ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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出撃

 年末は“ウィン(12)”の月の第1週、“マン”の曜日は“ハルケギニア”の歴史に残る日の1つ――1ページとなった。

 空にかかる2つの月が重なる日頃の翌日であり、“アルビオン”が最も“ハルケギニア大陸”へと近付くこの日、“トリステイン”と“ゲルマニア”の連合軍6,0000を乗せた大艦隊が、“アルビオン”侵攻のため、“ラ・ロシェール”を出航する運びとなったからである。

 “トリステイン”、“ゲルマニア”大小合わせて、参加隻数は500を数えた。その内の60が戦列艦で在り、残りは兵や補給物資を運ぶガレオン船である。

 女王アンリエッタと枢機卿マザリーニは“ラ・ロシェール”の港、“世界樹(イグドラシル)”の頂点に立ち、出航する艦隊を見送った。

 催合を解かれた“フネ”達が一斉に空へと浮かび上がる様は、正に壮観といえるだろう。

「まるで、種子が風に吹かれて一斉に舞うようですな」

 枢機卿であるマザリーニが、出航を開始した艦隊を前に感想を漏らす。

「大陸を塗り替える種子です」

「“白の国”を、青に塗り替える種ですな」

 “トリステイン”の“王家”の旗は、青地に白の百合模様である。対して、“アルビオン”本来の“王家”の旗は、縦長の赤地に3匹の“竜”が並んで横たわるという意匠がなされたモノだ。

 マザリーニの言葉に、アンリエッタは首を横に振った。

「いいえ。青でも2本の杖でもありません。国旗はそのままです」

「負けられませんな」

 マザリーニが、アンリエッタの言葉の意味を理解し、呟く。

「負けるつもりはありませぬ」

「ド・ボワチェ将軍は大胆と慎重を兼ね備えた名将です。彼ならやってくれるでしょう」

 アンリエッタは彼が、名将と呼ぶにはほど遠い存在であるという事を理解していた。しかし、“王軍”には人材がいないといえる状況かつ状態だ。彼より優れた将軍は、歴史の向こうにしか存在しないだろう。

「するべき戦でしたかな?」

 小さな声で、マザリーニが呟く。

何故(なにゆえ)にそのような事を?」

「“アルビオン”を空から封鎖する手もありました。慎重を期せば、そちらが正攻と想えます」

「泥沼になりますわ」

 表情を変えることなく、アンリエッタは呟き返した。

「そうですな。白黒を着ける勇気も必要ですな。私は歳を取ったのかもしれませぬ」

 マザリーニは白くなった髭を撫で、言葉を続ける。

「此度の戦、“虚無”と“英霊”を得てなお、負けたらなんとします? 陛下」

 機密に関する事柄を、マザリーニはサラッと言ってのけた。

 ルイズの“虚無”、才人の“ガンダールヴ”、“聖杯戦争”と“サーヴァント”。それらを知る者は少ないのだ。“虚無”については“トリステイン”において、アンリエッタ、マザリーニ、“王軍”の将軍が数名。そして、“聖杯戦争”関係でいえば、更に少なく、アンリエッタとマザリーニ、そして大后であるマリアンヌくらいだろう。

「この身を灼くことで罪が赦されるなら……喜んで贖罪の劫火に身を委ねましょう」

 ジッと空を見つめ、アンリエッタはソッと呟いた。

「御安心を。陛下御独りを行かせはしませぬ。その際にはこの老骨も御伴するとしましょう」

 アンリエッタは将軍に託した切り札……“虚無”と“サーヴァント”の事を想う。

 ルイズの“虚無”を聞かされたド・ボワチェ将軍は、初めはもちろん信用するはずもなかった。無理もないことである。この時代に於いて、伝説といえる存在であり、文献や言い伝えなど程度でしか遺されていないのだから。

 しかし、“タルブ”での戦果を語るに至り、将軍はやっとの事で信用をした。

 “伝説の系統”――“虚無”を得て、勇気百倍にでもなったらしい彼はアンリエッタに勝利を約束した。

 アンリエッタはそんな彼に、初戦で優位を勝ち取るべく、積極的に“虚無”の使用を命じたのである。

 自分の罪深さに、アンリエッタは溜息を吐いた。

 この戦は……国や民のモノではない。

 私怨を晴らす、そして友の為だけに他ならないのだ。友人の兄であり、アンリエッタ自身の恋人の仇を打つ為だけの戦だ。

 そのため、彼女は何人の人間を死地へ追いやろうとしているのだろか。そこには、自分が親友と呼ぶ幼馴染、そしてその恋人の妹もまた含まれるのだ。

 アンリエッタは、(この戦、勝っても負けても、己の罪が消えるという事はないわ)、(それを知りながら、愛国を謳って軍を見送る私は地獄に堕ちるわね)、と想った。

 唇の橋に血が滲むほどに噛み締めた後、アンリエッタは大声で叫んだ。

ヴィヴラ・トリステイン(トリステイン万歳)!」

 女王の万歳の声が、空に響く。

 艦の上甲板に並び、見送るアンリエッタに敬礼していた将兵たちが、アンリエッタに続いて万歳を唱える。

ヴィヴラ・トリステイン(トリステイン万歳)!  ヴィヴラ・トリステイン(トリステイン万歳)!」

 其の唱和は60,000の将兵の唱和となり、空を圧した。

ヴィヴラ・トリステイン(トリステイン万歳)!  ヴィヴラ・アンリエッタ!」

 胸に突き刺さるような万歳の連呼が、アンリエッタの罪の意識を深めて行った………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、“魔法学院”。

 己の“炎”を平和的に利用する為に、コルベールが辿り着いたのは“動力”であった。熱の力を……何かを動かす力に変換させる蒸気を利用する機関を何個が造り上げたのだが、満足することはできなかったコルベールにとって、この“ゼロ戦”に搭載されている“エンジン”はまさに彼が求める動力のスタート地点を具現化した姿であった。惜しむべくは、この“エンジン”は戦争の為に造られたとういところだろうか。

 このコルベールは、この“エンジン”の解析に力を注いでいた。

 これに近しいモノを組み上げたいが為に試行錯誤を繰り返したのだが……“エンジン”に匹敵するだけの精度を持つ内燃機関を組み上げる事は、今の彼自身では不可能である事を悟った。

 先ず、ここ“ハルケギニア”では冶金技術が低いのだ。“エンジン”を構成するような鉄を製鉄できないのである。“スクウェア・クラス”の“錬金”を唱えてなお、このような高度な製鉄は難しいだろう。人の技である“魔法”では、どうしても不純物が混ざってしまうのだ。

 次いで、加工技術である。“エンジン”を組み上げる為には一定の品質で、同じ部品を何個も作り上げる必要がある。いや、それでなくてはならないのだ。これが“ハルケギニア”の現在の技術では不可能に近い事柄であった。“ハルケギニア”では、丸っ切り同じモノを作る、という概念が先ず、未だ存在しないのだから。例えば、たぶん一番高度な工芸品である鉄砲にしても、完全に同じモノは2つとしてない。同じ弾を使う、同じ形の銃であろうと1丁1丁が微妙に違う。構成する部品の互換性すらもないのだ。

 コルベールは先ず、“ゼロ戦”の機関砲の弾を造ろうとして、これが今現在のままでは不可能であるという事を知った。真鍮から削り出した薬莢の作成が必要なのだが、似せたモノは“錬金”で加工できても、同じサイズのモノを大量に造る事などできるはずもない。真鍮の薬莢を造り出す事は、液体の“ガソリン”を量産するのとは、丸っ切り勝手が違うのだった。

 そんな訳で、コルベールの取り付けた新兵器は、現在“ハルケギニア”で可能な技術を応用したモノになった。

 “魔法学院”の研究室の前で、やっとの事で全ての装備を“ゼロ戦”に取り付け終わったコルベールは、深い溜息を吐いて、己の作品を見つめた。

 半年ほど前、新兵器を取り付けたが、もっと凄いのも取り付けたくなり、己の研究の成果をそこに収束させたのであった。

 

 

 

 研究室の前に現れた俺たちを見て、コルベールは両手を広げた。

「おお、サイト君、セイヴァー君、ミス・エルディも。出発かね?」

 出陣の準備が出来上がった才人、シオン、そして俺が、準備を終え、“ゼロ戦”が置かれているコルベールの研究室前に到着したのだ。

 才人は、首にシエスタの曾祖父の形見であるゴーグルを提げている。背中にはデルフリンガーを背負い、腰には革のポーチ。そして、細々とした生活用品の入った頭陀袋を持っている。

 シオンは、防寒着をこれでもかといった具合に所持し、いつでも着込む事ができるようにしている。

「はい」

 才人は、コルベールの言葉に対し、短く答えた。

「大変だなあ。直接、これで“フネ”に向かうのだろう? こいつを無事に“フネ”に降ろす事ができるのかね?」

 今朝方、“アルビオン”へ向けて艦隊は出航した。

 “ゼロ戦”を搭載する為には、艦が航行中である必要がある為、出航を待っての出陣となったのであった。“竜騎士”が搭乗する“竜”を搭載する為の特殊な艦が建造され、それに“ゼロ戦”も合わせて搭載されることになったのである。

 新鋭であるその艦は、“竜母艦”という新しい艦種に分類され、“ヴュセンタール号”と名付けられた。

 コルベールだけでなく、数多くの“土系統”の“メイジ”が、“ガソリン”を“錬金”し、5回飛行できるだけの分がその母艦に積み込まれている。

 後は才人が“ゼロ戦”にルイズを乗せて、その“フネ”に着艦するだけである。

「まあ、“メイジ”が何人も“魔法”をかけてくれるって言ってたし……セイヴァーの補助もあります。無事に降ろせるんじゃないですかね」

 才人は後ろを振り向いて言った。

 俺はその言葉に首肯く。

 ルイズは未だ姿を現さない。

「色々と慌ただしくて、君たちに新兵器を説明する時間もなかったな」

「ですね」

 才人とシオンは“ゼロ戦”の翼下に、何本もの鉄パイプがぶら提がっているのを見付けた。

 2人は、(あの筒は、いったいなんなのだろう?)と思っている様子だが、しかし、今は詳しく説明を聴くだけの時間はない。

「でも安心したまえ、きちんとほれ、このように説明書を書いて置いた」

 コルベールは、才人に半皮紙のノートを手渡した。

 才人には読めないが、ルイズは当然読める。そのため、才人は(後で読んで貰おう)と思った。

「ありがとうございます」

 それからコルベールは言おうか言うまいか、迷ったかのような仕草を見せた後、口を開いた。

「ほんとは……」

「え?」

「ホントは、自分の生徒が使用する乗り物に、武器など付けたくはないのだ」

 苦しそうな言葉で在った。

「生徒?」

「ああ、なんて言うか、その、君たちは“貴族”ではないが、なんとなく、その生徒みたいな気がしてな。不愉快かね?」

「いえ、そんな、不愉快だなんて……」

 才人ははにかんだ。

「“炎”の力を人殺しの為に使いたくないのだ。私は」

 キッパリとコルベールは言い放った。

「どうしてですか? “炎”は1番戦に向く“系統”だって、皆言ってますよ。まあ、俺には“魔法”の事は良く理解んないですけど」

「才人、それ以上は」

 不思議そうに首を傾げる才人とシオン。

 そして、才人がコルベールへと質問をするが、俺はそれを制しよとするが、逆にコルベールが首を横に振って俺を止める。

「良いんだ。そうだな……“炎”は破壊の“系統”。“炎”の使い手の中にもそう思っている者も沢山いる……でも、私はそう想わんのだ。“炎”が司るモノが、破壊だけでは寂しいと考える」

 考える、と言われても、といった風に才人は困ってしまい頭を掻いた。

「当然だ。“炎”は破壊だけではない。他にも使い途は幾らでもある」

 俺は、コルベールの言葉に首肯く。

「そうだ、君のこの飛行機械は“フェニックス”などと最初“王軍”で呼ばれていたそうだな?」

「ええ、“タルブ”で戦艦をやっ付けた時に、なんでも誰かが“あれは伝説のフェニックスだ!” なんて言ったらしくて……」

「そうだ! その“フェニックス”だ!」

 コルベールが嬉しそうに叫んだ。

「先生?」

「“フェニックス”は伝説の生き物だが、こう伝えられている。“フェニックス”……“炎の鳳”は、確かに破壊も司るが……再生をも司るのだ」

「再生、ですか?」

「生まれ変わりという事だな」

 才人とシオンは、コルベールが何故これほどまでに喜んでいるのかわからなかった。

 それからコルベールは、1人の世界に入り込んでしまう。

「そうか……再生か……成る程……象徴してくれているのか? ……どうなのだ?」

 そこでコルベールは、才人とシオンが呆れてジッと見つめていることに気付き、「あ、ああ! すまん!」と頭を掻いた。

「いや、良いっすけど、いつもの事だし」

 コルベールは、突然に真顔になる。

「なあ、サイト君、セイヴァー君……実は、その……」

「なんすか?」

 才人が訊き返したその瞬間、ルイズが姿を見せ、才人が「おせーよ」と呟く。

「仕方ないじゃない! 女の子は準備が色々とあるのよ!」

「戦争に行くんだぞ。どんな女の子の準備があるっつーのよ? シオンは既に終わらせて来ているぞ」

 ルイズはツン! と顔を反らし、才人を無視して翼に攀じ登り、コックピットに入り込んだ。

 ルイズの実家から逃げ出すようにして戻って来てから1ヶ月が過ぎていた。それ以来、才人とルイズの2人はこういった感じなのである。

 操縦席後部の防弾板を外して、取り付けられたシートにルイズは座り込んだ。

「えっと、先生、今何か言いかけましたよね。なんすか?」

「い、いや……なんでもない、うん」

「そうか。では、ここに戻り、再会した時にでも聴くことにしよう」

 言葉を濁すコルベールに、俺は一瞥を送る。

 才人は“ゼロ戦”に乗り込んだ。

 この前と同様に、コルベールの“魔法”でプロペラを回し、“エンジン”を点火させる。

 2度目だということもあり、才人は落ち着いて操作できた。

 再び才人はコルベールに頼み、コルベールは烈風を吹かせる。

 才人はゴーグルを着け、マフラーを首に巻いた。

 唸りを上げるエンジン音の中、コルベールは叫んだ。

「サイト君! ミス・ヴァリエール!」

 才人は手を振って反応を返す。

「死ぬなよ! 死ぬな! みっともなくたって良い! 卑怯者と呼ばれても構わない! ただ死ぬな! 絶対に死ぬなよ! 絶対に帰って来いよ!」

 “エンジン”の音で声は聞こえないのだろう。だが、才人とルイズには、なんとなくコルベールの言葉は届いていた。実際に、耳に届き聞こえなくとも、確かに胸に届いたのだ。

 才人は「理解りました!」と怒鳴って、スロットルを開いた。

 “ゼロ戦”が滑走を始め、ブワッと浮き上がり、グングンと上昇をして行った。

 徐々に小さくなり、空の向こうに消えて行く。

 “ゼロ戦”が空の向こうに消えて見えなくなっても、コルベールはジッと、見送り続けた。

「さて、我々も行こうか。シオン」

「うん」

 俺は“王律鍵バヴ=イル”を“投影”し、“バビロニアの宝物庫”と空間を繋げ、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”を出す。

「君たちもだ、ミス・エルディ、セイヴァー君。絶対に、何があっても死ぬな」

「はい」

「元よりそのつもりだ。それどころか、あいつ等を守ってやる」

 コルベールの言葉に首肯き、シオンは先に“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”の上に乗る。

「ああ、一応言って置くが、留守は任せたぞ、コルベール先生。念の為、“陣地作成”で工房化、神殿に近しい状態にはしているが、何があるかわかったモノではないのだからな」

「え? あ、ああ……」

 俺の言葉の意味が理解るはずもなく、コルベールは困惑した様子で首肯く。

 俺は、そんなコルベールを後にし、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”の玉座へと座る。

 俺の意志に従い、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”は音もなく、スッと浮かび上がり、光速で“ゼロ戦”の後を追った。

 

 

 

 才人は、事前に聞いていた進路に向けて2時間程“ゼロ戦”を飛ばしていると、雲の切れ間に小さな点々が見えて来たことに気付く。

 その点々は次第に大きくなり、空を埋め尽くすような艦隊になった。

 才人は、いつかテレビで見ただろう気球のレースを想い出した。

 全長50“メイル”から、100“メイル”近い巨大な“フネ”が、足並み揃え何百隻も並んで航行している様は、壮大で美しい光景であった。

「すげえ……」

 と才人は感嘆の声を上げた。

「ほら見ろルイズ。大艦隊!」

「…………」

 しかしルイズは、頬を膨らませたまま逆を向いた。

 ルイズの機嫌は直っていないのである。この前の帰郷を終えてからずっと、このような感じであった。

 さて今回のルイズの不機嫌の理由を、才人はこんな風に分析をして見た。(“好き”、という言葉で忠誠を示した俺を、その言葉を忠誠と取るルイズに多少の不満はあっただろうけど、ルイズは一旦受け入れる姿勢を示したんだ。詰まり、順当に行けば俺たち2人は距離を接近させる筈だった。だけど、俺は“好きな所一箇所触って良い”っていうルイズの御褒美を、全部触って良い、と解釈してしまって、先ずルイズを怒らせてしまった。そしてその後のシエスタの“ボタンを外した”発言もあって、独占欲の強いご主人さまであるルイズは、更に怒ってしまったんだろうな)、と想った。

 ルイズにしてみれば、他の女の子に手を出すという行為は、二君に仕える行為に近いのだろう、などと才人は随分と遠回りに誤解をしているのである。

 正直、ルイズはただ嫉妬をしているだけなのである。他の娘に手を出している癖に、自分に「好き」と言って、キスして、あまつさえ奪おうとした才人がどうしても赦せないのであった。後、一瞬とはいえ、そんな(“使い魔”であるサイトに肌を許しても良いかもしれないわ)、などと想ってしまった自分が赦せないのであった。(結婚するまでは駄目なのに。結婚しても3ヶ月は駄目なのに。なに流されてんのわたしってば)、と自分に対しても腹を立てていたのである。

 才人はルイズが黙っているので、諦めた。

 さて、才人が(着艦する“フネ”はどれだろう?)と捜していると、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”で天を駆ける俺たちが追い付き、そこに“竜騎士”が1騎が飛んで来た。

 才人の“ゼロ戦”と“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”に並ぶと、手を振って来た。

 才人と俺もまた手を振り返す。

 どうやら彼が“フネ”まで案内をしてくれるらしい。

 その“竜騎士”の後ろから、失速ギリギリの速度で着いて行くと、“ヴュセンタール号”が見えて来た。多量の“竜”を発着させる為に、長大な平甲板を持たされた艦である。帆を張るマストは左右に突き出る形で計6本装備されており、上から見ると足を伸ばした昆虫のように見える。構造上、大砲は装備されていない。“竜騎士隊”を載む為だけに建造された母艦なのだから当然だろう。

 そして、“ゼロ戦”を載む為には最適、というよりもこの艦以外に載む事は不可能だろう。

 長い平甲板を持つ“ヴュセンタール号”ではあるが、それでも“ゼロ戦”が着陸をする為には甲板の距離が短い。

 才人が(どうやって着艦するんだ?)とその上を旋回していると、デルフリンガーが口を開いた。

「相棒。もっとこの飛行機を艦に近付けな。どうやら、あいつ等が捕まえてくれるみてえだぜ」

 甲板上では何人もの“メイジ”が待機している。

 そして、甲板にはロープが張られ始めた。甲板の左右に分れた兵隊たちが編み引きの様にロープの橋を握っているのが見える。

 どうやら“風系統”の“魔法”と甲板に張られたロープを使って、“ゼロ戦”を着艦させるつもりのようである。随分と荒っぽく、雑ではあるが、他の手段が想い付かなかったのだろう。

 才人は右手を動かし、着艦フックを出す為の操作を行った。

 艦上機の“ゼロ戦”には、ワイヤーに引っ掛けて空母に着艦する為のフックが付いているのだ。

 フックの存在に気付いたコルベールが、“ゼロ戦”着艦の際には甲板のロープを張るように“ヴュセンタール号”の乗組員に伝えて置いたのだろう。

 “ヴュセンタール号”と“ゼロ戦”が近付く。

 才人の操作に従い“ゼロ戦”は、着艦フックに続き、主脚と尾輪を出し、フラップを下げる。

 才人は慎重に後方からアプローチして、着艦コースに乗った。

 さて一方、ルイズはそんな光景に目もくれず、ジッと考え事をしている。もちろん、あの日の小舟の上での事である。(あの小舟の上でサイトに押し倒された時……もし家族や使用人たちが見ていなかったら、どうなっていたのかしら?)、とルイズは考えているのである。

「…………」

 ルイズの頬がこれ以上無いだろうほどに真っ赤に染まる。なに喰わぬ顔で飛行機を操縦している才人が急に憎らしくなり、ポカポカと殴り始めた。

「な、なにすんだよ!?」

「場所を選びなさいよ! 場所を! なんで舟の上なのよ!?」

 と、ルイズは怒鳴る。

「他に降りる場所がねえんだよ!」

 とまあ、とことん噛み合っていない2人であった。

 そんな2人の様子を見ながら、俺はシオンを抱き抱える。

「セイヴァー?」

「すまないが、跳び下りるぞ」

「え?」

 俺はシオンを御姫様抱っこして、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”から跳び下りる。

「――きゃあああああああああああああああああああああ!?」

 当然の事だが、シオンもこれ以上ないほどに顔を上気させ、盛大な悲鳴を上げる。

 背後――上空に浮遊している“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”は“宝具”を回収する“宝具”により、光の粒子――“エーテル”の粒となって、“バビロニアの宝物庫”へと戻った。

 

 

 

 “ヴュセンタール号”に着艦した才人とルイズは“ゼロ戦”を降り、俺とシオンが着地を完了するなり直ぐ、護衛の兵を伴った将校に出迎えられた。

「甲板士官のクリューズレイです」

「今からどこへ?」

 と、ルイズが尋ねるのだが、俺たちを案内する士官は名乗っただけでなにも答えない。

 アンリエッタからの指令書は、向かうべき艦名のみが記されており、後はなにも書かれていなかったのである。御偉いさん――御上からの命令と云うモノは大抵そういったモノが多い。“1を教えれば、部下は10を理解する”とでも思っている者が多いのもまた現実である。

 “貴族”相手の生活がいい加減長い才人は、そんな風に想像を巡らせた。

 アンリエッタの場合は、もう少し詳しく記載したかっただろうが、立場上故に仕方がないだろう。更には、俺たちが極秘の存在であるが為の処置でもあるのだから。

 狭い中甲板を通り、先ずは俺たち4人が利用する個室にそれぞれ案内された。酷く狭い部屋ではあるが。個室である。物凄く小さな寝台にテーブル、それ切りの部屋であった。

 俺たちはそれぞれ荷物を置くと、再び「着いて来るように」と士官に促される。

 狭い艦内をジグザグに行くと、とあるドアの前に出た。

 士官がノックすると、中から返事があった。

 士官はドアを開け、才人たちを中に入れた。

 その部屋で俺たちを出迎えたのは、ズラッと居並んだ将軍たちであった。肩には金ピカのモールが光っている。随分と上の立場にいる者たちである。

 唖然とするルイズと才人、そしてシオンの3人、従兵が席を勧める。

 ルイズが椅子に腰かけ、才人はその後ろに控える。

 シオンもまた椅子に座り、俺もまたその後ろで待機する。

 1番上座の齢40過ぎだろう将軍が、口を開く。

「“アルビオン” 侵攻軍総司令部へようこそ。ミス・“虚無(ゼロ)”。ミス・エルディ」

 ルイズとシオンは緊張をした。

「総司令官のド・ボワチェだ」

 アッサリと、総司令官である将軍は自分の身分を述べた。

「こちらが参謀総長のウィンプフェン」

 将軍の左に腰掛けた、皺の深い小男が首肯いた。

「“ゲルマニア”軍司令官のハルデンベルグ侯爵だ」

 角の付いた鉄兜を冠ったカイゼル髭の将軍が、俺たちへと向かって重々しく首肯く。

 どうやらこの“竜母艦”は旗艦であり、且つ総司令部であるようだ。

 それから総司令官は、会議室に集まった参謀や他将軍たちに、俺たちを紹介した。

「さて各々方。我々が陛下より預かった切り札、“虚無の担い手”を紹介しますぞ」

 しかし、そう言っても会議室の面々は盛り上がらない。当然、胡散臭そうに俺たちを見つめるばかりだ。

「“タルブ”の空で、“アルビオン”艦隊を吹き飛ばしたのは、彼女たちなのです」

 と、ド・ボワチェが言って初めて、将軍たちは関心を持った様子を見せる。

 才人はルイズを突いた。

「あによ?」

「……良いのか? バラしちまって?」

「じゃないと、軍に協力出できないじゃないの」

 才人は、そんなルイズの言葉に、(ま、それもそうだけど……あれほど姫さまは黙っていろとルイズに命じたのに、自分ではアッサリとバラしてしまうなんてな)、と想った。そして同時に、「ルイズを大事に想う」と言いながら、なんとなくそうは想い難いアンリエッタの処遇に対し、(それが女王と言うモノなんだろうか)、と想った。それからあの時――安宿で見たアンリエッタの震えを想い出し、(無理もねえか)、とも想った。

 とにかく、アンリエッタ本人も一杯一杯なのだから。

 ド・ボワチェはルイズとシオンにニッコリと微笑いかけた。もちろん、演技の混じった笑みである。

「いきなり司令部に通されて驚いただろう。いやすまん。しかし、この艦が旗艦という事は極秘なのでね。見ての通り、“竜騎士”を搭載する為に特化した艦でな、大砲も載んどらん。敵にバレて狙われては面倒な事になるからな」

「は、はぁ……しかし、どうしてそのような艦を総司令部になさったのですか?」

 ルイズが可愛らしい声で娑婆っ気たっぷりの質問をした為に、辺りが笑い声に包まれた。

「普通の艦では、このように広い会議室を設けることはできん。大砲を載まねばならんからな」

 質問をしたルイズ、才人、シオンの3人は(なるほど)と想った。

 大軍を指揮する旗艦に必要なのは、攻撃力より情報処理能力だといえるからだ。

「雑談はそのくらいにして、軍議を続けましょう」

 と“ゲルマニア”の将軍が言った。

 将軍たちの顔から笑みが消える。

 

 

 

 軍議はハッキリと言ってしまえば難航していた。

 “アルビオン”に60,000の兵を上陸させる為の障害は2つ。

 先ずは、未だ有力な敵空軍艦隊である。先立っての“タルブ”での戦いで“レキシントン号”を筆頭に、戦列艦数十隻を屠ったとはいえ、“アルビオン”空軍には未だ40隻ほど戦列艦が残っているのである。対して、“トリステイン”と“ゲルマニア”はそれぞれ計60の戦列艦を持つのだが、2国混合艦隊であるが為に、当然指揮上の混乱が予想される。練度に勝るといわれる“アルビオン”艦隊を相手にした場合、1.5倍の戦力差は帳消しになってしまうかもしれないのだ。

 第2に、上陸地点の選定である。“アルビオン大陸”に、60,000の大軍を降ろせる要地は2つ。首都“ロンディニウム”の南部に位置する“空軍基地ロサイス”か、北部の港“ダータルネス”。港湾設備の規模からいって、やはり“ロサイス”が望ましいのだが……そこを大艦隊で真っ直ぐ目指したのでは直ぐに発見され、敵に迎え撃つ時間を与えてしまうのだ。

「強襲で兵を消耗したら、“ロンディニウム”の城を落とす事は叶いません」

 参謀長は冷静に兵力を分析して一同に告げた。

 強襲とは敵の抵抗を受けつつも、攻撃を加える事である。

 連合軍に必要なのは、奇襲であった。敵の抵抗を受けずに、60,000の兵を“ロサイス”に上陸させたいのだ。その為には敵の大軍を欺き、上陸地点の“ロサイス”以外に吸引しなくてはならない。詰まり、60,000の“トリステイン”と“ゲルマニア”の連合軍が……“ダータルネス”に上陸する、と、敵に想わせる為の欺瞞作戦がなんとしてでも必要なのである。これが第2の障害であった。

「どちらかに“虚無”殿たちの協力を仰げないか?」

 参謀記章を着けた“貴族”がルイズとシオンの方を見ながら言った。

「“タルブ”で“レキシントン”を吹き飛ばしたように、今回も“アルビオン”艦隊を吹き飛ばしてくれんかね?」

 才人はルイズを見つめた。

 ルイズも振り返り、首を振った。

「無理です……あれほど強力な“エクスプロージョン”を撃つには、よほど“精神力”が溜まっている状態でないと。あと何年、何ヶ月経かるかわかりません」

 参謀たちは首を振った。

「そんな不確かな兵器は切り札とは言わん」

 才人はその言葉に反応した。

「おい、ルイズは兵器じゃない」

「なんだと? “使い魔”風情が口を利くな」

「失礼だが、その“使い魔”風情に貴君は勝てるのかね? “伝説の系統”――“虚無”の“使い魔”である彼に」

「なんだと!?」

「こいつ等は兵器じゃない。同じ人に対して最低限の礼儀や気配りすらできない奴の言う事を利く必要はないな」

「貴様……!」

 他に会議に参加している“貴族”たちも俺へと敵意を向けて来る。当然の事だろう。だが、こちらにも感情はあるのだ。

 1人の参謀、そして才人と俺の言葉を契機に騒ぎになろうとした時……ド・ボワチェ将軍が遮った。

 売り言葉に買い言葉と俺も言葉を荒げそうになるも、ド・ボワチェ将軍の大人とでも言える対応のおかげか、どうにか抑えることができた。

「艦隊は我らが引き受けよう。“虚無”殿たちには陽動の方を引き受けて貰おう。できるか?」

「陽動とは?」

「先ほど議題に上がった通りの事だ。我々が“ロサイス”ではなく“ダータルネス”に上陸する、と敵に想い込ませさえすれば良い。伝説の“虚無”なら簡単な事ではないのか?」

 ルイズは、(そんな“呪文”があったかしら?)、と考え込んだ。

 そんなルイズに、才人が後ろから「……デルフが言ってた。必要な時が来たら、詠めるんだろ?」、とそっと呟いた。

 ルイズは首肯いた。

「明日までに、使用できる“呪文”を探しておきますわ」

 おお頼もしい、とド・ボワチェ将軍は微笑む。

 それで、俺たちは用がなくなったらしい。

 退室を促された。

 

 

 

 廊下に出たルイズは、「やな感じ」、と扉の閉じた会議室に向かって舌を出した。

 才人も「そうだな」と相槌を打った。

「あの人たち、わたし達をただの駒としてしか見てない気がするわ」

 才人はルイズの肩を叩いた。

「偉い将軍なんて、そんなもんなんだろ。戦争に勝つことしか頭にないんだからさ」

 だが、それは戦いの中では正しい――というよりも、より効率的かつ有効的な思考なのかもしれない。

「確かにそうかもしれないけど、でも全員がそうという訳じゃないよ?」

 才人の言葉を、シオンはやんわりと否定を入れ、フォローをした。

 才人は、(戦闘機を引っ提げて来て軍艦に乗り込んで来た以上、俺もそうならなくちゃならないのかもなあ。でも、そんなの嫌だなあ)、などと想った。

「でも、さっきはありがとう。セイヴァーも」

 ルイズは、少しばかり素直になり、才人と俺へと感謝の言葉を述べる。会議室内で、「兵器」呼ばわりされた時に、反論した事などに対するモノだろう。

 そうしていると、才人は後ろから肩を叩かれた。

 俺たちが振り返ると、目付きの鋭い“貴族”が5~6人、才人を睨んでいるのだ。

 男というより、未だ少年という歳に見える。才人といくらも変わらないだろう。

 一行は革の帽子を冠り、揃いの青い上着を纏っている。“杖”は軍人が好む、腰に提すレイピアタイプのモノであったが……かなり短めの拵えであった。

「おい、お前」

 お前と言われた事で、才人はカチンと来てしまう。

「なんだよ?」

 ルイズが、「やめなさいよぉ」、と小さく呟き、才人の服の袖を引っ張る。

 一行のリーダー格と思しき少年が、顎を杓った。

「来い」

 才人は、(なんだなんだ? いきなりやる気かおい?)、と思いながら、デルフリンガーを掴んで歩き出した。

 俺たちがやって来たのは、“ゼロ戦”が係留されている上甲板であった。

 “ゼロ戦”はロープで各部を縛られ、甲板に括り付けられている。

 才人は、(理由はわからんけど、ここでやるのか? 良いぞかかって来い。なんかムシャクシャしてたんだ)、と思いながらデルフリンガーを抜こうとする。

 のだが――。

「これは、生き物か?」

 と1人の少年“貴族”が“ゼロ戦”を指さして、恥ずかしそうに尋ねて来た。

「そうじゃないならなんなんだ? 説明しろ」

 もう1人の少年“貴族”が、真顔で説明を求めて来た。

 才人は気が抜けて、「いや、生き物ではないけど……」、と呟いた。

「ほら見ろ! 僕の言った通りじゃないか! 僕の勝ちだ! ほら1“エキュー”だぞ!」

 1番太った少年“貴族”が、喚き始める。

 皆して渋々といった様子でポケットから金貨を取り出して、その少年に手渡した。

 ルイズと才人、シオンが口を開けて見ていることに気付き、“貴族”の少年たちは気不そうな笑みを浮かべた。

「驚かせちゃったかな? ごめんね」

「はい?」

「いや、僕たちは賭けをしてたんだ。こいつがなんなのかってね」

 “ゼロ戦”を指さして、1人の少年“貴族”が呟く。

「僕は生き物だと想った。“竜王”の仲間だと想ったんだ」

「こんな“竜”がいるもんか!」

「いるかもしれないだろ! 世界は広いんだから!」

 そう言って言い合いを始める少年“貴族”たち。

 そんな姿を見ていると、才人は故郷の教室を想い出した。休み時間になると、こういった馬鹿話で時間を潰した事を……。

 俺もまた、才人同様に生前での学校生活の事を想い出す。そしてまた、同時に、“地球”――また別時間軸及び世界ではあるが、とある“地球”のとある時代には機械の身体を持つ“竜”がいたな、などと想い出す。

「これは飛行機械ですよ」

 才人の言葉に、「ほう」と言って少年“貴族”たちは興味深そうに才人の説明に聞き入った。

 しかし、いや、やはりどうしても“魔法”以外での動力で空を飛ぶ、という事が理解できない様子であった。

「そうだな。より簡単に、より小難しく説明するとすれば……この飛行機械は鉄でできており、中には“エンジン”と呼ばれる機械――“マジック・アイテム”があり、それは“火系統”の“魔法”で動いている。そして、そこの先端部にあるプロペラと呼ぶモノを“風系統”の“魔法”で回転させ、この飛行機械の後部から“エンジン”内部で“火系統”の“魔法”で発生させた炎を噴出させて移動。“風系統”の“魔法”である“レビテーション”や“フライ”などを応用したモノで浮遊、上下左右に移動出来る。そして、鉄で出来ており、中で“火系統”の“魔法”を使用し続けている為に熱くなるから、“水系統”の“魔法”を使用する為のモノも入っていて、それで冷却などをして、調節すると言った具合か」

 概念などがどうしても伝わらない、信じる事が難しいのであれば、彼らの常識などに照らし合わせ、合致する部分だけを言ってみせれば良いのだ。

 そんな俺の長ったらしい説明を、皆ポカーンとして聞いている。だが同時に、少年“貴族”たちは「なるほど」といった様子を見せる。

 だが同時に、彼らは疑問に想ったのだろう、1人が「それだけの機械を入れているなら、何故こんなに小さいんだ?」と訊いて来る。

「それは機密だ」

 

 

 

「僕たちは、“竜騎士”なんだ」

 “ゼロ戦”の説明が終わると、少年たちは中甲板の“竜舎”に俺たちを案内してくれる。

 “タルブ”でほとんど全滅に近い損害を受けた“竜騎士隊”は、“竜騎士”見習いの彼らを、そのまま繰り上げて正騎士として部隊に編入されたらしい。

「本来なら、あと1年は修行しなくちゃいけないんだけどね」

 そう言ってはにかんだ笑みを浮かべたのは、先ほど賭けに勝った肥えた少年であった。彼は、「自分は第二“竜騎士中隊”の隊長である」と言った。才人とルイズの“ゼロ戦”をこの艦まで案内したのも彼であった。

 “竜舎”の中にいたのは、“風竜”の成獣たちであった。タバサのシルフィードよりも、二回りも大きい見事な“ウィンドドラゴン”だ。翼が大きく、スピードも相当に出させそうな面構えをしている。

「“竜騎士”になるのは大変なんだぜ」

「そうなの?」

「ああ。“竜”を“使い魔”にすりゃ、そりゃ簡単だけどね。皆が皆、そう上手に行くって訳じゃない。“使い魔”として“契約”しない場合、“竜”は気難しい、1番乗り熟す事が難しい“幻獣”さ。なんせ、自分が認めた乗り手しかその背に乗せないんだから」

「“竜”は、乗り手の腕だけじゃなく、 “自分に相応しい格を備えた魔力を持っているか? 頭も良いか?” なんてそんなところまで見抜くんだ。油断のできない相手さ」

 “竜騎士”の少年たちはエリートであり、また相当なプライドの持ち主であるようだ。

「跨ってみるかい?」

 と才人と俺は言われて、当然俺たちは首肯いた。

 跨った才人は、呆気なく振り落とされてしまう。

 少年たちが腹を抱えて笑う。

 なお、負けん気の強い才人は、再び挑戦するのだが、結果は変わらず同じだ。(タバサみたいな小さい女の子だって涼しい顔でこの“ウインドドラゴン”に乗ってるのに……)、とタバサの事を想い出し、悔しくなったのだろう。何度も挑戦をする。

 そして、そんな才人の横で俺は1匹の“ウィンドドラゴン”の前に立つ。

「ふむ。すまないが、少しばかり背中に乗させて貰えないだろうか?」

 突然に、俺が“ウィンドドラゴン”に対して話しかけたものだから、その場にいる皆はこちらへと注目し、笑い出す。

 俺は気にすることもなく、その目を付けた“ウィンドドラゴン”の背中へと跳び乗る。

 すると、“ウィンドドラゴン”は振り落とすことなどは一切せずに、大人しくしている。

 “動物会話”、そして“騎乗”……“専科総般”で獲得した“スキル”である。それにより、俺はこの“ウインドドラゴン”と話をし、乗る事ができたのである。

 皆、呆然としている。そして、悔しそうにしている。

 当然だろう。本来であれば、苦労して、気を通わせ、認めさせ、そして漸く乗り熟す事ができるようになるのだから。

 

 

 

 遠くからシオンとルイズは、そんな光景を見つめていた。

 ルイズは、(男の子は良いわね)、と少しばかり羨ましい気持ちになった。そして、(あんな風に、すぐに仲良くなっちゃうんだから)とちょっと不貞腐れて眺めるルイズであった。というよりも、(“竜”よりご主人さまでしょう? こないだあんた、小舟の上でなにしたのよ? それなのに、ぎゃあぎゃあ“竜騎士”なんかと遊んでる場合なの? 明日は戦場の空を飛ばなくちゃならないのよ? もしかしたらわたし達死んじゃうかもしれないのよ? そしたら時間の使い方は決まて来るでしょう?)、と才人を睨みながら想うのであった。(わたし不安で恐いんだから、ギューって抱き締めなさいよ。口に出しては言いませんけども)、とかもまた想うのだ。

 そして……ルイズは、陽動作戦の為の“呪文”が想い付かず、溜息を吐いた。

「ルイズ」

「なに? シオン」

「そんなに強張ってちゃ駄目だよ。力み過ぎると逆に駄目になっちゃう。そんなんじゃ、良い案も想い浮かばないよ」

「でも……」

「大丈夫。肩の力を抜いて」

「ねえ、シオン」

「なに?」

「どうして貴女はそんなに落ち着いていられるの?」

「“どうして”? か……そうだね、理解んない。でも、きっと……」

 

 

 

「おい、君。君」

 ルイズがつまらなさそうに“竜舎”の端っ子で壁にもたれ、脚をブラブラさせ、シオンと会話をしながらこちらを見ている事に気付いた“竜騎士”の1人が、才人、そして俺へと話しかけて来る。

「彼女たちは君たちの主人だろう? あんな所に放ったらかしで良いのかね?」

 才人は、(う! しまった!)、と青くなった。(ルイズを放ったらかしにしてしまった。後でブチブチ文句を言われるに違いない。でも、新しく仲間になったこいつ等に、そんな情けないところは見せられねえよな)、と想った。

 男の子は不便な生き物で、新しい仲間には弱い所は見せられない時があるのだ。

 才人は強がってみせた。

「い、良いんだよあんな奴。放っとけば」

 おお~~~~~、と拍手が沸いた。

「またお前って奴は。ホントに良いのか?」

「い、良いんだよ……別に……」

 俺の言葉に、才人は視線を逸らして答える。

「気に入ったぞ。主人に対するその態度! 君はただ者じゃないようだ」

 才人のそんな態度に腹を立てたルイズが近寄って来る。

 シオンもまた、ルイズの後に続き、こちらへと向かって来る。

「なにか言った?」

 才人は「いや、なんにも……」と口籠ったその瞬間、ルイズに股間を蹴り上げられてしまう。「ほら部屋に戻るわよ」、とズルズル引っ張られそうになった時、隊長が俺たちを誘った。

「君たち、今夜の予定はあるかね?」

 何故かルイズは頬を染めた。

 才人が「いや、別に……」と答えて、ルイズに腹を蹴られて呻く。

「ならばお近付きの印に、今宵は酒盛りでも」

 慎重そうな1人が、その提案を窘めた。

「いやいや、甲板士官の見回りがある。夜中に部屋から抜け出したりしたら、直ぐにバレてどやされちまう」

 皆一斉に悩み始めた。甲板士官に怒られるのはごめん蒙りたいが、酒盛りはしたいのである。なにせ明日をも知れぬ身なのだから。

 ピン、と閃いた才人が指を立てて言った。

「カカシを作れば良いんだよ。藁束でもベッドに突っ込んどこう」

 そんなの直ぐにバレるよ! と“竜騎士”たちは笑った。

 しかし、ルイズだけが笑らない。何かに気付いたように、爪を噛んでいる。

「どうした?」

 才人がルイズに言葉をかけるのだが、逆に尋ね返された。

「……あんた。今、なんて言ったの?」

「え? いや……カカシでも作っとくか? ってさ」

「そうよ。カカシだわ。60,000の案山子を作ってやれば良いのよ」

「はぁ? 60,000? ここにいるメンバーの数だけで良いんだよ」

「そもそも、そんな数の藁束が用意できる訳ないだろう」

 真顔で問い返す“竜騎士”もいた。

「藁束? “魔法”で作るのよ!」

 そう言ってルイズは駆け出して行き、シオンが後に続く。

「なんだあいつ?」

 後に残された才人たちは、呆然とそんなルイズとシオンを見送った。

 またもや噛み合っていない2人であった。

『才人。あれだ、陽動作戦の事だ』

『――! そうか、その事か!』

 俺は“竜騎士”たちに聞かれることがないように、“思念通話”で才人へと伝える。

 才人もまた、表には出さないようにし、“思念通話”で反応を返した。

 

 

 

 ルイズは自分に与えられた個室に飛び込み、“始祖の祈祷書”を開いた。

 シオンもルイズに与えられた個室へと入る。

 ルイズは、一旦目を瞑り深く深呼吸をした後カッと目を開いた。そして、“始祖の祈祷書”に精神を集中させ、慎重にページを捲る。

 1枚のページが光り出して……ルイズは微笑み、それを目にしたシオンもまた微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まともな授業の時間が減った“魔法学院”に、騎馬隊の一団が現れたのは、コルベールが“ゼロ戦”と“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”を見送った日の昼の事であった。

 門から入って来たのは、アニエス以下“銃士隊”の面々である。

 “学院”に居残った女子たち、や一部男子たちは、気丈した近衛隊の姿に驚いた。(いったい何事かしら?)、と首を傾げる。

 学院長のオスマンが、アニエス達を迎えにやって来た。

「アニエス以下“銃士隊”、ただいま到着致しました」

「御勤め、御苦労様なことじゃな」

 と髭を扱きながらオスマンが呟く。彼の内心は、微妙な心境であるといえるだろう。

 彼女たちは、残った女子生徒たちや病弱な男子生徒たちにも軍事教練を施しにやって来たのであった。

 その連絡があったのは昨晩のことである、

 どうやらアンリエッタの“王政府”は、“貴族”という“貴族”を戦に駆り出すつもりのようであった。女子生徒も予備士官として確保し、“アルビオン”での戦で士官が消耗すれば、逐一投入する構えのようである。

 オスマンは、“王政府”のそのようなやり方に疑問を持っていた。そのためオスマンは、“ラ・ロシェール”で行われた“王軍”見送りの式に出席しなかったのである。“学院”の女子生徒たちや士官候補にならなかった男子生徒たちにも、同様に出席を禁じたのだ。

 だがその結果、“王政府”を刺激する事になってしまった様子だ。

「戦とは言え、惨いもんじゃのう」

「此度の戦を、総力戦と、“王政府”は呼んでおります」

「なにが総力戦じゃ。もっともらしい呼び方をすれば良いというモノではない。女子供まで駆り出す戦に、正義があるものか」

 アニエスは冷たい目でオスマンを見つめた。

「では、“貴族”の紳士や兵隊のみが死ぬ戦いには、正義はあるのですか?」

 オスマンは言葉につまってしまう。

「死は平等です。女も子供も選びませぬ。それだけの事」

 それを熟知しているアニエスは、オスマンへとそう言うと、ツカツカと本塔へと向かった。

 

 

 

 さて、キュルケやモンモランシー達の教室では授業が行われていた。

 男性教師のほとんどが出征した為に、授業の数はめっきり減ったのだが……。

 キュルケは教壇に立つ男を見つめ、「でも、例外はいるのよね」と呟いた。

 教壇に立つ男は、コルベールであった。

 彼はいつも通りの授業を続けている。どことなく落ち着かない女子生徒たちの顔など、どこ吹く風といった具合である。

「えー、このようにだな。炎はですな、高温になればなるほど、色が薄くなります」

 と、コルベールは手にした炎で、鉄の棒を炙った。

 コルベールは熱した棒を折り曲げて、くの字にすると更に説明を加える。

「良いですかな、高温の炎ではないと加工できない金属は多数あります。従って高温の炎を制御する事は“火”を使って工作をする際の基本となります」

 モンモランシーが、スッと手を挙げた。

「ミス・モンモランシ。質問かね?」

 モンモランシーは立ち上がり、口を開く。

「今は国を挙げての戦の真っ最中です。こんな……暢気に授業をしてて良いんですか?」

「暢気もなにもここは学び舎で……君たちは生徒で、私は教師だ」

 コルベールは落ち着いた、抑揚の変わらぬ声で答えた。

「でも……クラスメイトが何人も……先生だって何人も、戦に向かってるんですよ?」

「だから、どうだと言うのだね? 戦争だからこそ、我々は学ばねばならぬ。学んで戦の愚かさを、“火”を破壊に使う愚を悟らねばならぬ。さあ勉強しよう。そして戦から帰って来た男子たちにそれを伝えてやろうではないか」

 コルベールはそう言って教室を見回した。

「戦が恐いんでしょ?」

 キュルケが、小馬鹿にした調子で言い放つ。

 コルベールは、「そうだ」、と首肯く。

「私は戦が恐い。臆病者だ」

 女子生徒から、呆れた溜息がいくつも漏れた。

「でも、その事に不満はない」

 キッパリとコルベールがそう言い切った時、ズカズカと、銃士の一団が教室に入って来た。アニエス達である。

 鎖帷子に腰に提した長剣に拳銃。そんな物々しい出で立ちの女たちが入って来た為に、女子生徒たちは軽くざわめいた。

「きき、君たちは、な、なんだね?」

 コルベールが尋ねると、アニエスはコルベールを無視して、生徒たちに命令した。

「女王陛下の“銃士隊”だ。陛下の名において諸君らに命令する。これより授業を中止して軍事教練を行う。正装して中庭に整列」

「なんだって? 授業を中止する? ふざけるな」

 コルベールがそう言うと、アニエスは首を竦めた。

「私だって子守りなどしたくはないが……これも命令でね」

 女子生徒たちは、ブツブツ言いながらも立ち上がり始めた。

 コルベールが慌ててアニエスを追いかけ、立ち塞がった。

「こらこら! 未だ授業は終わっておらんぞ!」

「陛下の命令だと言っているだろうが。聞こえんのか?」

 苦々しい口調で、アニエスが言った。

「陛下の命令だろうがなんだろうが、今は授業中だ。あと15分は、生徒を学ばせる為に陛下から与えられた私の時間だ。貴女に命令される謂れはありませんぞ。諸君! 教室に戻りなさい! あと15分、きっちり学びますぞ! 戦争ごっこはそれからでも十分だ!」

 アニエスは剣を引き抜き、コルベールの喉元に突き付けた。

「教練を戦争ごっこと言ったな。本職を愚弄するか? ミスタ、こちらが“メイジ”ではないと想って、あまり舐めた態度を取られるな」

「べ、別に舐めては……」

 喉に突き付けられた剣を見つめて、コルベールは冷や汗を流した。

「お前、“炎”使いだな? 焦げ臭い、嫌な臭いがマントから漂って来る。教えてやる、私は“メイジ”が嫌いだ。特に、“炎”を使う“メイジ”が嫌いだ」

「ひう……」

 コルベールの脚が震え出した。そして、そのまま後退り、壁際で尻餅を着いてしまう。

「良いか、私の任務の邪魔をするな」

 アニエスは震えるコルベールを、まるでゴミでも見るかのような目で見つめた後、剣を鞘に収めツカツカと歩き去った。

 女子生徒たちも軽蔑の色を浮かべ、コルベールの側を通り過ぎて行く。

 キュルケもまた例外ではないが、タバサは違った。

 タバサはコルベールへと一瞥を呉れ、それだけをして、またキュルケの後に続いた。

 独り切りになった後、コルベールは顔を両手で押さえ……深い溜息を吐いた。

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