ゼロの使い魔S   作:りおんざーど

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絆の記憶

 続け様に、現れた8体の“ヨルムンガント”を斃した“タイガー戦車”に、“水精霊騎士隊”の少年達は駆け寄った。

「サイトだ! あれはサイトだぞ!」

 アンテナにひるがえるシュヴァリエのマントを見て、マリコルヌが叫ぶ。

「凄いな! 鉄の箱に大砲が付いてるぜ!」

「サイトの鉄箱の御化けでやって来たぞ!」

 “水精霊騎士隊”の隊員達は、司令塔から顔を出した才人にしがみ付いた。

「遅れてごめん」

 その熱狂に照れ臭いモノを感じ、才人ははにかんで言った。

 腕に包帯を巻いたギーシュが涙ぐみながら、才人の手を握った。

「ぼ、ぼく、僕は……君が絶対来ると……だって、きみはふくたいちょおだから……」

「止せやい」

 ギムリがソッと、抱えていたルイズを砲塔の上に乗せた。

「サイト、君の主のことだ。気を失ってるが……ま命に別状はないだろう」

 才人はルイズを見詰めた。

 白かった巫女服は泥々に汚れ、ルイズの頬には血と土が塗り付いている。

 才人は、(どうせ、また無茶したんだろ。あんなに戦には反対してたのに……先頭に立ちやがったな。俺を帰す代わりに、この戦への協力を約束したんだろう)と想った。

「馬鹿野郎」

 才人は、小さく呟いた。

 其れだけ、ルイズは才人を故郷に帰したかったのである。

 才人は、それを理解し、優しくルイズの頬を撫でた。

 ……ルイズはユックリと目を覚ました。

 眼の前にいる、黒髪の少年を見て、その目が見開かれる。

「……あんた、誰?」

 そして才人の手が自分の頬に触れていることに気付き、ルイズは思い切り才人を突き飛ばし、地面に飛び降りた。

「ぶ、無礼者!」

 シオンとギーシュ達が、あちゃあ、と顔を押さえた。

「何言ってるんだ? 御前……」

 才人は愕然として、(どうやら俺のことを忘れてるみたいだな。頭でも打ったのか?)とルイズを見詰める。

 ギーシュが、参った参った、と首を振りながら、才人に告げる。

「どうや遣ら、ティファニア嬢の“魔法”で消しちゃったみたいだよ。君に関する記憶を」

「はぁ?」

 才人は口を開けて、ルイズを見詰めた。それから、(あの“忘却”? 使ったの? マジ?)と唖然としてルイズに尋ねた。

「俺だよ。ホントに忘れちまったのか?」

 う~~~、とルイズは唸った。まるで野良猫のようである。

 才人は、(全く、こいつは……いつも1人で決着を着けて、勝手にことを進めちゃうんだから……)と考え、全身から力が抜けて行くのを自覚した。

「御前なぁ……何考えてんだよ……? ホント馬鹿って単語は、御前のためにあるようなもんだね」

「だ、誰が馬鹿よ!? 失礼な奴ね!」

「勝手に人の記憶を消すなんて……何考えてんの?」

 怒りと悲しさなどで、才人は首を振った。それから、(なんて薄情な奴なんだ。ルイズは俺の境遇に同情して帰すことにしたんだろう。そこは好い、優しい娘だもんな。でも、サッサと忘れることにしたんだろ? そうじゃねえと、明日に進めないもんね……逆の立場だったら俺はそんなことはしない。いつまでもルイズのことを覚えていて、好い想い出として人生の糧とするだろう……眼の前の桃髪少女には、そんな麗しい気持ちはどう遣やら存在しないみたいだ)と考えた。

「そうかそうか。そんなに忘れたかったのかよ!? そりゃ俺は御前を怒らせるようなことばっかりしたかもしんないけど、色々大変だったし、頑張ったんだぞ!」

 怒りに任せて、才人は怒鳴り付ける。記憶があろうがなかろうが、ルイズにとってはいけない態度で、言ってはならない台詞であった。

「私を怒らせるようなことしたですってぇ~~~!?」

 そんな才人に、ギーシュは首を横に振った。

「違うよ」

「何が違うんだよ?」

「君はホントに女心が理解ってないな! 君の存在はそれだけ、ルイズの中で大きかったってことさ。逢いたいのに逢えない。生きているのに逢えない。そんな状態に耐えられないほどにね」

 才人は、はっ! とした。先程の怒りが、直ぐに申し訳なさと“愛”しい気持ちへと変化して行く。

 才人は、(そんなにまで俺のことを……)と想い、ルイズをジッと熱っぽい目で見詰めた。

 ルイズも……頬を染める。

 才人は戦車の上から飛び降りると、ルイズの手を握った。

「な、何よ……?」

 ルイズは顔を背けた。

「俺だ。平賀才人だ。またの名を、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。御前の“使い魔”だった。忘れちまったのか? ホントに?」

「サイト……? “使い魔”?」

 ルイズは、(先程、私が思わず口にした言葉である。そして……この少年が私の“使い魔”? でも……眼の前の少年には、本当に見覚えがないわ)といった様子を見せる。

「なあルイズ。聞いてくれ。御前はティファニアの“忘却”で、俺に関する記憶を消しちゃったんだよ!」

「はぁ? 何で私がそんなことしなくちゃいけないのよ!?」

「そこはそれ、“愛”って言うんですか。それほどまでに御前は俺のことを……その、歯が浮く言い方で言えば、“愛”していた、と。そういうことで……」

 すると、ルイズの眼が吊り上がった。

「“愛”していた? 誰が誰を?」

「御前が、俺を」

 頬を染め、才人はユックリと首肯いた。

 ドスン、と股間に一撃が加えられ、才人はユックリと地面に崩れ落ちた。

「もう1回尋ねるわね。誰が、誰を?」

 痛む股間を押さえ、「皆! この御惚けさんに言ってやってよ! この桃髪万年春少女が、どんだけ俺を“愛”していたかを!」、と才人が叫ぶ。

 マリコルヌがちょこちょこと駆け寄り、ルイズに耳打ちをした。

「こいつ、夢見てんすよ」

 周りの少年達が、マリコルヌを押さえた。

「おい! ぽっちゃりぃ!」

「いや……ついネ。仲間は多い方が良いしネ」

 ギーシュが頭を掻きながら、ルイズに言った。

「まー、何だ。確かにサイトの言う通りだな。“愛”していたかどうかは兎も角、君が“魔法”で彼に関する記憶を消してしまったのはホントだ」

「そうだよ、ルイズ。彼は貴女の“使い魔”……“ガンダールヴ”、そして“盾の英霊(シールダー)”の“サーヴァント”……貴女にとってとても大切な人なのよ」

 シオンと“水精霊騎士隊”の皆も、首肯いた。

 するとルイズは、理解ったわ、と首肯いた。

「やっと信じやがったか……ホントに疑い深い女……」

「でも! 私がこいつを“愛”してたなんて大嘘だわ!」

「ま、確かにそこまで正直判らんな」

「ギーシュ!」

「だってしょうがないだろ。ホントに“愛”しているかどうかなんて、態度だけで判るもんか」

 その言葉に、シオンは苦笑を浮かべる。

「大体ねえ! ハッキリ言わせて貰うけど、あんたなんて全っ然好みじゃないの!」

 ルイズは、才人に指を立てて言い放つ。

 才人の顔が、情けない形に歪む。

「そ、そんなぁ……」

「うわあ、これはキツいね」

 ギムリが言った。

「ア、アリじゃないの?」

 マリコルヌは呼吸を荒くした。

「あんたは確かに、私の“使い魔”だったのかもしれない。そして、さっき救けてくれたことについては御礼を言うわ。でもね……“愛していた”とか寝言言わないで! 私は“アクイレイアの聖女”よ! 聖なる乙女なのよ! 私の愛は ハルケギニアと“ブリミル教徒”に向けられるモノであって、あんたみたいな……」

 ルイズは、燃え尽きてヨロヨロの才人に指を突き付けた。

「オモロ顔に向けられて良いもんじゃないのよ!」

「流石にこれは……立ち直れないね」

 レイナールが切ない声で言った。

「増々アリだね」

 マリコルヌが、更に呼吸を荒くさせる。

 ギーシュは、才人の事が可哀想過ぎて泣いた。

 コルベールにキュルケとタバサも、戦車から顔を出してそんな様子を興味深そうに見詰めている。

 イーヴァルディは遠くを見据え、警戒している。

 いつしか、周りには“ロマリア”軍の将兵も集まって、面白そうに見物していた。

「……よっこらせっと」

 ユラリと、才人は立ち上がった。

「良いこと? 理解ったら、サッサと敵を追撃しなさい。“ガリア”の異端共を残らず叩き潰すのよ。ほら! 私の“使い魔”なんでしょ!? サッサと仕事をする!」

 腕を組んで得意げにルイズは言い放つ。

「オモロ顔か……ま、そうかも知んないけどな。でもなルイズ。御前はそのオモロ顔に何したか知ってるのか?」

「は? ほら! 急ぎなさいよ! 今は“聖戦”なのよ!」

「“聖戦”がどーした? 御前等の神様なんか糞食らえだ」

「罰当たりなこと言わないで!」

 ルイズは才人の頬を叩こうとした。

 その手が、ギュッと才人に握られる。

「寝た振り」

「は?」

「キスしてんのに寝た振り」

「な、何を言ってるのよ……?」

 才人は妙なテンションで、言葉を続けた。

「“ベッドで寝て良いって言ったじゃない”。真っ赤な顔で、“ベッドで寝て良いって言ったじゃない”」

「ちょっと!? 良い加減に……」

「小舟。小舟の上で、“御主人様の好きなところ、一箇所だけ触っても良いわ”」

 周りの観客達が、呆れた声で言った。

「ルイズ。君はそんなことを言ったのか」

「い!? 言ってないわ! こいつがテキトウなこと言ってるだけよ!」

「黒猫衣装。“今日は貴男が御主人様にゃん”。“アルビオン”。“私にも同じことして”」

「ルイズって凄いね」

「と言うか流石に引くね」

「サイト以上のアレじゃないか」

「どんだけ“惚れ薬”呑んだら、そんな風になるんだろうな」

 そんなひそひそ声に、才人が答えた。

「素です」

「流石にその素はないわ」

 マリコルヌが、首を振りながらルイズの肩に手を置いた。

 回し蹴りが飛び、マリコルヌの重たそうな身体が吹っ飛んだ。

「て、テキトウなことばっかり!」

 返す刀で蹴り上げようとしたルイズの足を、才人は足を閉じて制した。

「全部ホントだ。なあルイズ。正直御前はアレです。ぶっちゃけ、アレ過ぎます。僕も相当なオモロ顔の妄想家ですが、君はそれ以上です。正直、着いて行ける人はそういません」

「ぶ、ぶぶ、無礼者! 誰か! こいつを逮捕なさい! 異端審問に掛けて上げるわ! この“アクイレイアの聖女”に、聞いてればなんてことを……」

「でも、俺はそんな御前が好きだ」

 才人はルイズを抱き締めると、唇を重ねた。

 ルイズの顔が、耳まで赤くなる。

 身体が自然に動いた。何故か、あの時に逢ったブリミルが、「そうしろ」と教えてくれたかのように、才人には感じられたのである。

 “虚無”の主人と“使い魔”の絆は消せない。

 そう。

 “異世界”から喚び出せるほどの縁が……“異世界”でも離れない絆が……“魔法”で消える訳がないのである。

 才人に唇を重ねられたルイズは、呆然と立ち尽くした。振り上げた手が、途中で止まる、繋がった唇から、次々に何かが流れ込んで来たためである。

 その流れ込んで来た温かい何かがルイズの心の隙間に……吸い込まれて行く。宛先のない手紙に、次々と名前が書き込まれて行くかのように、ルイズは感じた。

 所々空白であった想い出が、急激にルイズの中で形を取り始める。

 フーケの“ゴーレム”、そして“アルビオン”……色々な場所での記憶が蘇り、次いで……様々な事柄が蘇った。恥ずかしいモノも、その中には当然含まれている。

 先程の才人が言ったことも……鮮明にルイズの中で蘇って行く。

 ぷはぁ、と唇を離し、ルイズは叫んだ。

「サイト!」

「想い出したか……良かった」

「ど、ど、どどど……」

 ブワッとルイズの目に涙が溢れる。

「ど?」

「どうして帰らないのよ~~~!?」

 そう叫びながら、ポカポカとルイズは才人の胸を叩く。

「どうしてもこうしてもないだろうが。御前がいるからに決まってんだろ」

 その一言でルイズの頬が崩れ、思わず才人の顔を引き寄せ、自分から唇を重ねてしまう。

 だが直ぐに、皆が見ていることに気付き、思いっ切り才人を突き飛ばした。

「ちょっと!? 戦の最中だってのに!? 何を考えているのかしら!?」

「御前がして来たんだろ!? と言うか勝手に人を帰そうとしてんじゃねえよ!」

 ルイズは、口の中で何やらモゴモゴさせていたが、そのうちにボロボロ激しく泣き始めた。

「だって……サイトが御母さんからの手紙見て泣いてるんだもん……可哀想になっちゃったんだもん……私より、家族の方が良いんじゃないかって……そっちの方があんたは幸せなんじゃないかって……」

 才人は、そんなルイズの頭を抱えて、優しく言った。

「自分の幸せは、自分で選ぶ。そして俺の幸せは、多分ここにあると想うんだよ……」

 2人は、ひし、と抱き合った。

 マリコルヌの“魔法”が飛んで、2人は引き離される。

「はい。そろそろ終わり……ネ。そんくらいにしないと、御兄さんキレるからネ」

 凶悪といっても良い笑みを浮かべながら、マリコルヌは才人の顔に“聖戦旗”を巻き付けた。

「今ほら、“聖戦”だから……ネ?」

 ルイズと才人は、顔を真っ赤にさせながら立ち上がると、コホン、と2人並んで咳をした。

 と、同時にイーヴァルディが駆け出す。

「――何だ!?」

 イーヴァルディが駆け出した先を、皆が見遣る。

 そこから、わらわらと“竜牙兵”達がやって来たのである。

 “竜牙兵”達は1度立ち止まり、弓矢を構え放つ。

 矢が弧を描き、才人達へと向かって降り注ぐ。

 咄嗟のことに対応し切れず、皆蒼白になった。

 が、その中でタバサとコルベールがそれぞれ“呪文”を“詠唱”し、どうにか防ぐことに成功する。

 “聖堂騎士”を始め“メイジ”達が“呪文”を“詠唱”し、迎撃を始める。

 1体1体確実に斃すことに成功しているが、それでもやはり相手の数が多い。

 が、そんな中、イーヴァルディが剣を振るたびに10~数十体もの“竜牙兵”が粉砕され、吹き飛んで行く。

 そんな様子を見て、“メイジ”達の中から勇気が湧き上がり、歓声が上がる。

 そこへ、“ヨルムンガント”の巨体が飛び込んで来る。

「――な!?」

 が、その“ヨルムンガント”の四肢は切断されていた。

「こんなモノか……」

「セイヴァー!」

 あちこちに、四肢を切断された“ヨルムンガント”が約90もの“ヨルムンガント”が横たわり、機能を停止していた。

 

 

 

 

 峡谷の奥……宿場街で、シェフィールドは手にしたジョゼフの肖像画を見詰めていた。

 あっと言う間に、手駒の“ヨルムンガント”や“竜牙兵”達は掃討され、流石にショックが隠せないのである。

 残された戦力も、現在2体の“ヨルムンガント”と“サーヴァント”のみであり、2人共自己判断から撤退した。

 敵である才人達が駆る戦車が装備する長射程の大砲……“ヨルムンガント”の装甲を物ともしない、その威力。

 シェフィールドは、(どうしたら勝てるかしら? 私こそが……ジョゼフにとって最優秀の手駒。そうでなければいけないのに……“担い手”のピンチに駆け付けた“ガンダールヴ”を見た途端、頭に血が昇ってしまった。その結果、不器用な突撃を行ってしまった。強力な敵に出会ったら、先ずは引く。引いて様子を見る。戦の初歩の初歩だ。私は、それすらも行えなかった。“神の頭脳”が聞いて呆れるわね)と考え、「だから……ジョゼフ様は私を本当の意味で必要としてくれていない。誰でも同じ、と思っているから……私は存在を許されている。あの4人を始め彼女達は違う。御互いを必要としている。私が勝てない理由は“ガンダールヴ”の能力でも、“サーヴァント”として劣っていることでも、“異世界”からの兵器でもない。その、絆、だ」と呟いた。

 そのことに気付き、身震いするほどに、シェフィールドは憤りを感じた。

 シェフィールドは、(“ヨルムンガント”は、また造れば良い。いずれチャンスはやって来るもの。だけど全滅するにしても……あの鉄の箱だけは道連れにしないといけないわ)と考え、先程叩き落とした艦から、黒色火薬の樽を集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 “タイガー戦車”は、宿場街へと到達した。

 たった1日の戦闘で廃墟になってしまった街が、俺達を迎える。

 どこにも敵の姿はない。いや、視認することができない。

「いねえな……逃げたんじゃないのか?」

「ちゃんと探しなさいよね」

 キューポラから顔を出したルイズが、才人にそう告げる。

「御前が探せよ。そっちの方が断然外が見えるんだから!」

 戦車の欠点は、視界が悪いことである。キチンと索敵しようと想うのであれば、ハッチから顔を出す必要があのだ。

 その瞬間……建物の周りに置かれた樽が爆発した。

「うわ!? 何だ!?」

 峡谷に挟まれた狭い街が、あっと言う間に煙で一杯になる。

 元より狭い視界の照準器では、何も見えなくなってしまう。

 タバサがその正体に気付き、呟く。

「黒色火薬」

 タバサは直ぐに、“風魔法”を唱えた。

 辺りの煙が上空へと巻き上げられて行く。

「サイト君! 前だ!」

 コルベールの声が響く。

 薄く霧のように残る煙の中、“ヨルムンガント”が現れた。

 “ヨルムンガント”が手を伸ばして砲身を掴もうとした瞬間……才人は発射レバーを引いた。

 バゴッ!

 砲弾が“ヨルムンガント”を吹き飛ばす。

 次の瞬間……車長用のハッチから顔を出していたルイズが叫ぶ。

「サイト! 上!」

 全くの死角であったといえるだろう。

 マントを使い、壁に張り付いていた“ヨルムンガント”が、上から襲い掛かって来たのである。導火線の付いた火薬の樽を両手に握っているのが見える。

 自分諸共、“タイガー戦車”を破壊しようと云うので在ろう。

「しまった!」

 真上からの攻撃に対して、戦車は無力である。

 上に砲を向けることはできないのである。縦しんば向けられたとしても砲を向ける余裕自体がなかった。

 才人はルイズを戦車の中へと引き摺り込んだ。

 だが……いつまで待っても爆発は起こらない。

「どうしたんだ?」

 恐る恐る、才人はハッチから顔を出して見上げる。

 青い鱗の“風竜”が、“ヨルムンガント”をガッシリと掴んで持ち上げているのである。“風竜”は力強く上昇すると、“ヨルムンガント”を崖の向こうに放り投げた。

 長い余韻を残し、鋭い爆発音が響き、爆発がタイガー戦車を叩く。

「“風竜”に救けられたわ。でも、凄い力ね……」

「シルフィード?」

 タバサが首を横に振る。

「違う。私の“竜”では、あんな重いモノは持ち上げられない」

 才人達が、(一体何者だ?)と訝しんでいると、空の上からジュリオの笑い声が響いた。

「あっはっは! 危ないところだったね。一個貸しにしとくよ」

 才人は悔しげに拳を握り締めた

「そんくらいで貸しになるか!」

 背後から、“聖堂騎士隊”や“ロマリア”軍が駆けて来るのが見える。

 先頭に立つカルロが、大きく“聖杖”を突き上げた。

「見よ! 驕り昂ぶる“ガリア”の異端共は殲滅したぞ! “始祖”の加護は我等にあり!」

 おおおおおおお~~~ッ! と“ロマリア”軍の将兵達は檄を飛ばす。

「あいつ等、何かしたっけ?」

 遠巻きに彼等の様子を見詰めていたマリコルヌが呟いた。

 さあ、とレイナールは両手を上げた。

 

 

 

 

 

 “ヨルムンガント”の全滅と共に、“両用艦隊”も撤退を開始した。

 周りでは勝利を祝う“ロマリア”軍の声が響く。

 その隣には小躍りして喜び合う“水精霊騎士隊”の少年達がい居た。

 コルベールは、キュルケとタバサに手伝わせながら、直ぐ様“タイガー戦車”の損害を確かめている。彼は、根っからの研究者であるだから。

 ユックリと引き上げて行く“ガリア”艦隊を見上げながら、才人がポツリと呟いた。

「また、始まちまったな」

 ルイズは、そうね、と首肯いた。

「ま、こうなったらとことん付き合ってやるよ」

 するとルイズは、怒ったような声で言った。

「でも……非道いわ。聖下ってば、あんたを帰すって約束したのに……」

「あいつ等には、御前の協力が必要だったらから、そんな約束をしたんだ」

「え?」

 ルイズは驚いた顔になって、才人を見詰めた。

「俺の代わりはいる。死んでも、次また喚び出せば良い。でも御前の代わりはいない。そんな御前が協力を渋ってた。だから、俺の帰郷を餌にした。持ち掛けたのは御前かもしれないけど……あいつ等は御前のそんな気持ちを利用しようとした」

「そんな!?」

 ルイズの肩が震えた。着ている巫女服を見詰めると、それを脱ぎ捨てようとした。

「良いよ」

「でも! こんなのに袖を通していられないわ!」

 ルイズは顔を真っ赤にさせた。

「気を付けろよ。あいつ等は異常だぜ。おまけにその異常さに気付いてて、しかも肯定してやがる。一筋縄じゃ行かないぜ」

 ルイズは恥ずかしそうに顔を伏せた。暢気に、“アクイレイアの聖女”などと呼ばれて良い気になっていた自分が赦せないのである。

「何が“聖戦”よ……」

「安心しろ。俺が絶対に、あいつ等を絶対に止めてやる。“ガリア”の件が決着着いたら……“聖戦”何か終わらせてやる」

「やっぱり、あんたは帰るべきよ。“こんな世界”に付き合うことないわ」

 すると才人は、キッパリと言った。

「見たりない。だからまだ、帰らない」

「何を?」

「御前の笑顔」

 ルイズは、文字通り顔を真っ赤にした。それから一生懸命に、頬を動かして笑顔を作ろうとした。が、照れ臭ささや嬉しさなどから、上手く顔の筋肉を動かすことができなかった。

 それから才人は、想い出すようにポツリと言った。

「……そう言や俺、寝ている時“始祖ブリミル”と“初代ガンダールヴ”の夢を見たぜ」

「ホント?」

「セイヴァー曰く、夢じゃなくて現実らしいけど……」

「どういうこと?」

「もしかしたら、ホントに俺、セイヴァーの言った通り時間旅行したのかもしれない」

「そんな馬鹿なこと、ある訳ないじゃない」

 んー、と才人は首を振る。それから左手を見詰める。

「でもさ、もしかしたら俺のこの“ルーン”の中に、その記憶が眠ってるのかもしれないぜ。“ガンダールヴ”の印の中に大昔の2人の記憶が……」

 才人はルイズに左手の“ルーン”を見せた。

 ルイズは最初こそ信じる気になれなかったが……先程の自分の件を想い出し……少し考えを改める。

「言われてみると……そうかもしれないわね。私、ハッキリとあんたの記憶を消したのよ。それなのに、あんたとキスしたら……身体の中に何かが流れ込んで来たの。それは間違いなく、あんたとの記憶だった。あんたが覚えていてくれた、私との記憶だった。その記憶が、私の中にポッカリ開いた穴の中に、ピッタリ嵌り込んだの」

 ルイズは才人を見詰めながら言った。

 今やルイズの中での才人との想い出は、才人の目から見た想い出でもあると言い換えることができるであろう。

 そこの記憶の中ではルイズ自身が登場人物であるのだ。だが、人は記憶を自分の中で都合良く改変することがあるという。故に直ぐにルイズの主観に変換された部分も混じっているのかもしれない。

 ルイズは、(もしそうだとしたら……私達はどれだけの絆で結ばれているのかしら?)とウットリとした。

 まるで芝居を見ているかのような感覚で、ルイズは想い出を反芻する

 それは不思議な感覚だといえるが……ルイズにとってとても心地好いモノであった。

 視界などの感覚を共有できるのであれば、記憶を共有できてもなんら可怪しくないのだから。

 何かと特別な、“虚無”の主人と“使い魔”には、そんな芸当さえも可能であろう。

 だから、正確でリアルな“始祖ブリミル”の夢を才人が見ても可怪しいこととは、ルイズには想えないのであった。「“ルーン”が見せた」と言われると、寧ろありえることのように、ルイズには想えたので在る。

 だが、1つだけ、ルイズの中で、(何故“ルーン”は、サイトにそんな夢を見せたのかしら?)という疑問が残った、

 だが、幸せな気分だったということもあり、そんな疑問は直ぐにルイズの中から吹き飛んでしまった。

 ルイズはジッと……才人の手を握りながら想い出を反芻した。

 ルイズは、(嗚呼、サイトはこんな時も私を見ていてくれたのね)と何だか可笑しくなるのであった。

 授業中、部屋の中……寝ている時。

 馬で移動している時。買い物をしている時。戦っている時……。

 幸せな気持ちで、ルイズは目を瞑り、様々な記憶達を慈しんだ。

 そのうちに、ルイズはコツを覚えた。

 1つの記憶を想い出すと、次々関連する光景がルイズの中で浮かんで来るのである。

「ん?」

 ルイズは、記憶というモノは現実の想い出だけではない、ということに気付いた。明らかに可怪しい光景が混じっているためである。

 ルイズが、才人の世界らしい場所を歩いて行く記憶。

 才人の母親らしい人物に紹介されている記憶……などなど。

 ルイズは嬉しくなって、ニヤけながら才人の横腹を突いた。

「もお、馬鹿ね。あんたってば……ホントに馬鹿ね。死んだ方が良いわ」

「う、煩え。何見てんだよ? 勝手に人の記憶漁るな」

 そのうちに、ルイズの顔が蒼白になる。次いで、真っ赤になる。まるで茹で蛸のように真っ赤になりながら、ルイズは酸欠の金魚のように口をパクパクとさせ始めた。

「何だ? どうした?」

「あ、あんた……私に何せてんのよ……? 幾ら想像の中だからって……」

 才人の顔が一瞬で青くなる。記憶を共有したということは……詰まり、妄想したことまでもが記憶となって、覗くことができると言い換える事もまたできるのであるからして。

「へぇー、そう、あんた、私を犬呼ばわりしたかったの……何かあんたの記憶と言うか、汚らわしい汚らわしい妄想の中の私が……こ、ここ、このわわわ、私が……“ルイズめは御主人様の犬です~~~”、とか言ってるんだけど?」

「か、勘違いじゃないかなぁ~~~?」

「し、しししし、しししし、しかもももももも、べべべ、べべべ……」

 いかん、と思って才人は逃げそうとした。

「べべ、ベッドの上でぇえええええええええええええッ!」

 ルイズは才人を引き摺り倒すと、その背をゲシゲシと踏み付け始めた。

「わ、わわ、私が犬扱いされて喜ぶなんて、ぜ、ぜぜ、絶対にありえないんだから! 犬はあんたでしょ! 間違えないでしょッ! もうッ! ひ、人にあ、あんな格好ッ! あんな格好ッ!」

 

 

 

 あんな格好ッ! と怒鳴りながら才人を踏み締めるルイズを、ギーシュ達は切なげに見守った。

「あ、あんな格好って、どんな格好だろうネ?」

 マリコルヌだけが、キラキラ光る目でそんな光景を見詰めていた。

「あんまり想像したくないな」

 ギーシュが、首を横に振りながら呟く。

「ところで、ホントに始まっちゃったなあ。“聖戦”」

 一同は空を見上げた。

 “ペガサス”に跨った“聖堂騎士”達が、勝利を祝う“聖具”の紋を、“魔法”の煙で描いていた。

 漂う“聖具”の紋が……“ハルケギニア”の今後を見せているかのように想え、ギーシュは身震いした。

 

 

 

 コルベールの点検を受ける“タイガー戦車”の砲手席の隣には、才人の“ノートパソコン”が置かれている。

 慌てていた才人が電源を落とすのを忘れた所為で、そこには“メール”画面が映ったままであったのである。

 

――“驚くと想いますけど、才人です。黙って家を出てしまい、ホントにごめんなさい。いや、ホントは黙って出た訳じゃないけど……言っても理解されないと想うので、そういうことにして置きます。兎に角、ごめんなさい”。

 

――“メール有難う”。

 

――“心配してくれて有難う”。

 

――“さっき、ちょっとだけ母さんの顔が見えました。ちょっとやつれてたんで、悲しくなりました。食べるもの、食べてますか? 心労で喉を通らないかもしれないけど、ちゃんと食べて下さい”。

 

――“俺は生きてます”。

 

――“無事ですから、安心してください”。

 

――“俺は今、地球とは別の世界にいます”。

 

――“信じてくれないとは想いますけど、ホントのことです。頭が可怪しくなったと想われても仕方ないけど……ホントです”。

――“そこでは、俺の友達や大事な人達が大変な事になっています”。

 

――“そして、俺の力が必要なんです”。

 

――“だからまだ……帰れません”。

 

――“でも、いつか帰ります”。

 

――“御土産を持って、帰ります”。

 

――“だから心配しないでください”。

 

――“父さんや皆によろしく伝えてください”。

 

――“取り留めなくてごめんなさい。急いで書いてますんで”。

 

――“母さん有難う”。

 

――“ホントに有難う”。

 

――“心配してくれて有難う”。

 

――“結構大変だけど、俺は幸せです”。

 

――“産んでくれて有難う”。

 

――“それではまた”。

 

――“平賀才人”。

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