ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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水精霊騎士隊(オンディーヌ)

 晴れて“貴族”に成った才人で在ったのだが、生活は大して変わら無かったと云えるだろう。

 シュヴァリエの称号には年金が付いた為に、金回りは多少良く成りはしたのだが、生活がガラリと変わる程でも無い。

 “トリステイン”での1人当たりの生活費は、場所に依っても違うのだが年間120“エキュー”程度で在ると云えるだろう。才人が貰う事に成った年金の額は500“エキュー”程で在る。平民の1家4人がまあ、不自由無く暮らせる額で在る。領地を持たない、下級“貴族”の収入は其れくらいのモノで在る。

 年金は12頭分した額を月初めに財務庁から支給される形と成って居る。よって才人は毎月シュヴァリエの任命状を持って、俸給や年金を受け取ろうとする下級“貴族”でごった返す、“トリスタニア”の財務庁のカウンターに並ぶ事に成ったので在った。

 住む場所も変わら無い。相変わらず、ルイズの部屋で在る。借りようと想えば“学院”の空いて居る部屋も借りられたのだが、ルイズが嫌がったのだ。「余計な御金使う事無いじゃ成い」、とルイズは言ったのだ。

 取り敢えず、騎士隊に勤務する成ら絶対必要だとのルイズの勧めに従い、才人は年金を前借りして馬を1頭買ったので在った。

 葦毛の、艶々とした毛並みをした中々の軍馬で在ると云えるだろう。

 ルイズからの「良い乗り手は馬よりも馬具に拘る」と云うアドバイスに従い、馬具も其れ成りのモノを買ったので在った。

 其の2つに依って年金が殆ど吹っ飛んでしまったのだが、面倒臭いと云う理由やルイズが怒るだろうと云う理由から、彼女の言う通りに才人は渋々と馬と馬具を買ったので在った。

 だが、釈然としなかったために、才人は最初、其の馬にルイズと名前を付けたので在った。

「ルイズ。人参が欲しかったらヒヒーンと鳴け」

 また、ルイズの口真似をし乍らの、「やあルイズ。今日は遠乗りするけど、確り走れよ。モタモタし遣がったら、御仕置きだかんね! 理解ってんの!?」、と云ったモノを始めとした小さな鬱憤晴らしを少しの間して居たが、直ぐにバレて仕舞った。

「馬にルイズって名前付けるの禁止」

 顔が2倍に腫れ上がる位にルイズに殴られて仕舞い、才人は馬の名前を変えた。

 そして余った御金で、“ヴュンセンタール号”から下ろした“ゼロ戦”を置く為に、格納庫……板と木で守るだけで在るが、をコルベールの研究室の隣に造ったので在った。

 コルベールの御墓参りをしたいと想った才人だが、身寄りの無かったコルベールの遺体はキュルケが実家に連れて一緒に行って仕舞って居る。タバサも同行したとの事で在る。其の為、才人は(どうしてキュルケがそんな事したのか理由が判ら無いけど、取り敢えず彼女が“ゲルマニア”から帰って来たら、御墓の場所を訊いて、何時か訪ねよう)、と想ったので在った。

 

 

 

 

 

 さてさて、行き成り“貴族”に成って仕舞ったルイズの“使い魔”に対する、“魔法学院”の人達の反応は様々で在る。

 学院長のオスマンは当然喜んだ。「此方の世界に骨を埋める覚悟が出来た様じゃな」、と目を細めたので在る。そう云う積りでは無い、と説明すると、「未だそんな事を言うのは嫁さんが居ない所為だ」と言い出し、「“貴族”に成った記念に結婚して身を固めろ。儂の姪はどうじゃな? 4度結婚に失敗して40を過ぎて居るが器量はそこそこじゃ」、と言い出した為に、才人は逃げ出す羽目に成った。

 “赤土のシュヴルーズ”は、「まぁ」、と目を細めて喜んだ。「ミス・ヴァリエールも之で鼻が高いですわね」、と感想を漏らしたので在った。「では、貴男も此処で授業を受けるのですか? 受ける成ら此の本と此の本とあの本を買い為さい。高いけど役に立ちますから絶対だから」、と教科書として使って居る自著を勧め出したので、才人はまたも逃げ出す羽目に成って仕舞った。

 さて、教師で喜んだ様子を見せたのは其の2人位なモノで在り、他の先生は余り快く想って居無い様子で在った。今迄通り、才人を空気の様に無視したので在る。擦れ違い様に、「成り上がりが」と呟く教師も居る始末で在る。

 生徒達の反応もまた様々で在った。

 平民上がりと馬鹿にする者、内心良くは想って居無いだろうが戦果に恐れを為して近付か無い者、無関心な者……。

 やはり擦れ違い様に「平民の癖に」や「調子に乗り遣がって」などと云ったやっかみ半分の呟きが聞こ得て来る時も在った。そして、(生徒が相手成らまあ良かろう)と、才人はそんな事を言われる度に決闘を吹っ掛けるので在った。

 才人の事を、(まぁ、精々ギーシュを遣っ付けた程度だろう)、(110,000を止めたのだって何かの間違いだよ)と云った風に舐めて居た生徒達は、自身の身体で認識を改める事に成った。

 “ヴェストリの広場”で続け様に3人程ボコってみせると、擦れ違い様に悪口を言われる事も無く成ったのだから。

 

 

 

 

 

 才人が“貴族”に成って2週間後……。

 朝靄の中、“ヴェストリの広場”に、1人、1人、と生徒が現れた。何れも、“アルビオン戦役”に参加した生徒達で在る。

 彼等は軽く緊張した面持ちで、自分達の眼の前に立った2人を見詰めた。

 黒いマントに身を包んだギーシュと、才人で在る。

 ギーシュは緊張をして居るのだろう、カチンコチンと云った風に強張って居る。

 才人はそんなギーシュの肘を突く。

「な、何だね?」

「御前、隊長だろうが。ちゃんと挨拶しろよ」

「うう……」

 ギーシュは呻いた。

「何だよ?」

「い、胃が痛い……」

 集まった生徒達が爆笑した。

「……確りして呉れよ」

 と溜息混じりに才人が言えば、「やっぱり、君が隊長に成った方が良かったんじゃ成いかね? “水精霊騎士隊(オンディーヌ)”の隊長何か僕には荷が重過ぎる」と困った顔でギーシュが言った。

 “水精霊騎士隊(オンディーヌ)”。

 アンリエッタの肝いりで此の近衛隊が作られたのは、才人とルイズが“魔法学院”に帰って来た日の3日後の事で在る。

 決心して直ぐに、才人はアンリエッタの元に赴き、騎士隊長に就任する事を告げたので在った。するとアンリエッタは、騎士隊を新たに作ると言い出し、本当に実行したので在った。

 過去に存在した栄光を纏いし、伝説の近衛隊で在った。“トリステイン王家”と縁の深い“水の精霊”の名前が冠された其の騎士隊が創設されたのは1,000年以上前にも遡るとされて居る。

 然し、数百年前の政紛の際に廃止されて、現在に至って居たのだが……アンリエッタが其の名前を拾い上げたので在った。

「由緒がどうした。気にしたって切りが無えだろ」

 才人はギーシュに言った。

 ギーシュ達にしてみれば伝説の騎士隊の名前で在るのだろうが、才人にとっては想い入れも畏怖も憧れも無いのだ。

「で、でもな……流石に僕が其の、伝説の騎士隊の隊長と言うのは、うーむ……」

 ギーシュは目を白黒させて居る。

 初めは才人は、「隊長は自分が遣ろう」と想って居たのだが……「平民上がリが行き成り隊長に成って仕舞っては相当に風当たりが強いぞ」と云う、アニエスの話を聞いて、断念したので在った。要らぬ嫉妬は買いたく無いのだから。

 結局ルイズと相談し、取り敢えず隊長にはギーシュを押して、当面の間、才人は副隊長で良い、と云う事に成ったので在った。

 アンリエッタは隊長にしたい様子で在ったのだが、やはり才人では此方の世界のルールも良く知らず、当然乍ら“メイジ”では無い、また、公には出来ないが異世界で在る“地球”出身の人間で在る。

 ギーシュだって、“シティオブサウスゴータ”で手柄を上げ、勲章を貰った事も在る。其れに父親は元帥で在るのだ。人柄と実力と経験は兎も角として、家柄と戦果は騎士隊隊長としては申し分無いので在る。

「おいギーシュ! サイト! 何時に成ったら訓練を始めるんだよ!? 毎朝グダグダじゃ成いか!」

 モタモタして居る2人に、騎士隊の隊員に成った生徒達が叫んだ。

 其の面々を見れば判る様に、“水精霊騎士隊(オンディーヌ)”は“魔法学院”の生徒達で構成されて居る。アンリエッタは“魔法衛士隊”、“銃士隊”に続く3個目の近衛騎士隊を、世間や宮廷の派閥の色が着いて居無い少年達で固めたので在った。

「ほら、御前が、モタモタしてるから文句言われたじゃねーか」

 才人がギーシュの頬を突き乍ら言った。

 ギーシュもまた負けじと言い返す。

「君がうだうだ文句ばっかり付けるからじゃ成いのかね!?」

「御前が情け無いからだろうが!」

「だから隊長は君が遣れって言ったじゃ成いか!」

 2人はギリギリと睨み合う。

 才人はフッと顔を背けると、小馬鹿にした調子で言い放った。

「……ったく、そんなだからモンモンに赦して貰え無えんだよ」

 瞬間、当然ギーシュは切れた。

「モンモンとの事は君にかんけぇえええ無いだろぉおおおおおおッ!」

 半泣きでギーシュは“杖”を引き抜く。

「面白え。そう言や御前にゃ、あん時の腕の借りを返して無かったな」

 才人は、唸り声を上げてデルフリンガーに手を掛けた。

 左手甲の“ルーン”が光る。

 ギーシュは、(そう言やシュヴァリエ・サイトは110,000を止めた男の1人だ。“武器”を握られては勝ち目が無いじゃ成いかね)と云った様に、ハッとして“杖”を仕舞うと、拳を握り締めた。

「君は“魔法”を使え無いから、仕方無い! 素手で相手して遣る!」

 才人はデルフリンガーから手を離すと、ギーシュに跳び掛かった。

 集まった生徒達は、もう大喜びと云った様子を見せる。

「遣っちまえ! 生意気な平民を懲ら締めろ! ギーシュ!」

「おいサイト! 自意識過剰なギーシュに御灸を据えて遣って呉れよ!」

「――ん!?」

 だが、其処で、才人はギーシュと睨み合い乍ら、動きを止め、辺りへと注意を払い始める。

「どうしたんだよ? サイト」

「何か、来る……」

「何かって何だよ!? 何処から来って言うんだよ? 何処にも見当たら無いじゃ成いか!」

 動きを止めた才人を見て、皆、才人が臆したと想ったのだろう、小馬鹿にした様子を見せる。

「――上だ!!」

 そんな生徒達や騎士隊の隊員達を他所に、違和感の接近に気付き、才人は其れの発信源で在るモノへと視線を向ける。

 連られて皆も上を見上げた。

「――アーラララララーイ!」

 2頭の“飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)”が牽引する“神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)”が地上へと、雷を伴って、降り立つ。

 皆呆然として、此方へと視線を向けて来て居る。

「お、御前は……」

「ふむ、久しいな。皆、元気そうで何選り」

 御者台に居る俺とシオンを見て、皆驚愕した様子を見せる。

「セイヴァー!? 其れにシオンも!?」

「1国の女王がどうして此処に!?」

「どうしてって、私未だ生徒だよ? 生徒が学校に通うのは当然だよね」

 1人の生徒の質問に対して、事も無げにシオンは言葉を返した。

「でも、“女王だから”って、此の前……」

「“今は”、って言った筈だよ?」

 才人の言葉に、シオンは悪戯っ娘の様な笑みを浮かべて答える。

「だけど君、女王としての仕事は大変だろ? アンリエッタ女王陛下だって」

ホーキンス(信頼出来る人)に任せてるから。其れに、何か重要な事が在れば、直ぐに戻る事も出来るしね」

 シオンはギーシュ達の疑問に答えた後、御者台から跳び降り、此の場から去って行った。

「さて、何やら楽しそうな事をして居た様だが」

「な、なあ、セイヴァー……久し振りに逢って直ぐになんだが……」

「どうした?」

「隊長を交代して呉れ!」

 泣き付いて来るギーシュに、俺は静かに、出来得る限り諭す様にして言う。

「其れは出来無い」

「どうして?」

「何せ、此の身は“使い魔(サーヴァント)”。そして、既に“アルビオン”所属だ。“トリステイン”の部隊に入る事は出来無い」

「うぅ~~~」

「さて、才人。1本、どうだね?」

 唸りを上げるギーシュを他所に、俺は才人へと視線を向ける。

「1本って?」

「組手、みたいたモノだ。試しに、互いに全力を以て、打つかってみる。どうだ?」

「ああ……構わ無い、けど……」

 才人はそう言って、背に背負って居るデルフリンガーの柄を掴む。

 才人の左手甲に在る“ガンダールヴ”の“ルーン”が一際大きく、眩く光り出す。

「何だ、鎧は纏わ無いのか? 先代の力とかも使える筈だがな……」

「俺は之で構わ無い。で、そっちはどう何だ? セイヴァー」

「そうだな」

 俺はそう言って、自身の“魔力”を編み上げ、鎧と為す。

「其れって……」

「綺麗……」

 至る所から、俺が纏って居る鎧に関する感想が溢れる。

 黒を基調とし、エングレービングは施された鎧だ。至る所には、銀河を模した色取り取りの宝石が鏤められて居る。

 綺麗と云う選りも神秘的、荘厳、幻想的……などと云った言葉が似合うだろうか。

「其れが、御前の“宝具”成のか? セイヴァー」

「ああ、そうだ。“宝具”の1つだ。否、“宝具”に成るだろうモノの1つだと言った方が正確だろうな。そして……」

 俺は1つの武器を“投影”する。

 “乖離剣エア”同様に、刀身が3つの黒い石版で構成され、其々別方向に回転為続け、大きく金色と赤色の装飾が為された柄を持つ剣。そして、柄尻の部分を始め、刀身には何かしらの変形機構が有るだろう事が一目で判る。

 其れを2振り、“投影”する。

「“乖離剣エア”、そして“終末剣エンキ”……其々、“メソポタミア神話”や“シュメール神話”、“アッカド神話”、“バビロニア神話”、“アッシリア神話”、“アッカド神話”の神の名前から来て居るからな……俺も其れに因んで名付けようか……“地底の淡水の海”――“アプスー”、そして“世界と人間の創造主”――“マルドゥク”……“乖双弓槍剣アヴルドゥク”と言った所か……」

「なあ、俺って“サーヴァント”に成ったんだよな? なら、“宝具”も有るよな?」

「ああ、そうだな」

「だけどよ、俺が持ってる筈の“宝具”が何なのか判らないんだよ。俺の“宝具”って何々だろう?」

「デルフリンガーと、“ガンダールヴ”としての力だろうさ。だがまあ、“真名解放”は出来ないだろうがな」

「此奴があ……?」

「悪かったな」

 明ら様にガッカリとした様子を見せる才人に、デルフリンガーは不貞腐れた様に言った。

「何で“真名解放”が出来ないんだよ?」

「本来“宝具”は、“貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)”だ。人間の幻想を骨子に作り上げられた武装と言っても良いだろう。“英霊”が持つ、彼等彼女等が生前に築き上げた伝説の象徴、逸話や伝説、或いは真に存在した武器道具其の物を基盤として誕生したモノ。まあ有り体に言えば、伝説を形にした物質化した奇跡だ。故に、其の生を全うする必要が在るとも言い換える事が出来るかも知れ無い。まあ、其れでも“デミ・サーヴァント”とかみたいな例外は在るのだがな……」

「其れじゃあ、御前はどうなんだよ? 御前は“転生”して、今此処に生きてるんだろ? なのに、あれだけの“宝具”、“真名解放”してるじゃねえか」

「あれはズルをして居るだけだ。俺の所有する“スキル”の話に成るが……“代替者”、“根源接続”、“戦果総般”……そして、“宝具”……其れ等を組み合わせて出来る反則技さ。基本、先程も言ったが、“宝具”は其の“英霊”の生涯築き上げたモノと言い換える事も出来る。俺は其れを横から撃ん盗って居るとも言える。彼等からすると、盗人の様な存在(モノ)さ、俺は」

「そ、そう成のか……?」

「そうだ。まあそう言う事だ。話は終わりか? 其れじゃあ、試合を開始しようか」

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂の後に目で追う事すらも難しい速度での試合を始めた俺と才人を、少し離れたベンチで見守る3人の少女が居た。ルイズとモンモランシー、そしてシオンで在る。

 ルイズとモンモランシーは、何と無く、毎日こう遣って朝食前の才人達の訓練風景を眺めて居るので在った。

「全く。戦争の次は騎士ごっこかぁ、何て想ってたら、今度は喧嘩だわよ。男の子って、ホント、どう仕様も無いのね」

 呆れた声でモンモランシーが言った。

 ルイズはと云えば、先程から妙に苛々した様子を見せ乍ら何かをして居る、

「……あんたは、何してんの?」

 少し怒ったかの様な声で、ルイズは言った。

「繕い物」

 成る程、見れば其れは才人が着て居たTシャツで在った。穴が至る所に空いて居り、ルイズは其れをどうにかして直そうと四苦八苦して居るので在った。然し……どうにも不器用で在る為か、糸が複雑に絡まり合い、穴を塞ぐ処か逆に広げて仕舞って居る。

「悲惨な事に成ってない?」

「うっさいわね」

「繕い物なんか、メイドにでも頼めば良いじゃない」

「良いの。私が遣るの」

 ルイズはむ~~~、と唸り乍ら、再びシャツを繕い始めた。

「ルイズ。あんた変わったわね」

「どうしてよ?」

「否……破れた男の子のシャツを繕って上げるなんて……やっぱ恋すると女って変わるのかしら」

 モンモランシーの言葉に、シオンは同意するかの様に首肯く。

 ルイズは顔を真っ赤にし、慌てて顔を上げた。

「こ、恋なんかじゃ無いもももももん! ぼ、ボロボロで、か、かか、可哀想だから縫って上げてるだけだもん!」

「そんなにムキに成らないでよ。自分で認めてる様なモンよ」

「ホントは遣りたくないの! あー、面倒臭い! もう!」

 と言いつつ、ルイズは一生懸命に針を動かす。

 そんなルイズを、シオンは柔らかな笑みを浮かべて見やった。

 ルイズは、(騎士隊に夢中に成って居るサイトを何とか応援して上げよう)と、そんな風に想ったので在った。だが、(私は騎士隊員じゃ無いし……何が出来るか考えてみても、良く判ら無いわ)と考え、取り敢えずと云った風にシャツなどを繕って上げて居たので在る。

 才人と来ると馬鹿みたいに夢中に成った様子で、騎士隊の編成と訓練に励み始めたので在る。其の為に、授業が終わると直ぐに稽古。クタクタに成って部屋に帰って来る成り、ぐあーと寝て仕舞うのだ。朝は朝で、此の様に早朝から騎士見習いの生徒達を集めて、剣を振り回したり、“魔法”を一斉に撃つ練習を為たり、組手を為たりで大忙し成ので在る。

 ルイズの事などまるっきり放ったらかしと云った風で在る。と云うよりも、「御前の協力など要らん」と云った態度で在る。

 其れはまあ、ルイズは騎士隊の一員では無いのだから、しょうが無い事かも知れ無いだろう。

 はふぅ、とルイズは小さく溜息を吐いた。

 才人を上手く慰める事も出来無いし、協力も出来無い。そう想って仕舞うと、ルイズの中で増々自信が揺らいで行くので在った。

 そうしてルイズが(やっぱり私は駄目なのかしら……?)と鈍よりとして居ると、“水”の担い手の鋭さ、そして元来の他者の機敏に関する察しの良さからか、ルイズのそんな切なさに気付いたのだろう、モンモランシーとシオンは目を細める。

 シオンとモンモランシーは、一瞬互いに見詰め合い、そしてモンモランシーが口を開いた。

「なぁに? 元気無いじゃないの? まぁ、恋人が自分を放ったらかして他の事に夢中に成ってたら元気も失くなるわよね」

「はぁ? 何言ってんのよ。誰が恋人よ。止めてよね!」

「違うの? じゃあ片想い? 勿論、あんたから、あのサイトへ」

「違うもん! 絶対違うもん! 好き成のは向こうだもん! 私何とも想ってないもん!」

 ルイズは顔を真っ赤にして抗議し、シオンとモンモランシーは苦笑を浮かべる。

「良いけどさ、そんなあんたに1つ忠告して置くわ」

「何よ?」

「好きだからって、直ぐに許しちゃ駄目よ」

「はぁ!? 何言ってんの!? ばっかじゃないの!」

「あんたみたいなのはね、堅そうに見える分、雰囲気に流され易いのよ。良い事? 男何て全員浮気モノ何だから。ちょっと良いかなーってついつい許したら、直ぐに飽きて他の女の所に行っちゃうんだから。シオン、貴女もよ」

「ば、ばっかね! 許す訳無いじゃない! 何を許すって云うのよ!?」

 ルイズは嘗ての己の行為を棚に上げ、怒鳴った。

「声が震えてるわよ。あんたって、図星を指されると、直ぐに震えるんだから。でも其の心配は無いかもね。最近相手にされて無いんでしょ。全く欲求不満の女って嫌ぁね。ちょっとした事で苛々するんだから」

「はぁ? 相手にされて無いのはあんたじゃ成い! 洪水のモンモランシー。こんな所で何してるの? ギーシュの見張り? あの御間抜けで、偶々勲章何か貰っちゃったから、前選り注目されるんじゃ成いの? あんなのでも良いって娘、増えたかもね!」

 モンモランシーは、チョンチョンとルイズとシオンの肩を叩いた。そして、才人達の方を指差す。

 見ると、組手は終了して居た。

「え?」

 ルイズは目を丸くした。

 茶色のマントを羽織った何人かの女生徒達が、才人達に何かを手渡して居る所で在った。

「注目されてるのは、ギーシュじゃ無いみたいね」

 

 

 

「どうしたの?」

 才人は、眼の前の少女に尋ねた。

 眼の前で頬を染めて居るのは、何時かギーシュが二股を掛けて居た少女……ケティで在る。周りには、数人、似た様な様子で才人を、そして俺を見詰めて来て居る女生徒達が居る。何れも茶色のマントを羽織って居る……其の事から彼女達は1年生で在ると云う事が判る。

「ふむ……成る程な」

 俺は誰にも気付かれる事が無い程度の小声で呟く。

「あ、あの……之、読んで頂けますか?」

 はにかんだ表情で、茶色の長い髪が愛らしいケティは手紙らしきモノを取り出した。

「わ、私も書いたんです」

「御覧に為って下さいまし」

 他の女生徒達も、次々に才人や俺へと手紙を手渡して来る。

「手紙?」

「あの……詩を書きましたの。是非共読んで頂きたいのです」

 才人は口をポカンと開けて、下級生の女の子達に尋ねた。

「……どうして俺達に?」

 女の子達は、顔を見合わせて首肯き合う。

「だって、素敵何ですもの。2人で良く110,000の軍勢を止められたとか」

「今度、御暇な時で良いので、其の時の御話をして下さいません事?」

 後ろからギーシュの恨めしい声がした。

「ぼ、僕には? 僕には手紙はないのかね!?」

「ギーシュ様には、モンモランシー様が居らっしゃるじゃ在りませんか」

 ケティはツンと、澄まして言い放つ。

「君達が1番に決まってるじゃ成いか! モンモランシーはモンモランシー。君は君! そんな! 勇者には勇気と武勲の数だけ愛が在るのに! 理解して呉れよ!」

 そう叫んでギーシュが薔薇を咥えて気取った其の瞬間、水の塊がギーシュの身体を包んだ。

「ぐが!? ごげ! 息が! 息が出来なぐぼごぼげごぼぉ」

 水柱の中で、ギーシュは悶えた。

 後ろにはモンモランシーが立って、“杖”を振って居る。無表情なのが、余計に恐怖を煽って来る。

 才人が、(うっわぁ、モンモン怖ええええ)と震えて居ると、ケティは才人にスッと包を手渡した。

「あの……御口に合わ無いかも知れませんがビスケットを焼いたんです。是非」

「ビスケット?」

 フンワリと、甘く柔らかい香りが包から漂って来る。

「私も焼いたんです。どうぞ」

 そう言って、1人の女生徒が俺へと手渡して来る。

「有り難う、頂くね。詩についての感想は、また今度で」

 此方もまた好い香りが漂って来て居る。

 美味しそうだと云う事も在り、才人が思わず手を伸ばすと……小さな手がスッと横から伸びた。

 其の手は包を破くと、中からビスケットを取り出した。

 がしっ。

 ばりぼりばり。

 恐る恐ると才人が横を向くと、ムスッとした様子のルイズが、ビスケットをも然も不味そうに頬張って居た。

「な、何するんですか!?」

「何之。不味」

「一生懸命作ったのに!」

「人の飼い犬に、餌上げ無いで」

 ルイズはギロッとケティを睨んで呟く。

「飼い犬だ何て!? サイト様は“英雄”ですわ!」

「“英雄”? 誰が?」

 才人は思わずと云った風に、胸を反らせた。

「俺」

 次の瞬間、ルイズの膝が才人の鳩尾へと見事に決まり、才人は地面に崩れ落ちた。

 ルイズは才人の顔に、ガシッと足を乗せる。

 スッカリ定番と云えるスタイルで、ルイズは吼えた。

「高々110,000止めた位で威張ってるんじゃないわよ。牧場の牛止める様なもんでしょ。何処が凄いのよ」

 次にルイズは才人の股間を踏み潰し、止めを刺した。

 ゴフッ! と呻いて、才人は大人しく成る。

 俺とシオンを除いた其の場の全員が、(ルイズ凄い)、と想った。110,000の軍勢を牧場の牛と言い切ってみせたのだ。

 対して、俺とシオンは、(またか……)と天を仰ぐ。

 女生徒達は、そんなルイズの妙な迫力に恐れを為して、散り散りに逃げ出す。

 ルイズは悶絶して居る才人の足を掴むと、ズルズルと引っ張って行った。

 ギーシュは氷の輪で腕と足を固定され、ふわふわと宙に浮いてモンモランシーに連行されて行く。

 隊長と副隊長が居なく成って仕舞った為に、集まった男子生徒達は、困った様子で顔を見合わせた。

 マリコルヌが、溜息を吐いて言った。

「ルイズとモンモランシーが隊長の方が、良いんじゃ成いか?」

 男子生徒達は一斉に首肯いた。

 

 

 

 部屋に才人を引き摺って行ったルイズは、才人をドスン! と床に放り投げた。

 息を吹き返した才人は立ち上がり、ルイズを怒鳴り付けた。

「何すんだよ!?」

 ルイズは頬を膨らませて、腕を組んだ。

「張り切るのも構わ無いし、遣る気出すのは良い事だと想うけど……」

「想うけど、何だよ?」

 ルイズは黙って仕舞った。

 才人が「どうしたんだよ?」と尋ねると、ルイズははふぅ、と何だか頼りの無い溜息を吐いて、ベッドに潜り込んで仕舞。

「……ったく。自分ばっかり忙しそうにしないでよ」

 う、と才人は言葉に詰まって仕舞う。

 新しい立場、経験した事が無かった出来事……そう云ったモノなどが、才人の心をワクワクとさせ、遣る気に満ちさせて居たので在る。

 自然、ルイズの相手をする時間も減って仕舞って居たのが現状で在る。

 更に、此の前襲って来た集団……。

 仕方が無いと云えば仕方が無いのだが……ルイズは其れで拗ねて仕舞って居るので在る。否、実際には其れが理由の1つと云うだけ成のだが。

「此の前襲って来た連中……あんなのにまた襲われたら困るだろ。味方は多い方が良いじゃ成えか」

 ルイズは、「ま、そうだけど」、と唇を尖らせた。

「あのくらい、あんただけで勝てるでしょ」

「そんなの判ん無えよ! いや、無理、だな……“サーヴァント”3人は流石に……」

 才人は怒鳴って直ぐにシュンとしたが、ルイズは其れ等よりも自身が相手にして貰え無い事の方が不満だと云う様子を見せる。

「と言うか御主人様の御相手しなきゃ駄目でしょー」

 ルイズは布団の中で足をバタバタとさせて、文句を付ける。

「なに不満そうな顔してるのよ?」

 布団の隙間から顔を出して、ルイズが言った。

「別に……吐うかさ、御主人様御主人様って、もう良いだろ」

「何でよ?」

「だって、俺だって今じゃ“貴族”だぜ? 対等だろ?」

「はぁ? 何言ってるのよ!? 言ったじゃないの。唯のシュヴァリエと、公爵位のラ・ヴァリエール家を一緒にしないで! 犬と人間から、猿と人間位に成っただけよ。勘違いしないで!」

 髪を掻き上げてルイズが言い放ったので、「あっそ……」と才人は更に白けた様子を見せる。

 才人が黙って居ると、詰まら無さそうにルイズはベッドの中に潜り込み……布団を冠って仕舞った。

 ルイズは別に本気で(対等じゃ無い)などと想って居る訳では無い。と云う選りも、身分の差など最早ルイズにはどうでも良かった。才人は才人。其れで良い、と云った風にだ。

 唯、(自分の気も知らずに、騎士隊に夢中な才人が、ちょっと許せ無い)、と云った気持ちが有るだけで在った。するとつい、シュヴァリエの称号にまで癪に障って仕舞うので在る。

 才人が黙って仕舞うと、ルイズは毛布から顔を出した。

「…………」

 穴から顔を出して様子を窺う兎の様に、ルイズは才人を見詰めて居る。其れからプイッと再び潜り込むので在った。

「どうすれば御主人様の機嫌が治るのか、考えて」

「と言われても」

 困った様に才人が頭を掻くと、布団からルイズの手が出て来て指を1本立てた。

「ギュッとするとか! 耳元でー、“ははー、御仕えさせて頂きます”と呟くとかー、色々在るでしょー」

 才人は、(何が“ギュッとするとか”だ)、と少しばかりムカついた感情を抱く。其れから、(そんな餌で俺を縛り付けて置きたいのか……)と想ったが、才人にとってギュッとするのは吝かでは無い為に、布団の上からルイズをギュッと抱き締めた。

 布団の下で、ルイズは猫の様に大人しく成った。

 

 

 

 ルイズは……思わず頬が緩むのを自覚した。

 そしてルイズが(嫌だわ……好きかも知れ無い男の子にギュッとされるのって何て気持ちが好いのかしら? 其れが布団の上からとは言え。出来る事成らずっとこうしてたいわ。でも、許したら駄目よね、嗚呼でも、求められたらどうしよう? ホントに一回そゆ事したら、モンモランシーが言ってたみたいに浮気しちゃうの? どうなの?)と考えて居ると……才人が口を開いた。

「なあルイズ」

「な、なぁに……?」

「もう良いか?」

「へ?」

 布団の中、ルイズの目が点に成った。

「何吐うか、皆待ってるからさ。一応副隊長だし……訓練サボったら示しが付かねえからな」

 そう言い残すと、スッと才人はベッドから離れ、部屋を出て行って仕舞った。

 残されたルイズは暫く呆然とし震えて居たが……ガバッとベッドから跳ね起きると、壁を蹴り始めた。

「何あれ!? どゆ事!? 此方のプライド全滅だわよッ!」

 暫く壁を蹴り続けた後、ルイズは荒い息で呟いた。

「見て為さい……私が本気出したら……メイドだろうが“エルフ”だろうが、尻尾巻いて逃げ出すんだかんねッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日……才人と俺は放課後、厨房へと挨拶に行った。

 暫く、シエスタの顔を見て居なかった事を想い出したので在る。

 また、才人は“貴族”に成った事を、自身の口からきちんと報告せねばならないのだ。

 シエスタの姿が見え無かった為に、シチューの味見をして居たマルトーへと才人は尋ねてみた。

「シエスタを知りませんか?」

 するとマルトーはギロッと才人を睨み、「“貴族”に尻尾を振る様な奴には教えられ無えな」などと言い放った。

 あれだけ才人や俺を持ち上げて居た厨房のコック達もまた、親方で在るマルトーの意見と同じで在るのか、俺達2人へと冷たい視線を向けて来るばかりで在る。

 だが、其れは敢えてそうして居る――表面上だけのモノで在り、心の底ではまた違った感情などを抱いて居るだろう事が判る。

 其れでも、“貴族”の生徒達に悪口を言われた時の何倍も、才人は傷付いて仕舞った様子を見せた。

 優しくして呉れた人達に其の様な言動を取られて仕舞い、才人はジンワリと涙を浮かべて仕舞う。

 すると、やはり人の良いマルトーは慌て出して仕舞った。

「おいおい! 折角“貴族”に成れたって言うのに、泣く奴が居るか!?」

「だって……あんなに優しかったのに……変わっちゃうなんて……俺は別に全然変わってないのに……」

「泣くなよ! ったく、一体全体、何でまた“貴族”に成ろうとなんて想ったんでぇ」

 才人は唇を噛んだ。

「上手く言え無いけど……何か遣りたいんだよ。なあ親父さん、あんたは料理で人を感動させる事が出来る。そんなあんたがコック長ってのは、自分の居る可き場所が有るって事だ。違うか?」

「ん、まぁ、言われてみればそうかも知れ無えな」

「俺もそうなんだ。自分の居場所って所で、自分が出来る事を遣ってみたいんだ。“貴族”って位が、其れが理解り易い場所成らば、俺は其奴になってみようと想う。別に“貴族”に成りたい訳じゃ無い。其の居場所が、俺が遣りたい事に近い成らば……其の場所を逆に利用して遣ろうと想うんだ」

 そう才人が言うと、マルトーは肩を竦ませた。

「俺にゃあ学は無えからな。何だ、難しい事言われても理解ん無えよ。唯な、御前達が其の、威張って遣しないかって……」

 恥ずかしそうに、マルトーが呟く。

「威張る? そんな積り全然無いよ! 御願いだから今まで通りに扱って呉れよ。嫌なら無理にとは言わ無いけど」

 するとマルトーは鼻を鳴らした。其れからガバッと俺達へと抱き着いて来る。

「す、すまねえ……ホントの事言うとな、俺は御前達に嫉妬してたんだ……平民から“貴族”に成る何て、此りゃ、人間が神様になれるぐれえ難しい事だからな! でも、今の御前の言葉を聞いて安心した。御前は御前だ。そうだな? “我等の剣”!?」

「良く理解んねえけど、俺はずっと親父さんの剣で良いよ」

 マルトーはグリグリと才人の頭を撫でた。

「同じ事をシエスタにも言って遣って呉れ。彼奴は今、落ち込んでるからよぉ……で、セイヴァー。御前さんはどう何だ? んん?」

「俺は別に“貴族”に成った訳では無い。“アルビオン”に於ける唯の“客将”……そしてシオンの“使い魔(サーヴァント)”。唯其れだけだ」

 本来、客将と云うモノは、其の勢力に属して居無い客の立場の有名な将軍を指す。

 俺は将軍では無いが、色々と複雑な為に、其の様な立場に成って居るのだ。

「そうか! 其れ成ら良かったんだ! 救世主殿!」

 と、其の時で在る。

 厨房の扉がバタン! と勢い良く開いて、ドタドタドタ、とシエスタが駆け込んで来た。

「わぁわぁ! 大変です! わぁわぁ!」

 大騒ぎと云った様子で在る。

「何が大変何だ?」

 とマルトーが尋ねた。

「私! 異動に成りました! はい!」

「異動?」

 才人とマルトーは顔を見合わせた。

 其処でシエスタは漸く才人と俺の存在に気付き、思い切り顔を赤らめた。

「サイトさん……私、私……」

 感極まった声と調子で、シエスタは呟く。

「い、一体何が……と言うか落ち込んでるんじゃ成かったのか?」

「はい。ちょっと落ち込んでました。だってサイトさん、貴族に成っちゃうんですもの。もう私の事何て忘れちゃうよねって、鈍よりしてました」

「忘れたりしないよ」

「でも、もう良いんです」

「だから一体、何が在ったんだ?」

 マルトーに尋ねられ、シエスタはペコリと頭を下げた。

「今まで大変御世話に成りました」

「はぁ?」

 キョトンとして居るマルトーに、シエスタは手に持った紙を見せた。

「此りゃ、女王様の署名じゃ成えか!?」

 果たして其れは、アンリエッタの名前が記載された書類で在った。下にはオスマンの署名も着いて居る。

「何々……サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ氏に、“学院”内より選びし使用人を1人付ける事。何じゃ此りゃ?」

「今朝方、“王宮”依りオスマン様の元に、此の1通が届いたんですって。よってメイド長に、誰か選ぶようにと御命令なさったそうです。で以てメイド長は私を選んだんです。身の回りの世話をするなら、1番仲が良い私が良いだろうって」

 何が何遣ら理解らぬ侭と云った様子で才人がオロオロとして居ると、シエスタはピョコンと頭を下げた。

「そんな訳で、宜しく御願いします!」

 

 

 

 其の頃ルイズは……2日間頭を撚って密かに計画した作戦を、今当に実行しようとして居た。

「今までの遣り方が間違ってたの」

「どんな風に?」

 ポツリと呟いたルイズにそう訊ねたのは、デルフリンガー。

 何時もの様に、ルイズは“インテリジェンスソード”を自分の作戦計画の参謀役に任命したので在った。

「何て言うか、自分とは畑違いの所で勝負しようとして居たわ。黒猫の格好をしたり、メイドの格好をしたり……兎に角“貴族”のする事じゃ無いわ」

「そうかも知れんね」

「取り敢えず自分のプライドを満足させつつ、基本に返る事にしたの」

 そう嘯くルイズが着用に及んで居るのは……セーラー服で在った。

 先程、モンモランシーに頭を下げて借りて来たので在る。何時だかギーシュが、才人から貰った余りモノを彼女にプレゼントしたモノで在った。痩せて居るモンモランシーの身体に合う様に仕立てられて居る為に、何とかルイズが着ても様に成った。勿論其れでも胸は大きく余って居り、丈も長かったのだが……ピンで留めて詰めて居る。

「基本?」

「ええ。奇を衒っちゃ駄目なの。猫の耳とか遣り過ぎよ。兎に角あんたのアイディアは話に成ら無い事が判明したから、自分の考えと閃きで勝負するわ。其れがホントの“貴族”ってもんだわよ」

 ルイズは腕を組むと、満足気に鏡を覗き込んだ。

 ブカブカのセーラー服に身を包み、ルイズはクルッ、クルッと回転をした。桃色の髪が、スカーフが、制服のプリーツスカートと一緒にフワッと舞い上がる。

「メイドの真似じゃねえか」

「っさいわね。メイドと私じゃ、威力が違うわよ」

「弱まってない? 何かぶっかぶかだし……」

 ルイズは深く深呼吸をすると、傍らの小机に置いた“杖” に手を掛けた。

 すると、デルフリンガーは180度意見を変えるので在った。

「いやぁ、強まってる」

「当然でしょ」

 勝ち誇った様子で、ルイズはポーズを取った。

 ルイズは、スカートの裾を摘んで持ち上げたり、小指を咥えたりし始めた。

 そんなルイズに、デルフリンガーが茶々を入れる。

「兎に角だね。そんなに相棒の事が好き成らば……もっと素直に成ったらどうだね? そんな回りくどい事しねえで、何時かみてえに、“同じ事して”とか言えば良いじゃねえか。イチコロだよ」

「嫌よ」

「どうしてだね?」

「だって……そんな事したら調子に乗られるじゃない。こないだので理解ったの。だから、あんな胸触ったりーの。舐めた態度取るんだわ。そんなの赦せないの」

「素直じゃねえのね」

「と言うかね」

 ルイズはデルフリンガーを掴み、柄の部分を恐ろしい顔で覗き込んだ。

「私ね、別にね、好きじゃ無いから」

「はい」

 全く信じて無い声で、デルフリンガーが呟く。

 其れからルイズは、「はぁ~~~~~~」っと深く溜息を吐いた。

「どうしたね?」

「やっぱり私ってば可愛いわ。此りゃもう、罪ね」

「……御前さんも、結構平和な性格だね」

「こんな清楚で可愛い私を見たら、あの虫螻は平伏するしか無いわね」

「さよか」

「ふふ。ふふふふふふふふふ」

「御免。怖い」

「彼奴ってば、きっとこんな感じに成るわ」

 調子に乗ったルイズは、ベタッと床に這い蹲った。

 デルフリンガーが呆れて見守る中で、ルイズは最近気に入りの一芝居を開始した。

「“ルイズ~~~~~~、ルイズ~~~~~~、何て可愛いんだよう……メイド何かより其の格好、似合いまくりだよ~~~~~~オイラもう、ルイズにメロメロだよ~~~~~~!”」

 其れからルイズはピョコンと立ち上がった。

「“ふんだ! 当ったり前じゃ成いの! 今頃私の魅力に気付いたの? 同仕様も無いわね!”」

 再びルイズは、地面にへたり込む。

「“御免よ~~~~~~、蔑ろにして御免よ~~~~~~。“貴族”に成ったからって調子に乗って御免よ~~~~~~、騎士ごっこに夢中で御免よ~~~~~~、メイドに鼻の下伸ばして御免よ~~~~~~、あの“ハーフエルフ”の可怪しい胸を握ったりして御免よ~~~~~~”」

 スクッとルイズは立ち上がる。

「“謝るなら、どう云う態度取れば良いか、理解ってるでしょ?”」

 ペタッとルイズは這い蹲る。

「“はい! オイラはしがない犬です……ルイズ様の卑しい飼い犬で御座います……何でもしますから……御側に置いて下さいませ……”」

 ルイズは立ち上がると、腕を組んだ。

 今のルイズは、激しく調子に乗って仕舞って居ると云えるだろう。其の辺は、“使い魔”とやはりソックリで在る。

 異様に高まる興奮と高揚を勝ち誇る笑顔で包み、空想の中の“使い魔”を見下ろした。

「“理解ったら、く、くく、靴を、な、ななな、舐めなさいよね”」

「“はいっ! 舐めます! 犬サイト舐めます!”」

 ルイズは這い蹲り、ペコペコと頭を下げた。

「なあ娘っ子」

「あによ!? 今良いとこなのよ! 邪魔しないでよね! こっからが凄いんだから!」

「ドアが……」

「ドアがなによ!? ドアがどうしたってのよ!?」

 ルイズが振り向くと、其処にはシエスタと才人が、切ない生き物を見る目で、ルイズを見詰めて居た。

 其の後ろで俺は、笑いを堪える。

 ルイズの顔から血の気が引いた。

 シエスタが、ととと、とルイズに駆け寄って、其の手を握る。

「施療院に行きましょう。ね? 春の陽気に当たられたんですね……大丈夫です。直ぐに治りますから」

 才人が近寄って来て、ルイズの顔を覗き込んだ。

「正直に言え。何食べた?」

 ガバッとルイズは2人を振り払い、窓へと向かた。そして、其処から身を躍らせようとする。

「ま!? 待って!」

「ルイズ! おい! 此処は3階だっつの!」

 シエスタと才人が追い掛ける。

 ルイズは半狂乱で喚いた。

「離して! 御願い離して!」

 

 

 

 遣っとの事でルイズを落ち着かせた時には、2時間が過ぎて仕舞って居た。

 ルイズは苛々とした様子で、才人とシエスタと俺を見詰めて来て居る。

 2人はしゅん、として項垂れて居る。

 先程のあれを見られた照れを隠すためだろう、ルイズはブスッとした表情を浮かべ呟く。

「で、連れて来ちゃったって訳?」

「宜しく御願いします!」

 シエスタは満面の笑みで、ルイズに頭を下げる。

「身の回りの世話成ら、間に合ってるわ」

 ルイズはジロッとシエスタを見詰め、言い放った。

「あの……御言葉ですが、ミス・ヴァリエールの御世話をする訳では在りませんの。サイトさんの御世話をするために来たんです」

「自分の世話位、自分で遣らせるわよ」

「女王陛下直々の仰せですわ」

「姫様がぁ?」

 ルイズは素っ頓狂な声を上げた。

「はい。此方を御覧下さい」

 シエスタはルイズに、女王アンリエッタから回って来た書類を見せた。

「……ホントだ。“召使を1人、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ氏に着ける可し”」

「私だってそんな、自分で押し掛ける程図々しく在りませんわ」

「どうだか」

 と呟いて、ルイズは首を横に振った。

「で、あんたはどうなの?」

 ルイズは才人を睨んだ。

「え? 俺?」

「そうよ。貴男はシエスタに側に居て欲しい訳? どうなの?」

 グイッとルイズは才人を睨んだ。

 困った様に才人は鼻を掻き、「最近俺、忙しく成っちまったから……掃除とかマトモに出来て無いし……」と呟く。

 良く見ると、部屋には誇りが薄っすらと溜まって仕舞って居る事が一目で判る、少し前は、部屋の掃除は才人が遣って居たのだが、騎士隊結成以来、掃除をする暇が無く成って仕舞った結果で在る。

「私、何でも遣りますわ!」

「良いの? 何か悪い気がするけど」

「サイトさんの御世話をする事が、私の幸せですから」

 ニコッとシエスタは微笑んだ。

 ルイズは、(やばい)と想った。そして、(な、何て、健気な台詞かしら。案の定、サイトはほんのりと頬を染めて居るじゃないの)と想った。

 男にとって、之以上嬉しい台詞は無いだろう程のモノだ。シエスタはそんな台詞をさらりと言い放ってみせたのだ。

 旗色が悪い事も在って、ルイズは別方向から反撃する事にした。

「じゃあ百歩譲って良いとして……良く無いけど良いとして……何処で寝るのよ。ベッドは1つよ」

「一緒に寝れば良いじゃん。ベッド大きいんだから」

 サラッと才人が言ってしまう。

 ルイズの目が吊り上がる。

「駄目! 駄目! だーめ! 狭いわ! 其れにシエスタは……」

 平民じゃない、と言おうとしてルイズは言葉を呑んだ。

 シエスタへの恩義を想い出したので在る。平民だからと今更侮る気には成れないのだ。

 また、平民だから一緒に寝るのは駄目、と云う意見は最早通じ無い理由はもう1つ在った。其れは才人で在る。シュヴァリエの称号を貰う前から、既に一緒のベッドで寝て居るのだ。シエスタだけ平民だから駄目と云う訳には行か無い。

 其れでも一緒に寝るのは駄目だと、ルイズは想った。

 此のシエスタ、ルイズが寝て居る隙に、才人に何をするか判ったものでは無いのだから。

「じゃあ良いよ。俺が藁を敷いて下で寝るから。御前等一緒に寝れば良いだろ」

 再びサラッと才人が言った。

「へ?」

 するとシエスタが、夢中に成った様子で首を横に振った。

「そんな!? サイトさんは今じゃ騎士様ですよ! 床で寝る何て駄目ですッ! じゃあ私も御伴しますっ!」

「……え?」

 才人の頬が更に染まる。

 ルイズはワナワナと震えて仕舞った。そして仕方無くと云った様子で、言いたく無かっただろう言葉を口にした。

「わ、理解ったわよ。い、良いわ。一緒に寝ましょう」

「そんな……でも、“貴族”の方と一緒に何て……」

「サイトだって今じゃ“貴族”よ」

「でも、サイトさんはサイトさんだし……」

 とシエスタは身をクネラせた。

 引き攣った笑顔を浮かべ、ルイズは言った。

「良いから」

「はい……」

 恥ずかしそうに、シエスタは俯いた。

 其れからシエスタは、「じゃあ取り敢えず御掃除しますね!」と楽しそうに部屋の掃除を始めた。

 才人が「手伝うよ」と言い出して、シエスタの掃除を手伝い始めた。

 ルイズは暫く楽しそうに部屋の掃除をする2人を見詰めて居たが……やはりと云うか何と云うか、其の内に居た堪れ無い気分に成って仕舞う。

「私も遣るわよ」

 シエスタと才人が目を丸くした。

「何よ? 私が掃除したら可怪しいの?」

「否、そんな事1度も無かったから」

 ルイズはシエスタの手から雑巾を引っ手繰ると、床を磨き始めた。然し、不器用で在る。否、余りした事の無い事に挑戦して居るのだから、当然だろうが。グシャグシャに丸めた儘の雑巾で遣るモノだから、ちっとも綺麗に成らない。

 見兼ねたシエスタが、「こう遣るんですよ」、と説明をした。

 数時間掛けてピカピカに成った部屋を見詰め、シエスタが嬉しそうに言った。

「綺麗に成りましたね!」

 そうね、とルイズは首肯いた。

 其の綺麗な部屋を見て居ると、気が抜けたのだろう……(はぁ、まぁ良いか)、とルイズはそんな気分に成った。

 

 

 

 

 

 其の夜。

 3人は川の字に成って寝た。才人を真ん中にして、向かって右側がルイズ、左側がシエスタと云った風に。

 ルイズは何時もと同様に才人の胸に頭を乗せる事に恥かしさを覚えたのだろう、少しばかり離れた場所で背を向けて居た。

 シエスタも同じ気持ち成のだろうか、其れとも遠慮して居るのか、才人から離れて眠って居る。

 ルイズは取り敢えず眠らずに、2人を見張ろうと考えて居た。少しでも怪しい動きをすれば、跳ね起きて才人を打ん殴る積りで在ったのだ。

 然し、シエスタも、才人もピクリとも動かない。

 慣れ無い掃除などをした為だろう、ルイズは其の内に眠く成って仕舞った。

 才人は才人で、カチンコチンに強張って仕舞って居た。何せ、隣にはルイズ、そしてシエスタが寝て居る。女の子に挟まれて寝るなど、才人は想像した事すら無かったのだから。

 才人は、(……あんまり良いもんじゃ無えな)、と想った。緊張するばかりで、甘い感じは微塵もしないのだから。と云う選りも、ルイズとシエスタから発せられる目に見え無い敵意や怒りなど、「どうすんのよ?」などと云った無言の圧力を感じ、間に挟まれてるだけで才人は押し潰されそうなのだから。

 だが……今は女の子の事で頭を悩ませて居る場合では無いと云えるだろう。

 ルイズに、「あれは御褒美よ」などと言われて仕舞ったのだから。

 全力で好かれて居るからと云って、他の娘の気持ちが残って居る以上、シエスタに対してそう云った行為に及ぶ事は出来ないのだ。

 悩めば悩む程に、才人の頭はこんがらがってしまう。

 才人は其の内に、(取り敢えず女の事は忘れよう。兎にも角にも今は騎士隊編成に夢中成ので在るからして。男の仕事に、夢中成ので在るからして)、と云った具合に、ルイズとシエスタの事を頭の中から追い出し……(此の世界で、俺に出来る事は何だろう?)、と考えた。

 当然答えが直ぐに出る筈も無く、訓練に打ち込んではみても出はしなかった。

 才人は、(まぁ、始めたばっかりだしな。追々判れば良いや)、と持ち前の楽天振りを発揮させ、目を瞑った。

 其れから、才人は「先生、俺、頑張りますから……」と小さく呟く。

 昼の訓練などから来た疲れだろう、また、普段し無かった組手に因る疲れが、才人をユックリと眠りの世界へと誘った。

 

 

 

 暫く微睡んで居たのだが、ルイズはパチリと目を覚ました。どうにも眠りが浅いのだ。

 嫌な予感を覚えたのだろう、ルイズは才人の横の方を見ると……シエスタが、才人の二の腕を枕にして居た。

 ルイズは、(先刻迄離れて居た癖に!)と歯噛みした。

 ふんっ、と呟き、負けじと頭を才人の左腕に乗せた。

 すると……シエスタの頭がついっと動き、今度は才人の粗肩の部分を枕に決め込んだ。

 ルイズは拳を握り締め、同じく左肩に自身の頭を乗せる。

 シエスタの頭が更に動き、遂々胸に達した。

「……あんた、起きてんでしょ?」

「ぐぅぐぅ」

 シエスタは少し頬を染めて、態とらしい寝息を呟く。

 ルイズは其処が自分の場所だと言わんばかりに才人の胸の上に頭を乗せた。

 ユックリとシエスタの目が開く。

 才人の胸を挟んで、2人は睨み合った。

「離れて」

 ルイズがそう言うと、シエスタは反撃した。

「サイトさんがそうしろって言うんなら、そうしますけど」

「寝てるから私が命令するの。離れて」

「嫌です」

「あんた、“アルビオン”では譲ったじゃないの。身を引くって事でしょ?」

「違います。あれはあんまりにもミス・ヴァリエールが不憫だったからです」

 ルイズは暫しワナワナと震えたが、すぅーっと深呼吸をし、徐ろに寝て居る才人の唇に自身の其れを押し付けた。

「え?」

「んむ……」

 そして派手に舌を差し込む。

「んむ、んむぐ、むぐ……」

 シエスタは呆気に取られ見守った。

 と云う選りもルイズから滲み出る迫力が物凄いのだ。キスと云う選りも、ナイフでも突き立てて居るかの様な勢いで在る。

 散々舌で才人の口の中を捏ね繰り回した後、ルイズは唇を離し、シエスタに言い放った。

「恋人なんかじゃ無いわ。でもね、此奴は私の物なの。手ぇ出したら非道いんだから」

 敵意の込もった声で、ルイズは言った。

 シエスタは暫く、ルイズの其の迫力に呑まれて仕舞って居たが……其の内に自分を取り戻した。其れから、ルイズの視線を真っ向から受け止め、才人の右手を握った。

 そしてルイズが止める間も無く、才人の手を己の寝間着の間に差し入れる。

 胸の谷間に、堂々と才人の手を挟んだ為に、ルイズは酸欠に成って仕舞った。

「んな、な、ななな……!?」

「私ですね、今迄何も知ら無かったんです。男の気の引き方」

「……嘘ばっかり!」

「ホントです。でも、そんな私を見兼ねて、同室だった娘が……色々教えて呉れたんです。色々ですよ?」

「あ、あらそう。そんで胸を触らせって訳? どうにかしてんじゃない?」

 頬を引く攣かせ、ルイズは言った。

「ミス・ヴァリエールと違って、私待ってるだけじゃ無いんで。宜しく御願いしますね」

「宜しく。精々遣って御覧為さいな。でもね、無駄だと想うけど。此奴ってば、私にメロメロだもん」

 得意気にルイズは言った。

「あら……きっと其の高貴な雰囲気に惑わされて居るだけですわ」

「そんな事無いもん!」

「だったら中身も含めて、好かれてるんですか?」

 シエスタは真顔に成って、言った。

 其の様な事、理解る筈も無いので、ルイズは黙って仕舞った。

 するとシエスタは、ルイズの顔を覗き込んで言った。

「じゃあこうしません事? 今度の“スレイプニィルの舞踏会”で、サイトさんがミス・ヴァリエールを見付ける事が出来たら……私、サイトさんがホントにミス・ヴァリエールの事を好きだって認めて上げます。そうしたら、ホントに私諦めます」

「面白いじゃ成い」

 頭に血が上り来って仕舞って居たルイズは、其の申し出を受けて仕舞う。

「恨みっこ無しですからね? 其の代わり、見付けられ無かったら……」

 自分の胸の上で、そんな女の子2人の戦いが繰り広げられて居るとは露知らず……。

 恐らく此の瞬間、“ハルケギニア”で1番幸せで1番不幸な男で在るだろう才人は、騎士隊の訓練の最中何故かギーシュとマリコルヌに言い寄られると云う皮肉な悪夢に魘されて居た。

 

 

 

 才人の右腕の上で、シエスタは寝息を立て始めた。

 ルイズは其の顔を睨んで居たが……其の内に溜息を吐いた。

 ルイズは、(シエスタの言う通り、サイトは自分の高貴な雰囲気に惹かれて居るだけ成んだろうか?)、と云った風に考えて仕舞い、増々自分に対する自身が揺らいで行って仕舞って居た。

 こんなにも近くに居ると云うのに……気持ちが判ら無い。

 其の事がどうにもルイズを不安にさせて仕舞って居るのだった。

 同時に、ルイズの中で1つの疑問が浮かび上がる。

 アンリエッタの事で在る。

 幾ら才人があれだけの手柄を立てたからと云って、メイドを1人けると云った様に、女王自ら命令をするなど先ず在り得無いのだ。

 厚遇が過ぎるのだ。

 ルイズは、(一体、アンリエッタには何な思惑が有るんだろうか? まさか、また危険な任務に投入する積り成んだろうか? 今度、アンリエッタを訪ねてみよう)、と想い乍ら……眠りに就いた。

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