ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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神官の訪問

 才人が目覚めた日から、1週間が過ぎた……。

 1匹の“ウィンドドラゴン”が、“トリステイン魔法学院”の中庭に降り立った。

 中庭で談笑をして居た生徒達が、一斉に振り返る。

 其の背に跨って居た少年を見て、女生徒の間から溜息が漏れた。

「見て! 何て綺麗な髪かしら!」

「此方を見たわ!」

 其の少年の目に気付き、女生徒達は一瞬だけ、怯えた様な様子を見せる。

 少年が持つ左右の目の色が違うのだ。

「“月目”だわ」

 1人の少女が呟く。

 左右色が違う瞳――オッドアイは、此の“トリステイン”では2つの月に擬え、“月目”と呼ばれるのだ。迷信深い地方では不吉なモノとして忌み嫌う者も居れば、また、神性的なモノとして崇拝する者も居る。

 然し……“竜”に乗って遣って来た少年は、ウットリと見詰め続けて仕舞いそうに成る程に美しい。

「やだ……何処の国の“貴族”かしら? まるで妖精だわ!」

 “ロマリア”の神官、そして“ライダー”の“クラス”で在る“サーヴァント”、ジュリオ・チェーザレで在る。

 女生徒達はキャアキャアと騒ぎ始める。

 ジュリオはそんな騒ぎなど意に介した素振りを一切見せる事も無く、“ウィンドドラゴン”の上から颯爽と地面に降り立とうとするのだが……。

 転けた。

 地面に頭から突っ込み。減り込んで仕舞う。

 女生徒達は、唖然として顔を見合わせ、然る後にジュリオに駆け寄った。

「大丈夫……ですか?」

 ジュリオは地面に横たわった儘、ニッコリと笑った。何ともはや魅力的な笑みで、転けた見っとも無さと、其の笑顔のギャップに遣られ、女生徒達は更に参って仕舞ったと云った様子を見せる。

「御顔に土が……之を御使い下さい……」

 と1人の少女が、そんなジュリオにハンカチを手渡そうとすると、他の少女達も顔色を変えた。

「こ、此方を御使い下さまし!」

「此のハンカチには良い香りが付いて居りますの!」

 だが、そんな女生徒達の気持ちを知ってか知らずか、ジュリオは笑顔で断る。

「御気持ちだけで結構」

「まあ! だって其の麗しい御顔立ちに土の化粧は似合いませんわ!」

「良いさ。ちょっと位」

「でも……」

「こないだの戦争が終わってから此方、顔を洗って無いんだよ。だから見た目以上に、汚いのさ」

 ジュリオは手を振った。

「3週間近くも? まさか!?」

「顔を洗うのが嫌い何だよ」

 ジュリオの其の言葉に、笑い声が巻き起こった。

「レディのハンカチを汚して仕舞う訳には行か無いから、遠慮蒙ります」

 ピョコン、と立ち上がってジュリオは一礼をした。

「いやーん! 身も軽く居らしゃっるのね!」

 女生徒達の間から、またも歓声が沸いた。

 そんな女生徒達の様子を、苦々し気に男子生徒達は見詰めて居る。

 1人の男子生徒が挑戦亭な笑みを浮かべて、ジュリオに近付いた。

 女生徒の1人が、「ベリッソン様!」、と叫んだ。

 “トリステイン魔法学院”きっての色男の1人、3年生のペリッソンで在る。彼は古代の彫刻で在るかの様な完成されたと云える美貌を持って居るのだが、唯欠点を挙げるとすれば、愛嬌に欠けて居る人物で在った。嫉妬深い彼は、突然現れた人気者が、どうにも腹に据え兼ねたので在る。

 ジュリオを腕を組んで睨み付けたペリッソンは、胸元に提げられて居る“聖具”に気付いた。

 ふんと、小馬鹿にした笑みをペリッソンは浮かべた。

「御坊さん、御布施を強請りに来たのかね?」

 臆した風も無く、ジュリオは言葉を返した。

「友達に逢いに来たんですよ」

「此処は“貴族”の学び舎だぜ。辻説法成ら他所で遣って呉れ為いか」

「貴男に指図される覚えは無いですよ」

 ペリッソンの額に、青い筋が浮かび上がる。彼はジュリオが“杖”を持って居無い事を見て取ると、スラッと、長柄の“杖”を引き抜いた。騎士の真似事でもしたい年頃成のだろう、柄の付いた拵えをした、真新しい“杖”で在る。

「先刻の口振りだと、君も“アルビオン戦役”に参加したようだね。御坊さん」

「ああ」

「“ナヴァール連隊”の連絡士官を仰せ付かった。君は?」

「雑用だよ」

 と、ジュリオは手を振り乍ら事も無気に言った。

「“竜”の世話ばかりして居た様な気がするな。後は御負けみたいなもんかな。うん」

「神官風情には似合いの仕事だな」

 ペシペシと“杖”の先で、ペリッソンはジュリオの顔を叩く。

「僕の頭を叩くと言う事は、神と“始祖ブリミル”に対し、侮辱を加えると言う事ですよ。士官さん」

「神に対して侮辱を加えて居る訳では無い。“貴族”の真似事をしようとする神官風情に、何、“貴族”の作法を教えて居るだけさ。侮辱と言う成ら、払って見せ給え」

「君の何処が“貴族”だい? 何、外面は“貴族”かも知れ無いが、中身は唯の嫉妬屋じゃ成いか」

 ペリッソンの顔が、ジュリオの言葉を受けて赤く成った。

 集まった女生徒達が、怯えて後退る。

「“魔法”も使えぬ癖に!」

 そうペリッソンが叫んで“呪文”を唱えようとした時……。

 ジュリオの後ろで御座りをして居た“ウィンドドラゴン”が、ガバッと跳ね起きて、ペリッソンに跳び掛かった。

 一瞬の出来事と云え、ペリッソンは何の抵抗も出来ずに大きな“ウィンドドラゴン”に組み伏せられて仕舞う。

「こ、こら! 卑怯だぞ! “竜”何か使い遣がって! ぐがッ!」

 ペリッソンは、大きな身体を持つ“ウインドドラゴン”に背中を踏み付けられて仕舞い、悶絶をする。

「“魔法”が使え無いんだ。“竜”を扱う位、許して呉れよ」

 そんな騒ぎを繰り広げて居ると、騒ぎを聞き付けただろうシュヴルーズが小走りで駆け寄って来た。

「何々ですか!? 何成のですか!? やっと戦争が終わったと想ったら、今度は中庭でおっ始まったと言うの!? 冗談じゃ無いですわよ!」

 シュヴルーズは、突っ立って居るジュリオに気付き、目を丸くした。

「あらあら、外国人じゃ在りませんか! 誰の許可を得て、入って来たのですか? 御負けにこんな“竜”など持ち込んで!」

 一気に捲し立てるシュヴルーズの手を取ると、ジュリオは優雅に一礼した。

「……え?」

 手を取った儘シュヴルーズの顔を覗き込むハンサムな其の顔に、シュヴルーズは年甲斐も無く顔を赤らめた。肉体の年齢と精神の年齢が常に同じとは限ら無いのだ。

「申し訳有りません。唯、友人に逢いに来ただけ成のですが……」

「あ、あら、そう成の? 何方?」

「はい。ミス・ヴァリエールとミス・エルディです。美しい貴女に、彼女達の御機嫌を御窺いする許可を頂きたいのですが」

「美しい? 私が?」

「はい。我が祖国“ロマリア”には、“聖女”が描かれた古代のイコン(宗教画)が沢山存在します。貴女が現れた時、其のイコンから抜け出た聖女と見間違えてしまいました」

「まあ!? 聖女! そんな!」

 シュヴルーズは、燥いだ声で叫んだ。

「“学院”内に立ち入っても宜しいでしょうか?」

「神官様に、聖女と言われれては断れませんわね! あ、之を御持ちに為って下さいな!」

 シュヴルーズは夢を見て居るかの様な様子でサラサラと面会の許可を紙に書き留め、ジュリオに手渡した。

「有難う御座います。あ、出来れば“竜”の世話を御頼みしたいのですが」

「は、はいっ! 御任せ下さい!」

 シュヴルーズは、敬礼せんばかりの勢いで直立をした。

 そして、許可証が1枚だけと云う事に、ジュリオは訝しむ。

「ふむ、ミス・エルディは居無いのですか?」

「はい。ミス・エルディは、つい此の前、休学届を出し、“学院”を出ました」

「そうですか。アズーロ! じゃあ行って来るよ」

 キュイ、と一声鳴いて、“ウインドドラゴン”で在るアズーロは主人に首肯いて見せた。

 去って行くジュリオの背中をウットリと見詰めて居るシュヴルーズを、女子生徒達が冷たい目で睨む。

「な、何を見てるんですか!?」

「いえ……先生も女性だったんですねって。そう言う」

「きょ、教師を誂うもんじゃ在りませんよ! 後貴男! 何時迄も地面で寝てるんじゃ在りません! 神官様の“竜”の足の下から、早く退き為さい!」

 “ウィンドドラゴン”に踏まれて呻いて居るペリッソンを、顔を真っ赤にしたシュヴルーズは怒鳴り付けた。

 

 

 

 

 

 トントントン、とドアがノックされて、ルイズはボンヤリと目を開けた。

「誰?」

 と、ルイズが問い掛ける。

 暫しの間が在って、「俺だよ。俺」、と返事が在った。

 其の声を聞くと、ルイズは跳び上がった。然し……(幻聴に違い無い。余りにも求める余り、脳が勝手に声を作り出したのだ)、と想い直して毛布を引っ冠る。

「開けて呉れよ。俺だってば」

 再び声が響いた。

 ルイズは毛布からゆっくりと顔を出し、扉を見詰める。

「本物?」

「偽物の俺が居る訳無いだろ? 良いから早く開けろっ吐の」

 ルイズは其処で跳ね起きた。薄いネグリジェ姿の儘ベッドから飛び出し、牴牾しい手付きでドアを開けた。

 彼女が、夢に迄見た顔が、其処に立って居た。

「サイト……」

 ヘナヘナと、ルイズは床に崩れ落ちた。

 才人はニッコリと笑ってしゃがむと、そんなルイズの肩を抱いた。

「遅く為って御免な」

「ば……」

「ば?」

「ばかぁ……」

 ルイズの目から、涙がポロポロと溢れ出た。

「すっごく、すっごく心配してたんだから……死んだんじゃ成いかって、物凄く心配してたんだから……えぐ、ひぐ、えっぐ」

 ルイズは泣きじゃくった。

 才人は優しく、そんなルイズを抱き締めた。

「御免な……ホントに御免。必死に逃げ出した迄は良かったんだけど、帰りの“フネ”を探すのに手間取っちゃってさ」

 とても優しい声で、才人はそう言った。

「何で、何で私達を置いて2人で行ったのよ? 馬鹿。馬鹿馬鹿」

 ルイズはポカポカと才人の胸を殴り付けた。

 困った様に才人は鼻を掻くと、「だって、御前達を死なせる訳には行か無いだろ?」、と答えた。

「恩知らずの私の事何か放って置けば良いじゃ無いのよ……」

「そう云う訳には行か無えよ」

 才人は言った。

「どうして?」

 ルイズは尋ねた。

「好きだから」

 真っ直ぐにそう言われた事で、ルイズは頬を染めた。

「ば、ばっかじゃ成いの。私はあんたの事何て、好きでも何でも無いわ」

「声が震えてるよ」

「震えて無いもん」

「俺の事が好き何だろ?」

 自信足っ振りにそう言われた事で、ルイズは俯いた。こう云ったストレートな言葉に、ルイズは弱いので在る。

「ば、馬鹿。何であんたの事何か、好きに為ら成くちゃ成ら成いのよ?」

「顔がそう言ってるよ、ほら、もう真っ赤だ」

「言って無いもん。赤く無いもん。好き何かじゃ無いもん」

「俺に押し倒して欲しくて、こんな衣装を着てるんだろ? 何だ之。恥ずかしいなあ」

 気付くと、何時の間にかルイズは此の前の黒猫衣装を身に纏って居た。

ルイズは其れを不思議に思い乍ら、慌てて否定の言葉を口にした。

「ち、違うもん。唯、“使い魔”の真似しただけだもん。黒猫だったら判り易いって、あのボロ剣が言ったから、そうしただけだもん」

 ルイズは才人に抱き竦められて、ベッドの上に押し倒されてしまう。

「……あ」

 ルイズは何か文句を言おうと想ったのだが、出て来るのは熱い吐息ばかりで在る。

 才人の顔がルイズの顔へと近付く。

 ルイズは抵抗しようと想ったのだが、目を瞑ってしまう。そして、「あわ、あわ、あわ……」と呻く内に、才人から首筋にキスをされ、ルイズはふわふわ気分に成って仕舞った。

 ルイズが「ふわ、ふわ、ふわ……」と騒ぐ内に、才人に依って唇を塞がれて仕舞う。

 ルイズは才人をギューッと抱き締めた。そして、(何でこん何此奴ってば自信足っ振り成のかしら? 私ってば、こんな風に抱き締められたかったのかしら? 違うわ。違うもん。でも、身体が言う事を利か無い。包まれる様に抱き竦められ、死んじゃう位に気持ち好い)、と考える。

 兎に角ずっとこうして居たいと云った気持ちに成り、ルイズは才人の胸に頬を埋めた。

 すると……。

「ホントの猫だったら、こん成の着けて無いだろ?」

 サラッと軽い口調で、才人はルイズの黒猫衣装を剥ぎ取った。胸を隠す部分で在る。

「や……や!」

 咄嗟に、ルイズは自身の胸を隠した。

 ルイズは驚いた顔で、才人を見上げる。何時もで在れば問答無用で殴ったり蹴ったり怒鳴ったりする所だが、口を突いたのは、甘える様な声だった。

「や、やだぁ……」

 ルイズはそう呟き、視線を才人からズラす。

「見せて」

 すると、アッケラカンと大胆に、才人はそんな事を言うので在った。

「ば、馬鹿……そんな……駄目よ。駄目」

「どうして? 昔は恥ずかしがらずに、平気で着替えてたじゃ成いか」

「だ、だって……あの頃は“使い魔”だったから……」

「今だって“使い魔”だよ」

「そ、そうだけど、今は違うもん」

「どう違うの?」

 う……とルイズは口篭る。

「と、兎に角、今は駄目成の」

「何で?」

「だって、其の……」

「言って御覧」

 今の才人の言葉は、ルイズにとってはまるで催眠の呪文に近いモノだった。

 ルイズは魔法を掛けられたかの様に、正直に想って居る事を口にして仕舞う。

「……ちゃいの」

「ちゃいの?」

「ち、ちっちゃいの。だから駄目」

 ルイズは顔を真っ赤にして、どうにか其れだけを言う事が出来た。

「知ってるよ」

「……ホントにちっちゃいの。って言うかね、無いの。だから、見たら、サイト私の事嫌いに成っちゃうもん」

「成ら無いよ」

「成るもん。知ってるもん。あんたってば、いっつも他の女の子の胸見てるもん。姫様とか、メイドとか、ジェシカとか……あん成のに比べたら、私の何か」

「ルイズが見せて呉れたら、もう見無いよ」

「ホント?」

「うん」

 熱っぽい目でそう言われ、ルイズの腕から力が抜けた。

 慌てた声で、ルイズは言った。

「見るだけ。見るだけだからね? 変な事したら、しょ、承知し無いんだから」

「し無いよ」

 才人はルイズの手を掴んで、ユックリと上に持ち上げる。

 ルイズは恥ずかしくて死にそうに成って、目を瞑った。

 ルイズにとって永遠に感じるかの様な時間が過ぎる。

「……ど、どう? 小さい? そうでも無い? 平均値?」

 在り得無い感想を、ルイズは要求した。

 然し、返事は無い。

「な、何か言い為さいよ。もう」

 ルイズは急かす様にそう言うのだが、其れでも答えは無い。

 才人が何も感想を言わ無い為、(嗚呼、やっぱり見せるんじゃ無かった! ホントに平原成ので、サイトは呆れたに違い無い)とルイズは不安に成った。

「ルイズ」

「な、何よ……馬鹿……だから嫌だって言ったじゃ成い……」

「ルイズ」

 再び才人に呼び掛けられ、ルイズは怒鳴った。

「煩い! 馬鹿! もう見無いで!」

 ルイズは其処が夢の中で在ると云う事に未だ気付いて居無かった。

 同じ様に夢で出逢いを求める……才人とルイズは似た者同士で在ると云えるだろう。

「どうせ小さいもんッ! 馬鹿にしてッ! もう絶対見せ無いんだからッ!」

 部屋に、ルイズの寝言が響く。

「俺が好きだから、良いんだよ」

 夢の中での才人にそう言われ、夢の中でのルイズの身体から力が抜けた。

「ホントに好き?」

「うん」

 優しく、其れで居て自信に満ちた言葉……。

 ルイズは、(私も言わ為くちゃ。大事な言葉、サイトに言わ為くちゃ)、と想うのだが……やはりいざと成ると中々口に出来無い。其れでも勇気を振り絞り、其の言葉を言おうとした時……。

 ルイズは目を覚まして仕舞った。

「……あれ?」

 眼の前には当然才人は居無い。格好もネグリジェの儘で在る。

 ルイズは、「夢か……」、と疲れた声で呟いた。

 夢の中でも、大事な言葉を口にする事が出来無かった。

 其れがルイズにとって、哀しい事で、其れに気付き、両手で顔を覆う。

 すると……。

「ルイズ」

 部屋の隅から名前を呼ばれて、ルイズはハッとして振り向く。

 金髪の美少年が、壁に凭れる様にして立って居る。

「……ジュリオ?」

 “ロマリア”の神官、ジュリオで在る。

 ジュリオは目立つオッドアイ――“月目”で、ルイズを興味深そうに見詰めて居るのだ。

 ルイズは毛布を引き寄せた。

「どうして貴男が此処に居るの?」

「君に逢いに来たんだよ。随分と楽しい夢を見て居たみたいだね。“もう見無いで!”、“どうせ小さいもん!” って。一体、何を見せて居たんだい?」

 ルイズは、耳迄真っ赤にしてしまう。

「勝手に入っちゃ、駄目じゃ成い。此処は戦場の天幕じゃ無いのよ」

 感情の込もって居無い声で、ルイズはそう言った。

 ジュリオは、先程シュヴルーズから貰った許可証をピラピラとさせた。

「ちゃんと一筆貰ってるんだぜ?」

「レディの部屋に無断で入る何て、どう云う事?」

「僕達、強い絆で結ばれてるんだよ」

 ジュリオは、白い手袋を着けた右手を、ルイズに差し出した。

 ルイズは其の様な手を無視して、「冗談は辞めて」、と言った。

 ジュリオは気にした風も無く、笑みを浮かべた。

「遣っとの事で、“竜騎士隊”の任を解かれてね、今から“ロマリア”に帰るんだよ。全く“トリステイン”人は人使いが荒いね! 報告書を作成するからって、外国人の僕を、ずっと隊に縛り付けて置くんだから! 其の間、報告書とにらめっこさ」

「其れは御苦労様」

「帰国する前に、君達に挨拶して置こうと想ってね。生憎、ミス・エルディは何処かに出掛けたみたいだし」

 ルイズは、「そう……有り難う」、と虚ろな表情などで礼の言葉を口にした。

「元気が無いね」

 ルイズはキュッと唇を噛み締めて、毛布に顔を埋めた。

「僕は君の、命の恩人何だぜ。もうちょっと、感謝が欲しいね」

「どう云う意味?」

 顔を上げて、ルイズはジュリオを見詰めた。

「君達を、“フネ”に乗せたのは僕何だよ」

 ルイズはベッドから跳ね起きると、ジュリオに詰め寄った。

「何でサイト達を行かせたのよ!?」

「ちゃんと言ったよ。確実に死ぬよってね」

「止め為さいよ!」

「止められ無いよ」

 ジュリオは、真顔に成った。

「何言ってるのよ!? 貴男其れでも神官成の!? 死ぬと理解ってて、どうして止め無いのよ!?」

「彼等は、彼等の仕事をしようとしてたんだ。止められる訳無いじゃ成いか」

「どうして其れがサイトの仕事成のよ!?」

「彼は“ガンダールヴ”だ。主人の盾と成るのが、仕事さ」

 ルイズはマジマジとジュリオを見詰めた。

「“どうして知ってるんだ?” 何て訊きか無いで呉れよ。ミス・虚無(ゼロ)。妙な呼び名だな。ちゃんと呼ぼう。偉大成る“虚無の担い手”」

「……どうして知ってるの?」

「僕は“ロマリア”の神官だ。神学の研究が一番進んでる国から来たんだぜ。“トリステイン”選りも、“ガリア”選りもね」

 ルイズは力が抜けたかの様に、床に膝を突いた。そして、(今は、そんな事選りサイトとセイヴァーの生死が気に成るわ)、と考える。

 そんなルイズを理解してか、優しく諭す様な声で、ジュリオは言った。

「ホントは君を、迎えに来たんだ。でも、其れ処じゃ無い様だな」

「神学何か、犬にでも喰われるが良いわ」

「神学の講義をしたくて連れて行く訳じゃ無い。現実として、“ロマリア”は君を欲しがってる」

「放っといて」

「そう云う訳には行か無いけど……タイミングってのは大事だな。じゃあルイズ、君は嘘と真実、何方が好き何だ?」

 少しばかり考えた後、ルイズはポツリと、「真実」、と答える。

「良し。僕は“メイジ”では無いが、“魔法”のルールは知って居る。“サモン・サーヴァント”を、僕に講義して呉れ成いか?」

「“使い魔”を喚び出す“呪文”よ」

「条件は?」

 そう尋ねられ、ルイズは、ハッ!? とした様子を見せる。

「“メイジ”にとって、“使い魔”は大事な存在だが……代わりが利か無い訳じゃ無い。別れは、同時に新たな出逢いでも在る。“サモン・サーヴァント”は其れを象徴してると想うよ」

「黙って」

「新たな出逢いを祈ってる。じゃあまた」

 ジュリオはそう言い残すと、颯爽と部屋を出て行った。

 暫くルイズはジッと考え込んで居たのだが……其の無いに震え出した。

「死んで無いよね?」

 祈る様な声で、ルイズは呟く。

「生きてるよね。シオンの言ってた通り、生きてるわよね」

 暫く顔を伏せた後……ルイズは、ユックリと顔を持ち上げる。

「勇気出さ為きゃ」

 ルイズは、(行方不明なだけで、未だ死んだと決まった訳じゃ無い)、と自分に言い聞かせる。

 再びドアがノックされて、ルイズは跳び上がった。

「ジュリオ? 未だ用が有るの?」

 そう怒鳴って、ルイズは扉を開ける。

 然し、其処に立って居たのは……。

「私よ。ルイズ」

 困った様な表情を浮かべたモンモランシーで在った。

 モンモランシーはルイズの顔を見ると、溜息を吐いた。

「随分と落ち込んでるのね。まあ、気持ちは理解るけど……授業位出為さいよ。貴女、ずっと休みっ放しじゃ成いの。戦争だって終わったんだから……」

 後ろに居たギーシュも、心配そうな様子で顔を出した。

 モンモランシーは、ルイズの側にしゃがみ込み、優しい声で言った。

「其の……死んだって、決まった訳じゃ無いんだから」

 暫くルイズは膝を突いて居たが、ムックリと起き上がった。

 勇気を必死に成って取り返すかの様に、拳を握り締めた。

「……知ってるわ。生きてるもん。シオンも言ってた」

「そ、そうだよ! あのサイトが、セイヴァーが、そんな簡単に死ぬもんか!」

 ギーシュもルイズを励ます様な声色と口調で言った。

 其れからモンモランシーとギーシュの2人は、顔を見合わせて、ねー、と首肯き合った。

「そうよ。生きてるのよ」

 スッくとルイズは立ち上がり、呟いた。決心した様な、そんな様子だ。

「今から確かめるわ」

「へ?」

 とギーシュとモンモランシーは、怪訝な表情を浮かべる。

「絶対生きてる。其れを確かめる」

 棒読みするかの様な口調で、ルイズは言葉を続けた。

「ど、どう遣って?」

 ギーシュが尋ねた。

 モンモランシーが、ハッ! と何かに気付いた顔に成った。

「“サモン・サーヴァント”?」

「そうよ」

 ルイズは首肯いた。

「“使い魔”を“召喚”する“呪文”……“サモン・サーヴァント”を再び唱える為には、自分の“使い魔”が此の世に存在して成ら無い」

「そ、そうよね」

「だから……サイトが生きてれば、“呪文”は完成し無い筈だわ」

 ギーシュが、焦った声で言った。

「でも、若し、完成したら……」

 其の先を言おうとしたギーシュの頭を、モンモランシーは押さえた。

「ルイズ……もうちょっと心の準備が出来てからでも……」

 然しルイズは首を横に振る。

「今、決心が出来無かったら、後に成ったって無理よ」

 “杖”を持つと、ルイズは目を瞑って振り上げた。

 ギーシュは震え出した。

 モンモランシーも目を瞑った。

 小さく、ルイズは“呪文”を唱え始めた。

 緊張からだろう、ルイズの手が震える。

 ルイズの心が、恐怖からだろう震えて仕舞う。

 “サモン・サーヴァント”は“アンロック”の様な、“系統魔法”では無い、“コモン・マジック”で在る。従って“ルーン”では無く、口語の“呪文”がルイズの口から流れ出た。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。“5つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ”」

 眼の前の空間に向かって、ルイズは“杖”を振り下ろす。

 一旦“使い魔”としてルイズと契約をいた才人が生きて居れば……其処に喚び寄せる為の“ゲート”は開か無い。

 

 

 

 暫しの時間が流れた。

 目を瞑って居たモンモランシーは、中々目を開く勇気を出す事が出来無かった。ギーシュも、ルイズも、何故か口を開か無い為に、一種の恐怖を覚える。

「ねえギーシュ。どうだったの?」

 モンモランシーは小さな声で尋ねてみたのだが、返事は無い。

「んっ!」

 思い切って、モンモランシーは目を開いた。

 其の口から、気の抜けた溜息が漏れる。

 そして……クラクラと身体が揺れ、膝を突いてしまう。

 ルイズの前には、白く青く光る鏡の様な形をした“ゲート”が在った、

 魂を抜かれたかの様な様子で、ルイズは呆然と“ゲート”を見詰めて居た。

「嗚呼、何て事だ。残念な男を亡くした。非情に残念な男を亡くした。僕は……君の事が、君達の事が結構好きだったよ」

 切無い声でギーシュが言った。

 モンモランシーは、「ルイズ……」、と呟く。

 見紛う筈も無い、“召喚”の“ゲート”だった。今頃、“魔法”で選ばれた獣か“幻獣”の前に、其の“ゲート”は輝いて居るだろう。其処を潜るのは、当然彼等の意志次第で在る。

 何かが潜って遣って来る前に……。

「扉よ、閉じて」

 ルイズは“ゲート”を閉じた。

 モンモランシーは、何と声を掛けて良いのか判らず、ルイズを背中から抱き締めた。

「ルイズ……嗚呼、ルイズ……」

 ルイズは力無く床にへたり込む。

 ルイズは、最後に絞った勇気も粉々に砕け散り……(シオンが言って居た事は気休めだったんだ)、と絶望に呑み込まれて仕舞った。

 

 

 

 

 

 丁度其の頃、“アルビオン”の“サウスゴータ”の森の村……。

 眠って居た才人は目を覚ました。

 眼の前が光った気がしたので在る。

 然し……目を開けると、其処には何も無かった。

「気の所為か……其れとも夢か? 然し、最近頻く光りモノの夢を見るな。セイヴァーに相談してみるか?」

 と才人は1人愚痴た。

 其れから再び、自身の左手を見詰める。

 一晩寝れば、復活してると考えたのだろう……。

 が、やはり消えた儘で在った。

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