魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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断章06.ソワレと退屈と最後の機会と……

 他の大魔女たちがそれぞれの道を切り拓いている頃。

 大魔女の中で唯一、若魔女ではない魔女・ソワレは、窓の外に広がる平和な村を眺めながらぼーっとしていた。

 ノエルたちは色んな場所を転々としているために会う頻度が減り、かつて襲撃されかけた村も元の日々を取り戻していた。

 言うなれば、ソワレは『大魔女』という称号が付いただけで、()()()()()()()()、いつもの日々に戻ってきてしまっていたのだった。

 

 

***

 

 

「暇ねぇ……」

 

 

 つい最近まではノエルたちがいてくれたからそんなことすっかり忘れていたけど、基本的に私の毎日は変わり映えしない退屈なものだ。

 もちろん息子や孫がいるから日々を楽しんではいるけど、いわゆる趣味というものが私にはない。

 というか、唯一の趣味だった魔法が、若魔女じゃなくなった影響でほとんど楽しめなくなってしまった。

 

 

「この身体じゃ魔力の回復が遅すぎるし、最近は体内魔力の量も減ってきてるし……。これじゃ、私がノエルたちの役に立てるかどうかも分からなくなってきたわね……」

 

 

 まあ、魔導書は渡してあるし、私自身の魔法を必要とされることはないと思うけど、それでもやっぱり魔法が使えるに越したことはない。

 重い腰を上げて、新しい宝珠を付けた杖を手に持つ。

 

 

「さて、村の見回りでもしようかしらね……って、あら?」

 

 

 何やら外が騒がしい。

 村人が私を呼ぶ声からして、誰かが来たのだろうか。

 

 

***

 

 

 私が村の門まで辿り着くと、その女は私の姿を見て口をパクパクさせている。

 

 

「お、お前……本当にソワレ……だよな?」

 

「そういうあなたは全く変わらないわね、()()()()

 

「かつて金髪の美女だったお前が、ここまでのババアに変わるとはなぁ……。何十年ぶりだったか」

 

「ざっと35年かしら。私がヴァスカルを出たのって確かその辺りだったし」

 

「まあ、そんなに時間が経てば変わるか……。ワタシよりも年上に見えるのがどうにも違和感だが……」

 

「それで、私に何か用があって来たんじゃないの? この村に私がいることを知ってるのって、お母さんかノエルたちだけだと思うし」

 

 

「そうだった」と手を叩き、ルフールは話し始めた。

 

 

「本当はクロネに手を借りるつもりだったんだが、どうにもあいつ多忙らしくてな。そうしたらお前がいるからって、この村に行くことを勧められたんだよ。ワタシが若魔女じゃないって知ったのはついさっきだけど……」

 

「聞いてない……。って言っても、私も暇だったからそれを見越した提案だったのかしら。それで? 私、今はもうまともに魔法なんて使えないのに、あなたの力になれるの?」

 

「まあ、とりあえず話だけでも聞いて欲しい。色んな人の知恵を借りた方が問題解決に近づけると思ってるんだ。クロネに話したら考える時間が欲しいって言われて、彼女の答えが出るまでの間にソワレに話をしておきたくてね」

 

「ふーん……? 分かった。立ち話も何だし、ウチに案内してあげるわね」

 

「おお、ありがたい」

 

 

***

 

 

 家に着いた私たちは向かいに座り、何気ない話から始めた。

 

 

「……まさか、お前がメモラに村を作るなんてね」

 

「元からあった村を助けたら村長になっちゃっただけよ。あなただってノルベンで有名人らしいじゃない。それと同じようなものよ」

 

「何より、子供がいるって事実に驚きだ。クロネは別として、身近な知り合いにそういう魔女が居なかったもんでなおさらね」

 

「孫もいるわよ。次期村長として頑張ってるところなの」

 

「わーお……。時間の流れってのは恐ろしいもんだな……」

 

「さて……そろそろ本題に入ってもらえるとありがたいのだけど。長引きすぎるとあなたの宿を用意する時間がなくなっちゃうし」

 

「お、城下町で適当に泊まるつもりだったんだが、用意してくれるんなら助かる! じゃあ、早速話すとするか。少し、気を持って聞いて欲しい話だから慎重に話させてもらうよ」

 

 

 気を持って欲しい話……?

 ただの相談ではなさそうなのは分かったけど、私は彼女が話し始めて間もなく、その言葉の意味を理解した。

 

 

***

 

 

「……運命魔法の大魔女がそう言ったのよね。ノエルが死ぬって……」

 

「あぁ。ノエルたちも既知の事実だが、お前も知っておかなきゃいけない話なのは確かだった。クロネがワタシをここに行かせたのはそれもあってのことだろうな」

 

「ノエルたちはその運命に抗おうとしてるんだったわね? そして、あなたはそれを魔法を使って援助、()いては根本的に解決してあげたい……ってことでいいかしら?」

 

「そうだとも。ワタシたちは魔女。どうにもできないことに最も興味を惹かれる生き物だ。運命で定められた『ノエルの死』なんて代物を研究し、止められるのはワタシたちしかいない。そうだろう?」

 

「なるほど……ね……」

 

「すまないね。急に聞かせるには酷な話だったと思うが……。お前なら絶対に協力してくれると思って、だな……」

 

 

 それについては当然、「もちろん」と答える。

 ただ、思うことがあった。

 

 

「少し驚いただけだから気にしないで。でも、運命ってどう変えても誰かが変えた分の代償を負ってしまう……そういうものじゃなかった? ノエルの死を防いだとしても、誰かが死んでしまう……なんてことになったら元も子もないわよね?」

 

「それがそうでもなかった例があるらしい。ヘルフスのクリスってヤツの件、ノエルから聞いていないか? 精霊の力を使って、災司(ファリス)からの攻撃を運命ごと無効化したって話なんだが」

 

「あぁ……なるほど、それを聞いて今思い出したわ。運命を不確定にするために必要な力が、『大厄災の呪い』か『精霊』にあるって話だったわよね、それ。ノエルたちは確信までには至ってないみたいだけど」

 

「そうそう、やっぱり聞いてたか。ただ、その2つはどちらも強力すぎる上に危険な力だ。それで、他にどうにかできないかクロネに知恵を借りようとしたってわけさ。まあ、結果としてはここに来ることになってしまったわけだが」

 

「『大厄災の呪い』に『精霊』か……。確かにどっちも大それた力ね。どっちも魔法に関係する力とはいえ、簡単にどうにかできるようなものじゃないし。ただ、それさえ手に入ればノエルの死をどうにかできる可能性が大いに高くなるのも本当ってわけよね」

 

「それで、何かいい案はないか? ノエルの運命に抗える方法がありそうなら、その2つに関わってなくてもいいよ」

 

 

 そんなもの、私が考えたところで師匠たるルフールが一度は考えたものに行き着くような気がするけど、とりあえず頭を捻ってみる。

 私自身、少なくともその2つと直接的に縁があるわけでもないし……アテがあるとしてもサティーヌくらいかな。

 

 

「うーん、私の代理で大魔女集会に出ていたサティーヌっていたでしょ? あの子なら大厄災の呪いの影響を受けてるから、何か掴めるかもしれないわよ」

 

「あー、魔力を見ることができるんだったか。ただ、魔力の色が見えるって程度じゃ全く何に繋がるかも分からないな……。一応当たってはみるけど、もっと大きな手がかりが欲しいというのが正直な話だ」

 

「まあ、そうよねぇ……。あとは大厄災の呪いといえば災司(ファリス)だけど、彼らの力を借りるってのは流石にありえないし、本拠地でも分からないとそもそも捕まらないものね……」

 

災司(ファリス)か……。確かに連中の力は何かの手がかりになる可能性はあるが、候補としては論外だな。あいつらの力を借りてノエルの死を止めるなんて、やってることが災司(ファリス)と一緒になってしまうわけだし」

 

「うーん…………」

 

 

 災司(ファリス)はノエルたちを……『ファーリの心臓』を狙っている。

 つまり、ノエルたちはいずれ災司(ファリス)たちの拠点や『真の精霊』とやらの正体に行き着く可能性は大いにありうる。

 そこはきっと、大厄災の呪いで渦巻く、混沌とした空間であろうことは想像に難くなかった。

 

 

「ん……? 大厄災の呪いが渦巻く空間……?」

 

 

 そこで私はハッとした。

 ノエルたちがこれからの人生で大厄災の呪いに関わるのは、きっとそこが最後になる。

 逆に言えば、それはノエルの運命を変えることができる最後の機会だ。

 

 

「そうよ……災司(ファリス)との最終決戦! そこがノエルの運命の最後の分岐点になるはず!」

 

災司(ファリス)との最終決戦……。なるほど、確かにその時こそ、大厄災の呪いとノエルたちが関わる可能性が最も高いな。ただ、問題はその時にノエルの運命をどう変える必要があるか、だが」

 

「一番最悪の場合は、ノエルがその時に死ぬという運命になることね。そうなれば未来の死は確かに消えるけど、死という運命からは逃れられていないもの」

 

「あぁ、それだけは絶対に避けなければならない。だが、やはりその時の最善の策が何かと言われると……全く想像もつかないな」

 

「うーん、そうなると……私たちがまず確かめなきゃいけないことはもっと違う観点にあるのかもしれないわね。私たちはその最終決戦の模様を想像することしかできないわけだし、それじゃ作戦を立てることすら叶わないもの」

 

「いい線いってたと思うんだけどなぁ……。まあ、確かに我々には判断材料がかなり欠けている。とりあえずはそれを埋めないと話が進まない、か」

 

 

 最終決戦こそがノエルの運命を変えられる舞台だ。

 それが分かっただけでも、ルフールにとっては大きな進歩だったのだろう。

 それからの話はとんとん拍子に進んでいき、エストにノエルの死の詳細を聞いたり、最終決戦の運命についても聞くという話に帰結したのだった。

 

 

***

 

 

「助かったよ、ソワレ。おかげで色々と新しい作戦が立てられた」

 

「ええ、私も久しぶりに魔法に関われてとても楽しかったわ。何か進展があったらぜひ教えてちょうだい」

 

「あぁ、もちろん。じゃ、ワタシは早速ヘルフスに向かうとするよ」

 

「あら、せっかく泊まる場所を用意したのに」

 

「あー、そういやそうだったな……。じゃあ、一晩だけ世話になるか!」

 

「良かった。それじゃ、また村の中を案内しながら宿に案内してあげるわね」

 

 

 私は内心、浮き足立きつつルフールを案内する。

 たった数時間の出来事だったけど、これまでの全ての退屈を吹き飛ばすくらい楽しい1日だった。

 もちろん、ノエルの死の運命っていう全く楽しめるものじゃない話だったけど、それでも魔法に関して話せるのはとてもいい気晴らしになった。

 

 私はルフールを宿まで見送り、自分の家に帰る。

 

 

「さーて……。私にもできることがないか探してみるのも悪くないかもしれないわねぇ。これまで収穫祭の時くらいしかサティーヌと会う機会がなかったけど、これを機にたまには顔を見せに行ってみようかしら」

 

 

 久しぶりに本棚の魔導書を開く。

 私は色々と思いついた考えをそこに書き始めたのだった。

 

 

***

 

 

 こうして、ルフールは色んな魔女に力を借りつつ、来たる最終決戦でノエルの運命を変えるべく動き始めた。

 

 また一方で、ソワレは自分にできることがないかを色々と探しつつ、サティーヌに自分の魔法の知識を少しずつ教えるようになった。

 自分の魔力の減りを感じつつも、ソワレは充実した毎日になっていくのだった。

 

 

***

 

 

 ノエルたちの知らないところで、他の6人の大魔女たちはそれぞれの目的のために、そして何よりノエルたちのために行動していた。

 そして、ノエルたちが最初の大魔女集会で別れて5年後、彼女たち9人は災司(ファリス)との最終決戦の場で集うこととなるのだった。

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