魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
その日の夜、ソワレの提案で半ば強引に催された宴会には、ノエルたち、ソワレ村の人たち、兵士たち、そしてゴブリンたちが集められていた。
ノエルたちの予想通り、ソワレ村の人たちも兵士たちもゴブリンたちの参加を猛反対したが、ソワレの説得もあって渋々賛同したのだった。
「安全は確保されているものの、魔物は魔物。知恵を持とうと人間とは相容れない存在だもんなぁ。それに、生き物は皆、未知を恐れるもんだ」
「だからこそ、よ。私は昔、彼らの家族を『魔物だから』って殺してしまった。ただ
「なるほど、魔物と向き合う機会が欲しかったってわけか」
「そういうこと。それに、私だけじゃない。魔物を恐れる民、魔物を狩る兵、そして魔物たち自身も、お互いを知ることで、私みたいに後悔せずに済むかもしれないじゃない?」
「そう……だな。まあ、それはそれとして──」
ノエルはそう言って、全員が囲んでいる大きな焚き火の向こう側に座る、豪勢な席に目をやる。
そこには、どこから持ってきたのか大きな玉座と、大量の料理が載った四角い食卓が用意されており、玉座には足を組んで座るメモラ王・ダイヤの姿があった。
「何であいつを呼んだんだ! 場違いにも程があるだろう!」
「宴会だもの。人は多いに越したことないでしょう? それに、彼には色々と世話になってるから。そのお礼も兼ねて呼んだってわけ」
「あぁ、先ほど兵士を1人帰していたのはそういうことでしたのね。まさか国王を呼ぶとは思いにもよりませんでしたが」
「うん……待てよ? ってことはあいつ、姉さんの正体を知ってたのか!? それなら少しくらい姉さんの話を振ってくれても良かったんじゃ……」
「まあメモラにある村の村長ですし、当然知っているでしょうね。ただ、あちらはノエルが知らないとは知らないでしょうし、責める理由にはなりませんわよ」
「くっ……。はぁ……もういいや。じゃあ、そろそろ始めないか? 食事が冷めるのはもったいないだろう?」
ソワレは頷き、全員に酒や水を手に持つように言った。
そして、ソワレの乾杯の音頭と共に、この世で最初の異種族混合型の宴会が始まったのだった。
***
宴会が始まって少しした頃、ノエルたちはダイヤのところに向かっていた。
ダイヤは酒に弱いからと果実水を飲んでおり、その様子を見たノエルたちは気軽に声をかけたのだった。
「さて、聞きたいことがあるんだが」
「話の入りからそれは怖いよ? ノエル。それで、オイラに答えられることだったら何でも答えるけど?」
「まず1つ目。お前は姉さん……ソワレのこと知ってたのか? アタシの姉だってことも」
「そりゃあ、もちろんだとも。大魔女だからっていうのもあるけど、それ以前から彼女の活躍はこの目に届いていたからね。それで、オイラがノエルの知り合いってことを知ったのか、ノエルにだけは内緒って口酸っぱく言われてたのさ」
「抜かりないな、姉さん……。だが、そのまま正体を話さずにいればバレる心配もなかったんじゃないのか?」
「まあ普通ならそれが一番なんだけど、今回ばかりは話が違うだろう?」
そう言って、ダイヤは美味しそうに食事を頬張る。
「うん? どういうことだ?」
「言ってしまえばノエル様のせい、ってことですよね?」
「えっ……。サフィー、そいつはどういう……?」
「サフィアさんのいう通りさ。ソワレ村の村長がかなりの魔法の使い手だ、なんてオイラが知ったら、第一にノエルに教えてしまうだろう? 幸い、ノエルの所在を知らなかったから良かったものの、もしかしたらバレてしまっていた可能性もあったってわけさ」
「あぁ……そういうことか。確かにそんな話があったらアタシは間違いなく食いつく。ただ、その事情を知っていればアタシには教えたりしない、ってことだな。全く、そこまで抜かりないとは」
「ま、そういうことだよ。それで? 1つ目ってことは他にもあるのかい?」
ノエルは「そうだった」と話を切り替える。
「2つ目は、そこの兵士たちについてだ。応援部隊と言われて派遣されてきた連中はどれも護衛用の装備で、まるっきりゴブリンを討伐するつもりなんてないみたいだった。こいつは一体どういうことだ?」
「避難させるための兵士だってのは知って……るみたいだね。じゃあ、どうして討伐部隊じゃなかったのか、それを聞きたいわけか」
「ええ、わたくしたちはてっきり、応援部隊が討伐を手伝ってくれるものとばかり思っていましたから。普通ならば、どこかに魔物が出た時、それを討伐するのは王国兵士たちの務めでしょう? それとも、メモラはその『普通』に当てはまらない国でしたの?」
「いやいや、メモラの兵士たちの仕事の中にはちゃんと魔物の討伐も含まれているとも。どちらかというと例外だったのは今回だけだ。何せ、魔物たちが目指していたのは大魔女と大魔女が張った結界がある村だったからね」
「ってことは、姉さんがいたから討伐部隊を送らなかったのか!? 姉さんがもう若魔女じゃないことを差し引いても、万が一、姉さんが村にいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そのための避難用の応援部隊さ。討伐部隊を送ったとして、もしソワレさんが村にいたら避難もほぼ手伝えない足手まといを送っただけになる。もしいなければ足止めはできたかもしれないけど、村の人たちを守れる保証はどこにもない」
ノエルは少し考え、ダイヤの話を頭の中でまとめた。
「つまり……避難用の兵士を送る方が村人の安全を守ることができる可能性が高かった。そう言いたいわけだな?」
「あぁ、それで合ってるよ。もちろん他の村が襲われた時は誰も魔物を対処できないから、討伐部隊を送っているけどね。本当にこの村が特別なだけなんだ」
「あたしからも質問いいですか?」
「うん、いいよ?」
「ダイヤさんはそこにいるゴブリンたちのこと、どう思ってるんです? 今ならあたしたちしか聞いていませんし、波を立てる発言をできるのは今だけかなと思って」
「オイラが波を立てることを言う前提なのはどうかと思うけど……。まあ全然気にすることでもないし、答えるよ。もちろん、ゴブリンっていうのはただの討伐対象だ。でも、今そこにいる連中はソワレの指揮下にあるんだろ? だったら、ソワレを信じるしかないじゃないか」
そう言って、ダイヤは宴会の隅で野菜を食べているゴブリンたちを見る。
村人たちはやはりゴブリンたちを恐れているのか、ソワレが野菜を運んでいた。
「それと、ソワレのこともここに来る途中で報告を見た。彼らの家族を過去に討伐し、それを悔いているってね。彼女にとって『家族』というのは、誰よりも大切な言葉だ。彼女はこれを乗り越えたことで、何か大きなことを巻き起こすかもしれないなぁ」
「こいつ、なぜか先見の明だけはあるんだよな……。それを聞くと、もしかしたら姉さんなら魔物と人間のあり方ってのを変えてくれるかもしれない。そう思ってしまうねぇ」
「魔物と人間のあり方……ですか?」
「今はお互いただの敵だろう? でもアタシたちはこの一件を通して、初めて明確な意思を持つ魔物に出会った。もしかしたら魔物も全員が全員、あの
「そう、彼女はそれをこれから証明してくれるかもしれない。オイラは国王として魔物は敵だと断定せざるを得ないけど、もし国民側が魔物を敵ではないと思ってくれる日が来たとしたら、それは喜んで受け入れるつもりさ」
「……へえ、少しは王様らしくなったじゃないか。って……お? 何やら騒がしくなってきたな?」
ノエルたちの目線の先にいるゴブリンたちは、美味しそうに野菜に齧り付いている。
ソワレがどんどんおかわりを持って行き、それをゴブリンが美味しそうに食べる様子を、村人たちは不思議そうに眺めていた。
すると、村人たちは次第に嬉しそうに笑い始めていたのだった。
「……魔物とはいえ、あんなに美味しそうに食べてくれるなんてねぇ」
「最近は料理ばっかりして、生の野菜の感想を中々聞けてなかったんだよな。好評……みたいだな?」
「もしかして……魔物と私たちって、ただ種族が違うだけで理解し合えるのかも……?」
「いや、でもゴブリンは昔、この村を襲ったって聞いたぞ……?」
「でもそれもこの野菜を食べたくて盗んでただけじゃないのかしら……?」
村人たちはお互いの考えをぶつけ始めた。
そして、その声は次第にソワレの元へと集まってきたのだった。
その様子を見ていたノエルたちは頷き、マリンはダイヤに言った。
「……では、そろそろわたくしたちもソワレさんに合流しましょうか」
「そうだな。姉さんの考えもそろそろまとまった頃だろうし」
「ま、オイラはここで楽しく話を聞かせてもらうとするよ。母さんたちにもいい土産話になりそうだし」
そうして、ノエルたちはゴブリンたちの近くにいる、村人たちに囲まれたソワレの元へと戻ったのだった。
***
「みんな、落ち着いて。ひとりひとり、ちゃんと話は聞いてあげるから」
そう言って、ソワレは村人たちを
その中にいたルナリオは、ノエルたちが近づいてくるのが見えた瞬間、その群衆の中からどうにか抜け出してくる。
「ちょうどいい所に来てくれた……。この騒ぎ、どうにかならない?」
「これをどうにかするのはアタシたちの仕事じゃないよ。この村の問題に、外の人間が口を出すものじゃないし」
「それに、次の村長候補のルナリオさんなら、わたくしたちに聞かずともどうにかできると思いますけれど」
「そう言われてもなぁ……。ばあちゃんが困ってるのは見逃せないけど、どうすればいいかなんてそんなすぐに思い浮かぶはず…………」
その時だった。
ルナリオの目線はノエルたちに、いや、そのさらに奥にいるメモラ国王・ダイヤに向けられていた。
ルナリオはノエルに尋ねる。
「……ノエルさん。国王様、ゴブリンについては何て言ってた?」
「うん? 確か、国王としては討伐対象だけど、国民の意思を尊重するって」
「あとさ、知ってたらでいいんだけど、国王様って王都付近にでっかい農園持ってたよね? あれって、誰でも手伝えるのかな?」
「ま、まあ、あれだけ土地が余っていれば人手はいくらでも欲しいだろうさ。それに、少なくともダイヤが許可した奴なら働けると思うが……。って、急にどうした?」
「何やら……思いついたようですわね?」
「あぁ、でも……流石にこれはどうなんだ……?」
ルナリオは腰を下ろし、首を捻ってうんうん唸る。
すると、サフィアがその肩を軽く叩いて声を掛けた。
「ルナリオさん、ルナリオさん」
「う、うん? 何だい、サフィアちゃん」
「こんな時にぴったりな言葉を、ノエル様はあたしに教えてくれたわ」
「へえ? 是非とも聞かせてもらいたいね」
その瞬間、サフィアの隣にノエルが顔を出し、2人は声を合わせてこう言った。
「「思い立ったが吉日! 四の五の言わずにさっさと行動!」」
それは、サフィアはノエルから、ノエルはクロネから教わった言葉だった。
つまりそれは、クロネからソワレへ、そしてソワレからその子供たちへと語り継がれた言葉でもあった。
「ばあちゃんも同じこと……言ってたっけ。……うん、分かった。もうどうにでもなれ!」
「さあ、行ってこい!」
背中を押されたルナリオはソワレの後ろまで駆けていき、その近くにあった石段に乗る。
ルナリオは息を大きく吸い、全員に聞こえるように言った。
「みんな! 聞いてくれ! ゴブリンたちも、応援部隊の人たちも、国王様も!」
すると、全員の目はルナリオに向いた。
ルナリオはソワレに尋ねる。
「まず! ばあちゃんはゴブリンたちと向き合ってみて、色々と思ったことがあるはず。もしかしたら結論は出ていないかもしれないけど、それでも、少なくとも、俺たち村人の意見を尊重してくれようと頑張ってくれている。それで合ってるか?」
「……ええ、ルナリオの言う通りよ。だから、あなたの話もちゃんと聞いてあげる」
「分かった……。次、ゴブリンたち! お前たちは変な奴に知恵を与えられたおかげで、もはやただのゴブリンじゃない、とんでもない魔物に進化した。脅すようで悪いけど、さらに人間や他の種族から危険視される存在だ。それでも、元の魔物の暮らしに戻れると思っているか?」
「……オモワナイ。モリニカエッテモ、イバショ、キットナイ」
「ってことは、この宴会が終わったらお前たちはもしかしたら、自分たちを守るために他の村を余計に襲ってしまうかもしれない。逆に、知恵を持つゆえに孤独を覚えてどこかで寂しく死ぬかもしれない。それは俺たちも嫌だし、お前たちにとっても嫌だろう?」
「……サミシイ、イヤ。イバショ、ホシイ……」
それを聞いたルナリオはニヤリと笑い、その顔をダイヤの方へと向けた。
「なるほどなるほど……。じゃあ次が最後だ。国王様!」
「えっ……?」
ルナリオの一言で、全員がダイヤの方に振り返る。
「えええええ!? オ、オイラ!?」
「そうですよ。俺はみんなを守るためにこのゴブリンたちをそのまま帰したくないし、ゴブリンたちも居場所を求めている。これはばあちゃんへの俺の意思でもあれば、国王様に対する強い意思でもあるんです」
「それは分かるけど、どうしてそこでオイラが出てくるんだ!」
「こいつら、食べ物と寝床があれば……居場所さえあれば、きっと誰にも危害を加えないと思うんです。って、おや? そういえば国王様って、食べ物が採れる場所を、それも広大過ぎて土地を余らせるくらいの農園をお持ちでしたよね?」
「お、おい……!? ま、まさか……ソワレの孫、お前……!」
「この村を、この国を、みんなを守るために、こいつらゴブリンを
ルナリオの言葉は、誰の反対も寄せ付けないほど強い意思を持って、それでいて誰もが納得できるようなしなやかさを持って、その場にいる全員の心に刻まれたのだった。