ペロキャン!!   作:ローリング・ビートル

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第2話

「っ、っ」

「ん……んく……」

 

 キャンディを口の中に流し込んでからも、天川はしばらく唇を離そうとはしなかった。

 初めての感触と衝撃に、俺は思うように体が動かせず、されるがままになっていた。な、何だこれ……!

 

「~~~っ!!!!」

「ん……んく……ふぅ……」

 

 やがて唇が解け、つぅーっと糸を引いて離れる。その糸はどこか名残惜しそうに、ぷっつりと切れた。 

 そして、天川は俺から離れ、舌をチロリと出し、唇を舐める。

 その妙に艶めかしい姿を見ながら、俺は制服の袖で自分の口元をゴシゴシと拭った。

 ……今一度、今日自分の身に起こったことを確認しよう。

 転校生(美少女)がやってくる。

 実は男だとわかる。

 なんかやたらからかわれるし、スキンシップが多い。

 いきなりキスされて、キャンディを口移しされる。←今ここ

 …………マジかよ!!!!

 キ、キスされた?だと……お、男に……キスされた……え?マジで?

 夢じゃないかと目をパチパチ瞬かせるが、その事実を裏付けるかのように、口の中には溶けて小さくなったトロトロのキャンディが転がっている。

 

「お、お、おま……!」

「ん?甘かった?」

 

 こ、こいつ……!

 慌てて周辺を確認してみる。

 よかった。誰にも見られていない!見られたら高校生活が詰んでた……。

 ひとまず安堵した俺は気を取り直して、それでも怒りは収まらずに天川に詰め寄った。

 

「お、お前、やっていい事と悪い事が……!」

 

 しかし、天川は俺の怒りなど何処吹く風で、「ん~?」と可愛らしく首を傾げた。

 

「もっかいする?」

「しねえよ!いい加減にしろ!」

 

 ぶん殴ってやりたいが、如何せん顔が可愛く、いい香りがして、肌も綺麗で、女子の制服を着ているので、できそうもない。

 天川はそれをわかっているのか、にぱっと笑い、距離を詰めてきた。澄んだ瞳に捉えられ、俺は二の句をつげなくなる。

 

「アハッ♪可愛い反応だね♪顔真っ赤だよ!」

「これは怒ってんだよ!!」

「それはそうと、はやく帰ろうよ」

「帰らねえよ!」

「え?学校に泊まるの?」

「つまんねえ揚げ足どりすんな!今の流れでお前と一緒に帰るわけないだろ!」

「ふふっ、そっかー、残念……じゃあ、また明日ね!バイバイ!」

「あっ……」

 

 身を翻した天川は、ふわっと甘い香りを振りまきながら、足早に去っていった。ぴょこぴょこ揺れる編み込みと、ふわふわはためくスカートが何だかあざとく見えたので、目をそらし、見ないようにした。

 ……何なんだよ、あいつ……てか、まだ頭の中が妙な感じだ。

 今さらながら、心臓がバクンバクン鳴っていることに気づく。な、何だこれ……てか、まだ現実がふわふわしてるというか、何が何だか……。

 俺は誰かが通りかかるまで、その場から動くことができなかった。

 キャンディはいつの間にか口の中から消えて、甘さだけがじんわりと残っていた。

 

 *******

 

「兄ちゃん、どした~?顔暗いぞ~あと邪魔~」

「ほっといてくれ……」

 

 家に帰ってからは、何も手につかず、ソファーにぐでーっと寝転がり、妹の遙香に邪魔者扱いされていた。

 遙香は俺をどかすのを諦めたのか、「んしょっ」と俺の背中に座り、テレビを見始める。

 

「重い……」

「重い言うな」

「なあ、遙香」

「なぁに?」

「キスしたことあるか?」

「ないよ~てか、実の妹にその質問キモいよ」

「だよな、まだだよな」

「だよなとは何さ!別にいいじゃん!まだ私、中1なんだし!お兄ちゃんなんて、未だに彼女の一人もできないじゃん!」

「……そうなんだよな~!」

「な、何?」

 

 いや別にファーストキスに特別な価値を置いている訳じゃない。ただ、ファーストキスが男というのは……うあああ!!!

 彼女すらできてないのに……何故今日初めて出会ったあいつとキスなんか……

 

「ああああああああああああああ……!」

「お兄ちゃんが……壊れた……」

 

 違うんだ、妹よ……壊れたではなく、壊されたんだ……。

 俺の頭の中では、天川の悪戯っぽい笑顔がこびりついて、しばらく離れてくれそうもなかった。

 

 *******

 

「ふふっ、やっと会えたよ。でも、ちょっとくらい気づいてくれてもいいのになぁ…………ま、いっか。今はまだ……」

 

 *******

 

 夢を見ていた。

 とても懐かしい夢。

 

「……大丈夫か?」

「う、うん、ありがとう!でも、キミは……」

「全然平気だ。だって……」

 

 ******* 

 

「ねえ、朝だよ!起きて?」

「ん……」

「ねえねえ、起きてってば~!」

「ん?」

 

 甘い声に導かれるようにうっすら目を開ける。

 そこには、天川の顔があった。

 

「アハッ♪起きた♪」

「…………」

「おはよ♪」

「…………はあ!!?」

 

 一気に脳内が覚醒し、慌てて体を起こす。

 

「お、お前、何上がり込んでんだよ!」

「ちゃんと玄関から入ったよ。日野君を迎えに来ましたって言ったら、喜んで上げてもらえた♪」

「……マジか」

「うん!キミのお母さんも、うちの純一にもようやく彼女が……って喜んでたよ♪」

「はっ!?」

「あ、誤解は解いたよ。ボクは彼女じゃありません。友達以上恋人未満の清い関係ですって」

「解いてねえじゃねえか!」

「だってキスしたじゃん。それとも……キスだけじゃ嫌?」

「っ!!」

 

 わざとらしくしなをつくる天川に、何故か顔が熱くなるのを感じた。

 いや、別にドキッとなんかしてないし!何とも思わないし!

 俺は起き上がり天川の意外なくらい小さな手を引いた。

 

「と、とりあえず出てけよ!」

「わっ!」

「っ!」

 

 俺の力加減のせいか、ただの偶然か、天川が足を滑らせ、それに引っ張られた俺も転び、ベッドに天川を押し倒す態勢になる。

 ……と同時にドアが開いた。

 

「お兄ちゃん、早く起きろ~……おお」

 

 遙香は俺と天川を見て固まった。

 …………マジか。

 

 

 

 

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