ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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サウスゴータの古都

 “シティオブサウスゴータ”の城壁から、1“リーグ”離れた突撃開始点で、“ド・ヴィヌイーユ大隊”350名は、喇叭の合図を待ち構えて居た。

 上陸から15日が過ぎた今日、遣っとの事で攻勢が開始されたので在る。

 “第二中隊”を率いるギーシュは、小刻みに震え乍ら朝靄の無効に烟る“サウスゴータ”の街を見詰めた。

「中隊長殿」

 側に控えた中隊付き軍曹のニコラが、ギーシュにソッと呟いた。

 ギーシュは、「な、なな、何だ?」、と震える声で問い返した。

「“杖”を落っことしてますぜ」

 ギーシュは自身の足元を見詰めた。

 其処には薔薇を模した、己の“魔法の杖”が転がって居るのだ。慌てて拾い上げ、精一杯の威厳を保とうと為乍ら其れを胸ポケットに刺した。

「中隊長殿」

「な、何だ?」

「大きな御世話かも知れませんが、小便を垂れと居た方が、良いですぜ」

 ギーシュは、ニコラを睨んだ。

「済ませた」

「結構で」

 ニコラは其れから、微笑みを浮かべた。

「緊張する事は在りませんや。敵の大砲は先日の艦砲射撃で殆ど潰したって言うし、何故か配備されてるのは“亜人”の部隊だけって話じゃ成いですか」

「あ、“亜人”は凶暴で、でっかくて……」

 ニコラは前を見て、「でも、与し易い相手ですよ」、と言った。

 ギーシュは、此の火縄銃を担いだ小男を見詰めた。ギーシュにとって、初の実践と云えるだろう。キュルケが言い出した事で遣った宝探しで行った殺し合いなど児戯に等しいモノだろう。他に頼りに成るだろう者は居無い、そう想うと、彼が何な大男選りも大きく見えた。

 ギーシュが「でも……一体何処から攻めれば良いんだ? 此の街、周りは高い石壁で囲まれてるし……」と尋ねると、ニコラは「今、工事してますよ」と言って首肯いた。

 其の儘待って居ると、艦隊が上空に現れた。十数隻の戦列艦は1列に並ぶと、城壁に向けて砲撃を開始する。空に浮かんだ艦隊に、敵は為す術も有る筈も無い。

 ドォーーーンッ!  ドォンッ!  ドンッ! と煙と砲撃音共に、城壁が壊れて行く。突撃開始点に控えた兵士達から歓声が沸いた。

 砲撃で何箇所か、城壁が崩れた場所が出来た。

 次いでのっそりと現れたのは、巨大な土“ゴーレム”達で在る。

「“トライアングル・クラス”が造った“ゴーレム”だな」

 ギーシュは呟いた。“ドット・メイジ”で在るギーシュには、あれだけの大きさをした“ゴーレム”を造り出す事は未だ出来無い。ギーシュは、感嘆して、見上げる。嘗て“トリステイン”の城下を賑わせた、“土くれのフーケ”が操る其れに比べると小柄では在るが、其れでも相応の大きさを誇る“ゴーレム”が眼前に居るのだ。

 身長20“メイル”程の土“ゴーレム”が、ズシン、ズシン、と地響きを立てて、崩れた城壁へと近付く。土“ゴーレム”は、其々作成者の家の幟を背中に立てて居る。見慣れた紋章に気付き、ギーシュは歓声を上げた。

「兄さん! 兄さんの“ゴーレム”だ!」

 果たして其れはグラモン家の幟で在った。“王軍”所属の次兄に違い無い、とギーシュは確信する。“ゴーレム”の背中に翻る幟に、薔薇と豹、グラモン家の紋章が光って居るのだ。

 近付く“ゴーレム”の一体に向かって、シュンッ! と巨大な何かが飛んだ。ボゴッ! と巨大な穴が一体の“ゴーレム”の腹に空いた。其の“ゴーレム”はバランスを崩し、地面へと崩れ落ちる。近寄る“ゴーレム”目掛けて、其の銀色の陽光は次々に飛んだ。何体かの“ゴーレム”が、喰らってバラバラに成って仕舞う。

 ギーシュが「何だあれは?」と呟くと、ニコラが「巨大バリスタでさ」と答える。

「恐らく、“オーク鬼”が扱って居るんでしょうなあ。3“メイル”程も在る、デッカイデッカイ矢を飛ばす、ボウガンの御化けみたいなもでさ。人間何かが喰らった日には、バラバラに成っちまう、ま、ヒトを撃つもんじゃ在りませんけどね」

 ギーシュはハラハラ為乍ら、兄の“ゴーレム”を見詰めた。其の“ゴーレム”の足元に矢が刺さる。幸運にも、ギーシュの兄の“ゴーレム”は生き残って居た。

 そんなギーシュを見て、ニコラが尋ねた。

「中隊長殿は、グラモン家の係累で?」

「末っ子だ」

 ギーシュが答えると、ニコラは目を丸くした。

「元帥の!? おったまげた! 何でまたこんな場末の鉄砲大隊何かに? 父上の御名前を借りれば、近衛隊の騎士隊だろうが、一流の連隊参謀部だろうが、御望みの儘でしょうが!?」

「父の名前を使ったら、僕の手柄に成らんじゃ無いか」

 前を見詰めた儘、ギーシュは言った。

 ニコラは唖然として居たが、其の内にニッコリと笑みを浮かべてギーシュの肩を叩いた。

「気に入りましたよ、坊っちゃん。此りゃあ手柄を立てん事には国には帰えれませんなあ!」

 其の内に、“竜騎士”の部隊が遣って来た。城壁の上に運び込まれたバリスタに向かって、ブレスや“魔法”が飛び、バリスタは沈黙した。

 生き残った“ゴーレム”は遣っとの事で、先程の艦砲射撃で壊れかけた城壁に辿り着き、取り付き、瓦礫を取り除き始めた。

「入り口を作ってるんでさ」

 彼処から自分達は突入するのだ、とギーシュは震えた。

「震えてますぜ」

「……む、武者震いと言いたいが……恐いだけだな。うん」

「正直で好いですな、勇気を奮ったって手柄は立てられ無え。かと言って臆病もんでも困っちまう。兎に角任せて於いて下せえ」

 ニコラは後続の兵、100人程の銃兵に向かって手を振り上げた。50人程度の短槍隊が、護衛に就いて居る。総勢150人程の中隊が、ギーシュの手勢だ。

「弾込めぇーッ!」

 のそのそと銃兵達は、銃に弾と火薬を込めた。

「中隊長殿、御手数ですが、此奴に火を頂けませんかね?」

 ニコラはギーシュに火縄の束を差し出した。

 ギーシュは首肯くと、火縄に“着火”の“呪文”で点火させる。

 ジジジ、と火縄が燃える音と共に、焦げ臭い匂いが辺りに漂う。

 ニコラは兵隊を呼び寄せて、火の点いた火縄を配らせた。

「中隊長殿から頂いた火縄だ! 消え無い様に注意しろよ!」

 余り遣る気の感じられ無い掛け声が響いた。

 ガラン、と“ゴーレム”が取り付いた城壁が崩れる。

 同時にニコラは、ギーシュの腰を突いた。

「中隊長殿、行きますぜ」

 ギーシュは震え乍らも“杖”と勇気を掲げ、「グ、グラモン中隊前進!」、と大声で命令を下す。

 ヨタヨタとヨボヨボの老銃兵達が後に続く。

 其の時にギーシュは、(突撃して居るのは自分の隊だけじゃ成いか! 未だ突撃の命令何か出て居無い!)、と気付いた。そして、「お、おい、軍曹……」、と文句を言おうとしたが、ニコラは涼しい顔をして居る。

 勢い付いた隊はそう簡単には止められ無い。其の儘前進するしか無い。

 数秒後、後続の隊からも「突撃!」の声がギーシュの耳に聞こ得て来た。

 打ち寄せる波の様に、兵が、騎士が、追い掛けて来る。

「家とこは老兵ばっかですからね、早目に出発して置か為いと、間に合わ無えでさ」

 スタートを早く切った御蔭か、ギーシュの隊は1つの城壁の割れ目に、1番初めに辿り着く事が出来た。然し何人かの騎士達が、そんなギーシュ達を追い越して街の中へと飛び込んで行く。

「一番槍だったのに!」

 そう言って飛び出そうとしたギーシュを、ニコラが押さえ付ける。

 次の瞬間、飛び込んだ騎士達が、馬毎吹っ飛んだ。グシャグシャに成ってギーシュ達の前に投げ出される。城壁の向こう――街の中には、大きな棍棒を構えた“オーク鬼”が、飛び込んで来る間抜けを待ち構えて居るので在った。

 体重がヒトの平均値の5倍は有るだろう巨大な豚に似た“亜人”。そんな“オーク鬼”は、ギーシュ達を見付けると、突っ込んで来ようとした。

 ギーシュは、宝探しに行った時の事を想い出す。あの時、“ワルキューレ”はボコボコに遣られて仕舞ったのだった。

 そう云った経験から、ギーシュは恐怖に駆かられて仕舞う。

「撃て! 撃て撃て!」

 慌ててギーシュが叫ぶと、素早くニコラが反応した。

「未だ撃つな! 中隊長殿! 1番後ろの奴に転ばす“呪文”を! 早く!」

 ギーシュは恐怖に駆られ乍らも、ニコラに言われた儘に薔薇の造花を振った。

 ニョッキリと地面から生えた腕が、最後尾の“オーク鬼”の足に絡み付く。

 ドウッ! と狭い城壁の割れ目のと真ん中に、“オーク鬼”は転んだ。

「第一小隊! 目標先頭集団! てえーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 ニコラは、次いで先頭の“オーク鬼”に集中射撃を命じた。

 30人程の銃兵が、先頭の1匹に一斉射撃を浴びせた。

 蜂の巣に成って、先頭の“オーク鬼”達が地面に斃れる。

 後ろの“オーク鬼”の集団は撃ち斃れされた先頭に支えて、身動きが取れ無いで居る。

 其の隙を逃さず、ニコラは命じた。

「第二小隊! 目標先頭集団! てえーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 少し位の鉄砲の弾を受けた所で、平気な様子で棍棒を振り回せる筈の“オーク鬼”で在ったのだが、至近距離での数十発もの一斉射撃を喰らって仕舞得ば耐えられる筈も無い。

 生き残った後続の“オーク鬼”達は逃げ出そうとするのだが、狭い城壁の亀裂の中、最後尾がギーシュの“魔法”で地面に倒れて居る為に未動きを取る事が出来無い。

 混ぜは味方の死体で支えて居り、越えようとモタモタして居る所に、残りの鉄砲隊の一斉射撃を喰らって仕舞うのだ。

 残った少数の“オーク鬼”達も例外無く、短槍隊に依る突撃を受けて、壊滅をした。

 転がった20匹近い“オーク鬼”の死体を見詰め、ギーシュは感嘆の声を上げた。

「す、凄いな……」

 再び銃兵に弾を込めさせ乍ら、ニコラは微笑んだ。

「此奴等は単純だからね。敵と見れば真っ直ぐ遅い掛かって来るんでさ」

 歴戦の傭兵軍曹は、ニッコリと笑ってギーシュの肩を叩いた。

「中隊長殿。さ、一番槍ですぜ」

 そんな風に、ギーシュの預かった残りものの大隊が中々に息の合った展開を見せて居る一方、全く息の合って居無い、侵攻軍の切り札も存在した。

 ルイズと其の“使い魔”で在る。

 

 

 

 “シティオブサウスゴータ”は、小高い丘の上を利用して建設されて居る。円形に城壁で囲まれ、中には五芒星の形に大通りが造られて居るのだ。“始祖”が初めて此の地(アルビオン)に築いた都市だと云われて居るが、真偽は定かでは無い。

 然し、綺麗に幾何学模様を描いて居るのは五芒星を描く5本の大通りだけで在り、内部は入り組んだ細い道遣ら、ゴミゴミした路地遣らが無数に入り組んで居るのだ。“ハルケギニア”の何処にでも在る街と同じだと云えるだろう。

 ルイズは必死に成って路地の1本を疾走って居た。其の隣にはデルフリンガーを握った才人が居る。様々な変装を施した第二“竜騎士隊”の面々が、後に続いて居る。

 殿を俺とシオンが請け負い、其の後ろからは10数匹程の大きな“トロル鬼”と、牙の大きな“オグル鬼”がのっしのっしと追い掛けて来て居る。何方も、身の丈は5“メイル”は在ろうかと云う巨人で在る。

 狭い路地が幸いと成り、“トロル鬼”達は、窮屈そうに横に成って歩いて居る。突き出した壁遣ら、出窓遣らを破壊し乍ら追い掛けて来る為、時間が掛かる。之が広い野原で在れば、“サーヴァント”で在る俺を除く皆は直ぐに追い付かれて仕舞う所で在っただろう。

 何故ルイズ達が、“シティオブサウスゴータ”の迷路の様な路地を逃げ惑う真似事をして居るのかと云うと、与えられた任務、そして才人が原因で在った。

 掻い摘んで説明をすると、俺達の任務は主力の突撃に呼応して反対側から街道に潜入。“イリュージョン”で幻の軍勢を作り出し、敵を混乱させると云うモノだった。

 シオンの御蔭で、潜入自体は問題無く行う事が出来たのだが……。

「何であんたは行き成り騒ぐのよ!? ねえッ!?」

 疾走り乍らルイズが怒鳴った。

 夜陰に乗じ、此の街に潜入したのは3時間程前の事に成る。

「言ったでしょ! 何を見ても驚か無い事って! ねぇ!」

「だ、だって……でかいだもん! あの“トロル”とか! “オグル鬼”とかって!」

 ルイズの“虚無”の“詠唱”には時間が掛かる。

 街の片隅で、辻説法の振りをして“呪文”を唱えて居たら……警邏の“アルビオン貴族”に質問されたのだ。

 幸い、シオンの顔も服装も第二“竜騎士中隊”の面々と同様に変装して居る為に身バレは無い。

「御前達は何者だ?」

「“古都サウスゴータ”に“始祖”巡礼の旅に参った者で御座います。“アルビオン”の勝利を祈願して、祈りと教えを捧げて居るので御座います」

 と、ルネが尤もらしい顔付きで言った為、警邏の“メイジ”は怪訝そうな表情を浮かべた。

 ルイズや変装した面々をジロジロと見詰め、「御前達……“トリステイン”や“ゲルマニア”の間諜では在るまいな?」、と尋ねて来る。

 ルイズは思いっ切り首を横に振った。

 ルネを始め第二“竜騎士中隊”の面々、シオンも俺も同様だ。

 だが、其の直後、才人が其の“メイジ”の後ろに立った巨大な“トロル鬼”に気付き、呻き声を上げて仕舞う。

「でけえ。何だ之!?」

 思わずそう叫んで仕舞った才人に、警邏の“貴族”は顔を近付けた。

「見無い顔だな……」

 怪しまれて居る事を悟った才人は、直立した。

 ジロジロと、そんな才人は、警邏の“貴族”は眺め回した。

「質問だ。“神聖アルビオン共和国第二軍”を指揮する将軍は誰だ?」

 才人は、(将軍? そん成の知ら無えよ!)、と焦り、周りを見る。

 此の場の俺を除く、皆が冷や汗を垂らしてしまって居り、才人は(自分の答えに任務の賛否が懸かって居る。でも、将軍の名前何か知ら無い)、と参ってしまう。

 グイッ! と敵“メイジ”で在る警邏中の“貴族”は、才人に顔を近付ける。

「どうした? 知らんのか? 此の地を御守りに成る将軍様の名前も知らんのか? 貴様本当に“アルビオン”人か? どう成のだ?」

 才人はパニックに陥って仕舞った。其の結果、頭の中が真っ白に成って仕舞い……。

「徳川家康」

 と、将軍繋がりで連想しただろう“地球”、尚且つ“日本”の史実に於ける代表的な偉人の名前を口にして仕舞った。

「トクガワイエヤスって何よ!? 何処の人よ!? もうちょっと当たり障りの無い事言い為さいよ!」

 失り乍らルイズが叫ぶ。

「仕方無えだろ! 其れしか知ら無えんだよ!」

「何時もの様に遣っ付けてよ! あの位!」

 そう。才人が「徳川家康」と答えた瞬間、はぁ? と呆れられ、怪しい奴! と“トロル鬼”達と“オグル鬼”達、其の警邏中だった“メイジ”で在る“アルビオン貴族”が襲い掛かって来たのだ。

 才人は其の攻撃を受け止めようとしたのだが……“トロル鬼”に吹っ飛ばされてしまったので在る。巨大な“亜人”の力は、如何に“ガンダールヴ”と云えども、真正面からで在れば持て余して仕舞う。而も其れが十数匹近く居るので在る。其れでも何時もの才人の才人で在れば倒せずとも何とか配う事位成ら出来ようが……今日の才人は勝手が違って居た。

「どうした相棒? 遣る気が感じられ無えなあ」

 才人は、敵の攻撃を受け流して居る時に、デルフリンガーに迄そんな事を言われて仕舞う始末だ。

 俺もまた、“サーヴァント”の身で在れど、敵の数、味方の数と戦力などから、守り乍ら戦い辛い為、防戦一方と成って仕舞った。

 ルネ達の“魔法”に依る援護でどうにか退け、逃げ出す事が出来たので在る。然し、殆ど“ドッド”揃いの彼等は、あっと言う間に“魔法”を撃ち尽くし、“精神力”が尽きて仕舞う。

 逃げ惑う内に追っ手は増える一方で在り、通り沿いの住人達は、窓を薄っすらと開けて心配そうにそんな捕り物を見詰めて来るだけだ。

 其の内に、街の反対側から、爆発音が聞こ得て来る。どう遣ら主力に依る攻撃が始まった様だ。

「攻撃が始まったわ!」

 ルイズは唇を噛み締めた。

 俺達は、主力の攻撃を補佐する為に背後の撹乱任務を担って居ると云うのに……失敗をして仕舞ったのだ。

「あんたの所為だからね!」

 隣を疾走る才人へと、ルイズが怒鳴る。

「ったく、何々だよ……」

 才人は悔しそうに呟いた。

 彼の左手甲の“ルーン”が眩く光る事は無く、身体が軽く成ら無いのだ。普段で在れば……“武器”を握れば羽にでも成ったかの様に身体が軽く感じ、想い描いた軌道の通りに腕や脚が、身体が自在に動くと云うのに……今は何故だかゴム紐にでも縛られたかの様に動きが鈍く牴牾しい。そう才人に感じさせて居るのだ。

 “ガンダールヴ”を始め、“虚無の使い魔”は感情の昂ぶりに依って力を発揮するのだから、今の燻った状態の才人では、平民選りは素早く動き戦える程度で在り、キレなどが無い。之では、“メイジ”や“亜人”を相手にするのは不可能で在る。

「何で肝心な時に役に立た無いの? あんたってば!?」

 苛々した声で、ルイズが叫んだ其の瞬間、前方の街角から“オーク鬼”が飛び出して来た。

 後ろから“トロル鬼”と“オルグ鬼”、前方からは“オーク鬼”と云った風に、前門の虎、後門の狼地味た状況と成る。

 ルネが唇を拭った。

「せめて空で死にたかったな」

「あの儘、墜落して死んだ方が、幸せだったかもなぁ」

 前後から敵“亜人”に挟また状況で、第二“竜騎士中隊”の面々は諦めムードを発する。

「セイヴァー……」

「遣れ遣れ、仕方無いか……」

 俺は、“王律鍵バヴ=イル”を“投影”為る。

 其の瞬間……。

 ぶおおおおおおおおおおおおッ! と、前に居た“オーク鬼”の集団が、其の身体を文字通り燃え上がらせ、斃れた。

「“竜騎士”だ!」

 ルネ達が叫ぶ。

 ルイズと才人、シオンも空を見上げた。

 空から降って来た“竜騎士隊”は散々にブレスや“魔法”を吐き散らし、敵を追い散らしてみせたのだ。

「第三中隊の連中だ!」

 白い衣装に身を包んだジュリオが、先頭の“ウィンドドラゴン”――アズーロに跨って居る。

 総勢10騎程。5騎が“トロル鬼”へと向かい、残りの5騎が俺達の周りに着陸をした。

「早く乗れ!」

 ジュリオが叫ぶ。

 慌てて才人とルイズが、ルネ達は“ウィンドドラゴン”に跳び乗る。

 だが、俺とシオンは乗ら無い。

「何をして居る!? 君達も早く!」

「俺達には構う必要は無いぞ、“ロマリアのライダー”よ。我々は我々で動く。其の者達を頼めるか?」

 俺の突然の言葉に、而も仰々しい物言いにシオンを除いた皆が驚く。

「何、まあ……こう言う事だ」

 “投影”した“王律鍵バヴ=イル”で“バビロニアの宝物庫”と空間を繋げ、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”を出し、2人して其れに跳び乗る。

 突然現れた“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”に、ルイズと才人以外の皆は驚愕する。

「き、君は一体……?」

「“サーヴァント”だよ、“ロマリアのライダー”君」

 そう俺は答え、“天翔ける王の御座(ヴィマーナ)”上昇させる。

 全ての“ウインドドラゴン”もまた、羽撃き浮かび上がる。

 気を取り直してと云った様子でジュリオが、「上空から、君達が追い掛けられて居るのが見えてね」、と言った。

 ルイズはホッと、胸を撫で下ろし、ジュリオに礼を言った。

「有り難う。助かったわ」

「礼には及ば無いよ」

 ルイズはガックリと、肩を落とした。

「私達……任務に失敗したわ。駄目ね……」

 ジュリオは地面を指指した。

「気に為無いで。余り大局に影響は無いみたいだよ」

 “トリステイン”と“ゲルマニア”両軍の勢いは激しい。

 “亜人”達ばかりの“アルビオン”軍は、慣れぬ市街戦で大柄な身体を持て余し、後退して行く様が見える。

「でも、こないだの偵察任務と言い今回の陽動任務と言い、随分と荒っぽい使い方を為るもんだね……」

 そうジュリオが言えば、ルイズは俯いた。

「君達みたいな可愛い娘を、道具としてしか、見て無いんだろうなあ。軍人って嫌だなあ」

 ルイズの後ろに跨った才人が厭味ったらしく言った。

「御前も軍人じゃ成えのかよ」

「僕は軍人じゃ無い。神官さ」

 才人はジュリオの言った事を反芻し、「そうだな、俺もそう想う」と首肯いた。

「なあルイズ。良いのか? ちょっと文句言った方が良いんじゃ成いのか? あの将軍共、セイヴァーの言葉を聞いて居たにも関わらず、俺等が何でも出来ると勘違いしてんじゃ成えのか?」

 然し、ルイズはキッパリと言い放った。

「望む所だわ。何でも出来るって所を、見せて上げようじゃ成いの」

 才人は、そんなルイズに、また違和感を覚えて黙りこくった。

 

 

 

 

 

 “ゲルマニア”と“トリステイン”の連合軍は、攻撃開始から1週間程で“シティオブサウスゴータ”を制圧する事に成功した。

 損害は軽微で在った。

 巨大な“亜人”達は、人間用に整備された市街地では上手く動く事が出来ずに、1匹、また1匹と始末されて行ったのだ。

 街をスムーズに占領する事が出来たのは、住人達の協力もまた在ったからこそだと云えるだろう。食料を徴り上げられた街の住人は“アルビオン”軍を恨み、連合軍に協力為る者達が続出したのだ。彼等は“亜人”達が潜む建物を連合軍に通報したり、共に戦ったり為たので在った。

 そして年末には“ウィン”の月の第4週、の中日で在る“イング”の曜日、“シティオブサウスゴータ”の中心の広場で、街の解放が宣言された。

 市長を始め、“シティオブサウスゴータ”の市議会員や、市民達、そして“トリステイン”と“ゲルマニア”の連合軍の首脳部の姿が集まって居る。

 広場の真ん中に設けられた台に上がって、挨拶をして居るのは連合軍総司令官のド・ボワチェ将軍だ。

「此処に、“シティオブサウスゴータ”の解放を宣言する。“シティオブサウスゴータ”市議会に対し、“トリステイン”、及び“ゲルマニア”政府の監督の元、限定的な自治権を与えるものと為る」

 現“アルビオン政府”に不満を抱て居た住人達から歓声が沸いた。

 そんな中……才人はボンヤリと、自身の左手を見詰めて居た。

 デルフリンガーを掴む。

 すると……ボンヤリと“ルーン”が光る。何時もの眩い光は感じられ無いのだ。電池が切れ掛かって居るかの様な、そんな色合いの光を発して居るのだ。

「冴え無えな相棒」

 デルフリンガーが呟く。

 才人は首肯いた。

「調子悪いな」

 此の前の陽動作戦から此の様な感じで在る。

 身体は重く、動きは鈍い。力も出無い。

 才人が「どうしちまったんだろ?」と溜めき混じりに言えば、「何時だか言ったじゃ為えか。“ガンダールヴ”の強さは心の震えで決まる。相棒の心は震えて無えのさ。詰まりあれだ、遣る気が無えんだな」

「何でだ?」

「さあね。其りゃ、相棒の方が良く知ってるんじゃ成えのか? 俺じゃ無く、相棒の心の事だかんね。まあ、俺が予想為るに……」

 デルフリンガーがピリピリと震えた。

「“貴族”の娘っ子と上手く行って無えからさ。何時か説明したろ? 感情の震え、其れこそが“ガンダールヴ”の力の源さ。今、御前さんは主人に疑いを抱いてる。自分が守るに値する主人成のかって、疑ってる。其れじゃあ感情が震える訳無え。其りゃ力は出無えよ」

「…………」

「“魔法”使いと“使い魔”ってなあ、そう言うもんだ。御互いが信頼し合えば、威力は倍増。然し、そうじゃ無けりゃ、伝説だって鈍らだぁね」

 才人は、(此の儘じゃもう、戦え無いんじゃ成えか?)、と想った。そんな不安が過ったが……(でもまあ、良っか)、と才人はチラッと横目で自身の主人を見詰めた。

 ルイズは、“ロマリア”の神官とずっと話し込んで居るのだ。

 才人が見ても、見向きも為無い。才人は、何時だかワルドの背中に寄り添って居たのを見た時拠り、重い無力感が肩に伸し掛かるのを感じた。彼奴に成らルイズを盗られても、仕方無いんじゃ成いか?)、とそんな風に

想えてしまうのだった。心の底に沈んだ何かが、そう訴え掛けて居るので在った。

 そう想うと才人の気持ちは更に沈み、深い無力感が全身を包んで行くのだ。

 壇上では上位身分で在る偉い将軍が、一所懸命に演説をして居る。「“アルビオン”はもう負けたも同然で在る」、や、「我が軍の勝利は動か無い」、などと口にして居る。

 そんな言葉が、才人の耳から入って反対側へと抜けて行くのだ。(自分は何の為に、こんなとこで戦って居るんだろう?)、と考えてしまうのだ。少し前迄成ら、其の理由は明白だった。

 ルイズの為。そう、ルイズの為で在ったのだ。見てると、才人の中で、ドキドキとした感情を奔らせる女の子……。

 だが、そんな女の子に「好き」を拒まれて仕舞ったらどう成るだろうか?

 才人の中で、(ルイズは一体自分の事をどう想って居るんだろうか? “好き”じゃ無い成ら、どうして側に置いて置くんだろう? 判ら無い。理解ら無いのか? 否……其の理由に気付くのを心が拒否してる。そんな感じだ。だったら考えるのは止そう)、と考え、そして訳も無く切無く成り、ルイズの態度が赦せ無く成って行くので在った。

 

 

 

 一方、少し離れた場所で、ジュリオと話し込むルイズも上の空で在った。

 目線と言動はジュリオに向けられて居る。

 ジュリオは、男女共にドキッとさせる位に端正な容姿をして居り、彼に惹かれ無い女の子は居無いだろうとさえ想わせる程だ。

 だが、心の目は“使い魔”の方へと向いて居た。

 ルイズは偶にチラッと横目で、そんな才人の様子を確かめるのだが。才人は、ルイズを見て、切無さそうに溜息などを吐いてばかりで在る。

 ルイズは、(へぇえ、いっちょ前に妬くんだ、焼き餅。“使い魔”の癖に、焼き餅何か妬いちゃうんだ。へぇ、へぇええええええええええ)、と心の中で凱歌を上げ、思わず笑みを溢してしまいそうに成るが、其れを噛み殺す。そして、(良い気味! 何時も私が何な気持ちで居たのか、そう 遣って少しは反省し為さいよね)、と心の中で呟くのだ。

「ミス・ヴァリエール」

「あ、はい!? な、何?」

 ジュリオはニッコリと笑った。

「失礼。呼ばれたんで、ちょっと行って来る」

「え?」

 ジュリオは人混みを掻き分け、壇上の将軍の前に向かった。

 ジュリオの美貌に、“シティオブサウスゴータ”の街女達から、(あの士官さん、ハンサムじゃ成い?)、や、(士官じゃ無くて神官様じゃ成いの? 首から“聖具”を提げてらっしゃるわ)、などと溜息と会話が漏れ聞こ得て来る。

 見ると、ド・ボワチェ将軍の前にはジュリオだけで無く、何人かの“貴族”が並んで居る。

 “貴族”達が自分の前に集まったのを確認すると、ド・ボワチェは口髭を扱いた。

「えー、諸君に偉大成る勇者達を紹介する。彼等は此の“シティオブサウスゴータ”の解放戦に於いて、伝説の勇者に引けを取ら無い様な武勲を立てた者達で在る。彼等の努力に依ってのみ、此の勝利が齎された訳では無いが、帰する所は大きい。従って大将権限に於いて彼等に“杖付白毛精霊勲章”を授与する」

 拍手が湧いて出た。

 次に呼び出し役の士官が、叙勲者の名前を呼び上げた。

「“ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大体”、第二中隊隊長、ギーシュ・ド・グラモン!」

「は、はいッ!」

 ルイズは、「ギーシュ?」、と口をあんぐり開けた。

「彼と其の中隊は、勇敢にも街への一番槍を果たした。其の際に“オーク鬼” の一部隊を片付けると言う、戦果も加えて居る。其の後も順調に制圧任務を務め、解放した建物は数十余りに昇る。彼と其の中隊に拍手!」

 割れんばかりの拍手が鳴った。

 ギーシュははにかんだ笑みを浮かべ乍ら、勲章を首から提げて貰って居る。

 良く似た顔付きの青年が出て来て、ギーシュに抱き着いた。彼方此方で、「グラモン元帥の末っ子だそうだ」、「今出て来たのは次男で……」、「いやぁ、獅子の子は獅子と言う可きかな……」、などなど、噂の言葉が飛んで居る。

 ルイズは、(あの間抜けのギーシュが勲章? いやはや、モンモランシーが聞いたら何と言うんだろうか? 少しは見直すかしら? 抱き着いて居るのはどう遣ら兄らしい。兄さんにも祝福されて、良かったじゃ成い)、と考え、独り言ちた。

 そうしてルイズは、(家族に祝福される様な、手柄を立てる何て……)、とそんなギーシュを同時に羨ましくも想った。

 ルイズだってギーシュ以上の戦果を上げて居るのだが、如何せん決して公には出来無い類のモノで在る。

 ルイズは、(でも、此の戦争が終わって……平和に成れば……家族に、自分が果たした祖国への忠誠の在りか、多大成る戦果を報告出来るだろう。そう為れば家族も自分の事を見直すだろう。でも、其の為には今、決して躓く訳には行か無い。些細なミスで、自分の手柄を曇らす訳には行か無いのだ)、と想い、また才人のミスを気に掛けて仕舞う。

 街に潜入しての陽動作戦は、才人の些細な言動から失敗を招いて仕舞ったのだ。

 ルイズは、チラッと横目で、才人を見詰めた。

 伝説の力とて、使い様成のだ。使い方を誤れば、此の前の様に容易にピンチに陥って仕舞うモノだ。

 ルイズは、未だ自身の事だけで精一杯で在り、才人の想いを気にする余裕も無いが為に、(もっとサイトに慎重に成って欲しい)、と想ったのだった。

 だが其れは決して否定出来る気持ちでは無いだろう

 才人とルイズは生きて居り、活きて居るからこその悩みで在り、其の悩みが有るからこそ前に進めるのだから。

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