魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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96頁目.ノエルと条件と襲撃と……

***

 

 

『ファーリの資料庫』

 

 ヴァスカル王立図書館の地下深くにある禁書庫。

 そこには特級魔法や一部の原初魔法、禁術と呼ばれるほど危険な魔法などの様々な魔導書や文献が厳重に保管されている。

 

 そして、そのさらに奥深く。

 かつて空間魔法の天才と呼ばれた魔女が作った防護結界によって守られた、とても広い部屋がある。

 それこそが『ファーリの資料庫』である。

 その部屋の中には原初の魔女・ファーリの家にあったローブやファーリが使っていた原初魔法の魔導書など、彼女の遺産が保管されている。

 これらは全て彼女の子供たち、つまり後のヴァスカル王家が集め、彼女を(しの)んで秘密裏に保管してあったものである。

 

 しかし、ヴァスカル王家が言うところの『ファーリの遺産』とはこれらの総称ではなく、資料庫のさらにさらに奥の部屋にあるひとつの遺産のことを指している。

 だが、それが何なのかはヴァスカル王家の直系たるヴァスカル王しか知り得ない。

 

 また、この資料庫の存在はヴァスカル王家とその関係者、また王立図書館の一部の司書のみしか知らず、国民も、ましてや他の国の誰も知るはずのない国の最重要機密である。

 

 

***

 

 

「そんなもの、災司(ファリス)はどうやって知り得たんスかねぇ?」

 

「余計な話をするでない。奇襲されたらひとたまりもないからの」

 

「油断はしないにしても、こんな広い部屋のどこで奇襲されるってんだ。防護結界だってあるわけだし、地中から攻めてくることもないだろう?」

 

「連中が時魔法や空間魔法を使えたらどうする。ワシとルフールだけでは戦力不足かもしれぬぞ?」

 

「そこはクロネさんの腕の見せ所ってやつだろうさ。それで、どうやって連中がファーリの遺産の存在を知ったのか……だったか? そこのマリンみたいにペラペラ内部情報を漏らす奴がいただけじゃないのか?」

 

「残念ながら、そうはいきませんのよ。わたくしやクロネさんのように仕事柄でファーリの遺産の存在を知った人は、口止めのために魂の盟約を交わせられるのですわ。なので、漏洩するはずは本来ならあり得ません」

 

 

 サフィアは首を傾げて尋ねる。

 

 

「じゃあ……どうしてあたしやノエル様には教えられたの? 魂の盟約って、絶対約束を破れないように縛りをかける魔法の契約のはずよね?」

 

「ノエルもサフィーも、それにあなた方全員、奇しくもこの話を話せる条件に満たされていたのですわよ」

 

「そういえば、サティーヌがいた時点でも遺産の話はできていたわね……。ってことは、サティーヌもその条件の対象ってこと? 全く予想もできないんだけど……」

 

「どうせ教えている者同士じゃ。あとで魂の盟約は交わしてもらうわけじゃし、条件を教えても問題はあるまい」

 

「分かりましたわ。魂の盟約を無視してファーリの遺産の情報を話せる条件。それは『ファーリ及び原初の大厄災の魔力に直接触れたことがある、現役の魔導士』なのですわ。()()なので大厄災の呪いから出た魔力に少しでも触れていれば対象になりますの」

 

 

 クロネとマリンを除く5人が納得していたが、ロヴィア1人だけ怪訝な顔をしている。

 

 

「それだと私……全く関係ないんじゃない? って、ルフールもルカもファーリの魔力に触ったことあるの!?」

 

「ええ、ボクは大海蛇(シーサーペント)の問題解決の際に、比較的に呪いの近くにいましたから」

 

「ワタシは大厄災の討伐隊にいたからね。ファーリの魔力に触れていても、何ら不思議ではないだろう?」

 

「となると……なぜロヴィアがその魔力に触れた経験がないはずなのに、この条件に当てはまっているのか……か」

 

「ワシに思い当たる節がある。ロヴィア、お前の中にはもう1人の人格があるんじゃったな? それも、一度死んだはずの魂の人格が」

 

「ロウィのことね。確かにその通りだけど、それとこれと何の関係があるの?」

 

 

 クロネは真剣な面持ちでロヴィアにこう告げた。

 

 

「これは完全にワシの想像の範疇の話になるが、聞いて欲しい。魂の盟約に課せられる縛り。その対象外となるための条件には、抜け道があったのではないか? という説じゃ」

 

「魂の盟約は、自分の魂に課せられた縛りを相手の魂と比較することで条件のすり合わせが行われる。だから魂を2つ持っているロヴィアはその比較対象が見つからない、とかそういう話か?」

 

「いや、そうではない。死んだロウィの魂が一度バラバラになったことで、その魂がこの世の理から外れてしまったのではないか、という話じゃよ」

 

「魂の盟約という契約すらも無視できるなんて、そんなの最強の魂ってことにならないか?」

 

「待って待って! 勝手に最強の魂だとか変な話でオチをつけるんじゃないわよ! とりあえず何かしらの理由で条件にピッタリだったんだから、結果オーライってことでいいじゃないの。追究する暇があるなら、連中の奇襲に備えなさいよ」

 

「そういえばすっかり忘れていたよ。災司(ファリス)が攻めてくるんだったな──」

 

 

 そんなことをノエルが言った瞬間、禁書庫の方角から大きな地響きが聞こえてきた。

 禁書庫の天井を覆っているガラスが破られたらしく、司書たちの悲鳴と本棚が倒れたような音が響き渡っている。

 

 

「来たか……。ルフール、人数は何人だった?」

 

「城門前に来ていたのは2人。うち1人はきっと例の魔女だ。もう1人のデカブツは黒い魔力を発していたから、注意するべきはそっちかもしれないね」

 

「よし、じゃあ全員、魔導書を構えて臨戦態勢に入れ! 目的は連中の鎮静と捕獲。攻撃の跳弾などで禁書庫が壊れないよう注意しつつ、ここを守りきるんだ!」

 

 

 ノエルの掛け声と共に、大魔女8人は持ち場につく。

 すると、奥の通路から2人分の速い足音が近づいてきた。

 しかし、ノエルたちの前に現れたのは災司(ファリス)ではなく、ヴァスカルの王国兵士なのであった。

 

 

「んん……? お前たちは王国兵士……? なぜこんなところにいるんだい」

 

「……はっ。禁書庫から大きな音が聞こえたため、こうして現場に急行してきたわけですが……。遺産は無事でしょうか!」

 

「そりゃ、無事に決まってるじゃないっスか。むしろ現場はアンタたちの後ろの方のはずっスよ」

 

「はっ。失礼いたしました! では、持ち場に戻らせて──」

 

 

 その瞬間、ノエルはハッとした。

 普通の王国兵士が知り得ないはずのファーリの遺産のことを、()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

「ぜっ、全員、気を緩めるな!!」

 

「ハッ! 気づくのが遅いよ! 『魔水霊の咆哮(エル・ウンディネア・ハウル)』!」

 

 

 謎の王国兵士が振り向き様に放った水魔法は、ノエルたち8人に向けて勢い良く発射される。

 完全に油断しきっていた数人は反応が追いつかず、回避することができない状況の者もいる。

 しかし、クロネは堂々と魔導書を構え、魔法の正面に立ったのだった。

 

 

「クロネさん! 危ない!」

 

「『魔岐戻し(グラン・エル・リワインド)』!!」

 

 

 クロネがそう唱えた瞬間、全員に向けられていた水魔法が掻き消える。

 そして、ノエルたちの目の前には先ほどとは違う2人が立っていたのであった。

 

 

「な、何が起きた……!? それに、私の模倣する土塊(ミミック・クラッド)まで破壊されるなんて……!」

 

「ワシを誰だと思っておる。時魔法の使い手、クロネじゃぞ? お主らを、魔法を発動する前の状態に時を戻した。最初からこの目を欺くことなど不可能と知るがいい……!」

 

「そうか、アンタら……噂に聞く大魔女ってやつか。国王の奴、やけに自身ありげに断るもんだから何かおかしいとは思ったが……」

 

「あなた方の呪いの魔具も、ボクたちが対策済みです。これで人質に被害は出ていませんし、こうして遺産を奪いに来ることもボクたちが防ぎます!」

 

「なるほど、全部全部お見通しってわけか。チッ……してやられたぜ……」

 

 

 包帯の女がそう言うと、隣の大男が口を開く。

 

 

「ジェニー、そんなことはどうでもいい。とにかく我らはあの方のためにここを破壊し、遺産を手に入れなければならないのだから」

 

「キャハハ! それもそうか! じゃあ、ガジョウ。やっちまいな!」

 

「言われなくとも。ウ……ウオオォォォォッ!!」

 

 

 ガジョウと呼ばれた大男が唸りを上げると、彼の身体から黒い魔力が放出され、やがてそれは具現化していく。

 

 

「あ、あれ、闘技場で見た呪いの鞭! でも、あの時のよりも……大きすぎるわ!?」

 

「2手に分かれろ! アタシたちはこの大男をどうにかする! クロネさんたちにはそっちを任せた!」

 

 

 ノエル、サフィア、マリン、ロヴィアがガジョウの、クロネ、ルカ、ルフール、エストがジェニーの前に立ちはだかってファーリの資料庫を守ることにした。

 ノエルはマリンに小声でこう言った。

 

 

「マリン。あの光魔法は最終手段だ。あの光量はアタシたちにも影響があるから、もう1人に突破される危険性がある。とにかく、こいつをどうにか抑えるしかない!」

 

「難しいことを言ってくれますわね……! あんなのの攻撃から資料庫を守るなんて、どれほど強力な魔法で戦えばいいのやら!」

 

「楽しんでるところ悪いけど、私は戦闘あんまり得意じゃないから、あなたたちに任せるわよ。念のために、こいつらは置いといてやるわ……よっ!」

 

 

 ロヴィアはポケットから結晶を3つ取り出し、地面に投げつける。

 すると、それらは大きなゴーレムとなり、ノエルたちを守る態勢に入るのだった。

 

 

「私お手製の戦闘用ゴーレムよ。魔法耐性バッチリだから、いくらでも盾に使ってあげて!」

 

「少し邪魔かとも思ったが、使いようによっては便利かもしれないな……。助かるよ!」

 

「じゃあ、あたしもあの子たちを呼んじゃおうかな!」

 

「えぇ、思う存分戦わせなさい、サフィー!」

 

「じゃあ、飛ばしていくわ! 『ここに出たるは氷獄の扉。開け。我が召喚に応じよ。出でて呪いの根源を断ち切れ! 召喚術・雪の巨人(サモンズ・イエティ)』!!」

 

 

 その瞬間、サフィアの召喚魔法によって5体のイエティたちが現れ、ゴーレムたちと共にガジョウへと襲いかかるのであった。

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