「純一君……」
「お前……なんつーラッキースケベ」
「いや、こ、これは……違……」
やばいよ!やばいよ!いや、落ち着け!普通に振る舞えばいいだけだ!
「きゃー、日野君に押し倒されたー、誰か助けてー」
火に油を注ごうとしているのか、天川は俺の下で棒読みでふざけた事をぬかしている。
俺はすぐに飛び退き……この後、どうしよう?
このまま立ち去るのは後味が悪い。俺は悪くないけど。何より、周りからは俺が悪いようにしか見えないだろう。それは今後のリア充ライフの為にも避けたい。
無難なのは、声をかけるか手を差し出すかだが……こいつに手を差し出すのは危険すぎる……と、とりあえず……
「悪い……大丈夫か?」
「うん、平気だよ……あはは……」
天川は弱々しい笑みを浮かべながら体を起こす。胸の中にざわざわと罪悪感が芽生えてくるが…………騙されるな、俺。
気を強く持とうとしていると、天川はこちらに向け、白い小さな手を伸ばしてきた。萌え袖なのがポイント高……危ない危ない!
「はい、お願い♪」
天川は弱々しい笑顔のまま言ってくる。くっ、周りの目もあるから断れねえ……。
俺は観念して、その手を引いた。
「ありがと…………あっ」
「っ!」
天川は俺が手を引くと、あたかも俺が引き寄せたかのように抱きついてきた。
華奢な体と甘い香りがぴったりと押し付けられ、思考回路が働かなくなると同時に、周りから黄色い歓声が上がった。
しかし、それがどういう内容なのかはよくわからなかった。
*******
「あ~……今日も酷い目にあった……」
「そだねー」
「お前が言うな!!ってか、何でついてくるんだよ!」
「まあまあ」
天川は悪びれもせずに、美少女顔を最大限生かしたアイドルスマイルを向けてくる。可愛い……違う違う!!
こいつのせいで、俺はクラスから『天川優ファンクラブ会員番号1』とか、『天川ファンの敵』とか言われるようになってしまった。どっちなんだよ。
「ボクは楽しかったよ?今日1日日野君をからかえたし」
「もっと緩めのからかいをお願いできませんかねえ!?」
「アハッ♪」
からかい下手な天川くんは、俺の怒りを軽やかにスルーし、距離を詰めてくる。
「日野君って優しいよね」
「な、何だよいきなり……脈絡なさすぎて嬉しさより怖さが勝っているんだが……」
「あははっ、思った事を言っただけだよー♪あんな騒ぎがあっても、ボクに怒らないし」
「いや、あの場で怒っても俺の逆ギレにしか見えないからね?お前の小細工のせいで怒るに怒れなかっただけだからね?」
「それに、こうして一緒に帰ってくれるし」
「お前が勝手についてきただけだろうが。それに帰る方角が一緒だから、嫌でも遭遇する確率高いし」
「ねえ……もう一度、キスしない?」
おもいっきりずっこけてしまった。
「あははっ、どしたの?驚かせないでよ~」
「そりゃ、こっちのセリフだ!!脈絡なさすぎてわけわかんねえんだよ!!」
「しないの?」
「するか!」
何なんだ、こいつは……いや、今のうちに聞いておこう。
「なあ、お前って……俺の事「好きだよ」早っ!まだ言い終えてねえよ!って……え?」
今、こいつ……お、俺の事……す、す……!
こちらの動揺を余所に、天川は当たり前のように答える。
春の夕暮れだというのに、やけに暑く感じた。
「やだな~、好きでもない人にキスしたりしないよ?好きに決まってるじゃんか」
「な、何で……会ったばかりなのに……」
俺の言葉に天川は、少しだけ寂しそうに目を伏せた後、やわらかな笑顔を見せた。
あれ?俺、何か不味い事言ったか?
すると、天川は急に腕を絡めてきた。
「なっ!?お、お前……!」
「さっ、今から日野君の部屋にお邪魔しよっかな!」
「だから何でそんないきなり……」
「レッツゴー!!」
*******
「日野君……天川さんと腕、組んでる?」