ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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聖杯戦争開始

 ルイズとシエスタは、件の110,000対2の戦場と成って居た丘に立って、緩やかに下る草原を見詰めた。

 朝陽が山脈の向こうから昇って来て、山々の隙間から陽光を撒き散らし、辺りに色を付けて行く。

 2人は略1日掛かりで、50“リーグ”を歩いて来たので在った。天幕を張って1晩寝たとは云え、其れでもやはり未だ棒の様に足は痺れて居る。

 然し、眼の前にはそんな疲労を癒やすかの様な光景が広がって居る。

 遠くに見える山脈と、淡い翠のコントラストが何処迄も爽やかで在る印象を与えて来るのだった。ほんの1ヶ月前、此処が戦場で在った事が信じられ無い位だ。鉄と血と“魔法”などに因って繰り広げられたで在ろう饗宴と、2人の眼の前に広がる爽やかな光景とが上手く結び付か無い。

 だが、確かに此処ではそんな戦が在ったのだ。

「……サイトとセイヴァーは、此処で110,000を迎え討ったのね」

 ルイズは、盾を引き受けた“使い魔”の事を想う。

 横には広大な森が見える。

 ルイズは“魔法学院”の図書館から拝借して来た、“トリステイン地理院発行”の“アルビオン”地図を広げた。

 シエスタが横から覗き込む。

「之、殆ど“アルビオン大陸”全土の地図じゃ成いですか」

「にしても、シオンが居て呉れたら良かったんだけど、今頃どうしてるのかしら?」

「そう言えば、ミス・エルディは“アルビオン”出身だったんでしたね」

 ルイズは咳払いをすると、地図を折り畳んだ。

「近くに村は成いかしら?」

 シエスタはキョロキョロと辺りを見回した。其れから森の一角を指指す。

「彼処に小道が在りますわ」

 夜には気付か無かった小道が、確かに其処には在った。

「森に通じてるみたいね」

「行方不明って事は、森に消えたんじゃ成いでしょうか?」

 小道は馬車が通れる程広くは無かったが、どう遣ら人が行き来して居る様で在り、割と確りと踏み固められて居る事が判る。

「人の生活の香りがしますわ」

 と、シエスタが言った。

 

 

 

 其の頃……。

 “ウエストウッド村”の森の中では、アニエスと才人が木剣を構えて睨み合って居り、俺はまた少しばかり離れた場所で観戦して居る。

 アニエスは「技も術もすっ飛ばす」と言ったのだが、あれから、才人に幾つか技と呼べるモノを教えて居た。剣を巻き込んで斬り付ける技や、フェイントの遣り方などで在る。

 そして今は……アニエスの言う試験で在った。

 才人は、「今迄教えた技とコツを使って、何が何でも自分から1本取ってみろ」、とアニエスから言われたので在る。

「そうしたら、御前の事を、名前で呼んで遣る」

 今迄犬呼ばわりされ続けて来た才人は、発奮した。

「何をしても良いんですね?」

「実戦を模して居る。当たり前だ」

 才人は息を吸い込むと、剣を下げた。

「……何だ? 其の構えは」

 才人は切っ先で地面の土を掬うと、其れをアニエスの顔目掛けて放った。

「てやぁ!」

 然し……当然乍らアニエスは微動だに為無い。

「う」

「砂成ら兎も角、都合良く土が目に入る訳が無いだろう」

「そっすね」

 才人は真顔に成って、剣を構えた。

 其の儘暫し、睨み合いが続いた。

「来無いのか? では、此方から行くぞ」

 アニエスは遠慮の無い振りを、才人へと見舞う。

 速い……のだが、才人が予想して居た程では無かった。

 其れ故か、才人は其れに合わせて動く事が出来て居た。

 始まった時に、才人は心に決めて居たので在る。

 初太刀で動くと……。

 才人は、(アニエスさんは、最初から打って出るとは想わ無いだろ。教えられた通り、躱して間合いを測ると想って居るに違い無い。だから初太刀で行く)と考えたのだ。

 バシィイイイインッ! と思い切りに肩に木剣が打ち当たる音が響く。

 直後、ガランッ! と地面に木剣が落ちる音が響く。

 才人は唖然として己の手を見詰めた。

 木剣が確りと握られて居る。

 見ると……アニエスは剣を取り落として、片膝を突いて居るのだ。

「だ、大丈夫ですか!?」

 慌てて才人は駆け寄り、俺はユックリとアニエスへと近寄る。

 そんな俺達をアニエスは制して、立ち上がる。

「大丈夫だ」

 其れからアニエスは、ニッコリと笑った。

「まさか初太刀から合わせて来るとはな……」

「勝機は其れしか無いと想ったんです」

 実感が無いと云った様子の儘、才人は言った。そして、(まさか、此の“銃士隊”隊長から1本取れる何て)と興奮もして居た。

「まあ、約束だ。御前を名前で呼んで遣る。ファイト」

「才人です」

 と憮然とした様子で才人は言った。

 

 

 

 木に寄り掛かり……才人とアニエスは休憩を取って居り、俺もまた2人に倣う。

 ポツリと、アニエスは話を切り出した。

「さて……一応試験に合格した御前に、言って置かねば為ら成い事が有る」

 才人は身を乗り出した。

「何ですか?」

「御前に幾つか教えた術や技には、1つだけ共通点が在る」

「ふむ」

「全て等しく、役に立た無い」

「はい?」

「実戦ではな、剣が相手とは限ら無い。槍を相手にせねば成ら成い時も在るし、銃かも知れぬ。もっと恐ろしい“メイジ”かも知れぬ。否、人間とは限ら無い。“幻獣”かも知れぬし、“亜人”かも知れぬ。況してや1対1での状況など、略在り得ぬ。1人の攻撃を躱す間に、他に掛かられたら? 剣術など、役に立つものか」

「じゃあどうすれば……?」

「私と1番初めにて合わせた時、貴様はどうした?」

「えっと……振り下ろしました」

「後は?」

「突いたりしてみました」

「そうだ。実戦での動きは、振り下ろすか突くか、粗其れだけだ。其れで良いんだ。其れだけを行え。唯状況に気を遣え」

「状況?」

「先ずは奇襲だ。後ろから殴るんだ。失敗して対峙せねば為ら成く成った場合は、隙を突け。何としてでも隙を見付けろ。無ければ作り出せ」

「……作り出せ無かったら?」

「捨て身で打つかれ」

「実戦ではな、負けると想ったら、負ける。結局の所、技も術も、自信を着けるだけのモノに過ぎんのだ。嘘でも良い。勝つと想い込め。描いた想いが現実に成る。其れが勝利の本質だ」

「“イメージするのは、常に最強の自分”って奴ですね……じゃあ、今のは……」

 才人はアニエスが行った先程の振りを想い出した。

 スピードや動きにキレが無いと云えただろう。

 詰まり、アニエスは……。

「勿論、御前に自信を着けさせる為だ。態とに決まってるだろが。勝利の感触を、肌で覚えねばな」

 才人は顔を輝かせた。

「有難う御座いました!」

「理解ったら、顔を洗って来い」

 言われて、才人は自身の顔は汗や土で酷い事に成って居る事に気付く。

「はいっ!」

 と才人は元気良く水汲み場へと駆けて行った。

 ふぅ、と溜息を吐いて手を見たアニエスに、傍らの木に立て掛けられて居るデルフリンガーが言った。

「態と?」

 ジロッとデルフリンガーを睨み、アニエスは言った。

「……まあ、上達は早い方だな。1年も鍛えれば、相当な使い手に成るかも知れん」

「当たり前さ。実戦の経験だけ成ら、御前さん以上だよ。命の遣り取りを、身体が覚えてるのさ。後は其れを脳の隅っこから、取り出すだけだった」

 アニエスはジッと黙って手を見て居たが、詰まら無さそうに首を横に振った。

「えっと……8割は出したな。うん」

「8割?」

「否、加減が狂って、9割は出てたかも知れん。かも、知れん」

「御前さんも、負けず嫌いは人一倍だねぇ」

「全く其の通りだな」

 デルフリンガーの言葉に、俺は同意する。

「セイヴァー!? 御前迄」

「だが、悪い事では無い。其れが強さの元に成る事も在る」

「なあセイヴァー……先刻の私の説明、戦場での戦い方などについて、あれで良かったのだろうか?」

「問題無いだろう。だがそうだな……彼奴には剣の腕を磨かせるのも大事だが、体術なども覚えさせる必要が在るかも知れ無いな」

「其れまたどうしてだね?」

 デルフリンガーが、カタカタと震え乍ら訊いて来る。

「何、戦場で常に剣を手に持つ、握り続ける事が出来るとは限ら無い。何かの拍子で手元から抜け落ちて仕舞う可能性は大いに在り得る。せめて、護身術位は身に着けて貰いたいモノだな。況してや、此の先の戦いは……さて、そろそろだな」

 

 

 

 才人が水汲み場で顔を洗って居ると……ティファニアが駆け寄って来た。

 小さな女の子と一緒だ。

「どうしたの?」

 と、才人が尋ねると、息を切らしてティファニアが言った。

「サイトの言ってたルイズさんって、こう髪が桃色で、背の低い女の子何でしょう?」

「う、うん……」

 行き成り何を言うんだろうと、云った様子で才人は首肯いた。

「其の人、髪が長くって、とっても可愛らしいけど、あのホントに失礼ですけど胸がぺたんこな女の子?」

 唖然として、才人は首肯いた。

「そ、そうだけど……どうしたの?」

「じゃあ、やっぱり其のルイズさんかも……」

「え?」

「エマが、森に茸採りに行ったら、其の人と、髪の黒い女の人が歩いて居たんだって」

「髪が黒い女の人?」

「桃髪の人は、シエスタって呼んでたって……」

「な、何だって!?」

 才人は、(ルイズが? 俺に逢いに?)と愕然とした。

「ルイズさん成のね! わわ、真っ直ぐ此処に向かってるそうよ! どうしよう!?」

 才人の胸の中に、色んな想いが渦巻いた。其の想いはやはり直ぐに1つの欲求に結び付いた。一気にガスを送り込まれた風船で在るかの様に、其の欲求が膨れ上がって行くのが理解る。

 才人は、(逢いたい。とても逢いたい。ルイズ……身を呈して守り続けた、可愛い御主人様。逢いたい)、と想い、涙が溢れそうに成った。

 あの、桃髪の“貴族”の娘は、捜しに来たのだ。

 

 

 

 ルイズとシエスタは“ウエストウッド村”に到着した。

 2人は、“シティオブサウスゴータ”に通じる街道から入った森の小道を、半日ばかり当て処無く歩いて居ると、運良く茸を採って居る少女を見付けたので在る。

 5歳位の其の女の子に、「此の辺りで、男の子見為かった?」、と才人の人相を告げると、彼女は驚いて走って逃げ出して仕舞ったのだ。

 話の出来そうな大人に会えるかも、と考えた2人は其の後を追けた。すると……此の小陳鞠とした村に出たので在った。

 森を切り開いた土地に、寄り添う様にして10軒ばかりの家が並ぶ小さな村……と云う選りも集落と云う言葉が適切だろう規模だ。

「開拓村ですかね? 造られてから其れ程経って無い様に見えますけど……」

 とシエスタが感想を漏らす。

「誰かに訊いてみましょう」

 とルイズは言って、話せる大人を探し始めた。

 すると……丁度良い人物が現れた。

 野菜を一杯入れた籠を持った少女が、1軒の家から出て来たので在る。

 大きな帽子から流れる様な金髪が覗く、美しい少女で在った。

「あの、ちょっと尋ねたいんだけど」

 とルイズが話し掛けると、驚いた様子に身を竦ませる。

「平気よ、怪しい者じゃ無いわ」

 シエスタが牴牾し気に尋ねる。

「あの……此の辺りで男の子を見掛けませんでした? 私と同じ黒い髪の……17歳位の……」

 すると金髪の少女は、悲し気に顔を伏せた。そして、「此方へ……」、と言って、ルイズ達が遣って来たのとは別の方向の森へと2人を案内した。

 

 

 

「私が見付けた時は……もう手遅れだったんです」

 ティファニアは、ルイズとシエスタを1本の樫の木の元迄連れて来た。

 其処には大きな石が置かれて居り、森に咲く花々が飾られて居た。

 そして其の上に……才人のパーカーが掛けられて居るのだ。

 シエスタは、呆然として其の前にヘナヘナとへたり込んで仕舞う。

「“魔法”や銃弾で、身体は傷だらけでした。ほら……此の服見て下さし。ボロボロでしょう? 身体も同じでした。一生懸命、介抱したんですけど……駄目でした。恐らく、“水”の“魔法”でも、治せ無かったでしょう」

 ヒックヒックとシエスタは泣き始めた。そして、御墓を抱き締める。

「どうして……どうし死んじゃったんですか……? 絶対、逃げて下さいって言ったのに……」

 そんなシエスタの様子を見て、ティファニアは苦しそうに言葉を続ける。

「そして……最期に……“若し逢いに来る人が居たら、伝えて呉れ”って言われてた言葉が在るんです」

「何て言ってたの?」

 ルイズが、何処かに心を置いて来たかの様な声で言った。

「“忘れて呉れ”って」

「其れだけ?」

 ティファニアは首肯いた。

 其れから、泣きじゃくるシエスタの肩を抱いた。

「此処は冷えますから……せめて家に入らして下さい。今晩1晩位成ら、御泊めします」

 シエスタはもう、何も考えられ無く成って居たのだろう、されるが儘に立ち上がる。

「貴女も……入らして下さい。寒く成りますから」

 ティファニアはそう言ったのだが、ルイズは答え無い。唯ジッと……才人のパーカーを見詰めて居た。

 ティファニアは首を横に振ると、ルイズに言った。

「じゃあ、家で待ってますから……」

 1人、残されたルイズは墓石の上から、才人のパーカーを取り上げた。

 其れにソッと、唇を着ける。

 目を瞑り、優しい声で言った。

「サイト……聞こ得てる? 先ずはあんたに、沢山御礼を言おうと想うの。良い?」

 返事が聞こ得る訳も無い。

「フーケの“ゴーレム”に潰されそうに成った時……ワルドに殺されそうに成った時……何時も救けて呉れたよね。“トリステイン”に“アルビオン”艦隊が攻めて来た時も、姫様が暴走した時も……終いには110,000もの“アルビオン”軍を止め為くちゃ成ら成く成った時も……あんたは何時も私の前に立って呉れた。あんたは私が何な我儘言っても、無茶を要求しても、最後には必ず守って呉れた。文句を言い乍らも、私の事を救けて呉れた」

 そして……とルイズは言葉を続けた。

「あんたは私の事を、“好き”って言って呉れた。何れだけ私が嬉しかったか理解る? あんた位よ、こんな私に、“好き”って言って呉れるの。可愛く無い、女の子らしく無い私に“好き”何て言って呉れるの、あんただけ何だから」

 ルイズは目を瞑った。

「そんなあんたに、私、言いたい言葉が有るの。意地張って、最後にも言え無かったけど……大事な言葉」

 胸に手を置いて、ルイズは想いを噛み締めた。

「でも、其れは此処では言わ無いわ。逢ってから、言うって決めたから。私ね、其れを言う迄、絶対に諦め無い。皆があんたの事を“死んだ”って言っても……“魔法”が死んだって教えて呉れても……御墓を見ても信じ無い。一生掛ける、私はあんたを待ち続ける。じゃ成いと、あんたが私にして呉れた事に、釣り合わ無いもの。あんたが命を賭ける成ら、私も賭ける。馬鹿と言われようが、あんたを待つわ。私はね、全身全霊を賭けて、あんたの死を否定する」

 ルイズは才人のパーカーを羽織った。

「私は“メイジ”よ。口にした言葉が、現実のモノに成る力を持って居る。だから言うわ。あんたが死んだって事、認め無い」

 才人の墓石を見詰めて、ルイズは言った。

「何時か逢える。きっと逢える。信じてる」

 

 

 

 樫の木の裏にしゃがんで、才人はルイズが去って行く足音を背中に聞いた。

 隣には、御墓を偽装するのを手伝ったアニエスと俺が居る。

「良いのか?」

 アニエスは、膝に顔を埋めた才人の肩に手を回した。

 才人はコクリと、首肯いた。

「良いんです。“ガンダールヴ”じゃ無い俺はルイズを守れ無いんです。だから……」

 アニエスは、「そうか」、と言って……声を押し殺して泣く才人の頭を、ソッと撫で続けた。

 

 

 

 

 

 其の夜……ルイズとシエスタは、ティファニアの家に泊まる事に成った。

 ルイズは才人が寝て居た部屋、シエスタはティファニアの部屋で在った。

 ティファニアは「居間で寝るから」と言って、早々に引っ込んだので在る。疲れた旅人達にベッドを提供したので在る。

 ルイズは才人が最期に寝て居たと言われたベッドへと横たわり、ジッと天井を見詰めた。其れから、豊富をソッと鼻に寄せ、才人の香りでも探すかの様にして香りを嗅いだ。

 ルイズは、何かをして居為ければ、恐らく心が壊れてしまいそう成ので在る。もう、冷静に何かを考えられる状態では無かったのだ。唯、後悔と自分を責める声と、才人の姿が何度も何度も、ルイズの脳裏を過るので在る。苦しくて、哀しく成るので在る。切無くて、どうにか成って仕舞いそう成ので在る。何時迄耐えねば成らぬのか、見当も付か無いだろう。

 ルイズがそんな風にまんじりと眠れ無い夜を過ごして居ると……。

 ドアが、ガチャリと開いた。

「シエスタ?」

 そう、シエスタで在る。

「どうしたの? 貴女も眠れ無いの?」

 シエスタは首を横に振った。

 良く見ると、彼女はブルブルと震えて居る。

「何よ……? 何が在ったの?」

「サイトさんが……」

 ルイズはベッドから跳ね起きた。

「サイトがどうしたの? ねぇっ!?」

「森に……」

「森ね!」

 ルイズは、(やっぱりサイトは生きてたんだ! 細かい事を考えるのは後。シエスタの口調だと、何か棄権に巻き込まれてる可能性が高いわね)、などと考え、“始祖の祈祷書”を掴んで飛び出した。

「何方?」

「こ、此方です」

 ルイズはシエスタを追って、走り出した。

 

 

 

 木々の隙間から漏れる、2つの月の明りだけが、頼り無い道標で在ると云えるだろう。

 足元は粗闇に近いのだ。

 ルイズは何度も転んだ。

 が、シエスタは流石田舎娘故か、森歩きは慣れて居るのか、ドンドン先を行くのだ。

「ま、待って……」

 其の内に、シエスタの姿は森の闇に呑まれて仕舞った。

「此方です」

 声だけが、闇の中から聞こ得て来る。

 必死に成って、ルイズは其の声を追い掛けた。

 其の内に、月明かりが射す、開けた場所に出た。下生えが、銀色に光って居る。良く見ると、発光性の茸が其処には生えて居た。

 シエスタが立て、何かを見上げて居る。

「ほら、サイトさんが其処に……」

「何処?」

 とルイズは目を凝らしたのだが、何処にも才人の姿は見え無い。

 ルイズは、(暗くて良く判ら無いのだろうか?)、と牴牾し気に、“コモン・マジック”の1つで在る“ライト”を唱えようとした、其の時……。

 肩から、革紐提げて居た“始祖の祈祷書”をシエスタが掴んだ。

「ちょ!? 何すんのよ!?」

 然し、シエスタは顔色を変え無い。妙な笑みを浮かべた儘、“始祖の祈祷書”をグイグイと引っ張るので在った。

「貴女……操られて居るの?」

 目の輝きに違和感を覚え、こう成っては遠慮して居る場合では無い為に、ルイズは思いっ切りシエスタを蹴飛ばした。

 シエスタは地面に転がってしまう。

 隙かさずルイズは、太腿のベルトから“杖”を引き抜いた。

 短く“詠唱”。

 “ディスペル・マジック”だ。

 “詠唱”時間が短い為、範囲は狭い。其れでもシエスタに掛けられて居る“魔法”を、“ディスペル(解除)”するには十分で在った。

 倒れたシエスタの身体全体が、発光した。

 何らかの“魔法”で操られて居る……とルイズは想ったのだが違った様だ。

「……操られて居る訳じゃ無いみたいね」

 シエスタは跡形も無く消え失せた。

 ルイズは、(一体何だったんだろう?)、とシエスタだったモノが倒れて居た辺りを目を凝らして見る。

 すると……一体の小さな人形が転がって居るのが見えた。

 其の人形には、ルイズは見覚えが有った。

 先日、“ロサイス”で……大道芸人が操って居た、騎士人形で在る。

「“アルヴィー(小魔法人形)”……」

 “魔法”の力で自立して動く“ガーゴイル(魔法人形)”の小型版で在る。

 どうして之が此処に? と疑問を抱くと同時に、ルイズは背後で下生えを踏む足音を聞き、振り返った。

「……誰?」

 黒いローブをスッポリと冠った人影で在った。其の身体のラインから女性で在ると云う事が伺える。

 ルイズはボンヤリと、“ロサイス”の大道芸人の格好を想い出す。

「私達の後、追けて来たのね? 貴女は誰成の?」

 ルイズは何時でも“呪文”が“詠唱”出来る様に、“杖”を構えた。

「名乗り為さい」

「そうね……何れを名乗ろうかしら?」

「巫山戯無いで」

「貴女は知ら無いでしょうけど、シェフィールドと名乗って居たわ。本名じゃ無いけどね」

 ルイズは“呪文”を唱えた。

「“イサ・ウンジュー”……」

 直ぐに“魔法”を解放する。

 “エクスプロージョン(爆発)”が、黒ローブの女性を襲った。

 然し、黒ローブが弾けた後には何も残ら無い。

 ルイズが近付くと、其処でバラバラに成って居たのは、やはり小さな人形で在った。

 どう遣ら此の“アルヴィー”は、“魔法”が発動して居る間は、込められた“精神力”を“魔力”とし、等身大に膨らむらしい。

「卑怯よ! 出て来為さい!」

 すると……。

 暗闇から、何体もの黒ローブの女性が現れた。

 ルイズには、“アルヴィー”が化けて居る姿成のか、本物成のか、区別を点ける事が出来無い。

 一斉に、黒ローブの女性は口を開いた。

「始めまして。ミス・ヴァリエール。偉大成る“虚無の担い手”」

 ルイズは相手が、自分の事を“虚無の担い手”で在る事を知って居る、と云う事に驚愕する。

「……“ガーゴイル(魔法人形)”使い?」

「使えるのは“ガーゴイル”だけじゃ無いわ」

 ルイズは“呪文”を“詠唱”しようとした。

 “ディスペル・マジック”で、一気にケリを付けようと想ったのだ。

「止め為さい。貴女の“詠唱”選り、私の人形が、貴女を貫く方が速くってよ」

 スッと……黒ローブの女性の後ろから、何体もの騎士や戦士の格好をした“ガーゴイル”が現れた。

 次から次へと、人形が増え続ける。

 剣や槍、そして斧矛(ハルバード)……何れも恐ろしい獲物を持って居る。

 そんな数十体もの“ガーゴイル”を従え、余裕などからだろうシェフィールドは呟く。

「私の能力を教えて上げましょうか?」

「……く」

「“神の左手”事、貴女の“ガンダールヴ”は、“汎ゆる武器を扱える”。そうよね?」

 ルイズは唯、黙ってシェフィールドを睨み付けた。そして、(どうして其れを知って居るの? そして其れを知って居る此の女は何者成の?)と考える。

「私は、“神の頭脳”――“ミョズニトニルン”。“汎ゆるマジックアイテム(魔道具)を扱える”のよ」

 “ミョズニトニルン”。

 “メイジ”でも無いのに、汎ゆる“マジックアイテム”を扱える。

 “ガーゴイル”が動いて居るのは、其の能力の御蔭成ので在ろう。

 作り出した“メイジ”が常に操り続け必要が在る“ゴーレム”と違い、“ガーゴイル”は自立した擬似的意志で動くのだ。其れだけに、相応の“精神力”を必要とする。

 之だけの量の“ガーゴイル”を、同時に作動させる……其れは何れだけ優れた“メイジ”で在ろうと不可能に近いだろうと云える。

 黒ローブの女性は、スッとローブを自らズラした。

 其の額には、何かの文字が刻み込まれて居り、光って居るのが見える。

 古代語の“ルーン”だ。其の古代語を、ルイズは見た事が在った。

 才人の左手甲に刻み込まれて居た“ルーン”……。

「此の古代語の“ルーン”を見た事が在るでしょう?」

 ルイズの顔から血の気が引き始める。

「貴女……」

「そう、私も“虚無”の“使い魔”成のよ。其れともう1つ……此方の方でも名乗って置いた方が良いかしら?」

 シェフィールドは一拍置いて、改めて名乗った、

 其れはルイズにとって、死刑宣告に等しい絶望的状況を告げるモノで在った。

「“サーヴァント”――“キャスター”……“魔術師”の“クラス”で喚ばれたの……早く喚ば為いと、死んじゃうわよ? ミス・ヴァリエール」

 

 

 

 其の頃……。

 才人はエマが寝泊まりして居る家で、アニエスと眠れぬ夜を過ごして居た。

 ルイズ達がティファニアの家に泊まる事に成った為に、居場所が無く成って仕舞ったので在る。

 1つ切りの部屋に、才人とアニエスはテーブルを挟んで座って居た。

 隣のベッドでは、すやすやとエマが寝息を立てて居る。

「守る資格が、無いか」

 才人の話を聞き終わったアニエスが、呟く様に言った。

「……ええ。俺はもう、“ガンダールヴ”じゃ無いですから」

 アニエスは暫く考え込んでから、尋ねた。

「御前は“ガンダールヴ”だから、ミス・ヴァリエールを守って居たのか?」

「そうです。“ガンダールヴ”だから、ルイズを守れたんです」

「違う」

「え?」

「私が訊いて居るのはそう云う意味では無い。意志の問題だ。“ガンダールヴだから守れた”と“ガンダールヴだから守る”では意味が違う」

 才人は、ハッとした様子を見せる。

「詰まりだな、ミス・ヴァリエールを守って居たのは、“ガンダールヴ”成のか? 其れともヒラガサイト成のか? 何方何だと訊いて居る」

「其れは……」

 答えに迷う才人を見て、「自分を卑下するのは簡単だ。“出来ぬ”と呟いて、諦めるのも1つの勇気に違い無い。でもな……」、とアニエスは言い、また、言葉を続けた。

「命を捨てても構わ無い、と想える女が現れるのは、精々一生一度だぞ」

 

 

 

 “虚無”の“使い魔”と、そして“サーヴァント”で在ると名乗るシェフィールドを見詰めて、ルイズは言った。

「……悪い冗談だわ。“虚無”の“使い魔”が他にも居る何て、更に其れが、“サーヴァント”だ何て」

「信じるも自由。信じぬも自由。貴女の選択は2つよ。大人しく其の“始祖の祈祷書”を差し出し、“令呪(聖杯戦争への参加資格)”を破棄するか……」

 ルイズは苦い表情で言った。

「……抵抗して斃れされた後に、奪い取られるか?」

「鋭いじゃ成いの」

「巫山戯無いで!」

 小馬鹿にした様な台詞を穿き続ける黒ローブの一体を狙って、ルイズは“エクスプロージョン”を放つ。

 然し、其れもやはり“ガーゴイル”の一体。

 直ぐに別の一体が、口を開く。

「此の“ガーゴイル”は、唯の“ガーゴイル”じゃ成い。“スキルニル”と言う、血を吸った人物に化ける事が出来る古代の“マジックアイテム”。其の能力も一緒にね……古代の王達は、此の“スキルニル”を使って、戦争ごっこをしたの。そんな由緒有る高貴な遊びに付き合わせるのだから、感謝して欲しいわ」

 ユックリと“ガーゴイル”達は、ルイズへと近付いて行く。

「唯の剣士や戦士と侮っては行け無いわ。何れも“メイジ”の光の歴の裏で、“メイジ殺し”と呼ばれる様な使い手として恐れられた連中よ」

「くっ!」

 ルイズは再び“ディスペル・マジック”で、近付いて来る1体を解除した。

 然し……押し寄せる大群の前には些細な抵抗に過ぎ無いと云えるだろう。

 “虚無”の威力は、“詠唱”の時間に比例すると云える点が在る。

 然し……長く“詠唱”を行う訳にも行か無い状況と状態に、ルイズは今置かれて居る。

 “呪文”を唱える其の間、“メイジ”は無防備だと云えるだろう。あっと言う間に敵に捕まって仕舞うのは明白だ。

「言ったでしょう? 戦争ごっこをしたのよ! 何体在ると想ってるの!? そんなショボクレた“魔法”で1体ずつ、“解除”したって切りが無いわよ? ほら!」

 剣士の姿をした“ガーゴイル”達は一斉に、ルイズへと跳び掛かる。

 為す術が有る筈も無く、ルイズは逃げ出した。

「アッハッハ! 可笑しい! “虚無の担い手”も其の程度? “ガンダールヴ”が居無くっちゃ、“呪文”を“詠唱”する事も出来無いのね!」

 ルイズは真っ暗な森の中を逃げ惑う。

 ルイズの後ろからは、“ミョズニトニルン”の“魔法人形”が彼女を追い掛けて来る。どう遣ら嬲って愉しむ積りで在るのか、其れともルイズの能力を測るのが目的で在るのか、一気に間合いを詰める事も無く、ルイズの足に合わせて追い掛けて来るのだ。

 木の根元に足を引っ掛けてしまい、ルイズは転んで仕舞う。

「痛い……」

 深い闇の向こうから、“ガーゴイル”達が森の下生えや土を踏む、湿った足音が響いて来るのが判る。

 恐怖が、ルイズの全身を包み始める。

 そんな時……ルイズの脳裏に浮かび上がったのは、(“虚無魔法”を唱え為きゃ)と云った考えでも無く、神への祈りでも無かった。口を吐いて出たのは……。

「サイト」

 此の世に居無いと言われ続けて居る、彼女の“使い魔”だった少年の名前だった。

 泣き出しそうな声で、ルイズは呟いた。

「救けて。サイト救けて」

 湿った足音が次第に大きく成る。

 ルイズの心の中の冷静な部分が……抑えて居た理性が、才人の存在を、(幾ら自分が信じ無くたって……サイトは死んだのよ。諦め為さい。ルイズ、諦めるの。あんたの“使い魔”は、死んだのよ!)、と否定する。

 ギリッと、ルイズは唇を噛んだ。

「何よぉ……」

 ルイズは泣きそうな声で叫んだ。

 死んだと囁き掛けて来る、自分の理性がルイズは赦せ無いのだ。

「どいつも此奴も死んだ死んだって……理解ったわ! 死んでるわ!」

 ルイズは立ち上がった。

 其れから“呪文”を唱え始める。

 ルイズの口から溢れる“呪文”は、古代の“ルーン”では無かった。“メイジ”で在るの成ら、誰もが使える“コモン・マジック”。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」

 ルイズは十分に理解して居た。

 之は、此の様な状況や状態などの時に唱える“呪文”では無いと云う事を。

 唱える可きは、敵わずとも……“虚無”で在る可き成のだ。

 だが、ルイズは、信じると決めたのだ。

 だからこそ、だったら、故に、頼るのだ。

 命を賭けて……其の名前に頼るのだ。

 ルイズの中で、何かが完結をした事を彼女は自覚する。

「――え!?」

 だが其処で、ルイズへと向けて何かが闇の中から投擲され、向かって来る事をルイズは気付いた。

 其れは“ガーゴイル”が放ったモノでは無い。文字通りに、闇の中から投げられたモノだ。

 確かに其れは、ルイズの命を奪う為に、投げられた。

 真っ直ぐに、ルイズの心臓へと向かう。

 だが――。

「セイ、ヴァー……?」

 其の投げられた短剣を、俺は“投影”した“干将莫邪”で弾き飛ばす。

「呆けるな、ルイズ。“呪文”を完成させろ」

 突然に現れた俺へと、暗闇に潜む者達は強く警戒をする。

「貴男は確か、“アルビオン”の新女王の“使い魔”の……」

「“キャスター”の“サーヴァント”、シェルフィード……“アサシン”の“サーヴァント”、ハサン・サッバーハ……“アヴェンジャー”の“サーヴァント”……ふむ、まさか3人の“サーヴァント”が手を組む……否、“キャスター”、君の手に依って“召喚”されて居るとはな……而も、“アヴェンジャー”を押さえ付ける事に成功して居る様だな」

「――!? 貴男は何者成のかしら?」

 シェルフィードは、警戒心を上昇させる。

 遠方から“ガーゴイル”を操るシェルフィード、暗闇に潜む2人の“サーヴァント”は俺を敵として認識をした様子を見せる。

 だが、未だ動か無い。

「そうだな、自己紹介と行こうか。俺は“代替者”――“オルタネーター”の“サーヴァント”……其処の“アヴェンジャー”同様に此処での名は無い。故に、此処“ハルケギニア”では“召喚”されてから、セイヴァーと名乗って居る」

 俺はルイズを一瞥する。

 俺が口を開き対話をする事で、ルイズは(信じるわ。だって私、そう言ったじゃ成い)と想い、才人との出逢いの“呪文(サモン・サーヴァント)”を怒鳴る様に唱える事に成功させる。

「“5つの力を司るペンタゴン! 我の運命(さだめ)に従いし”――」

「阻止し為さい! “アサシン”! “アヴェンジャー”!」

 明らかに焦った様子を見せる“キャスター”で在るシェフィールドの言葉に従い、2人の“サーヴァント”はルイズへと攻撃の態勢に入るのだが。

「――“使い魔”を“召喚”せよ!」

 其の前に、ルイズは“呪文”を唱え終え、“魔法”を完成させ、“杖”を勢い良く振り下ろした。

 

 

 

 膝を抱えて考え込む才人の前に……。

 “ゲート”が開いた。

 何時か、才人が“東京”で見た、此処“ハルケギニア”に来る直前に見て触った“ゲート”で在る。

 呆然として、才人は其れを見詰めた。

「之は……」

 デルフリンガーが、何時もの調子で言った。

「……はぁ、どう遣ら、セイヴァーの言う通り、御前さんはあの娘っ子の“使い魔”に成る“運命”みたいだね」

「でも……」

「そうさ。“コントラクト・サーヴァント”が上手く行くとは限ら無い」

「そんな事言って居る場合じゃ無さそうだぞ」

 アニエスが“ゲート”を指指して言った。

 中から、ルイズの悲鳴と、鉄と鉄が打つかる音などが聞こ得て来るのだ。

「来た! 来た来た! 救けて! いやぁ!」

「……そうみてえだね。どうする? 相棒」

 デルフリンガーがそう言った瞬間……才人に引っ掴まれる。

「ま、そうだろうな。でも相棒、御前さん、生身と言う事を……」

 才人はブツブツ呟くデルフリンガーを握り締め、“ゲート”に飛び込んだ。

 

 

 

 “ゲート”の向こう、闇の中に“ガーゴイル”が姿を現した。

 だが、ルイズは震え無い。

 隣で守って呉れて居る者が居るからと云うのも有るが、其れと同等か其れ以上に、熱い高揚が身体を包むのをルイズは自覚した。(来る。サイトは来る。シオンが言ってた。“セイヴァーが生きてる事を教えて呉れた”って。シエスタが教えて呉れた。そして、想い出させて呉れた。信じると言う事を。死んだって……私を救けに遣って来る)、とルイズは想い、前へと目を向ける。

 “ゲート”毎、ルイズを斬り倒そうと“ガーゴイル”は剣を振り上げる。

 刹那……“ガーゴイル”の上半身が、ズルリと崩れ落ちた。

 先ず、ルイズの目に飛び込んで来たのは、デルフリンガーの刀身で在った。

 次いで現れた、見慣れた黒髪を見た時……ルイズはずっと我慢して居た涙が溢れて来るのを感じた。

 

 

 

 “ゲート”から出た瞬間、才人の目に映ったのは、剣を振り下ろそうとして居る剣士で在った。

 臆する事も無く、才人は飛び込み、デルフリンガーを振り下ろしたのだ。

 完全に隙を突かれた剣士は、斬り倒されて仕舞った。

 後ろから……才人にとって懐かしいルイズの、涙混じりの怒鳴り声が響く。

「ど、どど、何処に行ってたのよッ!」

 才人は何か気の利いた事でも言ってルイズを安心させたかったが、出て来た言葉は、「ちょ、ちょっと其処迄……」と云う実に情け無いモノで在った。

 ルイズは半狂乱と云った様子で喚き散らす。

「あんたってば私の“ガンダールヴ”何だからねッ! 何処にも行か無いでちゃんと守っててよ! ま、守って……」

 其先は、感極まって仕舞ったのだろう、言葉に成ら無い様子を見せる。

「五月蝿せよ馬鹿」

「誰が馬鹿よ!?」

「良いから覚悟しとけ」

「何よ!?」

 暗がりから、“ミョズニトニルン”こと、シェフィールドの声が聞こ得て来る。

「おやおや。“ガンダールヴ”の登場って訳? 随分と遅かったじゃ成いの。何処で油を売って居たの?」

「“ガンダールヴ”じゃ無えよ」

「だったら、何者何だい?」

「唯の“地球”人だよ」

「何だ。折角仲間に逢えると想ったのに……残念だね」

 そんなシェフィールドと才人の遣り取りを聞いて、ルイズが叫ぶ。

「ど、どう云う意味よ!?」

「言った通り。俺は今、“ガンダールヴ”じゃ在りません」

「はぁ!? どゆ事!?」

「“ルーン”消えちゃいました。死に損なったから」

「ば、ばば、ばっかじゃ成いの! じゃあ何で“ゲート”潜ってんのよ!?」

「煩せえ。俺は“ガンダールヴ”だから、御前を守ってた訳じゃ無え」

「他に何な理由が有るって言うのよ!?」

「惚れたから守ってんだよ!」

 ルイズは顔を真っ赤にした。こんな時でも、否、こう云う時だからこそ、だろうか。

 コホンと咳をして、澄ました声でルイズは言った。

「じゃ、じゃあ、兎に角……もう1回、“コントラクト・サーヴァント”を……」

「上手く行くとは限ら無えし、何処にそんな時間が在るんだよ? 御前は“虚無”を“詠唱”しとけ。時間は俺とセイヴァーが稼ぐ」

「何言ってんのよ!? “ガンダールヴ”じゃ無いあんたに、あれだけの“ガーゴイル”と3体の“サーヴァント”を相手出来る訳が……」

「“ガーゴイル”に、“サーヴァント”?」

「そうよ。“ガーゴイル”は“魔法人形”って事よ」

「そっか、人間じゃ無くて良かった。目覚めが悪ぃからな……」

 ヒタヒタと“ガーゴイル”の群れが近付いて来る。

 が、其処で才人は一拍置いて驚いた様子を見せる。

「さ、“サーヴァント”って言った?」

「う、うん……」

「而も、3体?」

「う、うん……」

 才人とルイズの顔は蒼白だと云えるだろう。

「かなりヤバイじゃ成えかッ!」

「まあ、落ち着け。才人」

「之が落ち着いて居られるかッ!?」

 取り乱す才人に、飽く迄も俺は落ち着く様に声を掛ける。

「ルイズ、御前は“虚無魔法”の“詠唱”を。才人、御前は“ガーゴイル”を遣れ。否、“ガーゴイル”だけに集中しろ」

「御前はどうするんだよ? まさか……」

「勿論、“サーヴァント”の相手は“サーヴァント”だ。今の御前じゃ無理だ。逆立ちをしてもな。では行くぞ」

「ああ」

 “ガーゴイル”の群れから1体が才人へと近付く。どう遣ら、斥候らしい。

 才人は剣を構えた。

「良いから、命預けとけ。ルイズ」

 先程とは打って変わって自信足っ振りと云った様子の才人の言葉と様子に……ルイズは嬉しさからか唇を噛み、目を擦る。

 “杖”を構え、ルイズは“呪文”を“詠唱”し始める。

 懐かしさを感じさせる“虚無”の調べを背中に聞き乍ら、才人は敵が遣って来るで在ろう方向を見据えた。

 暗がりから、先程とは違う形状の鎧に身を包んだ“ガーゴイル”が跳び込んで来る。

 一気に踏み込んで来た敵の攻撃を、才人は後ろに飛び退いて躱す。次いで、敵の足の位置を、頭に叩き込む。

 アニエスとの特訓が、才人に間合いと云うモノを教えて呉れて居るのだ。

「“足を見ろ”……だよな」

 何度か躱す内に、敵の攻撃パターンと云うモノは次第に見えて来る。

 敵が剣を振り下ろした瞬間に、思い切って才人は突っ込んだ。

 “ガーゴイル”の肩が斬り裂かれ、剣が地面に落ちた。

「あ、当たった!」

 震え乍ら才人は、腕を失った“ガーゴイル”を斬り伏せた。

 然し喜んだのも束の間……次々と敵は現れる。

「くそ……」

 アニエスからの言葉が、才人の頭の中に蘇る。

 

――“1対1の状況が、先ず在り得ん”。

 

 才人は逃げ出そうかと想ったが、ルイズの“詠唱”が背中に聞こ得る。

 ルイズは言われた通り、才人達に命を預けて居るのだ。

 “ガンダールヴ”では無く、平賀才人に、彼女は命を預けて居るのだ。

 才人は息を吸い込み、勇気を振り絞る。

 静々と、敵が2人へと近付いて来る。

 5体だ。

 其れ迄黙って居たデルフリンガーが口を開いた。

「相棒、良いか聞けよ。今、御前さんは2体の敵を斬り伏せた。理解るな? 生身の御前さんが、“ガーゴイル”を2体も遣っ付けたんだ」

「ああ」

「自信を持て。御前は強い。今から俺が指示を飛ばす。其の通りに動け。良いな? そうすれば、必ず勝てる」

「うん」

 デルフリンガーの自身に満ちた声が、才人を冷静にさせた。

「真ん中だ」

 槍を持った“ガーゴイル”からの攻撃だ。

「右に避けろ」

 デルフリンガーの指示通りに、才人は右へと跳躍して躱す。

 シュンッ! と突き出た槍が、才人の横を掠める。

 才人は間合いを詰め、袈裟懸けの要領で斬り下ろす。

「右隣。しゃがめ。足を斬り払え」

 次いで、才人はしゃがむ。

 才人の頭が在った空間を、右に居た“ガーゴイル”の剣が過ぎて行くのが判る。

 しゃがみ様に、才人は剣を払う。

 足を斬られた事で、其奴は地面に転がる。

「其の儘右。斬り上げろ」

 立ち上がり様に、才人は斬り上げた。

 地面に転がった才人を叩こうとして居た“ガーゴイル”のまたが斬り裂かれる。

「振り向き様に薙ぎ払え」

 才人は振り向いた。顔の横を槍が過ぎて行くが、もう動きが鈍る程の恐怖は感じ無い事を、才人は感じ取る。次いで、完全に振り返るのと同時に払った太刀筋で、後ろから突き掛けた“ガーゴイル”は胴を見事に両断されて転がる。

 残った1体が、剣を振り上げた。

「貰った!」

 チャンスとばかりに、才人は突いた。

「馬鹿! 突くな!」

 デルフリンガーが叫んだが、才人は既に行動を終え、突いて仕舞って居る。

 グッサリと、“ガーゴイル”の胴に剣が減り込む。

「7体目だ!」

 喜びに叫んだのも束の間、才人は驚愕した。

「ぬ、抜け無え!?」

「だから突くなって言ったじゃ成えか! 多数を相手にする時は、絶対突くな!」

 其処に新たな5体が現れ、才人はパニックに陥って仕舞う。

「ど、どうしよう!?」

「手遅れだよ! はい終了! さよなら!」

「そ、そんな!」

 才人は足を掛けてデルフリンガーを抜こうとしたが、どうにも上手抜く事が出来無い。

 そんな才人に、新手の1体が飛び掛かって来た。

 殺られる!? と思われた其の瞬間、銃声が響いた。

 才人に向かった1体が、グラリと崩れた。

「何を遊んで居る?」

 見ると、アニエスが拳銃を構えて立って居た。

「アニエスさん!」

 アニエスは発砲した後の拳銃を捨てると、腰から次の拳銃を抜いて、自分に向かって来た1体に撃っ放す。

 どう! と音を立てて、前のめりに“ガーゴイル”は斃れた。

 遣っとの事で、デルフリンガーが抜け、勢い余って才人は後ろに転がって仕舞う。

 今発射したばかりの拳銃も投げ捨て、スルリとアニエスは剣を抜き放ち、「来い」、と才人に向かって顎を杓る。

 心強い味方を得た事で、才人の中の勇気が再び膨れ上がる。

 然し、別の方向から1体が現れ、“呪文”を“詠唱”して居るルイズへと近付く。

 才人は咄嗟に駆け寄ろうとするが。間に合いそうに無い。

 “ガンダールヴ”だったら間に合うのに! とそう初めて後悔した瞬間……其の“ガーゴイル”の頭に、ぼごんッ! と何かが打つかった。

 フライパンで在る。

 ユックリと、其の“ガーゴイル”は地面に崩れ落ちる。

 ルイズの後ろに、寝間着姿のシエスタが震え乍ら立って居るのが見えた。彼女が、ルイズに近付く“ガーゴイル”目掛けてフライパンを投げたらしい。

 そして其の後ろには、“杖”を持って周囲を警戒して居るティファニアも居る。

「シエスタ!?」

「あ、当たっちゃった……」

 才人に気付き、シエスタの顔が歓喜に溢れる。

「眠れ無くって……窓の外を眺めてたら……血相変えて走って行く其処の女剣士さんが見えたんで、くっ着いて来たんです! そしたらサイトさんが! わぁわぁ! わぁ!」

「私は、シエスタさんが出て行く所に出会して、其れで」

 感極まったと云た様子で喚くシエスタと安心したと云った様子を見せティファニアの2人を見て、才人は、(シエスタとティファニア迄見てるんじゃ、之以上変な所は見せられ無い)、と云った風にでデルフリンガーを確りと握り直した。

 アニエスが斬り結ぶ3体に向かって、才人は突っ込んだ。

 慣れれたのか……アニエスと“ガーゴイル”が繰り広げる剣戟が、今の才人には心做しかユックリに見えたのだ。

 勿論“ガンダールヴ”の力を発揮した時程では無かったが、十分で在った。

 才人達が其の3体を斃すのに、然程時間が掛から無かった。

 

 

 

 暗がりの中、シェフィールドは、(彼奴等は唯の人間では成いか。其れ成のに……2人の剣士は、次々にシェフィールドの“ガーゴイル”を斬り伏せて行くとわね。女の方は相当な使い手と言う事が判るけど……もう1人の少年は)、と当惑した。

 シェフィールドから見ても、才人の動きは、“ガーゴイル”を斬り伏せる度に鋭く速く成って行くのが判る。

 才人は、まるで、忘れて居た動きを想い出し取り戻すかの様にして、剣の振りを始めとした一連の動作がスムーズに成って行くのだ。

「理解らぬのか、シェフィールド? あれは未来の、今の時代の“英雄”だ。俺が居た世界での彼奴は主人公だった……此処は絵巻などの中では無いが、其れでも彼奴は其の中での其奴と同一人物で在り、違う存在……」

「ふむ……“ガンダールヴ”の遺産か。流石は我が同類。一筋縄では行か無いわね」

 シェフィールドは、猛禽類の様な笑みを浮かべ、闘いを見守る。

 瞬間、其の表情が変わる。

 恋をする少女の顔に成ったシェフィールドは、大声を上げた。

「ジョセフ様!?」

 シェフィールドの顔が、次いで曇る。

「どうしてですか!? 何、本気を出せば、直ぐにでも斃して御覧に入れます!」

 次に頭に響いたで在ろう言葉で、再び彼女は笑顔を浮かべた。

「理解りました。対局を愉しむのですね? 成る程……“虚無”対“虚無”、“サーヴァント”対“サーヴァント”。詰まる所其れは、ジョセフ様が御自分で指される様なモノ……唯単に“秘宝”と“指輪”を集めて眺める選り、愉しいに違い在りませんわ。其れでは最後に、あの“担い手”と、 “サーヴァント”の力を測って置きましょう。之から遊び相手に成って貰うんですから、キッチリ測って置きませんと……」

「話は終わったかね?」

「ええ。私は之にて失礼させて頂きますわ。アサシン、アヴェンジャー。眼の前の其奴と、“虚無”の担い手の実力を測り為さい」

 未だ7騎揃わ無い中、聖杯戦争の開始が合図された瞬間で在った。

 

 

 

 ルイズの中で、“ルーン”、そして“精神力”が畝る。行き場を求めて、“虚無”の波が押し寄せるのだ。

 ルイズは、己の“精神力”を限界迄練り込み……解放する。

 長い“詠唱”が終わり、“詠唱”が完成した。

 “ディスペル・マジック”。

 集まった“ガーゴイル”を包み込み、掛けられた“魔法”を……人形を動かす“魔法”の影響を、更成る小さき粒への干渉で打ち消す。

 全ての“ガーゴイル”は斃れ……元の“アルヴィー”へと姿を変えた。

 まるで“サイレント(消音)”の“呪文”を掛けたかの様に、一瞬で森に静寂が戻った。

 が、未だ剣戟などの音は遠くから、彼等に聞こ得て居る。

「そうだ! 未だセイヴァーが!」

 そう言って才人は音のする方へと疾走り、皆が其れを追い掛ける。

 

 

 

 

 俺が“投影”した“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”と、アサシンが持つ短剣、アヴェンジャーの身体が打つかる。

「――之は!?

  其れを目にした、皆は驚愕に目を開き、呆然とした様子を見せる。動くに動け無いで居る様子だ。

「之が、“サーヴァント”同士の戦い……」

 金属音が鳴り響く。

「中々に遣るでは在りませんか、オルタネーター殿」

「そう言う御前等も中々の腕だ。ハサン・サッバーハ、否、“ハルケギニアのハサン”。そして、無銘の、“ハルケギニアのアヴェンジャー”」

「憎い……御前が持つ其の力が妬ましい。運が妬ましい。其の生が恨めしい」

 一旦戦闘の手を止め、対話する。

「セイヴァー!」

「ルイズ」

「あによ!?」

「先ずは“コントラクト・サーヴァント”を行え。そして――」

「そして、何よ!?」

「“サーヴァント”の“召喚”だ。“詠唱”は俺が教える。鸚鵡返しで良いから唱えろ」

「え、ええ……」

「だがまあ、当然、最終的には御前等が決める事だがな」

 早速才人に“契約”を施すのだ。

 再び襲われると大変だと云う事も在るが、此の状況と、此の先の展開などと考えると、才人が“ガンダールヴ”で在り、“サーヴァント”で在れば此方としても楽を出来るからだ。

「何好んで、“メイジ”の道具に成る事も在るまい。剣を振るのに“ルーン”は要らんだろうが」

「まあな」

 アニエスの言葉に、デルフリンガーが何遣ら切無さそうな声で相槌を打った。

 アニエスは意外そうな様子でそんなデルフリンガーを見遣る。

「浮かぬ様子だな。御前の相棒が帰って来るんじゃ成いのか?」

 そんなアニエスの疑問に答えもせず、デルフリンガーは黙って仕舞った。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。“5つの力を司るペンタゴン。此の者に祝福を与え、我の使い魔と為せ”」

 “詠唱”が終わり、ルイズは才人に唇を近付ける。

「ほう……邪魔をし無いのか」

「当然だ。キャスターの奴からの指示は、実力を測れと言うモノ。“契約”を阻止しろなどと言った指示を受けては居らぬ」

「其れもそうだ」

 俺の問いに、アサシンが答える。

 だが、アサシンの隣に居るアヴェンジャーの方はと云うと、ルイズと才人をやはり憎々し気な様子で見詰めて居り、何時命を奪いに掛かっても可怪しくは無いと云った様子だ。

 そんな中、才人は小さい乍らも形の良いルイズの唇を見詰め、(想えば……此処から始まったのは)、と想った。そして、才人の中で、様々な冒険が、頭を過る。(之からまた、新たな冒険が此処から始まるのだろう)、と期待と不安が入り混じった様子を見せ、少し身動ぎをした。

 そんな才人の様子に気付き、ルイズが尋ねる。

「後悔し無い?」

 才人はルイズの目を真っ直ぐに見て、言った。

「する位だったら、“ゲート”を潜って無えよ」

 ルイズは首肯くと、ユックリと才人に唇を押し付けた。

 直ぐに……灼ける様な痛みが才人の身体を襲う。

 ぐぉおおおおおおお!? と悶絶する才人にシエスタが駆け寄ろうとする。

「サ、サイトさん!」

「だ、大丈夫……“使い魔”の“ルーン”が刻まれて居るだけだから……」

 と才人は何時かルイズが言った言葉を口にした。

 直ぐに、其の痛みは治まった。

 恐る恐る、才人は自身の左手を見詰める。

「はぁ……」

 と溜息が漏れる。

 目を瞑って居たルイズが、慌てて才人に詰め寄る。

「し、失敗?」

「否……成功だ」

 才人はルイズに左手の甲を見せた。

 “ガンダールヴ”としての“ルーン”が確りと、其処に刻まれて居る。

 ルイズは、“ルーン文字”の1つ1つを、指で(なぞ)った。其の文字列は……良くも悪くも彼女と才人との絆の証でも在るのだから。そうして居ると……離れ離れに成って居た時間の分だけ、抱いた絶望の量と大きさだけ、感情が溢れた。

 皆が居るにも関わらず、未だ戦闘中で在るにも関わらず、ルイズは才人に想い切り抱き着き……胸に顔を埋めた。其の儘身動ぎもし無い。

 才人はそんなルイズの肩を、優しく抱いて遣った。

 そんな2人の様子を見詰め、「まあ、剣が元の鞘に収まった、と言う所か」、とアニエスが呟く。

 シエスタは一瞬目を吊り上げたが、想い直す様にして微笑む。

 初心なティファニアは、頬を染める。

「左手か……取り敢えず一安心だな……ったく、胸だったらどうしようかと心配だったぜ」

 と、デルフリンガーが誰にも聞こえぬ様に、小さく呟く。

「では次だ。“サーヴァント”の“召喚”に入る。本来で在れば、動物とかの血で“魔法陣を”描き、“触媒”を用意する必要などが在るが問題無い。では行くぞ……“降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠拠り出で、王国に至る三叉路は循環せよ”」

「えっと……“降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠拠り出で、王国に至る三叉路は循環せよ”」

 “詠唱”の破棄と省略。

 此処には、そして此の世界の“聖杯”と“令呪”、“聖杯戦争”に、“アインツベルン”と“間桐”と“遠坂”の御三家は関与して居らず、存在もして居無い。

 ルイズは噛む事も無く、スラスラと俺の言葉を鸚鵡返しで口を開き、“詠唱”を開始する。

――“降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ”。之で先ずは、“魂”が持つ“魔術回路”を躍起させ、“魔力”をチャージする。

――“王冠拠り出で、王国に至る三叉路は循環せよ”。之は“セフィロト”だ。“王冠(ケテルやメタトロン)”に見立てた“根源”から“ビナー”と“コクマー”と“ティファレント”へと三分岐して、其々循環、最後は“王国(マルクトやサンダルフォン)”で在る物質界に至る。

「“閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返す都度に五度 唯、満たされる刻を破却する”」

「“閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返す都度に五度 唯、満たされる刻を破却する”」

「“Anfang(セット)”」

「“Anfang(セット)”」

 之で、“英霊召喚”と“契約”の準備は完了したと云えるだろう。

「“告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、此の意、此の理に従う為らば応えよ”」

「“告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、此の意、此の理に従う為らば応えよ”」

「“誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者”」

「“誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者”」

「“汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪拠り来たれ、天秤の守り手よ”」

「“汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪拠り来たれ、天秤の守り手よ”―――!」

 “魔法陣”が展開される。

 其れは本来で在れば召喚者で在るルイズの眼の前に展開される可きモノだが――才人の足元に展開され、“契約”が為される。

「――之はッ!?」

 才人は驚愕の声を上げる。

 そして、ルイズもまた驚きで目を大きく見開く。

「ほう……」

 アサシンは興味深い対象と云った様に、才人とルイズを其々見遣る。

「どう遣ら成功した様だな、どうだ才人? 否、“シールダー”」

「凄え……力が漲って来遣がる」

 今の才人は、ジュリオ同様に“サーヴァント”としての力などを持つヒトだ。

「何、之!?」

 ルイズは驚愕と困惑の声を上げる。

「見えて居るのだな。其々の、俺達“サーヴァント”の“ステータス”が」

「ええ、見えるわ。見えてる。でも、之って……貴男って……」

 ルイズは俺へと驚愕と畏怖を込めた視線で見詰めて来る。

 当然の事乍ら、他の皆は何が何遣ら理解ら無いと云った様子だ。

「さて才人。早速だが、其処のアサシンと1つ相手をして貰え」

「良いだろう。其処の少年よ。此のアサシンが相手を仕ろうでは成いか」

「えっと……」

 才人は戸惑い乍らも、デルフリンガーを強く掴み、戦意を昂らせる。

 アサシンから発せられる戦意、殺意などを確りと感じ取り、理解したのだ。之迄向けられて来た其れ選りも遥かに強大で密度の高い其れだ。

 此の場に居る殆ど、皆が恐怖などで身体を震わせ固まって仕舞って居る。修羅場を潜り続けて居る“銃士隊”隊長で在るアニエスでさえもだ。

 だが、才人は真っ直ぐに其れを受け止め、そして力強く大地に立って居る。

 “盾の英霊”――“シールダー”。

 主の盾として前に立って居るのだ。

 才人が何故、“シールダー”と成ったのかは、“ガンダールヴ”の力に因るモノが大きいだろう。“ガンダールヴ”には“汎ゆる武器を扱える”能力が有り、 “セイバー”、“アーチャー”、“ランサー”と云った“3騎士”の適性を持つだろう。だが其れは“保有スキル”として所有して居る。では何が理由、そして原因か。“ガンダールヴ”に関する唄だ。“神の左手ガンダールヴ”、“勇猛果敢な神の盾”。

「其の意志の強さ好し。では少年。いやさ“シールダー”よ。此度は之で退こう。次に見合う時は、何時に成るか愉しみだ」

 そう言って、アサシンは暗闇へと完全に溶け切り、一体化する。

 其れに次いで、アヴェンジャーもまたアサシン同様に姿を消し、此の場から去る。アサシンが所有する“保有スキル”に因るモノだろう。

 実力を測る。

 其れは何も、腕力などだけを指しいて云うのでは無い。

 アサシンは、才人の、彼が持つ“英雄”としての、“シールダー”としての、人間としての精神力――心の強さを確かめたのだ。

 2人が去り、少しの間静寂が訪れる。

 

 

 

 戦場と成った場には、唯“アルヴィー”が幾つも転がって居るだけだ。

 血などが在る訳では無い。

 が、寒空の下に居続けるのも何だと云う事も在り、ティファニアの家へと戻る事に成った。

 ティファニアの家の居間では、皆一様に疲れた様子を見せて居り、安堵した様子もまた見せて居る。

 暫く、そんな風にジッとして居たのだが……。

 ティファニアは、「じゃあ、色々と御話も有るでしょうから」と、倉皇と寝室を出て行った。

 そして、シエスタはルイズの側に移動し、耳元でソッと呟く。

「……今日だけ、貸して上げますから」

 そしてティファニアと同様に、彼女もまた寝室を出て行く。

 デルフリンガーが何かを言おうとすると、「良いから、御前も来い」とアニエスに掴まれて仕舞い、退出する。

 其の際に、アニエスは俺へと一瞥をした。

「ふむ。今日はもう遅いからな。2人でユックリと時間を過ごすと良い。訊きたい事は沢山有るだろうが、其れはまた後日だ」

 俺はそう言って、“霊体化”する。

「ルイズ」

 才人が思わずルイズの肩を掴むと、更にポロリポロリと大粒の涙が目から溢れ始める。そして、拭う事もせずに、ルイズは口を開いた。

「も」

「も?」

「もも……」

「もも?」

「も、もう逢え無いかと想った……」

 真っ直ぐ前を見た儘、ルイズは泣きじゃくった。

「わ、私……い、いい、言いたい事一杯有ったのに、あんたってば、直ぐ、どっかに行っちゃって……」

 溢れる想いが、上手く言葉に成ら無いらしい。

「“フネ”の上で起きたら居無くて、家のベッドで起きても居無くって……何だけ私が心配したか……もう赦せ無い……赦せ無いんだから……」

 ルイズは、涙混じりで聞き取り難い言葉を吐き出した。

 意味不明で支離滅裂と云った様なモノだが、ルイズの抱えた想いが、才人の心に直接打つかって来るかの様なモノだった。

「其れ成のに、あ、あんたってば、何度も夢に出て来て……優しくって、其れで、其れで……」

「な、泣く無よ……」

 と才人はどうにか其れだけを口にし、ルイズを優しく抱き締めて、頭を抱えて遣った。

 するとルイズは更に激しく泣き出した。

「非道い……1人で行っちゃうの、非道い……」

「行か無いよ」

 才人は言った。

「もう行か無い」

 其の言葉を口にすると……才人は、“ルーン”が消えて以来、蟠って居たモノが溶けて行く様に感じた。

「もう、何処にも行か無いで」

「うん」

「ちゃ、ちゃんと、側に居て」

「うん」

 才人は何度も首肯いた。其れから鼻の奥が、ツンと痛むのを感じた。そして、(そっか、俺は、ホントはこうしたかったんだな。ルイズは“ガンダールヴ”じゃ無く、俺に守って欲しかったのに……俺は勝手に誤解してたんだ。“ガンダールヴ”じゃ無くっちゃ、守る資格が無い、何て想ってた。でも、其れは間違い何だ。俺は、ルイズを守って良い。他の誰でも無い、俺が……守って良いんだ)と想った。

 そう想う事で、心の中に、温かいモノが生まれたのを才人は自覚する。

 其の温かい何かは、才人に1つの事を決心させた。(俺は何時か帰る。でも……其れはルイズの理想を手伝ってからだ。俺をこん何必要として居る御主人様の、夢を叶えてからだ)とそう決心する。

 そう決心する事で、才人は何処か楽な気持ちに成ったのを感じた。

 ルイズは未だ泣いて居る。

「ほ、他の娘、見ても良いから……触って良いから……キ、キキ、キスしても良いから……何処にも行か無いで……」

 ルイズは暫く泣き続けた。

 

 

 

 泣き止んだルイズは目を真っ赤に腫らし、黙って仕舞った。

 才人がベッドに寝かせて遣ると、大人しく寝そべった。だが、才人の袖を摘んで離さ無い。そして、唇を噛んでクイクイと引っ張るのだ。

 仕方無くと云った様子で才人は隣に寝た。

 直ぐにルイズは、才人の肩にチョコンと頭を乗せる。

 髪から、才人からすると懐かしさを覚えさせるルイズの香りがする。

 そっとルイズは、才人の耳に口を寄せた。

「な、何だよ?」

 其の目の中に熱いモノを感じたのだろう、才人はドキッとした。

「御願い」

「う、うん?」

「朝迄で良いから、優しくしてて」

 て、が1個無かった成らば……タガが外れてしまいそうな雰囲気の中、才人はルイズの頭を優しく抱えて遣った。

「……ん」

 とルイズが吐息を漏らす。

 そんなルイズの仕草に、才人はまた別の意味での死にそうな感覚に陥る。

 どうにかしたいと云った欲も有るが、どうにも出来無い、と云った様子を才人は見せる。

 そんな風に才人が、必死に葛藤に耐えて居ると……ルイズが怒った様な口調で言った。

「あんたってば……」

「え?」

「メイドに舌、入れたでしょ?」

 才人は、(入れたのは俺じゃ無くって、シエスタ何だけど……)、と想ったが、同時に(ルイズ相手にゃ、言っても始まら無いんだろう。やば、殴られる! と言うか蹴られる! ガード! ガードガード!)、と想い、股間を押さえ、才人は取次筋斗に成る。

 そうして居ると、ルイズは拗ねた様な声と調子で言った。

 蹴りもビンタも飛んでは来無い。

 飛んで来て才人を撃ち倒したのは、桃色の弾丸で在った。

 何とルイズは、頬などを染め、潤んだ目で才人を上目遣いに見詰め、泣きそうな声で、「私にも同じ事して」と言ったので在る。

 其れに依り、才人の中でスイッチが入ってしまった。

「はい」

 才人はルイズの顔を掴むと、夢中に成って口を押し付けた。

「ん……」

 とルイズが目を瞑る。

 序と行っては何だが、才人はシャツの上から胸に手を置いて仕舞った。

 然し、ルイズ・フランソワーズと来ると、何時かの小舟での時の様な抵抗を見せ事は無かった。

 そんなルイズを前に才人は、(どう成ってるんだ? 此処は夢何じゃ成いだろうか? 確かめたい時はどうすんだっけ? あ、そうだ。痛い事して痛かったら夢じゃ無いんだ! えっと、痛く成るには、ルイズに殴って貰えば良いや。で、殴って貰うにはどうすれば良いんだっけ? あ、良い言葉が在ったじゃ成いか!)、と興奮の余り混乱した才人は、其れを口にして仕舞う。

 胸の上に手を置いた儘、「之が胸?」、と才人は言って仕舞った。

 一瞬で甘い空気が消え失せる。

 まるで“ディスペル・マジック”を掛けたかの様に、艶めかしい魔法の雲が吹き飛んで……。

「悪かったわね」

 バシン。

 と、ルイズの平手が飛んだ。

「嗚呼……」

「胸で悪かったわね」

 バシンバシン。

 と、平手が飛み捲くる。

「平で悪かったわね」

 低い声で呟き乍ら、ルイズは何度も平手を飛ばすのだ。

「あああ……」

 其の痛みが、其の痛みの御蔭で、才人は此処が現実で在ると云う事を認識する事が出来た。

 そう。之は、夢じゃ無い。

 ……でも。

「否ホント、悪かったわね」

 バシンバシンバシンバシン。

 才人が(もっと他に夢かどうか確かめる手段が在ったんじゃ成いのか?)と気付いた時には時既に遅しと云う奴だった。

「待った。ち、小さいのも味が在って其れは其れで……」

「黙れ」

 ルイズの膝蹴りが飛んだ。

 良い具合に腹に入って、才人は気絶した。

 

 

 

 ティファニアの寝室では、シエスタがベッドの上で眠って居た。

 其の隣にはワインの瓶が転がって居る。

 シエスタに付き合って居たティファニアは、ハープを掴むと部屋を出て行った。

「やあ、ティファニア」

 中庭で、俺は“地球”に於ける“旧約聖書”に出て来る、イスラエルの王、“ダビデ”が所有する“竪琴(キヌュラ))”を投影する。

「セイヴァー、さん……」

「1曲、一緒にどうだい?」

「ええ。でも、私、あの曲しか知ら無くて」

「気にする事は無い。俺が合わせる。あの曲、結構気に入ったしね」

 中庭の椅子に腰掛け、ティファニアはハープを奏で始める。

 俺は其の隣で、ティファニアのハープに合わせて“竪琴(キヌュラ))”の弦を爪弾く。

 “始祖”の望郷の調が……夜風に溶けて“ウエストウッド”の村を包んだ。

 

 

 

 アニエスは居間の椅子に腰掛け、酒を呑んで居た。

 中庭から二重奏と成ったハープの音が聞こ得て来る。

 其の演奏に、アニエスは目を瞑って聴き入った。

「どしたい? 隊長さん」

 酒の相手をさせて居たデルフリンガーに尋ねられ、アニエスは目を開いた。

 此の鉄の塊の様な“銃士隊”の隊長には珍しく、少女の様な憂いが瞳に宿って居る。否、抑々此の年齢で鉄の塊の様な精神性を持って居る事が異常成のだ。年相応と云った様子を見せて居る。

「否……故郷を想い出して居た。良かんな……想い出すと、どうにも成ら無く成る」

「帰れば良いじゃ成えか」

 自嘲する様に、アニエスは呟いた。

「もう無い、瞼の裏にしか、存在し無い」

 暫くの間が在って……デルフリンガーは言った。

「何、故郷ってのは、要するに心の拠り所さ。新しい故郷を、見付けりゃ良いんだ」

 アニエスはジッと黙って曲に聴き入って居たが、其の内に何か吹っ切れたかの様な、優しい笑みを浮かべて首肯いた。

 

 

 

 気絶した儘、眠りの世界に旅立ってしまった才人を見詰め、(此処は私の胸に文句を付ける場面じゃ無いでしょう)、とカッカして居たルイズだったが……。

「……曲?」

 窓の外から聞こ得て来るハープの調べに気付いた。

 其処でルイズは、此の家にハープが置かれて居た事、そして戦争時に聞いた“竪琴(キヌュラ))”の調べを想い出す。

 何処か懐かしさを覚えさせる調で在る。

 其の音を聞いて居ると……ルイズは己の“系統”で在る“虚無”の事も次いで想い出した。

 すると気に成り始めるのは……“ミョズニトニルン”。

 ルイズに理由は理解らぬが、彼女は確かにルイズの事を狙って居る様だ。

 味方では無い、“虚無”の“使い魔”の存在……。

 そして才人の他にも“虚無”の“使い魔”が居た、と云う事は、詰まる所担い手も……。

 そして、“聖杯戦争”。

“ミョズニトニルン”で在るシェフィールドは、“キャスター”の“クラス”に割り振られ当たった人物でも在る。

 そして、其の隣には、“暗殺者(アサシン)”、“復讐者(アヴェンジャー)”の“サーヴァント”。

 才人も“サーヴァント”と成り、“神の盾(シールダー)”としての力を得た。

 大きな戦争は終わったと云うのに、未だ未だ安心出来る状態では無い。寧ろ、裏での戦い――“聖杯戦争”が始まって仕舞ったのだ。

 ルイズ達の知ら無い所で、大きな流れが渦巻いて居ると云う事。其の大きな流れの中では、1本の流れ木の様な存在に過ぎ無い事を、ルイズは自覚した。

 でも……と隣で寝息を立てて居る“使い魔(サーヴァント)”を見詰め、ルイズは想った。

(私には、サイトが居る。何な時でも、私を守って呉れたサイトが居る。嗚呼、私は急流の中の流木に過ぎ無いかも知れ無い。でも……確りとロープで結び付けられて居るのね)

 そう想う事で……。

 ルイズは、ずっと自分の中に蟠って居た“貴族”としての名誉が溶けて行く気がした。

(もっと大事な事の為に、神から与えられた力を使いたい。此の……ちょっと空気の読め無い自分の“使い魔”の様に)

 と想い、ルイズはソッと、才人に向かって呟いた。

「先ずは、あんたの帰る方法、探して上げる」

 そして、(其の時、言え無かった言葉を告げよう。じゃ無いと……自分が発した言葉は、サイトにとって身を縛る鎖に成り兼ね無いから)、と想った。

 ハープの調べは続く。

(……あのティファニアは、一体何者何だろう? 何かを隠す様に、ずっと深く帽子を冠って居た。瀕死のサイトの怪我を治して仕舞った様だし。明日、詳しい事を尋ねよう)

 そう想い乍ら……ルイズは目を瞑った。

 

 

 

「ん……」

 と身動ぎして、才人は目を覚ました。

 隣では、ルイズが眠って居る。

 安心し切った無防備な様子で才人の胸に寄り添し、寝息を立てて居る。

 そんなルイズを見て居ると……才人の頭の中に、“エルフ”の血を引く美しい少女の事が過った。

 ルイズと同じ、“虚無”の担い手。

(やはりルイズには話す必要が在るだろうな。明日、折を見て話そう)

 と想った。

 月明かりの窓の向こう……其の“ハーフエルフ”の少女――ティファニアが奏でるハープの音が聞こ得て来る。

 此の前迄は、其の調べを聞いて居ると故郷を想い出して切無く成ったのだが……どうしてか。才人にとって、今は違って聞こ得るのだ。

 何故か、ルイズの事で才人の頭の中は一杯に成るのだ。

 愛しさが、胸の中に膨れ上がって行くのだ。

 

 

 

 空が白み始めても……俺とティファニアのハープに依るデュエットは続く。

 傷付いた心を洗うかの様な望郷の調べが、夢で恋人を想う様な小夜曲(セレナーデ)が、聴く者と弾く者に感情を整理する余韻を与え……“サウスゴータ”の森に何時迄も響いた。

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