魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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断章04.ロヴィアとロウィと所有権と……

 ノーリスの工房街。

 そこは央の国・ノーリスを中心とした、9の国家全てを支える産業の発展地である。

 半分は工業地区、もう半分は魔導地区と呼ばれていたが、ノーリスに新たな国王が即位したことによって、工房街の様相は次第に変わりつつあった。

 

 そんな中、大魔女となったロヴィアは自室で目を瞑って寝転がっていた。

 

 

***

 

 

「……ねえ、ロウィ。どう思う?」

 

 

 心の中で、私はロウィに話しかける。

 

 

「どう思うって……何のことだよ、ロヴィア」

 

「あぁ、ゴメン。新しいノーリス王のことよ。あの人、前国王(クソヤロウ)の行いを全て国民に言っちゃったじゃない? それで最近、工業地区の職人さんたちが落ち込んでるらしいの」

 

「あー、その話か……。アタイとしてはどうでもいいかな。国王が誰でもいいとまでは言わないけど、この工房さえ守れればいいし。で……何で新国王のせいであのおっちゃんたちが落ち込んでんだ?」

 

「恐らく、売り上げがあんまり良くないんでしょうね。国民だけで収まるような話でもなかったし、他の国からの印象もかなり大きく変わったはずよ。噂じゃ、『ノーリスの工業品は血でできた非人道の象徴』とまで呼ばれてるとか」

 

「なるほど、それをどうにかするのが新国王さんの最初の仕事ってわけだ。って、そんなことわざわざアタイに聞くような内容じゃないって分かって聞いたよな? 何でアタイにそんな質問したんだ?」

 

「ロウィって工業地区の職人さんたちとも親しかったじゃない? だから、あなたの力でせめて工業地区の人たちを励ましてあげられたら、って思って」

 

 

 ロウィは黙り込んでしまった。

 心の中の会話とはいえ、お互いの考えや思いまで共有できるわけじゃない。

 でも、ロウィはきっと悩んでくれているのだろうとは思った。

 しばらくして、ロウィが語りかけてきた。

 

 

「あのおっちゃんたち、アタイが事故死したことも知っちゃってるんだよな。ちょっと気まずいなぁ……。幽霊が出たって言われそうじゃん」

 

「ま、まあそうね……。でも、見た目はかつてのあなたじゃないわけだし、話してみてもいいんじゃない? もし怖がられたり酷いこと言われたりしたら、私が交代してあげるから」

 

「んー、アタイが死んだせいで血塗れの製品とか呼ばれてるわけだし、変に根に持たれてなきゃいいけど……。でもまあ、何とかなるか! アタイが励ました程度でおっちゃんたちが喜ぶんなら、見た目ほど落ち込んでないってことだろうし!」

 

「前向きなのはいいけど、無理はしないこと。頼む側の私が言うことでもないけど、分かった?」

 

「もちろん! 久しぶりだなー、おっちゃんたちに会うの!」

 

 

***

 

 

 そんなこんなで、アタイは工業地区に到着した。

 周りを見てみると、確かにおっちゃんたちがやる気なさそうに作業している姿が目に映る。

 一度死んだ人間が言うとアレだけど、少し罪悪感を感じてしまう。

 

 アタイはいつもの話し方だと変に思われると思い、ロヴィアの話し方を装って顔見知りの鍛冶屋のおっちゃんに話しかけた。

 

 

「あ、あのー。今いい……ですか?」

 

「あぁん……? 何だ、魔導工房のロウィ……いや、本当はロヴィアって名前なんだったっけか。今は忙しいんだ、話しかけないでくれ」

 

「そう……ですか。ゴメン……」

 

 

 そう言って、アタイは違う工房の方へと足を向けて歩き始めた。

 その瞬間、アタイの耳に鍛冶屋のおっちゃんのボソボソ声が響いてきた。

 

 

「全く……誰のせいだと思って……」

 

 

 獣人の力を得たことで耳が良くなるっていうのは、便利なものだと思っていた。

 でも、聞こえなくていいものも聞こえるのだと、アタイは身をもって理解した。

 アタイは足を戻し、おっちゃんに向かって文句を返してやった。

 

 

「何だ、ロヴィアから落ち込んでるって聞いたから、わざわざ労いに来てやったってのに、そんな言い方はねえだろ?」

 

「ちっ、聞こえてたか……。って、うん? ロヴィアから聞いたとか何とかって、お前さん、何言って…………」

 

 

 おっちゃんのその沈黙は、すぐに破れた。

 

 

「お、お前さん、まさか本物のロウィか!?」

 

「あー……。さっきの言い方、やっぱりそこまで知ってるよなぁ……」

 

「噂で聞いた程度だったから完全には理解できていなかったが……確かに以前のロウィ……じゃなかった、ロヴィアとは何というか、雰囲気が全く違う。まさか、お前さんが二重人格という話が本当だったとは……」

 

「久しぶりだな、鍛冶屋のおっちゃん。すまねえな、あんたがこれまで見ていたアタイはアタイじゃなくてロヴィアだったんだ」

 

「あの頃はお前さんが急に落ち着いた雰囲気に変わったと思っていたが、全くの別人だと聞いて、そしてお前さんに会って、ようやく納得したよ。見た目はロヴィアと変わらずとも、端々からやんちゃな雰囲気が伝わってくる!」

 

「で、製品が売れないのが誰のせいだって?」

 

「い、いや、何でもない! 一度事故で死んだ人間を前にして、そんな不謹慎なことを言えるはずがないだろ……」

 

 

 アタイは高らかに笑って、鍛冶屋のおっちゃんを諌める。

 

 それからアタイは鍛冶屋のおっちゃんから始まって、製鉄所のおっちゃん、靴職人のおっちゃん、発明家のおっちゃんとかとか、色んなおっちゃんに話しかけては励ました。

 みんな、これまでのロウィがアタイじゃなかったことに対して、色んな想いを教えてくれた。

 そして、それからは誰も、アタイのせいだ、なんて言わなくなった。

 

 

***

 

 

 夕方になり、工房への帰り道。

 私はロウィの達者な口に感銘を受けていた。

 

 

「まさかあなたがここまで話し上手だったなんてね……。おかげ様でみんな活力を取り戻してくれたみたいで何よりよ」

 

「ロヴィアが喜んでくれてるなら良かった。初めてロヴィアの役に立てた気がする」

 

「え? ま、まあ、そもそも一緒に働いてたわけじゃないし、確かにそういう機会はなかったけど……。急にどうしたの?」

 

「ほら、アタイってこの身体を間借りしてるようなもんだろ? だからさ、せめてこれくらいのことはしてやらないとって思って」

 

「間借りしてるなんてそんな……。これはあなたの身体でもあるんだから、そんなこと気にしなくていいのに」

 

「でも、アタイが融合されたのは()()()()()身体だ。見た目はアタイでも、中の血肉はほとんどロヴィアのものだし。だから、元々の持ち主はやっぱりロヴィアだよ」

 

 

 なるほど、この身体の所有権がどちらなのかって話か。

 融合した時点で両方のものだと思っていたけど、どうやらロウィはそれで納得していないらしい。

 私は話し合ういい機会かもしれないと思い、ロウィに尋ねた。

 

 

「じゃあ、もし私が誰かと結婚したとするわね? そしたら生まれる子供は人間だと思う? 獣人だと思う?」

 

「けっ、結婚!? 急にとんでもない話をするなよ!」

 

「いいから、思ったように答えてみなさい。あくまでもしもの話だし、私はあなたの了承なしにそういうことをするつもりは一切ないから」

 

「うーん……。見た目は人間だけど、中身が獣人なら獣人が……いや、でも夫が人間なら人間が生まれるのか……? でも、ロヴィアも人間の血が混ざってるけど、見た目は獣人だったからな……」

 

「あぁ、ちなみに、答えは私にも分からないわ。獣人が生まれても人間が生まれてもおかしくない身体なのは確かだし」

 

「ええっ!? こんなに考えさせといて、答えがないのかよ!? 何の質問だったんだ?」

 

「それを考えることに意味があるのよ。じゃあ、質問を続けるわね」

 

 

 私は頭を傾げるロウィに尋ねた。

 

 

「続きの質問よ。その子供が獣人と人間、どちらであったとしても、その子供は私とあなた、どちらのもの?」

 

「えっ……。う、うーん……。獣人だったらハッキリとロヴィアの子供って言えるんだけど……」

 

「へえ……なるほどね。じゃあ、私たちの夫となる人からしたら、その子供は私とロウィ、どちらのものだと思うかしら?」

 

「そりゃ、見た目はアタイでも中身がロヴィアなら…………あっ……」

 

「分かったみたいね。この質問の本質が」

 

「その夫は結婚する時点でアタイたち2人のことを知って、なおかつ両方を説得した上で結婚する必要がある。つまり、アタイたち2人と結婚したも同然なんだ。だからきっと、その子供はアタイたち2人の子供だと思うに決まってる……」

 

 

 私は目から鱗が落ちているロウィに、本当の質問を投げかけた。

 

 

「で、この身体は一体誰のものなのかしらね?」

 

「……ロヴィアのものだ。でも、アタイのものでもある……。それでいいんだよな?」

 

「ええ、見た目はほぼあなたなんだし、胸を張って言い切っていいのよ?」

 

「この身体の半分は、アタイのだ! もう半分がロヴィアのものだ!」

 

「それでいいの。だから、今度から遠慮しなくていいわよ。よほどのことがない限り、私はあなたに身体を明け渡すわ」

 

「あ、ってことはアタイにも魔法とか秘術とか使えるようになるのか?」

 

 

 おっと、それは全く考えてなかった。

 本当は額の宝石に込めた魔法でロウィが出ている時は魔法が使えないようにしてあるってみんなには説明しているけど、実は半分嘘が混じっている。

 こう言えばロウィも魔法を使ってみたりはしないだろうと思っていたから、少し高を括っていた。

 というのも、どうしても獣人の身体に秘められた()()()()()()、鍵をかけられなかったのだ。

 

 

「え、えーと……ロウィ? 前にも言ったけど、あなたが出ている限りは魔法が使えないようになっているのよ?」

 

「分かってるけど、実は使えたりしないかなーって思ってたんだよ。アタイが出ている時にロヴィアの魔力が消えるのって多分、身体のどこかに避難させてるってことなんじゃないかって思って」

 

 

 全くの図星だが、この流れはまずいかもしれない。

 

 

「で、でもほら、やっぱりもしもがあるといけないし、危ないわよ? 例えば、タンゴが暴れ回ったりしたら大惨事じゃない?」

 

「んー、でもさ……。最近、融合の秘術の研究、構想が浮かばないとか言って全然進んでないだろ? もしアタイに手伝えたらって思ってたんだけど……」

 

「ひじゅっ……だ、大丈夫よ! あれは時間がかかる研究だって、前から言ってるでしょ?」

 

「確か、モノとモノを混ぜるだけじゃなくて、モノの本質っての? それも混ぜることで新しいモノを生み出す、だったっけ。例えばさー」

 

 

 何か、嫌な予感がしてきた。

 魔法と違って、秘術は呪文なんてなくても身体の中で発動までの全てが完結する特殊な術だ。

 特に、私の『融合の秘術』については、()()()()()という強い想い、即ち発想力や創造力といった力が強く働くだけで発動準備が完了してしまう。

 

 今、身体はロウィが動かしている。

 そして、ロウィは『秘術を使ってみたい』という関心が強い状態になっている。

 つまり、発動条件を満たしてしまえば、今にも秘術が発動してしまうってことじゃない!

 

 

「ちょっ……! ロウィ、今は絶対に()()()()()()()()()()()!!」

 

「あっ……もう触っちゃった……」

 

「えっ……」

 

 

 彼女の手が握っていたのは、私のカバンに入っていた新品のインクと羽根ペン。

 それらをそれぞれ、右手と左手に握りしめていた。

 

 ただ、幸い、それだけでは融合の秘術は発動しない。

 ホッと胸を撫で下ろしたが、私は完全に失念していた。

 

 

「確か……そう、右手に持ったモノと左手に持ったモノを……()()()()()!」

 

「だっ、ダメーーー!!」

 

 

 そういえば、ロウィは秘術の発動を私の身体の中から見ていたんだった──。

 

 

「ええっ!? まさかアタイ、ロヴィアの秘術が使えるようになったのか!?」

 

「あーあ……。知られると何が起こるか分からないから秘密にしていたのに……」

 

「ど、どういうことだ? もしかして、元から使えた……とか……」

 

「そういうことよ。あぁ、もう……。魔法もそうだけど、秘術は謎が多くて危険な術だって前から言ってるでしょ? どうして勝手に使ったりしたのよ」

 

「だから役に立ちたくって……。で、でも、次からはロヴィアが見てくれてる中でしか使わないから! 約束する!」

 

「はぁ……。もうバレたものは隠しても仕方ないし、さっきこの身体は2人のものって言ったものね。いいわ、そういう約束でなら問題ないとしましょう。でも、もし勝手に使ったり、危険だと判断したら、しばらくこの身体は私が預かるから」

 

「分かった。ご飯が食べられなくなるなら、慎重にするよ」

 

 

 そう言って、ロウィは私に身体を明け渡した。

 少しは反省しているようで良かったと安心しつつ、私は手に握られた()()を確認した。

 何せ、ロウィの初めての融合だ。

 確認しないわけにはいかなかった。

 

 

「見た目は普通の羽根ペン……って、あら? インクはどこに?」

 

「芯の中だよ。少し太くなってるだろ? 試しに魔導書書いてみなよ」

 

「え? ええ……」

 

 

 壁にもたれかかり、魔導書を取り出す。

 そして紙に羽根ペンのペン先を充てがい、つぅ、と一本の線を引いた。

 

 

「……インクが出て、ちゃんと書ける。それも、溢れたりせずに適量だけ……」

 

「名付けて羽根インクペンだ! 毎回インク壺につけるの、大変そうだなーって思ってたんだよ」

 

「た、確かにこの発想はなかったわ……! 今の一瞬で構造までちゃんと想像したっていうの……?」

 

「あ、もちろんインクを注ぎ入れるための蓋もつけてるよ。そこからインクを補充できるんだ」

 

「え、ええ!? あなた、まさかモノづくりの天才だったの!? って……工房街に住んでいればこれくらいの発想力は培われていてもおかしくないわね……。いや、そうだったとしてもこれは……」

 

「お、もしかしてアタイ、融合の秘術の才能ある?」

 

 

 実際のところ、ロウィをノエルたちの蘇生魔法に関わらせるつもりは一切なかった。

 だけど、ノエルたちの役に立つには、ロウィのこの天才的な発想力が必要になるだろう。

 

 私たちは2人で1人。

 もしかしたら、それを分かっていなかったのは私の方だったのかもしれない……。

 

 

「……ええ、私よりもずっとね。で、よければなんだけど──」

 

 

***

 

 

 それから、ロウィはロヴィアの指導のもと、様々な融合を学んだ。

 たまに危険な発明品が生まれたが、ロウィが考えた融合物はどれも便利で、工房の作業員たちにも人気が出始めるのだった。

 

 その後、ロウィは工業地区の工房に一部の発明品を持っていき、発明家として名を揚げるようになっていくのだった。

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