ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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武器店とインテリジェンスソード

「ねえ、セイヴァー。セイヴァーってどういう風に身を守ったり、戦ったりするの?」

 何気ない、ふと湧いて出た疑問を口にするシオン。

 彼女が俺を“使い魔”として喚び、共に暮らすようになってから、それなりの日数が経過している。

 シオンは、俺が“サーヴァント”であり、“メイジ”同様、もしくはそれ以上に“魔法”の扱いに長け、圧倒することができるというのは目にしたこともあって、既に知っている。が、それだけではなく、他に何か隠している事があるかもしれないと感じたのだろう。

「そうだな……基本的には、この前決闘の件で見せた“魔法”、そして“魔術”……」

「“魔術”……?」

 説明をしようとすると、そこで気になったのだろう、オウム返しのようにして質問をするシオン。

「“魔術”って言うのは、“その時代の技術や技能だけで再現可能な現象を魔力で再現したモノ”の総称といったところかな。ここでの“魔法”は4つの“系統魔法”で、“精神力”を“魔力”として消耗するけど、“魔術”にも似たようなモノ――“属性”があるんだ。“火”、“地”、“水”、“風”、“空”……」

 シオンの疑問に対し、できる限り簡単に、できる限り理解りやすいように努めながら説明する。

 こうやって改めて説明をしようと、自身の頭の中で想い出し、考えて行くと、不思議なくらいに共通点らしきモノがあることが思い出される。

「他のはなんとなくわかるけど、“空”って?」

「“空”は“エーテル”。“第五元素”だ」

「“エーテル”って確か、“サーヴァント”の身体を構成してるっていう……」

「そうだ。“魔術”における“属性”はそれらをまとめて“五大元素”。その5つを全部扱うことができる者や“魔術”を“アベレージ・ワン”なんて呼ぶことがある」

 俺の説明に対し、シオンは興味津々といった風であり、目を輝かせている。どうやら彼女は、知的好奇心というモノが旺盛らしい。

 理解はできても記憶はできなかったり、理解できていないが、記憶はできているなどといった人が多いだろうに、彼女は理解力も記憶力も両方十二分にあることがわかる。

 彼女は、優秀な生徒といったところだろう。

「そして、“架空元素”というモノがあってね……“魔術”において“ありえるが、物質界にないモノ”を“虚”、“魔術”に於いて“ありえないが、物質化するモノ”を“無”なんてモノも存在するんだ」

「“虚無”……」

「そうだな。もしかすると関係しているかもしれない」

 シオンの呟きに、俺はとぼけて首肯いた。

「どういったことができるの?」

「メジャー……いや、秘匿されてるからマイナーと言うべきかもしれないが、そうだな。まずは“強化”。“投影”、“ガンド、“転換“、“置換“、“支配“、“魅了“、“ルーン“、“魔眼“、“結界“などなど……」

「言葉の意味でだいたいは予想できるけど、う~ん……」

「まあ、また気になることがあるなら答えるよ」

「うん、ありがとうセイヴァー」

 そう応えながら、シオンは身嗜みを整える。

 洗顔を済ませ、制服を着用し、朝食を摂り、掃除洗濯も済ませている。

 だが、今日はこれ以上特にするべきことはないといって良いだろう。

 それは、今日“虚無の曜日”であり、講義がないからである。日本で言うところの日曜日だ。

「話は変わるけど、武器とかって使わいないの?」

「そうだな。基本的には必要ないかもしれないな。“メイジ”や傭兵辺りが相手だと“魔法”や“魔術”でこと足りる。それに、“投影魔術”で武器を生み出すことなどは可能だし、現状なにも問題はない。“サーヴァント”が相手になるというのも今のところはない……」

 シオンからの言葉に、俺は今この現状から判断したことを告げる。

 だが、可愛らしい顔をプクッとあからさまに膨らませているといったモノではないが、それでも彼女はどこか不服ないし不満そうな様子を見せる。

(ふむ……せっかくのシオンからの誘いなんだ。断るのも、な……)

 そうして少しばかり間を置いてから、俺はもう1度口を開く。

「だが……この世界の武器に興味がある」

「そっか。なら、武器を見に行こうよ。その“投影”する武器にもバリエーションを持たせることとかできるかもしれないし、この世界にしかないモノがあるかもしれないよ」

「ああ、そうだな」

 俺の返答に、綻んだ顔を見せるシオン。

 言葉の端々からも喜んでいるということが簡単に見て取れる。

 2人だけで1日を過ごすというモノは今までなかったが、2人で行動することは常だった。

 部屋の中で過ごすというのも味気がない。(せっかくの“虚無の曜日”なのだから、普段とは違うことがしてみたい)といった想いからの行動だろう。

 

 

 

「あら、シオンとセイヴァーじゃない。お早う」

「お早う、セイヴァー、シオン」

「お早う、2人とも」

「お早う」

 武器を見に行くために馬を借りようと向かった先には、先客がいた。

 ルイズと才人は近付く俺たちに気付いたのだろう、振り向き挨拶をして寄越してくれる。

 そして、俺たちも同様に挨拶を返し、馬を借りるための手続きをする。

「貴女たちも街に?」

「うん。そう言うルイズたちも?」

 女子2人がいるということもあって、少しばかり姦しくなる。別段うるさいという訳ではなく、楽しそうに話しているので、むしろ微笑ましいモノだ。

 そうして手続きが完了する頃には、お互いの街への目的も話したのか、一緒に街へと向かうことになった。

「それじゃあ、行きましょうか」

「うわっとと」

 シオンとルイズは慣れた様子で、対する才人はどうにかバランスを保ち落ちないように気を付けている。

 先を進むルイズとシオン。

 俺は才人に、乗馬時のアドバイスなどをしながら目的の場所である“トリステイン”の城下町を目指した。

 

 

 

 “トリステイン”の城下町を、ルイズと才人、シオンと俺の4人組は歩く。“魔法学院”からここまで乗って来た4頭の馬は町の門の側にある駅に預けている。

 歩きながらだが、才人は腰が痛いのだろう、ボヤきながら患部を擦り、ヒョコヒョコと歩いている。

 ルイズはしかっめ面を浮かべ、そんな才人を見つめた。

「情けない。馬にも乗ったことないなんて。これだから“平民”は……」

「うっせ。そんな奴を3時間も馬に乗せるな」

「まさか歩く訳にはいかないでしょ」

 ルイズの言葉に対し、才人は少しの抗義するが、理由あってのことのためにそれほど強いモノではない。

「まあ、仕方ないだろう。今の“地球”ではそうそう馬に乗る機会なんてない。お金を払って乗馬体験するくらいだろうさ」

「ちきゅう? そう言えば、セイヴァーってサイトと同じ世界から来たの? そこのところどうなのよ、サイト?」

「う~ん、どうなんだろう? どうなんです?」

「ハハッ、そうだな。厳密には違うが……似て非なる世界と言ったところか」

 フォローする俺の言葉に、ルイズはやはり反応をして才人へと質問をする。が、才人も当然理解できる訳もない。

 俺はそんな2人に、笑いながら曖昧な回答をする。

「似て非なるってどういう……?」

「並行世界や異世界、なんて言葉、わかる?」

 才人はなんとなく理解できるのだろう首肯いているが、ルイズは頭の上に? を浮かべる。

「まあ、可能性の数だけ分岐し存在する、似た別の世界としか言えないな……」

 そう俺は答えながら歩く。

 才人は、物珍しそうに辺りを見渡す。

 白い石造りの街は、小さなテーマパークのようであるが、当然“魔法学院”のそれと比べると、質素な成りの人が多く見受けられる。

 道端で声を張り上げて、果物や肉や、籠などを売る商人たちの姿が見える。

「狭いな」

「狭いって、これでも大通りなんだけど」

「これで?」

 才人の感想に、驚きの言葉を口にするルイズ。

 だが、彼からするとやはりこの道はとても狭く感じるだろう。

 道幅は5メートルもなく、そこを大勢の人々が行き来するモノだから、歩くのも一苦労である。

 対して、才人がいた“地球”、そして俺が“前世”で過ごした“地球”はいろいろと整備がなされているとうこともあって、広くそして綺麗であると言えるだろう。

 いや、この世界のこの時代にしては、今歩いているこの道は十分に広いのだが。

「“ブルドンネ街”。“トリステイン”で1番大きい通りよ。この先に“トリステイン”の宮殿があるわ」

「宮殿に行くの?」

「“女王陛下”に拝謁してどうするのよ?」

「是非ともスープの量を増やしてもらう」

 ルイズの説明に、才人は少しお道化たふうに答える。そして、そんな彼の言動に、ルイズとシオンは笑った。

 道端には露店が溢れている。好奇心が強い才人は、1つ1つじっくりと眺めずにはいられなかった。

「ほら、寄り道しない。スリが多いんだから! あんた、上着の中の財布は大丈夫でしょうね?」

 ルイズは、「財布は下僕が持つモノだ」と言ったらしく、財布をそっくり才人に持たせているのである。結構な量の金貨が詰まっている財布を。

「あるよ、ちゃんと。こんな重いモノ、スラれるかっての」

「“魔法”を使われたら、一発でしょ」

 ルイズからの確認の言葉に、答える才人。

 例外もあるだろうが、“メイジ”は基本的にマントを着ており、それが目印になる。そして、歩き方がもったいぶっている人物が多い。そういったことなどから、“メイジ”である“貴族”と“平民”を見極めることができるだろうこともあって、才人は自信満々に答えた。

 俺とシオンはと言うと、それぞれ分けて金貨を持っている。どちらが失くしても、盗まれてもある程度は大丈夫なように。それでも盗まれることは避けるべきではあるが、分けてもそれなりの重量を持つそれを失くすことも盗まれることもないだろう。才人の言う通り、そうなった時に、いや、そうなる前に気付くのだから。

「普通の人しかいないじゃん」

「だって、“貴族”は全体の人口の1割いないのよ。後、こんな下賤なところ滅多に歩かないわ」

「“貴族”がスリなんかすんのかよ」

「“貴族”は全員が“メイジ”だけど、“メイジ”の全てが“貴族”って訳じゃないわ。色々な事情で勘当されたり家を捨てたりした“貴族”の次男や三男坊なんかが、身をやつして傭兵になったり犯罪者になったり……って聞いてる?」

 もう既に才人は話を聞いておらず、今度は看板に夢中になってしまっている。

「あのバッテンの印の看板は?」

「衛士の詰め所」

 興味を惹かれる看板を見付けるたびに、才人は立ち止まり、ルイズへと質問をする。そして、そのたびにルイズは、彼の質問に答えながら、彼の腕を掴んで引っ張るのであった。

 そんな2人の様子を見て、笑いながら歩くシオンと俺。

「理解ったよ。急かすなよ。ちゅうか剣屋はどこだよ?」

「こっちよ。剣だけ売ってる訳じゃないけど」

 ルイズは、さらに狭い路地裏に入て行く。才人とシオン、俺の3人は後を追いかける。

 が、そこへと入った瞬間、悪臭が鼻を突いた。ゴミをはじめとした汚物が、道端に転がっており、不衛生な状態だ。

「きたねえ」

「だからあんまり来たくないのよ」

 そう言って、ルイズと才人、シオンは四辻へと出る。

 俺は、それを追いかける前に、少しばかり“魔力”を解放し、周囲へと放つ。そして、彼女たちの後を追いかけた。

 ルイズは、立ち止まると、辺りをキョロキョロと見回した。

「“ピエモンの秘薬屋”の近くだったから、この辺なんだけど……」

「あれじゃないかな?」

 シオンの指す方向へと目を向ける。

 そこには、1枚の銅の看板があり、ルイズは嬉しそうに呟いた。

「あ、あった。あれだ。ありがとう、シオン」

「どういたしまして」

 見ると、剣の形をした看板が下がっている。そこがどうやら、目的の場所である武器屋らしい。

 ルイズと才人、シオンと俺は石段を登り、羽扉を開け、店の中へと入った。

 

 

 

 店の中は昼間であるにも関わらず薄暗く、ランプの灯りが灯っている。壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあるのが見える。

 店の奥から、パイプを咥えた50代だろう男性が、入って来た俺たちを胡散臭げに見つめて来る。そして、パイプを離し、ドスの利いた声を出して話しかけて来た。

「旦那。“貴族”の旦那。家は真っ当な商売してまさあ。御上に目を付けられるようなことなんか、これっぽちもありませんや」

 その店主だろう男性の言葉に、「なるほど」と俺は聞こえない程度の大きさで呟く。

 上質な服から“貴族”だと判断したのだろう。上等な服を着た4人組が突然入店して来たのだから、警戒するのは当たり前だろう。

 だが、彼のその言葉は墓穴を掘っているのと同じではないだろうか、などと考えてしまう。

 そんなことに気にしたふうもなく、ルイズは「客よ」と腕を組んで言った。

「こりゃおったまげた。“貴族”が剣を! おったまげた!」

「どうして?」

「いえ、若奥さま。“坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖を振る、そして陛下はバルコニーから御手をお振りになる”、と相場は決まっておりますんで」

「使うのはわたし達じゃないわ。“使い魔”よ」

 そんな店主の言葉に、興味も無くつまらなそうにして口を開くルイズ。

「忘れておりました。昨今は“貴族”の“使い魔”も剣を振るようで」

 今仕方知ったことだろうに、主人は商売っ気たっぷりに御愛想を口にする。そして、才人と俺とをジロジロと観察するように眺め、見比べる。

「剣をお使いになるのは、この方たちで?」

 ルイズとシオンは、店主のその確認の言葉に首肯く。

 対して才人はすっかり、この店の中に並んでいる武器に夢中になってしまっており、剣に見入っている様子だ。

 そんな才人を無視して、ルイズは店主を促す。

「わたし達は剣のことなんかわからないから。適当に選んでちょうだい」

 ルイズの言葉を受けて、主人はいそいそと店の奥にあるだろう倉庫へと消える。そして、彼は聞こえないようにだろう小声で呟いた。

「……こりゃ、鴨がネギしょってやって来たわい。せいぜい、高く売り付けるとしよう」

 当然俺には聞こえているが、主人に文句を言いはしない。何を持って来るのか興味があるからだ。

 すると、主人は、1“メイル”ほどの長さをした細身の剣を持って現れた。

 随分と華奢な剣だといった第一印象を受けさせる。片手で扱うモノらしく、短めの柄にハンドガードが付いている。

 そんな剣を持って来ると、主人は思い出したように口を開いた。

「そういや、昨今は宮廷の“貴族”の方々の間で下僕に剣を持たすのが流行っておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」

「綺麗ね」

 そのレイピアには綺羅びやかな模様などが付いており、なるほど“貴族”に似合いそうな装飾がなされている。

 シオンは見た目を褒めた。

「“貴族”の間で、下僕に剣を持たすのが流行ってる?」

 ルイズの質問に、主人はもっともらしく首肯いて見せる。

「へえ、なんでも、最近この“トリステイン”の城下町を、盗賊が荒らしておりまして……」

「盗賊?」

「そうでさ。なんでも“土くれのフーケ”とか言う、“メイジ”の盗賊が、“貴族”の御宝を散々盗みまくってるって噂で。“貴族”の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で、へえ」

 ルイズは盗賊には興味がなかったので、ジロジロと剣を眺めた。対して、シオンは件の盗賊について少しばかり興味があるのか、少し考え事をしている様子だ。

 眼の前にある、主人が持って来た剣は、直ぐに折れてしまいそうなほどに細い。

「もっと大きくて太いのが良いわ」

「お言葉ですが、剣とには相性ってもんがございます。男と女のように。見たところ、若奥さま方の“使い魔”とやらには、この程度が無難のようで」

「大きくて太いのが良いと、言ったのよ」

 傍から聞いていると勘違いしそうなルイズのその言葉に、主人はペコリと頭を下げ奥へと消える。

「これなんかいかがです?」

 今度はパッと見立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れる。

 見た目は見事と言えるだろう。1.5“メイル”はあろうかという大剣だ。柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えがなされている。所々に宝石が鏤められ、鏡のように両刃の刀身が光っている。

「店1番の業物でさ。“貴族”の御伴をさせるなら、このくらいは腰から提げて欲しいモノですな。と言っても、こいつを腰から提げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、背中にしょわんといかんですな」

主人はそう言って、才人をチラリと見た。

 才人も近寄って来て、その剣を見つめる。

「すげえ。この剣すげえ」

 ルイズもシオンも、大剣を見つめている。

 才人が気に入ったこともあってか、ルイズは「おいくら?」と主人へ尋ねる。理由としては、才人が気にいったというのもあるが、店1番と主人が太鼓判を押したのだ。“貴族”はとにかく、何でも1番でないと気が済まないという点がある。

「なんせこいつを鍛えたのは、かの高名な“ゲルマニア”の“錬金術師シュペー卿”で。“魔法”がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう? お安すかあ、ありませんぜ」

 主人はもったいぶって柄に刻まれた文字を指さした。

 ルイズも「わたしは“貴族”よ」と胸を晒せて応える。

 そして、主人は淡々と値段を告げた。

「“エキュー金貨”で2,000。“新金貨”なら3,000」

「立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの」

 ルイズは呆れて言った。

 かなりの値段であることは確かだが、相場や貨幣価値なんてモノをまだ理解らない才人はボケっと突っ立っていることしかできない。

「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだら安いもんでさ」

 ルイズとシオンは“貴族”ということもあって、買い物の駆け引きが下手糞な部類に入るといっても良いだろう。ゆえに、呆気なく財布の中身をバラしてしまうだろう。

 主人は「話にならない」と言うように手を横に振った。

「マトモな大剣なら、どんなに安くても相場は200でさ」

 剣の値段の相場を知らいということもあって、ルイズとシオンは顔を赤くしてしまう。

「なんだよ。これ、買えないの?」

 才人はつまらなさそうに言った。

「そうよ。買えるモノにしましょう」

「“貴族”だなんだって威張ってる割には……」

 才人がそう呟くと、ルイズはキッと彼を睨む。

「誰かさんの大怪我の所為で、“秘薬”の代金がいくらかかったと思ってるの?」

 才人は、それに対して恩義を感じていることもあり、素直に頭を下げた。

「ごめん」

 それでも、才人は名残惜そうに剣を撫で回す。

「これ、気に入ったんだけどな……」

 その時……乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男性の声だ。

「生意気言うんじゃね。坊主」

 ルイズと才人、シオンは声のした方へと顔を向ける。そして、主人が頭を抱えた。

「お前、自分を見たことがあるのか? その身体で剣を振る? おでれーた! 冗談じゃねえ! お前にゃ棒っ切れがお似合いさ!」

「なんだと!?」

 その男性の声から出た言葉に、俺は思わず笑いそうになる。いや、満面の笑みを浮かべてしまっているだろう。

 対して、本人である才人はいきなり悪口を言われたこともあり、腹が立ったのだろう、声を荒げて言葉を返す。

「理解ったら、サッサと家に帰りな! お前たちもだよ! “貴族”の娘っ子2人!」

「失礼ね!」

 男性の声から出た言葉に、ルイズもまた声を荒げて反応を返し、シオンはどうにか2人をなだめようとしている。

 才人はツカツカと声のする方へと近付いた。

「なんだよ。誰もいないじゃん」

「お前の目は節穴か!」

 才人は思わず後退ってしまう。それは、声の主が1本の剣だったためである。錆の浮いたボロボロの剣から、声が発されているのだ。

「剣が喋ってる!」

 才人が驚きの反応を返すと、店の主人が怒鳴り声を上げた。

「やい!  デル公! お客さまに失礼なことを言うんじゃねえ!」

「デル公?」

 才人は、その喋る剣をマジマジと見詰めた。

 先ほどの大剣と比べて長さは変わらないが、刀身が細い、薄手の長剣だ。ただ、表面には錆が浮き、お世辞にも見栄えが良いとは決して言えやしない。

「お客さま? 剣もまともに振れねえような小僧っ子がお客さま? ふざけんじゃねえよ! 耳をちょん切ってやらあ! 顔を出せ!」

「それって、“インテリジェンスソード”?」

 ルイズが、当惑した声を上げる。

「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、“インテリジェンスソード”でさ。一体、どこのどいつが始めたんでしょうかねえ、剣を喋らせるなんて……とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで閉口してまして……やいデル公! これ以上失礼があったら、“貴族”に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」

「おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等だ!」

「やってやらあ!」

 売り言葉に買い言葉で、主人が“インテリジェンスソード”へと向けて歩き出した。

「いやはや、実に面白い。喋る剣……かの“英雄王”の宝物庫にもこの類モノはないやもしれんな」

「もったいないよ。喋る剣なんて面白いじゃないか」

 そんな主人に対して、俺と才人はそれを遮る。

「お前、デル公って言うのか?」

「ちがうわ! デルフリンガー様だ! 覚えておきやがれ!」

「名前だけは、一人前でさ」

 才人からの質問に、デルフリンガーは自身の名前を告げ、主人が茶々を入れる。

「俺は平賀才人だ。よろしくな」

 デルフリンガーは黙った。じっと、才人を観察でもするかのように黙りこくった。

 それからしばらくして、デルフリンガーは小さな声で喋り始めた。

「おでれーた。見損なってた。てめ、“使い手”か」

「“使い手”?」

「ふん、自分の実力も識らんのか。まあ良い。てめ、俺を買え」

「買うよ」

 才人の奥底にあるモノを感じ取っただろうデルフリンガーは、彼へと自身を勧める。

 そして、才人もまた即決であり、デルフリンガーは黙りこくった。

「ルイズ。これにする」

 ルイズは嫌そうな声を上げた。

「え~~~~~~、そんなのにするの? もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ。例えば、これとか」

 ルイズに提案する才人だが、彼女はやはり嫌そうな様子だ。

 そして、ルイズは主人が持って来た大剣を指さす。

「あれは駄目だな。見栄えばかりで、中身がない。簡単に折れてしまうだろうな」

「ほう、理解るのか?」

 ルイズの言葉に、俺は原作の知識もあるが、目にしただけでわかったことを口にする。ただ、なんの知識もなければ俺もまた彼女らと同じように業物と言ってみせた店主の言葉を信じ込み、騙されていたことだろう。

 そんな俺の言葉に、デルフリンガーは感心した様子を見せた。

 対して、主人は不満げであり、他3人は信じられないといった様子を見せている。

「なら、試してみるか? 他の剣とその大剣を打つけてみるんだ……」

 その言葉に、3人は気付いていないが、主人は少し焦りを見せた。

「ということから、そのデルフリンガーを買うことを勧める」

「まあ、良いじゃんかよ。喋る剣なんて面白い。な?」

 俺の言葉を信じることはできていないが、それでも才人はデルフリンガーのことを気に入ったのだろう、その想いや感想を述べて、ルイズへとねだる。

「それだけじゃないの」

 ルイズはぶつくさ文句を言いはするが、他に買えそうな剣もないだろうこともあり、主人へと尋ねる。

「あれ、おいくら?」

「あれなら、100で結構でさ」

「安いじゃない」

「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」

 主人は手をヒラヒラと振りながら言った。

 喋る剣である“インテリジェンスソード”のデルフリンガーは、この性格から、毎度かはわかりかねるが客に茶々を入れたり、喧嘩を売ったりと色々問題を起こして来たのだろう。

 才人は上着のポケットからルイズの財布を取り出し、中身をカウンターの上に打ち撒けた。金貨がジャラジャラと落ちる。

 そして、主人はそれらの枚数を慎重に数え確かめると、首肯いた。

 主人は「毎度」と言い、デルフリンガーを鞘に収め才人へと手渡す。

「どうしても煩いと思ったら、こうやって鞘に入れれば大人しくなりまさあ」

 才人は首肯いて、デルフリンガーを受け取った。

 

 

 

 武器店から出て来た才人とルイズ、シオンと俺を、見つめる2つの影があった。キュルケとタバサという少女だ。

 タバサは、青みがかった髪と、ブルーの瞳を持ち、眼鏡をかけている。実際の年齢よりも4つから5つほど若く見られるほどに幼い容姿、小柄なルイズより5“サント”ほど低い身長の少女だ。

 彼女たち2人は、俺たちの後を、いや、才人とルイズを追いかけて来たのである。

 俺たちが離れるのと同時に、彼女たちは武器店へと入る。

 目的は、ルイズへと対抗するため、そして才人の気を惹くために剣を買うといったところだろうと簡単に推測できる。

 だが、俺は共に行動している3人にそれを話はせず、スルーする。

 事は問題なく進んでいるのだから。

 それよりも、俺は先ほど見た武器や鎧などを想い出していた。

(ほとんどが至ってなんの変哲もない武器ばかり……目を惹いたのはやはりデルフリンガーぐらいか)

 やはり、そうそう変わった箇所などはない。安心するべき、安堵するべきことだ。

 なのだが……。

 この先のことを考え、準備をして置いても問題も損はない、いや、必要かもしれないだろう。

 そう考えながら、眼の前を歩く3人の姿を見やる。

 手甲に“ルーン”が刻まれた少年と、同じように手甲に“令呪”が刻まれ浮かんでいる2人の少女を見て。

 

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