ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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2人の温度差

 空に浮かぶ太陽や月すらをも照らし返すだろう程に輝く金色の長髪を棚引かせる少女が天幕の中で、藁束を纏めて布を置いただけの簡易ベッドの上に座って居る。

 彼女は、隣で立ちっ放しで在る俺を見詰めて来る。

「ルイズとサイト君、大丈夫かな?」

「大丈夫。今はまた、あれだが、直ぐに」

「其れも、“千里眼”とかの御蔭成の?」

「そうさな……俺が持つ“スキル”の殆どは、“宝具”の恩恵に依るモノだが……まあ、そうだと言って置こうか」

 俺は、竪琴(キヌュラ)を“投影”し、“戦果総般”で“治癒の竪琴”を獲得し、演奏を開始する。

 

 

 

 

 

 桃色掛かったブロンドの少女が、マントを素肌に巻き付けただけの何と最早悩ましい格好でベッドの上に横たわって居る。

 其の秘密を知る“王軍”の一部の幕僚の間で、“虚無(ゼロ)のルイズ”などと呼ばれる様に成ったルイズ・フランソワーズで在る。

 今は年末、“ウィン(12)”の月の第2週で在り、“ハルケギニア”の気候では、未だ秋の此の季節……天幕の中は然程寒く無いと云えるだろう。冬は年が明けねば遣って来無い。だからこそそんな悩ましい格好をして居られるので在るのだが。

 藁束を纏めて布を置いただけの簡易ベッドの上、ルイズは小指を咥えて詰まら無さそうに眉を顰める。

 そんな仕草が、愛らしいと想わせる。陶磁で造られた人形で在るかの様な頬に、不満の桃色を浮かべさせ、ルイズは起き上がって膝を抱えた。其の仕草もまた愛らしいと云えるだろう。気持ちが直ぐ顔に出るルイズは、自分の中で揺らぐ不安を隠し切る事が出来無いで居るので在る。其の不安が、ルイズの少女としての部分を幾分脱皮させ、色気と云う名の香水を軽く纏わせて居るのだろう。

 ルイズは、自身が纏うマントの下に在る細く長く伸びた足を手持ち無沙汰に撫でる。指が爪先に向かい、また膝迄引き返して行く。

 ルイズは知らず知らずの内に、そんな色気の有る仕草を見せようとして居るので在った。

 終いには羽織って居るマントを軽くズラして、伸びた素足を、細いが艶やかな太腿を衒そうとする。無意識に、だ。マントの下は素肌。情動に色付く少女の肌が其の儘で在る。詰まりは、何も着て居無いので在る。何故かと云うと、普段からルイズは寝る時はネグリジェしか身に着け無いのだ。ネグリジェを持って来る事を忘れたが為に、今はマントで代用して居るのだ。下着を着けると、窮屈で眠る事が出来無いルイズ成ので在った。

 そんな格好でルイズは、小指を噛んだりして居るので在る。

 否もう、早此の瞬間、許せ無い程に、悩ましく可愛らしいルイズの姿で在るのだが……勿体無い事に、天幕の中のもう1人はそんなルイズに気付か無いで居る様子で在った。

 

 

 

 ルイズが身体に巻き付けて居るマントの背中には“トリステイン王家”の“百合紋章”が描かれて居る。そう。“学院”で着て居る其れとは違うのだ。敵味方識別の為の其の紋章は、此処が戦地で在る事を示して居る。

 女王陛下直属の女官で在るルイズとシオンには専用の天幕が其々与えられたのだ。

 軍港で在る“ロサイス”には、宿舎に成る様な建物は少ないのだ。其の為、至る所には天幕が張られて居るのだ。

 そんな中、ルイズとシオンは将官に等しい扱いを受けて居る。ルイズの“伝説の系統魔法――虚無(ゼロ)”、そして其れを護衛為る才人やシオンは所謂切り札で在る為、当然の処置とも云えるだろう。

 ランプの灯りに照らされた内部には、藁束の上に布を敷いただけのベッド、折畳式のテーブル、身の回りのモノを入れるチェストに、従兵を呼ぶ為のぶら下がった鈴が在る。天幕の調度品は戦地にしては其れ成りに豪華で在った。

 そんな天幕の隅っこで、才人は真っ直ぐに前を見てボンヤリと落ち込んで居るので在った。

「ねえ、サイト」

 ルイズが言葉を掛けるのだが、返事は無い。

 ルイズは身を起こすと、もう1度声を掛けた。

「ほら寝るわよ。此方来て」

 ルイズは頬を染めて、そう告げるのだが、やはり返事は無い。

「もう10時過ぎてるし。明日は早く起きて前線の視察に行くんだから、ちゃんと寝てよね」

 其れでも才人は応え無い。異世界――“地球”から来たルイズの“使い魔”で在る彼は、胡座を描いてボンヤリと沈んで居るのだ。1週間前からこうで在る。

 ルイズは才人をこんな風に落ち込ませる事に成った作戦を想い出し、小さな胸を痛めた。

 此の“アルビオン”の港町“ロサイス”を“トリステイン”と“ゲルマニア”の連合軍が占領したのは、つい1週間前の事だ。北方の港町“ダータルネス”に“アルビオン”軍主力を吸引した御蔭で、此の“ロサイス”には僅か500程度の守備隊しか存在し無かったのだ。60,000の上陸軍は、難無く守備隊を打ち破り、“ロサイス”に陣を構える事が出来たと云う訳だ。

 其の吸引作戦を行う際に、ルイズの“虚無”が活躍をした――使用されたので在る。“虚無”の“呪文”の1つ――初歩の初歩“イリュージョン”。巨大な幻影を造り出す事が可能な“呪文”で在る。

 ルイズが唱えた“イリュージョン”に依り、“ダータルネス”に上陸せんとす連合軍の幻影を造り出し、“ロサイス”に向かって居た敵軍を見事引き返させたので在る。

 然し……ルイズ達が、“ダータルネス”に辿り着き其れを実現させる事が出来たのは、犠牲が必要だった。

 “アルビオン”侵攻軍総旗艦“ヴュセンタール号”に搭載されて居た第二“竜騎士”中隊。彼等が敵を引き付けて呉れたが御蔭で、ルイズと才人の乗った“ゼロ戦”、そして俺とシオンが乗った“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”は敵軍“竜騎士”部隊の追撃を逃れたので在った。

 作戦の成功と引き換えに……第二“竜騎士”中隊は全滅をした。

“竜騎士”は貴重で在るのだが、敵前上陸で発生するで在ろう損害と比較すると小さな犠牲で在る事は判る。指揮官は賞賛されて良いだろうし、喜ぶ可き事態ですら在るだろう。

 唯、其の作戦に参加して、其の全滅を目の当たりにした者達には、また別の感想が有るので在った。

 ルイズはそんな才人を見詰めて、(其りゃ、確かに哀しいけどさ……)、と唇を尖らせた。

 上陸に際しても、犠牲は当然派生して居る。戦に死は付き物で在るのだ。1人1人の死を悼んで居たら切りなど無いだろう程にだ。

 “ハルケギニア”では戦は年中行事で在ると云えるだろう。

 そう云った事も在って、ルイズ達にとっては死は悲しむ可き事では在るが、同時に身近な存在でも在ったのだ。

 ルイズは立ち上がった。淡い、ランプの灯りだけの部屋の中は薄暗い。此の位で在れば、少し位マントの合わせがズレても、素肌が見える事は無いだろう。

 ルイズはマントの裾をギュッと握って、抱き締める様な手付きで身体を前で交差させる。そして、才人の元に向かい、膝を抱えて居る彼に後ろから声を掛けた。

「元気出して」

 才人は、「うん」、とポツリと呟く。

「でも、仕方無いよね。眼の前であんな事が在ったんだもの。幾ら任務の為とは言え……」

 才人は落ち込んで居る。

 ルイズは、あの少年達が才人と幾らも変わら無い歳だった事に、はたと気付く。そして、(サイトはきっと……自分を重ねて居るんだ)、と想った。此の何を考えて居るのか判ら無い、異世界から来たルイズの優しい少年は、自分を重ねて傷付いて居るのだった。ルイズは何時か才人が自分にして呉れたのと同じ様に、今度は自分が慰めて遣りたいと想った。だが、どう為れば良いのかまるで判ら無いでも居た。

 ルイズはチョコンと、才人の背中合わせにしゃがみ込んだ。

「あのね? こんな事言うと、私が非道く残酷な様に聞こ得るかも知れ無いけど……私あの人が死んだ事選り、サイトが落ち込んで居る事の方が哀しい。何かそう想う自分が嫌だわ。でもそう成の。やっぱり其れってあんたが身近だから成のかな? あのね、ほんとに哀しいのよ」

 才人はユックリと振り向く。そしてルイズをジッと見詰めた。

「死は哀しいけれど……其の、名誉な戦死よ。名誉の……彼等は偉大な勝利の為に死んだの。だから悲しんだら、彼等が可哀想よ」

「本気で言ってるのか? そんな事」

 才人は、ルイズの言葉に違和感を覚えた。

「本気な訳無いじゃ成い。でも本気に成ら為くちゃ。今は戦成のよ」

 ルイズは右手のマントの裾から離し、振り向いた才人の額をユックリと撫でた。頬に伝わる涙の後を指で(なぞ)る。

 才人は首を振って、泣き出した。

「俺は……彼奴等の名前も知ら無いのに……」

 遣り切れ無いと云うか、赦せ無かったので在る。

 任務の為に死ぬ。名誉の為に死ぬ。

 そんな感覚が、才人には想像する事が出来無いのだ。

 才人は、コルベールからの手紙、そして其れに記載されて居た内容――「納得するな。慣れるな」と云った事を想い出し、(殺し合いに慣れるな。慣れるもんか)、と想った。

 

 

 

 ルイズはそんな才人の泣き顔を見て居たら、切無く成って仕舞った。

 先程の言葉は嘘では無い。彼等の事は悲しいが、国の勝利の為に死んだので在るだのから。

 ずっと“貴族”として育てられたルイズと、比較的平和な“地球”中でもトップクラスに平和的な“日本”で育った才人の価値観を始めとした温度差で在った。

 ルイズは才人の泣き顔を見て居る方が、切無く成ってしまうのだ。死者を悼む選りも、生者の悲しみを和らげたい。才人の持つ涙を優しさと云う乍ら、其れももう1つの優しさ成のかも知れ無かった。

 ルイズは、(こんな時、どうすれば良いんだろう? 傷付いて居る男の子を慰めるにはどうしたら良いんだろう? そして……あのメイド成らどうするのかしら?)、と考え、少しばかり想像力が働いた。(きっと……自分の身体の暖かさでも使うわ、あの平民には其の位しか無いものね)、と想う。

 ルイズはそんな風に考えて居ると、(そ、其の位私にだって出来るもん)、と想い、激しく癪に障った感情を覚えて仕舞う。

 何時だか押し倒されて、散々に首筋にキスをされた時の事を想い出し、かぁっと頬を染めた。

 唯興奮して伸し掛かって来ただけだった(ルイズはそう想って居た)為に、ルイズはあの時の才人を赦して居無い。其れはもう、断然赦して居無いので在る。(“好き”とか言ったのも、きっと其のそーゆー事がしたかっただけ何だわ)、と想うのだ。

 そう考え想うと、ルイズの中で激しい怒りが湧き出て来る。湧いて、自分の事もまた赦せ無く成って仕舞う。何せあの時の彼女自身もまた、一瞬、其の勢いに流されたとは云え、振り上げた手を下ろして仕舞ったので在るのだから。

 ルイズは、(其れって其の、詰まり其の)、と想うが、直ぐに心の中で首を横に振る。(あれね、別に受け入れた訳じゃ無いの。だって、強引何だもの。つい、よ。つい。)、と何がつい何だか理解ら無いがそう考え、兎に角ルイズは頬を染めて才人を抱き締めた。そして、(“使い魔”を抱き締める何て、ホントは良け無い事で在るだろう。身分の差って在るじゃ成い、ねえ。食卓に着かせる位成ら未だ御慈悲だけど、抱き締めって此りゃもう御慈悲じゃ成い) 、とも考えた。

 ルイズは何成のかしらと首を振った。不思議な事で、心拍数が上がるので在った。非情な戦場の空気をも溶かして仕舞う位に鼓動のリズムが上がって行くのだった。

 然し……其れでも才人は元気が無い。

 ルイズは、(之じゃあ甘いんだろうか? 抱き締めるだけじゃ駄目何だろうか? 元気に成って欲しい。好きでも何ても無いのよ。でもほら、“使い魔”がこんな状態では、今後の任務に激しく支障を来すじゃ成いの)、と考える。

 ルイズは、何時だかシエスタが汗を拭く振りをしてシャツの隙間をチラッチラッと見せ付けて居た事を想い出す。ルイズも頑張って真似をしてみた。其れはもう頑張ったと云えるだろう。“貴族”としてのプライドをかなぐり捨てて、チラ見せなど、をしてみた。(“使い魔”の事何か何とも想って無いけど、負けるのが癪だから)、と自身に言い聞かせる。

 だが、才人の視線は動か無い。

 ルイズは、今の自分の格好を想い出す、マントの下は素肌で在る。下着1枚、身に着けて居無いので在る。

 ルイズは深呼吸をした。(ちょっとだけ。此の位でサイトの悲しみが少しでも和らぐの成ら……遣ってみる価値は在るんじゃ成いだろうか?)、と想うが、(駄目よルイズ。結婚もして無い相手に、素肌を見せる何てとんでも無いのよ。“使い魔”成ら良いけど……今はどー何だろ? 見せたら大変成のよ。結婚し為きゃ何成いのよ。そう決まってんのよ。私結婚為るの? 誰と? 此の“使い魔”と? 無理よ! 無理! だって平民の異世界人じゃ成いの!)、とも考え、沸騰して、頭がパンクしそうに成る。

 才人はボンヤリとそんなルイズを見詰めて居る。其の目には何の感情も浮かんで居無いのが判る。

 クスン、とルイズ迄切無く成って仕舞う。(其の悲しみを癒して上げたい。サイトは私の事好き成のかしら? そう言えば“好き”とは言ったけどあれどうせ身体が目当てでしょ。でも私の身体って魅力的成のかな? どう成のか理解ん無い。ええいもう此の馬鹿!)、とも想う。

 そんな感じに訳理解ん無く成ってしまい、本格的にルイズの頭の中が爆発して仕舞う。

 ユルユルと両手で閉じたマントの合せ目を開こうとした其の時……。

 死者を悼む優しさ、そして生者を慰めようと為る優しさ、そんな2つの優しさが、触れ合おうとした其の時……。

 ブオンッ!

 と、突風で天幕が吹っ飛んで仕舞った。

「な、何だッ!?」

「何よ!?」

 才人とルイズは同時に絶叫した。

 天幕の側に何かが着陸をしたらしい。

 見ると1匹の“ウィンドドラゴン”で在った。

 上には“竜騎士”達の姿が見える。

「て、敵だッ! 敵ッ!」

 慌てて剣を掴んだ才人に、“ウィンドドラゴン”の上からヒョッコリと顔を出した男が呟く。

「おや君は」

 其の顔を見て、才人の目が真ん丸に見開かれた。

「あ―――――――――――ッ!?」

 何と、“ウィンドドラゴン”に跨って居たのは全滅したと想われて居た“竜騎士”達の姿で在った。

 口をあんぐりと開けて、才人は呟いた。

「……な、何で?」

「話せば長く成るんだが……」

 小太りの“竜騎士”が口を開き、周りの“竜騎士”達もまた気不味そうに目を伏せて居る。

「話は後にしよう。そ、其の……邪魔して御免」

 と、照れた様な口調で小太りの隊長が言った。

 素肌にマントを羽織っただけのルイズは、唖然として才人に寄り添って居るのだ。

 ルイズは思いっ切り才人を突き飛ばして怒鳴った。

「なな、何もして無いわよ!」

 2つの優しさの温度差が、奇跡でも起こしてみせたのかも知れ無い。

 空の露と消えたと思しき“竜騎士”達が、残らず勢揃いして居たのだ。

 “竜騎士”達は、乗って来た1匹を除いて騎乗した“ウインドドラゴン”を失って居たのだが……兎にも角にも一人残らず無事に戻って来た。

 才人とルイズは、喜ぶ選りも前に、口をあんぐりと開けて放心して仕舞ったのだ。何が何だか理解ら無かったので在る。

 そんな一同の耳に、竪琴(キヌュラ)に依る音が聞こ得て来る。

 そして、此処“ロサイス”に居る、疲れ切った兵達を癒やした。

 

 

 

「御前達、どうして……?」

「否其の……自分達にも良く理解ら無いのです」

 突然の騎士達の帰還に、“竜騎士大隊本部”の天幕の中に居た大隊幕僚の全員は目を丸くした。

 全滅から1週間が過ぎて居るのだ。而も此処は敵地で在る“アルビオン大陸”だ。生存は絶望視されて居たので在る。

 3つの“竜騎士”中隊を束ねる、 “第二竜騎士大隊”隊長のギンヌメール伯爵は、取り敢えず両手を広げて奇跡の生還を果たした勇者達を迎え入れた。

「まあ良い! 取り敢えず生還を喜ぼうじゃ成いか! 信じられ無い! 正に奇跡の生還だな!」

 天幕の中が拍手と歓声に沸いた。

 此処迄案内して来た才人とルイズ、途中で合流をした俺とシオンの隣で、はにかんだ笑みを浮かべて居た少年“竜騎士”は確りとした声で呟く。

「全く以て、自分にも信じられ無いのですが……」

「而も傷迄療えて居るでは成いか」

 生還した皆の身体を改めて居た騎士が、驚いた様な声を上げる。

「はい」

「敵が手当をして呉れたのか?」

「いえ……判りません。兎に角自分達が体験した事を、全て報告します」

 隊長の少年騎士が、天幕の中の皆へと報告を始めた。

 未だ多く残って居た“竜騎士”に囲まれた“第二竜騎士中隊”は、敵の“魔法”攻撃を受けて、1騎、1騎と確実に仕留められて行った事。

 略全員が“竜”と一緒に深手を受けて、地面へと落ちて行く最中、意識を失った事。

「で、意識が戻ったら?」

「皆と一緒に、“ウィンドドラゴン”の背中に乗って居りました。“ウィンドドラゴン”に任せて飛ぶと、此の“ロサイス”に到着しました。為ると1週間経って居たと云う訳で。はい」

「撃墜されてから、今日迄の記憶が無いと言うのか?」

 “竜騎士”達は顔を見合わせた。

「はい。殆ど残って居りません」

「おいおい、1週間もの間の記憶が無いのか?」

「そう何です」

 “竜騎士”達は恥ずかしそうに首肯いた。

「1匹だけ生き残ったあの“ウィンドドラゴン”は誰のだ?」

 幕僚の1人が尋ねる。

 1人の“竜騎士”が手を挙げて、「自分のベイヤールです」、と言った。双子の片割れの少年だ。

 ギンヌメールは彼に注意を向けた。

「状況は?」

「敵に囲まれた時、“竜”選り先に自分が遣られたんです。肩に“マジック・ミサイル”を喰らって……ベイヤールは、そんな自分を逃がそうとしたんでしょう。遣られた様な振りをして、低空に逃れて呉れました」

 少し恥ずかしそうな口調で在った。他の“竜騎士”は、“竜”も自分もボロボロに成り乍ら、戦闘を持続したからで在る。

「戦闘が不能に成れば離脱するのは当然の義務だ。恥じる可き事では無い」

 大隊長にそう言われ、少年は顔を輝かせた。

「有り難う御座います」

 ギンヌメールは、(全員が無事に帰って来た事は嬉しいが……怪しい事が多過ぎる。引っ掛かるのだ。一体誰が傷付いた“竜騎士”達を救って怪我の手当をして、1匹だけ生き残った“ウィンドドラゴン”に乗せて、此の“ロサイス”に向かわせたので在ろう? 敵の罠かも知れ無い)、と考え乍ら口髭を扱いた。

 撃墜した“竜騎士”を確認す可く、敵の捜索だって在ったに違い無い。其れ等を摺り抜けて、彼等は帰還したのだから。

 ギンヌメールは、一列に並べ、と言って“竜騎士”達を並ばせた。部下に命令して、“ディクトマジック”を使い、帰還した少年騎士達の隅々迄調べて行く。敵に操られて居るかも知れ無いと勘繰ったので在る。

 然し……結果は白で在った。少年達の何処にも、“魔法”で操られて居る形跡は無かった。

 其れ以上訊ねる事も無く成ってしまい、ギンヌメールは退出を促した。

「“竜”が残った貴様は、第一中隊の指揮下に入れ。残りは“竜”が無いじゃ仕方が無いな。ああそうだ」

 ギンヌメールは完全に蚊帳の外でボンヤリと突っ立って居るルイズと才人、そしてシオンと俺の方を見詰めて来た。

 彼は、此方の、況してやルイズの正体などを知る筈も無く、“王室”から派遣された何か特殊な“魔法”兵器を使用為る女官と聞いて居た。兎に角丁重に扱えとの指示が、総司令部依り全軍に出て居るのだ。

「“竜”の補充が来る迄、ラ・ヴァリエール嬢とエルディ嬢の護衛に着け。では、退がって良し」

 

 

 

 大隊本部の天幕を出た後……“第二竜騎士中隊長”だった太っちょの少年は、俺達へとペコリと頭を下げた。

「と言う訳で君達の指揮下に入る事に成った。宜しくな」

 才人は瞼の下を拭い乍ら、其の身体に抱き着いた。

「死んだと想った」

「否……そう言えば忘れてた事が在ってさ。簡単には死ね無かったよ」

「忘れてた事?」

 キョトンとした顔で、才人が尋ねる。

 太っちょの“竜騎士”はニコッと笑った。

「君達に名乗って無かったな。“トリステイン竜騎士”、ルネ・フォンクだ。宜しく」

 才人も名乗った。

「平賀才人だ」

「セイヴァー、とでも呼んで呉れ」

 変わった名前だな、とルネは笑った。

 才人は半泣きで笑って叫んだ。

「じゃあ今日は呑むか! 生還祝だ!」

 

 

 

 一行は、ルイズ達の天幕迄遣って来て、其処で宴会が始まった。

 生還出来た喜びからか、皆ガンガン呑ので酔い潰れるのが早い。

 気付くと、起きて居るのは才人とルネ、そして俺だけに成って仕舞った。

 先程“ウィンドドラゴン”に吹き飛ばされた所為で、天幕には裂け目が出来て仕舞って居る。其の隙間から星が見える。月も見えた。

 夜の空気が入って来て、少しばかり冷える。

 才人は身震いした。

「でも、そん何落ち込んでた何てな。否、心配掛けてすまない」

 シンミリした口調でルネが言った。

 先程ルイズは、「あんた達の御蔭で“使い魔”が落ち込んで大変だったのよ!」とルネ達を責め捲くって居たので在る。其れを聞いて「変な奴だな!」と彼等は笑い転げた。其の笑い転げた理由が才人には理解ら無かった。

 そんな風に騒ぎ捲って居たルイズは今、才人の膝に頭を乗せてスゥスゥと寝息を立てて居る。才人を心配し続けた事と、怒鳴ったりした事で疲れたのだろう。

「落ち込んだら変成のか?」

 そう才人が尋ねると、ルネは微笑んだ。

「切りが無いだろ?」

「切りが無い? どう言う意味だよ?」

 才人は問い返した。

 ルネはグビッと直接ワインを呷った。ふっくらした頬を酒の酔いで染めて、首肯く。

「今は戦争だぜ? 一々見ず知らずの他人が死んだからって、落ち込んでたら切りが無いだろ」

「別に見ず知らずじゃ無えだろ。口だって利いたんだし。吐うか自分達を守って死成れたら、其りゃあ落ち込むだろ! 御前等可怪しいよ!」

 才人はクイッと酒を呷った。

 ルネは少しばかり真顔に成って、「別に君達を守って死のうとした訳じゃ無い。僕達が守ったのは、作戦で在り、引いては僕の名誉だ」

「どう云う意味だよ?」

「あの時は、 “君達を何が何でもダータルネスに送り届けろ”、と命令されて居た。其の作戦を守る事は、“王軍”全体を守る事で、詰まり陛下に忠誠を尽くす事に他成ら無い。陛下に忠誠を尽くしたと認められれば家名も上がる。僕が死んでも名誉は残る」

「馬鹿気てる。そう想うだろ? セイヴァー」

「おいおい言葉に気を付けろよ! 君は平民だから理解らんかも知れ無いが……“貴族”にとって名誉とは、命選りも大切なモノ何だから!」

「全く、俺は“貴族”何かじゃ無くって良かったよ」

「そうだな、僕達みたいな下級“貴族”に生まれる位成ら、平民の方が気楽に過ごせるな!」

「下級“貴族”?」

「そうさ。侯爵伯爵何かの大“貴族”と違って、此方人等代々雀の涙の俸給金暮らし……金が無いんじゃ見栄も張れ無い、格好も付か無い、其れが嫌成ら戦場で頑張って、認めて貰うしか無いんだよ。戦で手柄を上げれば、領地だって戴けるかも知れ無い。叙勲されれば年金も付く。だから皆死に物狂い成のさ。生死の危険何か構ってられ無いよ……ふぁ……」

 暫く目を瞑って考え込んでから、才人は言った。

「……でもよ、死んだら終わりじゃ成えかよ。何で御前等“貴族”は、そうアッサリ死ぬとか名誉とか言うのよ。ばっかじゃ成えの?」

 ルネからの返事は無い。

 見ると、既に寝息を立てて居た。

「ぐぅ……」

「……何だよ。好きなだけ捲し立てて寝ちまい遣がった」

「仕方無いさ。此奴等は生死の境目を彷徨い、漸く自国の軍の元に帰って来れたんだから」

 才人は、(全く、“貴族”って連中は勝手だよなぁ。ルイズだってそうで在る。あれだけ“あんたの帰える方法探さ為くちゃね”と言いつつ、戦争が始まったら其方に夢中で在る)、と不満そうな様子を見せる。(そんな我儘ルイズに流される儘に付き合ってる自分は阿呆何だろうか? ……俺は何の為に命懸けで戦ってるんだろ? 幾つかの理由は想い付く。可哀想な姫様の力に成りたいから。優しいシエスタの故郷を守りたいから。でも、1番大きな理由は……ルイズが心配だから。之に尽きるんだろうな)、と膝の上で寝息を立てて居る、桃色のブロンド少女を見て想う。ぶっちゃけ惚れて居るから、放っとけ無いので在る。

 そして、才人は、(ルイズ可愛い。ルイズに触りたい)、と想って居るだろう様子を見せる。だが、俺を始め何人も人が居る為に我慢をして居る。

 才人は、(嗚呼、俺のそんな気持ちが報われる事は在るんだろうか? 其の成否は神様にしか判ら無えな。“地球”の神様と、異世界の神様、何方に訊けば判るんだろ?)、と其処迄考えて、首を横に振り、(阿呆か。何どうでも良い事考えてんだ俺?)、と考える。

 其の時……才人の頭の中で、不意に先程のルイズの台詞――「死は哀しいけれど……其の、名誉な戦死よ。名誉の……彼等は偉大な勝利の為に死んだの。だから悲しんだら、彼等が可哀想よ」と云った台詞が蘇る。其の言葉に対して、才人はやはり違和感を覚え、埋める事が難しいルイズとの距離を感じた。膝の上で寝息を立てて居るルイズを遠く感じるので在った。之だけ近くに居る筈成のに……どうしてそんな風に想えてしまうのか、才人には其の理由が判ら無いで居るのだ。

「なあセイヴァー……」

「何だ?」

「名誉の戦死ってどう想う?」

「さてな……名誉かどうかなど、死ぬ直前の本人が、そして、遺された者が決める事だろうよ。結局の所死は、死だ。平等で、無慈悲で、逃れる事など簡単に出来無い代物だ。御前達人間は、そんな代物に意味を付ける事も、見出す事も出来るんだからな」

 才人は、「はぁ、寝よ」、と言って、膝の上にルイズを乗せた儘、こてんと横に成る。

 俺は、隣で寝て居るシオンや、他の皆を起こさ無い様に“霊体化”して外に出て、再び実体化し、もう1度竪琴(キヌュラ)を“投影”し、“治癒の竪琴”で以て演奏を開始する。

 此処“ロサイス”に居る皆が抱える、戦に依る身体的、そして精神的な疲労が取り除かれる様に。

 2つの月が……そんな悩める才人を慰める様に、そして俺が行う演奏を幻想的に想わせるかの様に皓々と光って居る。

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