魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
それからしばらくして、ゴブリンの長が目を覚ました。
ソワレは過去のゴブリン討伐のことを全て打ち明け、何度も何度も謝った。
ゴブリンの長・イダチはソワレに悪意が無かったことを理解し、光魔法で自爆から救ってくれたことに感謝を返したのだった。
その後、ノエルたちが話を聞くと、ゴブリンたちは縄張りにしていた森で召喚士・ディートと契約を交わした後、南西の森で召喚士に呼び出されたのだという。
もちろん、自爆させられるとは微塵も思っていなかったらしく、ゴブリンたちはディートに対して怒りの炎を燃やしていた。
「なるほど……。利害の一致で契約したものの、悪いように利用されちまったわけだ」
「ただ、召喚された以上は召喚門に帰るまでが命令の範疇ですよね? そのディートってのが呼び戻したりしたら、また同じことが起きるんじゃ……」
「あら、簡単な話じゃない。呼び戻される前に誰かと契約し直せばいいのよ。召喚の契約は魔物と召喚者の利害の一致が前提にあるから、魔物側の意思があれば上書きできる……そうでしょ、ノエル?」
「あ、ああ。確かに姉さんの言う通りだが、問題は誰が契約するか、だ。アタシたちはしばらく契約できるほどの魔力が戻らない。だからすぐ契約するとなると難しいな」
「じゃあ、私でいいじゃないの」
キョトンとした顔で、ソワレはノエルにそう言った。
「まあ、姉さんなら魔力が残って……って、ええっ!? さっきの魔法で使い切ったんじゃなかったのか!?」
「まだあと数日は魔力が枯渇しそうにないわね。今のうちに村の結界の張り直しと強化でもしておこうかしら……」
「ちょっ、ちょっと待て! あれだけの魔法を使ったってのに、魔力が枯渇しそうにないだって!? 何を言ってるんだ、姉さんは!」
「あ、あー。邪魔するのも悪いかと思って黙ってたけど、少しだけ口を挟ませてもらってもいいかい、ノエルさん」
「うん? ルナリオ、どうした?」
「ばあちゃんが今そんな風になってるの、この杖のせいなんだ。ほら、さっきの光を使う前にここに付いてた白い珠を手で割ってたろう? 実はあの珠、昔からずっと毎日ばあちゃんが魔力を貯めてた魔力貯蔵庫だったんだよ」
それを聞いたマリンは、地面に散らばった白い珠の破片を拾い上げる。
「これ……外から見ただけでは分かりませんでしたが、よく見たら何層にも重なった結界でできていますわ!? これなら、どれだけでも魔力を封じこめることができたと言っても過言じゃないかもしれませんわね……」
「あの時買った杖に付いていた魔石はそんな構造じゃなかった気がするんだが」
「あら、もしかして思い出の品に付いていた魔石が別の魔石に変わったと思って落ち込んでいるのかしら?」
「別にそんなことは……いや、少しくらいは思ったが」
「安心して? この白い珠はあの時の魔石のままよ。少しだけいじって中身を作り替えはしたけど、素材自体はあの時の杖と全く同じものだと断言できるわ。私にとっても大事な杖だもの」
「そうか……。だが、数日分の魔力が枯渇しないってのはいくらなんでも盛りすぎじゃないか?」
ノエルはそう言いながら地面の白い珠の破片を見つめる。
「本当は持っているだけで魔力を供給できる仕組みだったんだけど、すぐに大量の魔力が必要だったから割ってしまったのよね……。そのせいで必要以上の魔力が吸収されちゃったみたい」
「確か十数年溜め込んだ魔力だよな、ばあちゃん……」
「十数年!? た、確かにそれならしばらくは魔力が尽きないのも納得できなくもないな……。姉さん自身の魔力容量にもよるが、それを超えたとしても姉さんの周りに光の魔力が大量に漂っているみたいだし……」
「これで信じてくれたかしら? 杖の魔石が壊れてしまったのは残念だけど、今回余った分を別で保管できる魔石を探さなきゃね。あ、そうだ。ノエル、一緒に買いに行きましょうよ」
「アタシは全然構わないが、そろそろ本題に戻るぞ。姉さんがこのゴブリンたちと契約するってことでいいんだな?」
「ええ、それで構わないわ。とはいえ、私も久しぶりだから、ノエル、やり方を教えてもらえるかしら?」
「もちろんだとも。いやぁ、まさか姉さんに教える日が来るなんてねぇ……」
そう言いながら、ノエルはソワレに召喚の契約の方法と召喚の仕方を教えた。
サフィアとマリンとルナリオは、その様子を微笑ましそうに眺めていたのだった。
こうして、ソワレはゴブリンたちと契約を交わし、召喚の契約を上書きすることに成功したのだった。
***
ノエルたちは日が暮れる前に急いで南西の森へと向かった。
ルナリオはゴブリン撃退に成功したことの報告と、王国からの援軍への説明のために先に村へと戻ったため、ノエルたちは4人で向かっていた。
「念のためにゴブリンたちは元の森に帰しておいたが、どうするんだ? 呼び出すも呼び出さぬも姉さん次第だが」
「私の一存でディートって人の生命の処遇を決められるなんて、なんて無責任なのかしら」
「そう言いつつ、少し上機嫌なのはどうしてですの……?」
「まず最初に私がぶん殴るのは決まってるけど、そのあとどうなるかは本人の態度次第でしょう? 果たして召喚で抵抗してくるのか、どれだけ滑稽な抵抗をするのか見ものだわ」
「ノエル様……。ソワレさんって、あんな人だったんですか……!?」
「あぁ、いい人過ぎるせいで、悪いものに対してはああやって容赦ない態度になるのさ。これまでの善の反動って言うべきかは分からないが……」
浮かれているソワレを横目で見つつ、ノエルたちはゴブリンたちの魔力を辿って森の奥へとやってきた。
すると、そこには召喚門と思われるものと、その前に黒いローブを着た小柄な男が倒れていた。
ノエルが叩き起こすと、その男は飛び起きてこう言った。
「おっ、お前……! さっきはよくも俺っちにあんな攻撃をしやがったな! おかげで目的のものを……って、あ、あれ? どうしてお前たちがこんなところに──」
「おや、目的のものってのは
「ゆ、油断したな! やれ! お前たち!!」
ディートはそう叫んだが、何も起こらない。
「あら、お前たちっていうのは、この子たちのことかしら?」
そう言って、ソワレはパッと召喚門を呼び出してゴブリンたちを呼んだのだった。
ゴブリンたちは当然憤っており、特にイダチの怒りは凄まじいものだった。
「ひぃっ!? ど、どうしてお前がこいつらを召喚してるんだ!?」
「残念だったわね! あんたがこの子たちに
「そう。自分の作戦を理解させるために、そしてこいつらの思いを言語化するために、お前は言葉と感情を魔具か何かで理解させた。その上でこいつらと契約を交わしたそうじゃないか。ただの召喚の契約かと思えば、下準備はしっかりしていたみたいだねぇ」
「ですが、あなたは間違いを起こした。あなたは彼らの思いを利用し、その生命を奪ってまで自分の計画を実行しようとしたのです。その裏切りをこのゴブリンたちが理解してしまいました。それは全て、あなたが学習させたせいなのですわよ?」
「さて、今は命令であなたに手を出さないようにさせているけど、もしそれを解いたらどうなるかしらね……?」
「や、やめろ……! こっちに……こっちに来るんじゃない……!」
ディートは尻餅をつき、ジリジリと下がっている。
「あらあら、逃げられるとは思ってないわよね? 他人の生命を軽く扱った罪は何よりも重いのよ?」
「た……助けてください、精霊様!! 見てらっしゃるんですよね! 神の心臓はここにあります!」
「はあ……命乞いをするどころか、まるっきり他人任せ。1回くらいは痛い目を見ないと……分からないみたいね!」
そう言って、ソワレは思いっきりディートの頭をグーで殴った。
尻餅をついていたディートはその勢いで後頭部を召喚門にぶつけ、再び気絶してしまったのだった。
「お、おぉ……。いやに鈍い音だったな……」
「私が最初に殴るって決めてたんだもの。力も入るわ。でも、こんな老体でも魔力を込めればあんな一撃が放てるものなのねぇ」
「と、とりあえずこのまま放置するのもアレなので、いつもみたいに
「ええ、よろしく。ゴブリンさんたちも、ゴメンなさいね。この人には色々と聞かなきゃいけないこともあるし、殺すわけにはいかなかったの」
「ダイジョウブ。ワカッテル」
「ありがとう。それじゃ……呼び出してすぐで悪いけど、またね」
そう言って、ソワレは召喚門の鍵を持って召喚門へと戻る。
「あぁ、でも姉さんの魔力が保つのって数日なんだよな? そうなると、もうこいつらを召喚することができなくなるのか」
「確かにそうねぇ……。じゃあ、これが最後に……」
ソワレは少し考え、しばらくしてゴブリンたちに尋ねた。
「ねえ、あなたたち、何か好きな食べ物とかあるかしら?」
「姉さん……?」
「オレタチ、ヤサイ、スキ」
「ほう、ゴブリンは雑食と聞いていたが、肉よりも野菜の方が好みなのか」
「ヤサイ、ハゴタエ、スキ」
「分かったわ。私たちの村で採れた新鮮な野菜を今晩は振る舞ってあげる。村長の私がどうにかみんなを説得してみせるから」
それを聞いたゴブリンたちは喜び始める。
ノエルは焦りながらソワレに尋ねる。
「ど、どういうつもりだ、姉さん!?」
「どういうつもりって、これでお別れなんて嫌じゃない? だから、せめて盛大に今日の勝利を一緒に祝おうかと思って」
「どうなればそういう発想になるんだ……」
「まあ、わたくしは全然構いませんわよ。結局のところ、村の方々がどう思うか次第ですもの。仮にも一度は村を襲ったゴブリンたちですし、警戒しないわけはありませんが」
「兵士さんたちもいるのに、大丈夫なんですか? 下手したら討伐されちゃうかも……」
「大丈夫よ。彼らは
「えっ……?」
***
ゴブリンたちを召喚門に戻したあと、ノエルたちはディートを運びながらソワレ村へと帰ってきた。
すると、ソワレ村の入り口付近にたくさんの馬車と兵士たちが集まっていたのだった。
「うん……? どいつもこいつも護衛向けの兵装で、武装してるやつが誰1人としていない……?」
「ええ、だって王国からの援軍って、村人を避難させるためだけの部隊だもの」
「えっ……ええっ!?」
驚いて困惑するノエルたちを置いて、ソワレは村へと近づく。
すると、兵士の中の1人がソワレのところへと駆けてきた。
「あ、ソワレ様! ご無事でしたか!」
「師団長さん、ご苦労様です。うちのリオから聞いてるとは思うけど、ゴブリンたちの脅威は去ったわ」
「ええ、こちらも仕事が減るのは非常に喜ばしいことです。それでは、挨拶をしてすぐで大変申し訳ありませんが、城へ帰りますね」
「いえ、1人だけ伝言用に帰して、あとのみんなは残っていきなさいな。宴会を開こうと思っているの」
「ええっ、わ、我々は何も仕事をしておりませんが……」
「いいのいいの。あなたたちが来てくれたから、村のみんなは安心しているのよ? それだけで十分に仕事をしているわ。あとは──」
こうして、ソワレの突拍子もない提案から生まれた宴会は、ノエルたちや村人だけでなく、兵士やゴブリンたちまでに参加者を広げていった。
ノエルたちはそんなソワレに振り回され、驚きを隠せないままに宴会の時間を迎えたのだった。