大聖堂に到着すると、ルイズとシオンの2人はアンリエッタに到着の挨拶をした。
だが……この女王は心ここにあらずといった体である。「嗚呼、良く入らしたわ」と言ったものの、この国にルイズ達を呼んだ理由は話しはしなかった。それから、「教皇聖下が後で説明してくれますわ」とアンリエッタはルイズとシオンとティファニアの3人に言った。
「兎に角、長旅で御疲れになったでしょう。晩餐が用意されています。先ずは御腹を満たしてくださいまし」
晩餐会は、2つの部屋で行われた。
先ずは才人を除いた“水精霊騎士隊”とコルベールとキュルケに与えられた部屋、そしてルイズとティファニアとシオンとタバサ、そして教皇ヴィットーリオが出席する大晩餐会である。勿論、俺と才人とイーヴァルディは“使い魔”かつ“サーヴァント”であるために、大晩餐会の方に参加することになったのである。
キュルケ達には、ホストも付けられず、気ままに食事を摂ることになった。“水精霊騎士隊”のメンバーはそのような扱いを受けてもあまり気にした風もない。今日の戦いを肴に、楽し気に笑い転げている。
キュルケは傍らのコルベールを見詰めた。
この大聖堂に着いてからというモノ、コルベールはなんだかあまり元気がないのである。眼の前に並んでいる料理に手を付けることもなく、組んだ手の上に顎を乗せ、何か考え込んでいる。
「どうしたの? ジャン。御料理が不味いの?」
キュルケは、眼の前のスープをスプーンで掻き回した。
それでもコルベールは、ジッとして動かない。
「ホントにどうしたの? 大丈夫?」
心配そうにキュルケが覗き込むと、コルベールはやっと頭を上げた。
「ん? ああ、すまん。何でもないんだ」
それからしばらくスープを流し込んでいたのだが……その内にポケットからルビーの指輪を取り出し、ジッと見詰めた。メンヌヴィルと戦って死にそうになった時、キュルケが預かっていたモノである。コルベールが全快した後、キュルケは直ぐに返して寄越したのであった。
「ルビーがどうしたの? 貴男まさか、昔の女でも想い出しているんじゃないでしょうね?」
冗談のつもりでキュルケは言ったのだが、コルベールは首肯いた。
「……まあ、そんなところかな」
キュルケは目を細めると、コルベールの頭に茹でたザリガニを乗せた。
それでもコルベールは動かない。
それ以上嫉妬を見せるのもつまらないと判断し、キュルケは再び料理へと手を付け始めた。
廊下を挟んで隣の大晩餐会質では、誰もが口を噤み、ただ黙々と料理を口に運んでいた。
ルイズの横には才人が座り、その隣にはティファニアが腰掛けている。
更にその隣にはタバサ、次にイーヴァルディ、シオン、そして俺が腰掛け食事を摂っている。
才人は、今日の出来事がどうにも腹に据えかねてしまっている様子であり、時折ジュリオを見詰めては、「うぬ、あんにゃろ」などと呟いている。
ティファニアは緊張で見を縮こませている。ギクシャクとフォークとナイフを扱い、先程からメインのオムレツを、口に運ぶでもなく何個にも切り分けている。
シオンとタバサは、優雅に落ち着いた様子で食事を摂っている。
イーヴァルディは、今の姿では“平民”がベースとなっているため、ぎこちなさがあるものの、どうにか音を立てずに食事を摂っている。
眼の前には俺達をここに呼んだアンリエッタがいた。今も、何か考え事をしているのだろう、ジッと眼の前のワイングラスを眺めているのみである。
その隣には、“銃士隊”隊長アニエスが座り、やはり何か考え事に耽っている様子である。
テーブルの上座には、教皇聖エイジス32世こと、教皇ヴィットーリオへ・セレヴァレが座っており、その隣に腰掛けているジュリオから本日の報告を受けていた。
先程、ルイズと才人とティファニア、そしてタバサとシオンと俺は、教皇ヴィットーリオへの謁見を許されたのである。人懐こそうな笑顔で、彼は俺達を歓待した。
先ず、その美貌にルイズ達は圧倒された。
ヴィットーリオは、まるで妖精のような輝きを放っているのであるから。
次にルイズ達が感じたのは……慈“愛”のオーラである。
それは、完全に私欲を捨てた人間だけが放つことができるだろうと想わせる、総てを包み込むかのような光に想わせたるモノであった。
一目見だだけで、ルイズ達は彼が、どうしてこの若さで教皇になれたのかを理解できたかのような気がした。
才人もルイズ同様の感想を抱いたのだろう、ヴィットーリオの眩しさにポカンと口を開け、それから参ったなあ、というように笑みを浮かべたので在る。それから、「ジュリオの野郎はハンサムでもムカつく顔してるけど、こっちは別物だな。こんな人がいるんだな。ホントに」と、ルイズに感想を告げたのであった。
ティファニアも、タバサもルイズと才人同様の感想を抱いた様子を見せた。が、ティファニアは固まり、タバサはできる限り平時と変わらぬ様子を見せるように努めていた。
それから始まった晩餐会……ヴィットーリオは俺達の労を労うばかりで、未だ肝心な事を話そうとはしないでいる。
勿論此方から切り出す訳にも行かず、(一体……アンリエッタとこの教皇聖下が、自分達に見せたいモノは何だろう?)と考え、ルイズ達は気不味そうにモジモジとしていた。
ルイズは、隣に座っている才人を突いて言った。
「ねえ」
「ん?」
「陛下と教皇聖下は私達に何を見せてくれるつもりなのかしら?」
「判らん。でも、飯が終わったら見せてくれるんだろ。ビックリするかもしれないから、腹一杯食べて動じない心を養おうぜ」
ルイズは、(確かにサイトの言う通りだわ。ヤキモキしても始まらないわね)と想い、料理に手を伸ばした。
報告を受けたヴィットーリオは、深々と俺達へと頭を下げた。
「私の“使い魔”、いえ、“サーヴァント”が、大変御迷惑を御掛けしました」
その言葉で、ルイズと才人は、ブホッ! と食べていたモノを吹いた。
「駄目だよルイズ。行儀が悪い」
そんなルイズへと、シオンは注意する。
「聖下……今、何と?」
それからルイズは、再度確認の言葉をヴィットーリオへと向けて言った。
「御迷惑を御掛けして申し訳ありません、と御詫びを申し上げたのです。ジュリオ、何故勝手にそのようなことをしたのです? 私はただ、“迎えに行って欲しい”と頼んだはずですが?」
ジュリオは“月目”を煌めかせ、笑みを浮かべた。
「そ、そうじゃありません!」
ルイズは思わず立ち上がる。
「今、聖下は“使い魔”、そして“サーヴァント”と仰いましたね?」
「はい。そうです」
ヴィットーリオは、ルイズとティファニア、次いでシオンとタバサを見詰め、首肯きながら言った。
「私達は兄弟です。“伝説の力”を宿し、人々を正しく導くための力を与えられた、兄弟なのです」
そう言って、ヴィットーリオは、自身の右手を挙げ3画の“令呪”を見せた。
才人とルイズとティファニアとタバサの4人は、ヴィットーリオの突然の告白じみた言葉に、眼を丸くした。
ジュリオが後を引き取るように、いつも嵌めていた右手の手袋を外した。
そこには……才人の左手甲に光る“ガンダールヴ”としての印と、似たような文字が踊っているのが見える。
「僕は“神の右手”。“ヴィンダールヴ”だ。サイト、君とは兄弟ということだよ」
“ヴィンダールヴ”……とティファニアが、呟く。
「そして、そこで“霊体化”している“サーヴァント”と、セイヴァーとも同じさ。僕は、今回の“聖杯戦争”で“
「そうなんですか……。僕は、 “
「まさか、物語上の“英雄”と逢えるとはね。宜しく、イーヴァルディ」
「こちらこそ」
イーヴァルディは、“霊体化”を解き、ジュリオと挨拶を交わした。
「ティファニア嬢はまだ、“使い魔”を御持ちでないから……これで3人の“担い手”、2人の“使い魔”、そして……」
ヴィットーリオは、ルイズが傍らに置いている“始祖の祈祷書”を見詰めて言った。
「1つの“秘宝”、2つの“指輪”、4人の“サーヴァント”……が集まった訳です」
ジュリオがヴィットーリオに小さく呟いた。
「“指輪”は後1つ、加わるかと……」
「となると、“指輪”は3つ……ということですね」
大晩餐会を緊張が包んだ。
張り詰める空気の中、ヴィットーリオはアンリエッタの方を向いた。
コクリ、と緊張した面持ちでアンリエッタは首肯く。
「さて、本日こうして御集まり頂いたのは他でもない。私は、貴方方の協力を仰ぎたいのです」
「協力とは?」
ルイズの質問に、「私が御話しましょう」とアンリエッタが漸く口を開いた。
アンリエッタの話を聞き終わったルイズと才人とティファニアとタバサは、その途方もないといえるだろう話に、目を丸くした。
それから、やっとの思いでルイズが口を開き確認する。
「詰まり……姫様が仰りたいのは、私達の力を使って、“エルフ”から“聖地”を取り返したいってことなのですか? それでは、“レコン・キスタ”の連中と変わりないではありませんか?」
「違います。そうではないのよルイズ。交渉するのよ。戦うことの愚を、貴方達の力によって悟らせるのです」
「……どうして、“聖地”を回復せねばいけないのですか?」
今度は、ヴィットーリオが口を開く。
「それが、我々の、心の拠り所、だからです。何故戦いが起こるのか? 我々は万物の霊長でありながら、どうして愚かにも同族で戦いを繰り広げるのか? 簡単に言えば、心の拠り所を失った状態であるからです」
何処までも穏やかな、優しい声で、ヴィットーリオは言葉を続けた。
「我々は“聖地”を失ってより幾千年、自信を喪失した状態であったのです。異人達に、心の拠り所、を占領されている……その状態が、民族にとって健康なはずはありません。自信を失った心は、安易な代替品を求めます。下らない見栄や、多少の土地の取り合いで、我々はどれだけ流さなくても良い血を流して来たことでしょう?」
ルイズは言葉を失くした。
それは、“ハルケギニア”の歴史其の物といえるためである。
「“聖地”を取り返す。“伝説の力”によって。その時こそ、我々は真の自信に目醒めることでしょう。そして……我々は栄光の時代を築くことでしょう。“ハルケギニア”はその時初めて、統一、されることになりましょう。そこにはもう、争いはありません」
ヴィットーリオは、淡々と「統一」という言葉を口にした。
幾度となく、“ハルケギニア”の各王達が夢見た言葉……。
統一。
「“始祖ブリミル”を祖と抱く我々は、皆、神と“始祖”の元兄弟なのです」
ルイズはその言葉に心を動かされた。だが……同時に、どこか引っ掛かるモノも感じ取った。
ルイズがその引っ掛かりを口にする前に、才人が口を開いた。
「あの……良いですか? 聖下」
「どうぞ」
困ったような声で、才人は言った。
「俺、その、あんまり頭良くないんで、聖下の仰ることが良く理解らないんですけど……それって詰まり、剣で脅して土地を巻き上げる、ってことじゃないんですか?」
「はい。そうです。あまり変わりはありませんね」
ヴィットーリオは呆気なく才人の言葉を肯定した。
「そんな……“
「私は、総ての者の幸せを祈ることは傲慢だと考えています」
きっぱりと、ヴィットーリオは言った。
「私の掌は小さい。神が私に下さったこの手は、総ての者に慈“愛”を与えるには小さ過ぎるのです。私は“ブリミル教徒”だ。だから先ず、“
「間違ってはいないと想います。でも……」
才人は考え込んだ。
アンリエッタが、そんな才人の翻意を願うように、「サイト殿。私も良く良く考えてみたのです。そして……教皇聖下の御考えに賛同することにいたしました。私はかつて、愚かな戦を続けました……もう2度と繰り返したくない。そう考えています。力によって、戦を防ぐことができるなら……それも1つの正義だと私は想うのです」
「反対です」
才人は、キッパリと言った。
「サイト殿」
アンリエッタが、何かを言おうとしたが、才人は頑なとして首を縦に振らなかった。
「やっぱり、卑怯ですよそれ。ここにいるティファニアは……“エルフ”の血が混じっている。ティファニアの母さん達を脅すような真似はしたく無い」
ティファニアは、唇を噛んだ。色々想うところは確かにあるのだが、(私は口を挟める立場にない)と想い込んでいるためである。
アンリエッタは立ち上がると、ティファニアの元へと歩いて行った。
「ティファニア殿。貴女の従姉のアンリエッタで御座います」
そう言って、アンリエッタはティファニアの手を握る。
ティファニアは、しどろもどろに、挨拶を返す。
「……従姉」
「そうです。貴女の父君の
アンリエッタはひっしとティファニアを抱き締めた。
「嗚呼、私達の従妹。辛い想いをさせてごめんなさい。そして、そのことを公にできぬ私を赦して頂戴」
ティファニアも、ほとんど唯一といえるようになった血縁者の1人を抱き締め、思わず涙を零した。
大晩餐会室は、しばしの静寂に包まれる。
涙を拭いたティファニアは、それでもしっかりと、アンリエッタに尋ねた。
「陛下。私の母の同胞と……争うのですか?」
「そうではないの。きちんと御話しして、返して頂くの。だって、あの土地は、本来我々のモノなのですから。その際の交渉に、貴女に流れる血が、またとない掛け橋になってくれることを祈ります」
ティファニアは俯いた。そして……。
「私、ホントに難しいことは理解りません。でも……私の力が皆さんの御役に立てるなら、この上ない喜びだと想います」
「強力してくださるの?」
ティファニアは、憮然としている才人の方を向いた。
「サイトが……そうするって言うなら、私も手伝います。私はサイトに、外の世界に連れ出して貰ったから……サイトが決めたことなら、従います」
「サイト殿」
アンリエッタは、縋るような目で才人を見詰めた。
才人は、アンリエッタにそのように見詰められてしまい、決心が鈍りそうになった。だが……やはりそれでも納得することはdけいないでいる様子である。
「ごめんなさい。聖下や姫様の言ってることは立派だと想う。でも……そんなことに、俺やルイズの、ティファニアの力を使いたくない」
「ルイズ、貴女はどう御考えですか?」
アンリエッタは、次にルイズの方を向いて尋ねた。
ルイズは、迷った。
アンリエッタやヴィットーリオの言うことは、もっともであるといえる部分がある。
ルイズ達は、“ハルケギニア”の“貴族”なのだから。
であれば、先ずは“ハルケギニア”のことを考える必要があるだろう。でなければ……“ハルケギニア”の“貴族”でいる意味がないといっても良いのだから。
少し前までのルイズであれば……そのように、アンリエッタの掲げる理想に対して即座に首肯いていたかもしれないといえるだろう。
だが……今のルイズは違う。
才人やティファニア達との交流を通じることで、いつしかルイズは、(“エルフ”だからといって、力をチラつかせる真似などしたくないわ。“平民”にも色んな人間がいるもの。きっと“エルフ”にも、色んな“エルフ”がいるわよね。悪い“エルフ”も、そして良い“エルフ”も……)と想えるようになっていた。
ルイズが黙ってしまったのを見て、アンリエッタは笑顔になり、首肯いた。
「確かに、貴女には難しい選択かもしれません、でも……いずれ選ばなくてはいけない。ただ、忘れないで欲しいのは、この前の貴女に託した母君のマントの意味です。そこに縫い付けられた“百合紋”は、伊達ではありませぬ。そこには、“トリステイン”の未来が……引いては“ハルケギニア”の未来が賭かっているのです」
それでも、ルイズは首肯くことができなかった。ルイズの中の何かが拒否しているのである。
アンリエッタは、再び才人へと向き直る。
「……貴男も、ルイズのためなら命を賭けて戦うでしょう? 大事な人間を救うためなら、手段を選ばずに行動に出るでしょう? 私もそうです。2度と人同士が争うことに、我慢がならないのです。そのためなら、手段を選ぶつもりはありません」
「そのために、“エルフ”達がどうなっても良いと?」
才人が尋ねると、アンリエッタは首肯いた。
「私は、ヒトの国の王なのです。聖下と同じく、その掌には限界があります」
その言葉には、力強い響きが伴っていた。
「貴方方は、どう想いますか? タバサ嬢、イーヴァルディ殿、シオン女王陛下、セイヴァー殿」
そこで漸く、俺達へと質問が投げ掛けられた。
「私は、サイトに従うだけ」
タバサは、淡々と答える。
次いで、イーヴァルディが「僕は、“サーヴァント”だからね。“マスター”の意志に従うよ」と言った。
「貴方達は、どうなのですか?」
「私達は、反対です」
シオンは、キッパリと才人と同じ意見を口にした。
「いえ、正確には違いますが……交渉する、と言う点に関しては賛同できます。心の拠り所は、確かに大事ですから。ですが……力をもって“聖地”から“エルフ”達を退けさせるというのには反対です」
「それは、何故です?」
「先ず、互いに遺恨が残るからという点があります。互いを知ろうとしない、歩み寄ろうとしないから、過去から現在に至るまでこうなっていると私は想うのです。それに……セイヴァーやサイトがいた世界や国……セイヴァーと繋がっていたことで見た夢の中で知ったこと、セイヴァーから伝え聞いたことですが、例え、“聖地”を手にしたとしても、我々人同士の争いを、減らすことはできても、なくすことはできないと想います」
「…………」
「同じ宗教と神を信仰していても、宗派の違いというだけで、互いの考えが違う、国が違う、などといった理由だけでも争いは絶えず起きてしまう」
場に沈黙がまた流れた。
そんな中、ヴィットーリオは屈託のない声で言った。
「私は、“ロマリア”教皇に就任して3年になります。其の間、学んだ事がたった1つだけあるのです」
言葉を区切り、ヴィットーリオは力を込めて言った。
「博“愛”は誰も救えません」
「…………」
少しの間を置いて、ヴィットーリオは俺へと目を向ける。
「そうだな。博“愛”では誰も救うことはできないかもしれない。確かにそれはそうだろう。だが、俺はシオンと同じ意見だよ」
「そう、ですか……」
「それに、御前達の話を聞いていると、やはり疑問や違和感を抱いてしまってな」
「それはどういう?」
俺のその言葉に、ヴィットーリオは眉をひそめて問うて来た。
「先ず挙げるとすれば、“聖地”とされる場所に関して、“あの土地は、本来我々のモノ”といった言葉だ。ブリミルが降臨したとされる土地だということは理解できる。が、そこは元々“エルフ”達を始めとした者達のモノだろう」
「…………」
「何せ、“先住”などという言葉が出て来るのだ。ブリミルが件の“聖地”とやらに降臨する前からいたはずだしな」
皆、俺の勝手な考えを黙々と聴いてくれていた。
「何にしろ、どうするかを決めるのは、今を生きる御前達だ。勝手にこの世界に来た俺にとやかく言う権利などはないだろう。だが、これだけは言っておく。俺は御前達を含め、“
しばらく、無言のままの食事が続いた。
そんな中、才人は少し引っ掛かったことを尋ねる為に口を開いた。
「あの……質問良いですか?」
ニコヤカに、ヴィットーリオは首肯く。
「どうぞ」
「“虚無”や“サーヴァント”を集めるのは良いんですけど……“ガリア”の方はどうするんですか?」
その言葉に、タバサが小さく、ピクン、と動いた。が、それだけである。何事もなかったかのように、食事を再開した。
“ガリア”の“虚無の担い手”とその“使い魔”は、ルイズ達他の“担い手”を狙い続けている。そして、その“使い魔”である“ミョズニトニルン”は“キャスタークラス”の“サーヴァント”であり、彼方には“アサシン”と“アヴェンジャー”もいるのだ。
そして、その背後には“ガリア”王ジョゼフと、強力な“先住魔法”――“精霊の力”を操る“エルフ”がいる。
彼等が、此方と手を繋ぎ協力するとは考え難いのである。
“虚無”を集める、などと一言に言いはするが、最初から躓いてしまっているといえるだろう。
しかし、ヴィットーリオは笑顔を浮かべた。
「勿論、手を打ちます。そのために、皆さんに御集まり頂いたのです」
「どうやって?」
「3日後に、私の“即位3周年記念式典”が行われます。“ガリア”との国境の街、“アクレイア”に於いてです。勿論、“ガリア”王にも御出席を頂く」
「大人しく出席しますかね?」
「さあ? それはどちらでも構いません。そして、ミス・ヴァリエール、ミス・ウエストウッド。貴女方にも、出席を願います」
ルイズが、その意味に気付き、立ち上がった。
「まさか!? 私達を囮に?」
「これは私の式典……事前に私が“虚無の担い手”であるということは“ガリア”に流します。貴女方だけではありません。勿論、私も囮になるのです。私は、何事も自分で行わないと気が済まない性質ですから」
「危険です!」
「危険は承知。だが、このまま受け身でいる方が、余程危険です。“ガリア”王ジョゼフの野望は何か? それは恐らく、“虚無の担い手”を、己の持ち駒を除いて抹殺することです。そして、“ハルケギニア”を己がモノにする……彼は、“無能王”などと内外から嘲られておりますが、私はそうは想いません。狡猾で、残忍で、非情な男です。“無能王”とは、己が野望を隠す詭弁に過ぎません。そんな狡賢い男です。必ずや、“担い手”が3人揃ったと、“マスター”が4人揃ったとなれば、手を出して来るに違いありません」
ヴィットーリオが、ジョゼフに抱いている印象は的確であった。だが、それだけであるといえるだろう。
「で、どんな作戦を用意するんですか?」
興味を引かれたらしい、才人は身を乗り出した。
「サイト!」
ルイズが怒鳴って才人を睨む。
「良いじゃないかよ。さっきの話には反対だけど、こっちは賛成だ。“ガリア”王の横暴には反吐が出る。散々俺達を痛め付けやがって……タバサにも非道いことをしやがった。赦せないよ。どうせいつか何とかしなくちゃならないんだ。早めに片付けておくに限る」
才人のその言葉に、ヴィットーリオは満足げに首肯いた。
「恐らく、彼は先ず“使い魔”の方を出して来るでしょう。貴方方が何度か手合わせした、“ミョズニトニルン”……あの、“魔道具使い”の女です」
「でしょうね」
「我々は、全力で“ミョズニトニルン”を捕えるのです。ただ、決して殺してはなりません」
「何故ですか?」
「殺してしまっては、再び“使い魔”を“召喚”されるからです。生かして捕らえ、その存在を守る。そうすれば、“ガリア”の“担い手”は再び“使い魔”を“召喚”することができません。“使い魔”なしでは、“虚無の担い手”もその力を半減させるでしょう。その時こそ好機。後は交渉に持ち込み、ジョゼフ王を廃位に追い込む。その後は、時を見てタバサ嬢、貴女を玉座に据えても良いでしょう」
「そりゃ良いや! やりましょう!」
アンリエッタが、頼もしげな目で才人を見詰めた。
ジュリオも笑みを浮かべ、ティファニアも首肯いた。
ただ……俺とシオンとルイズだけが首を縦に振ることはなかった。
「反対です!」
「どうしてだよ?」
ルイズのその言葉に、才人は怪訝な顔で見詰め問い返す。
ルイズは、(どこまで暢気なのかしら!?)と頭に来てしまった。
此方には“虚無の担い手”が3人いる。とはいっても、“使い魔”は才人とジュリオの2人だけである。その上、ジュリオは“ヴィンダールヴ”である。獣を扱うのが上手いとはいいはするが、“虚無”同士の戦いには力不足な点があるといえるだろう。
かつて“アルビオン”で、鮮やかに“竜騎士”を撃墜してみせた手並みから言っても、ジュリオが相当戦慣れしているちおうことは間違いないだろう。
ただ……それは正規の戦闘に於いての話である。“虚無”のみならず、古代の“魔道具”が飛び交う戦場で、どれほどの役に立つのかは、未知数である。
その上、ティファニアが現在使用できる“魔法”は“忘却”のみである。強力ではあるのだが、直接の戦闘に役立つ“呪文”ではない。
ヴィットーリオに至っては、得意な“呪文”すら、ルイズ達には理解っていないのである。強力である可能性は勿論あるが、この優男の教皇に豊富な実戦体験があるとは、ルイズには想えなかった。戦いというモノは、“魔法”の強力さだけで決まる訳ではないのだから。それを応用することができる践能力が必要であるといえるだろう。戦いの経験が豊富であれば、“ドット”が“トライアングル”を圧倒する可能性すら存在するのだから……。
それに対し……相手はたった“担い手”と“使い魔”……その力は未知数である。
“汎ゆる魔道具を自在に操る”力を持つ“ミョズニトニルン”……。
そして、“ガリア”は、“先住魔法”を操る“エルフ”さえも味方に着けているのである。
ルイズは、(今まで私達は負けなかったけど……決定的な勝利を収めることもできなかったわ。いいえ、負けなかったことにしても、ただ運が良かっただけかもしれない。向こうはまだ本気を出していない可能性だってあるんだもの)と考え、この前の“
「私達は、“ミョズニトニルン”1人にすら苦戦しています。“担い手”が加わった時の戦闘力は想像すらできません。危険です。もっと慎重に……」
「我々に必要なのは勇気です。現状を変える勇気。これ以上、敵に力を付けられてしまう前に、決着を付けねばなりません」
キッパリと、ヴィットーリオは言い切った。
才人も大きく首肯いた。
「ルイズ、俺は聖下の言うことはもっともだと想うよ」
ルイズは、(この馬鹿!)と心の中で叫んだ
此方が戦うことのできる人数はそれなりであるといえるだろう……が、主に戦うのは才人達なのである。才人はルイズの“詠唱”の時間を稼ぐ必要があるのだ。本気を出した敵を相手にしてしまえば……想像に難くないといえるだろう。
だが、ルイズは、(保身に走ったと想われてしまうわ。サイトの安全を口にすれば、主人の私が、身の安全を優先したと想われちゃう。自らも囮になる、と言い切った聖下は、
ルイズは苦しそうな口調で、反対を口にすることしかできなかった。
「……それでも、私は反対です。教皇の御身を危険に晒すような計画には賛成できません」
「確かに、ルイズの言うことも一理あるだろう。だが、御前達は、忘れていることがある。相手は、“ガリア”には “サーヴァント”がいるということを」
「それは、“ミョズニトニルン”が“キャスター”だってことだろう?」
ジュリオが笑顔で言った。
「それもある。が、それだけではない。あそこの“サーヴァント”は3体……“アサシン”と“アヴェンジャー”がいる」
「数はこっちの方が多いじゃねえか。何だよ? 怖気付いたのか? 珍しいな」
才人は調子に乗っている様子で、俺へと言った。
「阿呆が。“サーヴァント”の“クラス”を考えろ。“アサシン”は文字通り、暗殺者だ。こちらの警戒網を潜って来る可能性を考えろ。それに、“サーヴァント”には“宝具”があるんだぞ。御前達はあいつ等の“宝具”の効果を把握してるのか? もっと慎重になれ、馬鹿者が」
俺は、そんな才人へと言い返す。
そんな中でも、ヴィットーリオは笑顔のまま、口を開いた。
「貴方方の言う通り、あちらの戦力は未知数です。だらかこそ、早めに手を打ちたいのです。ですがまあ、いきなり協力しろと言われて、直ぐに納得できるはずもないでしょう。ユックリ御考え下さい。きっと私の方法が正しいと御思いになるでしょうから」