魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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113頁目.ノエルとソワレとルナリオと……

 ソワレがノエルたちについていってしばらくした頃。

 ソワレ村に残ったルナリオは村人たちを避難させるために指示を出しつつ、国からの援軍を待っていた。

 そして村人のほとんどが避難準備を完了したのを確認したルナリオは、自分の両親が来るのを待っていた。

 

 

「うーん……。ばあちゃんの荷物もあるだろうし、少しくらい手伝いに行った方が良かったかな……」

 

「心配なら行ってきていいんだぞ? ルナリオの指示がなくてももう大丈夫だしな!」

 

「どうせすぐそこなんだし、行ってきなさいな」

 

「みんながそう言ってくれるなら、分かった。行ってくるよ」

 

 

 村人たちに見送られ、ルナリオは両親とソワレが住む村長の家に向かったのだった。

 

 

***

 

 

 家の前に着くなり、ルナリオは玄関口に立つ両親を目にした。

 

 

「おっ、リオ? どうしたんだ?」

 

「もしかして手伝いに来てくれたの? でももう大丈夫よ、ある程度の荷物は持って来れたから」

 

「なんだ……もう終わってたのか。まあ、荷物を持つくらいはするよ」

 

「あら、ありがとう。じゃあ、お義母さ……おばあちゃんの荷物を持ってくれるかしら?」

 

「分かったよ……って、重っ!? 何が入ってんだよ、この袋!」

 

「何って、母さんの本だよ。中身が何て書いてあるか分からないから適当に机の上にあったものだけ持ってきたんだ」

 

 

 ルナリオは昔よく通っていた祖母の部屋を思い返す。

 そして父親に言った。

 

 

「って、それ魔導書じゃないか! 避難するだけなんだから、無駄に重いものを持って行く必要はないんだぞ? 父ちゃんの心配性は相変わらずだな……」

 

「だって、大事そうに机の真ん中に置いてあったものだから……」

 

「まあまあ、いいじゃないの。さ、早くみんなと合流しましょう?」

 

「まあ、俺が持てばいいだけの話だし……って、うん?」

 

 

 ルナリオの目線の先には、母親が抱えている謎の長い袋があった。

 

 

「なあ、そんな長いもの、この家にあったっけ? 母ちゃんが買ったのか?」

 

「何を言ってるの。これもおばあちゃんの荷物。ほら、いつも持ち歩いてる()よ」

 

「あぁ、なるほど……。ノエルさんとの思い出の──」

 

 

 その瞬間、ルナリオは昔聞いた話を思い出す。

 

 

『この杖はね、ただの杖じゃないの。私が昔から大事にしてる思い出の品って意味では確かにただの杖じゃないけど、そうじゃなくて──』

 

 

 ルナリオはハッとして、荷物を地面に置く。

 そして、両親に言った。

 

 

「父ちゃん、村のみんなを任せてもいいか。国の兵士が来るまでみんなと一緒にいるだけでいいから」

 

「あ、あぁ。でも、どこに行くつもりだ?」

 

「母ちゃん、その杖は俺が預かるよ。それ、ばあちゃんの忘れ物だから」

 

「ま、まさかゴブリンたちのいる場所に行くなんて言わないわよね? 危ないから絶対にやめなさい? ね?」

 

「危ないからなんだ。ばあちゃんの身に何かあったらもう遅いんだよ! 俺が……俺が行かなきゃならないんだ!」

 

 

 必死に止めようとするルナリオの母親を、ルナリオの父親が諫める。

 そして杖が入った袋を手に取り、ルナリオに尋ねた。

 

 

「……この杖を持っていけば、母さんの身を守れるって言うんだな?」

 

「あぁ、ばあちゃんの話が本当ならな。俺の脚なら誰よりも速く届けられる自信もあるし」

 

「……本気みたいだな」

 

「ちょっと、あなた……」

 

「いいさ。リオは根っからのばあちゃんっ子なんだ。こんな状態のこいつを止められる人は誰もいないんだから。ほら、持っていけ」

 

 

 そう言って、ルナリオの手に結晶が付いた長杖が手渡される。

 

 

「父ちゃん……ありがとう!」

 

「絶対に無事に帰ってくるんだぞ」

 

「もちろん。帰ったらノエルさんたちも紹介してやるから! じゃあ、村は任せたぞ!」

 

「気をつけてねー!」

 

「母ちゃん、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 

***

 

 

 青年は荒野と草原を走り抜けていく。

 靴に砂利が入って足に刺さろうとも全く気に留めず、青年はひたすらに駆けていく。

 手には白い珠が付いた長杖が握られていた。

 

 

「(この杖を持って行くってことは、ノエルさんにばあちゃんの正体がバレることになる。でも……それでも、ばあちゃんに何かあった時、ノエルさんたちのせいにするわけにはいかない。だって、この杖を置いていったのはきっと、ばあちゃんの意志だから)」

 

 

 大事な杖を置いていってでも、自分の正体をノエルに明かしたくない。

 そんな祖母の姿をルナリオはずっと見てきた。

 ただ、今回ばかりはそうはいかない。

 ルナリオはそんな胸騒ぎと責任感だけで走っていた。

 

 

「っ……!? あれは……!?」

 

 

 ルナリオは走りながら、遠くに浮かぶ巨大な黒い塊を目にした。

 明らかにおかしい物体がそこに、恐らくノエルやソワレたちがいるであろう場所の上空にある。

 それはつまり、少なくとも、ソワレたちの身に何かが起きようとしていることは間違いなかった。

 

 

「待っててくれ、ばあちゃん……!!」

 

 

***

 

 

 そうして間もなく、ルナリオは蒼髪の少女の横を走り去る。

 ルナリオはそれがサフィアであるとも気づかず、その視線は黒い塊の下にいるソワレに向けられていた。

 

 

「ルナリオさん……!!」

 

 

 聴き慣れた高い声がルナリオの耳を掠るが、彼には自分の呼吸と心臓の音しか聞こえていなかった。

 必死に握りしめた長杖を上に掲げ、ルナリオは叫んだ。

 

 

「ばあちゃん! 一番しちゃいけない忘れ物をしてるぞ!!」

 

 

 その声に気づいたらしく、ソワレが振り向いたその瞬間、ルナリオの手がソワレの肩に触れる。

 そして、ソワレの目の前の地面に杖を突き刺した。

 

 

「えっ……リオ!? あ、あなた、どうして……。それに、この杖……」

 

「そんなこと言ってられるほど時間ないんだろ! 流石の俺でもそれくらいは分かる!」

 

「……! そうね! 今はこの状況をどうにかしないと、って……まさかそのためにこの杖を……?」

 

「ばあちゃんが昔教えてくれたからね。さあ、俺の仕事はここまで! ばあちゃんの力、見せてくれよ!」

 

「ええ……ええ……! 一瞬でケリをつけさせてもらうわ……!!」

 

 

 そう言って、ソワレは杖の先に付いている白い珠をありったけの力で叩き割った。

 すると、白い光がソワレの身体を包み込む。

 その光の輝きはとても眩く、優しく、それでいて力を感じさせる不思議な輝きだった。

 ソワレはルナリオにも聞き取れないほど高速の詠唱を始める。

 そして、手を黒い塊にかざして、ソワレは高らかに唱えた。

 

 

擬似・魔力解放(リ・リリース)……『破天光(ブレイク・ピュリフィケーション)』!!」

 

 

 その声が響いた瞬間、周囲の音が全て無くなった。

 そう誰もが思った次の瞬間、一筋の光柱が黒いゴブリンの足元から爆音と共に出現した。

 その光は黒い塊を一瞬で消し去り、雲をも破り、天高くまで届いていく。

 

 

***

 

 

 気絶しているゴブリンたちから距離を取って様子を見ていたノエルとマリンは、遠くからその光を見ていた。

 

 

「……何が……起きたんだ?」

 

「あ、あら……逃げる必要はありませんでしたわね……?」

 

「あの光魔法……お前たちの指輪のよりも規模は小さいものの、威力が桁違いじゃないか……。それで、それを、誰が、発動した……?」

 

「…………」

 

「な、なあ、答えろよ。アタシには……スアールさんが発動したように見えたんだが、見間違い……だよな?」

 

「……でしたら、他に誰が発動したっていうんですの?」

 

 

 ノエルは考えることをやめ、段々と、確実に速度を上げてスアールの元へと駆けていく。

 マリンはもはや止めることもなく、ついていくのだった。

 

 

***

 

 

「はぁ……はぁ…………ふう……」

 

 

 ソワレが掲げた手の先には青空が広がっている。

 目線を下げると、そこには少し大きなゴブリンが倒れている。

 

 

「……ばあちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫。でも、魔法を使うのなんて久しぶりだったから、少し疲れちゃったかも」

 

「…………ばあちゃん、俺……」

 

「謝っちゃダメよ。こうなる運命だったんだから、後ろは振り返っちゃ、ダメ」

 

「で、でも……」

 

「ほら、ノエルたちが来てるわよ。私はもう、大丈夫だから。ね?」

 

 

 そうして間もなく、ノエルとマリン、そしてサフィアが2人の元へと合流した。

 しかし、そこにいる全員が、ノエルの落ち込んだ表情を見て言葉を失っていた。

 ノエルはゆっくりと尋ねる。

 

 

「さっきの……あれって、スアールさんが発動した……のか?」

 

「ええ……。魔女ってこと、隠していてゴメンなさい……」

 

「ルナリオ……。お前が持ってきたその杖、アタシにはなぜか見覚えがあるんだ。それは誰のものだ?」

 

「……ばあちゃんが昔から大事にしてる杖だ」

 

「じゃあ、最後の質問だ。()()()()()、書いたのはあんたかい?」

 

 

 ノエルはカバンから、数年前にスアールから貰った魔導書を取り出す。

 ソワレ(スアール)は答えた。

 

 

「……ええ。それはこの私……あなたの姉、ソワレが書いたもので間違いないわ」

 

 

 ノエルはしばらく黙って俯いていたが、やがて顔を上げて尋ねた。

 

 

「どうして黙ってたんだ、姉さん」

 

「あなたにガッカリされたくなかったんだもの。私が若魔女でなくなったなんて知ったら、どれだけ失望させちゃうか分からなかった。それが怖くて話せなかったの」

 

「サフィー、マリン。お前たちは知ってたんだな」

 

「……はい。あたしは最初に列車の中で会った時に……」

 

「わたくしは1回目の収穫祭の時に。どうして黙っていたかは話さなくても問題ありませんわね?」

 

「あぁ、分かってるよ。隠し事をされていたことについて少し混乱していただけで、状況とかはもう頭の中で整理がついてる。あとは受け入れるだけだったからね」

 

 

 そう言って、ノエルは何回か深呼吸をして、いつもの表情に戻る。

 そして、ソワレに言った。

 

 

「改めて、久しぶりだな。姉さん」

 

「ええ、本当に久しぶりね。ノエル」

 

「まさか結婚していたとはねぇ……。こんな孫までいて。よっぽど素敵な出会いがあったと見える。昔の魔法好きな姉さんを見ていたアタシじゃ、そんなこと考えられるはずもなかったよ。今更だが、結婚おめでとう」

 

「ありがとう。まさか祝福の言葉をもらえるなんて思ってなかったわ。ガッカリしてないの?」

 

「最初に会った頃だったらガッカリしていたかもな。でも、それから色んな出会いがあって、色んなことを知って、色んなことを考えさせられた。だからさっきまでは驚くことしかできなかったよ」

 

「そう……。私としてはバレたくない一心だったのに、そうあっさりと返されると今までの時間は何だったのかしらって思っちゃうわ。ま、その方がノエルらしいけど!」

 

 

 そう言って、ソワレは楽しそうに笑い始める。

 それに釣られるようにノエルも笑い始める。

 安心したサフィア、マリン、ルナリオも、いつもの調子のやりとりを見て、不思議と笑いが込み上げてきたのだった。

 

 こうして、『スアール』は元の爵位名に戻り、ソワレは誰にとってもソワレとなった。

 その日はとても涼しい風の吹く、青空に雲の流れる晴れた日のことだった。

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