ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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勇気の在処

 地図に記された小高い丘の上……朝陽が暗闇に光を与えて行く。

 視界が開けて行く。

 俺達の眼下には緩やかに下る、綺麗な草原が続いて居るのが判る。

 地図上に記された、“シティオブサウスゴータ”の南西150“リーグ”に位置する丘の上。

 一晩掛けて、俺達が此処迄遣って来たのだ。

 俺達2人の中では、妙な興奮が湧き出し、身を包んで居るのが判る。

 夜通り馬に乗って居たと云うのに、朝の陽光と同時に闘志と体力が回復して行く感じがした。

 朝靄の中から、ユックリと……緩い地響きを伴って大軍が現れたのが遠くに見える。

 才人と俺は立ち上がり、其々此処迄自分達を乗せて来て呉れた馬の尻を叩く。

 草を食んで居た馬は、驚いて先程遣って来たばかりの方向へと駆け出して行った。

「馬は使わ無えのか」

 才人が背負って居るデルフリンガーが呟いた。

「彼奴等も生きて居る。道具じゃ無え」

「全く其の通りだ。あの2頭の馬も、今を活きて居る」

「優しい成え。御2人さん」

 才人はデルフリンガーに尋ねた。

「“ガンダールヴ”は、千人の軍隊を壊滅させたんだろ? 110,000でも、何とか成るかなあ?」

「其れ何だけどよ、伝説っ吐うのは尾鰭が付くからなあ。まあ何だ、あんまり期待されてもな。1,000人は、確か、無かった」

「……何だよ其れ。嘘吐き遣がって。吐うかホントの事言う無よ。どうせ成ら最期迄騙して置いて呉れよ」

 草原の地平の向こう、進軍して来る“アルビオン”軍が見えた。110,000と云った大軍では在るが、横隊では無い為に、其れ程数が居る様にはパッと見では、そう想わせ無い。

 だが、実際に110,000居る。

 武器を持った兵隊、強力な“魔法”を使う“メイジ”。大砲兵。“オーク鬼”や“トロル鬼”を始めとした“亜人”達、“竜騎士”……“幻獣”に跨った騎士。

 そう云った者達が、現実に俺達の眼の前に110,000も居るのだ。

 才人は、恐怖を通り過ぎたかの様子な声で呟いた。

「はぁ、何で俺達、あん成のに突っ込ま為くちゃ成ら成えんだろ?」

「理解ってて訊きくかね。味方が“フネ”で撤退しようとして居るんだからだろうが。どうしても時間を稼が為くちゃ成ら成えだろ?」

「否、そうじゃ無くて……まあ良いや」

 と、才人は溜息を吐いた。

「此の前来た時にはギーシュの土竜に救われたけど、今度は逃げら無えよな」

「無理だねえ。兎に角足止めし為えと成ら成えからなあ」

「参っちまうな」

「何成ら、御前達は逃げて、俺だけで時間稼ぎをしても良いが?」

「馬鹿言う無よ、セイヴァー」

「相棒、セイヴァー、兎に角真っ直ぐに突っ込め。こう成ったら何処から行っても同じだからよ。で以て、指揮官を狙いま呉れ。頭を遣れば、身体は混乱する。歩みも止まる。1日位の時間は稼げるかもよ」

 才人は首肯いて、デルフリンガーを握った。左手甲に在る“ルーン”が輝き出す。

「なあデルフ、セイヴァー」

「何だ?」

「どうした?」

「小さい頃の話して良いか?」

「良いぜ」

「問題無い」

「駅でさ、御婆さんが不良に絡まれてた。籠が打つかったの何だのって。でも俺ガキだったから、助ける何て出来無くて見てただけだった。俺が強かったら、何て想ったよ。でも同時に、ホッとしたな。強かったら、助けに行か為きゃ成ら成えもんなあ。強くたって、勝てるとは限ら無えもんなあ」

「そうだねえ」

 デルフリンガーの相槌に、才人は言葉を続ける。

「そう。強く成っちまった。力を手に入れちまった。もう言い訳出来無い。あの時は力が無かったから、間に入れ無くても言い訳出来た。俺は弱いんだからしょうが無いって。でももう、言い訳出来無え。俺は今、強いからな。何せあれだ。“ガンダールヴ”だからよ」

 其れは俺も同じだと云えるだろう。

 生前――前世での俺は、何かを為すだけの力など無きに等しく、引き篭もって居た。が、今は違う。今は、“転生者”で在り、“サーヴァント”で在るのだ。巨大過ぎる力を持って居るのだから。

 デルフリンガーは短く相槌を打った。

「うん」

「でも成あ……強さたって、外面だけだ。中身は俺、全然強く無えよな。何も変わって無え。しょうが無えよな、“ガンダールヴ”とか“伝説の使い魔”とか、行き成りだもんよ。覚悟何か、出来て無えもんよ。だからこう言うの、柄じゃ無えんだよ。皆の盾に成るとかよ、ホントはすっごく嫌何だよ。恐くて震えるよ。死にたく無えよちくしょう」

「相棒はてんで義理堅えや」

「損な性分だな。損過ぎる」

 才人は、(勇気と言うのは、こう云う事何だろうか?)と想った。

「なあデルフ、セイヴァー」

「何だね?」

「何かな?」

「俺、死ぬのか?」

「多分」

 デルフリンガーは濁す事無く答え、才人は黙って仕舞った。

 執り為す様に、デルフリンガーが言った。

「まあ何だ、どうせ成ら格好付けな」

「何で?」

「勿体無えだろ」

 デルフリンガーの言葉に、才人は笑みを浮かべる。

 其処で、俺もまた前世で学び、今実際に感じて居る事を、口にする。

「“見っとも無いが、誰かを助けたいと言う気持ちが有る成ら、ギリギリ英霊(人間)だ”」

「ギリギリ英霊(人間)か……」

「嗚呼、嘗てそんな事を言ってた、1人の反英霊(人間)が居たんだ……」

「違い無いかもな。御前の言う通りかも知れ無いよセイヴァー」

「全く其の通りだ」

 才人とデルフリンガーが俺の言葉を保証して呉れる。

「良いか才人。之もまた受け売りだがな、“イメージするモノは常に最強の自分だ。外敵など要らぬ。御前にとって闘う相手とは、自身のイメージに他成ら無い”」

「自身のイメージ」

「そうだ。さて――」

 俺は自身の小源(オド)大源(マナ)、そして“根源”から組み上げ“魔力”へと変換させ、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”を“投影”為る。

 “世界の汎ゆる事象の出発点と成ったモノ”――“ゼロ”――“始まりの大元”――“総ての原因”――“物質、概念、法則、空間、時間、位相、並行世界、星、多元宇宙、宇宙の外の世界、無、生命、死などの汎ゆるモノが生まれ源”――“根源の渦”。

 “根源” から流れ出す事象の川は、当然、根源に近ければ太い流れ在り、末端へと流れて行けば、途中幾つもの支流に分かれて細い流れと成る。事象を細分化する要因は、時の流れと人々の意識で在り、人々に知られれば知られる程、其れは細くまた複雑に成る。之は、一般常識とも言い換えられるだろう。

  “地球”に於ける“魔法”と“魔術”は事象の川との繋がり具合で威力や効果は変動し、深く太く繋がる事で、寄り望んだモノを手にする事が出来る。

 此処“ハルケギニア”は“地球”に於ける“神代”に近しい環境に在ると云えるだろう。神は既に“世界の裏側”へと移動をして居るが、“幻獣”達は未だ残って居る状態だ。現在の“地球”では“魔術”で在ろうが、“神代”では“魔法”扱いだったモノが、同じく此処“ハルケギニア”では“地球”の“魔法”と同等の効果を発揮させる事が出来る。

 また話は変わるが、“サーヴァント”とは、本人だった“魂”が“英霊”として“英霊の座”へと登録――移動し、其処から分け御霊の要領で、“或る害悪を滅ぼす為に遣わされる天の御遣い――人理を護る其の時代最高の7騎を召喚する為の儀式”――“霊長の世を救う為の決戦魔術”を格落ちさせたモノを利用し、ヒトに扱える“使い魔”としての“役割(クラス)”に押し込まれた存在と云えるだろう。

 そして基本的には、そんな“サーヴァント”は“クラス”の枠組みに依って生前と較べて力が落ちて仕舞うのが殆どだ。また、彼等彼女らが使用する“宝具”、特に武具系統は、生前使用して居た其れ等を“根源”から汲み上げ、“エーテル”へと変換させ、其れを編み生み出されたモノ。詰まりは、劣化したモノと成る。

 そんなモノを“投影”すると、更に劣化し、劣悪な、粗悪なコピー品と成るのは明白だと云えるだろう。

 そして俺は、“根源”と繋がって居る“根源接続スキル”の保有者でも在る。“根源”から無際限に“魔力”を汲み上げる事が可能だ。

 また、“投影”すると云うモノは、原典や見本としたモノ(オリジナル)が存在すると云う事。だが、此の世界――“ハルケギニア”には存在為無い。と云う事から、此処“ハルケギニア”では“投影”した其れが唯一無二のモノで在り、原典や見本としたモノ(オリジナル)と云えるモノに成る。

 詰まりは、神話や伝承の英雄達が持つ“宝具”を彼等彼女等の生前と同等、若しくは其れ以上の力を発揮させ、振るう事が出来ると云う事だ。

 “根源”と接続して居る為に、“知名度補正”や“土地補正”などは無い。勿論、“ステータス”の“パラメータ”など在って無いにも等しいと云えるだろう。

「未だかなりの距離が在るのに、槍何て出してどう為る積りだよ?」

「才人。槍ってのは、こう云う使い方も在る」

 俺は、才人の言葉を聞き乍らも、前方の“アルビオン”軍を前に、地に這うかの様にして身を低くし、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”を構える。

 “刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”は本来、“因果逆転の呪い”に因り、“真名解放”為ると“心臓に槍が命中したと云う結果を造くってから槍を放つと云う原因を齎し、必殺必中の一撃を可能と為る”モノだ。

 だが、もう1つの使い方、“真名解放”が在る。

「“アルビオン”の兵共、出会い頭で悪いが“此の一撃手向けと受け取れ”」

 俺は思い切り跳躍をし、力を解放為る。其れから、敵軍目掛けて、瞬間的に渾身の力を振り絞り構える。

「――“突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”ッ!」

 そして、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”を投擲する。

 “刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”を命中を重視したモノで在れば、此方は威力を重視したモノに成るだろう。1人1人を刺し貫いて行くのでは無く、炸裂弾の様にマッハ2の速度を出し一撃で一軍を吹き飛ばすと云うモノだ。必中効果は持って居るが、概念的な特性や運命干渉などが無い為に必ず心臓を穿ち貫く事は無い。が、何度躱されようと、標的を捕捉し続けるホーミング性能を持つ。

「――は!?」

 才人とデルフリンガーは間の抜けた声を上げる。

 “突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”は本来の飛距離を上回った距離を飛び、前方の“アルビオン”軍約50人を一気に吹き飛ばす。

 物理法則に囚われ無い、無秩序且つ予想不可能な動きをして、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”が手元に戻って来る。

「何驚いて居る。敵さんは浮足立って居るんだ。今の内だぞ。さて、才人。着いて来れるか?」

 才人は首をブンブンと横に振り、気持ちを切り替える。そして――。

「――“着いて来れるか? じゃ無え。手前の方こそ、着いて来遣がれ――!”」

 

 

 

 

 

 朝靄を突いて、突っ込んで来る才人と俺に1番最初に気付いたのは、混乱から立ち直ったばかりの、前衛の捜索騎兵隊では無く、後続の銃兵を指揮する士官の“使い魔”の梟で在った。彼は、騎兵を始め他の兵種や“亜人”、傭兵などを信用して居無かった為、自前で前方警戒を行って居たので在る。

 梟からの視界を得て、彼は指揮下の銃兵に弾込めを命じた。通常行軍時に、弾は装填して居無いからだ。

「前方が騒がしいが……何? 2人?」

 彼の、そして“使い魔”の視界に映って居る敵は2人だと云えるだろう。

 そして、彼は次いで其の速さに驚いた。

 人間の脚の速さでは無いのだ。

 対応を誤ったのは、前衛の騎兵隊も同じだろう。

 速さを図り間違え、馬を止めた所に先ず1人に突っ込まれ、また次にもう1人に突っ込まれ、槍を振るう間も無く次々と落馬して行く騎兵達が、彼の目には見えた。

 落馬する騎兵が、突っ込んで来る2人の敵の足音代わりだと云えるだろう。余りにも速くて、姿を捉える事が出来無いので在る。

 弾を装填し終える前に、士官の前方に敵が現れた。

 剣を握った人間で在る。

 士官は“杖”を抜こうとしたが、弾かれ、強かに頭の横を殴れて仕舞った。そして、当然の様に意識を失った。

 次に気付いたのは、上空の“使い魔”に依り接近を知った“メイジ”の騎士達で在った。彼等は“使い魔”と自身の視界両方で2人の敵の動きに追随を試み、次々に“魔法”を放った。

 “風”の刃、氷の槍、“炎”の球が、俺達に向かって飛んで来るが、1人が振り回す剣に尽くが吸い込まれて行き、もう1人が振り回す剣や槍などに弾かれて行くのだ。

 騎士達は呆気に取られたが、臆せず次々に“魔法”を撃っ放した。

 騎士隊長は散開を命じた。其の、命じた瞬間、隣に風が吹いた。其の風に“杖”を撃った斬られ、次いで腹を蹴られて仕舞う。肋骨が折れ、隊長は悶絶し、次いで気絶をした。

 

 

 

 

 

 駆ける才人にデルフリンガーが呟く。

「どうして殺さ無え?」

 才人は短く答えた。

「俺は軍人じゃ無い」

「はい?」

「敵も味方も、道具にゃし無え」

 デルフリンガーは溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 俺は、“ギリシャ神話”の大英雄で在る“ヘラクレス”の“宝具”の1つ“Bランク以下の汎ゆる攻撃の無効化と、蘇生魔術の重ね掛けに依る11個の生命のストックの保持、既知のダメージに対する半減”――“十二の試練(ゴッド・ハンド)”、そして“アキレウスの”“宝具”の1つで在る“広大な戦場を一呼吸で駆け抜け、フィールド上に障害物が在っても速度は鈍らず、其の速度は最早瞬間移動にも等しく、視界に入って居る光景全てが間合いと成る程”――“彗星走法(ドロメウス・コメーテース)”と“踵を除く全身に不死の祝福が掛かって居り、如何成る攻撃を受けても無効化為る”――“勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”を再現し、自身のモノと為る。

 “勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)”は、一定“ランク”以上の“神性”を持つ相手には、“如何成る攻撃を受けても無効化為る”効果が無効化されてしまい、“踵にダメージを受けると彗星走法(ドロメウス・コメーテース)を失って仕舞う”。が、“十二の試練(ゴッド・ハンド)”の効果で其れ等の対策は完璧とは言い難いが、其れに近いと云えるだろう。

 そして俺は、“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”を手にし乍ら、また別の“真名解放”を為る。

「“噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)”……」

 “刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”の素材と成った“紅海の怪物・海獣クリード”の骨格を具象化、鎧の様にして身に纏う。

 其の鎧は、“鋭い爪や棘、刃が無数に付属した怪物の様な意匠と成って居り、更には尖った部分などを敵に突き刺すと、其処を基点に四方へ無数の棘が伸びる”特性を持って居る。

 俺の見た目は今、“オルグ鬼”すらも裸足で逃げ出すだろうモノに成って居るだろう事は、周囲の反応から判る。

 そして、殺さ無い様に気を配り乍ら其れ等爪などを振るい、攻撃をし、意識を刈り取って行くのだ。

「力を見せるが良い。勇士達よ。出来無ければ、御前達の命を貰う迄だ」

 

 

 

 

 

 才人は飛んで、跳ね、駆け、敵の間を滑り抜けた。

 基本、単騎での行動だと云う事も在り、其れが逆に幸いした。

 同士討ちを避ける為に、銃や投射武器の発砲などが控えられたのだった。おまけに、“ガンダールヴ”に追い付けるスピードを持つ生き物は少ない。否、此の戦場にはたった1人を除いて居や為無いのだ。

 然し……やはり“魔法”相手には辛いと云えるだろう。

 次々に飛んで来る攻撃“魔法”は、暫くはデルフリンガーが吸い込む事で対処が出来て居た。が然し飛んで来る量が半端では無く、次第に喰らい始めて仕舞う。

「くッ!」

「左?」

「ああ。駄目だ……動か無え」

 才人は右手のみでデルフリンガーを握った。

 左腕には、引き攣れた様にして火傷が走って仕舞って居る。

 二の腕の一部は炭化して仕舞って居る。“ファイアボール”が至近距離で爆発をしたので在る。

 其れでも才人は敵を薙ぎ払い、敵の真ん中で暴れ狂った。

 “魔法”で、槍で……才人の身体は徐々にダメージを受けて行った。

 

 

 

 

 

 “幻獣マンティコア”に跨った騎士隊の隊長は、騎乗した獣を唆けた。

 横殴りに薙ぎ払われ、彼の“マンティコア”が吹っ飛ぶのが見えた。

 次の瞬間、鎖骨を砕かれ、彼は地面に崩れ落ちて仕舞った。

 

 

 

 槍隊を指揮為る指揮官“メイジ”は、槍衾を作って、一気に風の様な敵を包み込もうとした。

 然し、槍衾は跳び越えられて仕舞い、逆に剣で頭を殴られ昏倒をした。

 

 

 

 弓兵対を指揮して居た若い士官は、慌てて居たので弓の発射を命じで仕舞うった。

 弓の速度では目標に掠りもし無い。

 味方に当たり、混乱から同士討ちが発生して仕舞った。

 

 

 

 前衛の混乱は激しく成って行った。

 届く報告を聴いて、ホーキンスは眉を顰めた。

 虚偽入り混じって居る報告だ。

 曰く、「敵は2人だけで在る」

 曰く、「“メイジ”で在る」

 曰く、「十数騎の一部隊で在る」

 曰く、「“エルフ”の“魔法”戦士で在る」

 曰く、「“エルフ”の一部隊」

 などなど……。

 然し、歴戦の将軍で在るホーキンスは、敵が2人だけで在ると云う事に薄っすらとでは在るが気付き始めて居た。

 “風”の様に速い敵だ。

 “火”の様に強い敵だ。

 “土”の様に動じ無い敵だ。

 “水”の様に臨機応変な敵だ。

 ホーキンスは、「気に要ら無いな」、と呟いた。

 

 

 

 

 

 中隊長と思しき士官の構えた指揮杖を斬り落とした才人は、前方に“メイジ”の一群を見付けた。

(あんな風に“メイジ”に囲まれて居るって事は……)

「中に偉いさんが居そうだな」

 才人はデルフリンガーの声、返事すらも出来無かった。否、其れすらも行うだけの余裕など無い状態成のだ、身体中に付いて仕舞って居る傷から、血が流れ出して居るのだ。とも為ると痺れて動け無く成りそうで在る程だ。

 口を開く体力すらも、今の才人には惜しいモノで在り、彼には今1人でも多く、そして敵の指揮官を倒し……混乱を拡大為る必要が在るのだ。

 其の分時間を稼げるのだ。1分でも、1秒でも、時間を稼ぐ。

 其れがルイズ達に課せられた任務。

 2人が代わりに引き受けた、可愛い御主人様達の任務……。

 才人は、敵将が居ると思しき“メイジ”の群れ目掛けて、駆け出した。

 

 

 

 

 ホーキンスは己目掛けて突っ込んで来る風を見詰めた。

 “杖”を抜いて、“呪文”を唱えた。

 彼は、得意の“風”の刃を、纏めて飛ばす。

 然し……ジャンプで躱されて仕舞う。

 風の様な対象は、剣を振り上げ、突っ込んで来る。

 ホーキンスは、其の姿を目に焼き付けるかの様に見詰めた。

 護衛の騎士から、何本もの“マジック・ミサイル”が飛び、突っ込んで来た対象の身体に吸い込まれて行く。

 致命傷と思しき“魔法”の矢を何本も喰らい乍ら、尚も風は止まる気配を見せ無い。

 風は、剣を突き出した。身体ごと、ホーキンスに打つかって来ようとしたが……。

 ホーキンスの眼の前の5“サント”の位置に、剣の切っ先が在った。

 其の切っ先を、ホーキンスは視線を逸さずに、真っ直ぐ見詰めて居る。

 ホーキンスの顔を、剣が襲う事は無かった。

 其処で時間が止まったかの様に、風と云える剣士は停止して居るのだ。

 ホーキンスが、“杖”で剣を払うと……剣士は、どうッ! と地面に斃れた。

「御無事ですか!? 閣下!」

「ホーキンス将軍」

 と、護衛の騎士達が駆け寄って来るのが見える。

「大丈夫だ」

 と、ホーキンスは答えた。

「未だ1人残って居る。気を抜くな。損害を報告しろ」

 次々と損害の報告が遣って来る。

 剣士2人に与えられた――未だ残った1人に与えられて居る其れは、たった2人に与えられたモノとは到底想えぬ程の大損害で在った。

 現在……下級、上級、合わせて指揮官クラスの士官重傷者が280人。各科兵隊の怪我が10,000人。

 目に見える損害は、軍全体の規模から云えば、許容の範囲内で在った。だが、与えられ続けて居る影響は大だと云えるだろう。

 油断して居た前衛は完全に混乱。

 朝靄の中、同士討ちを行って仕舞った部隊迄在った。

 其れ等全てが、2人に依って与えられた火の様な速さで噂が広がり、兵達の間に同様が奔りつつ在った。

 苦い顔で、前衛部隊の指揮官が報告して来た。

「前衛を再び纏めるには、もう1人を斃した後、数時間は掛かるでしょう」

 おまけに、怯えた兵達の間に走った噂の御蔭で、進撃の速度が鈍る事が予想された。「あの様な剣士や“メイジ”の部隊を、敵軍は隠して居る」、と兵達は怯えて居るのだ。

 隣に遣って来た副官が呟いた。

「今日迄の様な進軍速度は望めません。丸一日、否其れ以上の時間が、無駄に成ります」

 ホーキンスは首肯いた。

 馬から降り、斃れた剣士に近付き、顔を確かめる。

「未だ少年では成いか」

 如何にも黒い髪の、見慣れぬ顔の形をした少年で在った。

 微かに息をして居るが……身体に打ち込まれた“魔法”の数は凄まじい量で在った。事切れるのも時間の問題で在るだろう事は明白で在る。

 “水”の使い手を呼ぼうかと想ったが、生半可では、此の傷では苦しみを延ばすのが精々だろうと云う事は明白で在る。此の世界に於ける“魔法”は勿論、殆どの“魔法”とは万能の様に思えて決して万能では無いのだ。

 ホーキンスは、少年を見下ろし乍ら呟いた。

「羨ましいな」

「は?」

「単騎、2騎良く大軍を止める、か。歴史の向こうに消えた言葉で言う成らば、“英雄”だ。私も将軍では無く、“英雄”に成りたかった」

 本音の響きを含んだ声だと云えるだろう。

 副官も首肯いた。

「ですな。釣り合う勲章が存在為無い程の戦果ですな。残念成のは、彼等が敵だと言う事です」

「敵とは言え……また“貴族”では無いとは言え……勇気には其れに応じた賞賛と敬意が払われる可きだろうと想う」

「賛成です」

 ホーキンスと其の副官は、最上級の“アルビオン”式の敬礼を行った。

「彼を手厚く葬って遣れ」

 そうホーキンスが配下の兵士に命じた瞬間……別の、もう1つの風、光が乱入した。

 

 

 

 

 

 時間は少しばかり遡り、未だ才人がどうにか意識を繋ぎ止めて居る間。

 俺は敵の間を自由自在に駆け抜け、薙ぎ倒し、吹き飛ばし、千切っては投げ千切っては投げを繰り返して居た。

 “長剣の剣状をして居る乍ら何処か未来的な意匠を想わせる三色の光で構成された刀身を持つ剣――“軍神の剣(フォトン・レイ)”を“投影”為る。

 空中に“魔法陣”を展開、“地球”の神話に於ける軍神の一柱で在る“マルス”と接続し、其の力の一端で在る旭光を魔法陣拠り敵、否、大量の敵の隙間に存在する地面へと照射し、爆発させる。

「“軍神(マルス)と接続為る。発射迄、2秒。涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトン・レイ)”!」

 900人近くが吹き飛んでしまう。

「“一歩音越え、二歩無間───三歩絶刀! 無明三段突き”!」

 “歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する、瞬時に相手との間合いを詰める技術”――“縮地”を使い、本来刀を使用して繰り出される、“壱の突きに弐の突き、参の突きを内包する”、“平晴眼の構えから粗同時では無く、全く同時に放たれる平突き”――“超絶的な技巧と速さが生み出す、防御不能の秘剣”を放つ。

『セイヴァー! 相棒がッ!』

『了解した。少し待て』

 デルフリンガーからの“思念通話”、そして才人から発せられて居る生命の精彩さが落ちて居る、現在進行形で落ちて行って居るのが判る。

「邪魔だ。“此の剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣――転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”」

 “柄に擬似太陽が納められた日輪の力を持つ、白銀の剣”――“転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)”を“投影”為る。

 横薙ぎに、一閃し、膨大な“魔力”に依り生み出された太陽の熱を放射し、300人程吹き飛ばす。

 其処で、才人とデルフリンガーが居る、一群を見詰め、俺は地面を軽く蹴り、突入した。

 

 

 

 

 

 突然現れたかの様にして到着した俺を前に、指揮官だろう男を始め他“メイジ”達、護衛の騎士達全員が驚いて居る。

「悪いが、其奴を返して貰うぞ」

 俺は才人を抱き抱え、一跳躍を為る。

 才人は意識を失って居る為に、グテっとして居り、大量出血をしたにも関わらず身体は鉛の様に重く感じさせて来る。

「助かった。吸い込んだ“魔法”の分だけ使い手で在る相棒を俺の意志で動かせるけど、其の必要も無いかね」

「否、其の必要は在るかも知れ無いな」

 周囲には、敵、敵、敵、敵……四面楚歌と云える状況だ。

「ありゃあ、此りゃあ参ったね」

「デルフリンガー、才人を動かして近くの、彼処の森の中に潜め」

「御前さんはどうする?」

「当然時間を稼ぐ。2つの意味で」

「自己犠牲何て、らしく無えんで成えの」

「そうかも知れ無いな」

 デルフリンガーと少しばかり言葉を交わす。

 俺は自嘲気味に応えた。

「死ぬ無よ」

「誰に言って居る鉄屑。直ぐに合流為るから、才人共々無事で居ろよ」

 デルフリンガーが、才人の身体を動かし、此の場に遣って来た時と同等の速度で森の方へと向かう。

「さて、此処から先に行かせる事は出来無いな……“体は剣で出来て居る( I am the bone of my sword.)”」

 “根源”と接続し、俺は自身の“汎ゆる存在が持つ、原初の始まりの際に与えられた方向付け、または絶対命令”――“予め定められた物事の本質”――“無生、有生を問わず全ての物事は、抗え無い宿命として其々与えられた何らかの方向性”――“起源”を意識し、一時的にでは在るが強制的に捻じ曲げ変化させる。

 そして、彼の心象風景を映し出す。

「“血潮は鉄で 心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)”。“幾度の戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)”。“唯の一度も敗走は無く(Unknown to Death.)唯の一度も理解され無い(Nor known to Life.)”。“彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)”。“故に、生涯に意味は無く(Yet, those hands will never hold anything.)”」

 世界が塗り変わって行く。

 術者の心象風景で現実世界を塗り潰し、内部の世界其の物に変わって行く。

「“其の体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, unlimited blade works.)”」

 辺り一帯は、“燃え盛る炎と、無数の剣が大地に突き立つ一面の荒野が広がり、空には回転する巨大な歯車が存在為る空間”へと一瞬で変貌して仕舞った。

 “無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)”。

「“事世界、空想と現実、内と外とを入れ替え、現実世界を心の在り方で塗り潰す、魔術の最奥”……“固有結界”――“リアリティ・マーブル”。御覧の通り、貴様達が挑むのが無限の剣。剣戟の極地! 恐れずして掛かって来い!」

  “アルビオン”軍――“レコン・キスタ”に属し“反貴族派”として“王政府”を打倒した兵士達、傭兵達、“亜人”達は、皆行き成りの事に困惑を隠し切れず、混乱状態に在る。

 俺は、地面に突き刺さって居る無数とでも云える数の剣を、宙に浮かばせ、次々と敵対為る軍の兵士達へと目掛けて飛ばした。

 

 

 

 

 

 暫く森の中を進んだ所で……再び才人の身体はバッタリと倒れてしまう。

 声が森の闇の中に響く。

 才人の声では無く、デルフリンガーの声だ。

「全く……使い手を動かす何ざ何千年振りだ? 吸い込んだ“魔法”の分だけ動かせる事が出来る……んだけど、何でこんな力が付いてんだろ? 兎に角之、疲れるから嫌何だよ……然し相棒、ボロボロだねぇ。其れにセイヴァーの野郎。あの大軍と共にまるで幻の様に消えちまい遣がった」

 才人の身体はもう、ピクリとも動か無い。

「なあ相棒。聞こ得るか? 御前さん頑張ったから、良い事教えて遣るよ。あの娘っ子がな、黒猫衣装を着たのは御前さんを手元に置く為じゃ無えよ。御前さんに押し倒して欲しかったからだよ」

 デルフリンガーは暫く待った。

 然し幾ら待っても、返事が返って来る事は無かった。

 デルフリンガーから注がれた力が抜けると、才人の手から握力が消えて仕舞う。

 緩んで行く才人の指を惜しむ様な声で、デルフリンガーは呟いた。

「……ちぇ、もう聞こ得無えか」

 

 

 

 

 

「最後は派手に行こうじゃ為いか」

 “固有結界”が消え去り、元の現実世界へと世界が揺らぎ乍ら戻って行く。

 俺は、そんな中で、“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”の“投影”を開始する。

 彼の、“アーサー王伝説”に於ける“アーサー王”――“アルトリア・ペンドラゴン”が使用した、“聖剣”。

 “こう在って欲しいと云った願いが地上で蓄えられ、星の内部で結晶及び精製された最強の幻惑(ラスト・ファンタズム)”にして、“神造兵装”の1つ。“単純に外観の美しさで云えば上回る宝具は数在るだろうが、抑々美しいのでは無くて唯管に尊く、神話にも人成らざる業にも依らず、唯想いだけで鍛え上げられた結晶で在るが故に空想の身で在り乍ら最強の座に在る”聖剣。

 俺の“魔力”、そして“根源”から抽出したモノを“魔力”へと変換させ使用する。其れ等は、更に光へと変換され、収束や加速させ、運動量を増大させて行く。

「“輝ける彼の剣こそは、過去、現在、未来を通じ戦場に散って行く全ての(つわもの)達が今際の際に懐く、哀しくも尊き夢”」

 “星の息吹”とでも云える、世界の“魔力”――“大源(マナ)”をも巻き込み、其れ等が、光の粒と成って、上昇して行く。

 其れ等は、“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”の刀身に吸い寄せられるかの様にして、集まって行く。

「“其の意志と誇りと掲げ、其の信義を貫けと糾し、今常勝の王高らかに手に取る奇跡の真名を謳う”」

 幻想的且つ荘厳、神秘的な光景が辺り一面に広がる。

 此の場に居る、俺を除いた皆――“アルビオン”側の者達は、張り詰めた空気の中で静かに息を呑み、呆然として仕舞って居る。

「“束ねるは星の息吹、輝ける生命の奔流”――」

 “約束された勝利の剣(エクスカリバー)”を八相の構えから、袈裟斬りの要領で上から下へと振り下ろす。

「――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”ッ!」

 其の光で断層を生み出し、究極とも云える斬撃を繰り出す。

 其の莫大な“魔力”量の所為か、通り過ぎた後には高熱が発生し、結果的では在るが光の帯の様に見え、地上を薙ぎ払う光にも捉える事が出来るだろう。

 純粋且つ高密度な“魔力”に依って生み出された光は、天高く上昇し、黄金に光り輝く光の柱を形成し、天高く昇って行った。

 

 

 

 

 

 ルイズが目を覚ましたのは、出航する“レドウタプール号”の甲板の上で在った。風が頬を嬲る感触と、帆がはためく音で目を覚ましたので在る。

 彼女の顔を覗き込んで居るのは、マリコルヌとギーシュで在った。

 彼等の隣には、シオンが居る。

「おお、ルイズが目を覚ましたぞ」

「良かった良かった」

 そんな風に首肯いて居るクラスメイトに気付き、ルイズは呆けた声を出した。

「私……どうして?」

「さぁ。出航した時、君が此処に寝かされて居る事に気付いたんでね」

「……此処、“フネ”の上?」

 動く周りの風景に気付いた後……ルイズは重大な事を想い出し、跳ね起きた。

「て、敵軍を止め為きゃ! 迫って来る“アルビオン”軍を!」

 ギーシュとマリコルヌは、怪訝な表情でルイズを見詰めた。

 複雑な面持ちを浮かべるシオン。

「敵軍を止める?」

「そうよ! 味方の撤退が間に合わ無いじゃ成い!」

「間に合ったよ」

「之は“ロサイス”」を出航する最後の“フネ”さ」

「……え?」

 ルイズは訳が理解らずに、甲板の柵に取り着いた。下を見詰める。グングンと小さく成って行く、“アルビオン大陸”が見えた。

「どう云う事? 迫って来る“アルビオン”軍は?」

「どう遣ら間一髪、間に合わ無かったて話だよ」

「良かった良かった。御蔭で、僕達はこうして国に帰れるよ」

「帰ってからが、之また大変そうだけどな」

 ギーシュとマリコルヌは、顔を見合わせて笑って居る。

 ルイズは、(一体どう云う事だろう? “アルビオン”軍はどうして進撃速度を緩めたのだろう? そして、どうして自分は此の“フネ”の上で寝て居たのだろう?)、と考えた。そして其の直後……彼女にとって重大な事に、彼女自身は気付いた。

 才人の姿が見え無いのだ。

 ルイズは船上を駆け回った。

 ルイズは、後甲板に、シエスタ達を見付けた。

「ミス・ヴァリエール……気が付かれたんですね」

「其れ選り! サイトは何処!?」

 シエスタの顔が蒼白に成った。

「私も、ミス・ヴァリエールが目覚めたら、訊こうと想ったんです。サイトさんは一緒じゃ無いんですか?」

 ルイズは首を横に振った。

 ルイズの不安気な表情で、シエスタも顔を蒼白にさせて行く。

「ねえ、シオン。サイトは? セイヴァーは? 2人は何処に居るの?」

 ルイズの後に続く形で、シオンが後甲板に到着する。

 到着したシオンに対して、ルイズは鬼気迫ったかの様な様子で問い詰める。

 が、シオンは唯下を向いた儘、俯いただけで、口を開か無い。

 其れだけで、ルイズとシエスタは大体の事を察して仕舞った。

「ねえ、ミス・ヴァリエール、ミス・エルディ、サイトさんは何処何ですか? ねえ、何処? 教えて」

 其の時……後ろに居た兵士の会話が聞こ得て来た。

「別の“フネ”に乗った“ナヴァール連隊”の友達がな、“アルビオン軍を止める為に2人で向かって行く奴を見た”って言うんだよ」

「ホントかよ?」

「ああ。背中に剣を背負って、馬に乗ってたって。真っ直ぐに街道を北東に向かって立って。其方は“アルビオン”軍が居る方向だろ? 何か妙な雰囲気でよ、其奴等が“アルビオン”軍を止めたんじゃ成いかって……」

「おいおい、冗談言う無よ。2人で一体、何が出来るって言うんだよ?」

 ルイズは兵士に詰め寄った。

「其れ、本当?」

 兵士は行き成り“貴族”の御令嬢に話し掛けられた事で、焦った表情を浮かべた。

「へ、へえ。嘘かホントかは兎も角、聞いたのはホントで。へえ」

 ルイズは色を失った。彼女の全身から血の気が引いて行く。

 其れは間違い無く彼等2人で在り、片方は才人だろう。

 ルイズは柵に駆け寄り、絶叫した。

「サイト!」

「ミス・ヴァリエール! 何が在ったんですか!? 説明して下さい! 説明して!」

 シエスタはルイズに詰め寄った。

「サイト!」

 ルイズは絶叫すると、柵を跳び越えて、地面に降りようとした。

「お、おい、死ぬ気か?」

 ギーシュやマリコルヌが気付いて、止めに入った。

「降ろして! 御願い!」

「無理だよ! 下にはもう、味方は居無いんだ!」

「降ろしてーーーー!」

 ルイズの絶叫が、遠退かる“白の国(アルビオン)”に向けて響いた。

 

 

 

 

 

 “ロサイス”に到着した“アルビオン”軍は、空を見上げて歯軋りをした。

 間一髪、“フネ”で脱出した連合軍を見詰める事しか出来無かったからだ。

 彼等にはもう、逃げ出す艦隊を追撃する“フネ”が、そして体力と精神力は残されて居無いので在る。

 “ロサイス”占領後、“竜籠”で遣って来たクロムウェルは赤煉瓦の司令部に入り……其処で苛々為乍ら、爪を噛んで居た。

 先程、任務を果たせ無かったホーキンス将軍始め他士官達を拘禁して、“ロンディニウム”に送り返したばかりで在るのだ。

「何故、“ガリア”は兵を寄越して呉れ無かったのだ? 2国で挟撃すれば、“シティオブサウスゴータ”から敗走為る連合軍など1撃だったモノを……」

 彼はミス・シェフィールドに理由を尋ねたい気持ちで一杯成のだが……先程から彼女の姿は見え無い。

 クロムウェルは不安で潰れそうで在った。彼は、もう、之以上戦争を遂行する事が恐わかったのだ。己の分を超えた、立場が恐わかったのだ。思わず震えそうに成った瞬間……。

 窓の外から歓声が響いて来た。

 クロムウェルが近寄ると……。

 空を圧する程の大艦隊が見えた。

 昼がる旗には“交差した2本の杖”……“ガリア”艦隊で在る。

 クロムウェルは狂喜した。

「おお! 流石は大国“ガリア”! 一体何隻居るのだ? 然し……今頃来てどうするのだ……敵は逃げ出した後だぞ?」

 ガチガチと爪を噛み乍ら、クロムウェルは何かを想い付いたかの様な様子を見せる。

「そうだ! 逃げた敵をあの艦隊で追撃して貰おう! 其れが良い! 其れが! 早速知らせよう!」

 クロムウェルがそう思って伝令を呼ぼうとした時……部屋に連絡士官が飛び込んで来た。

「“ガリア“艦隊! 到着しました!」

「見れば判る!  見れば判る! 余にも目は付いて居る! 丁度良い! “ガリア”艦隊の司令長官に伝えて呉れ! えーとだな……」

 連絡士官は、クロムウェルの言葉を遮り、「“ガリア”艦隊依り、クロムウェル閣下に伝言が有ります!」、と報告為る。

「伝言? おお! そうか!」

「御挨拶したい故、位置を知らせて欲しい、との仰せです!」

「挨拶? ああそうか! 全くあの御方は律儀な御方だ! 王も律儀成ら艦隊司令長官殿も律儀だ! 良し、此の玄関前に、議会旗を立てて呉れ」

 連絡士官は、「了解」、と首肯くと、退出して行った。

 暫く為ると、前庭のポールにスルスルと、“神聖アルビオン共和国議会旗”が昇ぼって行くのが見えた。

 其の後に、何十隻、否100隻近い戦列艦が、素晴らしいと感想を抱かせる程の練度を誇示するかの様に、見事な機動で並んで行く。まるで観艦式の様な光景で在る。

 クロムウェルが(一体何な挨拶だろう?)とワクワク為乍ら待って居ると……眼下の玄関から、慌てふためいて人々が飛び出して行くのが、彼には見えた。まるで鼠が“フネ”から逃げる様子で在り、クロムウェルは(一体彼等は何をして居るのだろう?)と訝しむ。

 そして、クロムウェルは再び艦隊を見詰めた。

 100隻近い戦列艦の舷門が、一斉に光った。

 30余年のクロムウェルの人生で見た中で、一番美しい光景で在ったと云えるだろう。

 何千発もの砲弾が、クロムウェルが居る赤煉瓦の発令所を襲ったのだ。

 一瞬で発令所は、瓦礫の山と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――“神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る”。

 

――“神の右手ヴィンダールヴ。心優しき神の笛。汎ゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空”。

 

――“神の頭脳はミョズニトニルン。知恵の塊紙の本。汎ゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す”。

 

――“そして最後にもう1人……記す事さえ憚れる”。

 

――“4人の(しもべ)僕を従えて、我は此の地に遣って来た……”。

 

 

 

 外から聞こ得て来る子供の歌声と、射し込む鮮やかな陽の光で、少女は目を覚ました。

 少女は、ユックリと気怠気な様子で身体を持ち上げる。眩い、波打つ黄金の海の様な長い見事なブロンドが。砂が崩れる様にしてサラサラと身体の上を泳ぐ。

 驚く可髪の細さで在った。良く見ると、成人の半分位の細さしか無い。そんな細い髪が動くと、シャララ、と柔らかく空気を掻き乱す音が聞こ得……次いで反射した陽光を辺りに振り撒くので在った。

 其の髪の様に、身体もまた基本は細い。

 神が当に自らの身を振るったかの様な見栄えの肢体で在った。くびれたウエストの上、身体の細さに比べると、歪な位に大きな胸が薄絹の寝間着を持ち上げて居る。

 そんな寝間着1枚切りの悩ましい姿で、少女は欠伸をした。

 肌の艶からして、15~16程の年の頃に見えるのだが……其の幾層にも重ね合わせた神の手に依るリトグラフの様な繊細な美しさが、年齢を不詳にさせて居た。

 窓を開けると、子供達が走って少女の元へと遣って来た。

「ティファニア御姉ちゃん!」

「テファ姉ちゃん!」

 次々に子供は駆け寄って来て、ティファニアと呼ばれた少女に話し掛ける。

 どう遣ら此の妖精の様に美しい少女は、子供達のアイドルで在るらしかった。

「あららどうしたの? ジャック、サム、ジム、エマ、サマンサ、皆勢揃い。貴方達の歌声で起きちゃったわ。またあの歌を歌って居たのね。他の歌を知ら無いの?」

「知ら無ーい!」

「ティファニア御姉ちゃんに教えて貰った歌だもの!」

 ティファニアはニッコリと笑った。

 弟や妹の様な子供達……其の内の1番小さな子供が、何か言いたそうな様子でモジモジとして居る事に、ティファニアは気付いた。

「どうしたの? エマ。何か私に言いたそうね」

 エマと呼ばれた少女は、プルプルと震えた。

「あの……」

「恐わく無いわ。言って御覧」

 窓際に肘を突き、優しい声でティファニアは促した。

「森でー、森でー。苺摘みに行ったら見付けたの」

「森で、どうしたの?」

「何だよ!? エマ! そう言う事は先ず、俺達に言えよ!」

「何で黙ってるんだよ!?」

「だって、恐わくて……血塗けで……ふぇ……」

 エマは、泣きそうな顔に成った。

「皆、エマにやいのやいの言わ無いで。エマ、どうしたの? 御姉ちゃんに話して御覧?」

「……た、斃れてる人が居たの」

 其のエマの言葉に、ティファニアの顔が曇った。

「また?」

 子供達が騒ぎ出した。

「きっとあれだよ! せんそうだよせんそう!」

「ねー!」

 と子供達は首肯き合った。

「今朝、其処の街道を、議会の軍隊が通って行ったもの!」

 ティファニアは薄絹の上着を1枚羽織ると、窓から飛び出した。

「エマ、何処?」

「此方成の」

 

 

 

 自分の庭の様に遊び慣れた森を、少女は跳ねる様にして進んだ。

 子供達が後に続く。

 太い、木の幹に凭れ掛かる様にして、少年は斃れて居た。

 ティファニアはしゃがむと、少年の胸に耳を着けた。

「……未だ息は残ってる。でも、傷は深いわ。急いで手当し為いと」

 心配そうな顔でエマが呟く。

「ティファニア御姉ちゃん、治せるの?」

 1人の少年が、「馬鹿!」、と怒鳴った。

「ティファニア御姉ちゃんに治せ無い怪我何か無いんだよ! 知ってるだろ?」

「ほう。其れは良かった。是非、其奴の手当を頼みたい」

「誰?」

 突然、何処からとも無く声がしたと云う事も在り、皆一塊に成って警戒をする。泣き出しそうな様子を見せる子供も出始める始末だ。

 そんな中、ティファニアは年長で在る事も在ってか、其れとも彼女が持つ落ち着いたモノからか、質問を投げ掛けて来る。

「ああすまない。之では警戒するのも仕方が無いな」

 俺はそう言って、“霊体化”を解除して実体化する。

 突然現れた俺を見て、皆一様に驚いた様子を見せる。

「貴男は……?」

「セイヴァー……まあ、今はそう名乗って居る。そう呼んで貰えれば嬉しいのだがね」

 皆、やはり警戒した様子を見せて来て居るが、ティファニアだけは違った。

「大丈夫よ、皆。彼は危ない人じゃ無いわ。彼を、斃れてる彼を村に運んで上げて」

 子供達は、俺に警戒し乍ら、少年――才人の身体を持ち上げた。

 ティファニアは、改めて才人と俺を其々見詰め、観察して来た。

「外国人だわ」

 才人の黒髪と服装を見て、ティファニアは呟く。

 だが、ティファニアの知識内に当て嵌まるモノは無かった。“トリステイン”人でも、“ゲルマニア”人にも見え無いのだ。

 ティファニアは、俺と才人を見て、(何処の服だろう? 自分の様に、遠い異国の血を引く人間成のだろうか?)、と考える。そして、否、と微笑み、(自分は異国の血を引くと言う選り……異人の血を引くのよね)、と独り言ちる。

 風がそよいで、ティファニアの金髪を揺らす。

 耳に掛かった髪が揺れ、其処から、ツン、と尖った、他人とは多少デザインが違う耳が覗いた。

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