魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜 作:もーる
半年前。
ヴァスカル城の円卓にて。
「『ファーリの産んだ魔物』……ねぇ。どうにもしっくりこない感じね」
「アチキもロヴィアと同意見っスねぇ。まあ、あくまでしっくりこないってだけで、それが間違いだって言うつもりはないっスけど」
「とりあえず、あの悪魔の正体がそうだっていう説明をしてもらおうじゃないか。ノエルのことだ。証明できるだけの証拠を集めてきてくれてるんだろうし」
ルフールはそう言って、足を組み直す。
ノエルは答えた。
「残念ながら、これはまだ仮説の段階だ。ただ、アタシたち3人だけじゃなくて、クロネさんや他の魔導士たちの研究の内容に基づいた仮説だから、信憑性は十分……だと思ってる」
「じゃあ、まずは『ファーリの産んだ魔物』という存在がいつ、どこで、どのようにして生まれたのか、その説明からしてもらおうかの」
「分かった。さっきも言った通り、これは仮説だ。反論や意見があれば、いつでも遠慮なく言ってくれ」
大魔女たちは頷いた。
ノエルは語り始める。
「まず、あの『ファーリが産んだ魔物』が生まれたのは、ファーリが魔力を得てから死ぬまでの100年あまりのどこかだ。生まれた場所は、その名の通りファーリの中。正確にはファーリが有していた呪いの魔力そのものだろう」
「え……? あの悪魔、魔物を産んだ精霊とか言ってたし、ファーリが生まれるずっと昔から存在してたんじゃないんスか? それとも、アチキの聞き間違いだったっスか?」
「いや、確かにあいつはそう言ってた。だけどそれは間違い……というか勘違いだったのさ」
「勘違い?」
「あいつは自分のことを『真の精霊』だと語った。つまりそれは、あいつが自分自身のことを精霊に準ずる存在だと認識していることになる。だけど、あいつがファーリの呪いの魔力から産まれた存在なのだとしたら、その話の順序は大きく変わってくる」
「これまでわたくしたちは、精霊の魔力がファーリに注がれたことで、真の精霊が魔女としてのファーリの親のようなものだと思っていました。ですが、その彼女の魔力から生命体が産まれたとしたら、それはもはや精霊そのものと言っても過言ではないでしょう?」
マリンがそう説明すると、ロヴィアは納得したような表情で言った。
「つまり、あいつは魔力から産まれた魔物だからこそ、自分を精霊だと誤認していて、自分がファーリに魔力を注いだ精霊だと思い込んでいる。そして、よりにもよってファーリの呪いから産まれたせいで、悪意の塊みたいな魔物となってしまった、と……」
「そういうことだ。そして、どうやって生まれたのかだが、ああいう風に外に出られるようになったきっかけは、間違いなく原初の大厄災でのファーリの死だろう。それで彼女の中にあった呪いの魔力が魔物となって漏れ出したんだ」
「じゃあ、そもそもファーリの呪いの魔力って結局は何なんスか? 特殊魔法が効かないわ、原初級の光魔法じゃないと祓えないわ、他とは違う嫌な魔力を感じるわで、めちゃくちゃな性能してるっスよね?」
「それに関しては証明できないから完全にアタシの想像にはなるが、ファーリの呪いの源が『心臓』だったことを加味すると、恐らくファーリの呪いの正体はファーリが死ぬ直前に自身にかけた破滅の魔法。それも彼女の魂を核とする『魂と魔力の変換』を行なった強力なものだ」
「それって……あの原初の大厄災が
「あくまで想像だけどね。ただ、そうとしか考えられないくらい強力な呪いだ。特に、特殊魔法が効かないなんて、特殊魔法が使えなかったファーリらしい呪いじゃないか」
大魔女たちは皆、これまでの大厄災に関わることを思い返し、俯く。
すると、クロネが手を挙げて質問をした。
「では、もしそこまでの仮説が正しかったとして、どうすればアレを……そして
「……あの悪魔を倒す。そして呪いごと祓うことができれば、きっと
「なるほど。それなら禁書庫に行けば、サフィアとマリンの指輪の魔法以上に強力な光魔法が見つかるかもしれんな。それに、今回はソワレもおる。光魔法の知識はこの中じゃと一番じゃろうし、そこで対策を練ってみると良かろう」
「そうだな。じゃあ、早速調査と作戦会議だ──!」
***
「「「お前の正体は……『ファーリの産んだ魔物』だ!!」」」
森の中に声が響き渡る。
ノエルたち3人がそう叫んで数秒後、その悪魔はゆっくりと口を開く。
「……我々は魔物にあらず。我々は真の精霊なり。我々こそは魔物の祖である」
「そう、それ。ずっと不思議だったんだ。どうしてお前は魔導士たちの夢に出て、わざわざ
「…………」
「答えは至って簡単だ。それはお前が、人間の恐ろしさを身をもって知っているからだよ。お前は前にこう言っていた。『人間を滅ぼす人間こそ、魔物の統括者にふさわしい』ってね。あの時はお前がファーリに魔力を注いだ理由を話しているのかと思っていたけど、何のことはない、人間こそが最も恐ろしい生き物だとお前は言っていたんだな」
「……然り。人間こそ、ファーリこそ、魔物の長となるべき存在である。ゆえに、我々は大厄災の再演を望む」
「あぁ、知ってるさ。だが、今回の論点はそこじゃない。アタシが言いたいのは、人間こそが恐ろしい生き物だって、魔物の祖である精霊が思うのはおかしくないか? ってことだ。この世にはドラゴンだって、死神だって、人間でも太刀打ちできないような恐ろしい魔物はたくさんいるだろう?」
悪魔は黙ったまま空中で止まっている。
「なら、なぜお前が人間こそ最も恐ろしい生物であると認知し、人間を仲間にしようと思ったのか。それは、お前が『人間から産まれた魔物』だからだ。それも、過去に何度も人間によって絶望を味わってきたファーリから産まれたのなら、理屈は押し通る」
「つまり、あなたはファーリの呪いから産まれた。では、ファーリの呪いとは何なのか。それこそがこの半年で呪いの残滓を研究してきたわたくしたちの成果ですわ。サフィー、突きつけてやりなさいな」
「うん、分かった。ファーリの呪いの正体は、ファーリの一生分の恨み、辛みから生まれた
「まさか分類不明の魔力を持つ呪いの残滓の中から、闇魔法の痕跡が見つかるとは思わなかったよ。
「我々を倒す……? 笑止。原初の大厄災の呪いたる我々を倒すことなど不可能」
「いや、できるさ。お前が本当に大厄災そのものなら、ね!」
ノエルはそう言って、首に提げていた結晶体を手に取る。
そのファーリの心臓は、以前と変わらぬ色と形で収まっている。
「これについても半年で色々調べたよ。ファーリの心臓なら、どれだけ膨大な魔力が込められていてもおかしくない。それが無限に呪いの魔力を発生させる装置なのだとしたら、絶対にお前に渡すわけにはいかなかったからね。でも……」
ノエルは残念そうな表情でファーリの心臓を持った手を下ろす。
「正直、ガッカリだよ。まさか、5年間も必死に守ってきたこの心臓が、
「えええっ!? それってつまり、それがただの死んだ心臓……ってことですか!?」
「あぁ、その通りだ、ルカ。ファーリは自分自身を『人間と魔導士を滅ぼす呪い』に変換した。彼女の死因も恐らく魔法の発動に伴うものだろう。だとしたら、
「ええと……。ファーリが死んだことで止まったわけじゃないとすると……」
「……なるほど、
「姉さん、正解。結晶の結界をロヴィアが解いてくれたおかげで研究が進んだんだが、こんな結果になっちまった。まあ、少なくとも純度の高い呪いの結晶だってことは、過去に祓えなかったことが証明しているけど……とはいえ、だ。だとしたら、こんなものに何の価値がある?」
そう言うとノエルは突然、手に持ったファーリの心臓を悪魔に向けて構える。
「さて、ここからが作戦の本番だ。これがうまくいけば魔力をもっと吸われることになるだろう。お前たち、気をしっかり持って魔法を使うんだぞ!」
サフィア・マリン・ルカ・ロヴィア・ソワレ・ヴァスカル王の6人は頷く。
頷き返したノエルは、ファーリの心臓を悪魔めがけて、勢い良く放り投げた。
それは悪魔の中心付近に当たり、やがて結晶が溶け始めた。
悪魔は「グオオオオ」と唸り声を上げながら、その黒さをより濃くしていく。
「呪いから産まれた魔力と、呪いの結晶たるファーリの心臓。それらが結びついた時、それは真にファーリの呪いの心臓となり、やがて『人間と魔導士を滅ぼす舞台装置』となる!」
しばらくすると、悪魔の背中に黒と白の6枚羽根が生え、頭に3つの目玉が現れた。
それは、ノエルたちがかつて見た、『原初の大厄災』の姿そのものだった。
「やっぱり規模は小さくなってるけど、それでも尋常じゃないほど強力な呪いだ……。ヴァスカル王のおかげで魔力は大丈夫だけど、どんどん体力が削られていく……!」
ノエルは震える手を握り締め、『原初の大厄災』に向かって言った。
「さあ、お前の悲願である『原初の大厄災の再演』は叶った! 次は、アタシたちがお前を討伐して、全てを終わらせる番だ!!」