魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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断章02.クロネと王と猫たちと……

 ノエルたちがゴブリンの件を解決し、一度ヴァスカルに戻った数日後のこと。

 ノエルたちは用事を済んだからと、クロネにしばしの別れを告げてヴァスカルから出ていった。

 

 そんな頃の、ある日のクロネの物語。

 

 

***

 

 

「はぁ…………」

 

 

 ワシは学長室の椅子に座りながら、目の前ではしゃぎ回っている()()に頭を抱えていた。

 片や黒く、片や白い()()は、ノエルたちがワシに預けていった『猫』。

 ノエル曰く、どうやら魔力を持っているらしく、それを研究して欲しいとのことだが……。

 

 

「なぜワシがこんな小動物の世話をせねばならんのじゃ……。いや、断る理由がなかったから自業自得ではあるんじゃが、どうしたもんか……。研究するのは快諾したが、世話のことをすっかり忘れておったわ」

 

 

 学園長とはいえ、最近は仕事に慣れてきたのもあって、忙しさの中で時間が余ることが増えてきた。

 言ってしまえば、ヴァスカル王に指導を付けつつ研究もできるくらいの余裕はあった。

 しかし、この2匹を世話するとなると話が変わってくる。

 

 

「ワシの部屋で飼うには部屋が広すぎて、色々と面倒が起きそうじゃし……。学園の誰かに頼むのは……ワシの管理の目が届かなくなるから無理じゃな。と、なると必然的に……」

 

 

***

 

 

「それで最初に余のところに来るのはどうかと思うのだが」

 

 

 ワシは2匹を抱えてヴァスカル王の部屋を訪ねた。

 ヴァスカル王はあからさまに嫌そうな顔をしているが、話は聞いてくれそうな目をしている。

 

 

「まあまあ、どうせ暇じゃろ?」

 

「一国の国王に暇などあるわけが……。いや、今は確かに時間に余裕があるが……」

 

「今頃の時間がお主の休み時間なのはワシでも知っておる。流石に公務中に来ようとは思わんわ」

 

「で……それが(くだん)の猫か。それをこの部屋で世話すれば良いのか?」

 

「おお、その通りなのじゃが、思ったよりも話が早くて驚いた。本当に良いのか?」

 

「この部屋には常に専属の使用人がいる。余が世話するかはさておき、この部屋で世話するくらいなら問題はない。……問題ない……よな?」

 

 

 ヴァスカル王は心配そうに使用人に確認する。

 使用人は全く気にも留めない素振りで二つ返事を返した。

 ワシは猫たちを部屋に下ろし、自由にした。

 

 

「では、ワシがその子たちを研究したい時は、この部屋を訪ねることにするかの」

 

「分かった。それまでは使用人にちゃんと世話をさせるとしよう」

 

「助かるよ。とはいえ、お主の魔法の訓練は明日じゃし、暇じゃな。では早速研究をさせてもらお──」

 

 

 ふと、猫たちに目をやると、ワシは愉快な光景を目にした。

 2匹は椅子に座っているヴァスカル王の上に飛び乗り、彼の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らして甘え始めたのだった。

 

 

「……クロネよ。これは一体どういうことだね?」

 

「おぉ、見事に懐かれておるのー」

 

「いや、そうではなくだな。懐かれる理由が分からんのだが」

 

「単純にいい匂いがするとかではないかの? 美味しい匂いがしたとか」

 

「であれば、そこの使用人もクロネも同じものを食べているだろう。特別に香水を振っているわけでもないし……」

 

「まあ、使用人の方も嫌われている様子はないし、ワシも普通に懐かれていたから、そういう性格なのかもしれんぞ?」

 

 

 そう言って猫の方を見るが、明らかにこれまでと違う反応を示しているのは見て取れる。

 そういえば、ただの猫ではないということをすっかり忘れていた。

 

 

「のう、ヴァスカル王。その猫が魔力を持っているという話はしたと思うが、それについてはどう思う?」

 

「余よりもクロネたちの方がそういうことには聡いのではないのか?」

 

「調べた限りの前例がない以上、ワシら大魔女以外の見解も役に立つんじゃ。今懐かれている感じとか、些細なことでも良いぞ」

 

「ふむ……触った感じや動きはやはり余の知っている『猫』そのものだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「いや、魔力を持っているということは、この猫は()()ということにはならないのか?」

 

 

『魔物』という生き物の分類は、実は生物学的な区分ではない。

 生まれながらに魔力を有した種を、人間が勝手に魔物と呼んでいるだけだ。

 

 

「うーむ……。もしその魔力が後天的なものであれば、ワシらの呼ぶ『魔物』ではないが……」

 

「もし後天的に魔力を得たとしても、本質的には魔物と同じなのだろう? そうなると、余は魔物とほぼ同質の生き物を飼うことになるのか?」

 

「本質的には魔物、か……。そういえば魔物は魔力を食べるそうじゃが……まさかな?」

 

「……余の大量の魔力を嗅ぎつけて懐いている、と? そう思ったら少し恐ろしくなってきたんだが……」

 

「まあ、今のところは普通の猫と大差ないくらい微量な魔力しか持っておらんよ。そもそも、なぜ光と闇の体内魔力を有しているのかさえ分かれば研究は終わるし、危険と判断したらいつでも駆除依頼をしてもらって構わんぞ」

 

「不安しかないな……。早急に研究を進めてもらいたいが……そうもいかないからここに預けるのだな……」

 

 

 今までの数日、ノエルたちと一緒にいたにも関わらず特に変わった様子はなさそうだったそうだが、念のため首輪に小型の魔力計を取り付けておくことにした。

 魔力が一定値を超えると音が鳴り響く仕様だが、保険に過ぎないという説明だけはしておき、ワシはヴァスカル王の部屋でそのまま研究を始めたのだった。

 

 

***

 

 

 それから夜になるまで研究を続けた。

 しかし、今持っている知識で色々試してみても、成果は何も得られなかったのだった。

 

 

「ふむぅ……困ったな……」

 

「おお、まだいたのか」

 

 

 ちょうどそう呟いた瞬間に、ヴァスカル王が部屋に戻ってきた。

 猫たちはワシの膝の上から飛び降り、ヴァスカル王の足元に擦り寄る。

 

 

「そろそろ帰るところじゃよ。この子たちも疲れたろうし、エサをやらんとな」

 

「……それにしても、やはり余に限って懐かれ方がおかしくないか?」

 

「魔力に食いついてると分かれば、それはそれで成果とも言えるんじゃがなぁ……」

 

 

 そう言って、ワシはノエルから貰った猫用のエサを袋から取り出して、エサ入れに流し込む。

 すると、その音を聞きつけた2匹は信じられないほどの速さでエサ入れに食いついたのだった。

 

 

「じゃが、普通の猫のエサは食べる、と。食欲は魔力への欲求とは別なのかもしれんのう」

 

「そういう点では魔物とは別の生き物ということになるのか?」

 

「いや、ゴブリンやドラゴンなどは肉を食べると言われている。つまり、魔物は魔力以外にも栄養を摂取する必要がある可能性があるそうじゃ。じゃから、まだこやつらが魔物ではないと断定はできん」

 

「ふむ、なるほどな……。あぁ、そういえば。関係ない話だが、ファーリの伝承についてひとつ、新しく分かったことがあったぞ」

 

「うん? お主、そんなことを調べておったのか。それで、何が分かった?」

 

「ファーリが子供の頃に精霊たちと戯れていたという森、その場所が判明したのだ」

 

 

 確か、ファーリが子供の頃にいたのはメモラだ。

 しかし、住んでいた家の場所も、どの地域に住んでいたのかも、はっきりとは判明していなかったはず。

 

 

「あぁ、もしやファーリの新しい遺産でも見つかったとかかの?」

 

「いいや、見つかったのは場所そのものだ」

 

「場所そのものじゃと? そんなもの、どうやって見つけたんじゃ?」

 

「最近、一部の魔導士たちに大陸中の魔力の分布図のようなものを作らせていてな。その実地調査中、明らかに魔力集中度のおかしな森がメモラにあったそうだ」

 

「では判明ではなく、そうだと思われる場所が見つかっただけじゃな? 全く、驚かせおって」

 

「いやいや、判明したとも。ファーリの物語の冒頭、最初に『精霊さん』が出てくる箇所を思い出してみて欲しい」

 

 

 物語の冒頭は、幼い頃のファーリが精霊と遊んでいる情景を描いていたはずだ。

 そして、その精霊……つまり魔力の説明は、基本属性全ての紹介も兼ねて──。

 

 

「うん……? 全ての基本属性……? よくよく考えたら、そんな場所はあり得ぬな?」

 

「その通り。自然とはいずれかの属性が欠けていることによって形成されている……とされているからな。森であれば火の魔力、火山であれば水の魔力、といったような属性が欠けているからこそ、その均衡は保たれている」

 

「ファーリ自身が残した自然論じゃな。それに、闇の魔力が昼間に出てくるのもおかしい話じゃし、物語だけの演出じゃと思っておったが……まさか!」

 

「そのまさかだ。その森こそ()()()()()()()()()、ファーリの物語に出てくる森だったのだよ!」

 

「なんということじゃ……」

 

 

 一目見たい。

 そう思ったのが最初の印象だったが、それはもしかしなくても自分だけではないのではないか?

 ワシはそう思い、ヴァスカル王に尋ねる。

 

 

「それが見つかったということは、災司(ファリス)たちに漏れておらんよな? そんな魔力の聖地みたいな場所、悪用される予感しかしないんじゃが」

 

「いや、その心配は要らない。何のための大魔女だと思っている?」

 

「なるほど、ノエルたちに任せたんじゃな。メモラの管轄じゃから、当然といえば当然か。それで……個人的に訪問したいんじゃが、場所だけ教えてもらえるかの?」

 

「そう言うと思って、ほら。地図に描いてもらったよ」

 

「お、話が早いの。えーと、どれどれ……」

 

 

 机の上に置かれた地図を見ると、そこはメモラ城の城下町の近郊の一帯に広がる森の、さらに奥にあるようだった。

 しかし、ワシはこの近所の地図を以前見たことがあった。

 

 

「……ノエルとイースの家がある森と場所が近い。むしろ、場所が違うだけで同じ森ではないか?」

 

「うん? そうだったのか? 何という偶然だろうな」

 

「ま、まあ……ノエルがあそこの家を買ったのは偶然じゃろうが……」

 

 

 そう呟いた瞬間、2匹の猫が食事を終えたのか、鳴き声を上げてヴァスカル王の膝に飛び乗った。

 しかし、飛び乗るや否や、黒い方だけがなぜかこちらをじっと見つめている。

 色々な考えを巡らせながら、ワシはその瞳に吸い込まれるように見つめ返していた。

 

 

「…………ん?」

 

「猫の方をじっと見つめたりなんてして、どうかしたか?」

 

「……そうじゃ。その猫、ノエルの家で見つかったんじゃよな? もしかして、その森から来たのではないか?」

 

「ふむ……十分にあり得る話だな。もしかしたら、その森に行けばこの猫たちと同じような動物がいるかもしれない……ということか」

 

「まさかその話が繋がるとはな……。ノエルとこやつらが出会ったのは偶然ではなく、必然だったのかもしれんのう……」

 

 

 思い立ったが吉日だと思い、ワシは立ち上がって手を鳴らした。

 

 

「よし、では早速、出立の準備でもするかの!」

 

「明日の訓練はどうするんだ?」

 

「何を言っとるんじゃ。お主も付いてくるんじゃぞ?」

 

「えっ……。いや、余は公務が……」

 

「明日は一日中、訓練の予定で組ませてあったじゃろうが。それを潰して、メモラの森に一緒に行こうと言っておるんじゃ。もちろんその2匹も一緒じゃからな」

 

「えぇ……。そんな強引な……と言っても、いつものことか……」

 

 

 そう言って天井を見上げるヴァスカル王を見て、不意に笑いが溢れた。

 それでしばらく笑ったあと、ワシは部屋を上機嫌に出て行ったのだった。

 

 

***

 

 

 明日は魔力の聖地に行くわけだし、探索が終わったらそこで訓練をしてもいいな。

 食事は何を持って行こうかな。

 どんな魔導書を持って行こうか。

 

 そんなワクワクを久々に感じつつ、クロネとヴァスカル王は2匹を連れてメモラの森へと行くことになった。

 

 そして、2人と2匹はそれから何度もその森に出向き、毎度毎度新しい発見をすることになるのだった。

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