魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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断章
断章01.ルフールと回想と大魔女と……


 ノエルたちがメモラに戻って拠点を作って活動をし始めた頃、ルフールは自分の家がある東の国・ノルベンに戻っていた。

 

 そんなある日のルフールの話。

 

 

***

 

 

 ワタシは布団の上で寝転がりながら、先日あった大魔女集会のことを回顧していた。

 愛弟子・ノエルに再会できたことは嬉しかったが、大魔女とかいう変な称号を貰ってしまった。

 

 

「大魔女……ねぇ。ま、ワタシ自身、特に何が変わるってわけでもないけど。そもそも魔女に大も小もないだろうに、国王たちはどういうつもりなのかねぇ……。そんなに災司(ファリス)が恐ろしい──」

 

 

 災司(ファリス)に、真の精霊とかいうヤツに、ワタシの結界が破られた。

 それもただの結界じゃない。

 時間をかけて組み上げた、自慢の防護結界だった。

 

 

「……まあ、恐ろしいか」

 

 

 そう言った自分が一番に恐れているのに気づいて、少しだけモヤっとする。

 そのモヤモヤは次第にイライラへと変わっていった。

 

 

「というか……あそこまで特殊魔法が通用しないとは聞いてない! ワタシたち特殊魔法使いは、他人の魔導書を使うとかしない限り基本属性の魔法が使えないってのに、これじゃ無能と全く同じじゃないか!」

 

 

 思わずそう叫んでしまった。

 でも、おかげで冷静な思考を少しだけ取り戻す。

 

 

「まあ、ノエルが防護結界以外の結界を極めろって言ったのは、そういう意味では大正解なんだけど」

 

 

 ただ、やっぱり防護結界も諦めきれない。

 が、そのままではただの思考停止だと気づき、すぐに頭を切り替える。

 

 

「えーと、防護結界以外の結界か……。思い当たるのだと、魔力の爆発力を高める『魔力結界』とか、移動速度を高める『瞬足結界』とか……。まあ、色々と種類はあるんだよね」

 

 

 そう言いながら、ワタシは空間魔法で本棚を手元に転移させ、資料を漁る。

 そもそもの話、結界は空間魔法の特権じゃない。

 魔力結界は火魔法で作った方が爆発力が高いし、瞬足結界は風魔法の方が簡単に作れる。

 空間魔法はその属性の力を補完できているだけで、所詮は元の属性の下位互換に過ぎないのだ。

 

 

「結界じゃなければ空間転移とか空間拡張とか色々あるけど、結局は結界に応用してしまっているからな……。どうしたもんか……」

 

 

 ふと、寝転がったまま天井を見上げると、自分で拡張した屋根裏が見える。

 外から見てもここまでの高さはなくとも、中ではしっかり高さのある空間が形成されている。

 

 

「ワタシが結界を作るには空間魔法を使うしかない。この家だって、ノエルに渡した財布だって、空間魔法で結界を作ったからこそ作れたものだ。ということは、絶対に何かできることがあるはず……か」

 

 

 そう思ったワタシはいつの間にか、街に繰り出していた。

 

 

***

 

 

「やはり、新しい魔法を閃くには外に出るに限る!」

 

 

 新しい魔法は大抵、発想力から生まれるものだ。

 特に特殊魔法は物体として存在しないから、応用の発想が生まれにくい。

 ただ物体ではないにしても、空間に限ってはどこにでも()()

 モノとモノの間、わずかな隙間、地上から空の上までもが『空間』を有している。

 

 

「空間は広く、狭く、繋がっていたり、隔てられていたり。どうしてもワタシはそこまでしか空間ってのを把握しきれていないんだよなぁ」

 

 

 空を見上げると、雲が流れていくのが目に入る。

 それを見て、ふとこんなことを思った。

 

 

「ファーリは特殊魔法なんて使えなかったらしいのに、本当にどこから湧いて出たんだろうかねぇ。ファーリが生きていた頃、数人の魔導士が他の魔法の代わりに使えるからって魔法の括りに入れてもらったけど、そのおかげで研究が進んでいないわけで」

 

 

 今や空間魔法を使っているのはワタシくらいかもしれない。

 初級と分類されるような空間魔法ならどんな魔導士でも適性があれば使えるらしいが、それ以上を使っている魔導士なんて全く見たことがない。

 初級空間魔法を作った先駆者たちは、それ以上の研究ができなかったということなのだろう。

 

 

「魔導士の家に生まれて魔力もそれなりに多かったのに、属性は不明。ようやく使えた魔法が、全く研究の進んでいない空間魔法。おかげで独学で魔法を勉強する羽目になった。まあ、その時に余計に勉強したからこそ色々な属性に聡いわけだが」

 

 

 そんな独り言を呟いて、途端に恥ずかしさのようなものを感じる。

 一人で自分語りをするほど、ワタシは焦っているのかもしれない。

 しかし、こうでもしないと今は何も思い浮かばない。

 ワタシはそう思った。

 

 

「あとは……ワタシと同じ、特殊属性しか使えないクロネと出会ったことが人生の岐路だったな。ヴァスカルで特殊魔法について調べるために王立図書館に行ったら、同じ用で鉢合わせたんだったか。それから仲良くなって、連絡先を交換して、気づいたらあの子が結婚してて……」

 

 

 魔女にとって、結婚して子を儲けることは魔女としての力を捨てることと同義だ。

 でもクロネは魔法よりも幸せを選び、ソワレとノエルを産んだ。

 

 

「それから数年経って、ワタシはノエルとソワレの師匠になった」

 

 

 その当時は、まさかワタシがクロネの子供たちの師匠になるとは思いにもよらなかった。

 もっと思いにもよらなかったのは、クロネが2人の師匠になって欲しいとワタシに頼んだことだった。

 クロネの夫は当然魔導士だったから、わざわざワタシに頼む必要はないし、そもそも基本魔法を扱えないワタシでは師匠なんかになれやしない。

 

 だから、ワタシは一度断った。

 

 

「だが、クロネの夫が病気で死んで、話は変わったんだ。ワタシはその訃報をソワレからの手紙で知り、急いでクロネたちの家に駆けつけた。そこでワタシが見たのは、ボロボロになりながら時魔法の研究に明け暮れるクロネの姿だった……」

 

 

 それは大厄災が鎮まって、半年もしない頃のことだった。

 クロネが昔から寂しがりやだったのは知っていたけど、その感情以上に、誰よりも寿命というものを恐れていたのだと知った。

 クロネの寂しさをソワレとノエルだけに埋めさせるのは酷だったし、いくらソワレがしっかりしていても限界はある。

 それを悟ったからこそ、ソワレはワタシに手紙を送ったのだろうと思う。

 だから、ワタシはソワレたちの世話をするついでに魔法の修行をつけるようになって、同時にクロネの生活を支えることになった。

 

 

「あの生活があったからこそ、ワタシはもっと空間魔法を上手く使えるようになりたいと思うようになったんだったっけ。そして、クロネが若返りの時魔法を完成させたあとも、ワタシはソワレたちの修行をつけてやったんだ」

 

 

 結果としてある種の同情からあの子の頼みを聞いてやったようなものだけど、ソワレやノエルみたいな子供に魔法を教えることはワタシに新たな知見を与えてくれた。

 自分が持っていない視点や発想を知ることは、ワタシの魔法への興味を()()へと昇華させた。

 その結果が今の魔法好きの『変態』ってわけだけど。

 

 

「……ふぅ。たまにする散歩も悪くないな」

 

 

 全くもって新しい魔法は思い浮かばなかったけど、少し思いついたことがある。

 新しい発想を得るのは何も1人でやることじゃない。

 魔法は色んな解釈があるからこそ発展してきたし、そこが面白いところでもある。

 

 

「帰ってすぐだが、クロネのところにでも行くかな! 大魔女集会ではゆっくり話す暇なんて全くなかったし」

 

 

 ワタシはそう言って、伸びをした。

 するとちょうど風が吹き、着ている白衣が翻る。

 何をしようかずっと悩んでいたけど、ワタシにもできることがあると気づけた。

 最近になってクロネと再会したのが良かったのかもしれない。

 

 

「大魔女っていうのも悪くないかもしれないな。他の特殊魔法……運命魔法の使い手ってのもいたし、次集まる時にでも詳しく話を聞いてみても──」

 

 

 ふと、運命魔法の使い手・エストのことを思い出す。

 クロネ・ルカ・エストと4人で防護結界を作っていた時、ワタシたちは彼女の話を聞かされた。

 それは彼女の昔話でも、防護結界についてでもなく、()()()()()()だった。

 

 

「……蘇生魔法を使うと、ノエルが死ぬ、だったか」

 

 

 突拍子もないことを言うものだとその時は思った。

 でも、それを聞いたクロネの表情を見て、それが嘘ではないのだと知ってしまった。

 クロネは嘘を見抜ける。

 一番この真実を知るべきでない人間が、真実を知ってしまったのだ。

 だから最初はエストを非難した。

 でも、彼女もかなり追い詰められていたんだろうな。

 ワタシたちだけに内緒にしておくのは辛かったんだと思った。

 

 

「そのあと聞いた話によると、ノエルはその運命すら乗り越えようとしているらしいけど、それを聞いてクロネはホッとしていたな。ワタシも少しそれで落ち着けた」

 

 

 大魔女に選ばれるくらいの運命魔法の使い手が見た、ノエルの死の運命。

 それが、ワタシたちと関わりがないはずもない。

 そう思うと、ワタシの中で少しずつ何か新しい想いが枝分かれし始めた。

 

 

「ワタシはノエルのお願いは聞くつもりだし、空間魔法の研究も独自で進めるさ。だけど──」

 

 

 言ってしまうと、それは()()だった。

 いずれ来るとされるノエルの死。

 それを覆す方法があるのか?

 そもそも死因は自殺と聞いたが、自殺に至った原因は?

 どうして蘇生魔法の発動と時期が被っている?

 考え始めるとキリがなくなってきた。

 

 

「だけど、ワタシは()()。魔法への興味は誰にも負けない自信がある。いや、もしかしたらこれこそが大魔女と呼ばれる者の本質かもしれないな?」

 

 

 そう思った途端に心からの笑いが思わず出てくる。

 

 

「フ、フフ……。これはこれは……楽しくなってきたぞ……! 待っていろ、ノエル! ワタシはお前の師匠として、そして大魔女として、絶対にお前を死なせない……!!」

 

 

***

 

 

 その日、路上で高らかに笑うルフールの姿が噂となってノルベン中に広まった。

 そんな噂が流れているとはつゆ知らず、ルフールはヴァスカルに向けての旅の準備を始めるのだった。

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