 才人の顔はどこまでも真面目であった。

 冗談を言っている訳ではないんだと、シエスタは悟る。

「ここにいる間、俺の力で誰かを守ることはできる。でも、それだけだ。誰かと過ごす資格は俺にはない。きっとない」

「でも、曽祖父(ひいおじい)ちゃんは……そうしたんでしょう?」

 才人は左手の“ルーン”を見つめて言った。

曽祖父(ひいおじい)ちゃんには、“ガンダールヴ”の力はなかった。俺にはある。いままで、色んな敵がいたけど、こいつの力がそいつらを破ってくれた。だからきっと、この力が導いてくれるような、そんな気がする」

「じゃ、じゃあ、待ってても良いですか? わたしはただの、なんの取り柄もない女の子だけど、待つことくらいはできる。もし、サイトさんが頑張って、帰る方法とやらを探して……それでも見付からなかったら……」

 それから、シエスタは黙ってしまった。

 才人は、(もし、そうなったら、どうなるんだろう?)と考えた。そして、(先のわからない約束はできない)とも思った。

 気を取り直すように、シエスタは微笑んだ。

「さっき、伝書フクロウが“学院”から届いたんです。サボりまくったモノだから、先生方はカンカンだそうですよ? ミス・ツェルプストーや、ミスタ・グラモンは、顔を真っ青にしてました。あと、わたしのことも書いてありました。“学院には戻らず、そのまま休暇を取って良いです”って。そろそろ、姫さまの結婚式ですから。だから、休暇が終わるまで、わたしはここにいます」

 才人は首肯いた。

「あの……“竜の羽衣”、飛ばせるんですか?」

「わからない。でも、相談できそうな人物がいるんだ。セイヴァーやその人に相談してみるよ。あれが飛ぶようになったら、東の地に行ってみたい。シエスタの曽祖父(ひいおじい)ちゃんは、そこから飛んで来たんだろう? なにかヒントがあるかもしれない」

 才人は、草原の向こうに沈もうとする夕日を見詰めながら言った。

「そうですか、飛んだら、素敵だな。ねえ、あの“竜の羽衣”……ゼロセンでしたっけ? それが飛んだら、1度で良いからわたしも乗せてくださいね」

 才人は首肯いた。

「そ、そんなの、何度だって乗せるよ、あれは、シエスタの家族のモノなんだから」

 

 

 

 

 

 夕食後、そして夜に俺は静かにシエスタのヒッソリと出る。

 そして、俺は、“メソポタミア神話”や“シュメール神話” 、“バビロニア神話”などで有名かつ偉大な“英雄”の中の“英雄”――“英雄王”である“ギルガメッシュ”が持つ“宝具”の1つである “王律鍵バヴ=イル”を“投影”する。

 “王律鍵バヴ=イル”は鍵の形をした剣のようなモノであり、その刀身部分である鍵としての金型は絶え間なく変化している。故に、宝物庫の鍵を開くためには、絶え間なく変化し続ける“王律鍵バヴ=イル”の金型と増え続ける宝物庫の中身、それらを読み解く智慧が必要になってくる。

 俺は、自身の“スキル”と“宝具”を振るい、的確にそれを使用する。“根源”、そして“英霊の座”へと限定的ながらもアクセスし、“バビロニアの宝物庫”へと空間を繋げる。そしてそこから酒と金色の杯を取り出し、それをチビチビと呑む。

 神代でも、それを巡って争いが起きたほどの代物であり、その酒はとても旨いと感じられる。生前――前世では、酒など全く手を付ける気分にはなれなかったのだが、なぜか今はそういう気分なのである。

「家族、か……」

 ここは“タルブの村”であり、シエスタの故郷でもある。そして、ここには彼女の家族がいる。

 少し前には、“アルビオン”へと向かい、シオンの家族とも逢った。

 それが原因だろうか、生前――前世での家族のことを想い出してしまうのである。

 いわゆるホームシックにでもなってしまっているのだろうかなどと、自嘲しながら、月を仰ぎ、酒を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、才人たちは“ゼロ戦”を、ロープで作った巨大な網に載せた。

 ギーシュの父のコネで、“竜騎士隊”と“ドラゴン”を借り受け、それで“学院”まで“ゼロ戦”を運ぶことになったのである。

 ギーシュ達は、「どうしてこんなモノを運ぶんだ?」と怪訝な表情を浮かべているが、才人が「どうしても」、と頼んだこともあり、彼ら2人は仕方なくといった風に折れたのである。

 “竜騎士隊”を呼んだり、大きな網を作ったりしたこともあって、運送代は馬鹿みたいにかかった。

 才人はもちろんそんなモノを払うことができない為に非常に困ってしまっていた。

 が、“学院”の中庭にでんっ! と現れた“ゼロ戦”を見て、快く運送代を立て替えた人物が1人いた。

 ミスタ・コルベールである。

 

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