ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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鋼鉄の虎

「全く……何をモタモタしている!?」

 “虎街道”の宿場町……無人となったはずのそこに、シェフィールドは“ヨルムンガント”を待機させていた。

 彼女は薄い青色をしたモノクルをその目に嵌めている。“魔道具”の一種である。各“ヨルムンガント”の視界が、それに映し出されるのである。これにより、シェフィールドは100体もの“ヨルムンガント”を、まるで自身の手足のように扱うことができるのである。本来、“ミョズニトニルン”としての能力だけでは数十体ほどが限界であったといえるだろう。だが、今のシェフィールドは、“ミョズニトニルン”であると同時に“キャスター”の“サーヴァント”である。これくらいはできても何ら可怪しくはない。

 降下してから1時間が過ぎていた。

 その間の“ロマリア”側の反撃が中々にしつこい――堅く、持ち込んだ大砲の弾と火薬が切れてしまったのである。

 効率良く殲滅するためには、装備した剣だけでは心許ないといえるだろう。

 “ヨルムンガント”には“先住魔法”の“反射”が掛けられているとはいえ、完全に敵の攻撃を跳ね返すことができる訳ではないのである。攻撃を受け続ければ当然、“反射”の効力は切れてしまう。

 敵の大砲や“メイジ”の“魔法”を沈黙させる、飛び道具はやはり必要であるといえるのだ。

 砲弾が切れた場合、“フネ”が降下して補給する手筈であったのだが……。

 だが……先程やっと始まったのは“ロマリア”艦隊との砲戦が未だ終わらないのである。数で大幅に勝っている“両用艦隊”であるのだが、3分の1の艦で、反乱及び戦闘拒否が発生していたためである。

 結果、混乱した艦隊は、戦意に勝る“ロマリア”艦隊に終始翻弄され続けているのであった。故に、補給物資を降下させることができないのである

 補給を受けることができない、ということに、シェフィールドにとってもう1つ困ることがあった。

 “エルフ”の協力を得て開発された“魔導兵器ヨルムンガント”の動力は“先住魔法”の結晶……詰まり“風石”であるといえる。重い甲冑を身軽に動かすために、“ヨルムンガント”は大量の“風石”を必要とするのである。“風石”が切れれば、勿論“ヨルムンガント”は身動きが取れなくなってしまう。そうなれば、幾ら強力な甲冑人形であろうとも、ただの鉄の塊に過ぎない代物になってしまう。挑発的に現れる敵部隊を撃滅する際に、激しく動いたためにそろそろ“風石”が心細くなり掛けているのである。シェフィールドは、“キャスター”として“風石”を生み出すことはできはするのだが、未だ上手く造ることができないため、“エルフ”から貰い受けるしかないのが現状であった。“ロマリア”軍にかなりの出血を強いたとはいえ、彼女にとって今の状況や状態は喜べはしないのであった。

 目的は、“ロマリア”軍の出血ではなく、全滅であるのだから、

 そうでなければ、国土を灰にすることなどできやしない。ジョゼフがそう望む以上、シェフィールドは“ロマリア”を灰にするつもりであるのだ。

 この“ヨルムンガント”や“竜牙兵”させいれば、国内の各都市に散らばる“ロマリア”軍など、ものの数ではない。そう、シェフィールドは判断していた。

 だが、“ロマリア”側は兵力を国境付近に集結させていた。

 また、更にその背後には“サーヴァント”の存在がある。

 それでも、何としてでもシェフィールドには目的を遂行する必要があった。そうでなければ、彼女は、(自分は存在の価値を失う)、と想っているためである。

 気を揉むシェフィールドの視界に、艦列から離れ、降下して来た1艦が目に入った。

 “ヨルムンガント”を空から偵察しようというのであろう。

 シェフィールドは赤い唇を歪めて、笑みを浮かべた。

 艦が更に近付いて来るのを、シェフィールドは待った。

 敵艦が上空100“メイル”ほどに達した時、シェフィールドは2体の“ヨルムンガント”をしゃがませて、両手を組ませた。その手の上に別の1体の足を乗せ、空へと放り投げさせたのである。

 空に浮かんだ“ヨルムンガント”は、蠅取蜘蛛のように敵艦に取り着いた。相手はまさか、“ゴーレム”が、ジャンプする、などと夢にも想わなかったであろう。

 積載量ギリギリに大砲や砲弾を積んでいる軍艦は、“ヨルムンガント”の重さに耐え切ることなど到底できるはずもなく、落下した。

 地面に落ちると、10体の“ヨルムンガント”が“フネ”をバラバラにして、“風石”を引き摺り出す。“ヨルムンガント”達は、まるでヒトが豆でも食らうかのように、口の部分から奪い取った“風石”を呑み込んだ。それから大砲を奪い取る。“ヨルムンガント”は、砲弾と火薬を腰の袋に仕舞い込んだ。

 次いで、“竜牙兵”達は、船員達を無惨にも殺して行くのであった。

 シェフィールドは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

「凄いな。あの“ゴーレム”、跳んで“フネ”を叩き落としやがった」

 レイナールが、感嘆した声で呟く。

 “水精霊騎士隊”の少年達と俺は、ヴェルダンデが掘った穴を通って、宿場町が見えるところまでやって来たのである。

 地面に顔を出すことができる程度の穴を作り、上にマントを被せ、更にその上に土を掛ける。中々に、凝った造りの偽装であるといえるだろう

 マントと地面の小さな隙間から、俺達はかれこれ30分ばかり様子を窺っている。

 入り口で待ち構えるルイズ達の前まで敵を引っ張る、といっても、一体どうすれば良いのか皆検討も着かないのである。

 勿論、俺が派手に暴れて誘き寄せれば解決するのだが。それでは駄目だろう。

 ギーシュが、困ったような声で言った。

「あれは“ゴーレム”じゃない。“アルビオン”で見たのと同じもんだな」

「強いんだろ?」

「“魔法”が効かない。どうやら“エルフ”の“先住魔法”が掛かってる。それを何とかできるのは、“ルイズ”の“魔法”か、セイヴァーの力くらいだろうな」

 少年達は、ギーシュのその言葉に青くなった。

「さてさて、ホントにどうしたもんか……」

 ギーシュは悩んだ。

 下手に手を出してしまえば、剣と大砲などでバラバラにされてしまうだろうことは明白である。また、“竜牙兵”の存在もあるのだから、堪ったモノではないだろう。

「いずれ待っていれば、ルイズ達の前に出て来てくれるんじゃないか?」

 ギムリが言った。

「いや……迂回されるかもしれん」

「左右は切り立った崖だぜ? どうやって迂回するっていうんだ?」

「あの身の熟しなら、この崖を攀じ登ることだってできるんじゃないか? 兎に角、“ロマリア”軍が入り口を包囲していることはあいつ等も理解ってるだろう。馬鹿じゃないんだから。恐らく、艦隊の支援が受けられるなら、真正面から包囲戦の突破を図るだろうね」

 レイナールが持論を述べ、ギーシュと俺は首肯く。

「そうだね。だが、艦隊の支援が受けられないなら……」

「マトモな指揮官なら、迂回か、艦隊決戦が終わるまでここで待機。どちらを選ぶだろう?」

 マリコルヌは“遠見”の“呪文”を使い、空を見上げた。

 ダラダラと艦隊戦は続いている。双方、余りやる気があるようには感じられない。1年経っても終わらない、そう想わせて来る様子である。

「ありゃあ、勝負が着かないね」

 レイナールの予想は当たった。

 騎士人形達は、指をハーケンのように硬い岩壁に打ち立て、左右の崖を攀じ登り始めたのである。山伝いに進軍して、味方の側面を突くつもりのようである。

「高さは200“メイル”以上あるぜ? 本気で登るつもりか?」

「本気らしい。いやはや器用だな……まるで軽業師だよ」

 ユックリとだが確実に、“ヨルムンガント”達は攀じ登って行く。その背には、わらわらと“竜牙兵”がひっ着いているのが見える。

 展開した“ロマリア”軍は、入り口に砲口を向けている。両脇の崖を下って攻撃されてしま得ば、味方は混乱してしまうであろうし、ルイズ達との計画もまた失敗してしまう。

「仕方無い。兎に角注意を引こう。セイヴァー、悪いけど」

「承知しているよ。御前達の身の安全は保証する」

 ギーシュは側にいたヴェルダンデへと口吻した。

 真顔であったために、少年達は、おぷ、と口を押さえた。

「もし僕が死んだら、ヴェルダンデ。君はモンモランシーにこれを届けるんだ。良いね?」

 髪を一房切ると、ギーシュはそれをヴェルダンデに手渡した。

 嫌々をするように、ヴェルダンデは目に一杯涙を溜めながら首を横に振る。

「笑って見送ってくれ。僕は“貴族”なんだ」

 それを見ていた少年達も、それぞれ蛇や梟などといった自分の“使い魔”にそれぞれ髪の房を渡した。恋人や家族への言葉と共に……。

「レイナール、作戦を言え」

 ギーシュが硬い声で言った。

「作戦? おいおいどうしろって言うんだ? “魔法”を撃ちまくり注意を引いて、後はセイヴァーの援護と共に“フライ”で逃げる。こっちに向かって来れれば御慰み。そんくらいだね」

「上等だ。行くぞ」

 ギーシュは穴から飛び出すと、青銅の薔薇を振り、“ゴーレム”――“ワルキューレ”を作り出す。

 少年達も、それぞれ“魔法”を放った。

「さて、俺もやりますかね……」

 弓矢を“投影”し、“ヨルムンガント”へと向けて放つ。

 崖を攀じ登ろうとしていた“ヨルムンガント”の甲冑に、次々少年達の“魔法”が撃つかりはするが爆ぜるだけである。全く効いていない。

 俺の矢が、1体の“ヨルムンガント”の身体を貫通するのみである。

 ユックリと、“ヨルムンガント”達が首を此方へと向ける。

「馬鹿野郎! こっちだ!」

 ギーシュ達は恐怖で震えながら野次を飛ばした。

 1体ほどの“ヨルムンガント”が、ガチャリ、と音を立てて地面へと飛び降りる。それから、大砲を撃っ放す。

「“風魔法”!」

 騎士隊の“風”使い達が、自分達の上に“魔法”の壁を作り上げる。見事に大砲の弾を受け止め、その上で弾が弾ける。

 ギーシュ達は散々に“魔法”を撃っ放しながら、相手を挑発した。

 “ワルキューレ”がギーシュの意志を汲み取り反映するかのように、踊り始める。

「おい! “ガリア”の罰当たりめ! 僕達が相手してやる! こっちに来い!」

 すると、10体もの“ヨルムンガント”達が、ズシンズシン、と向かって来る。手には剣を握り締めているのが見える。その後に、“竜牙兵”達も続いて来る。

「来やがった!  来やがった!」

「諸君! 撤退だ!」

 ギーシュ達は“フライ”の“呪文”を唱え、直ぐ様逃げ始める。その後に、俺が殿を務める。

 そして、確かに空を行く“フライ”の方が“ヨルムンガント”達の歩行速度より速いといえるだろう。逃げ出すことも可能であるのだが……。

「速度差に気を付けろよ! 相手に追撃を諦めさせるな!」

 “ヨルムンガント”達は時折立ち止まり、大砲に弾を込めて撃っ放す。

 放たれたのは、“葡萄弾”と呼ばれる、小さな弾を何個も放つ散弾の一種である。

 飛んでいる目標には当たり辛いとはいえ、此方は生身である。当たればどうなるかは明白であるといえるだろう。

 向かって来る散弾を、俺は片っ端から弾き飛ばす。

 が――。

「――ぐっ!?」

 一発喰らったギーシュの肩から血が流れた。

「ギーシュ! 大丈夫か?」

「すまない! 捌き切れなかった!」

「……く、平気だ。諸君! このまま飛ぶぞ! あの光に向かって飛べ!」

 俺のミスを気にした風も責めるでもなく、ギーシュは、遠くに見える“虎街道”の出口を指さした。

 

 

 

「見付けた」

 シェフィールドは、恋い焦がれた少女に戻ったように、楽しげな声を漏らした。

 あの青銅の“ゴーレム”を操る少年――ギーシュ……“アルビオン”で、“担い手”である少女――ルイズと共にいたことを想い出したのである。

 そして、更にその後方にいる者を目にして、シェフィールドの笑みが凶悪なモノになる。

「御前達も含めて、幾千、幾万もの軍勢だろうが全てを踏み潰す。あいつ等には何、110,000の軍勢を止めたかもしれないが……私は全てを踏み潰すのさ。そう、虫を潰すみたいにね。御前達など、その1つに過ぎないんだよ」

 “ヨルムンガント”は、力強く駆ける。

 どんな相手が来ようが、負けはせぬ。そういった高揚感がシェフィールドの身体を包んでいた。

 揺れるヨルムンガントの肩の上で、(これほど強力な“使い魔”たる自分が……何故何度もあいつ等に煮え湯を呑まされて来たのかしら? “アルビオン”で、“トリステイン”で、幾度となくあの“トリステイン”の“担い手”とその“使い魔”、“マスター”と“サーヴァント”達、は私を敗北に追いやった。絆の深さの差?)と考え始める。

 シェフィールドとジョゼフのそれは、絆などでは決してないといえるだろう。

 だが……どうにも、シェフィールドの感情が震えるのでsる。認めたくない嫉妬が胸の底から沸き起こるのである。

 同じ“虚無の使い魔”や“サーヴァント”であるにも関わらず、ジョゼフはシェフィールドのことを欠片ほども“愛”していないのである。

 その事実を、あの青い薔薇が燃え盛る庭園で、シェフィールドは想い知ったのである。その時より、シェフィールドの胸には、暗い嫉妬の炎が燃えるのであった。

 “ミョズニトニルン”、と刻まれた額の“ルーン”が力強く光る。

「今日こそ、踏み潰してやる。燃やし尽くして灰にして、この大地に振り撒いてやる」

 シェフィールドは、“ロマリア”の大地が灰になろうがどうなろうがどうでも良かったのである。シェフィールドは、(あの4人を……この世から消し去ることができれば、それで満足……そうしたら……今度こそあのジョゼフ様は……私を……)と考え、唇が歪む。ウットリとした笑みを浮かべ、“ミョズニトニルン(神の頭脳)”は“水精霊騎士隊(オンディーヌ)”と“代替者(オルタネーター)”を追撃した。

 

 

 

「入って行ってから1時間になるが……あいつ等は何をしているんだ? まさか、逃げたんじゃないだろうな?」

 カルロが言った。

「それはありません。皆こっちに向かって来てます」

 カルロの言葉を、シオンは強く否定する。

 ルイズの“虚無魔法”の“詠唱”は既に完成し、終わっていた。かつて“アルビオン”で、あの“ヨルムンガント”を爆発させた“エクスプロージョン”である。

 ルイズは毅然として、“杖”を構えたまま瞑想でもするかのように立ち尽くしている。“虚無”を唱えると……わずかではあが、心の中の黒い穴が埋まる気がして、ルイズの気持ちが少しばかり安らぐのであった。

 街道の先から、叫び声が聞こ得て来る。

「……うわぁあああああああああああ!」

 ルイズは目を凝らした。

 小さな点が幾つも飛んで来るのである。

 それは“フライ”で飛ぶ“水精霊騎士隊”の面々であった。

 その背後に、10体もの“ヨルムンガント”が見える。シェフィールドが先行させた10体である。

「ルイズゥウウウウウウ! 後は任せたぞおおおおおおおお!」

 次々に少年達が、ルイズの側を飛び退り、擦れ違って行く。

 ルイズとシオンの横に、俺は着地する。

 “ヨルムンガント”は距離100“メイル”で待ち構えているルイズに気付き、大砲を構える。

 だが、遅い。

 ルイズは迫り来る10体もの“ヨルムンガント”目掛けて、完成した“エクスプロージョン”を放った。

 白く小さな光が、10体の“ヨルムンガント”の間に生まれ……膨れ上がり……“ヨルムンガント”を包む。

「やったか!?」

 カルロが笑みを浮かべた。

 そのカルロの言葉に、「この馬鹿“聖堂騎士”が……」と、俺は天を仰ぎ見る。

 次の瞬間、カルロのその笑みが驚愕に歪められる。

 薄っすらと光が掻き消えたのだが……そこには、何事もなかったかのように、“ヨルムンガント”が立っているのである。

「無傷……」

 ルイズも、呆然とその様子を見詰めた。

「……どうして?」

 “アルビオン”で戦った時には、“エクスプロージョン”は効いていたのだが……。

 シオンは、真っ直ぐ“ヨルムンガント”を見詰める。

「あの時は、1体だけだったから……それに」

 シオンの言葉が終わる前に、“ヨルムンガント”の口が開き、シェフィールドの声が響いた。

「御久し振りね。“トリステイン”の“虚無”。そして、“マスター”。こうやって御逢い出来る日を愉しみにしていたわ」

「“ミョズニトニルン”!」

「残念ね。“エルフ”の技術で、装甲に焼入れを施したのよ。表面の“カウンター”は“虚無”で消し飛ばせても、残った威力では、下の装甲はどうにもできないのよ」

 心底、愉しそうな声シェフィールドは言った。

「うわぁああああああああああ!」

 周りを守るカルロが、悲鳴を上げて逃げ出した。

 “聖堂騎士隊”は、群れをなして遁走する。

 ルイズの側には、俺とシオンの2人しかいない。

 後ろで、ギーシュ達が叫んだ。

「ルイズ! シオン! 逃げろ!」

 だが……ルイズの足は動かない。

「私は……“聖女”なのよ。逃げられる訳ないじゃない」

 獲物をいたぶるかのように、ユックリと“ヨルムンガント”が近付いて来る。

「援護だ。ルイズを援護しろ!」

 様々な“魔法”が飛んで、“ヨルムンガント”へと襲い掛かる。

 だが……“カウンター”が破られたとはいえ、“エルフ”により焼入れを施された甲冑はやはり強固である。

 氷の矢や炎の球は元より、“錬金”さえも受け付けはしない。

 ルイズは“呪文”を唱えようとした。効かぬなら、何度でも、効くまで放つまで、といった風に。

「シオン! ルイズを連れて退がれ!」

 俺のその言葉と同時に、巨大な剣が振り下ろされる。

 ブンッ!

 ルイズとシオンの眼の前の地面に突き刺さるかと思われた剣を、俺は“投影”した剣で受け止める。

 その風圧で、ルイズとシオンの2人は後ろへと吹き飛んでしまう。

 “杖”が手から離れて、ルイズはうずくまる。

「御前達……今まで随分と手古摺らせてくれたねえ。ただ殺しはしないよ。貴様達が、私とジョゼフ様を虚仮にした分だけ苦しめてやる。“アサシン”! “アヴェンジャー”!」

 そのシェフィールドの言葉で、2人の“サーヴァント”が姿を現した。

 ルイズは立ち上がろうとした。だが……腰が抜けてしまったのだろう、立つことができないでいる様子だ。

 全長25“メイル”もある“ヨルムンガント”や2人の“サーヴァント”は、まさに恐怖の具現とでもいえるのだから。

 周りを取り囲んでいる“ロマリア”軍が、“ヨルムンガント”へと向けて一斉に射撃を開始した。砲弾が飛び、“ヨルムンガント”の巨体に炸裂する。至近距離であるために、流石に外れることはない。

 数十発もの砲弾が、“ヨルムンガント”の表面で弾けた。“反射”による淡い光が輝き、尽く攻撃を跳ね返すのである。

 ルイズとシオンの周りに、砲弾の欠片が降り注ぐ。

 “水精霊騎士隊”の誰かが、ルイズの上に防御“魔法”を張った。

 次いで、“魔法”が幾つも飛んだ。だが、砲弾と同じ結果である。氷の矢も、火球も、電撃の光も、“ヨルムンガント”には全く効果がない。

「うわあああああああああああ!? 化け物だぁあああああああああ!」

 先ずは兵が逃げ出した。それを止めるべき士官や騎士達も、算を乱して逃げ出し始める。

 無理もないことであるといえるだろう。

 “聖戦”とはいっても、攻撃が効かないのであれば、犬死をするだけなのだから。

 相手を倒す“武器”がなければ、勇気を発揮させることは難しいのである。

 そんな中、俺を含みたった3人だけが立ち上がる。

 ルイズとシオンである。

 ルイズは、(諦めるな。今まで何度も、こんな窮地はあったじゃないの。そのたびに私は、それを潜り抜けて来たじゃない。神に選ばれた力で……この選ばれし“系統”――“虚無”で)と自身に言い聞かせた。

 ルイズは、側に転がっている自身の“杖”に飛び付いた。それを両手で握り、“ヨルムンガント”へと突き付ける。

「馬鹿にしないで。私、何度もあんた達に煮え湯を呑ませて来たのよ。今回だって、きっと負けないわ」

 其の言葉が虚しく響く。

「ほう。どうやって?」

「私の“魔法”でよ!」

「寝言にしか聞こ得ないよ。御前の“魔法”何か効かないじゃにあか! この場で唯一対抗できるのは、そこの“オルタネーター”だけ。全く“虚無の担い手”が呆れるよ!」

 そんなシェフィールドとの会話の中で、(どうやって私は、いつも勝利を収めて来たの?)とルイズは疑問を抱き始めた。

「御前の“使い魔”はどうしたね? いつも番犬のように、御前の前に立ち塞がっていたじゃないか? とうとう愛想を尽かされたのかい?」

「私に“使い魔”はいないわ! 私はたった1人で……」

 ルイズの頭が割れそうなほどに痛んだ。再び、膝を突く。

 心の底の暗い穴が……ポッカリと開いた深淵が、ルイズを責め苛んでいるのである。

 アンリエッタに言われた、「優しくって、愚かね。ルイズ」という言葉が、ルイズの脳裏を過った。

 ルイズは、(私は本当に、たった1人で勝利を収めて来たの? 確かに、シオンやセイヴァー達が助けてくれた。けど……)と自問を始める。

 そして……何度もギーシュ達が口にした言葉を想い出し、(サイトって誰?)とルイズは想った。

「……誰?」

 その名前を想うことで、心の底の暗がりが。自分を苦しめるポッカリと開いた穴が、遠くへと掻き消えて行くかのように、ルイズには感じられた。

 行き場を求めて彷徨う気持ちが、帰るべき家を見付けたかのような感覚……。

 ルイズは混乱した。

 そんなルイズを見て、シェフィールドは笑い転げた。

「忘れちまったのかい? それとも、ホントのホントに愛想を尽かされたのかい? 無理もないね、御前は本当にどう仕様もない、能なしの中の能なしだからね! ああ、この私が、御前のような能なしに何度も土を付けられただなんて!  全く自分が情けないよ! だけど、それも今日で最後だ。御前が死ぬところを、あの御方に見せて差し上げる。そうすれば、あの御方も気付くはずさ。この世で、誰が1番なのかってね」

「黙っていろ、“キャスター”。それ以上、口を開くというのであれば、容赦しないぞ?」

 俺から放たれる言葉と雰囲気に、場が凍り付く。

 こういった現状を招いたのは自分であるという点があるのは確かだ。そして、眼の前のシェフィールドの気持ちも十分に理解できる。“愛”としいとさえ想える。だが、それでも、その言葉だけには、自分のことだけは赦すことができず、我慢することができなかった。

 俺は、“魔力放出”を行い、“ヨルムンガント”を吹き飛ばす。

 そんな中でも、ルイズは痛む頭を押さえながら、考えていた。

 そして、ルイズの脳裏に、何かが瞬いた。

 数々の窮地の場面。

 それを切り抜けて来たルイズ。

 それから、(でも、その私……何だか夢の中の出来事のみたいに心許無いわ。あの私は……私じゃない? 誰かが……いた? だとしたら、誰がいたの?)とルイズは考えた。

 黒い影が、ルイズの心を過る。

 それは優しい影であった。

 その影が、記憶の中のルイズを振り払い、ルイズの前に立ち塞がる。

「……けて」

 ルイズの口から、ポロッと言葉が漏れた、気丈に睨み付けていた目が、緩やかに崩れた。その端から、涙が一筋が溢れれ、柔らかい頬を伝う。

「たすけて」

 気付くと、ルイズは救いを求める声を口にしていた。

「命乞いかい? 貴様、この私に命乞いをしているのかい?」

「サイト、救けて」

 意味の理解らぬ呪文であるかのように、ルイズの口からその言葉が溢れた。

 今のルイズには、誰かは判らない。が、それでも、その名前を口にすることで、何とかなるような、そんな風にルイズは感じたためである。

「おやおや、とうとう“詠唱”すら諦めて命乞いか!? 全く貴様の“虚無”など、我が主人の扱うそれに比べたら、子供の飯事だよ。“虚無”の恥晒しめ! 死ね!」

 “ヨルムンガント”は足を振り上げた。

 ルイズの視界に、巨大な“ヨルムンガント”の足が映る。

 ルイズを踏み潰さんとする、巨人の鉄槌である。

 ルイズは目を瞑って、絶叫した。

「サイト! 救けて!」

 ルイズは、(死にたくない。絶対に、死にたくない。もし死んだら……あの優しい影に、2度と逢うことができないじゃない)と想った。それは、死より悲しいことであるかのように、ルイズは想えたのである。

 ……瞬間。

 ガゴンっ!

 硬い何かが打ち当たる鈍い音が響いた。

 ルイズが目を開けると、自分を踏み潰そうとしていた“ヨルムンガント”の足が……なかったのである。

「遅いぞ、この馬鹿が。いや、ちょうど良いタイミングってか……ルイズの騎士(ヒーロー)さんよ」

 俺の呟きと同時に、ユックリと“ヨルムンガント”の巨体が、後ろへと傾いて行く。岩壁にその巨体が打ち当たり、ジタバタと暴れる。片足を失ったために、立てないようである。

「え?」

 ルイズ達は、何が起こったのか良く判らない、といった様子を見せる。

 他の“ヨルムンガント”8体は警戒態勢を取り、岩陰へとそれぞれ身を隠す。

「ルイズーッ!」

 ルイズを助け出すチャンスを伺っていたギーシュ達が駆け寄って来る。

「2人を頼む」

「理解った」

 彼等はルイズとシオンを抱え起こすと、“ヨルムンガント”から離れた場所へと逃げ出した。

 張り詰めていた緊張の糸が切れ、ルイズは気を失った。

 

 

 

 照準器を覗き込む才人の視線の向こうで、ユックリと“ヨルムンガント”が傾き、岩と土砂を撒き散らしながら、峡谷の岩壁に倒れ込むのが見えた。

 “ヨルムンガント”は、派手に土砂と岩などの欠片を撒き散らす。

「ちょっと下だったかな?」

 三角形が幾つも並ぶ照準器のレンズを覗き込みながら才人は言った。

 “ヨルムンガント”の幅は、大凡6“メイル”……と才人は想っていたのだが、どうやら8“メイル”はあるだろうことが判った。

 敵の大きさを見誤り、狙った場所より下に着弾してしまったのである。

 才人は、照準器の倍率を調節する。

 才人はわずかに“88mm砲”の仰角を上げ、照準器のレンズに映る、真ん中の大きな3角の真上に倒れてもがく“ヨルムンガント”を収めた。

 そして、才人は握った発射レバーを思い切り引いた。

 砲塔内に轟音は響き、煙に包まれる。

 煙は天上のベンチレーターに吸い込まれ、外へと排出された。

 光の矢のような“88mm砲弾”が、倒れた“ヨルムンガント”に吸い込まれる。

 幾ら“先住魔法”の“カウンター”といえども、想定する威力というモノがある。相手の力が強ければ強いほどに、効果を発揮する“カウンター”にもやはり限界値はあった。

 “88mm鉄鋼弾”は、“ハルケギニア”の単位に換算し、距離2,000“メイル”で84mmの装甲板を撃ち抜くことができる。そんな分厚い装甲は、未だ“此の世界”には存在しないのである。

 それを貫く“タイガー戦車”の鉄鋼弾は、まさに想定外の存在であるといえるだろう。

 秒速750m以上の速度で回転しながら、“88mm鉄鋼弾”は倒れた“ヨルムンガント”の胴体に見事命中し、散々“貴族”達を苦しめた甲冑をまるで薄紙のように貫き、中で炸薬を爆発させた。

 “ヨルムンガント”の甲冑が膨れ上がり……バラバラに弾け飛んだ。

 戦車砲の後尾から薬莢が排出され、どすん、と布製のバッグに落ちる。

 その隣では、青い髪の少女が、自分の身長の半分ほどもある大きな砲弾を重そうに抱えている。

「タバサ、それじゃない。先っぽが赤い奴を頼む」

 タバサは首肯き、砲架から別の砲弾を持ち上げ、“88mm砲”に押し込んだ。才人が教えた通り尾栓を閉める。

 再び才人は、照準器を覗き込んだ。

 岩陰の間に隠れた“ヨルムンガント”を探す。此方を窺うかのようにヒョッコリと顔を出した瞬間を、才人は逃さない。

「ばっか野郎。どこ見てやがる」

 再び、才人は発射レバーを引いた。

 轟音。

 狙い違わず、“ヨルムンガント”の顔に“88mm砲弾”が命中する。

 “ヨルムンガント”はヨロヨロと崩れ落ちた。

「やったな! サイト君!」

 全部の操縦席に座るコルベールの声が、耳に着けたヘッドフォンから才人の耳へと響く。

 隣の無選手の席に座ったキュルケが、驚いた声を上げた。

「凄いわ……2“リーグ”は離れてるのよ。それなのに砲弾が命中するなんて!」

 宿舎を飛び出した才人が、言われた通りに倉庫へと向かうと、そこではコルベールの手により整備が終わった“タイガー戦車”、そしてキュルケ達がいたのであった。彼等は、式典の間中、そこで整備を続けていたのである。

 才人は“タイガー戦車”に“ゼロ戦”用の“ガソリン”をしこたま詰め込み、ここまで自走して来たのである。操縦は最初才人が行い、隣でその操作を見守っていたコルベールが、それに代わった。整備により、構造を熟知していたコルベールは直ぐに操作に慣れたのであった。

「このティグレス()と言ったかな? 戦車の操縦は、あの、ひこうき、に比べたらずっと簡単だな! ここをこすうれば、前に動き……」

 コルベールはアクセルを踏み締めた。

 “タイガー戦車”の“エンジン”が吼え、隠れていた小高い丘の茂みの中から姿を現す。そこの丘からは、“虎街道”の入り口が一望出来るのであった。

「この操作円盤を回せば、回頭する」

 自動車の其れと良く似たハンドルを、コルベールは回す。

 すると、グルリと軽快に“タイガー戦車”は進路を変えるのであった。

「……と。姿を表しては、不味っかったかね?」

「いえ。どっちみち砲煙で位置はバレます。このまま突っ込みましょう。敵をこっちに引き付けないと」

 “タイガー戦車”は地響きを立てて、“虎街道”の入り口目指して突進を開始した。

 “ヨルムンガント”を2体も破壊した鋼鉄の塊を認め、潰走していた“ロマリア”軍から歓声が沸いた。

 

 

 

 “ヨルムンガント”が破壊されるのを、シェフィールドのモノクルのレンズ超しに確認した。

「2“リーグ”も離れた場所から、“ヨルムンガント”の装甲を撃ち抜いただと……?」

 到底信じることができないことであった。

 だが……そのようなことをやって退ける存在を、シェフィールドは知っていた。

「とうとう現れたようだね。面白い。決着を着けようじゃないの。“ガンダールヴ”」

 

 

 

 轟音を立て、土を掘り返し、街道の入り口を目指す“タイガー戦車”の周りに、“ロマリア”の将兵が集まって来た。

 才人がハッチから顔を出すと、馬に跨って併走する1人の騎士が、才人に呼び掛けた。

「援軍感謝! あの悪魔のような甲冑人形をやっつけるなんて……! 貴官の所属を述べられたし!」

「“トリステイン王国”、“水精霊騎士隊(オンディーヌ)”!」

「了解! 御頼み申す! 旗がなくては士気に関わる! これを掲げられよ!」

 騎士は、才人に旗を放って寄越した。

 それは、黒字に白抜きで、“聖具”が描かれた旗である。

「何だこれ?」

 才人がキョトンとしていると、隣のハッチから頭をピョコンと出したタバサが教える。

「“聖戦旗”」

 そのデザインは、車体に描かれている鉄十字に似ているといえるだろう。

 才人は、「何だか妙なことになってるな。“地球”の十字架が描かれた戦車が、“異世界”の“聖具”を背負って戦うんだから……」と独り言ちる。

 才人は旗を、アンテナ基部に突き立てた。

 ひるがえる“聖戦旗”に、“ヨルムンガント”によって下がった“ロマリア”軍の士気が、一気に沸騰するかのように上昇した。

「諸君! 注目! 我等が“聖戦”に、“トリステイン王国”より強力な援軍だ! 臆するな! “始祖”の加護は我にあり!」

 才人は、「でも、俺が戦うのは……信じてもいない、神様のためなんかじゃねえ」と呟いた。それから、才人は“聖戦旗”の上に、外した自分のマントを括り付けた。

 百合紋眩しいシュヴァリエのマントをひるがえさせながら、“タイガー戦車”は軋みを上げて疾走した。

『セイヴァー!』

『おお、遅かったな』

『遅かったな、じゃんええよ! 御前には後で文句が言いたい』

『文句だけじゃない、だろ? まあ、それよりも、だ』

『ああ、戦況はどうなってるんだ?』

『勿論、劣勢。“ヨルムンガント”が100体近く残ってる。御前が片付けたあれはダメージにもなりはしないだろうさ。他にも“竜牙兵”と言いう兵隊もどき……そして』

『“アサシン”と“アヴェンジャー”、だな?』

『その通り』

 

 

 

「さて、と……どうする? “アサシン”、“アヴェンジャー”。剣を交えるか?」

「愚問なり」

「…………」

 “アヴェンジャー”が姿を晦ます。

「おや? “アヴェンジャー”の奴、逃げたけど?」

「それでも、我が命じられたのは、御前の足止めだ」

「そうかい。なら、やり合おうか?」

 俺はそう言って、何の変哲もない大剣と盾を“投影”する。

 が、それ等からは、何故か濃厚な死の香りが漂っている。どれほどまでに強い存在であろうとも、死の危険性を与えるであろう、死の香りと可能性を感じさせる。

「そ、それは……」

「ああ、一応言っとくが……これは、御前達が“初代様”とか呼んで慕ってる、尊敬してる人の武器。では一応、言っとくか……“首を出せ”ってな」

 

 

 

 峡谷の入り口に、“ヨルムンガント”が98体いるのが見える。周りには、“竜牙兵”が覆い尽くさんばかりである。

 才人の存在に気付いたシェフィールドは、一気に叩き潰すつもりなのであろう。

 “ヨルムンガント”達は、それぞれ、手に先程奪った艦砲を握っている。

 が、其れでも“ヨルムンガント”の大きさが大きさな為に、良くて2~6体が横並びになれる程度である。

 才人は砲塔に潜り込み、ハッチを閉めた。再び砲手席に座り、照準器を覗き込む。

「先生! 止めて!」

 ブレーキが掛かり、“タイガー戦車”は土煙を上げながら停止する。

 先頭にいる“ヨルムンガント”との距離は、1,000。

 直接照準でも問題ない、と左手甲の“ルーン”が才人へと教える。

 照準器の中、並ぶ三角形の上に“ヨルムンガント”が鮮明に映る。“ハルケギニア”の現技術では想像すらできない、この望遠映像……。

 “ヨルムンガント”は、“タイガー戦車”に大砲を向けた。

 その砲口が光る。

 6体の“ヨルムンガント”に依る一斉射で在る。

 もくもくと立ち昇る発射炎。

 大砲の弾が、唸りを上げて飛ぶ。

 周囲に着弾して、土煙が舞う。

 ガキィイイイイイインッ!

 と、一発が車体全面に当たる直前、イーヴァルディが“霊体化”を解き、剣で弾き飛ばす。

 もう1発、飛来し、戦車全面に当たり、粉々に砕け散る。

 その震動で、車体が派手に震動する。撞木を突かれた鐘のように、激しい大音声は響き渡った。

 猛烈な痺れがそれぞれの全身を包む。

 隣のタバサが耳を押さえてうずくまる。

 だが、被害はそれだけである。

 才人は乗り込んだ戦車のペットネームの猛獣のように、歯を剥き出して唸った。

「呆けが。ヒト型が戦車に基本、勝てる訳がねえだろ。図体がデカイんだよ。無駄に高えんだよ」

 才人は、発射レバーを引いた。

「“地球ナメんな。ファンタジー”」

 相手のそれとは次元の違う速度で砲弾が飛び出し、“ヨルムンガント”に命中する。ボゴッ! と大穴が開き、後ろに斃れて動かなくなる。

 残りの5体の“ヨルムンガント”は、戦車目掛けて突撃を開始した。

 距離800で、次の1体を撃ち倒す。

 距離600で次。

 1発撃った後、装填しながら後退する。

 “ヨルムンガント”の方が、移動速度は速いのである。

 だが……後退する“タイガー戦車”に追い付くには、距離があり過ぎた。

 重そうな“タイガー戦車”ではあるが、そのスピードは見た目から想像するほど鈍くはない。距離を保ちながら移動して、停止。そして再び射撃。

 才人達は、そんな後退射撃を繰り返した。

 射的の的のように、“タイガー戦車”は突撃して来た“ヨルムンガント”を撃ち斃す。

 “ガンダールヴ(才人)”の登場に、興奮したシェフィールドは冷静さを失い、突撃を命じてしまったのである。

 そして、シェフィールドは、戦車というモノを知ってはいた。が、それは勿論、牛や馬などが牽引するそれである。動き回り遠距離から砲撃が可能な鋼鉄の塊である戦車のことなど、知るはずもない。

 遮蔽物のない、このように開けた場所で戦車砲の前に突撃する……自殺行為も同義であった。

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