ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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ルイズの恐怖

 才人が目覚めると、隣でルイズが寝息を立てて居た。

 昨日、再逢したばかりの、才人にとって愛らしい御主人様の顔で在った。

 朝の陽光に照らされたルイズの顔は、当に神々しい程に美しく、才人をどうにかして仕舞いそうな程で在る。

 別れて居たのはほんの1月程では在ったのだが……其の1ヶ月と云う時間が、ルイズの可愛らしさに更に魔法を掛けて居ると云った様相で、ルイズが「うーん」と唸って寝返りを打っただけで、才人は息が止まりそうに成って仕舞うので在る。

 ルイズは口が半開きに成ってしまい、少し涎が垂れて居る。

 フガフガ、と偶に口元が歪む。

 ガバッと手を跳ね上げ、ゴシゴシゴシ、と派手に鼻を擦るのだ。

 詰まりは、美少女が台無しと云った様相で在るのだ。

 然し……そんな仕草さえも、恋は盲目と云った具合に、才人にとって何もかもが“愛”おしいと感じさせるのだ。

 離れて居た分だけ、全てにフィルターでも掛かって見えて居るのだ。

 才人は、(成る程……)、と感心した。そして、(之が、之が……離れてた分だけマジックか)、と想った。

 平時で在れば駄目だと想わせるそんな仕草で在ろうとも、美点に想わせて仕舞う。そんな究極の魔法で在る。

 そして。

(そうか……じゃあ昨晩のルイズのアレも、離れて居た分だけマジックのおかげか! となると……俺、なにやってんのよ……?)

 と、才は昨晩の己を責めた。

 同時に、(昨日は、フィルターが掛かってたんだよ! ルイズの目にも、再逢フィルター掛かってたんダヨ! だからこんな俺に……“同じ事して”だの、胸を触ったのに怒らないだの……そんなミラクルが降って来たんだダヨ! それなのに俺ってば、何と言うチャンスを逃して仕舞ったんだろうか)と後悔した。

 そんなルイズを見て、夢かどうか確かめる必要に駆られた才人は、思わず「之が胸?」などと言って仕舞ったので在る。

(俺は犬だ。馬鹿犬だ。愚かな駄犬だ……)

 といった様子で、才人は朝っぱらから苦悩し始める。

 そして。

(違うぞ才人。犬どころの話じゃ無ねぞ。こんなに涎を垂らしてさえ可愛いルイズに比べたら、貴様はモグラだから。否……俺はモグラ以下だ。ギーシュの“ジャイアントモール(モグラ)”を見ろ。彼奴凄い。穴掘って、俺等のこと救けた。モグラ以下と言うと……オケラ?)

 と想い、否、と才人は首を横に振った。

(オケラは凄いんだ)

 と、才人は想い、想い出した。

 才人は此処――“ハルケギニア”に来る以前、図鑑でそれを知ったのだ。

(彼奴等……虫けらの癖に空飛んだり、土掘ったり、泳いだりと大活躍。謂わば地空海、全制覇の凄い奴。俺はオケラ以下だ……虫以下……となると……ボルボックスだ)

 図鑑で見た、ミジンコにさえ食べられて仕舞う、藻の一種。

(そっかァ……おりゃ、ボルボックスかァ……)

 と1人納得した才人は、その名前を体現でもしようとするかの様にして蹲った。

 才人は、折角のチャンスを不意にして仕舞った自分の空気の読め無さ加減が赦せ無いので在り、朝から無駄に鈍よりとして仕舞ったのだ。

 そこまで落ち込んだ後……才人は己を叱咤した。

(何を言ってるんだ。もっと自信を持て才人! 持つんだ! 俺はセイヴァーと一緒に110,000を止めた男だよ。其れが1人の女の子に、気持ちを確かめる勇気が出無いって? そんなのありえねえだろうがよ)

 と、自己暗示張りに、才人は勇気を振り絞った。

 丁度ルイズが寝返りを打ったため、才人は出来る限り平静を装ってルイズに尋ねた。

「起きたのか?」

 すると、ピクン! とルイズの身体が跳ね、毛布から顔の上半分が覗いた。其の目が、何やら潤んで居り、頬が赤い。

「な、なあルイズ」

「……なぁに?」

 どこまでも無防備な声でルイズが言った。

 才人は、(嗚呼ルイズ、頑張ればこんな可愛い声が出せるんじゃないか)と感動を覚えた。そして、(ここは1発、きちんと勇気を出さねば行けないな)とも想った。

「御前……その、あの……若しかして、俺の事……」

 そこまで訊ねると、ルイズは唇を噛んで俯いた。

 其の仕草で、才人の中で或る言葉が浮かび上がった。

 フォーリンミー。

 そんな風に才人が1人、己の想像に悶え狂っていると……今度はルイズが決心した様に言葉を絞り出した。

 その言葉は激しく斜め後方から飛んで来て、才人の後頭部を直撃した。

「……小ちゃいの、嫌い?」

 とルイズは訊いて来たのだ。

 カハァ、と才人は吐息を漏らした。

 ルイズはずっと気にしていたのである。才人が昨晩、「之が胸?」と訊ねて仕舞った事を……。

 そして才人は、(……嗚呼、嗚呼、俺は、何て事を言って仕舞ったんだ!)とまたもや後悔する。

「き、嫌いじゃないよ!」

「ほんと?」

「う、うん……」

 ルイズはピョコンと起き上がると、ベッドの上に正座する。

 シャツの裾を両手で摘み、真剣な面持ちで才人に訊ねた。

「質問を変えるわ。じゃあ大きいのと、小ちゃいの、どっちが好き?」

 才人は額に脂汗が浮かぶのを感じた。

 正直な所、才人は大きい方が好みであるのだ。小さい方もそれはそれで、と想っては居るのだが……本能は刺激し無いのではなかろうかと、そう才人に想わせるのだ。

(それは生物の雄として当然の結果ナノデス。大きい胸は、それだけ母乳が出る事を示唆して居るのデス。ミルクがたっぷり詰まっているのデス。だからしょうが無いのデス。その様に、自分の子孫を共に残す対象として、胸が大きい女性を選ぶのは是本能であるからして……俺は悪くないと想うんデス)

 と云った理屈が才人の頭の中を回る中……。

 真剣な目で見詰めるルイズが、才人の視界の中に飛び込んで来た。

 桃色がかったブロンド、そして鳶色の瞳……形の良い鼻、珊瑚の様な色をした唇……それらが織りなす調和。ルイズの可愛らしさは、之また芸術作品で在ると云えるだろう。

 本能を抑え込むかの様な愛らしさ。胸が小さい事など、この現実の前には意味をなさないのではないろうかと、才人にそう想わせて来るのだ。

 然し、其れを伝えた所でルイズは納得しないだろう事を、才人は察した。彼女はハッキリと、「胸が大きのと小さいの、どっちが好き」なのかを訊いているのだ。

 大きい方が好き、と正直に答えた場合、ルイズはそれを自分の全否定と取るだろう。すると、小さいのが好き、と嘘を吐いてみるとどうだろう。然し……才人には嘘を吐き通すだけの自信はなかった。ルイズの目は、犯人を見詰める時の刑事のそれであると云える程のモノだ。生半可な嘘は通用しなだろう事が判る。

 才人の顔が、ギリギリと引き攣り、まるで鬼の様な迫力を滲ませた。

 然しルイズも然る者。そんな才人の顔を、真っ向から受け止めた。

「どっちが好きなのよ? 言いなさいよね」

 才人は冷や汗を滝の様に流し、ぎちちちちち、と震えた。

 決断の時が来たので在る。

 まるで、核ミサイルのボタンを苦悩の果てに押す大統領の心境に似た気持ちで、才人は言葉を喉の奥から捻り出した。

「ち、ち、ちちち、小さい方」

「ホント?」

 殺気に近い気合を宿した目で、ルイズが睨む。

 此処で負けてはいけないと云った様子で、才人は硬く強張った声で告げた。

「ホントです。“始祖ブリミル”に誓います」

 ブリミルの名前を出し、才人は気合を入れた。

「嘘吐いたら殺すわよ」

 声は小さく、冷静であるだけに、ルイズの本気度が伝わって来ると云えるだろう。

 才人はブンブンと首を大きく縦に振った。

 長い時間が流れた。

 蚊くらいであれば楽勝で殺せるだろう程の重さの空気が、2人の間に流れる。

 ルイズは暫く才人の顔を見て居たが……理解った、と云う様に首肯いた。

「良いわ。信じて上げる」

 ユックリと緊張の空気が解けて行くのが判る。

 緩んだ緊張は、そのままルイズの可愛さへと変化して行った。

 モジモジとルイズは、毛布の上に指で、のの字を描き始めた。

 そんな風に恥じらうルイズは神がかったかの様に可愛らしく、才人の中の不安は一瞬で飛んで行った。

 ルイズは次に、どうしようかと迷うかの様な仕草をした後、目を瞑った。で以て、拳を膝の上で握り締め、ん~~~、ん~~~、と怒ったかの様な唸り声を上げた。

 才人は、(何だか良く理解ら無いが、之はキスして良いって事何だろうか? 悩むな才人。流れに身を委ねるんだ)と震え乍らルイズに唇を近付けた。

 才人が肩を抱くとルイズは身体を硬くしたが、全く抵抗する様子は無い。

 ルイズの甘い香りが、鼻の奥に届き……才人は幸せで一杯に成った。

 唇が触れ合う。

 ルイズは怒るどころか、才人に身体をついっと預けた。

 才人は、(嗚呼。昨晩、“私に同じ事して”なる発言を噛ましたルイズは嘘じゃ無かったんだ。此処に居た。あんな深いキスは、再逢出来たから、でするもんじゃないよな。すると導き出される結論は……ほ、ほ、惚れてんのか? やっぱ)、と夢中になってルイズに唇を押し付け乍ら想った。

 惚れてる。

 其れは、才人にとって魔法の響きだった。

 好きな女の子が自分に惚れてる。

 そんな事象の存在が、才人には信じられないのである。彼にとって、之はもう伝説上の怪物に近いモノだった。

 ユックリと2人は唇を離し……見詰め合った。

 恥ずかしそうに、ルイズは顔を逸した。

「そんなにジロジロ見無いでよ……も、もう馬鹿。い、いい、犬の癖に……」

「犬御免」

「謝らなでよ。犬……馬鹿犬。犬の癖に、御主人様をそんな目で見る何てどうかしてるんだから……」

 ルイズは唇を尖らせて、自分がどうにかしてるんじゃないかと想う程泣きそうな声で言った為、遂に我慢が出来なくなって仕舞った才人は飛び付き、ルイズを押し倒した。

「きゃ!?」

 才人が首筋にキスをすると、電流に弾かれたかの様にルイズの身体が跳ねた。

「御免。もう駄目。御免よ。俺、もう駄目」

 才人は譫言の様にそう呟き乍ら、シャツの隙間に手を差し入れようとすると、ルイズは其の手を払い除けた。

「ルイズ……?」

 ルイズは、泣きそうな小さな声で、「明るいじゃない」と言った。

 窓の外からは、サンサンと太陽の陽光が射し込んで来て居るのだ。

 シャツを押さえた儘、ルイズは身動ぎもし無い。

「じゃ、じゃあ夜になったら……?」

 才人は震え乍ら訊いた。

「か、かか、神様と母様に御窺いを立ててから」

 ルイズも同様に震え乍ら答える。

「どう遣って訊くの?」

 と間抜けな声で才人が尋ねると、ルイズは「心の中でよ! もう! 兎に角そんな事私に言わせないで! 知らない! 馬鹿! 馬鹿馬鹿!」と枕を掴んで才人をポスポスと殴るのだ。

 其の言葉で、之以上訊ねる事の愚を悟った才人は大きく首肯く。同時に、鼻血が出て居た事に気付いた。

 

 

 

 夜の約束交わしたおかげでカチコチに緊張し切った2人が居間に向かうと、其処にはシエスタとアニエス、そしてティファニアの姿が在った。

「御早う御座います」

 現れたルイズと才人を見て、シエスタがニッコリと微笑む。

 才人は其の笑顔をまともに見る事が出来なくて、顔を逸して仕舞う。シエスタは未だニコニコ笑っているのだが、それが少しばかり才人には辛いのだった。

 ティファニアは朝御飯を作って居る。

 アニエスは、銃と剣の手入れをしていた。

 さてと……とアニエスは腕を組む、と2人に尋ねた。

「昨晩襲って来た連中は、何者何だ?」

 才人とルイズは顔を見合わせた。アニエスにどう話したものか、と迷ったのだ。

「妙な人形を操って居たな」

「“ミョズニトニルン”……“汎ゆる魔道具を操れる”能力を持ってるって……」

 取り敢えずルイズは正直に答えた。その部分であれば話しても構わぬだろうと判断したのだ。

「顔は見たか?」

 ルイズと才人は首を横に振った。

 暗がりで在ったため、そして相手は深くフードを冠っていたため、また、直接戦ったのは“スレイプニィル”と呼ばれている“魔法人形”だ。操り手とは殆ど接触が無かったために、ルイズには判らなかったのである。

「その人形の操り手に心当たりは有るのか?」

 ルイズは黙って仕舞った。“虚無”、そして“聖杯戦争”の事を話しても良いモノかどうか一瞬躊躇ったのだ。

 そんなルイズの様子を見て、アニエスは首を振る。

「……ミス・ヴァリエールの“系統”に関する事か。なら私が口を挟む問題ではないな。失礼した」

「……知ってるの?」

「まあな。陛下の側にいれば、嫌でも耳に入って来る。まぁ、心配するな。勿論他言はしないし、私はそう言った宮廷で行われる噂や陰謀には興味がな。所詮一介の武人だからな」

 剣を磨き乍ら、アニエスは言った。

「私は陛下の剣に過ぎぬ。御前達が陛下の味方であるかぎり、私は御前達のために剣を振るだろう。何が行われているか、敵が何者なのか、そんな事を詮索しようとも想わぬし、また興味もない」

 油布でキュッと拭き上げ、アニエスは剣を鞘に仕舞った。

「まあ、2~3日、休もうじゃないか。疲れているんだろう?」

 その言葉で、ルイズと才人は顔を赤らめる。

 兎に角ティファニアの事を話すにしても……今日位は休んでからでも遅くは無いだろう。

 才人は、(話せ無い大事な用も有るし……)と心の中で首肯いた。

「さて、セイヴァー。貴様はどう遣ら彼奴等の事を知って居る様だったが」

「そうだな。確かに。だが、今日はユックリとするのだろう?」

「そうだ」

 アニエスからの呼び掛け、俺は“霊体化”を解き、実体化して答える。

 そして、アニエスに確認をした後、庭へと出る。

 アニエスの後ろで、シエスタが緊張し乍ら立って居る。御茶を持って来たのだが、出すタイミングをすっかり逸して仕舞っていたのだ。

 3人の視線が自分に移った事に気付き、シエスタは首を横に振った。

「わ、私には全く何が何やら理解らないので、心配しないで下さい! はい!」

「昨日は良く眠れたか?」

 アニエスが、唐突に話題を変えた。ニヤニヤと妙な笑みを浮かべて居るのが判る。

 シエスタの目が、キュッと窄まった。

 ルイズは顔を真っ赤にすると、怒鳴った。

「ね、眠れたに決まってるじゃないの!」

「そうか。それなら良いんだ。うん」

 アニエスは未だ妙な笑みを浮かべて居る。

 シエスタが、笑顔のままで近付き、才人の足をギュッと踏み付けた。

「ムニュッたんですか?」

「ムニュッたって?」

「わ、私の口からは言えません」

「そ、そんな事してないし!」

 才人は、(でも今日の夜は愈々……なのかもしれない)、とそう想い、シエスタの顔をまともに見る事が出来ないでいる様子をみせる。

「そんな事って何よ? もう、皆いい加減にしてよね!」

 ブツクサと言い乍ら、ルイズはぎこちなく歩き始めた。

 見ると、手と足が同時に出て居る。

「手と足が同時に出てますよ」

 とシエスタが指摘する。

「何よ? そう言う日だってあるわよ」

「今日だけ一緒に寝て良いって言いましたけど、変な事して良い何て言ってませんから」

「だからしてないって言ってるじゃないの!」

 2人は、グギギッギ、と歯を剥き出しにして睨み合った。

 取っ組み合いでも始まるのかとそう想われた瞬間……ティファニアがはにかんだ声で一同を呼んだ。

「あの……朝御飯が出来たんだけど……食べる?」

 其の声で、緊張が解ける。

 皆、御腹が空いて居たのだった。

 

 

 

 其れから才人達を始め俺達はティファニアの家の庭に出て、ノンビリと過ごした。

 才人は布を敷いて地面に寝っ転がった。

 雲と同じ高さに在る“浮遊大陸アルビオン”の空は、遥か空の高みまで遮るモノが何もないと云えるだろう。

 才人は、(こんな快晴、久し振りに見たなぁ)、と感慨に浸る。

 側で並んで空を見て居たシエスタがポツリと言った。

「綺麗な空ですねぇ……何だか心が洗われちゃいますね。ゴシゴシ」

 真顔でゴシゴシなどとシエスタが言うために、才人は噴き出して仕舞う。

「可笑しいですか?」

「否……」

「変な人に襲われましたけど……遣っと戦争も終わったし、サイトさんにも逢えたし、私は幸せですわ」

 ニコッとシエスタは、屈託の無い笑顔を浮かべ微笑む。

 連られて、才人も微笑んだ。

 才人は、そんなシエスタに対して罪悪感を覚えた。そして、今朝方のルイズとの遣り取りを想い出す。(でも……好き何だよ)と想った。(ドキドキするんだ。だから……)、と才人の心の中で言え無い台詞が何度も巡る。

 そして、大きな戦争は終わったが、未だもう1つの戦争―――“聖杯戦争”と云う裏での殺し合いが始まった事を隠して居る事もまた、才人を責め立てた。

 そんな才人の様子に何かを感じ取ったのだろう……シエスタは首を横に振った。

「良いんですよ」

「え?」

「2番目で良いんです。言ったじゃないですか」

「シエスタ……」

「私、待ってますから」

 才人は黙って仕舞った。何て言えば良いのか判ら無かったのだ。そして、浮かれて居た自分を恥じたのだ。

 誤魔化すかの様に、才人は辺りを見回す。

 どうやら皆、明々に、平和な時間を満喫している様子である。

 アニエスはボンヤリと何か考え事をし乍らワインを呑んで居る。

 ティファニアは、緊張した様に拳を握り、椅子に座って居る。

 ルイズは椅子に腰掛けて、才人とシエスタの方をチラチラと見乍ら偶に苛々とした様子で爪を噛んで居た。

 不意にシエスタが、皆に尋ねた。

「ねえ皆さん。将来の夢って有ります?」

「ゆめぇ?」

 行き成りの話題に、ルイズが眉を顰めた。

 アニエスも2人へと視線を向ける。

 ティファニアは何故か、ビクッ! と震える。

「そうです。皆で、未来の話しましょう。何か大事だと想います。そう云うの」

 アニエスが笑い乍ら、「あっはっは! 未来か! そうだな、精々出世して……故郷の土地を少し買うかな。そうしたら“銃士隊”を引退して、毎日海の音でも聞いて暮らすか」と言った。

 次に、言い出しっぺで在るシエスタが、「素敵な夢ですわね! 私はそうだなぁ……」、と言って、才人の方を見て、「好きな人の側に居られたら、幸せだなって想います。例え、其れが何な形で在れ……ミス・ヴァリエールは?」と言った後に、ルイズへと訊ねる。

 行き成り自分に振られた事で、ルイズは正直に考え込み、次いで顔を赤らめた。

「……今、想った事を正直に言ってみて下さい」

「な、何であんたにそんな事言われなくちゃならないのよ」

 才人はボンヤリと、(将来の夢か……そんな事、想像した事すら無かったな。取り敢えず“地球”に帰ろうと想ってた位だな。其れは其れで真っ当なんだけど……)と想った。

「セイヴァーさんの夢は何ですか?」

 シエスタが、側に居る事を感じ取って、当たりを付けたのか、“霊体化”して居る俺へと問い掛けて来る。

「そうだな。世界平和。などと言った大層なモノでは無いが……身近な者が、幸せで居続ける事だな」

 “実体化”して、俺は軽く、適当な返事をした。

「サイトさんの夢は何ですか?」

 シエスタが才人の顔を覗き込んだ。

 今迄考えた事の無い、其の言葉に咄嗟に答えられず……才人はボンヤリと空を仰いた。

 

 

 

 

 

 2つの月の光が森を照らし始め……“サウスゴータ”の森に夜が遣って来た。

 才人は震え乍ら、ティファニアの家の廊下の窓から夜空を仰ぎ見る。

 才人は、(生まれてからこのかた、夜がこんなに待ち遠しいと感じた日は無いだろうな。愈々、ルイズと自分は結ばれるんだから)と想った。

 意訳では在るのだが、今朝方ルイズは確かに、「夜になったら良い」的な事を言ったのである。

 才人は身体を水で清めると、寝室に赴いた。

 ドアをユックリと開けると、ルイズは月明かりを背景にして、ベッドの上で髪を梳いて居る所で在った。

 髪を梳くルイズからは神々しさを感じさせ、この世の美を集めて鋳方に嵌め込んだかの様な神聖な輝きを放って居ると云っても良いだろう。2つの月に依る明りが、そんな美を後押ししている。

 才人は気負されて、唯々息を呑むので在った。

 ドアの側で、ジッと才人が自分を見詰めて居る事に気付いて居るのか居無いのか……独り言の様にルイズは呟いた。

「どうしたの?」

「否……」

 と才人は首を横に振った。緊張からだろう、喉の奥がカラカラに乾いて居る様に才人は感じた。

 才人が近付くと、ルイズはビクッと身を震わせた。

「怖い?」

 思わず才人がそう尋ねると、ルイズは首を振る。

「……私ね、昔姫様とシオンとの3人で約束したの」

「姫様とシオンと、約束?」

「そうよ」

 ルイズは才人の方を向いた。

 ルイズの頬に涙の筋が残って居る。

「其の……こう言う事になる前は、ちゃんと御互い報告しましょうねって……」

 才人は、「ルイズ……」と呟いて、彼女へと近付き、隣に腰掛けた。

 するとルイズはベッドの上に御座りをしたまま俯いて、シーツをキュッと握り締めた。

「その……ね? あの……ね?」

 怯える子猫の様な目で、ルイズは才人を見上げた。

「姫様とシオンとの約束、破っちゃった……」

 もう堪らないと云った様子で、才人はルイズに組み付いた。

「ルイズ! ルイズ!」

 ルイズは、ベッドの上に横たわった。何時もの白いシャツの胸が、興奮と怯えからだろう上下して居るのが判る。観念したかの様にルイズは目を瞑り、胸の前で御祈りをする様にして手を組んだ。

「ルイズ、俺……俺!」

 そう絶叫して覆い被さろうとした其の瞬間……。

 トントン、とドアがノックされた。

 ビクン!

 と、才人とルイズは跳ね上がった。

「だ、誰?」

 と2人同時に尋ねると、「私……」、と小さな返事が寄越される。

 此の家の主、ティファニアの声で在った。

 才人とルイズは顔を見合わし、才人は慌てて床に飛び降りた。

 ルイズが「どうぞ」と答えると、ドアがガチャリと開いて流れる金髪の娘が現れた。夜だと云うのも関わらず、ティファニアは帽子を冠っている。

 流れる金髪……そして何処となく異国の雰囲気を漂わせる。細身で綺麗な顔立ち。

 ルイズの眉が、ピクンと跳ねた。

 ルイズは才人と再逢出来た喜びで忘れて居た事だが、此のティファニア、とんでも無い美少女で在ったのだ。

 彼女は、1枚の布を身体に巻き付けるデザインの、ユッタリとした部屋着を身に着けて居る。手にはワインの瓶と盃が載せられた御盆を持って居る。

「其の……良かったらどうぞ。ベッドが変わって、寝付けないかと想って……」

 ティファニアは気を遣って、ワインを持って来たらしい。

「良いのよ。御構い無く」

 美少女。

 悪い予感が、ルイズの胸中に渦巻き始める。

 ルイズは油断無くティファニアの全身を見詰めた。

 スラリとした、華奢な肢体……背はルイズ選りか幾分か高い。

 森でヒッソリと暮らしていると云うにも関わらず、其の立ち居振る舞いには“貴族”の様な高貴さが漂って居る。

 小さな声で、ルイズは才人に尋ねた。

「此の娘……何か気になるわよね。何か知ってる?」

「ちょっと」

「ちょっとって何よ?」

「……1回、ティファニアに話して良いかどうか訊いてから」

 何よ、とルイズは想った。

 ルイズは、(2人の間に秘密? どゆ事?)と激しく気に成ったと云う様子を見せる。

 先程迄良い雰囲気だった分、ルイズは急速に其の事が気に成って行ったのだ。

 ティファニアに尋ねて、許可が下りたらルイズに話す、と云うのがルイズは気に入ら無いのだ。

 ルイズの頭の中で、(御主人様が訊いてんのよ。他でも無い此の私が訊いてるのに、“訊いてから”ってどゆ事? 一体全体、何な秘密何だろう?)、と浮かんだそんな疑問は……次のティファニアの行動で何処かに吹っ飛んで仕舞った。

 彼女は、ワイをテーブルの上に置こうとしたのだが、引き摺る様なデザイの衣装をした服に足を引っ掛け、派手にグラゴラガッシャーン、と転んで仕舞ったので在る。

「あ痛たたたた……」

「大丈夫?」

 ルイズは慌ててベッドから飛び起き、駆け寄った。

 ティファニアは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、「だ、大丈夫! 御免なさい……御持てなしする積りが、驚かせちゃって……」、と呟き乍ら割れたワインの瓶の欠片を拾い始める。

 其の時で在る。

 ルイズの目に、彼女からするとありえないマジックアイテムが飛び込んで来たのは。

「……え?」

 短く、声に成ら無い呻きをルイズは漏らす。

 否、何かの見間違いかも知れ無い、とルイズは目を擦ると、再び其のマジックアイテムを見詰めた。

 其れは、深い谷間で在った。

 ティファニアのユッタリとした部屋着の胸元から覗く、大きいと云う形容を死語にして仕舞いかねない凶悪な代物で在った。

 ルイズは震え乍ら息を呑んだ。

 もう声すら出無い。と云う選りも、悔しいなどと感じる次元を超えて居るのだった。圧倒的な存在を目にした時、人は言葉を失うと云う。今のルイズが正にそうで在った。ルイズにとって、“ミョズニトニルン”や“キャスター”と名乗った“虚無”の“使い魔”に出逢った時選り、其の衝撃は大きかった。

 世界は広い。

 ルイズの想像力を遥かに超越して居るのだった。

 ルイズは、ハッ!? として才人の方を向いた。

 然し才人はニコニコとした儘、ルイズを見詰めて居る。

「…………」

 じ~~~、とそんな才人を、疑わしそうな表情を浮かべルイズは見詰めたが、才人の表情は変わらない。

 其の内にティファニアは、「御休みなさい」、と緊張した声で言い残して部屋を出て行った。

「今の見た?」

 ルイズは、思い切って訊ねてみた。

「さ、さぁ? 俺は御前をずっと見詰めて居たから、何の事だか理解らないな」

 才人は、そう言って視線を宙に泳がせて居る。

 ルイズは、(……何だか納得行か無い)、と云った様子でベッドに潜り込む。

 先程見たティファニアの谷間が、ルイズの目に焼き付いて仕舞い離れ無いのだ。

 ルイズは、そぉーっと、指をシャツに引っ掛け、自身の胸元を覗き込んだ。

 ルイズには、何が良け無いのか理解ら無かった。栄養、遺伝……そう成る理由は何処にも見付から無いにも関わらず、其処は平原成ので在る。

 ルイズは理解しては居たのが……改て現実を想い知るとなると、やはり自身を失く成って行く事を自覚する。そして、(わ、私だって可愛いもん……)、とそう自分に言い聞かせたが、(こんなの見せた日にゃ、やっぱり才人はあのティファニアやメイドを選ぶんじゃないだろうか?)、と不安になって仕舞い、そう想い始めると、先程迄の気持ちが萎んで行くので在った。

 ルイズは、(何とかしなきゃ……)、と想った。

 

 

 

 ルイズがベッドに潜り、毛布を冠った事を確認すると、才人はぷは、と息を漏らした。次いで、全身から冷たい汗が噴き出て来る事を感じる。

 そして才人は、(良かった。切り抜けた)、と安堵した。

 ティファニアが入って来た瞬間……才人は奥義を発動させたので在った。

 才人だって馬鹿では無いのだ。ルイズと一緒に居る時に、ティファニアの最終兵器をチラリとでも見たら、自分が何な目に遭うのか良く理解って居たので在った。

「最終奥義、目逸らし、発動終了……」

 一仕事終えたと云った男の声で、才人は小さく、ルイズに聞こえぬ様にして呟く。

 其れから、再びルイズの隣に潜り込み、肩を叩いてみた。

「……寝る」

 ティファニアのあれを見て仕舞ったルイズは、完全に興を削がれた様子で在り……毛布を引っ冠った儘顔を出すそうとしない。

 先程迄部屋に漂って居た甘い空気がスッカリ何処かに消えてしまい……才人は「何だか上手く行か無えなあ」とボヤいた。

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