魔女ノエルと8人の大魔女 〜この世で最初の魔女集会〜   作:もーる

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119頁目.ノエルと呪いと原初魔法と……

 再び半年前、ヴァスカル城にて。

 

 

「で、実質ほぼ原初の大厄災の悪魔なんて、どうやって倒すのよ? これまでノエルがやってきたっていう、大厄災の呪いの残滓を祓うのとはわけが違うでしょ」

 

 

 ロヴィアはノエルが言った仮説と、作戦の概要を照らし合わせながらそう尋ねる。

 一方で、クロネとルフールは渋い顔をしながら唸っている。

 

 

「かつての原初の大厄災の終結はファーリの寿命が原因だった……とされておる。じゃが、今回の悪魔はいわば大厄災の呪いの魔力そのものなんじゃろう? となると、無尽蔵の呪いをばら撒くあやつの討伐は、ほとんど不可能ということにはならんか?」

 

「ワタシも同意見だ。それに4年半前の悪魔との戦いの時、少しずつ魔力が吸われていた件。あれもどうにかしないと戦う以前に詰むぞ」

 

「そこはヴァスカル王の魔力に頼ろうと思う。ただ……まあ、原初の大厄災を討伐するとなると、アタシたちにできるのはやっぱり禁書庫にある原初魔法に頼ることくらいだろうな。さて、そろそろ帰ってくると思うが……」

 

 

 そうノエルが呟くと円卓の部屋の扉が開かれ、大量の本が入った籠を抱えたマリンとサフィアが入ってきた。

 

 

「お、ちょうどいい頃合いだ。見つかったか?」

 

「ええ、基本属性の原初魔法の魔導書、所蔵してあるものは全て持ってきましたわよ。これだけあれば、きっと悪魔を倒せる魔法が見つかるはずですわ!」

 

「よし、じゃあ早速読んで役に立ちそうなものを探すぞー!」

 

 

 そう言って、ノエルたちは次々に机の上の魔導書に飛びついたのだった。

 

 

***

 

 

 しばらくして、ノエルは原初魔法の魔導書を読みながらあることに気がついた。

 

 

「そういえばこれってどう見ても文献じゃなくて魔導書だが、つまりアタシたちでも呪文を唱えれば使えてしまうんじゃないのか?」

 

「いえ、その危険性はありませんわ。ちゃんと使用防止のための結界の魔法が貼ってありますし、何よりも強力過ぎて自然の魔力が足りませんもの」

 

「そういえばこれまで気にしたことなかったけど、魔導書って自然の魔力も消費するんだったっけ。あたしたちが普段使ってる魔法程度だとほとんど気にしなくていいから、忘れてましたよ」

 

「ええ、マリンさんとサフィアさんの話を聞いてボクも思い出したくらいです。普段からどれだけ自然の魔力に頼っているのか、身に染みますね……」

 

「ふーん……。じゃあ逆に、この結界を解いて、自然の魔力が豊富な場所ならどの魔法も使えるってことよね?」

 

「自然の魔力はまだしも、簡単に結界を解ければ苦労せんわい。それに、いくら魔導書を使おうとも呪文の詠唱に時間がかかる以上、余程の余裕がないと使えんじゃろう。それはどうするつもりじゃ?」

 

 

 ノエルは少し考えながら周りを見回す。

 すると当然、クロネと目が合った。

 その瞬間、ノエルはハッとしてクロネに尋ねる。

 

 

「そうだ……。クロネさんの時魔法でどうにかできないのか? あの悪魔に直接干渉しない特殊魔法なら気にせず使えるだろう?」

 

「と言われてものう……。そもそもノエルの作戦によると、ワシとルフールとエストは災司(ファリス)の相手をしておるんじゃろう? そんな状況で、離れた場所におるお前たちに魔法をかける余裕など……」

 

「うん……? そういう言い方するってことは、どうにかできる魔法はあるんだな? 聞かせてくれ」

 

「時の流れを加速させる魔法『破夜送り(グラン・エル・フォアード)』じゃよ。以前、災司(ファリス)に使った『魔岐戻し(グラン・エル・リワインド)』の逆の効果じゃと思ってくれ」

 

「……なるほど、それでアタシたちの時間を加速させれば、原初魔法を詠唱する時間を短縮できる。名前からして上級魔法だろうが、もしそれが特級魔法とか原初魔法まで行くとどうなるのか気になるな……」

 

「ファーリが知らぬ特殊属性の魔法に、原初魔法なんぞなかろうて。そうじゃな……少なくともさっき言った時魔法を範囲化させたり、加速の倍率を上げたり……色々できそうではあるの」

 

 

 ノエルは頷き、頭の中で再び作戦を練り直しながら、原初魔法の魔導書を読み漁る。

 こうして、基本属性の大魔女6人は各々で役に立ちそうな原初魔法を習得するべく、魔導書を持ち帰って修行に明け暮れることとなったのだった。

 

 

***

 

 

 大きな咆哮が辺り一帯に響き渡る。

 真っ黒な()()は、次第に浮上しながら呪いの泥を滴らせている。

 それを見上げながら、ノエルたちは削られていく魔力を補給しつつ、()()を待っていた。

 

 

「さて、そろそろかな」

 

 

 ノエルがそう言った瞬間、悪魔が浮上する動きを止めた。

 しかし、動きを止めたのは悪魔だけではなかった。

 

 

「えっ、ドロドロが滴らなくなった……!?」

 

「いえ、違いますわサフィー。悪魔と、それが産んでいる呪い()()()時間が加速しているんですわよ!」

 

 

 サフィアが周りを見回すと先ほどと何も変わらない風景がそこにあったが、呪いの泥を凝視してみると動きがとてもゆっくりになっているだけだと分かる。

 

 

「悪魔の呪いには確かに特殊属性の魔法が通用しない。だけど、それは裏を返せば悪魔の呪い()()()()()には特殊属性の魔法が影響する! つまり、クロネさんの時魔法を広範囲に及ぼせばあいつ以外の時間が加速され、魔法の範囲内ではあいつだけゆっくりになるってわけだ!」

 

「さあ、今のうちに原初魔法の詠唱をするわよ! 発動の順番は作戦通りでいいわね!」

 

「あぁ、問題ない! 最初はルカだ、いけ!」

 

「ええ、分かってますとも!」

 

 

 そう言うと、ルカは悪魔に手をかざしながら風魔法の詠唱を始める。

 そして数分後、ルカは高らかに叫んだ。

 

 

「まずは呪いの力を最大限まで弱めます! 風の原初魔法『天つ風(ウィークネス)』!!」

 

 

 すると、悪魔の周りに竜巻が起こり、悪魔の身体を覆っていた黒い呪いの泥の色が薄くなっていく。

 

 

「では次、マリンさん頼みました!」

 

「ええ! もう詠唱は完了していますわ!」

 

 

 マリンは竜巻に向かって両手を向けて叫ぶ。

 

 

「弱まった呪いの泥、そして悪魔すらも燃やし尽くして差し上げますわ! 火の原初魔法『炎天(プロミネンス)』!!」

 

 

 その瞬間、竜巻の中から現れた悪魔から炎が激しく燃え上がる。

 

 

「では、行きなさいサフィー!」

 

「うん! お姉ちゃんが燃やし尽くした呪いの泥をあたしの水で洗い流して、悪魔から引き剥がす! 水の原初魔法『天水の渦(メイルシュトローム)』!」

 

 

 サフィアがそう唱えると、燃え上がっている悪魔の周りに大量の水の玉が現れる。

 そして、それらは回転し始め、やがて大きな1つの水の玉の中で渦を形成した。

 しばらくすると黒い泥水が消え、中から小さくなった『原初の大厄災』らしき姿が現れる。

 

 

「さあ、呪いの泥は全部洗い流せたわ! 次、ロヴィアさん!」

 

「ええ、任せて。あれだけ小さくなれば、囲われた結界からは逃れられないはず! 土の原初魔法『天象壁(オブストラクション)』!」

 

 

 ロヴィアの声と同時に、半透明な障壁が悪魔の周りを囲うように現れる。

 しばらくすると、障壁同士が繋がって球体となり、くるくると回転し始めた。

 

 

「屈折角はあれでバッチリ! じゃあ、ソワレさん。お願いするわ」

 

「ありがとう、ロヴィアさん。では……」

 

 

 ソワレはそう言って、手に持った杖を上に掲げる。

 そして唱えた。

 

 

「ロヴィアさんの作った障壁の中で、浄化の魔法を永久に反射させてあげるわ。光の原初魔法『天の閃光(リ・ピュリフィケーション)』!!」

 

 

 杖が光ったかと思うと、回転する障壁の上から眩い光が降り注ぐ。

 すると、その光の雨は障壁を上から貫通し、障壁の内部で幾度となく乱反射し続けている。

 その光に当てられた悪魔の姿は、次第に塵のようになっていくのだった。

 

 

「これがアタシたち、大魔女が連携することでできる精一杯の抵抗だ。かつての大厄災ではできなかった芸当だろうが、魔力を吸収できるお前の力を上回るためにはこうするしかなかった」

 

「ファーリの魔法で滅ぼされる原初の大厄災(ファーリ)というのも……何と言いますか、皮肉な話ですわね……」

 

「そうだね……」

 

「ほら、ノエル。次が最後の仕事でしょう? 私たちがあそこまで削ったんだから、早くとどめを刺してあげなさいな」

 

「あぁ、そうだな。じゃ、締めといこうかね!」

 

 

 ソワレに背中を押され、ノエルは前に歩み出る。

 結界に覆われた悪魔の姿は、もはや心臓にまとわりつく小さな魔物となって落ちてきていた。

 そして、それは自然落下して落ちてきたのだった。

 

 

「ようやく同じ速度になったってことは、呪いの力が無くなった証拠だねぇ。もうその心臓の中にお前を大厄災にできるほどの魔力は残っていないはず。ただ、あれだけの光魔法を受けたというのにしぶといもんだ」

 

「我々……は……。ファーリの……魔物の……意志を……」

 

「こいつ……まだ諦めて……」

 

 

 すると、ノエルの隣にヴァスカル王がやって来て魔導書を構えるノエルを制止し、悪魔に向かってこう言った。

 

 

「聞くがいい、ファーリの産んだ魔物。ファーリの悪意から生まれた邪悪なる力よ。魔法というものは何でもできる万能の力だ。しかし、使いようによってはお前のような大厄災も生まれてしまう。それはなぜか。余は、それが魔法というものの本質だからだと思う」

 

「『魔法』は『悪()になる方()』……だったか。アタシの記憶が正しければ、ファーリの物語の重要な一節だな」

 

「あぁ、その通り。魔法に限らず、力というものは使う者の意思によってその側面が大きく変わる。特に、魔法は精霊というある種の魔物の力を用いた強力な力だ。ファーリはその力を精霊との契約によって抑制したが、結局は自らも魔法の力に溺れた」

 

「待て、ヴァスカル王。あんたは一体、何の話をしようと……」

 

「余は戦いの中であることに気づいてしまったのだ。魂の盟約を結んだ者が死んだら、その契約はどうなるのか、とな」

 

「そりゃ、その契約は魂で結んだものだから、当然破棄され…………あああああっ!!」

 

 

 ノエルはヴァスカル王の真意に気づき、大きく叫ぶ。

 すると、災司(ファリス)を抑えていたクロネたちがノエルたちの元へと戻ってきて、何があったのかを尋ねた。

 

 

「いいか。これまでアタシたちは、ファーリの悪意ある魔法によって原初の大厄災が生まれたと考えていた。呪いによって自然環境や生命が冒され、その討伐後も心臓だけは呪いの力で浄化されなかった。それが、彼女の呪われた魔法によるものだった、ってね」

 

「ええ、わたくしたちの仮説ではそうでしたわね。ですが……違った、と?」

 

「彼女は生前、魂の盟約によって精霊たちと魔法の力を抑え込む契約を交わしていた。だが、魂の盟約は交わしたどちらかが死ぬと破棄されてしまう。なのに、どうして今でも精霊たちとの契約が残っている?」

 

「……そうか! ファーリの心臓が残っているから、精霊たちとの契約が続いておるんじゃな! ん……? ということは、もしや……」

 

「クロネさんは気づいたみたいだな。原初の大厄災の()()()()()に」

 

 

 そう言って、ノエルは小さな悪魔と心臓が入った結界を拾い上げる。

 悪魔は何も抵抗せず、ただ心臓にくっ付いている。

 

 

「原初の大厄災ってのは『魔法の力を抑制し続けるための儀式』だったのさ。彼女はどうしても、自分の魂たる心臓を死なせるわけにはいかなかった。だから誰も触れられず消すこともできない()()という形に変性させることにしたんだ」

 

「だ、だが、魂の盟約は別の人間が再契約しても良かったんじゃないのか? どうしてファーリは自らを災いにしてまでそんなことを……」

 

「じゃあルフール、お前は自分の作った魔法の管理を他の魔導士に任せることができるか?」

 

「絶対に無理だな。ワタシの魔法は唯一無二のものであって、少しでも不備があったら一切の保証ができなく……。って、なるほど……そういうことか」

 

「そう。ファーリは、自分が交わした契約を絶対に守れる保証があるのが自分だけだと信じていたんだ。魔法の力を誰よりも信じていただろうからね。それで、彼女は自分自身を大厄災とすることで、今まで心臓を守っていたんだ」

 

 

 ノエルは心臓にくっ付いた悪魔を見せながら、話を続ける。

 

 

「じゃあ、こいつは何だったのか。という話に切り替えよう。何せ、ファーリの悪意から生まれた魔物じゃなくて、ファーリの呪いから生まれた魔物だったわけだし」

 

「もしかして、ノエル様はその悪魔もファーリの作った儀式の一部だと?」

 

「その通りだろうさ。こいつは災司(ファリス)なんて部隊を編成してまでやっていたことがあったろう?」

 

「呪いの残滓の管理と、ファーリの心臓の奪還……ですか。本人たちがそこまで知ってやっていたかは不確かですが、その悪魔の目的としては納得できる節がありますね」

 

「ルカが言ってくれた2つは、恐らくどちらもファーリの意思によるものだったんだよ。悪魔はファーリの心臓とその中の呪いを守るために動いていた。もちろん、やり方は非人道的なものばかりだったけど、それにもちゃんと理由があったんだ」

 

「その悪魔がファーリの悪意から生まれた魔物じゃなくて、ファーリの呪いから生まれた悪意そのものだったから……」

 

 

 ロヴィアがそう呟くと、ノエルは頷いた。

 

 

「呪いってものから生まれたなら悪意だけが濃くてもおかしくはない。それで形成された自我がこんな感じになったんだろう。そして、こいつはファーリの心臓を守る機構だったと言うわけだ。しかし困ったな……」

 

「ええ……。心臓を消すことが今回の作戦でしたが、そうしてはならない理由ができてしまいましたわね……」

 

「……こいつは無力化できたし、一度戻って作戦を練り直そう。結界の中だとこいつも無害だろうし」

 

 

 ノエルたちは、泉の拠点に戻ることにしたのだった。

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