ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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2つの騎士隊

 “トリステイン”を発ってから3日後、“オストラント号”は“ロマリア”南部にある港、“チッタディラ”に到着した。

 それなりの速度を出す“オストラント号”ではあるが、帆の張り方などを工夫して積荷を減らした快速船ですら海上を通っては、1週間は掛かる距離であった。

 “チッタディラ”は、大きな湖の隣に発達した城塞都市である。“フネ”を浮かべるのに都合が良い、という観点から湖がそのまま港として利用されることになったのである。岸辺から幾つも伸びた桟橋には、様々な“フネ”が横付けされているのが見える。それだけを見ると、海に面した、普通の船が停泊する港とそう趣は変わらないといえるだろう。

 さて、“オストラント号”が入港すると……珍しい形をした“フネ”がやって来たということもあって、桟橋に周りには当然人集りができあがる。

 “ガリア”にその動向を知られることがないように、表向きは学生旅行という名目で入港したのが、それでも本来の目的は御忍びで滞在しているアンリエッタと合流、という非公式のモノである。

 当然のことではあるが、入国に際し、監視と激しく揉めることになった。

 桟橋までやって来た、眼鏡を掛けた融通の利かなさそうな“ロマリア”官史に、“トリステイン王政府”発行の入稿手形を見せたのだが、彼はうさんくさげに俺達一行と“オストラント号”を見詰めた。

「“トリステイン魔法学院”生徒? にしては、とんでもない“フネ”に乗っているな。何だこの“フネ”は?」

 “オストラント号”は、“ハルケギニア”で常用されている“フネ”よりも、翼が長い。それだけでなく、船尾に1個と両翼に1個ずつ、見慣れないだろうプロペラが付いているのである。官史でなくとも、怪しいと想うであろう。

 引率の教師という触れ込みであるコルベールが、恍けた声で答えた。

「はぁ。私が“ゲルマニア”で開発した新型船でして」

「翼の上に付いている、あの怪しい櫓と羽は何だ?」

 尊大といえる態度で“杖”を突き出して、官史は更に尋ねる。

「蒸気の力を利用して、推進力に変える装置です。私は、“水蒸気機関”、と呼んでおります」

 官史はそこで、目を細めた。

「神の御業足る“魔法”を用いずに、そんな怪しい装置で空を飛ぶとは……異端ではないのか?」

 官史の助手が、「異端ですと!?」と、ピックーン! といった風に跳び上がり、その後に首から提げた“聖具”を握り締め、プルプルと震え始めた。

「いえいえ、主要な動力に関しては勿論、“魔法”ですとも。“水蒸気機関”はあくまで補助です」

 “ロマリア”では全ての役人が神官であるのだ。

 ティファニアは、その言葉で不安になった。“エルフ”の血が混じって居る事を隠すために、例によって鍔の広い帽子を冠っているのだが、クイッとその鍔を両手で引き下げる。

 そんな様子が、官史の注意を引いてしまったらしい。

「おいそこの。ちょっと帽子を取ってみろ」

 ティファニアは、ガタガタと震え出した。

「どうした? 帽子を取れと言ったのだ。聞こえないのか?」

 官史の手がティファニアへと伸びるのと同時に……タバサが小さく“ルーン”を唱えた。

 その動きを見ていたキュルケが、仰々しく官史へと撓垂れ掛かる。

「あら!? 良く見るととっても男前!」

「な、何だ貴様は!?」

「毎日の御勤め御苦労様。素敵な神官さん」

「いやなに……と言うか離れろ! 穢れるではないか!」

「世の中には神様に御祈りするより、楽しいことが沢山あるんですの。御存知?」

 場の注目がそこに集まっている間に……実戦“魔法”の使用に優れたタバサは、最小の動きで“呪文”を完成させた。

 ティファニアの帽子が、僅かに光った。

 するとキュルケは、呆気なく官士から離れた。

「そうね。神官様の言う通り。ちょっと馴れ馴れしかったですわ」

 官士は、コホン、と咳をすると、ティファニアへと再び命令した。

「帽子を取れ」

 観念したように、ティファニアは帽子を外した。

「ふん……帽子をしない方が美人ではないか」

「え?」

 と、ティファニアは己の耳を確かめる。そこにあるのは、ヒトのそれと何ら変わりのない耳であった。驚いたティファニアは、傍らのタバサを見詰めた。

 この青髪の少女が、ティファニアへと“魔法”を掛けたのであった。

 ティファニアの知らないその“呪文”は、“フェイス・チェンジ”――顔を変えることのできる高度な“スクウェア・スペル”である。いつしか、“スクウェア・クラス”の実力を身に着けるに至ったタバサであった。

 “トリステイン王政府”発行の本物だということもあって当然だが、兎に角、入国許可証などに怪しいところなどあるはずもない。

 後が仕えているために、官士はそれ以上問い詰めることはなかった、

 俺とシオンを除いた一同は、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 そんな風に難を逃れることに成功した俺達であるが、運命の神という存在は、とても皮肉が好きなようである。俺は事前に観ていたために問題はないが、皆にとって想いもよらぬところから、災難を運んで来のであった。

 詰まり、一難去ってまた一難、といったことである。

 “チッタディラ”から駅馬車に乗り、1日掛けてとうとう都市“ロマリア”へと辿り着いた。

 この国の慣習に従い、街への門を潜る前に、“杖”や“武器”をそれぞれ行李に詰めたりする必要があるのだったのだが。

 そんなルールなど知るはずもない才人は、ついウッカリ、デルフリンガーを背負ったまま、門を潜ろうとしてしまった。

 当然、衛士に呼び止められてしまう。

「おい、そこの貴様!」

 ん? と才人が振り返ると、衛士はツカツカと歩み寄り、デルフリンガーへと手を掛けた。

「どこの田舎者だ!? この街では武器をそのまま持ち歩くことは許されん!」

 剣を持っていたために“平民”だと判断されたらしい。

 尊大な態度で衛士は、デルフリンガーを才人の背中から引き抜くと、地面へと投げ捨てた。

「な、何すんだよ!?」

 衛士はそこで、才人は羽織っているマントに気が付いた。

「何だ貴様、“貴族”だったのか。それにしては剣など持ち歩くとは、どういう了見だ? 北の方の国では、“平民”が“貴族”になれるらしいが、それか? 何とまあ、神への冒頭も甚だしい!」

 才人は文句を言おうとしたが、鞘から離れたデルフリンガーが先に口火を切った。

「やいてめえ! 人を、いや剣を地面に放り出すとはどういう了見だ!?」

「何だ、“インテリジェンスソード”か。どっちにしろ、携帯はいかん。袋に詰めるか、馬に積むかするんだな……兎に角貴様、こっちに来い。怪しい奴だ」

 そんな衛士に、なおもデルフリンガーは追い打ちを掛けた。

「うるせぇ! ボンクラ! この罰当たりの祈り屋風情が!」

「……祈り屋風情、だと?」

 あちゃあ、と才人は頭を抱えた。

 面倒事を起こすことは避けるべきであるのだ。

 さっさとデルフリンガーを黙らせようと拾い上げる才人であるが、怒り心頭に発したデルフリンガーは暴れて中々鞘に収まろうとしない。ずっと鞘に入りっ放し、放置されっ放しだったということもあり、ストレスが溜まっていたらしい。

「おう、何度でも言ってやらあ! 祈り屋風情が気に入らねえってんなら、別の呼び方を考えてやっても良いぜ」

「……剣の分際で! “ロマリア”の騎士を侮辱するということは、引いては神と“始祖ブリミル”に侮辱を加えるということだぞ!?」

「煩え若造。御前にブリミルの何が理解るって言うんでぇ。良いから早いとこ俺に謝って、得意の御祈りでも唱えやがれ」

 衛士は、「うぬ! 赦せん!」と叫んで、デルフリンガーの柄を引っ掴んだ。

「おい、何すんだ!?」

 才人が慌てて止めに入ろうとする。

「こいつめ! 炉に焚べてドロドロの塊にしてやる!」

「面白え! やれるもんならやってみやがれ!」

「止めろよ!」

 事態は、押し合い圧し合いへと発展してしまう。

「気持ちは理解できるが口が過ぎるぞ、デルフリンガー。そこの衛士もだ」

 仲介に入ろうと俺は、2人と1本の間へと入り、言葉を掛ける。

 シオン達は、呆然とそんな遣り取りを見守っている。余計な口を挟んで、更に酷い揉め事になっては不味い、と判断したのである。

 どうにか、俺の仲介で1本の剣と1人の衛士は睨み合うだけで済んだ。が、それも一瞬だけであった。

 結局揉め事になる運命であったのだ。

 才人が勢い余って、デルフリンガーの柄を掴んだままであった衛士を突き飛ばしてしまったのである。

「わ!? ごめんなさい!」

「ごめんで済むと想うのか!? 神と“始祖”に仕えるこの身を突き飛ばすとはッ! 不敬もここに極まれり! やはり、貴様等……各々方! 怪しい上に、不敬の輩がおりますぞ! 出ませい!」

 すると詰め所から、わらわらと衛士達が溢れ出て来た。

「不敬とな!?」

「例の件に関係しているかもしれん! 取り押さえろ!」

 手にはそれぞれ“聖具”を握っているのが見える。

 その“聖杖”を見て、「ヤバ。あいつ等、“聖堂騎士(パラディン)”だわ」とキュルケが口にし、その言葉にタバサが反応した。

 タバサが、ピューッと、と口笛を吹くと、空からシルフィードが降りて来る。

 タバサとキュルケはその背へと飛び乗り、オロオロとしているティファニアをタバサが“レピテーション”で浮かべてシルフィードの上に跨がらせる。

 ただ2人、“聖堂騎士”達の前に立ち塞がった。

「何だ!? 貴様は!?」

 ルイズとシオンである。

 ルイズは桃色の髪を逆立てて、“聖堂騎士”達に向かって怒鳴った。

「私達は“トリステイン王政府”の者よ! 今現在、この国に滞在しているアンリエッタ女王陛下の御許へと向かう途中ですの! 私達に手を出したらとんでもない外交問題よ! 理解ってるの!?」

 “聖堂騎士”は、顔を見合わせた。

「……アンリエッタ女王陛下?」

「そんな報告受けてないぞ?」

 しまった、とルイズは顔を青くした。

 アンリエッタの行幸は御忍びである。それは勿論、政府の偉いさん始め上層部の者達は知っているだろうが、下っ端とでもいえる騎士達には知るはずもないことなのだから。

「貴様……“トリステイン”女王の名まで持ち出しておって……増々怪しい連中だ」

「纏めて足っ振りと宗教裁判に掛けてやる。覚悟しろよ」

 あわわ、とルイズは立ち竦んでしまう。其れからルイズは、シオンへと助けを求める様に目を向ける。

 シオンは、首を横に振った。

 当然だ。こうなってしまえば、上層部の者と掛け合い、熱りが冷めるまで持ち堪えるくらいしか直ぐには想い付かないのだから。

 また、シオンの来訪もアンリエッタのそれと同様に極秘である。名乗ったところで、騙っていると判断されてしまうだろうことは、“聖堂騎士”達の様子から簡単に想像できるだろう。

 ルイズは更に、あたふたとし始める。

 そんなルイズを、キュルケがヒョイッと抱え上げた。

「ジャン、ギーシュ、騎士隊の皆さん、貴男達は“フライ”で追い掛けて来て、サイト! こっちよ! 乗って!」

 才人はデルフリンガーを握り締め、飛び上がったシルフィード目掛けてジャンプした。

 そんな才人を、シルフィードの脚が器用にキャッチする。

 キュイ、と一声鳴いて、シルフィードは急上昇を開始した。

 “水精霊騎士隊(オンディーヌ)”やコルベールも、大慌てで“フライ”を唱え、シルフィードの後を追い掛ける。

「やれやれ……行くか、シオン」

「うん。御願いね」

 俺は、シオンを御姫様抱っこして、一跳躍して建物の屋根へと着地する。それから、一行の殿であるように、“聖堂騎士”の動きを見ながら、皆を追い掛ける。

「異端共が逃げたぞ! 捕まえろ!」

 詰め所から、バッサバッサと、翼が生えた馬が飛び上がる。

 “聖堂騎士”達はその馬に次々と跨り、不敬から遂々異端にレベルアップをしてしまった俺達を追い掛けて来る。

 其の馬を見て、ルイズが叫ぶ。

「“ペガサス”だわ!」

 “ロマリア”地方に棲息する、翼の生えた馬……“ペガサス”は、“聖堂騎士”御用達の騎乗用生物である。白く光る鬣をひるがえし、グングンと近付いて来る。

 本来で在れば“ペガサス”の飛行速度は、“風竜”に及びも着かず、勿論“サーヴァント”に追い付けるはずもないのだが……シルフィードや俺は全力で逃げ切ることはできない。

「“フライ”で飛んでいる連中がいる以上、逃げ切れないわね……」

 そう呟くキュルケに、才人が詰め寄った。

「おいキュルケ! 何で逃げるんだよ!? 余計に面倒なことになるじゃんか!」

 貴男ってば、と呟いてキュルケは髪を掻き上げた。

「“聖堂騎士”の恐ろしさを知らないのね? ああ、そういえば貴男達はこの世界の人間じゃなかったものね……彼等に不敬と決め付けられたら、とんでもないことになるわよ? その場で略式宗教裁判が行われて、“魔法”で串刺しになっちゃうわ」

 才人は青くなった。ベアトリスとの騒動を想い出し、同時にキュルケが口にした「“魔法”で串刺し」を文字通りに想像してしまったのである。

 事宗教関係や国家事情、政治関係などに関しては基本、“サーヴァント”は無力であるのだ。

 見ると、ティファニアは震えている。宗教裁判、と聞いて、この前のその騒動を才人同様に想い出したのであろう。

 空から見る“ロマリア”の街は、整然と区画整理された基盤のように見えた。どの区画にも、見事な彫刻が施された尖塔が眩しい建物が誇らしげに聳え立っている。

「全く、こんな寺院ばっかりの所で神官の悪口言ったら大変だわよ。少しは考えなさいよ」

 キュルケにそう言われ、才人はデルフリンガーを睨んだ。

「おい、御喋り剣。反省しろよ」

 デルフリンガーは情けない声を上げた。

「だってよう……ずっと鞘に入りっ放しで苛々してたし……第一おりゃあこの国が嫌えなんだよ。この国を作った“フォルサテ”って男が、そりゃもういけ好かない奴で……」

「そんな大昔のことなんか水に流せよ! おかげで、こっちは余計な面倒を抱えちまったじゃねえか!」

 才人が責めると、デルフリンガーは鞘にスポッと入って小さくカタカタと動いた。一応反省しているらしいことが判る。

「そうは言うが、才人。御前も御前だ。デルフリンガーに全くかまってやらなかったんだろ?」

「…………」

 俺がそう言うと、才人もまた反省した様子を見せる。

 振り向くと、“水精霊騎士隊(オンディーヌ)”の面々は、フラフラと為乍ら飛んで居る。疲れてしまったのだろう。“フライ”というモノは、“精神”をずっと集中させる必要がある。そのため、それほど長い距離を飛行するには向いてないのである。

「限界ね」

 キュルケは冷静な声で言い、俺とシオンへと目を向けて来る。

 下を眺めていたタバサが、“杖”で一角を指し示した。

「酒場」

 キュルケが首肯き、俺とシオンもまた首肯く。

 タバサの意を受けたシルフィードは、急降下を開始した。

「な、何よ!? 地面に逃げてどうするのよ!?」

 そんな行動に、ルイズが慌てて怒鳴る。

「あの酒場で籠城するのよ」

「籠城だって!?」

 才人とルイズは、声を合わせて怒鳴った。

「仕方無いでしょ? 逃げ切れないし、捕まったら大変だし……こうなったらドンパチは避けられないわ。真っ昼間の酒場だったら空いてるでしょ」

 シルフィードは目指す通りに滑り込んだ。

 通行人達が、いきなり着陸した“風竜”に驚き、逃げ惑う。

 キュルケはシルフィードから飛び降りると、酒場の扉を蹴り上げた。

「入らっしゃい」

 と、これから降り起こる災難を知るはずもない店主は笑顔を浮かべ、キュルケを迎えた。

 ザッと店内を見回すと、キュルケが見越した通りに客はほとんどいない。神官風の男が1人、カウンターに座っているだけである。

 昼間から酒を呑むのは不信心者とされるこの“ロマリア”では、昼間呑みたい者は、コッソリと家で呑むことが多い。

 キュルケはほっとした様子を見せた。当然、迷惑を掛ける相手は、少ない方が良いのだから。

「何にしやしょう? 御嬢さん」

 “貴族”の客と見て揉み手をしながらやって来た店主に、キュルケは言い放った。

「この御店を、1日貸し切らせて頂くわ」

「はい?」

 キョトンとした店主は、続々と入って来た“貴族”達を見て、目を丸くした。

「な、何事で?」

 キュルケは答えずに、サラサラと小切手を書くと、ピラッと店主に放って寄越した。

「こ、こんなに!?」

「でも足りなくなるかも……その時は遠慮なさらずに言ってね」

「は、はいっ! でも一体何をなさるんで? パーティでも開く御積りですか?」

「そうよ。ちょっと花火が派手に上がるけど……御気になさらないでね?」

 店主は、(花火?)と疑問を覚え乍ら、視線をズラした。

 そこでは、タバサの指揮の元、“水精霊騎士隊”の面々が椅子やテーブルを使ってバリケードを築いているところであった。

「ちょ!? ちょっと! あんた等! 何をしとるんですか! わっ!」

 店主のその声は、窓硝子が粉々に砕け散った音で遮られてしまった。

 外に展開している“聖堂騎士”達が、“魔法”を放ったためである。

「うわあ!? 何だ!? 何事だ!? って……“聖堂騎士”!」

 通りに見える、純白のマントに縫い付けられた“聖具”の紋を見て、店主の腰がヘナヘナと抜けた。

「あ、あんた達……何者だ?」

 キュルケは、気の毒そうに呟いた。

「退がって。危険よ」

 才人は、ブルブルと震えるティファニアを店の奥まで連れて行き、そこに座らせた。

 “魔法学院”の制服を、大きく持ち上げる胸を隠すように自分を抱き締め、ティファニアは壁際に座り込む。

「サイト……」

「大丈夫。何があっても、俺が、俺達が護る。俺の所為みたいなもんだし……ごめん」

 こくこくと、ティファニアは首肯いた。

 さてと、と才人はデルフリンガーへと手を掛けた。

 破られた窓の外には、厳しい顔付きをした達が並んでいる。

 “水精霊騎士隊”の面々は、窓から退がった所にテーブルでバリケードを築き、“杖”を構えて対峙している。

 タバサとキュルケは騎士隊の少年達の背後から、細かく指示を飛ばしている。すっかり指揮官とその副官といった風情である。

 たった1人だけいた客は、ギムリに「外へ出ろ」と言われたが、ニッコリと笑みを浮かべて「酒の肴にピッタリだ」と言ってワインをクイクイ呑み、ギムリの忠告を無視した。

 コルベールは、テーブルの隙間から外に展開している“聖堂騎士”達の動向を冷静に伺っていた。本来であれば、この様な乱暴事を止めるべき立場の彼であるが、何1つキュルケに文句を言わない。

 こういう非常時には冷静な現実主義者になってしまうコルベールが何も言わないところを見て、(乱暴に見えても多分之が正解なんだろうなあ)と才人は思った。

 肝心のギーシュはというと、「何でこんなことになったんだぁ~~~」と頭を抱えて、床に突っ伏してしまっていた。

 ルイズは、怒りを覚えているのだろうプルプルと震えている。兎にも角にも、この現状に我慢ができないのであろうことが手に取るように判る。プライドが高いルイズは、誤解であろうとも「不敬」と侮辱され、なおかつ犯罪者のような扱いをされている現状を許すことができないのであろう。

「隣、良いか? 神官殿」

「ああ、構わないよ」

 俺はシオンを連れて、昼間であるにも関わらず呑んでいる神官の隣へと腰掛ける。

 シオンは、奥で震えているティファニアへと近付き、隣に座った。

「さて……様子見と行こうじゃないか? なあ」

「ああ、そうだね。面白いモノが見れるかもしれないしね」

 才人は腰を低くして、タバサとキュルケの元へと向かう。

「で、どーすんだよ?」

 キュルケはニッコリと笑みを浮かべた。

「さて勇敢な騎士諸君。作戦を説明するわ」

 ゴクリ、と一同はキュルケの言葉を待った。

「兎に角時間を稼いて頂戴」

「そ、それだけ?」

 キュルケは首肯いた。

「ええ。ここで時間を稼げば、騒ぎは教皇聖下にも届くでしょ。そうすればアンリエッタ様だって気付くんじゃない?」

「随分と気が長い作戦だな……」

 ギーシュが呆れた声で感想を漏らす。

「あら? だったら貴男、あそこで“聖堂騎士”達に宗教裁判に掛けられても良いの? あたし達全員、神官を侮辱したかでその場で有罪よ。“魔法”で打ち首、なんてあたし嫌ぁよ」

 そこで才人が、決心したようにキュルケに言った。

「侮辱したのは俺とデルフだけだ。俺が1人で話付けて来る」

「サイト!」

 ルイズが叫んで、才人へと駆け寄る。

「駄目よ! だったら私も行くわ!」

 恥ずかしそうに、ルイズは俯いた。

「だって、あんたは私の“使い魔”じゃない。あんたの責任は私の責任。だから私も行く」

 才人は、感動した目でルイズを見詰めた。

「ルイズ……」

 するとルイズは頬を染め、「せ、責任は主人である私にあるのよ。だから、勝手なことしちゃ駄目」と言った。

「しないよ」

 感極まっただろう、才人はルイズを抱き締めた。

 ウットリと頬を染めて、ルイズもその背中に手を回す。

「しゅ、主人と“使い魔”は、一心同体なんだから……」

「理解ってる。理解ってるよ」

「オウ、他所でやれや」

 蟀谷を引き攣かせたマリコルヌが、2人を引き離す。

 イチャイチャして居た2人は、顔を真っ赤にする。

 キュルケが呆れた声で言った。

「どっちにしても、もう遅いわよ」

「それに、君だけ行かせたら、僕達の名誉に傷が付く。なあ?」

 マリコルヌが、ぐ! と親指を立てて見せた。

 “水精霊騎士隊”の面々も、何だか浮かれたように、そうだそうだ! と囃し立てる。

「大体、“ロマリア”の神官共は嫌い何だよ」

「“聖堂騎士”の横暴っぷりったらないぜ! いつかあいつ等にはちょっと想い知らさせてやろうと想ってたんだ。誰が1番偉いのかをな!」

 そんな物騒だといえる言葉も飛び交う。どうやら、此方が本音らしい。

 何といっても“ハルケギニア”の“貴族”というモノは、こういう揉め事が大好きなのである。

 才人は、やれやれと首を振って言った。

「全く……何が神様だ。昔っから、1番戦争を起こすのは神様交じりの時じゃねえか」

 歴史の授業を想い出して、才人は言った。

 宗教が違う、ただそれだけのことで、“地球”であっても幾度となく戦いが起こって来た。いや、今現在も起こっている。皆、平和に平穏に暮らしたいという気持ちや想いは同じであるというにも関わらず、宗教の違いや宗派の違いなどで、幾らでも幾度でも戦争を起こしてしまう。戦争は勿論、ヒト同士の間だけの話ではない。

 皆、口々に威勢の良い言葉を吐き出していたため、誰もそんな才人の独り言を聞いていない。

 たった3人を除いて……。

 それは、奥の椅子に腰掛けている客、その隣の俺、ティファニアに寄り添い安心させようとするシオンである。

「確かに、才人、御前の言う通りだ。“神々は人間を救わない。人々の理想によって性格を得た神は、人間の望み通り、人間を悪として扱う。神とはこれ、人間への究極の罰なのだ”ってね」

「それも受け売り、だろ?」

「まあな」

 俺の隣に座っている男は、深くフードを冠っているおかげで顔を良く見ることができない。

 そんな彼は、才人と俺との会話を聞くと、プッと笑みを漏らした。それから、妙な声音で呟く。

「面白いことを言うね。君達は」

「そっすか? 良いけど、ホントに危ないから外に出た方が良いですよ。御迷惑を御掛けして、すいませんけども」

 フードの男に、才人は再度忠告する。

「いや、ここで見物させてくれ」

 才人は、(変わり者だな)と思ったが、今はそれどころではないといった風に再びバリケードの向こうを見据えた。

「でも……あいつ等、攻めて来ないわね」

 キュルケが呟く。

 “聖堂騎士”達は、最初に“魔法”で窓を吹き飛ばしたっ切りで、動く様子を見せないのである。どうやら窓も、中の様子を探るために吹き飛ばしただけらしい。

 そのうちに、“聖堂騎士”の1人が、輪から進み出て来る。随分と気障ったらしいといえる仕草で、クイクイと顔を持ち上げながら、近付いて来る。

 才人は、其れを見て感想を漏らした。

「ギーシュみたいな奴だな」

「一緒にしないでくれ給え」

 前に出て来た“聖堂騎士”は、美男子、と形容して良いだろう顔立ちの優し気な男であるといえるだろう。長い黒髪が、額の上で分けられ、左右に垂れている。

 男は丁寧な仕草で一礼すると、店内に立て籠もった俺達へと柔らかい口調で話し掛けて来た。

「“アリエステ修道会”付き“聖堂騎士”隊長、カルロ・クリスティアーノ・トロンボンティーノです。さて、酒場内の諸君、君達は完全に包囲されています。神と“始祖”との卑しき下僕たる我々は、無駄な争いを好みません、申し訳ありませんが、大人しく投降して頂けないでしょうか?」

「あたし達の身の安全を保証して呉れるって言うんなら、そうしても良いわよ?」

 キュルケが言い放つ。

「そうしたいのは山々なんですが……我々はとある事件を抱えていましてね。“怪しい奴は片っ端から捕らえて宗教裁判に掛けろ”、との命令を受けているのです。従って、貴方方の無罪が神によって証明された後、そうさせて頂きましょう」

 当然、“水精霊騎士隊”の間から、抗議の声が飛んだ。宗教裁判というモノが、名前を変えただけの処刑に過ぎないということを知っているためである。

「僕達は異端じゃないぞ!」

「列記とした“トリステイン貴族”だ!」

「“トリステイン貴族”と言うなら、“貴族”らしくきちんと裁判を受け、身をもって証明すれば良いだけの話ではありませんか。それができぬ、と言うならば、君達は忌まわしき異端と言うことになってしまいますが……」

「教皇聖下に問い合わせろ! 俺達は“ロマリア”の客だぞ!」

 才人がそう怒鳴ると、カルロと名乗った“聖堂騎士”隊長は、やれやれと両手を広げた。

 副官らしき男が近寄り、何やらカルロへと耳打ちをする。

「それほど聖下に拘るとは……やはり貴方方を何としても取り調べねばいけないようだ。仕方ありません。流れずに済む血が流れ、振るう必要のない“御業(魔法)”を振るわねばならぬ……嗚呼、これも神の与えたもう試練なのでしょう……」

 カルロは胸元に提げた“聖具”を神妙な様子で取り上げ、額に当てた。すると、その綺麗で優しげな顔立ちが、見る間に凶悪な臭いを漂わせるモノへと変貌する。

「神と“始祖ブリミル”の敬虔なる下僕たる“聖堂騎士”騎士諸君。可及的速やかに異端共を叩き潰せ!」

「あの顔と言動……あいつ、神官には向いてないな……」

「教えには忠実なんだけどね……そこを指摘されると、痛いな」

 俺と、フードを冠った男は互いに酒を酌み交わしつつ談笑する。

 カルロの号令と共に、ブワッ! と“聖堂騎士”達から“魔力”のオーラが立ち昇がる。

 カルロは、才人達に背を向けると、まるでオーケストラの指揮者であるかのように、“杖”を掲げた。

「“第一楽章・始祖の目覚め”」

 彼等“聖堂騎士”達は一斉に“呪文”を唱え始めた。まるで唱和する聖歌隊が歌うような、“呪文”の調べであるといえるだろう。

 酒場内に緊張が奔る。

 珍しいことにタバサが焦った表情を浮かべ、“水精霊騎士隊”の面々に指示を飛ばした。

「“エア・シールド”を張って。何重にも、直ぐに」

「“マスター”、僕はどうすれば?」

「“ブレイバー”は待機。“サーヴァント”は基本、表に立つべきではない、と想う」

 “水精霊騎士隊”の少年達は、タバサに言われた通りの“呪文”を唱え、バリケードの前に空気の壁を張った。

 同時に、“聖堂騎士”達の“呪文”が完成する。それぞれ握った“聖杖”の先から、炎の竜巻が伸び、幾重にも絡み合い、巨大な“竜”の形を取り始める。

「何だありゃ?」

「“賛美歌詠唱”。“聖堂騎士”が得意とする“呪文”。厄介」

 タバサが、才人の疑問に答えた。

 いつかのアンリエッタと、指輪の力で強制的に蘇らされ操られていたウェールズの2人が作った、あの“ヘクサゴン・スペル”のそれに似た合体“魔法”といえるだろう。

 血を吐くような訓練と統率……それ等に耐えることのできた“聖堂騎士”ならではの奇跡の業であるといえるだろう。

「ホントにあんなの、店内に撃っ放す気かよ!?」

 才人が叫んだのと同時に、炎の“竜”は店内目掛けて襲い掛かって来た。

 一部を除いた酒場内の面々は、竦み上がった。

 幸いにも、事前に幾重にも唱え張った“エア・シールド”が功を奏したのだろう、炎“の竜”の勢いは弱まる。しかし、“水精霊騎士隊”が唱えた“エア・シールド”では所詮焼け石に水といった程度に過ぎない。

 空気の壁を突破して来た炎の“竜”を、最終的に止めたのはタバサの“魔法”であった。スッくと立ち上がると、唱えて置いた“呪文”を解放したのである。

 キラキラと光る氷の粒がタバサの周りを回り始め、青白く光り輝いた。

 “アイス・ストーム”。

 タバサの放った氷の嵐が、炎の“竜”に絡み付く。

 辺りは、濛々と立ち篭める水蒸気に包まれた。

 その霧が晴れると……毅然と立つタバサの姿が見えた、

 酒場内の一同から歓声が沸く。

 が、するとタバサは、「“精神力”が切れた。後は任せる」と言って、奥へと引っ込んだ。

 ゴクリ、と“水精霊騎士隊”の面々は唾を呑み込む。タバサの強力な“魔法”は打ち止め……となると、後は後ろに控えている“サーヴァント”、もしくは自分達で何とかする必要があるためである。

 自分達の“魔法”が破られたことで、“聖堂騎士”達の表情が変わった。

「異端の癖にやるじゃあないか」

 カルロは笑みを浮かべ、次の“呪文”の”詠唱”を指揮する。

 炎が破られたと云う事も在り、次の“賛美歌詠唱”は“水系統”であろう。

 “詠唱”と共に、幾重にも氷の矢が増えて行くのが見える。

 店内に飛び込んで来た何百本もの氷の矢を防いだのは、コルベールの“火系統魔法”であった。

「“ウル・カーノ・ジエーラ・ティール・ギョーフ”」

 講義でも行うかのように、淡々と“呪文”を唱えたコルベールの“杖”の先から、先程の炎“竜”にも負け無いほどの大きさを誇る蛇が姿を表し、巻き起こる。

 炎の蛇は、氷の矢を喰らい尽くし、唐突に掻き消えた。

 何本かの氷の矢が、テーブルや椅子に突き刺さりはしたが、それで終わりであった。

 だが、コルベールもタバサ同様に“精神力”が切れてしまい、“魔法”は品切れであるらしい。頭を掻き、「諸君、次は君達で何とかし給え」と言って、奥へと引っ込む。

 通りに集まった見物人から、野次が飛んだ。

 宗教庁の権威を笠に着ていつも威張っている“聖堂騎士隊”が苦戦しているということもあって、それが面白くて堪らないのであろう。

 ギリッ! とカルロの顔が歪む。

「うぬぅ……おのれぇ……斯くなる上はぁ……」

 次は凄いのが来るぞ、と生徒達の間でひそひそ声が飛び交う。

 才人は、ルイズの肩を叩いた。

「さて、出番だぜ。ルイズ」

 キュルケも、タバサも、コルベールも、少年騎士達も、ルイズを見詰めた。彼女達は、ルイズが“伝説の担い手”であるということを既に知っているのである。

 自分達の切り札……“虚無”。

 “始祖”が扱いし、“零番目の系統”……。

 “水精霊騎士隊”の面々は、ルイズが“虚無の担い手”であることを知ってはいるが、それでも未だ半信半疑といった体である。だが、彼女が起こす爆発は凄まじい威力を誇るということだけは理解していた。

 したがって、皆熱っぽい目でルイズを見詰めるのである。

「彼奴等全員、吹っ飛ばしてやれよ! その間、僕達が何としても防いでやる!」

 次に“聖堂騎士隊”が放って来た“賛美歌詠唱”は、“風系統”で在った。

 ゴォオオオオオオオオッ!

 と、荒れ狂う嵐は、いつぞやの“ヘクサゴン・スペル”ほどではないが、それでもかなりの威力を秘めていることがうかがい知れる。

「俺が止める!」

 才人は飛び出し、デルフリンガーを構えた。

 嵐に巻き込まれ乍らも、デルフリンガーが“魔力”を吸収して行く。

 それから、才人は振り返ると、怒鳴った。

「ルイズ! 今だ! あいつ等を “エクスプロージョン”で吹っ飛ばせ!」

 緊張した顔で、ルイズは“呪文”を唱え始める。

 完成。

 “杖”を振り下ろし、“エクスプロージョン”を放とうとするのだが……。

 ボウンッ! と何だか情けない音と共に、“聖堂騎士隊”の前の地面を僅かに掘り返しただけであった。

「……終わり?」

 と、才人は、デルフリンガーで嵐を止めながら、間の抜けた感想を漏らす。

 ルイズは呆然と、己の“呪文”の結果を見詰めた。

「な、何で?」

 キュルケが、コクリと首肯いた。

「あー、きっと、幸せだからじゃないの?」

 ルイズはギクッとした。

「あんたの“系統”って、確か中々“精神力”が溜まらないのよね。怒ったり、嫉妬したり、そういう感情が必要なのに、あんた最近あんまり怒ってないでしょ?」

「え、えー。そんなこと、ないもん……」

 恥ずかしそうに俯いて、ルイズはモジモジとし始めた。

 そんなルイズに、とうとう嵐を受け止め切れなくなった才人が吹き飛ばされ、打ち当たる。

「――ぷぎゃあ!?」

 と2人は、酒場の奥へと転がって行った。

 同時に嵐が吹き込んで来る。

 デルフリンガーによって吸い込まれていたとはいえ、バリケードを吹き飛ばすには十分過ぎた威力である。

 “聖堂騎士”達は、バリケードが吹き飛んだことを確認すると、“聖杖”を構えた。

 何やら“呪文”を唱えると、“杖”の先端が赤、青、白……と様々な色へと染まり始める。

「“ブレイド”だわ。来るわよ」

 キュルケが呟く。

 “ブレイド()”。

 騎士が頻く使う、“杖”に“魔力”を絡ませて刃とする“魔法”である。得意な“系統”ごとに、その色と威力は違う。その上、“杖”の周りにのみ発生させるために、効果の持続性が高い。まさに、岩をも両断することができるだろう、白兵戦用の“呪文”である。

 カルロを先頭にして、“聖堂騎士”達は突進して来た。次々破れた窓を掻い潜り、飛び込んで来る。

 “水精霊騎士隊”の面々も、次々“ブレイド”を唱え、迎え討つ。

 窓際では乱闘が始まった。

 才人もデルフリンガーを握り締め、“水精霊騎士隊”へと加勢する。

 “水精霊騎士隊”は、殆どが“ドット・メイジ”である。“魔法”の威力不足を補うために、アニエス直伝の才人の元、接近戦に力を入れて来た。また、俺も時々ではあるが、その訓練や鍛錬、模擬戦に参加し、扱いて来た。その甲斐あってだろう、押され気味ではあるがどうにか保ち堪えることができている。

 “杖”同士が打つかり合い、派手な音が飛び交う。

 マリコルヌが唸り声を上げて、“杖”を振り回している。

 冷静なレイナールは、何気に“杖”を使った接近戦が得意であった。右に左にと器用に躱し、チェスプロブレム(詰将棋)を解くように敵を追い詰めて行く。

 ギムリはその豪快な身体を“バーバリアン”のように動かし、力任せに“杖”を振ん回す。

 “精神力”の切れたタバサは、後ろで本を読んでいる。自分にできることがないと判ると、随分と割り切るモノであった。

 そんなタバサの前で、“霊体化”はしている状態ではあるが、イーヴァルディが、俺の横で椅子に座っている男へと注意しながら仁王立ちでもするかのように立っている。即座に、実体化して護るためであろう。

 コルベールは“魔力”の掛けられてない“杖”1本で、“聖堂騎士”と互角ともいえるほどに渡り合っていた。

 キュルケといえば、店主と壊れた家具についての交渉の真っ最中であった。

 乱闘で椅子や机が1つ壊れるたびに、店主は算盤を弾き、キュルケに見せる。

「……ちょっと、高くない?」

「否々、良い木を使っておりますんで! はい!」

「半分は、“聖堂騎士隊”に請求してよね」

 ティファニアは奥の方でガタガタと震えており、シオンがそんな彼女を抱き締める。

 ルイズは、ハラハラしながら、才人の方を注目し、(何が“虚無”よ……使い辛いったらありゃしない!)と自分の無力さを歯噛みしていた。

 才人はルイズの心配を他所に、1人の“聖堂騎士”の“聖杖”を、一撃で吹き飛ばした。“ガンダールヴ”のスピードにたじろぐ“聖堂騎士”の腹に、デルフリンガーの柄を減り込ませ、悶絶させる。

 さて次は……と、才人が見ると、辺りは当然ながら乱戦であった。(さて、どこに加勢しようか?)と見回すと、1体を残してて全ての“ワルキューレ”を倒されてしまったギーシュが見えた。

 ギーシュは、カルロの猛攻にタジタジになっていた。

 “ブレイド”を纏わり付かせた薔薇の造花を握るギーシュと、1体の“ワルキューレ”を、難無くカルロはあしらっている。

 才人が近付くのを見たギーシュは、首を横に振った。

「おいおい、加勢なら要らないよ。何、これからが本番さ」

 しかし、カルロは余裕の笑みを浮かべながら、ギーシュを追い詰めている。その様子から、どうやら実力の半分も出していないとうことが見て取れる。

「言ったな? じゃあ、御望み通り本番と行こう!」

 カルロは素早い動きで、ギーシュの薔薇の造花を手元から掬い上げる様にして弾き飛ばした。

 ギーシュは、ペタリと床に胡座を掻いた。

「参った。降参だ。サイト、後は任せたよ」

 そして、ギーシュは悪怯れた風もなく口笛を吹き始めた。

 敵味方から、笑いが溢れる。

 カルロは、ユックリと才人へと振り向いた。

「次は君か。名乗り給え」

 才人はデルフリンガーを突き出すと、胸を張って思いっ切り格好付けた。それから、“貴族”っ放い身の熟しをできる限り真似て、堂々と名乗った。

「シュヴァリエ・サイト・ド・ヒラガだ。見知り置きを」

「変な名前だな」

「黙れオカマ野郎」

 才人のその言葉にカルロは笑みを浮かべて、“聖杖”を突き出した。長さは30“サント”ほどではあるが、“魔力”のオーラが伸びているために、1“メイル”ほどの長さを誇っている。

「君はツイてないな。誓って言うが、御命貰い受ける」

「遣ってみやがれ」

 才人は一っ跳びで距離を詰めると、思い切りデルフリンガーを真上から叩き付けた。

 然しカルロも然る者、デルフリンガーをガッシリと“聖杖”で受け止めた。

 2人は同時に、パッと飛び退る。

 カルロは一瞬で才人の実力を見て取り、“聖杖”に込めた“魔力”を増幅させた。

「本当に“平民”か……? 貴様」

「今は“貴族”だよ」

 青白い、“杖”の輝きが大きくなる。

「いざ!」

 そして、カルロは鋭い突きを繰り出した。

 才人の目には、其の動き1つ1つがしっかりと見えた。成る程、少し鍛えた程度のヒトでは目で追うことだけで精一杯といえるだろうほど。ギーシュが、あっと言う間にやられてしまたのも仕方がないことであるといえるだろう。

 だが、才人はそうではない。

 才人はカルロの“聖杖”の動きを見切り、ピッタリと縦に真ん中から両断した。これはただのハッタリであると同時に、敵意を喪失させる目的で放った斬撃である。

 パラン、と床に落ちた“聖杖”を眺め、カルロは膝を突いた。

「き、貴様……」

 呻くカルロに、才人は言い放つ。

「頼むよ。教皇聖下とやらに、連絡付けてくれないか? そうすりゃ、俺達の正体も理解るからさ」

「先程からわざとらしいことを抜け抜けと……忌々しい異端共め! ……己の胸に訊け! 御前達の仲間が、何らかの理由で聖下を拐かしたのだろう? あの怪しい“フネ”で運ぶ積りだろうが!? 言え! どこで接触する積りだ!?」

 はい? と才人はキョトンとした。

 カルロのその声で、激しい剣戟も止んだ。

「何か誤解されてないか?」

 額から、ダラダラと血を流したマリコルヌが、恍けた声で言った。

「聖下を拐かす? どういうことだ?」

 “聖堂騎士”達は、口々に才人達を罵り始めた。

「異端の誘拐犯共め!」

 意味が理解らずに、才人達がキョトンとする。

 そんな皆の背後で、ローブを冠った男と俺は笑いながら立ち上がった。

「カルロ殿、御苦労です。だが、聖下は攫われてはいない」

 フードの下から現れた顔を見て、“聖堂騎士”達が目を丸くした。一斉に“聖具”を構え、神官の礼を取る。

「チェザーレ殿!」

 才人とルイズには、その名前に覚えが有った。

 才人は振り向き……息を呑んだ。

 そこにあった顔は、“アルビオン戦役”で共に戦ったジュリオ・チェーザレであったのだ。

 ジュリオは、変えていた声色を元に戻し、才人とルイズ達へと挨拶をした。

「“聖歌隊”の指揮者もやってるんもんでね。変声術が得意なんだよ。君達、見事騙されたな! セイヴァーやそこの“サーヴァント”は見抜いていたのに。あっはっは! やあやあ、実に久し振りだなサイト! “アルビオン”で君を見送って以来かな!? 無事で何より」

 才人は、そんなジュリオを呆れた顔で見詰めた。

「何だいその顔は、折角の再逢だってのに、まるで“竜”に出会した蜥蜴のようじゃないか」

「一体どのような訳で、このような事態になったのかを説明して頂きたい」

 カルロが口を挟む。

 ジュリオは、増々笑いを大きくした。

「いやなに。カルロ殿。聖下が攫われた、という噂を流したのは僕なんですよ。この方達は怪しい者ではない。我々の御客です」

「はぁ? どういう意味です?」

 才人達が訳が理解らずにポカンとしていると、ジュリオは説明をした。

「君達が今日、到着することは勿論知っていた。でも、ただ真っ直ぐ聖堂に向かうのも詰まらないだろう? 余興を用意したのさ。聖下が拐かされた、と噂を流して、反応を見てたんだ。そうすれば、真っ先に君達みたいなのは疑われるからね。僕は、“チッタディラ”から、ずっと君達を追けていたんだ。ここに降りようとしているのを見付け、先回りした。何だかやり口が強引だし、尾行にも3人しか気付いてないなんて、ちょっとこれからの事が心配だったんだが……まあ、“聖堂騎士隊”を配った実力を見るに、合格としよう」

「良かったな、皆」

 “聖堂騎士隊”は「な、何と人騒がせな……」と呆然とし、“水精霊騎士隊”の面々は俺へと「人が悪いぞ!」と目を向けて来る。

“水精霊騎士隊”の少年達は、次に頭に血を昇らせた。

「貴様! とんだ悪ふざけだ! おかげで僕達は宗教裁判に掛けられるところだったんだぞ!」

 ジュリオは涼しい顔で言い放つ。

「宗教裁判? これから、君達がすることになる仕事は、そんなの飯事に想えるような過酷な任務だぜ? ただ“魔法”を撃っ離したり、剣を振り回すことが得意なだけじゃ務まらない。このくらいの危機は、力じゃなく頭で乗り切って欲しいモノだね」

 唖然とする一同を尻目に、ジュリオはツカツカとルイズとティファニアとシオンの元へと向かい、そこで優雅に一礼した。

「御呼び出てして於き乍ら、非礼を御赦し下さい。まさか、このような場所で、御挨拶を交わすことになるとは思いませんでしたが……」

 そこで、ルイズとタバサは漸く、ジュリオは“サーヴァント”であることに気付いた様子を見せる。今のルイズには、ジュリオの“サーヴァント”としての“ステータス”などの情報が見えているのだから。

 再び、ジュリオは大声で笑った。

 そんな教皇付きの神官の態度に、“聖堂騎士”達が顔をしかめる。思い付くままに勝手な行動を取る若き教皇と、その御付の神官に、ホトホト手を焼いていたのである。

 外に、バッサバッサと音を立てて、1匹の“風竜”が着陸した。ジュリオの“風竜”、アズーロである。

 後ろには、捕まってしまったシルフィードが従えられている。

「御前等……あのな、色々話があるんだけどよ……文句とか、文句とか」

 才人がプルプル震えながら言うと、ジュリオは気にした風もなく一同を促した。

「まあまあ、食事でもしながら、難しい話はしようじゃないか。では、我等が大聖堂に案内いたします。客人殿」

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